【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第十五章+第十六章+第十七章

 

「はて?ユピのナビだとここら辺に居る筈なんだけど?」

【間違いなくココからビーコンは出ています】

 

 とりあえず秘密の話しあいの途中のトスカ姐さんが、話し合いを終えるまで遊ぶ事にした俺。

 やってきたのは、ボラーレに広がる森林地帯だ。

 ちなみに仲間のビーコンもここから出ているのを探知している。

 

「しっかし、良い森だなぁ」

【針葉樹と広葉樹がバランスよく生息しています。テラホーミングがキチンと行われた証しでしょう】

「そうだね。ふぁあぁぁ~」

 

 あまりの良い空気に思わず伸びをしてしまう。

 腐葉土の香りがまた何とも気分をリフレッシュさせてくれるのだ。

 森林浴にはかなり効果的かもしれないねぇ。

 

「気持ち良いッスねぇ~」

【ふむ、でしたら自然公園の森林部分は、ここを参照にしてみましょう】

「へぇ、そんな事出来るんスか?」

【しばらく歩きまわって貰えばデータを集められると思います】

 

 そりゃ良いね。ちょうどお仲間探してる最中だからちょうど良いしな。

 俺はとりあえず仲間を探しつつ、森の中を散歩する事にした。

 考えてみれば、この数カ月ずっと宇宙に居たんだよなぁ。

 こう言った自然と触れ合う機会も殆ど無かったぜ。

 

「お、この特徴的な葉っぱの形は、カエデの木ッスかね?」

【ボラーレカエデです。メイプルシロップの原料ですね】

「・・・・この場合、ネーミングセンスが安直だと行った方が良いんスかね?」

【さぁ?ところで、この先にチェルシーさん来てますよ?】

「あ?ホント?」

【はい、ビーコンの識別からすると、ミユさんとも一緒です】

 

 そーいや、買い物に引きづられてったんだっけ?てことはトーロも一緒か。

 とりあえず近づくと、休憩所みたいに成っている場所に、みんなが休んでいた。

 よくよく見るとイネスも一緒である・・・・何故かやつれてるが、気にしない。

 

「うーす、みんな」

「お、ユーリ・・・?なんだ、トスカさんとは一緒じゃねぇのか?」

 

 俺の後ろを見ながら、トーロがそう質問してきた。

 まぁプライベート以外は大抵一緒に行動してたからな。

 そう思う気持ちも解らんではない。

 

「いやさ、なんか昔のなじみとあったらしいッスから、KYな俺はその場から離れたんスよ」

「??ユーリ、KYってなぁに??」

「それはだねチェルシーさん。この場合のKYとは空気を読めるという意味だろう」

「いやイネス少年、まずはKYの意味を教えてやらんと、解らんみたいだぞ」

「???」

 

 KYの意味が解らず、首をかしげているチェルシーは、どこか子犬を彷彿とさせる。

 う、なんか可愛いじゃねぇか。

 

「それはさて置き、なんか色々と買ったッスね~」

 

 見れば休憩所のすぐ脇に、大きな荷物の山が出来ている。

 おおよそ人間が持てる量ではないが、大方トーロが持ったんだろうな。

 ああ、イネスが疲れてるのは、これを運ぶの手伝った所為かな?

 

「ふむ、殆どが女性の必需品だ。化粧品は勿論のこと、生r「いやソコは言わんくても解るッス」む?そうかね。あとはまぁその他いろいろだ。イネス少年の女装用具とか」

「へぇ、って!ぇえええぇぇぇーー!!?」

「ち、ちがう艦長!ボクのじゃない!ソレは勝手にミユさんが―――」

「おや?違うのかね?良く艦内で女装していたから、てっきりそうかと思い買ったのだが?」

「い、要らないお世話ですッ!大体アレもトスカさんの陰謀なんですから!」

 

 うん、そうだよな?イネスがまさかそんな趣味持ってる訳無いよな?

 

「って艦長とトーロも何でボクから離れるのさ!」

「いやなぁ?」

「まぁ、なんとなくっスかね?」

 

 特に意味は無いよ?別に特に意味はさ?大事なことなので二回言った。

 趣味は人それぞれだからさ?気にする必要なんてないさ。

 

「な、なんだその生温かい目は!本当にボクは違うんだぁぁ!!」

「ハハハ、まぁ人それぞれッス」

「だな。大丈夫、俺はお前がどんな趣味してても友達だからな。なぁユーリ?」

「勿論スよー」

「・・・・・だったら何でまた距離をとるのさ」

 

 いや、特に意味は(ry

 

「イネスくんの女装?あ、あれ?なんか・・・アタマイタイ」

 

 って今度はチェルシーが頭を抱えて!?ま、不味い!

 

「てゐッ!」≪タン!≫

「ハウっ!?」

「よーし、気絶したッスね?」

 

 ふぅ危ない危ない。忌まわしき記憶は思いださない事に限るぜ。

 ・・・・・黒チェルシー様は恐ろし過ぎるのだ。

 

「お、おいユーリ、チェルシーに何してんだよ?」

「何スかトーロ、チェルシーは貧血で倒れただけッスよ?」

「いや、今確かにお前が―――」

 

 ええい、まだ言うか?それ以上追及しようものなら、宇宙に放り出すぞ?

 ・・・・・生身でな?

 

「ふむ、T少年。私の経験上、コレ以上の追及は色んな意味で不味いと思うぞ?」

「いやミユさん・・・つーかT少年って、俺はトーロだぜ?トーロ・アダ」

「この際そう言ったのはどうでも良い。問題は艦長の目だ」

「目?」

 

 そして俺の目を見てくるトーロとミユさん。

 なんやコラ?

 

「良く観察してみろ、すわってるぞ?」

「ゲ・・・すまねぇユーリ」

「・・・・・解れば良い。ところでイネスは何してるッスか?」

 

 ふと、さっきから静かなヤツの方を見てみたのだが・・・。

 

「アレは事故アレは事故アレは事故アレは事故アレは事故アレは事故――――」

「イネス少年はトリップ中だな。しばらく放置するしかあるまい」

 

 見れば光が反射しない濁った眼でうつむいたままブツブツとつぶやいている。

 アレは俺もトラウマだからな。その気持ちは解らんでもない

 しかし、なんていうか―――

 

「・・・・・何々スかね?このカオス」

「少なくとも、少年が来てからこうなったのは確実だ」

「返す言葉もねえッス」

 

 この後はイネスとチェルシーが気が付くまで、ここで森林浴をしていた俺達だった。

 イネスとチェルシーが復活する頃には、色々な疲れも取れた。主にストレス関係。

 流石は大自然の不思議ぱわ~、森林浴は偉大である。

 

「さぁて、行きますかいね?」

「「「りょうか~い」」」

 

 んで、飯でも食いに行こうってな話になり、休憩所から出ようとした途端。

 

 

 

「ふせろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 という大声が響き―――

 

 

 

≪ひゅるるるる―――ちゅどぉぉぉぉんっ!!≫

 

 

 

 今の今まで居た休憩所が、いきなり爆破されました。

 俺はチェルシーとイネスを、トーロがミユさんをかばったので全員怪我はなし。

 ところで何?この急展開?なんか俺フラグ立ててたっけ?とか思った俺だった。

 

 

***

 

 

「なぁユーリ」

「何だいトーロくん」

 

 

                          【撃てッ!撃ちまくれ!】

≪カチャカチャ≫                  ≪バシュンバシュン!≫

                          【グレネードどこいった?!】

 

 

「俺達ってさ?この星に休養に来た様なもんだよな?」

「まぁオフレコだとそうなるッスね」

 

                          【アパム!弾持ってこい!】

≪カチャカチャカチャ≫               【マガジンはコレで最後です!】

                          【ええい!くそ!】

 

「なぁユーリ」

「何だいトーロくん」

 

                          【クソ!俺はまだ死にたくねぇ!】

≪カチャカチャ―――カキン≫            【酒場のお嬢さんに花を―――】

                          【バカ!ソレは死亡フラグだ!】

 

 

「何で俺達の背後では、戦争が起こってるんだろうな?」

「さぁ、アソコで戦っている連中に聞いてくれッス」

 

 

             「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

              ≪ババッバババババババッババ!!≫

    

 

 さて、そろそろ解説とでも洒落込みますかね。いや洒落込むっていう表現はおかしいな。

 とりあえず、簡単に一言で説明するとしたら、現在俺達の背後では銃撃戦が起こっているのだ。

 その為、危なくて動けないので、俺達は破壊された休憩所の瓦礫の陰に身を潜めていた。

 

「ふーむ、困った。幾らか買った物に傷が付いてしまったぞ」

「いやミユさん何をのんきな」

「そうは言うが、稼いだ金で買った物が傷つくのはあまり良い気分では無いぞ?」

 

 まぁ、ソレはそうッスね。よし、後はコレをはめ込んで・・・。

 

「おし、完成」

「さっきから何組み立ててるんだい?艦長」

「ん?ハンディ・メーザーバズ」

 

 ケセイヤさん特製のエネルギー式バズーカだ。

 どういう原理か知らないけど、発射した弾は何故か炸裂するようになっている。

 ちなみにパラライズモードも可。何と言う不思議仕様。

 

「あ、結局バズーカなんだ」

「コレが一番扱い慣れてるッスからねー」

 

 そりゃね、俺も少しばかり頭に来てますからね。

 一応増援は呼んであるけど、その前に一発ブチかましたい気分だ。

 まぁ、迂闊にはやらないけど・・・あくまで護身用って事でよろ。

 

「それにしてもあいつ等何者だ?」

「軍・・・って訳じゃ無さそうッスね」

「でも海賊って訳でも無さそうね。服をちゃんと綺麗にしてあるみたいだし・・・」

 

 軍隊にしては統制が悪い。指揮官と思われる人間が出している指示もアバウトだ。

 どちらかと言えば体育会系の組織と言った方が無難だろう。

 しっかし、敵なのか味方なのかはっきりしてほしいぜ。

 

「うん?あの格好・・・艦長、手前の連中は傭兵だ」

「傭兵?知ってるスかイネス?」

「確かにな。しかも手前の連中は、エルメッツァを中心に活動している傭兵の中でも結構名が売れているトランプ隊の連中だ」

 

 ふーん?傭兵ね?でもなんで又傭兵がこんな辺境に来てんだ?

 つか、戦ってる相手は・・・海賊か。

 

「ふむ、大方ケンカから発展した戦闘と言ったところだろう。傭兵と海賊は仲が悪いからな」

 

 ミユさんがそう呟いた。

 有り得ない話じゃ無いから、この世界って怖いねぇ。

 さてさて、とりあえず見つかってはいないらしい。

なので、連中が撤退するまで隠れていようという事になったのだが―――

 

「あ!あの人狙われてる!」

「え?チェルシーどこッスか?」

「ほらアソコ!木の上から狙ってる!」

 

見れば、海賊の一人が木に登っている。

そして傭兵のリーダーッポイ感じのロン毛のおっさんを狙っていた。

 しかもその事にリーダー格のおっさんは気が付いて無い!不味い!

 

「頭下げろォォォッ!」

「!!」

 

 俺は咄嗟にそう叫んで、気が付けば引き金を引いていた。

 

 

≪ちゅどーん!≫

「あ、やり過ぎ?」

 

 

 バズーカの引き金を・・・。

 バズの弾は、リーダー格を狙っていた海賊が居た木を根元から折ってしまっていた。

 そして落下した海賊は、哀れ傭兵達の銃の餌食となってハチの巣にされていた。

 ちなみにその時の光景があまりにグロかったので、俺はチェルシーの目を慌てて塞いでいた。

 

「援護感謝する!」

「どうでも良いからとっとと戦闘を終わらせてくれッス!」

「まかせな!すぐに終わらせてやるよ!」

 

 俺が叫ぶと、リーダー格の隣にいた恐らく副長と思われる女性がそう叫び返した。

 そして、俺が頼んだフネからの援軍が来る頃には、本当に戦闘は終わっていたのであった。

 

***

 

「いやはや、助かりましたよ」

「いや、こっちも巻き込まれてただけッスからね」

 

 さて、戦闘も終わり、目の前には先程のリーダー格の男、名をププロネンというらしい。

 その人物が、俺に対し感謝の言葉を述べていた。

 正直こちらとしては巻き込まれた側だから、文句の一つでも言いたいところだ。

 だが俺はエアリード位は出来る男である。だからあえて特には言わなかった。

 

「いや、しかし君が撃たなければ、私は撃たれていただろう」

「そう言うこった、アタシからもリーダーを助けてくれたことに礼を言うよ」

「・・・・まぁそこまで言われたなら、素直に受け取っておくッス」

 

 ププロネンさんの隣に立っていた、サブリーダーであるガザンさんからも礼を言われた。 

 しかし、女性で傭兵やってるとはねぇ~。成程確かに姉御肌って感じがするぜ。

 

「しかし、何でまたこんなとこで戦闘をしたんスか?下手したら市民巻き添えだったッスよ?」

 

 俺はすこし咎めるような視線を送りながらそう聞いた。

 巻き込まれた側としても、ちゃんとした理由を聞きたかったのだ。

 俺にそう問われた二人は、特に言い淀むことなく、キチンと説明してくれた。

 

 なんでも、トランプ隊を率いている彼らは久々に休暇を作ることが出来たらしい。

傭兵という稼業上、その仕事は重労働な為、いい加減隊員に限界が来ていたからだそうだ。 

 そして、休暇先として選んだのが、この辺境惑星だったのだ。

 

 仕事柄、常に緊張とスリルを味わう事になる為、こう言った平穏な時間が欲しかったらしい。 

 そして、この惑星に着き休暇を満喫していると、海賊と目があった。

 その後はミユさんの指摘が当たっていたと言う事である。

 

「しっかしケンカからマジ戦闘に勃発とか・・・」

「最初は酒場で殴りあいだったんだがね?マスターに追い出されちまってさ」

「0Gドック御用達の酒場だけある。マスターの腕っ節も強かった」

「んで、そのままだと市街戦をやっちまいそうだったからね。流石に一般人に被害を出すのは不味い」

 

 成程、それで普段人が少ない森林の所に来たって訳なのか。

 お陰で俺らが巻き込まれたけど、それでも彼らなりに考えての行動だったんだな。

 

「ま、ウチとしては傷ついて壊れたモンを弁償さえしてもらえれば、文句は無いッスよ」

「そう言ってもらえると助かる。まさか君達がここに居るとはこちらも予想外だったのだ」

「傭兵稼業は信用が第一。キチンと弁償させてもらうよ」

 

 ふむ、キチンと話せる人達みたいでよかったぜ。

 確かに傭兵は信用第一な家業だモンな。コレで弁償しなかったらネットで( ry

 まぁ、ソレ以前にこの世界には惑星単位でしかネット無いけどね。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

 さて、この後弁償して貰う物の値段をミユさんと相談し、彼らに伝えに行った。

 やはり女性用品はどの時代でもややお値段が張る。

 男の俺には理解できないであろう量分だが、ないがしろには出来ないからな。

 

 んで、値段交渉をしようとしていた矢先―――

 

≪ギュゥゥンッ!≫

「な!飛行機?!」

「あ、アレウチの装甲兵員輸送艇ッスね」

「何?あの飛行機が君の?」

「さっきの戦闘の時、ウチの母艦に援助要請出してたんスよ」

 

―――今更だが、援軍がご到着してしまった。

 

 助けに来てくれた保安員達は全員、鎧みたいなモノを装着している。

アレはケセイヤさんに頼んで、白兵戦用に開発した装甲宇宙服だ。

 フネを拿捕する際着る物であるが、今回の為に着て来たのだろう。

 

「おー、みんなご苦労さん、そしてすまねぇ」

 

 一応保安部署トップのトーロが、保安員達と話をつけに行く。

 ああ見えてアイツは保安員達と仲が良いからな。

 俺が行ってもいいけど、トランプ隊を放っておく訳にもいくまい。

 なにせ傭兵達には、あの装甲服姿の保安員達は敵なのか味方なのか不明なのだ。

 俺という保険がそばに居る事で安心させてやるのである。

 

「―――とまぁそう言う訳だ。ご足労だったけど、もう帰っても良いぜ」

 

 特に混乱が起きると言う事もなく、トーロが上手く纏めてくれたらしい。

 一言二言話した程度で、全員大人しく輸送艇に戻って行った。 

 そして、トーロが俺の所に寄ってくる。うん?なんだろうか?

 

「ユーリよぉ、一応もう大丈夫になったから帰るよう言ったけど・・・・どうするよ?」

「うーん・・・後で酒奢るとでも伝えておいてくれッス」

「わかった。皆にはそう伝えとくぜ」

 

 フネに残っていた保安員達も、急いで駆け付けてくれたのだ。

 その労をねぎらわないのは艦長失格ってヤツである。

 ・・・・まぁその酒代は俺のポケットマネーって事になっちゃうんだろうけど。

 

「はぁ、艦長職も楽じゃないッスねぇー」

「お取り込み中の所すまないがユーリ君。先程の彼らは?」

「ん?ああ、放っておいてすまねぇッス。彼らはウチんとこの保安クルー、警備から白兵戦までこなす、ウチの戦闘部隊ッス」

 

 ウチの中でも保安部員はそれなりに人気が高い。

海賊船にいち早く乗り込み、敵と戦う花形職だからだ。

 

そして数こそ増えたが、そのほとんどがラッツィオの頃から鍛え続けた連中である。

 全員幾多もの海賊船の制圧と、海賊本拠地での戦闘経験を積んだ猛者達だ。

軍隊程厳密な規律とかそう言ったのは無いけど、必ず集団戦闘を行う様に訓練してある。

 

それにトーロと共に、重力が調整されてGが数倍のトレーニングルームで訓練を受けている。

 その一人ひとりの実力は、恐らく軍のそれよりも上であると思う。

 

 ちなみに彼らの仲間意識は高く、俺も時々訓練に参加している為に慕われているらしい。

 微妙にノリがレンジャー部隊ッポイところがある連中であるが、みんな良い連中だ。

 

「保安クルー、それにしては動きに無駄が無いですね」

「ああ見えてあいつ等は戦闘機の操縦から、白兵戦、殲滅戦まで戦闘に関する事は殆どこなせる連中ッスからね。そこいらの兵隊にゃ負けない自信はあるッスよ」

 

 単騎での戦闘能力は、トーロに次いで高い。

 艦長職の所為で訓練さぼり気味の俺よか高い事だろう。

 

「そう言えば、君は艦長とか言っていましたね?彼らの上官にあたると?」

「大きな視野でみるなら、一応は俺の指揮下ッス。だけど指揮系統の混乱を避ける為、実質現場での判断にゆだねてるッスね。そう言う訳で大まかな指示は出すけど、それ以外の判断はアソコに居るトーロってヤツにゆだねてあるッス。」

 

 俺が悪乗りして、ブートキャンプ風の訓練とか入れたしなぁ。

 しかも重力数倍の部屋とかで・・・・皆よくできるよな?

 

「なるほど、いや中々君は良い視野を持っていますね」

「そうスかね?案外普通のことだと思うッスけど?」

「普通、ですか?」

 

 ププロネンさんは、すこし不思議そうに俺を見た。

 まぁ、0Gドックでそう言う事してる人間は、あまり聞いたこと無いよな。

 

「要は適材適所ッス。俺は艦長ではあるけれど、白兵戦での戦闘指揮が上手いって訳じゃないッス。俺の役職は艦長、様々な部署を統括し、大まかな指示を与えてフネがキチンと運用されるように頑張る仕事ッス。時たま艦隊戦とかの指揮はするッスけど、まぁ普段はクルー達の問題や相談を聞く便利屋ってとこっスかね~」

「成程、貴方は自分のすべきこと、しなければならない事も明確に解っているのですね?」

「そうしなきゃ、とっくにロウズの方で沈んでるッスよ」

 

 俺だってそれなりに艦長をやっている。勉強も少しくらいした。

 艦長がすべきことは沢山あるが、基本的には色んな部署を見て回り、クルーの話を聞く。

 そうする事で、しなければならない事が見えてくるのである。

 

「ふむ、引きとめて申し訳ない」

「いんやー、別に良いッスよ」

「・・・・何時か貴方の様な人間の下で働いてみたいモノだ」

 

 ププロネンさんは、急に真面目な表情をするとそう呟いた。 

 

「はっは、そう言ってもらえると、悪い気分じゃないッスね。それではさようなら」

「さようなら、“またいずれ”――あ、そうでした。貴方はどれくらいまでこの星に?」

「ん?そうスッね。今日をいれて3日程ッスかね」

「そうですか。まぁまた町とかで会いましたらよろしくです」

「ん、こちらこそ、それじゃ今度こそさいなら」

 

 ププロネンさんは俺の答えを聞くと、ガザンさんのところへと足を向けて歩いていく。

 俺達もとりあえず無事な荷物をもって、一度フネに戻る事にしたのであった。

 

 

 

 

「ふむ、ガザン」

「どうしたリーダー」

「久々に、面白い人材を見つけた」

「おやおや、アンタがそこまで嬉しそうにするなんてね?で、どうだった?」

「まだまだ甘いところがあるが、実に面白そうだ」

「なるほど・・・じゃ、とりあえず準備はしておくよ」

「ああ、そうしておいてくれ」

 

 

***

 

 

 さて、とりあえず色々とあったものの、荷物をユピテルの運びこんだ俺達。

 まっさか、あんなところで戦闘に巻き込まれるとは思わなかったぜ。

 とりあえず荷物を置いたあと、俺は格納庫へと来ていた。

 

「さってと、この後はどうするかな」

 

 結局飯を食う話は、先の戦闘の所為でお流れになってしまった。

 つか、もう時間的にはおやつの時間だしな。

 適当に何かつまめるもんを買って、部屋で楽しむかなぁ。

 俺は先の戦闘で、保安員達を運んだ装甲兵員輸送艇を眺めつつ、この後の予定を考えていた。

 

「あ、ユーリ。ここに居たの?探しちゃった」

「チェルシー、どうしたんスか?」

 

 ふと気が付くと、チェルシーが俺のすぐ近くに来ていた。

 彼女は彼女で自分の荷物を部屋に運び入れてたもんな。

 俺は俺で勝手に動いてたし、探して回ってたのか。

 

「最近ユーリと会話して無いから・・・」

「おう、そいつはすまなんだ。悪い兄貴を許してくれッス」

「ううん、許さないよ?」

「えー!どうすれば許してくれるッスか!?」

 

 あうち、最近人間と触れ合う様になった所為か、性格変わってませんか貴女?

 俺が少し慌てて言うと、彼女はすこし恥ずかしそうに、此方をチラチラと伺っている。

 そして、勇気を出すかのように小さくガッツポーズを決めると、俺に振りむいた。

 

「だから、あのね?・・・・一緒に二人で出掛けない?」

「ん?なんだお安い御用ッスよ。まだボラーレで見て無いとこもあるからね」

「やった!それじゃ行こうよユーリ!」

 

 彼女は途端笑顔になり、俺の腕を掴むとぐいぐいと引っ張った。

 おいおい、子供みたいだねぇ。

 

「引っ張らなくてもちゃんと行くッスよチェルシー」

「あ、ごめんね・・・迷惑だった?」

 

 ぐ、う、上目使いの破壊力か・・・。

 

「うんにゃ、久々のスキンシップッス。迷惑じゃないッスよ」

「そっか、よかった」

 

 

俺は内心の動揺を顔に出さず、彼女と手を組んで格納庫から出て行った。

 

 

ちなみに――――

 

「よし、腕を組みました。計画通りです!」

「はぁはぁ、若い二人はー・・・・きゃー!」

「エコーさん、鼻血出てますって。ミドリさんティッシュもってない?」

「あ、どうぞトーロくん、しかし相変わらずねエコー?」

「だってー、こう言うのっておもしろいですからね~。キャ~♪」

「ウチの妹は、全く・・・」

「とか言いつつもアコーさんも好きですねぇ?」

「煩いぞトーロ。プロテインの割引止めるぞ?」

「あ、すんません」

「・・・・」

「ん?イネスどうしたんだ?」

「・・・いや、なんでもない(なんでムカムカするんだろう?)」

 

――――五人ほどストーカーが着いて来ていたことは、俺は全然知らなかった。

 

 ちなみにすべてを見ていたユピはというと・・・・

 

【・・・・艦長のばか】

 

・・・・雰囲気的に出て来れなくて、相手にして貰えなかったので少し拗ねていた。

 だから、この後ろの連中の事も、俺には教えなかったのであった。

 

***

 

 さて、やってきたのはパンモロと呼ばれる動物の放牧地である。

 俺達の世界で言うところの牛やヤギに相当し、肉と乳と毛皮が取れる生き物だ。

 観光地用なのかパンモロを放し飼いにした、牧歌的な風景が広がっている。

 

「平和だねぇ~」

「ほんと、気持ち良い天気」

 

 平和な風景というのは心癒されるもんだわ。

 んで、柵の向こう側からゆっくりと放牧地を歩いていた俺達。

すると、酪農作業をしていた農民の一人に声を掛けられた。

 

「よぉ、あんたら観光かい?」

「はは、似たようなもんスね。平和で良いとこッス」

「だろう?何にもないとこだが、平和な事だけが取り柄ってね。そうだ、お近づきのしるしに、一杯どうだい?」

 

 農夫さんはそう言うと、しぼりたてのパンモロの乳をコップに注いで渡してくれた。

 

「良いですか?」

「ありがとう。おじさん」

 

 機前のいい人だなぁと思いつつ、渡されたコップに口をつけてみる。

 しぼりたてで、まだ暖かい乳を口の中で転がすと、甘酸っぱいような濃厚な味わいが楽しめた。

 製品と違って味の調整が為されていないが、それこそ天然モノの味わいである。

 こう言うのこそ、最高のぜいたくというんだろうなぁ。

 

「ふぅ、なんかほっとするッスねぇ」

「そうね。航海も長かったから、なんかほっとするわ。・・・・ねぇユーリ」

「ん?どうしたんスか?」

「私、ユーリとこういう場所で暮らしたい」

 

 その言葉に一瞬固まる俺。

 

「お、いきなり告白かい?若いっていいねぇ~。邪魔なおじさんはアッチ行ってるわ」

 

 まだ目の前にいた農夫のおじさんは、にやにやと笑いながらその場を去った。

 そして流れる沈黙・・・。

 

「え?あ!ち、ちがうの!だってここロウズの故郷に似てるんだもの!」

「あ、なんだそう言う事ッスか」

 

少しして、自分の言った言葉の意味に気がついたチェルシーは顔を赤くして慌てていた。

う、なんで可愛らしい仕草を覚えてんだよ・・・キュンって来たじゃねぇか。

 でも―――

 

「チェルシーは航海に出たのは嫌だったスか?」

「ううん、そうじゃないわ。宇宙は怖いところだったけど、最近はそうでもないの」

「そう何スか?」

「うん、だって色んな人と出会えたし、なによりユーリがいるもの」

 

 最後の方は少し頬を染めて、恥ずかしそうに言って来る彼女。

 ・・・・・グハ、俺の精神防壁に楔が打ち込まれた。

 まてまて落ちつけ、俺に義妹属性はないから、だから落ちつけ。

 

「はは、妹も成長してるとはね。兄としてはありがたい限りッス」

「・・・・妹か、いまはそれでもいいかな」

「ん?なんか言ったッスか」

「ううん、なんでもないわ。お兄ちゃん♪」

 

 チェルシーはそう言うとニッコリを笑みを作り、俺にすり寄ってきた。

 なんだか甘えん坊な子犬を拾った気分である。

 尚、既に精神防壁の展開は完了したので、なんとも俺は思わなかった。

 ・・・・なんとも思って無い、大丈夫だってば。

 

***

 

Side三人称

 

―――すぐ近くの茂み―――

 

「おお!すり寄ったぜ!面白くなってきた」

「やるわねチェルシーさん、天然だけど妹という立場を最大限に利用してますね」

「ふわーふわーフはッ!」

「・・・・はいティッシュだよエコー」

「ありがとー、ねーさん」

「・・・・でも艦長とチェルシーさんって兄妹なんだろ?」

「ありゃイネス知らなかったのか?あいつ等血のつながりは無いんだぜ?」

「そうなのか?でも何でトーロはそんな事知ってるんだ?」

「サド先生から聞いた。検査した時DNAを調べたんだと。でもユーリはその事しらねぇ」

「え?なんでさ?」

「だって、その方がおもしろいじゃねぇか」

「・・・・そう、かなぁ」

「ほら、そこ!静かにしてください!艦長達に気付かれちゃいます」

「「了k・・・あ」」

 

 固まるトーロとイネス、その視線の先には・・・・夜叉がいた。

 

「「「え?」」」

「ほう、君たちはそないなばしょでなんばしよっとるのかなぁ」

「ユ、ユーリ!これには深い訳が!というか後半なんて言ったんだ!?」

「最近おとなしいかと思えば・・・全く」

「ち、ちなみに、艦長は何時からそこに?」

「ん?ミドリさんが大声で気付かれちゃいますと言った辺りッスね。さて、減俸とお仕置きされるのと・・・ドッチガイイ?」

「「「「「減俸でお願いします!!!!」」」」」

 

 

 そしてその5名は、しばらくの間給料半分で過ごしましたとさ。

 

 

さて、バカどもに制裁と加えた後、俺はチェルシーと別れてトスカ姐さんを迎えに行った。

酒場に入ると、どうやら話は終わっていたらしく、くつろいだ様子だったので声を掛けた。

 

「ああ、ユーリ、ちょうど話が終わったとこだよ。それと、ほら」

「何スか?このプレート」

 

 トスカ姐さんは、俺の手に小さな薄いプレートを渡してきた。

 なんかどっかで見たことがある様な?

 

「それはさ。エピタフ捜査船のね」

「げ?!」

 

 おいおい、そんなものがあるって事は―――

 

「アゼルナイア宙域側のボイドゲート付近で発見した残がいから、私がサルベージしたものです」

 

―――ああ、やっぱりね。沈められてましたか。

 

「残念ながら、調査船が発見したエピタフは既に連中に奪われてましたが」

「連中・・・(ああ、ヤッハバッハか)」

 

 そういやそろそろだったよなぁとか思った俺。

 連中と戦り合うのは、骨が折れそうだなぁ。

 

「ま、とりあえずコレはオムスんとこに渡しとかないとダメっすね」

「ああ。調査船が沈んだって言う報告だね」

「面倒臭いスッけど、報告しない訳にもいかないッスからね」

「まぁ、そうだね」

「それじゃ私はここで失礼します。トスカ様、ユーリ様」

 

 そう言って席を立ったシュベインを見送った俺達。

 とりあえずユピテルに戻り二日ほど休憩した後、ツィーズロンドへと向かった。

 その間、若干トスカ姐さんの態度がおかしかった。

 やはり動揺してるんだろうなぁ。相手が相手だしな。

 ・・・・・準備を怠らない様にしないとな。

 

***

 

「各部署発進準備」

「各セクションは、発進手順に従い、プロセスを消化してください」

『各艦、隔壁及び気密、自動診断では問題無し。目視でも異常は見受けられない』

『補給貨物は搭載及び固定終了』

「機関出力臨界へ、システムオールグリーン」

「航法プログラム及び、航法システムも異常無し」

「レーダーシステムもー、正常に稼働中ー」

 

 各部署からの報告が寄せられる。

 整備を終えているユピテルに、特に異常は見られない。

 駆逐艦隊は既に発進を完了しているので、後は俺達だけだ。

 

「管制からの発進許可降りました。メインゲート解放されていきます」

「メインエンジン始動」

「微速前進ッス」

「微速前進ヨーソロ」

 

 正面の全長数キロはある巨大ゲートに張られたデブリ用シールドが解除された。

 シールドの全面開放を確認し、ゆっくりとユピテルが動き出して行く。

 

【管制より電文“貴艦ノ旅ノ安全ヲ、祈ル”以上です】

「各シークエンス消化完了、艦長」

 

 ステーションから出た後、ミドリさんが俺の方をジッと見た。

 準備が完了したことを感知し、俺は艦長席から指示を出す。

 

「白鯨艦隊、発進する」

「陣形は来た時と変わらず、防衛駆逐艦艦隊を前面に出します」

【ユピ´達に指示を飛ばしておきます】

 

 すでにステーションの外に並ぶ駆逐艦艦隊が、ユピテルからの指令信号を受信。

 旗艦ユピテルの前方に展開し、先に先行した。

 

「・・・・各艦発進、遅延艦は存在せず」

【対海賊用EPを通常出力で展開開始】

「針路上にー障害物は感知できません」

「早期警戒無人RVF-0発艦、航路に展開します」

「全行程完了だ。おつかれさん」

 

 そうトスカ姐さんの声が聞こえたので、俺は力を抜いた。

 なんじゃかんじゃでフネの発進と寄港の時が一番危ないからな。

 神経を結構使うんだよなぁ。

 

「ま、それなりに休暇が楽しめて良かったッスね」

「だね。この先忙しく成りそうだしな」

「ああ、“連中”の事ッスね・・・ま、ウチの艦隊なら逃げ回るくらいは出来るッスよ」

「はは、そうだろうね。何せ乗ってるヤツが奴だからな」

 

 どういう意味じゃい。

 

「・・・・」

「ま、多分大丈夫ッスよ。ウチの連中はすさまじくタフッスからね」

「ああ、そうだね」

 

 トスカ姐さんはそう返すと、外を映す映像パネルの方に目線を向けた。

 やっぱりどこか心配そうである。

 俺はそんな彼女をみて、出港前に彼女と話した内容について思い出していた。

 

 

***

 

 

「ヤッハバッハ?それが調査船を墜とした連中の名前ッスか?」

「ああ、その通りだ」

 

 出港直前になって俺の部屋にやってきたトスカ姐さんは、突然俺にそう述べた。

 シュベインとの話し合いで、話していた内容。

 

“ヤッハバッハがマゼランへの侵攻を開始した”

 

 だが俺としては突然の事に、内心ハトがミサイル喰らった様な感じだった。

 だってそうである。原作ではこの時期にはヤッハバッハの話は出て来ない筈なのだ。

 それなのに、彼女は俺にヤッハバッハのことを喋った。寝耳に水とはこの事である。

 

「アゼルナイア宙域にある国家ッスかね?」

「ああ、その通りさ。ここら辺からだと、ゲート無しだと5年はかかる距離にある」

「5年・・・違う銀河系ッスか?」

「そう、そして私の故郷でもあるのさ」

 

 インフラトン機関は光のを軽く超える早さで移動可能である。

 それですら5年もかかる距離にある宙域なのだ。

 どれほど離れているか、簡単に想像がつくだろう。

 

「ふーん、てことはトスカさんはヤッハバッハ出身何スね?」

「・・・ああ、そう言う事になるね」

「でも何でいきなり俺にその事を?」

 

 正直ありえない。一体何故彼女は俺にその事を話す?幾らなんでも早すぎるだろ。

 彼女は俺にそう問われると、目線を泳がせた。

何と言って説明すればいいのか解らないと言った感じだ。

 

「ユーリには・・・・話して置いた方が良いとおもってさ」

「・・・なんとも言えないッスね。しかし、侵略ねぇ?」

「連中にかかれば、この銀河はすぐに征服されるだろうさ」

「でしょうね。この銀河を巡ったトスカさんがそう言うなら」

 

 さてさて、どうしようかね?

 相手は自力で5年以上航海出来る航続距離を誇る艦船ばかり。

 一方こちらは、ウチのフネは別にして、恒星間クラス程度と言ったところ。

 うわぁ、既にフネの性能差で負けているじゃん。

 

「んで、俺にどうしろと?」

「・・・・正直、解らない」

 

 でしょうな。ま、答えは後になってから出してくれれば良いさ。

 一応逃げるの最優先だけどね。それよりも―――

 

「ウチのフネで勝てる相手ですか?」

「解らない。タイマンなら圧倒出来るだろうけど・・・」

「数ですか?」

「ああ、此方とは次元が違うフネが数万隻以上だ。勝てる訳が無い」

「普通一度にそれだけ相手すれば、余程のフネでないと勝てませんよ」

 

 数の暴力というのは恐ろしいモノだ。

 実質ウチのフネはマッド達曰く、小マゼランを蹂躙出来る程の性能があるらしい

 だが、ソレはあくまで乗っている人間のことを考慮に入れなかった場合である。

 

 実際は長時間の戦闘によるマンパワーの低下、それによるマシンパワーの低下が起こる。

 そうなったら後はフルボッコだ。動けないフネは的でしか無いんだからな。

まぁウチの場合AIが動かしてる所もあるから一外にそうとも言えないだろうけどね。

 

 しっかしそうかぁ、かなり強いフネを作ったつもりだったけど、それでも足りないか。

 ・・・・・金溜めてアーマズィウス級量産したろっかな?エリエロンド級でも可。

 乗る人間がいないから無理かなぁ、AIにだって限界はあるだろうし・・・。

 

「・・・とりあえず、それだけは知っておいてほしかった。ただそれだけさ」

「なはは、随分信用されたもんスね?俺も」

「ああ、そうだね。最初の頃はただのバカな子坊だと思ってたからね」

「何かヒデェっス」

「まぁそう怒るな。しかし短期間でこんな大きな艦隊を作り上げるとは思わなかったよ」

 

 考えてみれば、まだロウズをたって数カ月程度しか経って無いんだよな。

 どんだけハイスピードで、勢力を伸ばしてんだか・・・皆のお陰だけどさ。

 

「クルー全員のお陰ッスよ。仲間が頑張るからここまでこれた。青臭いけど、そう言うもんス」

「・・・・ああ、そうなんだろうね」

「その仲間にトスカさんも含まれてるんスからね?お忘れなく」

「!・・・あ、ああ!そうだった。私も仲間、なんだよな」

 

 何故か問いかけるかの様な声のトーンを出すトスカ姐さん。

 俺はその事に一瞬ため息を着き、何をいまさらという感じで肩を上げた。

 

「当たり前ッス。トスカさんは俺の副艦長。その部署だけは他の人間には渡さないッス」

「ふふ―――ありがとう“ユーリ艦長”」

 

 そういうと、彼女は笑顔で艦長室から出て行った。

 

***

 

 

――――とまぁ、そう言った事があった訳でして。

 

とりあえず、ヤッハバッハのことはしばらくは口外しないという話になった。

 下手に他の星で話して回っても、余計な混乱を招くだけであるし、国家に目をつけられる。

ならば、ひそかに準備を進めるしかあるまい。生き残る為の準備ってヤツをね。

 

幸いなこととに、ウチにはマッド達がいるから、技術的には勝っている。

 それこそ、小マゼランの中でも匹敵する相手がほぼいないくらいである。

とりあえず、兵器開発部門の予算を少し上げておかないとな。

 

「そう言えば艦長、ちょっといいか?」

「ん?サナダさん、どうしたッスか?」

 

 空間パネルが開き、サナダさんが俺に話しかけて来た。

 

「実は試験的にアバリスとユピテルに、EPを強化したステルスモードを搭載してみた」

「ステルスモードッスか?ソレはあれッスか?光学迷彩とか」

 

 ははは、まさかそんなフネを覆える光学迷彩とかありえ―――

 

「む?誰か漏らしたのか?せっかく驚かせようと思って、極秘に開発を進めていたのだが」

「え?マジ?」

 

―――神さま、マッド達が力を合わせると、貴方の元にまで飛翔できそうです。

 

「まぁ従来のEPに合わせ、周囲の背景に溶け込ませる為の光学迷彩を搭載した。まぁ予算の都合上、アバリスとユピテルだけにしか搭載出来なかったがな」

「ソレ以前に俺全然そんな報告なかったんスけど?」

「言っただろ?驚かせてやろうと?そしてこんな事もあろうかとの為だ」

 

 あー、すべてはソコにつながるんですね?解ります。

 あれ?でもこれって・・・。

 

「サナダさん、サナダさん。コレってユピテルとアバリスにだけ搭載してるんスよね?」

「ああ、そうだ」

「てことは、駆逐艦隊は丸見えって事ッスから、海賊ホイホイなんじゃ・・・」

 

 例えば巡洋艦クラスのフネを持っている海賊がいる。

 そこに20隻とはいえ、駆逐艦だけで構成された艦隊が通ったとする。

 ゼラーナやガラーナはバランスは良いが、そのままでは基本性能は並みだ。

 ウチの場合、改造が重ねられて見た目以外はもう面影は残っていない。

 海賊の巡洋艦が数隻でもいたら、普通に襲い掛かってくるかと思うんだが?

 

「・・・・いいじゃないか、鴨が寄って来る」

「いや、そもそも隠れる為のステルスモードじゃ・・・」

「い、いずれすべての艦に搭載させた時が真価を発揮できるだろう」

「おーい、目をコッチ向けて喋ってくれッスー」

 

 にゃろう、ステルスモードは便利そうだけど、今のままじゃ頭隠して尻隠さずじゃねぇか。

 でも、海賊ホイホイとしては使えるかなぁ?多分鴨だって思って寄ってくるだろうし。

 自分達が鴨とは知らず、哀れな事に・・・有りだな。

 

「ま、いいか。いずれ全艦配備してくれるッスよね?」

「ああ、ソコは大丈夫だ。なに、軽く2万G行く程度だ」

 

 2万とか・・・初期の旗艦の値段より高いじゃねぇか。

 まぁウチの艦隊の規模から考えたら、すさまじく安いということなのか?

 

「・・・・海賊船拿捕5回ってとこッスね」

「まぁ新装備には金が掛かると思ってくれ艦長」

「OK,なら金は作るから全艦配備よろしくッス。期待してまっせ?」

「了解した」

 

 とりあえずOKは出した。だって光学迷彩なんてロマンだろ?

 敵からの砲撃を浴びせられる駆逐艦隊、そこにうっすらと宇宙から滲み出る様に現れるユピテルとアバリス・・・・かっこいいじゃん!

 

「むふふ、これで色んな戦法が・・・」

「相変わらず常識外れだね。ウチの開発部署」

「トスカさん、あいつ等に似合うのは常識じゃなくて非常識ッスよ」

「・・・・なんだか自分が悩んでたことが、とてもバカらしくなってきたよ」

「いいんじゃないッスか?ソレはソレで」

 

 ウチの連中に常識を求めたらダメだろう。

 この間なんか、強襲揚陸艦を開発してくれって言ったら、

何故かケーニッヒ・モンスター作った連中だしな。

 

VB-6ケーニッヒモンスター、マクロスシリーズに登場する機体の一つだ。

原作ではデストロイドモンスターと呼ばれた2足歩行機動兵器が元になり、

それに自立で飛行・展開可能という機能を付け加えた可変爆撃機である。

 

最大の特徴はVF-0と同じく可変機能と、大口径4連装レールガンを搭載している事だ。

機動力はVF-0に劣るのだが、その分防御力と攻撃力はかなり高い。

 

 ウチでの開発経緯は、元は機動力はあるが貧弱であったVFを、

違うアプローチから攻撃力を強化しようという運びで作られたらしい。

 でもVFは後に色んな武装を装備できるという事が発覚。

 更にはアーマードやスーパーパックという追加兵装が登場したことににより、

ケーニッヒ・モンスターの設計図はそのままお蔵入りになってしまった。

 

 だが、そこで俺が強襲揚陸艦の設計をしてくれと言ったのである。

コレなら使えんじゃねぇかって事で、日の目を見ることとなったらしい。

 

んで、倉庫から引っ張り出された設計図は、ある程度の改修を加えられ。

そのまま実機を建造されると言う運びとなったのである。

なおVB-6を初めて見た時、強襲揚陸艦じゃなくて強襲砲撃艇じゃんと俺は思った。

 

 まぁ改装して爆撃機能を排除し、兵員輸送艇に造り変えたヤツもキチンと作ってある。

 この間トランプ隊が起した戦闘に巻き込まれた時に、保安クルーを運んだのもソレだ。

 大型機なので、デフレクターや熱処理装甲も、かなりレベルが高いのを搭載出来たのである。

 勿論配備しましたよ?だってカッコいいから。大型機動兵器は漢の浪漫です!

 

「確かに連中に似合うのは非常識か」

「しまいにゃ、自力でボイドゲート作り上げたりして」

「・・・・金さえあればやりそうだな。言わなきゃ歯止めが効かないし」

「逆を言えば金が無ければ作れないって事ッスけどね」

 

 まぁ、やり過ぎでフネが吹き飛ぶ様な事故とかは起してほしくは無いけどな。

 その辺りは、一応アバリスに監視させている。

危険な実験はすぐに報告するようにというふうにしておいたのだ。

 

 一応俺がオーナーみたいなもんだから、ちゃんと言う事は聞いてくれるのがありがたい。

 もっとも、稀に暴走するが・・・メリットを考えたら可愛いもんだろう。

 今日もまた開発にいそしんでんだろうなぁ。

 

「とりあえず、ステルスモードを起動させて様子を見てみるッスか」

「了解艦長、すぐ準備する」

 

 サナダさんはそう言うと、準備を行う為に通信を切った。

 ま、それなりに鴨が来てくれればいいかな。

 俺はそう思いつつ、艦長席に深く腰掛けたのだった。

 

………………………

 

…………………

 

……………

 

「艦長、航海灯を灯していない未確認艦を探知しました」

「未確認艦?識別は?」

 

 ミドリさんから未確認艦の発見情報が入った。

 航路上で航海灯を灯さないのは、海賊か敵意のある0Gドック位のモノである。

 ウチはいまステルス起動中だから、どちらにしろ駆逐艦隊しかついて無いけどね。

 

「海賊では無いようですが・・・単艦で針路上に停止しています」

【艦種は大きさからして恐らく、ポイエン級です。ただ、所々カスタムが施されています】

「拡大画像をスクリーンに投影してくれッス」

「了解、スクリーンに投影します」

 

 スクリーンに映し出された輸送艦であるポイエン級。

 しかし輸送艦の特徴であるコンテナ部分は撤去されており、代わりに別の物が付いていた。

 どうやら何かをぶら下げて置く為のクレーンの様な物がある。

 

「ん?ユピ、すこしあの部分を拡大してくれ」

【了解サナダさん】

 

 サナダさんの指示で、クレーン部分がアップされる。

 そこに映し出されていたのは―――

 

「アレは、ビトン?何でまた戦闘機が?」

「いや、アレはフィオリアだ。ビトンのアッパーバージョンに相当する」

 

 そういや良く見ると羽根の形が違う。

 ビトンは宙戦機なのに、空力学を考えたかのような形状なのに対し、

 フィオリアは武装面を強化して空力特性を無視した形状になっている。

 まぁ宇宙は空気何ぞ無いから、空力学考えても意味はないからな。

 

「艦長ー、どうするよ?撃つ?撃っちゃう?」

「ばーろーストール、いきなり撃ちこんでどうすんだよ」

「でもようリーフ、敵かも知れねぇじゃん?」

「もしかしたら、何かしらのトラブルかもしれませんぞ?」

「トクガワさんの言う通りッス。今のところ駆逐艦隊に敵意は向けて無いみたいだから様子見ッス」

 

 コレが海賊だったら、インフラトン・エネルギー量で戦闘する気があるのか解るんだがな。

 お互いが光学映像で感知出来る距離に近づくまで戦闘出力を上げないのは、

襲う気があるのならおかしいしな。

 

「!!――フィオリアに動きあり!!」

「アレは、どうやら輸送艦を改修した改造空母らしいですな」

【フィオリア、編隊を組んで駆逐艦艦隊の前面に展開中】

 

 動いた。なんだ攻撃の意思有りかよ?面倒臭いなぁ。

でもあれ?編隊を組んだのに一定以上近づかないぞ?

 ・・・なにかあるんだろうか?

 

「格納庫に通達、いつでもVF隊発進可能な様に準備!VB-6も念の為に砲戦仕様で待機」

「アイサー艦長」

「それとミドリさん、駆逐艦隊の一艦を経由して、向うのフネに通信を、何が目的なのか知りたいッス」

「アイサー、駆逐艦を経由して、通信回線を開きます」

 

 ユピテルは現在ステルス起動中、わざわざ位置を教えてやる必要は無い。

 今のところ目の前の不明艦の目に写っているのは駆逐艦隊だけだろうからな。

 そこに旗艦がいるかの様に仕向けるのだ。

 

「艦長、準備出来ました」

「うす、こちら白鯨艦隊のユピテル、正体不明艦、何故艦載機を展開したか理由を述べよ。場合によっては当方には応戦する用意がある」

 

 ポイエン級は輸送艦だ。なので売っても金にならないので、戦いたくないのである。

 ・・・・すさまじく本音出てるよなぁ。

 

「敵不明艦より通信回線つながります」

 

 問いかけに応じるつもりなのだろうか?通信回線がオンラインと成る。

 ザーとしている通信ウィンドウに映し出されたのは・・・。

 

「え?ププロネンさんスか!?」

『やぁユーリ君、待っていたよ』

 

 傭兵部隊トランプ隊リーダー、ププロネンがパイロットスーツ姿で写っていた。

 しかも良く見ると、フネのブリッジでは無く、どうやら何かのコックピットかららしい。

 恐らくあの編隊のどれかにいて、ポイエン級に中継させてるんだと思う。

 

「なんだぁ、ププロネンさんのトランプ隊だったスかぁ。道理で展開が早いと思ったッス」

『はは、驚かせて申し訳ないね。こちらにも色々と訳があってね』

 

 訳ねぇ?海賊狩りでもしてるんじゃろうか?

 まぁ航路で張ってれば、海賊の一隻や二隻出てくるけどさ。

 

「ま、再開を喜びたいところッスけど、俺達も急ぐんで航路開けて貰えないッスかね?」

『・・・ユーリ君。君は自分が心から命を掛けられる相手というのは居るかね?』

「?・・・しいて言うならウチのクルー全部がそうッスけど、ソレが何か?」

『私は傭兵稼業をしていますが、実はある目的を持って行動しています』

 

 あ、あれ?なんか表情が険しく成って無いすかププロネンさん?

 なんだかかなり嫌な予感がするッスけど?

 

『その目的の一つに、“自分の命を預けられる艦長”を探すと言うのがありまして』

「・・・・・すさまじく嫌な予感がするんですが?」

『ええ、恐らく貴方が考えている通りです』

 

 うぇ、マジかよ・・・うわーん、ボラーレで何かフラグ立ててたか俺?

 そんなこと考えてたら、脇に控えてたトスカ姐さんが小声で話しかけて来た。

 

「(ちょいとユーリ!あんたらだけで納得して無いで、解るように説明しな)」

「(・・・簡単に言えば、自分にふさわしいか試してやるって事ッスよ)」

「(ちょ、またなんて面倒臭いというか古風なヤツに目をつけられたねアンタ)」

「(いや、特に何かした記憶は無いんスがね?)」

 

 いやホント、何かした記憶なんて無いぜ?

 しいて言うならププロネンさんへの狙撃を阻止して、迅速に部隊の展開を指揮した程度で。

 ・・・・・・・・。

 

「(ま、まずい。結構色々してたかも)」

「(こんのバカユーリ!面倒臭い事持ち込むんじゃないよ!)」

「(ンな事言われても困るッスよ!まさかこんなことされるとか思わないじゃないッスか!)」

 

 小声でトスカ姐さんと小声でやいのやいのと口論中。

 だが放っておかれていい加減待ちくたびれたのか、ププロネンさんが口を開いた。

 

『まぁ、そう言う訳ですので、我々の出す試練に打ち勝ってくださいね?』

「あのう、ソレって拒否権は?」

『拒否してもかまいませんが、その場合かなりの被害が出るかと思いますよ?既にこちらの部隊は展開を終えていますからね』

「・・・・・・拒否権なしかよ。ちなみに試練って言うのは何するんスか?」

 

 俺がそう問うと、ププロネンさんが口を歪ませて笑みを作る。

 そして目がドンドン鋭くなり、良く言われる鷹の目というものに変化した。

 そして彼は実に楽しそうに、口を開いて言葉を吐き出した。

 

『勿論、我々との模擬戦ですよ。我々の攻撃を貴方が防げれば貴方の勝ちです』

 

 そう一方的に述べてくれたププロネンさん、此方のブリッジクルー達も呆然として彼を見る。

 おいおい、模擬戦って・・・・。

 

「防衛って事は、模擬戦用の疑似ビームで其方の艦載機を落せばいいんスか?」

『ソレもありです。実弾を用いても別にかまいません。我々が嫌ならそのまま撃ち落としてくださっても結構です。ただあのフネだけは攻撃しないでください。アレはギルドからの借りものですから』

 

 そう笑って行ってくれやがりましたこの男。

 やろう、自分の命まで賭け金に乗せやがった。

 ・・・・だけど、おもしれぇじゃねぇか。

 

「ほう、我が白鯨艦隊に艦載機だけで挑む・・・と?正気ですか?」

『我々は最後の一人まで死力を尽くして戦うだけの傭兵です。元から正気ですよ』

「・・・・ならいい、試させてもらうッスよ。あんたの本気ってヤツをね」

『ありがたいです。ソレでは・・・』

 

 そう言うと彼は通信を切った。

 ソレと同時に俺はブリッジの回線をフルオープンにして指示を飛ばす。

 

「各艦模擬戦闘準備!ユピテル、ステルスモード解除!」

「おいおい艦長、マジでやるんですかい?」

「連中は本気みたいッスからね。ああいったバカはちゃんと正面からやらないと、何回でも来そうな気がしたッス」

「しかしユーリ、あいつ等は実弾使う気マンマンみたいだ。それでもやるのかい?」

 

 トスカ姐さんもそう聞いてきた。

 見ればパイロンにぶら下げられているのは、宇宙用の対艦ミサイルだ。

 ソレと対艦兵装なのだろう、羽根には巨大な大砲が二門備え付けられている。

 手元のフィオリアのデータから考えるに、恐らく対艦レールガンである。

 至近距離で喰らえばタダでは済まない事だろう・・・だが。

 

「勿論スよ。アレは俺たちへの挑戦とみたッス。なら俺達はそれに応えてやらねぇとダメっス」

「・・・・はぁ、これだから男ってのはねぇ。まぁ良いさ、ユーリの好きにしな」

 

 トスカ姐さんはやれやれと肩を落としつつ、副長席へと戻って行った。

 ストールも納得はしてないが理解はしてくれたようだ。

 一応彼も砲撃のプロ、私情で砲撃を外すなんて真似はまずしないだろう。

 

「ステルスモード全解除、ソレと同時にハッチ解放、無人VF隊全機発進」

【VB-6も砲戦仕様でアバリスの甲板上に待機させます】

「護衛駆逐艦隊からも無人エステバリス隊発進しました。本艦の直衛に回します」

 

 さて、こちらも展開を終えた。

 正直多勢に無勢であるが、こちらの全兵力を見せたのに怯みもしない。

 まさかコレだけの艦隊に、戦闘機隊だけで突っ込んでくる猛者が居たなんてな。

 

「それじゃ、始まるッスかね。各艦対空戦闘準備!絶対防衛ラインを突破させるなよ!」

「「「「了解!」」」」

 

 例え勝ち目が無い戦いだろうと、突っ込んでくるバカには教育が必要だ。

 あっちが実弾使うのも、ソレはソレでハンデである。

 これは模擬戦だからまだいいけど、実戦だったら容赦はしねぇ。

 

 VF隊がユピの誘導に従い、規則正しい編隊を作って飛翔する。

そしてトランプ隊を取り囲むように展開していった。

 もう何だか弱い者いじめみたく見えてしまう為、あまり良い気分ではなかった。

 

 だが、その考えも覆される―――

 

【トランプ隊と交戦・・・?!もう10機落された!?】

 

 見ればVF隊の機体が紅いペンキで真っ赤になっている。

 どうやら奴さん達も模擬弾を使用していた様だ。

 しかし、驚くところはそこでは無い。

 

「おいおい・・・」

「アレマジか?すれ違いざまに10機も落してたぞ?」

 

 その技量が半端では無かったのである。

 数こそ少ないが、人手不足で無人機で構成されているVFに対しトランプ隊は有人。

 しかし、その技量は一騎当千とまででは無いモノの、恐らくエース級と呼ばれる腕前ばかりだ。

 

 

「まさか立った20機で、これだけの規模の部隊を相手にするとはのぅ」

「・・・・コレは、気を引き締めてかからんと、コッチの方がヤバいッスね」

 

 まさかまさかの大予測がえし、戦力的にはこちらが上。

だが、マンパワーというのも侮りがたいものなのだと改めて認識した瞬間だ。

 彼らは電撃戦を仕掛けるつもりなのか、真っ直ぐこちらの防衛ラインを目指している。

 

「油断大敵、こりゃ面白くなりそうだ」

 

―――俺はそう呟きつつ、彼らの奮戦を拝ませてもらう事にしたのだった。

 

 

「第一防衛ライン突破されました!な!内2機が突出、早い。もう第二防衛ラインにまで」

【予測ではこのままいくと、大三防衛ライン突破まで後20秒】

 

 トランプ隊との模擬戦闘が始まった訳だが、いやはや信じられネェぜ。

 すでに模擬弾で真っ赤VF達の撃墜判定が累計30機を越えた。

 真っ赤になったヤツは下がらせているし、まだまだ数はある。

 

だけど、もし実戦ならここ一番の被害だろう。

 何せなぁ、ゲームの時と違って艦載機にも、整備的な意味で金がかかるし・・・。

 本当の敵はゲームでもこっちでも金策か・・・嫌な世界だぜ。

 

「第二まで来たら、模擬戦用ホーミングを使うッス!ソレとVB隊には長距離砲撃を準備!弾は模擬弾に換装しておけッス!第二が突破されたら弾幕張って近寄らせない様に!アバリスは本艦の前方へ!盾にするッス!」

「アイサー!指示を出します!」

 

 アバリスは無人艦だし、ユピテルはホーミングレーザーだから、どの隊列からでも発射出来る。

 ホント便利だよな、ホーミングレーザー砲。

 

「ソレとS級駆逐艦隊を下がらせるッス!奴らは中央突破してくるみたいだから、弾幕の密度を上げるッス!K級はユピテル両舷に展開!特殊兵装を使うッス!」

「了解、シェキナのシステムとリンクさせます」

 

 K級駆逐艦には一門だけだけど、ユピテルと同タイプのホーミングレーザー発振体が特殊兵装として搭載されている。ホーミングは出来ないが、本艦と一緒に使用する事でホーミング可能となるのだ。

 

――――さぁ、この弾幕をどう抜ける?ププロネンさん。

 

 

Side三人称

 

一方、こちらはトランプ隊。第二防衛ラインに近づいているププロネン達である。

 彼らは少ないという利点を生かして、無人機には到底取ることが出来ない有機的な動き。

 簡単に言えば、機械には非常に捉えにくいランダムな機動で、無人機達を翻弄していた。

 

『ヒャッホー!真っ赤にしてやったぜ!』

『コレで4killっと』

 

 部隊共通の通信帯から、敵機を撃墜したという報告が入る。

 どちらかと言えば、ただ落して歓声を上げたに近いが、撃墜は撃墜だ。

 

「各員、まだ気を引き締めて!各員エレメントを崩さないよう気をつけてください!」

『『『『『了解!』』』』』

「あの白鯨に、我々の力を見せつけてやりましょう」

 

 現在突出して道を開いている2機の内の一機から、全隊員に向けての通信だ。

 当然、この2機に乗っているのはププロネンとガザンである。

 

「ガザン、私が針路を見つけますので――」

『あいよ。撃つのは任せな!』

「撃つのは最低限、解ってますね?」

『弾代もバカになんないしねぇ、それにコレだけの数、撃てば当たるなんて楽なモンだ』

「それだけでは無く、弾切れになったら困りますから」

 

 突出している2機のフィオリア。

他のフィオリアと違い、この2機は少しだけ改修を受けたカスタム機なのだ。

 追加ブースターにより、速度UPは2機とも共通である。

 

 だが、ププロネンの方は、武装はそのままで通信関連を強化した指揮官仕様。

 対してガザンは武装面を強化した重装備型に改修されている。

 

ちなみに強化した武装は、ミサイルのパイロンを外した代わりに背面に回転式銃座を搭載。

余裕が出来たペイロードを用い、レールガンを2基から倍に増やしたというもの。

更には胴体部分のパイロンに特殊ミサイルを搭載可能で、普段なら10連発量子魚雷発射筒なのだが、今回はソレを模したロケットランチャーを搭載している。

 

これら武装を強化ブースターで強引に牽引しているのだ。

 ちなみにレールガンは対艦仕様で、速射性は廃し速度と威力を優先させている。

 

「ん?各機、もうすぐ敵の第4波が来ます。総員警戒」 

 

 通信機能やレーダーが強化されているププロネンが、トランプ隊に警告を発する。

 迫ってきたのはVF-0(A)ノーマルタイプ、基本的な武装が付いている標準機だ。

 その数は15機、戦闘機型のファイター形態から、マイクロミサイルポッドを起動させ、

かなりの数の模擬戦用ミサイルがフィオリア達に迫る。

 

『かなりの量だね。湯水のようにミサイルとか、なかなか羽振りが良い』

「ええ、ですが勿体無いですね」

 

 だが、マイクロミサイルは小型故にロックオンしてからの追尾性がやや悪い。

 その為、ギリギリまで引きつけた後、瞬間的にピッチを調整して回避される。

 この技は一見簡単そうに見えるが、十分引きつけないとミサイルが命中してしまうので、

かなりの度胸と精神力が試される筈なのだが、今のミサイルでもトランプ隊から脱落者は出ない。

 

『ぃいやっほぉぉ!!』

『やかましいぞトランプ8』

『このスリル感がたまんねぇんだよ!』

 

 ソレどころか、彼らはそのスリル感を楽しんでいた。

 模擬弾とはいえ、フィオリアの様なティアドロップ型のキャノピーを持つ戦闘機は、

 当たり所によっては、例え模擬弾であろうとも死ぬ可能性もある。

 だが、幾多の修羅場を抜けた彼らに取っては、模擬弾のミサイル等、只のおもちゃなのだろう。

 

『ほうら!おっ返しー!トランプ10!エンゲージ!fox2!』

『トランプ9、エンゲージ、fox2』

『トランプ8!fox2ぅぅ!!』

 

 お返しとばかりに、ミサイルを発射する。

 VFはソレを感知し、可変機構でガウォークという飛行機から手足が生えたような形状へと変わり、急激なロールとバック転の様な宙返りですべてかわしてしまう。

 しかし、彼らにとっては空が狙い目、避けたVFの内3機が一瞬で真っ赤に変わる。

 塗料の当たった方向は下、そこに居たのはガザンの重装型である。

 

 何と彼女は対艦用のレールガンで、一度に3機のVFを落したのだ。

 連射の効かない兵装で、機動兵器に当てることはかなりの腕が居る。

 それだけでも、彼女の腕がすさまじいモノであることが解るであろう。

 

 そして、模擬戦によって撃墜判定を喰らったVFが、ユピからの停止信号により動きを止める。

 ソレを横目にトランプ隊は第二防衛ラインへと近付いて行った。

 

「高エネルギー反応?・・・そう言えば彼の艦は、レーザー砲が主体でしたね」

 

 指揮官機だけあり、ププロネンの機体は情報処理に長けている。

 その為まだ距離はあるが、ユピテルとアバリスの砲撃の予兆を掴んだ。

 

「各機散開、敵のレーザーは先の攻撃から見て恐らく模擬戦用レーザーですが、油断しない様に」

『『『『了解!!』』』』

 

 彼の指示の元、今までついて来ていた機体達は編隊を止め、各機散開する。

 ププロネンはふと思い立った様にコックピットから宇宙を眺めた。

 先程まで扇状に展開していた筈の駆逐艦が下がり、旗艦の近くに寄っているのが見える。

 これは何かあると、彼の長年の勘が告げていた。

 

「これは、一筋縄ではいけそうもありませんね」

『かもしれないねぇ。で、どうするよリーダー?白旗でも上げるかい?』

 

 何時の間にか後方についていたガザンから通信が入る。

 勝てないと判断した時に降伏するのも、戦いの一つのやり方だろう。

 だが、ププロネンはそうは思わなかった。

 

「まさか、そんなことをしたら貴女が私を撃つでしょう?」

『さて、そこはリーダー次第だよ?』

 

 一体この二人の関係はなんなのだろうか?只の上司と部下という訳でもない。

 だが、かと言って男女の仲という訳でも無い。

 しいて言うなら、ライバルと言った感じなのだろうか?

 

「はは、怖い怖い。ですがそんな貴女だからこそ、背中を預けられますね」

『あいよ。いつも通りトランプ2はトランプ1の2番機に入るよ』

 

 ガザン機がププロネン機を援護出来る位置に移動した。

 ソレと同時にユピテルがシェキナを起動、幾光もの光線がトランプ隊へと迫る。

 

『来たよ!全員シートベルト絞めな!頼んだよ“アルゴスの目”』

「了解です」

 

 そしてププロネンは、器用な事にコンソールを操作しながら、機体を操っていた。

 アルゴスとは全身に百の目を持ち眠らない巨人、それ故空間的にも時間的にも死角がない。

 その名を冠しているということ、それはつまり―――

 

「レーダー解析出た!各機我に続け!」

 

 ―――レーダー等を見る能力が、非常に高いと言う事なのである。

 

 シェキナのH(ホーミング)L(レーザー)と、駆逐艦から放たれたHLが雪崩の様に押し寄せる。

 ププロネンは慌てることなく、自身の機体をレーザーが重ならなかった僅かな隙間に押し込んだ。

 非常に細かな作業、一つ間違えばレーザーに焼かれる事になる。

 

 模擬戦用とはいえ、戦艦からのレーザービームだ。

 直撃されれば、爆散までは行かなくても電子機器が焼き切れる程度の力はある。

 そうなれば宇宙で棺桶状態で棺桶状態である。幾ら模擬戦とはいえソレは嫌だろう。

 

 そしてトランプ隊はまるでソレが当たり前のように、

ププロネンの機体が通った軌跡を寸分たがわぬ動きで、隙間を通り抜ける。

 まるで蛇の様に、戦闘機が一列に並んで飛ぶと言うのは、傍から見れば異様であった。

 

トランプ隊はププロネンが率いているチームであり、傭兵を一緒にやる戦友達でもある。

 お互いに信頼が置け、尚且つ仲間意識が高い連中が生き残り、トランプ隊をやっているのだ。

 だって協力出来ない人間は、みんな戦死してしまうのだから当然である。

 

『凄い、光の洞窟みたいだ』

『私語は慎め、トランプ13。集中が途切れるぞ?』

『あ、先輩、すみません。あ、抜けた!』

 

 そしてすぐにレーザーの弾幕を抜けた。

 だが、その先には甲板上に6機のVB-6を乗せたアバリスが砲門をこちらに向けていた。

 

「各機ブレイク!急いで!」

『ブレイク!ブレイク!』

『ひょぇー!デッカイ大砲だぜ!』

 

 VB-6の砲門に電荷が走り、蒼白い光が砲身内部に渦巻いているのが遠くからでも解る。

 あの四門の大砲は、全てレールキャノンであると言う事も見れば理解出来た。

 全長30m近い二足歩行兵器が背中に担いだ4連装レールキャノンと、腕に取り付けられている重ミサイルランチャー此方へと向ける。

 

≪キュィィィィン―――パウッ!≫

 

 そして発砲、24発の砲弾と36発の重ミサイルがトランプ隊へと放たれた。

 そのあまりのパワーにVB-6は反動を抑えきれずに甲板を滑る。

 放たれた砲弾は、トランプ隊のいる空間の近くで炸裂し、ペイント弾をまき散らした。

 

『ガッ!トランプ11被弾!離脱する』

『はは、間抜け≪バンッ!≫あ!クソ!トランプ8被弾!離脱するぜチキショー!』

 

 そしてこの攻撃により、トランプ隊から6機脱落した。残り14機。

 

「ガザン!」

『ああ!解ってる!3~6番機はあたしに続け!デカイ大砲を潰すよ!』

「残りは私に続いてください!敵中を突破します!」

 

VB-6 はアバリスの甲板上に、まだ体勢を崩したままの状態で姿勢制御に必死である。

ガザン達は4機の味方を引き連れて、射線に入らない様にしながら、ソレらを破壊しに向かった。

 

 

 

 

『ん?リーダー!2時の方向から敵機接近!』

「アレは・・・見た事がない機体です。全員注意してください」

 

 ガザン達とは別口から進行しているププロネン達にも敵機が迫っていた。

 だがソレらは、先に戦ったVF達では無い。

 

『――うわっ!クソ!人型の癖に速い!取りつかれて逃げられない!誰か助けてくれ!』

『待ってろトランプ9!今助け≪ドン!≫ぐわ!俺の後ろにも居たのか!』

『トランプ9、10共に撃墜判定だ!っと、こっちにも来たぜ!』

 

 その未確認の人型、近衛機動兵器エステバリスがトランプ隊を追い回す。

 かつてVFとのトライアルでは一度落ちてはいるが、機動性はVFと互角だったエステバリス達。

 そして、今のエステバリスはプロトを更に改良したタイプである。最も、改良したのはソフト面であるが、格闘戦も視野に入れられているだけあり、近距離でのドックファイトでは戦闘機にとっては分が悪すぎる。

 

「あの機体は見た目よりも速い・・・。各機ドッグファイトは禁ずる!後ろに付かれたら全速で離脱を!」

 

 各機にそう指示を送りつつもププロネンはそのまま第3防衛線を突破する。

 ここから先には近衛駆逐艦隊と先のエステバリスが陣を張っている。

 そこを突破出来なければ、この戦いに意味は無い。

 そしてレーダーを見つめながら、彼は最短ルートを選んでいく。

 

 

***

 

 

「模擬戦用反陽子弾頭炸裂!1、4・・・計6機の撃墜判定を確認!」

【残機14機、近衛エステを左舷に展開】

 

 おいおい、マンパワーってココまで凄いもんなのか?

 HLによる連続発射の弾幕を目隠しにして広範囲爆撃をやったんだぞ?

 ソレでなんで6機しか落せんのよ?もう少し落ちてもさぁ・・・。

 

【敵機の内5機が別れました。アバリスへの侵攻ルートです】

「当たるかは不明ッスが、ガトリングキャノン斉射、VB-6も装弾完了次第第2射発射!」

【了解】

 

 ココでまさかの編隊を分けるという戦いに撃って出た。

 えー!?なんで?普通ココは戦力集中させるんじゃないの!?

 アレか?アレなのか!?カミカゼでも狙ってんのか!?

 

「敵、第3防衛ラインに接触!」

「対空拡散HL準備!他のフネに当たらない様に上下から攻撃ッス!」

「了解!ミューズさん!デフレクターの調整頼むぜ!」

「解ったわ・・・ストール」

 

 すぐさまHLを発射する。お次は拡散タイプの模擬レーザーだ。

 かなりの効果範囲を持ち、戦闘出力ならば弱いフネならコレだけでも落せる。

 筈なのだが――――

 

「第3防衛ライン突破されました!」

「な、なにー!?」

【敵撃墜数更に4、残り10機。――あ、アバリスに撃沈判定】

「うそん?」

 

 コンソールからサブウィンドウを表示させて、アバリスを見ると確かに撃沈されていた。

 おいおい、至近距離からの機関部へのレールガンの斉射とかマジかよ?

 あーでも、考えてみたらVB-6もアバリスも近距離対空には対応して無かったか。

 

護衛に付けておいたVF達は味方が近すぎて攻撃出来なかったみたいだ。

 無人機だしなぁ。まだ経験値も浅いから有機的な攻撃ってのには反応しずらいんだろう。

 これは盲点だったな。ま、気が付けただけでもめっけもんか。

 

「敵編隊が第3防衛ライン突破したら「ああ!!」どうしたッスか!?」

「敵機第3防衛ライン突破!」

「そんなバカな!は、速すぎるだろう!?レーダーは正常なのかい?エコー!」

「こちらでも確認しましたー!一機だけ弾幕を突破!本艦に突っ込んできますー!」

【光学映像、捕らえましたので投影します】

 

 映し出された映像には、フィオリアに追加ブースターをつけて、機首が少し長めの機体。

 どうやら隊長機とか指揮官機とか呼べるカスタム仕様の様である。

 つーか、多分アレがププロネンさんです。本当に(ry

 

「ええい!とにかく撃ち落とせッス!」

「アイサー!」

 

 って、おい!今のセリフって死亡フラグっぽくね?

 なんかこう悪役が追い詰められて言う様な・・・あ、悪役とちゃうもん!

 

【もう1機、第3防衛ライン突破しました】

「恐らく武装面が強化された機体だと思われます」

 

 映像にはフィオリアの主翼部分に更に2本レールガンがプラスされた機体が写っている。

 見た目は重そうなのに、追加ブースターのお陰か普通の機体と変わらん動きだった。

 カスタム機を使える人間なんて限られるから、サブリーダーのガザンさんの機体かな?

 

「あ、紅いフィオリアだと!?」

「知ってるスか?!イネス!?」

 

 航路担当官として操舵主のリーフの隣に座っていたイネスが驚いたように声を出した。

 しかし、紅いフィオリアとか・・・まさか通常の3倍とかか?

 

「アレは、あのフィオリアは真紅の稲妻!」

「ってそっちッスか!」

 

 つーか普通の奴には解んねぇよ!通常の3倍でも知らん奴は知らんけどね。

 

「たったの一機で5隻ものフネを沈めたって言うので有名だ」

 

 ・・・・・もうどこに突っ込んでいいか解んないや。とにかく!

 

「ストール!ユピ!敵のマニューバを予測終わり次第全砲発射!各艦密集隊形!弾幕を張って、敵を近寄らせるなッス!」

【「了解!」】

 

 さて、とにかく近寄らせない事が第一だ。

 戦艦って言うのは得てして懐に入られると非常にもろい。

 ココまで近寄られたら、後は密集して弾幕を張るくらいしか対処のしようがないのである。

 

「全く、模擬戦用反陽子弾頭で沈んでくれていたら楽だったのに・・・」

「伊達に名が売れてる訳じゃないって事だね。流石はトランプ隊と言ったところか」

「・・・・そうッスね。そこら辺は流石ッスね」

「何だい?随分と元気がないねぇ?最初の威勢の良さはどうしたんだい?怖気づいたとかいうんじゃないだろう?」

 

 はぁ、それだけならなんぼかマシだったんスがね。

 

「いや、ついさっき気が付いたんスけど・・・あの模擬弾って特注だったなぁって」

「そういや、一応演習用にケセイヤが作ったヤツで、効果範囲が本物と大差ないとか言ってたね」

「その分、かなりコレが掛かるヤツだったんスよ・・・ああ、また海賊狩りしなきゃ」

 

 俺が手にお金マークを作ると、呆れた様な視線が突き刺さった。

 いや、最初はなんか盛り上がってたから、後になって気が付いたんスよ?

 だからそんな目で・・・ハイ、そう言うのが嫌だったら最初から受けなきゃ良いんですよね。

 

「こりゃ、是非とも認めてもらって、連中を仲間内に入れなきゃ元が取れないッスね」

「思ったんだが、連中を仲間に入れたかったら、一度ギルドに行って傭兵として雇い入れてやれば良かったんじゃないかい?」

 

 そうすれば艦長の人柄を掴む機会とか得られただろうに―――とトスカ姐さんの言。

 ・・・・・・・・・。

 

「・・・・ストール!とっとと落せッス!」

「や、やってるって!」

【現在残り3機まで落しまし――あ、いま残り2機です】

 

 そして最後に残るのは、やはりガザン&ププロネンのコンビ。

 駆逐艦達と近衛エステ達が放つ弾幕を、神業の様にくぐり抜けた挙句。

 こちらのHLまで、まるで踊っているかの様な華麗な機動で避けられる。

 

「・・・・天使とダンスか?」

「どうした?ユーリ?」

「いや、何でも無いッス」

 

 アレだけの弾幕を前にしり込みしないとか、どんだけーって感じなんだけどな。

 人間って訓練するとあそこまで逝っちゃうもんなんだろうか?(もう誤字にあらず)

 そして、更に10分経過した時――――

 

「駆逐艦隊突破されました!トランプ隊2機が本艦目がけて突っ込んできます!」

【最終防衛ライン突破、全砲強制冷却装置可動、速射体勢に移行します】

 

 なんて連中だろうか?針路上の駆逐艦隊には一発も撃たないで、本丸だけ狙ってきやがった。

 ジグザグと蛇行とバレルロールを繰り返しながら、此方へと迫ってくるエレメント。

 全く持って常識外れだ。一体どれだけの修羅場を抜ければ、ここまでに成るのだろう?

 

「敵機左舷に廻りました!」

「対空拡散HL照射――ッ!なんて奴らだ。アレを避けやがった!」

「落ちつけストール。今ので進入ルートは外れた」

【敵2番機に被弾判定、小破、右翼レールガン使用不能判定】

 

 至近距離だったから、重装備型のガザンさんは流石にかわせなかった様だ。

 そしてそのまま距離を取るかの如く離れて行く。

 さて、そっちはたったの一機、どうするんだ?

 

「ププロネン機、ピッチ角90度、本艦の真上に出ます!」

「普通のフネなら、艦橋の真上とかは小さいけど穴が出来るだろう。だけど―――」

「重力レンズ角度調整、HL照準」

「―――ウチのフネには、死角は無いッスよ?」

 

 そして放たれる計80門の大型レーザー砲。

 拡散モードで照射されたソレは、もはや壁の様に上空から近づいたププロネン機に迫る。

 そして――――

 

【ププロネン機、撃墜判定】

「流石に避け切れなかった様ッスね?」

「ああ、まぁアレだけの数で良くココまで戦えたね」

 

 うーん、やっぱり人手不足は深刻だな。

 小マゼランの艦船なら、今のユピテルでも十分だけど、トランプ隊みたいに腕が立つ相手。

 しかも熟練した人間相手だと、今のユピの経験値じゃ対応しきれないみたいだ。

 もっと経験を上げてやらんと、この先辛いな・・・とか思っていると。

 

【右舷デフレクター発振ブレード、及び後部噴射口に被弾判定、武装データー受信、中破判定】

「「「「はぁ!?」」」」

 

 最後にかましてやったとばかりに、攻撃判定がユピから来た。

 見れば先に離脱したのかと思っていたガザン機が、すたこらサッサと逃げて行く姿。

 どうやら、あの時距離を取ったのは、離脱する為じゃなくて攻撃ポジションとタイミングを取る為だったらしいな。

 

「・・・・はは、これは凄いッス!あっはははは!!」

「ユ、ユーリ!?壊れたいのは解るけど壊れるな!」

「違うッスよ!俺は今猛烈に感激してるッスよ!」

 

 武装、戦力、装備、全部こっちが上。

 負けた訳では無い、むしろ艦隊自体は健在だし、中破と言っても無人区画である。

 正直多少航行に支障が出るだけで、戦闘だけはまだ行える。

 

 だが、連中はたったの20機、しかも戦闘機だけで俺達をココまで相手にしやがった。

 こっちが慢心していた訳じゃないが、純粋な技量だけでこうも渡りあえるとは思わなかった。

 コレだから、宇宙は広くて面白いぜ!

 

「ミドリさん、彼らに通信回線を開いてくれッス。是非とも迎え入れたいとね」

「了解です」

 

 やれやれ、トランプ隊中々強かったじゃないか。

 流石は個人が強い無限航路世界、軍隊よりも強い連中が居るのは知っていたが、やっぱスゲェ。

 

 そして、俺達白鯨艦隊は恐ろしい程の技量を持つ戦闘集団トランプ隊を仲間に加えた。

 コレで更に戦闘機部隊の戦力が上がる事であろう。元々人手不足だったしな。

 

 中でもリーダーとサブリーダーのププロネン&ガザンを手に入れられたのは大きい。

 このフネになじむまでは、ほんの少し時間がかかるかも知れないが、フネの連中の殆どはあいつ等の技量に既に惚れこんでいるから大丈夫だろう。

 とりあえず連中とする事は――――

 

「こっちの模擬弾の支払いは、連中の給料から差っぴいておくッス♪」

 

 迷惑料ってヤツだ。ソレ位しても良いだろう。

 契約書にはソレを返し終えるまでは、俺ら専属で傭兵をやって貰うって事にしたもんな!

 わははは!ユーリはタダではおきんのよ!

 

 

 ―――こうしてボラーレ・オズロンド間、機動兵器模擬海戦は終わったのであった。

 

 

***

 

――――ツィーズロンド士官宿舎・オムスの部屋――――

 

 

「これは調査船が沈没したと言う事か」

「まぁ詳しくは知りませんが、ある人物が残がいを回収したそうです」

 

 さてさて、またもやこのヒトの所に報告に来ている俺達。

 面倒臭いが、これも一応報告しておかないと、色々と問題が生じるからな。

 

 オムス中佐の部屋に来て、俺はすぐさまシュベインが回収したと言う残がい。

 航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)を中佐に渡した。

 

一応俺は中身については知ってはいる。

だが、俺らが知らせたところでココに居る彼らは信じようとはしないだろう。

紛争は起こっても侵略戦争なんて起きたことは無かったんだから。

 

「ふむ、解った。コレを解析すれば沈没した際の状況も解る筈だ。あずからせてもらう」

「あ、それとテラーとかいう元軍人も捕まえたので、そちらで引き取って下さい」

 

 俺がそう言うと、驚いた顔をするオムス中佐。

 

「テラー?まさかテラー・ムンスまで捕まえたのか?」

「ボラーレ近辺に潜伏していた様で、序ででしたけど」

 

 結局アイツずっと部屋に閉じ込めっぱなしだったんだよなぁ。

 だけどなんか捕まえた時よりも栄養状態が良いらしく、今かなり顔色が良かったりする。

 敵だったけど、逃亡生活も大変なんだなぁ変に同情しちまったぜ。

 

「はは・・・君達には驚かされる事ばかりだ。まぁエピタフの情報を含め、礼を用意してあるから、後日改めて軍司令部に来てくれたまえ」

「了解です。それでは失礼」

 

 そして毎度の如く、多くを語ることなく部屋を後にした。

 

……………………………

 

………………………

 

…………………

 

 後日、司令部の方に顔を出した俺。

 どういう訳だかこの司令部の人間達には顔を知られているらしく、すれ違うごとに挨拶されるからやっぱ居心地が悪い。

 

 そして何だか見慣れちまった通路を通り、司令部の自動ドアの前に来た。

 ドアの前に立つと、プシューって音と共にドアが開く。

 

「おお、待っていたよユーリ君。陸ではよく眠れたかね?」

「どうも中佐。ええ、長い航海はしてますが、時々陸に来ると安心出来ますね」

「そうれは何よりだ。どんな環境でも適応出来るというのは若いモノの特権だな」

「はは、0Gなら大抵そうですよ」

 

 相変わらずの社交辞令的なやり取りを交わした後、すぐに本題に入る。

 

「・・・さて、まずは君達の回収した調査船の航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)についてなのだが・・・」

「解析が終わったのかい!?」

「トスカさん。声デケェ・・・」

「あ、すまんユーリ」

 

 いきなりオムス中佐に声を張り上げたトスカ姐さん。

 俺の真後ろで大声出すもんだから、耳がキーンってしたぞオイ?

 ホレ見ろ、オムス中佐も苦笑いしてんじゃねぇか。

 

「残念ながら損傷度合いが大きく、いまだ解析は難航中だ」

 

 まぁ、実際ヤッハバッハの連中と会ったのは沈められた調査船だけである。

トスカ姐さんがヤッハバッハの事を知っていたのは、元々ソコの人間だからだ。

今一番、ヤッハバッハの情報が入っているのは間違いなくあの航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)だ。

 

それ故、彼女は正確な情報を欲している。

 どうするつもりなのかは、まだ解らないけどな。

 

「それと、例のエピタフについての情報だが、君はデッドゲートを知っているかね?」

「デッドゲート、確か機能していないボイドゲートの事ですよね?」

「正確には少し違うが、おおむねそんな感じだ。軍に残された古いデータでは、デッドゲートの付近でエピタフの発見例が2件ほどあるそうだ」

 

 2件、2件ねぇ?・・・・デッドゲートはいま幾つあるんだ?

 

「高名な科学者であるジェロウ・ガン教授の研究でも、エピタフとデッドゲートの組成には近いモノが見られるということだ」

「成程、デッドゲートについて調べれば、エピタフの謎も解ける・・・かも」

「そう、かも、だな。詳しくはジェロウ・ガン教授に直接会って話をしてみると良い」

 

 ま、俺としてはエピタフにはあまり興味は無い。

 ある意味俺にとっては鬼門フラグだしな。この場は適当に答えて違う宇宙島に行くべ。

 だが、次の瞬間、中佐は俺の予想を超えることを口にした。

 

「私から教授には連絡しておいた」

「・・・・へ?いま何と?」

「私から連絡を入れておいた。かなり高名な方だし、アポが取れるかは運だったが、私のコネでなんとかな?」

 

 そんな凄く良い笑顔で言われても・・・。

しかも脇に控えてる部下さんが、大変でしたぁって顔してらっしゃる。

 

「そ、そんなに凄い人なんですか?ジェロウ・ガン教授って?」

「ああ、遺跡関連にもそうだが、様々な分野でも天才的でな?その手の世界の人間にはシンパも多い。アポを取るのは本当に結構大変だったんだぞ?」

 

 うわーい、これで行かないとか言ったら俺どんだけKYだよ。

 どうやら外堀が埋められていたらしい。自業自得?納得できっか!断れんけど。

 

「教授はカラバイヤ星団のガゼオンという星にいるよ」

「・・・・了解、カラバイヤのガゼオンですね?」

「ああ、ソレとエルメッツァからでる君たちに、私の個人的な礼だ」

 

 すると何やら名刺みたいなカードを手渡された。

 なんだこれ・・・?

 

「軍の造船関連や兵装関連を扱っている会社だから、新しい星団に行くんだし訪ねて置くと良い」

「あー、はは、ありがたく貰っておきます」

 

 正直ウチの艦隊の兵装関連や艦船は、我らがマッドな技術陣達により常に進化している。

 まぁ一応参考程度に覗かせておくのも一興かな?

 

「私が出来ることはコレで全部だ。これからの航海の無事を祈っているよ?」

 

 こうして、ツィーズロンドに2~3日滞在した後、俺達は新しい宇宙島へと行く為。

 ボイドゲートへと向けて艦隊の針路を取った。

 

 まぁそっち方面はいずれ行く予定だったし、特に問題は無いな。

 ジェロウさんも仲間にはしたかったしね。原作のマッドさんらしいし。

 

 ああ、次はどんな事が待ち受けているんだろうか?

 死にたくは無いけどワクワクするぜ!

 

 そして惑星ドゥンガを経由し、新しいボイドゲートをくぐったのだった。

 

 


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