【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第十八章+第十九章+第二十章+第二十一章

 

「ルーさん、本当に降りるんスか?」

「ああ、一通り厄介事は解決した用じゃし、ワシらはそろそろフネを降りようと思うんじゃ」

「一緒に来ては貰えないんスね・・・残念ッス」

「すまんのう、あまり一つのフネに居座るのは性にあわんのでな」

 

 さて、カルバライヤに入る直前だったが、ルーのじっさまが艦橋に上って来ていた。

 そして彼は、唐突にフネを降りることを俺に伝えて来たのである。

 一瞬ウチのフネの福祉厚生や待遇が悪かったんかい!?と思ったがどうもそうでは無かった。

 

「う~ん、ウチとしては、もうしばらく居て欲しかったんスけどねぇ」

「ほほ、この老骨がそこまで言われると、年甲斐も無くうれしいもんじゃ。だがな、このフネは居心地が良すぎるでの。ウォルの為にならんのでな」

 

 ウォル少年に軍師としての視野を広げさせたいじっさま。

 流浪の身であり、弟子を抱える身としては、やはり様々な所を巡りたいのだろう。

 成程、確かにそう言った意味じゃ、このフネの中は便利すぎるしな。

 成長には時としてキツイ環境も必要って訳だ。

 

「解ったッス。残念ッスけど・・・まぁ何時でも席は空け解くので、また何時か」

「そうじゃの。それにワシらも小マゼランを旅するんじゃ、その内偶然会う事もあろうて」

 

 じっさまはそういうと、ではな、といってフネから降りる準備をしに行った。

 後ろにいたウォルくんも、さようならとどもりながら礼をしてブリッジを後にした。

 あー、これで少しさびしくなるなぁ。

 

『そういや、イネスは降りねぇのか?』

「な、なんだよトーロ。突然」

 

 ルーのじっさまを見送った後、現在アバリスの方の艦長をしているトーロが、

通信ウィンドウ越しにそう聞いてきた。

 

『だってお前さんエルメッツァ中央の方の案内って事で乗ったんだろう?って事は、白鯨艦隊は違う宙域に来た訳だから、イネスの仕事が無くなるんじゃねぇか?』

「さ、最初はそのつもりだったさ!だ、だけど君たちが―――」

『あ、そうかスマン。お前さんは女性陣に捕まってたんだっけな?ゴクロウサン』

「おい、トーロなんだその憐みの目は?――ってコラ!通信を切るんじゃない!」

 

 全く、トーロも悪ふざけが過ぎるぞ?大体女性陣云々はイネスの所為じゃないだろうに。

 なんか地団太を踏んでいらっしゃるイネスの肩を、俺はぽんと叩いた。

 

「まぁまぁ、トーロは只ふざけただけッスよ。それにウチは人手不足だから、クルーとして残ってもらえると嬉しいんスがねぇ~?」

「う・・・わ、わかった。そこまで言うなら残ってあげるよ」

 

 イネスはそう言うと、通信パネル上でそっぽを向いていた。

 いや、言ってて恥ずかしいなら、通信切れよ。

 

「ま、よろしく頼むッスよ?イネス」

「あ、ああ・・・ユーリ!」

 

 

 

 

 

 

 

――――と言う事があってから、一日が過ぎました。

 

 ゲートをくぐったのは良いんだが、アレですよ?チェルシーの体調が悪化しました。

 またあの頭痛が起こってしまったらしい。と言っても以前よりはマシで、気絶はしなかった。

 ま、今のところは特に影響は無いみたいだから良いけどさ。心配だよねぇ、兄としてはさ?

 

 なのでボイドゲートにほど近い、惑星シドウに付くまでは休息を取ってもらう事にしたのだ。

 ちなみにチェルシーは食堂のマドンナ的な存在だったらしく、少し食堂へのリピーターが減ったのは余談である。ウチは食堂と自炊と自販機で選べるからなぁ。仕方ない事だろう。

 

 んで、俺は空いた時間になんとか見舞いに来ることが出来た。

 何せトランプ隊が編入されて、しかもVFとかに機種変更を申し出たモンだから忙しくてさ。

 中々時間が取れなくて、ようやく見舞いに来れたのは、惑星シドウに着いてからだった。

 

≪こんこん≫

「うっス、大丈夫かいチェルシー?」

『あ、ユーリ?いいよ入っても』

「んじゃ、お邪魔しますー」

 

 チェルシーの部屋に来た俺は、彼女に許可を貰い入室する。

 考えてみたら初めてチェルシーの部屋に来たんだよなぁ。

 でも何か色々と置いてあるな。ぬいぐるみとか・・・誰からか貰ったのか?

 

「具合はどうチェルシー?後中々来れんで済まなかったスね」

「今はもう大丈夫だよ。こっちこそゴメン。ユーリに迷惑かけちゃった・・・」

 

 彼女はそう言うと、ちょっとショボーンとしていた。

 はぁう!なんだその雨にぬれている子犬的な可愛さわ!?アレか?俺を萌え殺すつもりか!?

というか妹と公言している子にそんな感情を抱いたら死んでまうワイ!

 

「大丈夫ッス。誰だって体調が悪い時くらいあるッス。それにチェルシーは普段から無遅刻、無欠席だってタムラ料理長が褒めてたッスよ?少しくらい休んだって、誰も文句は言わないっスよ」

「――あう」

 

 あまりの可愛さについ撫でちゃう。何?気持ち悪い?ほっとけ。

 只の兄妹のスキンシップやもん。だから倫理的にもんだいな~し!

 ・・・・・なんか色々と不味いか?やっぱり?チェルシーも顔真っ赤だし。

 

……………………

 

………………

 

…………

 

 さて、一通りチェルシーの髪の質感を楽しんだ後、少し部屋をちらりと見回した。

 なんかぬいぐるみのほかにも色々と――――!?

 

「―――ッ!―――」

「ん?どうしたのユーリ?」

「え!?あ、あはは!何でもないッスよぉ!」

 

 おい、どこのどいつだ?チェルシーにメーザーブラスターを渡したヤツは?

 何でだか知らないけど、コレクションみたいに増えてんぞ?

 

「あ、コレ?最初の一丁はトスカさんに貰ったんだけど、何だか自分でも欲しくなっちゃって」

「へ、へぇ。そう何スか?まぁ、趣味は人それぞれッスからね」

「うん!」

 

自分の妹が気が付けばガンコレクターになっていた事に、ちょっとショックを受けた。

ストール辺りがそう言ったのに詳しいということを教えておいたら、後で連絡入れるとの事。

・・・・はは、良い趣味持っちゃったなぁ。絶対黒様はもう来させられないね。

絶対に死人が出るぜきっと・・・。

 

…………………………

 

……………………

 

………………

 

とりあえず只の見舞いだったので、適当に繰り上げて部屋を出る。

これでも一応は忙しい艦長職兼提督業、書類が残ってるんで涙目だ。

はぁ、何でこの世界に来てまでワーカーホリックやんなきゃならんのだ?

 

「よう、どうだった?具合は?」

 

 と、少しばかりたそがれながら歩いていると、後ろから声を掛けられた。

 振り返ってみると、副長をしている筈のトスカ姐さんがそこに居た。

 

「ん?大丈夫見たいッスよ?顔色も治ってたし、以前より軽いみたいッス」

「ふぅん。ま、大事じゃないならいいけどさ・・・」

 

 む?なんか言いずらそうだな・・・あー、成程。

 

「大丈夫ッスよトスカさん。チェルシーはあれで強い子だ。それに自らの意思を曲げる子じゃないですからね。俺が言っても、多分降りようとはしないでしょう」

「・・・・そうかもね。気付いてるかいユーリ?あの子はあんたの事を――」

「知ってるッス。時としてそう言う表情してる事は・・・」

 

 そりゃあねあーた。俺と居る時にだけ、妙に顔を赤くしたりしてればねぇ? 

 元のゲームでも一応そう言うことだって知ってたしな。

 

「そう・・・知ってるなら私から言う事は何も無いね。だけど、いつでも気をつけとくんだよ?」

「ソレはどっちの意味でッスかねぇ~?」

「さぁて?私は知らんね。あ、そうだ、ブリッジのIP通信の調子が悪いのを見に行かなきゃ」

 

 俺がにやりを笑いながら言うと、同じくにやりと笑い返しながらこの場を去るトスカ姐さん。

 まったく、茶目っけが過ぎるぞい。

 

***

 

 さて、惑星シドウに降り立った(ry

 後は言わんでももう解るだろうが、0Gの酒場へレッツゴーってな感じ。

 必要な情報を集めるのが先決だ。特に金になりそうな海賊系の情報をな。

 

「や、マスター。適当にお勧めをくれッス」

「あいよ」

 

 酒場に付いたらまず注文。コレどこでも同じね?

 とりあえず一杯ひっかけてからじゃないと、マスターは情報くれないんだよ。

 正確にはくれるんだけど、ちょっとだけ情報量が少なかったりするんだ。

 ある意味、せこい事してるよなぁ~。

 

「―――お、あんがとっス。・・・所で、ここら辺は海賊は出るんスか?」

「ココいらの海賊ですか?そうですねぇ。グアッシュ海賊団とサマラ海賊団でしょうね」

「サマラってのは、もしかしてサマラ・ク・スィーかい?」

 

 俺に付いてきたトスカ姐さんが、マスターにそう聞いた。

 はて?サマラねぇ?・・・・ああ!そう女海賊さん!

 

「お、よくご存じで。その通りです。女海賊サマラ・ク・スィーが率いるのがサマラ海賊団です。ちなみにもう一つのグアッシュ海賊団は、実は妙な噂がきてましてねぇ」

「妙な噂?」

「はい、実は一年ほど前に、グアッシュ海賊団の頭領は捕まってるんですよ?なのに海賊被害が全然減らないんですよねコレが」

「ふーん、ま、注意くらいはしておくかね。情報御馳走さん」

 

 とりあえず情報はこんなもんで良いだろう。

 後は目で見て確かめる。ソレが旅の醍醐味ってやつさ。

 あ、そう言えば―――

 

「トスカさん?サマラさんって知り合いッスか?」

「ん?ああ。古い友人って奴さ。それなりにつきあいはしてたよ?」

「って事は、狙う海賊はグアッシュにしておいたほうが良いスかね?」

「そうだねぇ・・・出来ればそうしてくれると助かる」

 

 ふむ、ここでの鴨はグアッシュ海賊団になりそうだな。

 ご愁傷さまぁ~グアッシュ。美味しく俺達の糧となっておくれ。

 

「了解したッス。それじゃ、後は適当に情報をあさるッスかね」

「そう言いつつも、本当の所は?」

「ただの自由行動」

「そいつは良いねぇ?私もそうしようかな」

「良いんじゃないッスか?どうせそれ程滞在しないとは言っても、一日は居るんスからね」

「アイサー艦長。好きにやらせてもらうよ~」

 

 そう言うと彼女は、俺から離れて店の奥へと足を向けていた。

どうやら適当にフネのクルー連中のところを回る事にしたようだ。

 俺もそうしようと思って席を立とうとしたところ。

 

「やぁ少年、隣は良いかな?」

「あ、ミユさん。良いッスよ?今は誰も座ってないし」

 

 我がフネが誇るマッド、ナージャ・ミユさんが来ておりました。

 考えてみると何か久しぶりにあった気がするぜ。

 何せマッドとは周りが言ってはいるが、その性格は結構真面目だ。

 なので一度研究に入ると、素人は口出しできないのである。

 

 その為研究室や解析室、もしくはマッドの巣から出て来ないので、普段会える事は稀だ。

でも仕事も早いし、やることは一流。本当に良いクルーを雇えたよなぁ。

・・・・まぁ彼女の場合、勝手に俺のフネのクルーになってたんだが。

 

「どうした少年?」

「ん、何でも無いッス」

 

 それはそれ、これはコレったヤツだな。

 

 

 

 

「―――そう言えば、君はエルメッツァの軍から、エピタフの情報を仕入れていたな」

「ん?ああ、そうッスねぇ」

 

 さて、しばらく雑談をしながら飲んでいると、ミユさんは唐突にそう言い放った。

 まぁ対外的には、俺はエピタフの情報を集めていると言う事になってるしな。

 

「私も素材屋としては興味がある。是非とも手に入れたら、我々に回してくれないだろうか?」

「回してって、どうするんスか?」

「決まっている。破壊して分子構造を隅から隅まで調べるのだ。なぁに宇宙は広い。一個や二個減ったくらいで、どうともならんさ」

 

 あはは、やっぱりマッドだ。エピタフを完全に研究対象としか考えてないぜ。

 

「はは、手に入ればッスけど、手に入ったとしても貴重品だから無為ッスね」

「そこを曲げて、何なら一晩くらい―――」

「ストッープ。そこまでしなくても良いッス。ま、幾つか手に入れられたらって事で我慢して欲しいッスね」

 

 おいおい、幾らなんでも身体を簡単に差し出し過ぎだよ。

 親から貰ったんだから、もっと大事にしなきゃあかん。

 ・・・・そう考える辺り、俺も日本人だなぁ。

 

「ふむ、初心な少年の事だから、色仕掛けで行けるかと思ったが―――」

「はは、生憎と身持ちは堅いッスよ」

「それはソレで良い事だと、私は思うがな。そこらの0Gより好感が持てる」

「そいつは重畳。だけど、ミユさん。幾ら自分の身体とはいえ、大事にしないとダメっスよ?じゃないと艦長である俺が起こるッスからね?」

 

 俺がそう言うと、きょとんとした顔をするミユさん。

 いっけね?外したか?―――そう思った時。

 

「ふふ、あっははは!そんな事言われたのは久しぶりだ!」

「ミ、ミユさん?!どうしたんスか!?」

 

 いきなり笑い始めたミユさんに、俺は戸惑うしかない。

 と言うか、周りのなんか探る様な視線が気持ち悪ぃぞおい!

 

「――くっくっく・・・おい、少年。私はお前の事が更に好きになってしまった。どうしてくれる?」

「へ!?い、いや、そんなこと言われても―――」

「ふふ、まぁいい。それとありがとうな少年」

「うぅ・・・。どういたしまして」

 

 なんかよく解らんが、ミユさんとの好感度でも上がったのかえ?

 まぁよく解らんが、とりあえずこの場は俺が奢っておいたのであった。

 

 

***

 

 

 さて、とりあえず我等白鯨艦隊はカルバライヤに来た訳だ。

 適当にカルバライヤ星系をぶらぶらと巡り、途中ジゼルマイト鉱山とかでアルバイトしたりして過ごしたりした。

 

 そして、運の良い事か悪い事かは知らんが、今まで海賊には遭遇しなかったのである。

 だが、この稼業に生きる以上、絶対に海賊とは遭遇する訳で―――

 

「早期警戒無人RVF、敵海賊艦隊を捕捉しましたー」

「数は3、巡洋艦一隻と駆逐艦2隻の構成です」

【データリンク照会、敵艦はグアッシュ海賊団が使用するバクゥ級、タタワ級と判明】

「さて、お客さんだユーリ。どうする?」

「はは、そんなの決まってるじゃないッスか?」

 

 俺はブリッジを見渡しつつも、指示を出す為にコンソールに手をやった。

 

「総員第一級戦闘配備!目的は敵艦の拿捕、鹵獲にある!各員準備を急げ!」

「アイサー艦長。『総員、第一級戦闘配備、有人VF隊は発進準備を急いでください――』」

「ステルスモード解除、APFS及びデフレクター、戦闘出力へ出力と移行する」

 

 アバリスとユピテルのステルスが解除され、その姿があらわになる。

 おうおう、もうそれだけで大慌てだな。艦隊挙動が乱れてるぞ?

 だけど、こっちもおまんま食う為だからな。勘弁してくれや?

 

『こちら格納庫!VF隊発進準備よし!』

「あ、そう言えば、トランプ隊は今回は機種変しての初出撃と言う事になるのか」

「そういやそうだったね。ププロネンにつなぐかい?」

 

 トスカ姐さんがそう言って、コンソールに手をやった。

 だが俺はソレを手を振って制す。

 

「いや、今は良いッス。きっと気が立ってると思うし」

「・・・ソレもそうだね」

 

 彼らはプロだ。俺がやりたいことくらいとっくに把握している事だろう。

 一々言わなくても、絶対やり遂げる筈だ彼らは。

 

「敵艦、レーザーを発射、ミサイルも射出しました」

【レーザーは出力的に問題無し、ミサイル、デフレクターに直撃します】

「総員、耐ショック防御」

 

 そう指示を出した直後、ミサイルがデフレクターへと直撃してシールドを揺らす。

 問題は無いかと思っていたのだが――――

 

「小型ミサイルが一機だけ抜けました。後部エンジン口付近に着弾します」

「ふむ、一点集中された際に、デフレクターの出力が一部分下がったのか・・・これは改良が必要か・・・」

 

―――どうやら一発だけ抜けてしまったらしい。まぁ2kmもあるから当たっても軽微だけど。

 

成程、敵さんも考えたモンだ。高出力シールドでも一点集中させて貫くとはね。

でもお陰でまた科学班連中が何かやらかしそうだ・・・また金が飛ぶ。

 

「小型ミサイル着弾しました」

【エンジン口のフィルターが破壊されましたが戦闘には影響無し】

「修理は後で行うッス」

 

 今はそれよりも、目の前の敵が優先だ。

 

「駆逐艦隊とVF隊に通達!連中を包囲して逃げられないようにするッス!」

「了解、各艦に通達します」

「あ、それと強襲艇も発進!敵を拿捕するッス!」

 

 次々VF達と、装甲宇宙服を着込んだ保安員達を乗せた強襲VB3機が発進する。

 強襲VBは後部ハッチから発進したと同時に、アクティブステルスを起動した。

 これでレーダー上は見えなくなった訳だ。

 

 そしてこの後は簡単。

 VFたちが派手に飛びまわり、バクゥ級とタタワ級の武装を破壊した。

 ちなみにまだ人型への変形機構に馴れて無い為、ずっとファイターモードだった。

 その後は強襲型VBがそれぞれ一機ずつ敵艦に取りついて、中から制圧したのであった。

 

 コレで、丸ごと巡洋艦と駆逐艦を手に入れた。後は売るだけだ。

 ひっひっひ、久しぶりの海賊船じゃあ・・・いくらで売れるかなぁ?

 ――――と、脳内で銭勘定を考えている時。

 

「む?機関出力低下中?おかしいのう、キチンとメンテナンスはすましておるんじゃが・・・」

 

 機関士長のトクガワさんが、何かブツブツと言っている。

 どうしたんだろうか?

 

「どうしたッスか?トクガワさん?」

「実は機関出力が低下しとる。今の所インフラトン・インヴァイター自体には異常ないが、このままじゃと後20分で完全停止するじゃろう」

 

 珍しいな。トクガワさんの整備をしてある筈の機関部にトラブルが起こるなんて。

 

「ふむ、仕方ないッスね。エンジン停止、非常モードへと移行。機関室班は原因究明を急いでくれッス」

 

 しっかしいきなりトラブルか、嫌だぜ?宇宙を漂流とかはさ?

 ・・・・・言ってて冗談じゃない気がしてきたぜ。

 

……………………………

 

………………………

 

…………………

 

「―――ウス、解ったッス。ルーインさんお疲れ様」

「なにか解ったのかい?」

「トクガワさんの言う通りエンジン自体には異常無し、だけど多数のケイ素生物がエンジン口に付着していたらしく、先の戦闘でそれが剥離してエンジン口を塞いじまったみたいッス」

「うん?だけどフィルターを搭載してたじゃないか」

「そのフィルター自体が先の戦闘でミサイルが当たった時に穴が開いたらしくて」

 

 そん時にケイ素生物やゴミやその他が、中に入っちまったみたいなんだよね。

 そんで入った時に、機関部の色んなところを傷つけて行った挙句に焼きついたらしい。

 お陰でフネがウマい事動かないから困ったモンだ。

 

「ははぁ、それでインフラトン・インヴァイターがオーバーヒートってことかい?」

「ええ、一応ケイ素生物は取り除いてる最中で時間さえあれば問題無いらしいんスが、それまでの間に傷ついたエンジンの方が不味いッスね。トクガワさんとケセイヤさん曰く、レストア作業にかなり時間がかかるかも」

 

 オーバーヒート起して加熱状態だったからなぁ。

 今回は手動で外に強制排気して、機関部内の熱を逃がしたからなんとかなった。

 だけど、その間に中の伝送類や比較的弱い部分のダメージが結構ね。

 

「他の艦船も一応念のためにエンジンを停止。ケイ素生物除去とフィルターの交換作業中です」

【一応は救援信号を断続的には発していますが、場所がデブリベルトの中ですしね】

「ま、少し時間はかかるッスが、自力でなんとかできそうッスからね。人手は欲しいッスけど」

 

 整備用マイクロドロイドも作業用にしたVFも使って急ピッチで作業を展開している。

だが、まだまだ除去作業に時間がかかりそうだ。いやね?大きな汚れなら簡単にはがせますよ?

だけど細か過ぎると逆にとれなくてさ?作業に時間を食うんだわ。

 

 とにかく機関部の修理が終わるまで、白鯨艦隊は運航を停止する事となった。

 一応トラブルが起きている時は、注意を促す意味も込めて救援信号を流すこととなっている。

 そして人手の少ない我が白鯨艦隊はちまちまと除去作業に移るのであった。

 

 

 

 

『オーイ、ソコのフネ!大丈夫かい!?』

 

『おい、ルーべ!俺達は急いでんだ!勝手に通信をいれてんじゃねぇ!』

 

『何言ってるんですか!救援信号を発しているフネを見捨てておけないでしょ!』

 

『てめぇこのヤロウ!艦長の俺に逆らおうってのか!』

 

『やかましいハゲ!』

 

≪ゴイン―――≫

 

 

 

 

 あー、今のはなんだろうか?

 ブリッジでエンジン復旧の報告をまっていると、突然音声だけの通信が入ってきた。

 

「今のは?」

「付近を航行するフネからの広域通信です。センサーをONにしてましたので」

 

 どうやら救援信号を感知したフネがいたらしい。 

 結構航路から離れてたから、感知なんてされないと思ってたんだがね?

 

 ま、通信を入れて来たって事は、海賊では無いだろうな。

 一応修理が終わった駆逐艦が、デブリの陰で息をひそめて護衛に回っている。

 変な真似したら撃ち落とせば良いだけの話だ。

 

「お~い、聞こえてるか?ソコのフネ!」

「聞こえてるが・・・その後ろの人大丈夫か?」

 

 しばらくしてホログラム付きの通信が入ったんだが―――

 その手に持った紅いスパナはなんですか?

 

「うん?ああ、大丈夫、ウチの艦長は何気に丈夫だから」

「なら良いスが・・・現在こちらは機関トラブル中、人手が足りない為、救援をお願いしたい」

 

 コレ本当、規模が規模だからねぇ。

 デカすぎるとこう言った時に困るぜ。

 

「りょーかい、君、運が良いよ。こんな所に凄腕の機関士に会えるんだから。僕はルーべ、今からそちらに移る。接舷コネクトとハッチ解放よろしく!」

「あいよ。待ってるッス」

 

 そして切れる通信。まぁ善意らしいし、機関室は大事だが機密ってワケじゃないからな。

 助けて欲しいのも本当だからちょうどよかったぜ。

 

「―――あ、そういやこんなイベントあったなぁ」

 

 ふとゲームのイベントでこんなのあったの思い出した俺。

 なんのイベントだったかは忘れたけど、まぁいいや。

 

 

 

 

さて、外部からの救援を受け入れてしばらくすると―――

 

「―――しっ、おっけ!インフラトン出力良好!省電力モード解除します!」

「ふむ、そんなやり方があったとはのう」

「あのケイ素生物はここの宙域にしかいないですから、対処法はあんまり知られていないんですよ」

「ワシもまだまだ勉強不足じゃのう」

 

 なんかすさまじい速さで、エンジンが復旧しました。

 予想だと、あと50時間掛かる予定だったんだけど・・・。

 

「いいえ!伝説の機関士長トクガワさんの整備は完璧でした!ただ予想外の事があっただけですよ!」

「ほっほ、そういって貰えると助かるわい」

「そうです!むしろこちらが色々と教わりたいくらいで!でも感激だな、まさかこんな所で伝説のトクガワ機関士長に出会えるなんて」

「伝説なんて、この爺には似合わんよ」

 

 そしてトクガワ機関長に出会った途端、ものすごく目をキラキラさせて握手をしていた。

 どうやらその手の人間の間では、トクガワさんは神に近いのかもしれないねぇ。

 まぁ今だ現役だし、文字通り生き字引な人だしなぁ。

 

 様子を見に機関室に赴いていた俺は、

トクガワさんの手を握りブンブン振っている彼女を見て苦笑しながらも話しかけた。

 

「やるもんすねぇ、良い腕ッス」

「ああ、艦長さん。まぁ僕の腕は故郷のジーバでも一番だったんだ。まぁトクガワさんには負けるけど・・・」

 

 ・・・・トクガワさん、アンタどんだけ凄い人なんだ?

 そりゃ、偶に後光が差しているような感じはあるけどさ。

 つーかよくそんな人を雇えたな俺。偶々ロウズにいたから雇ったんだけど。

 

「今までどこに行ったのか行方不明だった伝説の機関士長。もうこの手は洗わない!」

「いや、洗いなさい。機関士と言っても女の子。最低限の身だしなみはしておきなさい」

「はい!解りました!」

 

 ビシっと、なぜか軍隊式な敬礼をするルーべ。

 中々ノリが解ってるじゃねぇか。

 

「さて、もう少しトクガワさんと話していたいけど、僕はフネに戻るよ。念の為に宇宙港に入ったら再点検を忘れずにね?」

「了解ッス。救援感謝ッスよルーべさん。コレ一応のお礼って事で」

 

 俺はマネーカードを差し出そうとしたが、ソレはルーべに止められた。

 

「いらないよ。こっちは善意で助けたんだからさ」

「・・・・そうッスか。ま、それなら貸し一つって事にしとくッス」

「はは、また会えた時に僕が困っていたら、返してくれればいいよ。それじゃ僕は戻るね」

 

 彼女は俺の言葉にウィンクで返し、減圧ブロックへと身をひるがえして行った。

 しっかしウチの人手不足もあれだなぁ。正確には部署を任せられる人間が少ないんだ。

 

 ああいった機関士も、もう少し欲しいところだな。

 だが、まさかこの時そう思ったことが、あんなにすぐに叶うとは・・・。

 この時は思っても見なかったのであった。

 

***

 

 

―――惑星ジーバ・超弩級ドック―――

 

 とりあえず航路上最も近かった惑星ジーバにて、補給とメンテナンスを行う。

 一応ココまで何の問題も無く運航で来たが、宇宙船は精密機械の塊だ。

 

 確かに頑丈になり、ちょっとした事では壊れにくくはなったが油断は出来ない。

 今回みたいに突発的な事態に発展することも有り得るのである。

 

 ま、今回の事が教訓になったから、おんなじことは起こることはもうないだろう。

 今頃ケセイヤさんやサナダさんやミユさん辺りが、メンテナンスドロイドの改良をしているだろうな。―――R2-○2 とか造らんだろうな?ソレは流石に不味いぞ?版権的に。

 

「―――ハイ、武装類以外は無傷ですね。今回はこれくらいでいかがですか?」

「むー、もう少し上がりませんかね?」

 

 なんてメタな事を考えつつ、俺は今回拿捕したフネの売却の交渉をしていた。

 目の前には通商管理局が使っているローカルエージェントがニコニコ顔で立っている。

 

「・・・あー、私も新型のオイルとか欲しいですねぇ」

「・・・ふむ、そういや在庫が少しあまってたような」

「「・・・・・・」」

 

 通商管理局のローカルエージェントと睨みあう俺。

 だが、すぐにガシっとお互い握手を交わしたのであった。

 交渉成立だ。

 

「・・・・・あれ?でも何で俺が以前ゴッゾでやった事知ってるんだ?」

「あれ艦長、知らなかったのかい?連中は結構色んなところで並列化されてるんだよ?」

 

 俺が不思議に思い口に出した事に、生活物資の補給作業中だったアコーさんがそう言ってきた。

 ふーん、って事はやっぱ独自のネットワークがあるんだ。

 まぁ絶対中立が謳い文句だモンな。敵味方関係無く補給修理するしね。

 

「そ、だから管理局のステーションで問題起せば、他のステーションでもマークされるってワケ。ハイ、これ補給品の目録。一応生活必需品Ⅰ型コンテナを100と生鮮食材のコンテナを200程。後は有料だったけど、以前から要望があったモノをパックした雑貨コンテナを幾つかってとこだ」

「ん、どれどれ・・・・・解った。財源から出しておくッス」

 

 雑貨コンテナか、たしかシップショップの品物も入ってんだよな。

 今回はコレの他に、フネに使う修理用の素材とかもよそから仕入れたらしいから、

 今回の値段はそれら全部含めて、およそ2000Gってとこか。

 

 拿捕した海賊船を全部売り払った値段が、約5000G程度だっから利益は出てるけどな。

 下取りだと、拿捕したフネでも安いもんだなぁ。下手すらジャンクと変わらん。

 まぁロウズとかエルメッツァに比べたら、高い方に入るけど・・・。

 

「ふぅ、もう一隻ユピテルと同型艦を作りたいんスがねぇ」

「しばらくは無理だとおもうよ艦長。ウチの浪費の大半はマッドの巣からだしねぇ」

「・・・・自力で鉱脈でも見つけて造った方が早い気がしてきた」

 

 クスン、お金の昔の呼び方はおあしと言うらしい。 

 なんでも脚が生えたみたいにすぐ無くなるかららしいけど・・・まさにその通りだ。

 艦隊運営も楽じゃないねぇ、まぁ個人で艦隊を持てるってとこで、俺の日本人としての常識からはかけ離れてるんだけどな。

 

「ほいじゃ、後頼むッス~」

「はいはい。あ、艦長はこの後どこか行くのかい?」

「いんやー、特にする事も無いで、下の酒場にでも行く連中に付いていくッスよ~」

「あたしも行きたいから、少し待ってて貰っても良いかね?あと1時間程度で終わるから」

「あいあい、その他面々に伝えとくッス~」

 

 俺はアコーさんに振りかえらずに手だけ振って返事を返した。

 そして1時間後、いつものブリッジクルーや+αな面々を連れて、星に降りたのだった。

 

さて、前回惑星ジーバに降り立った訳だが―――

 

 

「おっし飲め飲め!ルーべ!」

「んぐんぐんぐ・・・ぶはー!おいしい!」

「すげぇ、よく一気飲み出来るなぁ」

「ボクはこう見えても、ジーバで一番のざるらしいからね」

「いや、そこまで行くとこの宙域一じゃねぇか?」

 

 

 酒場で再び出会ったルーべと飲み比べ大会が勃発しております。

 ちなみに飲み比べで付いていけたのは、トーロとトスカさんだけで、後は撃沈されています。

 俺は最初から参加して無いから、元々酔ってないのだが―――。

 

 

「ちょっとー!聞いてりゅのう?ゆーりぃ~」

「き、聞いてるよチェルシー。あと近いって・・・」

「わたしのさけがのめねってぇーのかー」

「うっわ、超棒読み」

 

 

 く、誰だよ?チェルシーにココまでドロドロになるまで呑ませたヤツ!?

 大体犯人は解ってるけどね!そこで普通に飲みまくってる赤い服の人!

 ニヤニヤ笑ってんじゃ無い!全く・・・。

 

 

「いいわねチェルシー。私も、エイ」

「ちょっ!おいティータ」

「なに?嫌なの?」

「い、嫌じゃねぇけど・・・酔ってる?」

「酔ってないわよ。ええ酔ってませんとも、酔う筈が無いじゃない」

「とか言いつつジョッキを煽るの止め、って抱きつくなって!」

「「「「うぅ~、妬ましい」」」」

 

 

 もうやだこの空間。

 

 

……………………………

 

………………………

 

…………………

 

 

 しばらくして、ようやくチェルシーが泥酔した。今は俺の膝枕で眠っていらっしゃるぜ。

羨ましい?2時間トイレに行きたいのに行けない苦しみを味わってみろよ?

俺の今の状況が解ると思うぜ?お酒って結構利尿作用あるしな。

 だけど――――

 

 

「ゆぅりぃ~(ぐりぐり)」

「はいは~い、お兄ちゃんはここに居るッスよ~」

「うにゅ~、スースー」

 

 

 これはこれで良いかなって思っている自分が居たり・・・。

 ナチュラルでヤバいとこ落ちそうだぜ。

 

 

「しっかし毎度宴会になると死屍累々だなぁ」

「だね、まさか艦長とボクだけが起きてるなんてね」

 

 

 気が付けばルーべがコップを片手に、こっちに来ていた。

 

 

「のむ?只の水だけど」

「貰うッス。ちょっと俺もペース速かったッスからね」

 

 

 ルーべからコップを受け取り、彼女も俺のとなりに越しかけた。

 しばらく水を飲む音と寝息だけが聞こえる。

 

 

「あれからどう?エンジンの方は?」

「ん?ああ。ウチの整備連中が頑張ってくれてさ?あれから似た様な事は起きてないッス」

「そう、それはよかった」

 

 

 俺の言葉に、満足げに頷くルーべ。

 自分の手掛けた事だけに、やはり気にはなっていたんだろうな。

 

 

「ところで、何でルーべはここに?もしかしてまだ上陸休暇中?」

「正解―――って言いたいところだけど、実はフネをクビになっちゃってね」

「ええ!なんで!?」

「ちょっ!声が大きいよ!膝の上の彼女が起きちゃうよ」

 

 

 おう、そうだった。俺は少し硬直する。

 だがチェルシーは少し身じろぎしただけで、すぐに寝息立てて寝てしまった。

 た、たくましくなってやがる・・・。

 

 

「豪快な娘だねぇ。きっと良い女になるよこの娘。良い彼女を持って幸せだね艦長」

「勘違いしてるみたいッスが、彼女とは兄妹の関係何スがね」

「うそん?それにしてはべったりに見えたけどな」

「酒のちからッスよ。酒のね」

 

 

 お酒の力にしては、随分と豪快に飲んでいた気もするが・・・まぁ気にしない。

 

 

「――とりあえず、話を戻すッスけど、原因はなんだったスか?」

「いやさ?君達を助ける時にあんまりにも解ってくれなかったから、つい・・ね?」

「あー、ぶん殴っちゃったと?」

「流石にスパナは不味かったかな?あははは」

 

 

 いや、軽く笑ってるけどさ?

下手すりゃ反乱罪とかで宇宙に放り出されても、文句は言えなかったと思うよ?

 クビで済ませてくれただけでも、ありがたいと思った方がいいじゃ・・。

 

 

「う~ん、俺達が原因っぽく感じるから罪悪感がふつふつとわいてくるッス」

「いんや、どうせ近いうちに辞めるつもりだったしね。君達の所為じゃ」

 

 

 ルーべは言いかけた言葉をひっこめると、急に悪戯っぽい目で俺を見て来た。

 な、なんや一体?俺なんかしたんかいな?

 

 

「そういや、一つ借りだって言ってくれてたよね?」

「?――ああ、そう言えばそんなことを言ったッスね」

「じゃあさ、その借りを返すって事で、ボクを君のフネに乗せてくれないかな?」

 

 

 と、ルーべはそう俺に言って来たのだった。

 

 

「借りでは乗せないッスよ」

「・・・そうか、残念「キチンと雇うから、その借りはまだ採っておくッス」え!?良いの!?」

「勿論ッス。ウチのモットーは“人格は関係無しで一流”ッスからね。時には上の人間をぶんなぐれる人間くらいじゃないと、部署は任せらんねぇッスよ」

 

 

 俺がそう答えると、心底うれしそうにガッツポーズを決めるルーべ。

 どうやら何気に本気で言って来ていたようだな。

 まぁウチのフネには伝説の機関士長トクガワさんもいるしねぇ。そりゃうれしいわ。

 

 

「やった!それじゃ改めて、ボクはルーべ・ガム・ラウだよ。よろしく!」

「よろしくッス。ちょっと待っててくれッス。ユピ」

 

 

 俺は携帯端末を取り出し、ユピテルのメインコンピューターにアクセスする。

 そして超級AIのユピを呼び出した。

 

 

【ハイ、艦長。御用ですか?】

「新しく機関士を一人追加ッス。ポジションはトクガワさんの下に頼むッスよ」

【了解、調整しておきます。あと携帯端末を用意しておきますね】

「うん、頼むッスよユピ。それじゃ」

【それではまたフネで】

 

 

 携帯端末を懐にしまう俺。これで彼女もウチのフネの一員と言う事になった。

 いやぁ良い人材を発見出来た。重畳重畳!

だけど、後でそれをトスカ姐さんに報告したら、不機嫌になったのは何でだ?

 

 

***

 

 

 さて、優秀な機関士を手に入れてから一週間、適当にこの星系を回っていた俺達。

 出てくる海賊たちは、相変わらず美味しく頂いていきました。

 だけど、実の所これ以上ぶらぶらしていられなくなってきた。

 

 

「ユーリ、そろそろジェロウ・ガンに会いに行かないと不味いとおもうよ?」

「・・・・めんどくさいけど、もう引きのばすのも限界ッスね」

 

 

 そう、実はこれまでは全部時間稼ぎだったりした。

 だって面倒臭かったんだ。俺の経験だと絶対この後なんか色々とありそうだったし。

 まだ回れる今のうちに、ここいらの星系を回っておきたかったのである。

 

 

「ま、しゃーないか・・・≪ピッ≫ストール、イネス、いるッスか?航路をガゼオンに向けて欲しいッス」

 

 

 俺は航路を担当する航海班の彼らに連絡を入れ、白鯨艦隊の針路を一路ガゼオンへと向けた。

 

…………………

 

……………

 

………

 

 

――惑星ガゼオン――

人工87億4千5百万人、大気は赤褐色のガスで覆われ1日中夕暮れの様な明るさしか無い。重力はおよそ1,2Gと高めであるが十分許容できる程度である。特産物は無いが近くのアステロイドベルトからの物資保管地となっている。

 

―――ってなデータが出て来た。

ちなみに初版は大マゼラン歴2300年だから今から大体250年前だわな。

 あってるんだろうか?ちょっとは差異があるんでねぇの?

 

 とにかく一度フネを停泊させて、ガゼオンに降り立った俺達。メンバーは俺とトスカ姐さん、それと科学班でどうしても行きたいと言っていた連中が数名と、そいつらの引率を兼ねたナージャ・ミユさんが付きそう事となった。

 

ソレと何故かイネスも付いてくる。理由は下手に俺から離れると、ユピテルの女性連合が怖いかららしい。でもだったら普通に町中をあるいてりゃ良いと思うのは俺だけか?

 

チェルシーはその他の人達との付き合いで、買い物に行くらしい。

もっともそれに付いていくのがストールと言うのが気になる。

何せねぇ・・・・二人の趣味ってガンコレクターだし・・・。

だからって折角出来た趣味をやめろなんて言えないし・・・・困ったモンだ。

 

 

 

 

 

さて、問題のジェロウ・ガンという博士の家に行きたい訳だが・・・。

 

 

「家の場所はどこッスかね~」

「んー?私は知らないよ?」

 

 

 ふむ、トスカ姐さんが知らないんじゃ仕方が無い。

 ココはとりあえず酒場に言って作戦をだな―――

 

 

「えーと、“ジェロウ・ガン研究所、セクション4軌道エレベーターより南西に40km”だって」

「へ?イネス、今なんて言ったスか?」

「いや、惑星案内にデカデカ書いてある。どうやら観光地扱いされている様だね」

 

 

 はいと言って渡されたパンフレットには、今イネスが口に出したのとほぼ同じ文句が・・・。

 そういや結構有名人だったけね。ジェロウ・ガン

 

 

「・・・・・いくッスか」

「了解、レンタカー借りてくるよ」

 

 

 内心行きたくねーとか思っていても行かない訳にも行かず。

 トスカ姐さんが借りて来たレンタカーに乗ってそのまま研究所へと向かった。

 

 郊外にあるからか交通量は少なく20分も経たない内に、目的地に付いてしまった。

 パンフにデカデカ書いてあったにしては、随分と小ぢんまりした建物が建っているだけで、他には何も無い。

 

 

「ふーん、もう少し大きい建物を想像してたんスがねぇ?」

「エピタフの研究だからねぇ。考古学に近いモノがあるから、案外それほど研究スペースはいらないのかもね」

「とりあえず入ろう。オムス中佐から連絡は言っているんだろう?」

 

 

 何故か今回付いて来ているイネスにそう急かされ、俺は研究所の門の脇に居る守衛に話しかけた。どうやら本当に話が通っていたらしく、すんなり研究所の一室へと案内された。部屋には様々なモニターやメーターがあり、いかにも解析してまっすって感じだったが、人は逆に少ない。

 

 

―――そしてその部屋の奥に一人の老人が、俺達を待っているかの如く佇んでいた。

 

 

「よく来てくれた。わしがジェロウ・ガンだ。話しはオムス中佐から聞いちょるよ」

 

 

 白髪が若干後退し、発達した前頭葉を更に大きく見せている老人がそう名乗った。

 

 

「初めましてジェロウ・ガン教授。自分は―――」

「ああ、別に自己紹介はいい。オムス中佐の方からデータを受け取っている。今話した君がユーリくんだネ?」

 

 

 ・・・・どうやら俺のデータは勝手に流出しているらしい。

 

 

「はい、自分がそうです。改めて初めまして」

「うむ。わしのことは教授でいい。ではさっそくだが、エピタフについて調べているそうだネ」

 

 

 実際はココで“そんなん調べたくねぇ~!”と叫びたいところだが、これは一応公式の場である。

 ここまで多くの手間がかかっている以上、ここでそんなことを言えば確実に俺の評判は下がる。

 

 別に俺だけなら痛くもかゆくも無いのだが、俺の評判が下がる事によって仲間たちからも見放されたら、宇宙を巡る事も難しくなる。そうなれば宇宙に出て来た意味が無くなってしまうだろう。

 俺が嫌がらせにオムス中佐に頼んだことが、気が付けばこんな事態に・・・鬱だ。

 

 

「はい。それに付いて教授のご協力を仰ごうかと・・・」

 

 

 内心の不満を極力顔に出さないようポーカーフェイスを保ちつつ、俺は教授にそう述べた。

 教授はフムと考える様な仕草をとり、黙り込む。

 しばらくして、考えがまとまったのかジェロウ教授が口を開いた。

 

 

「エピタフの調査と言うものは、検体がまず入手出来ない為に、なかなか調査が難しくてネ」

 

 

 教授はそう言うと、後手に手を組み少し苦笑した様子で話を続ける。

 

 

「そもそもエピタフの組成において、現状では4窒化珪素SI3N4に似たダイヤモンド格子が確認され―――」

 

 

 ココからは、頭から湯気が出そうなくらいの難しい講義が始まってしまった。

 もともと大学生で、こう言ったタイプの教授の話を聞き流す術に長けている俺は問題無かったが、付いてきたメンバーの中で真面目に聞いていた奴らの殆どが、頭から煙を出している。

 唯一付いていけたのは、元々その分野の研究をしていたミユさんだけだった。

 

 

「―――そこから組成活発化と何らかの条件によりStructural phase transition(ストラクチュラル・フェイズ・トランジション)及びポリクリスタル成長の可能性が導かれるのだネ。だからしてシェル・アイゾーマ法による、アブストラクションテストで見られるケイ素生物との―――」

 

 

 だが、そろそろ俺からも、頭から煙が出てきそうだ。

 しかも話しに乗ってきたのか、まだまだ終わる気配は無い。

 他の連中がトイレと言って退散する中、俺は艦長だから逃げる訳にも行かず、ジェロウ教授の専門用語飛び交う話しを聞き続けた。

 

 

………………………

 

…………………

 

……………

 

 

―――そして会話開始から1時間後。

 

 

「と言う訳じゃ、解ったかネ?」

「「「・・・・・」」」

 

 

 ゴメンなさい教授、貴方の高尚な知識は、低能な俺達には荷が重すぎです。

 途中から解らなくて、でも聞いてなくちゃいけなくて意識が飛んでます。

 

 

「つまり、この宙域に存在するデットゲート付近の惑星ムーレアと言う星に、エピタフがあったと思わしき遺跡がある。だからエピタフとデットゲートの関連性を調べる為にもムーレアへと行きたい―――と、言う訳でしょう?プロフェッサー・ジェロウ」

「うむ!そう言う事だ。そこの紫の髪の女性の言っている事であっているネ」

 

 

 俺達が黙っていると、後ろで控えていたミユさんが口を開いた。

 つーかあの説明の中で、よくそれだけ解りましたねミユさん・・・。

 

 

「つまり、自分たちはムーレアに行けば良いって事ですか?」

「うん、そう言ってくれると実にうれチいネ。まぁそう言う訳でしばらくは、わしも君のフネにやっかいになろう」

 

 

 ちぇっちぇれー、ジェロウ・ガンが一時メンバーに加わった。

 なんてファンファーレが脳内に流れた。まだ脳が煙吹いてやがる。

 

 

「―――ん?ムーレア?」

「どうしたユーリ?」

「いや、確か以前海賊を追っていて、そっちの宙域に近寄ったら、カルバライヤ宙域保安局によって宙域封鎖されてて、追い返された記憶が―――」

「あー、そんな事もあったねぇ」

 

 

 あの時は残念だった。輸送艦のポイエン級を連れたせっかくの鴨だったのに、宙域封鎖の所為で追跡を断念せざるを得なくて、しかもそいつらは宙域保安局に拿捕されちまって・・・本当にもったいなかったぜ。

 

 

「そう、ただ一つ問題点を上げるとしたら、まさにそれだネ。

海賊どもを退治せんことにはどうにもならないだろうネ」

「ふむ、なら海賊退治と洒落込む事にしまスか」

「そう言ったのはお手のモンだしねぇ」

 

 

 とりあえずの方針は決まった。まずは海賊退治じゃ。

 付いてきた連中も“狩りじゃ~、狩りじゃ~”と言っている。

 士気だけは十分みたいだな。

 

 

「それじゃ、準備が完了次第、ウチのフネに案内するッス」

「うむ、解った。・・・ところで君のその喋り方は―――」

「あはは、さっきまでのは一応他所行きって感じで、こっちが地何スよ」

「ふむ、成程。わしとしてはそっちの方が喋りやすいから好ましいネ」

 

 

 そう言っているジェロウ教授に笑みを返しつつ、準備を終えたジェロウ教授を連れて、

 俺達はジェロウ・ガン研究所を後にしたのだった。

 

 

***

 

 

 さて、ジェロウを連れて軌道エレベーターにまで来たのだが―――

 

 

≪ボカーン!!≫

「な、なんスか!?」

「ユーリ!ヘルプGの部屋から煙が!」

 

 

 ――――ココでヘルプGという存在に付いて説明しておこう。

 

 0Gと言っても、実の所成る人間はピンキリであり、様々な教養や学力、戦闘に至るまですべてを学習している軍人上がりの人間もいれば、少ない情報の中で厳しい生活から抜け出したいが為に0Gドックに登録した人間もいる。

 

 ここで重要なのは後者の人間達の事だ。0Gドックの登録では余程障害のある人間で無い限り、簡単に試験も無く登録する事が出来る。だがそう言った人間にとって0Gとは何をするのかと言う基本的な知識と言うものが欠けてしまっているのである。

 

 それを救済する為の処置として、ヘルプGと呼ばれる存在が、どの空間通商管理局の軌道エレベーターステーションに配置されているのである。このヘルプGはドロイドであるが、まだ半人前の0G達に0Gのなんたるかを教える先生の様なものであると考えてくれれば良い。

 

 こうして一応最低限の0Gとして覚えておかなくてはならない、基本的ルールやフネの事、戦闘の事、船内生活のイロハ、友達の作り方等を教わるのである。・・・最後が少しおかしいけど、ソコは気にしない様に、とにかくヘルプGとはそういう存在である。

 

 

 さて、話しを戻すが、突然の爆発音に驚きつつも、煙の出ているヘルプGのいる部屋を覗いてみた。

 もくもくとした煙の中で声が聞こえる。

 

 

「ばっかやろう!ヘルプGが壊れちまったじゃねぇか!」

「だって先輩が何でも質問していいっていうから!」

「だからって同じ質問を30回も繰り返して聞く奴があるか!とにかくずらかるぞ!」

「ま、まってー!置いてかないでせんばぁい!」

 

 

 どうやらこの騒動の犯人達らしいが、違う入口から逃げて行ったらしく顔は見れなかった。

 でも、ヘルプGがぶっ壊れたって言ってたな。俺はそのまま部屋に入った。

 

 

「コイツはまたスゲェ煙ッスね。換気装置が作動して無いッス」

「確か手動の換気スイッチが部屋の端っこにあったな」

 

 

 イネスがそう言って部屋の端っこのスイッチを押すと、瞬く間に煙が換気される。

 そして、部屋の中央の机の部分にもたれかかるようにして、ヘルプGがバチバチとショート音を響かせて倒れ伏していた。

 

 

「おい!大丈夫ッスか!?ヘルプG!」

「うぐぐ、たかが、たかが30問でへばるとは・・・寿命が来たようじゃ・・・」

 

 

 寿命って・・・アンタ機械じゃないか。

 しかし、手足もプルプルと震えさせ、容姿が爺さんの容姿なのでホントに召されそうな感じ。

 

 

「自律修復機能、17パーセントまで低下・・・再生不能・・・再生・・・不能」

「おい!おいしっかり!」

「すみヤカに代理タン当者ノ・・・ハ・ケ・・・ん・・・ヨウ・・・セイ・・・」

≪プシュウッ!≫

 

 

 ヘルプGが最後の言葉を発し終えた途端、背中の冷却装置からひときわ大きな排気音を響かせて、ヘルプGはそのまま機能を停止してしまった。

まるで今の排気が最後の呼吸だったかのように・・・。

 

 

「機能停止したようだね」

「・・・お疲れヘルプG。よく頑張った」

 

 

 機械とはいえ、個々のドロイド達には心や感情がある事を俺は知っている。

 だから機能停止したヘルプGの目のシャッターを閉じて、手を組ませて寝かせてやった。

 ここのヘルプGは知らないが、ロウズで何度か話しを聞きに行った事もある。

 これくらいの事は礼儀ってモンだろう。

 

 

「ふむ、ヘルプGが機能停止したかネ」

「教授・・・」

 

 

 俺がヘルプGを寝かせた後、ジェロウ教授が部屋に入ってきた。

 教授は部屋をグルリと見渡した後、最後にヘルプGをジッと見やる。

 

 

「ふーむ、この部屋はどうやら換気システムが悪い様だネ。恐らく排熱機構に埃がたまった所為で、ショートしてしまったんじゃろう」

「え!?」

「恐らくこのステーション設計時のミスだネ。アレだけ煙が出ていたのに、換気されて無かっただろう?」

「そう言えば・・・」

 

 

 そう言えば、かなりもくもくと煙が出ていたのにもかかわらず、換気どころか警報も鳴らないなんておかしい。ステーションは宇宙にあるから、普通こう言った事態には敏感な筈なのに・・・。

 

 

「じゃあ、このヘルプGが壊れたのって・・・」

「十中八九、この環境のせいだろうネ」

「そんな!だったらこのヘルプGは、まだ機能停止する筈じゃ無かったって事ッスか!?」

「うむ、そう言う事になるだろう。・・・・なんなら直してみるかネ?」

「え!?」

 

 

 教授はそう言うと、ヘルプGに近寄って観察する。

 胸部パネルを開くと煙が立ち上った。

中の回路を見ると、確かに埃がたまっているのが見える。

 ジェロウはソレらに触れて、少しばかり観察していたがすぐに口を開いた。

 

「うん、これならまだ間に合うネ。フネの設備を借りれば、中の記憶メモリーが消去される前に修復をする事が出来るじゃろう。どうするかネ?艦長」

「・・・・ウス、助けましょう。昔結構世話にはなった事があるッスからね」

 

 

 俺は機械は大好きという訳じゃないが、ヘルプGとかは嫌いじゃ無い。

 むしろ最初の頃に色々と教えてくれた先生みたいなもんだ。

 多少は愛着と言うのもわくと言うものである。

 

 

「ふむ、艦長は結構義理堅い性格の様だネ。ま、任せておいてくれたまえ」

「なら、我々の研究室を提供しましょう教授。その方が早い」

「ミユさん・・・」

 

 

 気が付けばミユさんも部屋に入って来ていた。彼女がそう言ってくれるのは心強い。

 何せ彼女も優秀な学者であり技術屋でもあるからだ。

 

 

「案ずるな少年。これくらいすぐに修復してやるさ。技術屋の腕にかけてな」

「そう言う事だ。さて、これを運ぶ為の荷車を持ってこようかネ」

「運ぶのは他の連中に任せるッス。とりあえず教授はユピテルに案内するッス」

「・・・・・それもそうだ。わしはまだ艦長のフネがどこにあるのか知らないからネ」

 

 そう言う訳でヘルプGの回収をウチのクルーに任せた後。

俺らはその場を後にした。あ、一応だが管理局に許可は貰ってある。

廃棄処分予定だから別段構わないと来たもんだ。ちょっとドライだけどそんなもんだろう。

そう言う訳で安心してヘルプGを回収したのであった。

 

 

***

 

 

―――ステーション内・弩級艦用ドッグ―――

 

 

「教授、これが我が白鯨艦隊旗艦、ユピテルッス」

「こ、このフネがかネ?なんと―――」

 

 

 教授をドッグに案内し、俺のフネの全体が見渡せる部屋でユピテルを見せた。

 さすがのジェロウ教授もこれには驚いたらしく、口が開いたままとなっている。

 

 

「ふーむ、小マゼランで手に入るどのフネとも異なるし、かと言って大マゼラン製には見えん。それに兵装も普通のフネと違い収納型かネ。デフレクターブレードユニットが大型化している所を見るとかなりの防御力を持つフネにも見える」

「流石は教授、するどい観察眼を持ってるッスね」

「いやいや、わしは戦艦に関しては素人だヨ。それでもあのフネの凄さは解るがネ」

「一応ネタバレしますと、元は大マゼラン製の航空戦艦ッス。それに大規模な改修を加えたのが、あのユピテルというフネッスね。詳しくは比較図を見た方が良いかも――」

 

 

 俺がそう言うと、携帯端末がピピっと鳴る。うん?なんだろう?

 携帯端末の画面を覗いてみると、添付メールが来ており、中に比較図が・・・。

 ユピの仕業だな?

 

 

「これが比較図ッス。もう殆ど原型ないッスけど」

「これはマタ随分と思いきった改造、いやさ改修だネ。下手したらフネのバランスが崩れたと言うのに、そこをうまくカバーしてある。わしはそれ以上は解らんがネ」

「あっと、そうだ。一応紹介しておくッスけど・・・ユピ」

【ハイ、艦長?お呼びですか】

 

 

 俺が呼ぶと、携帯端末のホログラム投影機を用いてユピテルのウィンドウが現れる。

 それを見て更に目を丸くさせる教授だが、すぐになんなのかに行き付いた様だ。

 

 

「驚いたネ。AI搭載型のフネだったのか。いや懐かしいネ」

【初めまして、総合統括AIユピと申します。歓迎いたしますジェロウ・ガン教授】

「おお、随分と成長が進んでるネ。ココまできっちりと感情を持っているのは初めて見たヨ」

「どうやら褒められたみたいッスよユピ。よかったッスね」

【・・・えへへ】

 

 

 この後ユピテルに対してのある程度の質問をされた。

 俺は応えられる範疇で応えて行ったが、その最中にヘルプGを再生する準備が出来たと通信が入った為、とりあえず切り上げてフネへと戻ったのであった。

 

 

Side三人称

 

――――第一工作室――――

 

「人造タンパクニューロンの保全を急げ!これ以上崩壊させると戻せなくなる!」

「う~んと、動作モーションのバージョンは・・・・え!?第2世代なの?てっきり第6世代だと思ってたのに・・・う~、これだったら違う物入れた方が早いわ」

「おいおい、今時集積回路なんて随分とレトロだな。せめて結晶回路の一つくらい使えよ」

「ボディフレームも金属疲労でボロボロだぁ。コレじゃこれ使うの無理だなぁ」

 

 ユピテルのマッドの巣にある工作室。

 そこでは何人もの人間が、たった一体のドロイドの為に、作業を進めていた。

 別に命令された訳では無く、作業室に入ったジェロウが工作機械を借りて作業を開始したら、

 何故かその場に居た人間が徐々に手伝い始め、気が付けばココに居る人間の殆どが手伝っていた。

 殆どが“なんとなく”手伝いたくなったかららしい。・・・気の良い連中だ。

 

「教授~、そのままの修復は無理ですよこれ。耐用年数オーバーとかの前に劣化が酷くて」

「おかれていた環境が劣悪だったからネ」

 

 しかし人手は集まっても、肝心のドロイドの方は本当に限界に来ていたらしい。

湿度があり埃っぽい環境において、機械はそれ用のシールをしていない場合。

著しくの耐用年数に限界が訪れるのが早くなってしまう。

 

 これは蛇足なのだが、この今作業台に寝かされているドロイド・ヘルプGの居た部屋は、

 環境整備の不備に寄って換気が働かず年中埃っぽい上に、湿気も溜まっていたらしい。

 おまけに室温も低いので、その部屋に訪れた人間からは、まるでお化け屋敷の様だったという評価まで頂いているのだ。

 

「不味いですね。記憶媒体はなんとか結晶回路の方に、バックアップが完了したのですが・・」

「ふむぅ、人造ニューロチップが劣化して一部カビているなんて見たことが無いヨ」

「どうしますジェロウ教授?一応新品のニューロチップありますよ?」

「いや、ソレを今これで接続しても、またカビが生えるだけだネ」

「それじゃどうします?」

 

 工作室で自ら手伝ってくれている作業員の一人がそう問う。

 今の所ニューロチップで形成された、人工頭脳の方は機能している。

 だがソレの働きを阻害するゴミやカビやらが、段階状構造のニューロチップを浸食していた。

 ゴミとカビをすべて取り除く事は不可能、なので今チップを変えてもカビは復活する。

 

「仕方ないネ。ちょっと古いけど、複合構造結晶回路のチップを使おう。調整が大変だが、あれなら衝撃や汚れにも強い」

 

 結晶回路とは、小さなナノマシンの集合体に寄って作られる、石の様な回路の事だ。

 ナノマシンの結合によっては、石英並の堅さになる為、衝撃等にも強い。

 ジェロウを手伝う作業員は、彼の指示に寄って結晶回路へと、ヘルプGのデータを移そうとした。

 

「不味い!教授!」

「いかんネ、今に来てニューロンネットワークの崩壊が起きるなんて!」

「短期記憶野、消去(デリート)されました。長期記憶の方も限界です!」

「ちぃ!データバックアップはまだ終わって無い!人格データが吹っ飛ぶぞ!」

「AI脳波がフラットになって行きます。このままじゃ・・・」

 

 ヘルプGは人工知性体である。だからデータさえ無事なら、ハードは選ばなくても良い。

 だが、そのデータが壊されれば、当然ヘルプGと呼ばれたドロイドは消えてしまう。

 それではココに連れて来た意味が無い。

 

「なんとかしてデータを守るヨ!マイクロマシン、ナノマシン注入!データ保全を最優先に!」

「・・・・っ!なんてこった!」

「どうしたネ!」

「教授、結晶回路と人造タンパクニューロチップとじゃ相性が悪かったみたいです。データがオーバーフローします!」

 

 どうやら結晶回路一つでは、長年の経験を積んだ人造タンパクニューロチップの記憶を、

全て修めることは、出来なかった様である。

 

「ちぃ!情報がスムーズに流れないし、ネットワーク構築が間に合わない。コレじゃデータが消える方が早い」

 

 データが消える。ソレはヘルプGの死を意味している。

 だが複合構造タイプの結晶回路には、複数を連結して使うという機能が無い。

どうすればいい?何か良い手は・・・?そう彼らが考えた瞬間。

 

 

 

「は~はははっ!お困りの様だな諸君!」

 

 

 

 バーンと音を立てて、作業室の扉が開かれた。

 そこに居たのは、何かが乗ったストレッチャーの様なモノを持っているケセイヤだった。

 シーツで隠されているが、何か大きな物が乗っているのは見てとれた。

 

「何だか知らねぇが、俺抜きでこんな面白そうな事をやりやがってズリィぞ!」

「いや班長、今はそれどころじゃ・・・」

「君、そのストレッチャーに乗せられているのは何かネ?」

 

 いきなりの乱入者にも、ジェロウは顔色一つ変えず問う。

 今はそんなことよりも、目の前の死にかけドロイドのパーソナルを守るには、どうすればいいかを考えなくてはならないからだ。

 

「あんたがジェロウ・ガンだな?話しは後でするとして、話しは聞いたぜ!コイツを使えばそのロボは助けられる!」

 

 そう言ってケセイヤはシーツを引っぺがした。

 

「こ、これは!!」

「は、班長!?まさかアンタ!」

「おーっと勘違いすんなよ?これは上から下まで人工物だぜ?」

「なに・・・まさか!?」

「そう、これなら寄り人間らしく、しかもコンピュータの機能が維持されるんだ」

「・・・・素晴らしいネ。ならこれにこう言う機能を付けるのは?」

「おおう!?―――流石は教授、俺よりも深い所に行きやがる・・・・」

 

 まわりの作業員が見守る中、ジェロウとケセイヤはお互いを見つめあった。 

 そして次の瞬間には、ガシと熱い握手を交わし、いきなり作業を開始した。

 お互いが何をすべきか解っているかの様で、今まで作業していた者たちは、

彼らが次々と出す指示に、追い付くので精いっぱいだった。

 

【・・・・ケセイヤさん】

「ん?どうしたユピ?」

 

 ケセイヤがジェロウと作業をしていると、突然フネの管理システムであるユピが話しかけて来た。

 珍しい事もあったモノだ。

何時もなら、ケセイヤが作業中は話しかけたりしないコなのだが・・・。

 

【そのボディ・・・・私でも使えますか?】

「一応システム的には問題無いし、予備体もあるが・・・ってまさか!?」

【私も、もっと色々と知りたいですし役に立ちたいのです】

 

 ユピがそう述べると、ケセイヤは何故ユピがそう思ったのかを勘で理解した。

 これまた、艦長も罪つくり無男だぜ全く。とか思いつつも、あふれ出る笑いが止まらない。

 

「・・・くぁははは!そいつはおもしれぇ!解った!この後用意してやるよ!」

【感謝します】

「――――本当に成長したAIだネ。でも面白いヨ。本当に・・・」

 

こうして、マッドの巣にて化学反応を起した二人のマッド達。

彼らにより、ヘルプG修復は飛躍的なスピードで進められるのであった・

 

 そしてユピは一体何をしようと言うのだろうか?

 ソレはまだこの時は、ケセイヤとそばで聞いていたジェロウ以外は解らなかった

 

Side out

 

***

 

「ああ、ぎもぢよがっだー」

 

 出港前にシャワーを浴び、とりあえずブリッジへと向かう俺。

 近道にとマッドの巣の近くと通りかかったのだが――

 

「ああ、艦長、ちょっと良いかね?」

「何ですか教授」

「うん、こっちこっち」

 

 そんな俺を、通路の角から顔だけを覗かせた教授が、おいでおいでと手招き中。

 俺はほいほいと教授の後を付いて行っちまったぜ。

 んで、マッドの巣区画の中にある工作室の一室へと入って行く教授。

 俺その後に続き、部屋へと入ると―――

 

「・・・・・」

「・・・・・だれ?」

 

――――全く見覚えの無い女性が1人、部屋に立っていた。作業室の人か?

 

 

「やぁ、ヘルプG改めヘルプG(ガール)こと、ヘルガじゃよー、と」

「・・・・・へ?」

 

 メガテン・・・もとい目が点になる。

 ちょいまて、ヘルプGって―――

 

「ヘルプGは男性体の筈じゃ!?」

「うん、壊れたヘルプGをケセイヤと言う男と直していたらこうなったヨ」

「ってあの男の仕業か!?というか全くの別モンじゃないッスか!?」

 

 ―――ってそうか、思い出したぞ。これはヘルプGが出るイベントじゃないか。

 でも、あれぇ?ヘルプGって・・・・。

 

「って事は、アンドロイド?・・・にしては、全然見た目人間と変わんないような?」

 

 つぎはぎが無いぞ?原作だと手はアッ○イクローで、耳にはヘッドセットが付いてた様な?

 だけど目の前のヘルプガールは、淡い紫色の髪はそのままだが、人間の女性と変わんない。

 ヘッドセットこそ付いているけど、他に機械だと思わせる様な物が無いんだけど?

 

「ケセイヤが開発していた人間に近い“電子知性妖精”なるモノの素体を利用したヨ」

「ヤツの趣味で女性体だったらしいんじゃよー、と。だからヘルガもこうなったんじゃよー、と」

「結晶回路のナノマシン結晶化現象を元にしたらしく、つまり――――」

 

 まずい!教授がウンチクを始めようとしてらっしゃる!?

 

「あ!あー、つまりはナノマシンの集合体ッスか?」

「厳密に言えば違うネ。だけどおおむねその認識でも通用するヨ。

それと見た目が人間そのものナノは、ナノクラスの極小スキンで覆われているからだヨ」

「ほーら、ヘルガは触ると暖かいんじゃよー、と」

 

 そういうとヘルプGは、俺の頭を抱きしめてその胸にうずめて来た。

 ――――ってホントや!暖かいし・・・や~らかいな~。

 

「って!息出来ないし頭しまってるしまってる!ギブギブ!!」

「おお、すまんのじゃー、と」

 

 あ、あぶねぇ、美女の胸に抱かれて死ぬつーのは、ある意味男の本望だが・・・。

 女性の胸で窒息死つーのは幾らなんでも死因が情けなさすぎるぞ。

 

「はぁ、全く驚いたッス。案外力強いんすね?」

「そりゃ見た目はこれでも、中身は純粋なる機体だからネ。人間よりも力は上だヨ」

「へぇー、見た目は華奢な女性なんスがねぇー?」

 

 ふむ、ケセイヤさんはスレンダーな女性が好きなんだろうか?

 胸が小さめのスポーツマン体形で、よくよく見ると背はあまり高く無いのね?

 

「でも、手からは瞬間的に2500度を超える液体金属、目からはビームがでるぞい?」

「装備はすべて内蔵式だから、一見しただけじゃアンドロイドと解らないだろうネ」

「つまり完全なるコンバットロイドでもあるんじゃよー、と」

 

 ・・・・ようはシャイニ○グFと目からビームも装備ッスか?

 

「しかも、表面のスキンにはレアメタルが使われているから、メーザーブラスター程度じゃ傷しかつかないネ。しかもナノマシンによる自己修復も出来るから、ある程度は整備不要だヨ」

「・・・・もうどこから突っ込めばいいか解んないッス」

 

 そして装備だけなら、タイマンで勝てそうな人間はいなさそうだ。

おかしい、何がどうしてこうなった?アレか?ケセイヤの所為なのか?!

 あの野郎の欲望がマッドと一緒となって更なるカオスを!?

 

「どうだネ?白兵戦にも役立つし、良いクルーになるとおもうんだが」

「白兵戦、もしも壊れた場合は?」

「だいじょうぶ。ヘルガが死んでもかわりはいるんじゃよー、と」

「・・・ヘルガのメンタリティはヘルプGのまま何スね」

 

 代わりってあーた。そこまで改造っつーか、新調されちまったら、もはや別機種じゃん。

 代わりなんて作れないと思うのは俺だけかい?

 

「人格が消えない様にするのは大変だったヨ。ちなみに傷を負えばある程度は修復されるが、大穴があいたりした場合は流石に自力では無理だネ。専用のメンテナンスベッドを使う事になるヨ」

「ま、引き取った手前キチンと面倒は見るッス。部署は・・・」

 

 ここでふと、彼女がアンドロイドだと言う事で俺はある事を思い付いた。

 

「ねぇ教授?」

「なにかネ?」

「彼女はアンドロイド・・・ケセイヤさんの言葉を借りると、電子知性妖精なんスよね?って事は後からデータを取り込む事も?」

「コネクタさえあれば、手から出る液体金属を入れて、どんなPCからも情報を引き出せるヨ」

 

 ほうほう、ソレは大変便利な昨日じゃないか。

 

「そうッスか・・・なら彼女はフリーに所属ッス。艦内を動き回り、手が足りないところで活躍して貰うッス。その為のデータは艦内の端末から得れば良いんスからね」

「なるほど、おもしろそうじゃなー、と。ヘルガはそれでいいよー、と」

 

 どうやら、その役職出来にいってくれたらしい。ヘルガは若干小躍りしている。

 白兵戦部署に入れても良いんだけど、なんとなくそれじゃ味気ない。

 ココは是非彼女は、某理想郷号のミーメさん的な位置づけでやって貰おう。

 なんとなくだが、主食はアルコールと見た(キラン)

 

「それじゃあ、ユピ。頼むッス」

【・・・・・】

「あれ?ユピ?・・・ユピー?おーい」

 

 いつも通り船員登録をしてしまおうと思い、ユピを呼んだのだが音沙汰無し。

 おかしいな?何時もなら返事を返してくれるのに、どうしたんかいのう?

 もしかして機嫌が悪いのか?・・・俺なんか悪いことしたかな?

 

「実は艦長にはもう一人、紹介したいクルーがいるヨ」

「ん、見て欲しい人?」

 

 ユピが返事してくれないので、どうすれば機嫌が直るかと思い考えを巡らせていると、教授がまだ誰か紹介してくれるらしい。あれ?こんなイベント原作にあったか?

 

「さぁ、いい加減隠れてないで出て来なさい」

「・・・え、えっと」

 

 おや、どうやらこの部屋にはもう一人いたらしいな。

 そう言えば、奥の戸棚の影に誰かいる様な気配を感じる。

 だけど、その人物は戸棚の影から、出てくるのを渋っているようだった。

 

「まったく、自分から頼んでおいてその姿になったのに、いざとなると恥ずかしいとはネ」

「だって、だって・・・」

「とりあえず、戸棚の影から出て来なさい。そうじゃないと話しが進まないヨ」

「でも、でも」

「あー、もうまどろっこしいッスね。一体誰何スか?」

 

 あんまりにも渋るから、俺も少し飽きた為、自分から戸棚の影を見に行った。

 恐らく隠れている人物がいる戸棚を、横から覗きこむ。

 

「キャッ!か、艦長?」

「はいはい、艦長ですよー。所でアンタ誰ッスか?」

 

 そこに居たのは、焦げ茶色の目と同じ色の長髪を、結ってポニーテイルにした少女がいた。

 年齢は19才くらいだろうか?う~ん、こんな人物記憶にないんだが・・・教授の助手か?

 

「え、えっと、ユピです」

「へぇ~、ユピッスか?ウチのAIと同じ名前だ」

「艦長、その子はそのユピだヨ。ケセイヤが持っていた電子知性妖精用素体の予備パーツで作られた娘だネ」

「へ?」

 

 教授、あんた今なんつったとですか?説明の中に信じられない様な言語が聞えた様な?

 この娘さんがウチの統括AIのユピって言いましたが・・・マジで?

 

「アンタ、マジでユピ?」

「はい、正確にはコミュニケーション用端末ですけど・・・」

「な、なしてそんなお姿に?」

「艦長の・・・いえ、クルーの人達の役に立ちたかったので、ケセイヤさんにお願いしました」

「今は無理だが、フネのIP通信の技術を用いて、恒星間クラス程度の距離ならラグ無しで動き回れるヨ」

 

 そっか、ユピの本体はこのフネの中枢AIだから、その身体は筐体って事になるのか。

 しっかし良く出来てんなぁ、なんかヘルガよりも人間っぽい?

 

「彼女は戦闘機能を持たせなかった代わりに、肌の質感やその他をほぼ人間と同じに設定してある。唯一の違いは、身体を構成している物質だけだヨ」

「へぇー、成程。おお、髪の質感まで」

「ふぇ!か、かんちょ~」

 

 すげぇと思わず好奇心で、べたべたと髪の毛を触りまくった俺。

 本当に人間の髪と全然大差ないくらいで、むしろこっちの方がやわらかいくらいだ。

だが、しばらく触っていたら、ユピが何か妙な声を上げて、若干涙目でこちらを見て来た。

 

「あ、一応言っておくが、その身体が感じた感覚はAIも感じることが出来るらしいヨ」

「って、そう言う事は速く言ってくださいッス!ごめんユピ!どこか痛かったッスか!?」

 

 教授に言われてハッとなり、慌てて髪の毛から手を放した。

 そうだよ何してんのん俺。ユピは女の子になったんだから、失礼なことしたらアカンやん。

 ココは紳士モード発動だ。俺はフェミニスト。女性には優しく!

 

「・・・ふぇ?あ、いや、そのぅ」

「ゴメンな?ついつい珍しかったから触ってたッスけど、ユピは女の子だったみたいッスからね。べたべた髪の毛を弄られるのは嫌だったッスよね?ホントにゴメンッス」

「え!?嫌、全然いやじゃなくて!?始めての感覚に戸惑っだけといいましょうか!?」

 

 何故か突然取り乱した様に、両手をふって慌てているユピ。

 なんでそんな反応?相変わらず女の子の事は良く解らん。

 でも最初は女性人格じゃなかったよな?―――ミドリさんに任せたからかな?

 

「ちょっ!もちつけ、もとい落ちつけッス」

「ユピはええ~っと!?ふ、ふえ~ん」

「な、鳴かないで欲しいッスーー!!俺に出来る事なら何でもするッスからー!!」

「な、なんでも?はわわわわ・・・」

「あわわ、余計に顔が紅く!?今度は起こらせちまったスかー!!」

「きゃ、ち、違うんですが!そのう・・・ふぇ~ん!」

「いやー!泣かないでッス~~!!!」

 

 まったく、流石はケセイヤさんが作った筐体だ。

 そん所そこいらの擬体なんかがおもちゃに見えそうなくらい、表情が豊かだぜ。

 お陰でこっちは、ユピの泣き顔を見てテンヤワンヤしてるんだけどさ!!

 

「かおすじゃなー、と。ヘルガはどうすればいいんじゃー、と」

「とりあえず、艦長は鈍感なようだネ。しばらく見ていた方が面白いヨ」

「同感じゃー、と。ヘルガは思ったじゃよー、と」

「しばらくは止まりそうもないし、すわってみようかネ。なにか呑むかネ?」

「別に呑む必要は無いけど、この身体は飲食出来るみたいだし挑戦してみよかのー、と」

 

 絶賛混乱中の俺らを放置して、すわって観戦している教授達ご老体共。

 ド畜生。年齢積んでんなら助けやがれコンチキショー!!

 

 

***

 

 

 さて、なんじゃかんじゃでまたもや仲間が増えた我が白鯨艦隊。

 ヘルガもユピも、クル-の皆には好意的に受け入れられた。

 方やスタイル抜群のややじい様言葉を使う美女、方や我らがフネのAI様。

 当然その手の女性に皆さんハートを撃ち抜かれて、何時の間にかヘルガにはFCも登場。

・・・・まぁオタクも多いんスよウチのフネ。

 

 ちなみにユピも艦内を自由に回れるフリーの所属と言う事にしておいた。

 一応便宜上の処置である。AIだから何をさせれば良いのか解らなかったというのもある。

 

でもヘルガと違い、何故か俺の行く先に付いて行きたがるのはなんでなんだろうか?

 その事をトスカ姐さんに相談したら、何故か小突かれたし・・・本当わからん。

 

 まぁとりあえずその話は置いておこう。

 俺達は現在、ムーレアへの航路を封鎖中の宙域保安局がある惑星へと向かっていた。

 ステルスモードで旅は順調、稀に勘のいい海賊に見つかるが、そいつらは美味しく頂いた。

それ以外ホント何も起きない旅に、そろそろ昼飯にしてねぇなぁとか考えていた時だった。

 

「艦長~、前方の宙域が、なんか戦闘中みたいよ~」

「戦闘中?」

 

 はて、こんな宙域で戦闘だと?コンソールを操作して映像を出せば、あらま。

 確かに海賊船艦隊とどこぞの艦隊が戦闘中である。

 俺のとなりにある副長席から身を乗り出したトスカ姐さんが、映像を覗きこんだ。

 ちょっと良い匂いがするので、俺としてはドキドキだ、顔には出さないのが俺クオリティ。

 

「ありゃカルバライヤの宙域保安局のフネだ。相手は・・・グアッシュ海賊団だね」

「でもありゃ多勢に無勢ッスね。海賊の方が数が多い」

「まぁここいらでサマラと数の多さだけで並ぶ海賊団だしねぇ」

 

 どうやら敵さんは3~4隻規模の艦隊が、複数協力しているようだ。

 全部で2~3隻の宙域保安局の艦隊だと、数が違い過ぎる。

 しっかし何でこんな所で戦闘何ぞしてるんだ?

 

「艦長、海賊と保安局のフネ以外の反応があります」

「なんだって?本当スかミドリさん?ユピ」

「了解、メインスクリーンに投影します」

 

 俺の背後に控えていたユピが、システムにアクセスして映像をメインスクリーンに出す。

 そこには一隻の民間船が海賊に接舷しようと、接近されかけている姿が映し出されていた。

ああ、成程。

 

「成程、海賊たちがお仕事中だったワケッスね」

「民間客船を襲っている真っ最中ってわけか・・・どうするユーリ?」

「とりあえず、助けてやろうとは思うッス」

「じゃ、どっちを攻撃するんだい?」

 

 今の所選択肢は2つ、海賊主力艦隊か民間船に迫る艦隊を叩くかだ。

 う~ん、どうせ民間船を護衛しても、主力がいる限り襲われるだろうし・・・。

 

「主力艦隊を攻撃しましょう。民間船は宙域保安局に任せればおk」

「了解だ。総員第一級戦闘配備!敵を全滅させるよ!!」

「「「アイアイサー!」」」

 

 トスカ姐さんから指示が飛び、あわただしくなるブリッジ内。

 艦内には戦闘を知らせるアラームが鳴り響き、各戦闘部署に人員が行き、機会に火が灯る。

 我らが白鯨艦隊はステルスモードを解き、その宙域へと姿を現した。

 

「本艦隊のステルスモード解除完了。ジェネレーターに出力、戦闘臨界まであと5秒」

「デフレクターを起動させる。ミューズ、準備はいいか?」

「ええ・・問題無いわ」

「さぁて、柄にも無いセイギノミカタを、一丁やってみますかね!」

 

 そして白鯨艦隊も戦闘に参加する。突如現れた大規模艦隊に驚く海賊と宙域保安局。

 俺達の標的が海賊船であると解ると、保安局のフネは安心したように戦いを続行し、海賊船には動揺が広がって行った。

 そして、特に苦労することなく、海賊艦隊を殲滅する事に成功したのだった。

 

「うし、主力艦はあれで最後ッスね」

「全敵の殲滅を確認・・・利用できそうなジャンクも無さそうです艦長」

「まぁ粉みじんッスからねぇ~」

 

 数十隻規模の艦隊の砲撃を浴びたのだ。海賊船なんぞひとたまりも無い。

 今回は“艦橋だけ狙え”とか“武装のみ破壊”の指示は無しだったからな。

 ストールが頑張っちゃったんだろうさ。

 

「艦長、宙域保安局のフネより、通信が入っています。どうします?」

「・・・・それじゃスクリーンに投影してくれッス、ミドリさん。一応挨拶しとかねぇとね」

 

 一応こちらが助けた形になる訳だが、ちゃんと正体をあかしとかないと海賊に間違われたら厄介だからな。

 

「了解、通信つなぎます」

『こちらカルバライヤ宙域保安局員、ウィンネル・デア・ディン三等宙尉だ。貴艦の協力に感謝する』

「ってアンタは!?」

『君たちは、もしかしてドゥボルグの酒場で出会った』

『おう?アン時の血の気の多い少年たちじゃないか?なんと少年に助けられるとは』

 

 通信に写っていたのは、ドゥボルグのジゼルマイト鉱山でクル-総出でアルバイトしていた時に、偶々酒場で乱闘騒ぎがあって、多勢に無勢だった行商人を助けようと、乱闘騒ぎに飛びこんだ後、仲裁にきた宙域保安局に所属していた二人だ。

 

 知的な感じのするウィンネルさんと、ちょっと野性味感じるイイ男のバリオさん。

 その二人が通信に写っている。なんとまぁ奇妙なところで会うもんだ。

 

『バリオ、話しが進まないから、ちょっと引っ込んでてくれ』

『え、あ!ちょっと!≪ブツン≫』

『こほん、ええと失礼した。さて放しの続きだが―――』

「こちらは白鯨艦隊です。後何かほかに手伝う事はまだ有りますか?」

 

 そう言うと彼は驚きの顔をするウィンネルさん。

 そりゃあな。俺みたいなのが白鯨艦隊の頭やってる訳だし驚くわな。

 

『≪ブン≫へぇ、お前らがあの白鯨の・・・信じらんねぇな』

 

 何故か通信を切られた筈のバリオという人も、また回線をつないできた。

 どうやら会話に参加したご様子なので、思わず苦笑してしまった。

 ウィンネルは相方の行動に溜息をつきながらも、返信をしてきた。

 

『もう大丈夫だ。とりあえず客船の被害状況の確認だけするが、改めて君達には礼が言いたい。良かったら、後ほどブラッサムの宙域保安局を訪ねてくれ』

「了解しました。通信終わり」

 

 何と丁度良い。俺達の行く星は丁度その宙域保安局がある星じゃないか。

 しかもお礼をくれると言う。是非貰いに行かなくてはなる巻いて。

 

「よし!宙域保安局へと入る為の、理由が出来たッス」

「お礼をくれるなんてねぇ。結構太っ腹なところもあるもんだ。・・・でもマタ厄介事に巻き込まれそうだねぇ」

「ガク・・・うう、考えたくない事をいわないでくらはいよ」

「あ、ごみん」

 

 はぁ、確かに俺達結構厄介事に巻き込まれるタイプだよなぁ。

 でもまぁ、余程の事が無い限り死にはしないだろう。そうなる前に逃げるし。

 とりあえず―――

 

「惑星ブラッサムへと針路変更ッス」

「「「アイサー」」」

 

 貰えるもんは貰いに行きますかねぇ。

 

 

***

 

 

「艦長、惑星ブラッサムに到着しました」

「うす、報告ご苦労さんッス。ミドリさん」

「宙域保安局か・・・また政府組織にいくのかい?」

「そうしないと、教授の行きたい星に行けないッスからね」

 

 まぁ、封鎖宙域通してもらえるかは別だけど、お礼を貰えるのだし保安局には入れる。

 そう言う訳で、俺達は惑星ブラッサムへと足を向けたのだ。

 最悪通行許可は下りなくても、海賊退治に協力したいと申し出たなら悪い様にはされない筈。

 

「ユピはどうするッス?今回は惑星に「一緒に行きたいです!」――そかそか」

「ユピも来るのかい?それじゃ酒場に連れて行って歓迎会をしなきゃなぁ。是非しよう」

「歓迎会ッスか?良いッスねぇ」

 

 歓迎会か。一応フネの中で、合同でやった事は何度かあるな。

 今回はユピとヘルガが加わった訳だし、ちょうど惑星に降りる訳だしな。

 丁度良いかも知れないッス。

 

「それじゃ酒場の一室を貸し切りにするかねぇ。ユピ!」

「は、はい!」

「予約取っといてくれる?」

「わかりましたー!」

 

 そして俺は昭和のコントバリに、イスからずり落ちた。

 おいおい、歓迎会の主賓が予約する歓迎会って何さ?

 

「さぁて、楽しくなりそうだね」

「・・・・酒場行く前に、仕事済ませてからッスよ?」

「わかってるさ!・・・ふふ、お酒お酒」

「トスカさん、よだれよだれ」

 

 タダ酒となると、途端元気になるんだから。しょうがないなぁトスカ姐さんは。

 

 トスカ姐さんの嬉しそうな様子に苦笑しつつも、接舷準備を進める俺たちだった。

 

………………………………

 

…………………………

 

……………………

 

―――惑星ブラッサム・宙域保安局門前―――

 

 

 さてさて、教授やユピやその他大勢を引き連れて、やってまいりました宙域保安局。この宙域を取り締まる警察兼軍みたいな組織である。門前に着いたのは良いが、目つきの鋭いいかにも軍人って感じの怖いオジさん達が、目を光らせて見張っていらっしゃるので、俺はちょい及び腰。

 

「――って誰か口論してるッスね」

「あいつは、あのバリオとかいう軍人じゃないか?」

 

 ふと見れば、門前で口論中の人がいる。

 片方はついこの間見かけたばかりのバリオさんであった。

 

「いいじゃねぇか。もうそんなこたぁ言ってられない状況だろうが!」

「海賊退治はお前たちの領分だろう。我々が勝手に手を出す訳にはいかん!」

「だ~か~ら~!ちょっと回してくれりゃいいんだって。良いじゃねぇか減るもんじゃなしに」

「減るんだよ!確実に!戦力が!・・・たく、もうお前とは話してられん。もう行くぞ」

「けっ、だからバハロスの連中はいやなんだ。勝手にしやがれ!コンチクショー!」

 

 そういってプリプリ怒りながら、建物へともどって行くバリオさん。

 なんだったんだろうかねぇ?今の口論は?

 

「なんだってんでしょ~ね?」

「さ~てね。色々あるんだよ、色々」

「片方の方はバハロスの防衛軍の人でしょうか?」

「それこそこっちが考えても仕方ない事だよ、ユピ。そう言った事は迂闊に首を突っ込まないものさ」

 

 ま、なんか近々海賊狩りの作戦でもあるんだろうさ。その為の戦力が欲しいんだろう。

 グアッシュ海賊団は、本当に運かの如く大軍だったからね。戦力はいくらあっても良い。

 

「んじゃ、とりあえず入りますか?」

「そだね」

「了解で~す」

 

 俺はトスカ姐さんとユピを引き連れて、建物へと入った。

 中に入ると、受付ですぐに一室へと案内される。

 そこにはウィンネル宙尉達とその他が、俺達を待っていた。

 

「君たちか、よく来てくれた。改めてウィンネル・デア・ディンだ」

「バリオ・ジル・バリオ、ヨロシク」

「そして我々の上司の―――」

 

 彼がそう言って顔を向けた先には、深い皺を眉間に寄せた生粋の軍人っぽい人間がたっていた。その人物はウィンネルさんの視線を感じたのか、顔を上げてこちらに意識を向ける。

 どうやら何か案件を抱えていたようだな。随分と疲労の色が出ているようだ。

 

「シーバット・イグ・ノーズニ等宙佐だ。部下への協力に、私からも感謝する」

「いいえ、偶々通りかかっただけですよ」

「だからこそだ。今時海賊に立ち向かう連中はめっきり減った。君達のように通りすがりに助けてくれる人間なんて、殆どいない」

「はは、改かぶり過ぎですよ」

 

 まぁこっちはなんとなく助けただけだしなぁ。

 実を言うと最近戦闘して無かったからストールのストレスがマッハでピンチだったのもある。

 お陰でヤツのストレス発散の所為で、海賊船が木端微塵。ジャンクが殆ど取れなかったんだわさ。

 

「――まぁソレはさて置き、実はお願いがあるのですが」

「ほう何だね?」

 

 とりあえず本題を切りだそうとしたところ、俺よりも先に後ろから声が上がる。

 

「ムーレアへの通行を許可して欲しいんだヨ。わしの研究のためにナ」

「ん・・・ジェロウ・ガン教授!?」

 

 教授が他の人間を押しのけて、前へとやってきた。

 長年研究者をしている彼からは、研究者としての探究心が抑えきれんとばかりの表情である。

 

「まさか、貴方も彼らのフネに?」

「うむ、わしの研究に協力してくれるそうなんでネ。他にも色々と面白いのだヨ。彼らは」

「な、成程」

 

 やはり教授はその筋では有名なのだろう。シーバット宙佐は驚きで目を見開いていた。

 普段はケセイヤさん達マッド衆と、怪しい研究に精を出していると言う爺さんなのにな。

 

「しかし、ムーレアの周辺には“くもの巣”と呼ばれる小惑星帯がありまして」

 

 宙佐がいうには、そのくもの巣と呼ばれる場所が、グアッシュ海賊団の根城何だそうな。

 何度か排除しようとしたモノの、相手の方が勢力が大きく、駆除しきれない。

 現状では人手不足なのがたたり、宙域を封鎖するので精いっぱいだったのだ。

 

 故に被害を出さない為にも、その宙域の航行は認められないと拒否された。

 こちらとしては、その宙域の先にムーレアの航路があるのだから、どちらにしても引き下がれない。議論は水平線を辿るかに見えた。だが――

 

「良いじゃないですか、宙佐。丁度良いから彼らに協力を頼みましょうよ」

「彼らに?まさか例の計画にか?」

 

 え?計画?なんかやな予感。

 

「ええ、彼らの戦力は強大です。ザクロワの連中にも、ツラは割れて無いですしね」

「何言ってるんだ、バリオ。民間人をそんな事に巻き込むなんて無茶すぎる」

「しょうがねぇだろう?バハロスの連中も当てにならねぇんだ。そんなに時間も無い」

「う・・・」

 

 いや、そこで引き下がるなよウィンネルさん!って何こっち見て思案顔してるんスか!?

 そんな時折呟くように『彼らの戦力なら』とか不吉なこと言わないでください!

 すさまじく、俺の中の嫌な予感メーターがドンドンハネ上がっていくのを感じる。

すると、突然メーターが振り切りを見せた。そしてシーバット宙佐が口を開く。

 

「一つ聞きたいが・・・現在グアッシュ海賊団の戦力はバカに出来ないモノとなっている。この状況を許可したとして、君たちは自力でムーレアまで行けるのかね?」

「?元よりそのつもりですが?」

 

 何を当たり前のことを聞いてくるのだろうか?

 俺達のフネは普通のフネと違うから、そこいらのフネが護衛に来ても邪魔なだけである。

 宙佐はその答えを聞き、さらに思案顔になって皺を深くする。

 

「・・・・そうか、ならばよかろう。私から許可を出しておくよ」

「宙佐!良いんスかソレで!?」

「仕方有るまい。それに私も民間人を巻き込むのは好かんよ」

 

 ほっ、どうやら何かの計画に巻き込まれるのは阻止されたようである。

 つーか宙佐ってかなりの人格者?この世界じゃ珍しい類の人間だなオイ。

 

「ユーリ君だったかな?気をつけて行きたまえ。あとくれぐれも無茶しない様に」

「了解です。協力感謝します宙佐殿」

 

 それだけ言うと、俺たちはさっさとこの場を後にした。

 でも計画ねぇ?何なのかがちょっち気になるなぁ・・・。

 

 さてさて、とりあえずムーレアへの通行許可は貰えたので、後は休息のお時間だ。

 クルー達は思い思いに散っていき・・・何故か酒場に集まっていた。

みんなユピとヘルガの歓迎会をしたいんだそうな。

 

まぁ集まれたのは、全体の六分の一にも満たない数しか無い。それでも酒場の一番大きい部屋の定員一杯の人数であり、事前に何時の間にか作られていた歓迎会への参加チケットは、艦内でも人気が高く、高額で取引されていたくらいである。

 

 またチケットを巡ってケンカが起きかけた為に、艦内レクリエーションでチケット争奪戦が勃発しており、生活班、戦闘班、整備班問わず様々な人間が参加し、残し数十枚のチケットを巡っての闘いが行われていたらしい。

 

 尚、俺がその事を知ったのは、宙域保安局を出てからであり、つまり俺達がいない、経ったの数時間の間におきた出来ごとだったのだ。まったくバカと言うか何と言うか。愛すべき素晴らしくもアホなクルー達だよホント。

 

 ちなみにケセイヤさんは最初から参加予定だった癖に、何故か争奪戦に参加しチケットを入手、それを高額で転売しようとしたため、販売元から絞められたらしい。ちなみにその歓迎会チケットの販売元はナージャ・ミユさんであり、ソレで得た利益は研究費へと回されたらしい。

ホント抜け目ねぇな。

 

 そしてここに参加している連中は、全員そのチケット争奪戦を勝ち抜いた猛者たちである。

 凄いのは、それだけの争奪戦だった癖に、男女半々の班員も均等に参加という、ある意味奇跡に近い数字となっている事だろう。どんだけお祭り好きなんだウチのクルー達は・・・。

 

 

―――そして、ユピ達を連れた俺達主要クルーも、予約した酒場へと到着した。

 

 

「おお!主賓達のご到着だぜ。部屋はこっちですぜ!さぁ行きましょう!お~い、みんな!」

 

「「「先におっ始めてま~す!」」」

 

「「「ゆっくりしていってね!」」」

 

 

 クル-の一人が俺達一行を見つけて、貸し切りにした酒場の一室へと案内してくれた。

 既に歓迎会と言う名の宴会が始まっている。みんなお祭り騒ぎは大好きだモンな。

 下手に堅っ苦しくない俺達流の歓迎会って感じだろう。

 

 一応俺が艦隊で一番偉い為、主賓席の一番近い席へと座らされ、主要クルー達もそれぞれ主賓席にほど近い場所に座っている。でも何故にチェルシーの席が俺のとなりに来てるんだ?そこにはストールが来る予定だったのに、突然席換えを希望してきた上、チェルシーを見てカタカタ震えていた。

どうしよう、なんとなく想像が付いちまった。

後で何かでねぎらっておかないと・・・。

 

 

「トーロ艦長!乾杯のおんどおねがいしま~す!」

 

「え!ったくしゃ~ねぇ~な。おいマイク貸せ!」

 

「ほいどうぞ!」

 

 

 主要メンバーも来たと言う事で、実際には既に始まっていたが、改めて乾杯の音頭を取って欲しいと、アバリスのクル-に推薦され、トーロが前に出てきた。若干恥ずかしいのか照れている。

 

 

「あ~、俺は難しいことは言わねぇ!今日は歓迎会だ!大いに騒いで新しい仲間が加わった事を祝おうじゃねぇか!!ヘルガ!ユピ!ようこそ我らが白鯨艦隊に!!カンパ~イ!!」

 

「「「「「「「「「かんぱ~~~~~~~~~いっ!!!!!!!!」」」」」」」」」

 

 

 そして大合唱の如く、部屋の中で乾杯の声が上がったのだった。

その後はみんな思い思いに呑み始め、仲間内が良いのか適度に同じ系統のグループを形成していた。俺は俺で、適当に少し飲んだ後、それぞれのグループを回る事にしたのだった。

 

 

***

 

―――マッドグループ―――

 

 

 さて、最初に来たのはサナダ、ミユ、ケセイヤのマッド三人衆+ジェロウのマッドのグループのところだ。なんとなく近かったから、先にこっちに来た。特に他意は無い。

でもどうやら何かについて話し合っているようなので、すこし聞き耳を立ててみた。

 

 

「つまりはシェキナみたいなHLとかのエネルギー系の火器だけじゃ不安だと?」

 

「そう言う事だネ。この先もしかしたらAPFSが非常に強力なフネも出るかも知れない」

 

「成程、一理あるな。ミサイルも数えるほどしか積んでいない訳だし・・・ふむ、なぁケセイヤ」

 

「なんだよサナダ?」

 

「ユピテルがアバリスにレールキャノンを搭載出来ないか?」

 

「う~ん、着けるとなれば徹底的な大改造が必要になるぜ?あと問題もあるよなミユさん?」

 

「ああ、レールガン系は距離が開くとどうしても命中率が下がってしまう。それに実体弾だから弾切れも起こるし、砲身の冷却機能がキチンと作動しないと、砲身ごと融解する事もありうる」

 

「資料で見させてもらったVBクラスの小型キャノンならともかく、戦艦用の大型キャノンだと、命中率の問題が出てくるのがネックだネ。だけど、一考する価値はあると、わしは思うヨ」

 

「ふむ、とりあえず科学班は設計をしてみよう。教授も手伝ってもらえませんか?」

 

「いいよ。わしが言いだしっぺだからネ。たまには息抜きがてら考えるのも一興だヨ」

 

「それじゃ、設計はサナダにまかせっとしてだ。ミユさん、新しく入った情報何だが――」

 

「「「「ケンケンガクガクウマウマシカシカ」」」」

 

 

 は?斥力場を?…エネルギー縮退?…相転移理論?・・・・何のことか全然解らん。

 ダメダこりゃ、素人は会話の中の入れないぞ。しばらく放置するしか無いな。

 別に学が無いわけじゃないんだが、流石に専門的過ぎて連中の会話についていけねぇよ。つか酒の席で話す内容じゃねぇ。仕方なしに、この場を後にするしか無かった。

 

 

―――生活班グループ―――

 

 さて、こちらは白鯨艦隊の屋台骨を支える生活班の人が集まっているグループ。

 さっきのマッド連中と違い、その会話の内容は、比較的ホンワカとしたのんびりとした内容のモノが多い。戦闘とは直接関係が無い部署だからかもしれないな。

 もっとも、戦闘中でも彼らは雑務を止めることが無いから、日常こそが戦場何だろうけど。

 

 

「ん~、やっぱり発泡酒系には、腸詰が合うねぇ」

 

「お姉ちゃん、おじさん臭いよ~。そんなんじゃ貰い手がいなくなるよ~?」

 

「生意気言うはこの口かい~?ほれビヨ~ンと」

 

「いらい!いらいよ~!」

 

 

 エコーさんとアコーさんが仲睦まじくしてるねぇ。

 まぁ二人は姉妹だし、一緒に居てもおかしくは無いな。

 

 

「ほら、もっと呑みなよエコー」

 

「お姉ちゃ~ん、私そんなに飲めないよー」

 

「あ゛あ゛?あたしの酒が飲めないってか?」

 

「ひーん、のみますー」

 

 

 ・・・・・どうやらアコーさんは酔い始めているらしい。ここは近づかないのがグッドだ。

巻き込まれたらどうなるか解らんからな。俺は音を立てずに、静かにその場を後にする。後ろから“もうむり~”と聞えたけど、キニシナイコトニシタ。

大丈夫、最近の薬は二日酔いに超効果ありだから、サド先生に処方してもらえばいいよ。

 

 

―――さて、この後も色んな所を回る。機関室系や整備班、砲雷班のとこも見て回った。

 

 

 それにしても、トクガワ機関長いつのまにSYOUGIなんてゲーム持ちこんだんだろう?

何時の間にかソレの対戦でトトカルチョが成立してるし・・・もっとも親の総取りみたいだったけど・・・トスカ姐さんスゲェ儲けだろうなぁ。

 

 

「か、艦長!」

 

「ん?あ~ユピッスか。どう?楽しんでるッス?」

 

 

 最近宴会で恒例となっている、イケ面連中の裸踊りを見て爆笑していると、本日の主賓の一人から声を掛けられた。どうやらそれなりに呑んでいるらしい。顔にほのかに朱がさしている。

 となり良いですかと言われ、良いと答えたので、彼女がとなりに座った。今日は彼女の歓迎会でもあるので、俺が酌をしてやると、恐縮されてしまったぜ。

 

まぁ一応この艦隊のトップだし、AIの命令優先兼のトップだもんなぁ俺。

 そんな相手からお酌されれば、そりゃ恐縮位するか。

 

 

「はいはい、いまは宴会、無礼講ッス。スマイルスマイル!」

 

「え!?は、はい!スマイルですね!に、にぱ」

 

「いやいや、笑顔作れって訳じゃないんスけど・・・まま一杯」

 

「こ、これはどうも」

 

 

 まぁ無礼講と言ったって、すぐには難しいだろうなぁ。

 ・・・・・向うで何人もの酒飲みを沈めているルーべと対決中のヘルガと違って。

 あ、そう言えば――

 

 

「どうスか?身体を持って、酒を飲んで騒ぐという体験は?面白いッスか?」

 

「はい、ソレはもう。今まで解らなかった経験が、ドンドン詰まれていきます」

 

「ふんふん、成程。それも良い勉強スね」

 

「それと、なんかお酒を飲むとフラフラするんですね。皆さんが飲みたがるのも解ります。この感覚はなかなか気持ちのいいモノがありますし」

 

 

 ・・・・・・ケセイヤさん、どんだけ凄いの作ってんだ?酒に酔えるロボなんて、それどこのドラえ○ん?それともアナ○イザー?どちらにしても相当凄いシステムだろう。酒飲んだ時の快感を機械に体験させられるとかどうなのよ?

 

 

「ま、ほどほどにッスね。飲み過ぎると、二日酔いという恐ろしい病気が待っているッス」

 

「二日酔いですか?」

 

「ユピが掛かるかは微妙ッスがね。人間だとマジでヤバい。思考が定まらなくなるッス。そして頭痛も地味に辛い。まぁ簡単に言えば仕事能力の低下ってとこッスかね」

 

「それは怖いです。気をつけます」

 

「それに、フネが二日酔いとか洒落になんねっスからね」

 

「くすくす、なんですか?それ」

 

 

 ユピは笑っているが、俺としては冗談じゃない話だ。

 艦長の判断能力の低下、それ程恐ろしいもんはない。

 だから俺なんて絶対に二日酔いになるまで呑まない。

 ・・・・お陰でちょいと詰らないのだが、まぁ致し方なし。

 

 

「それじゃ、新しい仲間に」

 

「乾杯」

 

≪カチン≫

 

 

 グラスを傾け、新たな仲間を祝して乾杯したのであった。

 

 

「あ、あそこで二人だけで飲んでるんじゃよー、と」

 

「「「「「何だと!?」」」」」

 

「行くぞお前らじゃよー、と!」

 

「「「「「おうよ!!」」」」」

 

≪どどどどどどどどどどどどどどど!!!≫

 

「ちょっ!お前らくんな!やめい!」

 

「そ、そのてにもったジョッキはなんですかー!!!」

 

 

ブリッジクルーは元より、その他のグループからも沢山人が押し寄せる。

 その姿に遠慮は見えない。絆によってつながれた家族であり仲間。ソレが俺達だ。

 だけど―――

 

 

「「「「もっと呑めや艦長―――!!」」」」

 

「もうむりじゃーーーーー!!!」

 

 

―――無理やり酒を飲ますのは勘弁して欲しいぜい!

 

 

***

 

 

「あ゛ぁぁぁぁ・・・あたまイテェ」

 

「調子にのってのみ過ぎだよユーリ。ホレ薬」

 

「いや、のまされたって感じなんスが・・・あんがとっス」

 

 

 さて、歓迎会が終わった後日、俺達はガゼオン経由の航路へと戻り、一路ムーレアを目指してブラッサムを後にしていた。若干頭が痛いが、二日酔いの薬のお陰ですぐに収まることだろう。

 そして、航路を進み、現在宙域封鎖が為されていた航路を進んでいるのである。

 

 

「艦長、宙域封鎖地点に到達しました」

 

「さて、あの宙佐が約束を守るのか見物だね」

 

「守るんじゃないッスか?じゃなかったら、強行突破するだけッスけど・・・」

 

「・・・・まだ酒が抜けて無いね。政府連中と争うと後が面倒だよ?」

 

「解ってるッス。う~ん、速いとこアルコール抜けて欲しい」

 

 

 ちなみにユピはあんまり影響は出ていない。

やっぱ機械だけあって薬物耐性は高いちゅうかなんて言うか・・・。

 どちらにしても特に問題無く、俺の後ろに控えております。

 

 

「宙域保安局のフネから入電“ハナシハ キイテイル ソノママ トオラレタシ”以上です」

 

「通信じゃなくて電文ねぇ?以前の警告は通信だった癖に、古風と言うかなんて言うか」

 

「まぁ様式美みたいなもんでしょうけど、とりあえずお言葉に甘えるッスね」

 

「前衛艦隊、封鎖宙域を通過します」

 

 

 宙域保安局の艦隊が上下に移動し、道を開けて貰えたので、我が白鯨艦隊はそのまま通過する。

 ふむ、規模的には数十隻程度の艦隊か・・・しっかし考えてみると、これだけ数があっても、海賊の流出を防ぎきれていないってワケ何だよな。少しは警戒した方が良いかもしれないな。

 

 

「総員、半舷休息を取りつつも、コンディションイエローを発令。警戒を怠らないようにするッス!」

 

「「「アイアイサー」」」

 

 

 ココからは、普段のカルバライヤ航路よりも敵が出るだろう。

 俺は警戒を厳にすることを指示し、そのまま艦を進ませたのだった。

 


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