リナの星間貿易異聞録   作:ayasaki

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現場は見たことないのであくまでも想像です。
そして大真面目だからこそ、対岸の火事と思えればギャグにもなるのだ。
多分私もテンションおかしい。何で半日で完成するのさ!?


現場は死屍累々

 ここはゲーム制作現場。

 そこには夢と希望と楽しさをお客に伝えるために、日々想像力を働かせ、その想像力を形にするプログラム開発をする者たちの集団だ。

 そして、そのプログラムが思い通りになっているか制作過程を何度も見直す。

 次に制作過程の中で、客観的事実と評価をしながら、また最初から煮詰めなおしながら制作を重ねていく。 

 そして制作が終わりを迎えそうになれば、想像していなかった出来事を修正しながら完成へ向ける制作者達の戦場。

 しかし今制作者達は中々目途が立たない修羅場の中をひた走っていた。

「うあああああ、またバグ発見したー!」

「よくやったこの馬鹿! またかよこの馬鹿! そのバグ出た時の状況報告しろこの馬鹿!」

 バグを見つけるテスト担当は大事だし、プログラムを修正するほうにとっても助かるのだが仕事が増やされるので、既に数徹しているプログラマーたちは最早錯乱状態である。

「うっせえうっせえうっせええわ! お前ステージ全ての場所でジャンプし続けてバグ確認してみろや!」

 テスト担当も錯乱していた。テストするのだから普通にプレイする訳でなく、想定外なプレイをするプレイヤーがいても、問題無く遊べるようにするのは大事である。

 であれば、ゲームプレイ中にどんな遊び方をしても支障がないようにする為には、テスト担当が様々なテストプレイをしてみて問題が起こらないようにしなければならない。

 プログラマーがどんなに完璧と思えるようなプログラムを作成したとしても、その膨大すぎるプログラムはどこかで綻びを見せてしまうのだ。

 しかも、その綻びは実際には目に見えず、あくまでもプレイしなければわからない。

 つまりはこういうことである。

 移動できる範囲には全て移動し、敵が出てきたら必ず故意に失敗して接触判定が機能しているか、時間切れがあるならどんな状況でも必ず時間切れが発生するようにする。

 障害物が設定されていれば、その障害物にきちんとぶつかるように機能しているか。

 パワーアップアイテムを手に入れた瞬間や、敵にぶつかってもラグも無く、きちんと正常な反応をプログラムがしてくれるか?

 そして敵は敵で、想定した動きをしてくれて適度な難易度調整によってプレイヤーが楽しんでクリア出来るようになっているか?

 等々、他にも多岐に渡って数百・数千・数万単位のテストプレイが必要になるのだ。

 だが、それだけ入念なテストプレイをしていても、バグは見つかってプレイヤーからネタにされているのが現状だ。

 しかし、これでも現代はテストプレイが楽になった方である。

 それはインターネットがあるから、発売後に致命的なバグが見つかれば修正データをアップデートすれば、プレイする人達に一斉にデータ更新という名目があるからだ。

 だからテストプレイは大事だが、最悪ユーザーからの報告によってバグを発見してもらうという手段が、インターネットによって可能になっている。

 これはゲーム制作する人にとっては非常に助かる事であり、現代では当たり前になっている方法だ。

 なので、ファミコム・スーファムなどのインターネットが無かった時代のテストプレイなど、ネットが当たり前になった若手には想像つかなかったであろう激務。

 それを現在若手は体験している。

「いいか。マルデアで買ってくれた人達のソフトにバグが見つかったら、それは一生付き合う内容になっちまうんだ。

 最悪ソフトの回収に返金・無償交換も考えないといけねえ。

 そうなっちまえばガレリーナ社の会社だけじゃねえ。地球の名誉にもかかわってくる。

 そして、それが切っ掛けで星間貿易が滞っちまえば、明るい未来が無くなる可能性があるんだ。

 その為にもここで全てのバグを見つけなきゃいけねえ。

 過重労働? 体調管理? 法律順守や労働基準監督署?

 上等じゃああああ! 文句は受け付けるし、それが正当な権利なんは認めるが、その前に仕事完璧に仕上げろやああああ!」

 制作者達を纏める責任者も疲労困憊になっていて、テンションがおかしい状況だった。

「……懐かしいなあ、この雰囲気」

 そんな台詞を言いながら、制作部屋に入ってきたのは昔は現場で働いていたが、今は会社の経営陣である取締役だった。

「と、取締役!」

 テンションがおかしくても、さすがに上司が来たので責任者はすぐに席を立つ。

「ああ、気にしないでくれといっても気にしてしまうだろう。

 だが皆頑張ってくれてありがとう。しかし完成させる為にも、もうひと踏ん張りよろしく頼む。

 先程彼が言っていた通り、星間貿易は本当にとても大事な事業になっているんだ」

 取締役が頭を下げる。

 制作陣からすれば普段関わる事のない程の上司に頭を下げられては、意見を上げられる訳もない。

「だが疲れすぎていては効率も悪くなる。時間も時間だ。

 皆、食事を用意したから良ければ休憩してはどうだい?」

「しかし納期を考えれば一刻も早く完成させないといけません。まだ時間はありますがマスターアップした途端にバグを発見することもしばしばなのですから」

「承知している。だからこそ休憩を提案している。君も4徹しているし、他の者も幾日も家に帰れてないものもいる。

 だが星間貿易がそれ以上に重要事項な為に、皆頑張ってくれているのも理解している。

 だから少しの休憩さえも出来にくくなってないか?

 なので業務命令として言わせてもらう。今すぐ皆休憩しなさい。食事をし仮眠を取り、一時帰宅も許可する。

 各自に送迎タクシーもこちらで用意するので、体調を万全にして戻ってきなさい。

 またソフト完成後にはいつもより多い臨時ボーナスも用意するので期待しておきなさい」

【うおおおおおおおおおお!! 取締役最高!!!】

「よ、よろしいのですか?」

 現場責任者としては嬉しい言葉である。何憚ることも無く体を休める事が出来て、尚且つ懐も温かくなる。しかも会社経営陣直々の言葉であれば、労働者にとっては水戸黄門の印籠みたいなものだ。

「普段のソフト制作より過酷な現場状況にさせていることは重々承知しているからな。

 納期と完成度は見過ごせんが、それ以外についてはこちらが全て責任を持つ。

 君の立場も理解している。だから私がここに来て仕切らせてもらったんだ」

 肩の荷が少しだが降りていく。

 ならばお言葉に甘えさせてもらおう。

「それと特別に食堂に整体師も連れてきている。食後は順々に揉み解してもらって、素人判断による体調管理も無いようにしておく。

 だから安心して休みたまえ」

 上げ膳据え膳の至れり尽くせりである。

 ある意味星間貿易様様だ。

「特別扱いしている自覚はあるが、他にもソフトに関わっている部署は軒並み休ませているしな」

「そうなんですか?」

 安心感で気が緩んできた責任者。そのせいで頭の回転はのんびりしてきている。

 余裕もくそも無い状況だったので、他の部署の状況なんて考えてる暇も無かったからだ。

「そりゃあそうだ。いくら制作していたソフトとはいえ、マルデア用にデザインしなおすとなると、マルデア語にすればフォントが変わるから、見栄えの問題は最初からやり直し。

 ダウンロード購入なんて無いんだから、現物で販売する以上は制作素材は大量に用意しないといかん。

 今はゲームソフトの中に操作説明やあらすじだとか入れているが、それは今時のゲームを知ってるから通じるだろう?

 チュートリアルで全ての操作をプレイヤーが全員出来るようになるなら、説明書なんていると思うかね?

 つまり昔ながらのやり方である説明書をマルデア語で作成し、誰が見ても一発で理解できるように制作。

 他にも宣伝方法で今時のネット動画やCMは不可能。

 つまり販売先でお客が一瞬で魅力的に思えるほどにするなら、ポスターが一番わかりやすい。

 あと、体験版とて現物で用意しなければいかん。

 そして全ての作業で一切の妥協は許されない。リナ嬢にソフトを受け渡してマルデアに持って行ってしまえば最早修正は不可能なのだからな。

 しかもオールスターは各メーカーが一堂に介して、協力して作り上げているんだ」

 自分の作業だけで手一杯だった責任者は、聞けば聞くほどげんなりしてきた。

 つまり会社全体が修羅場になっていて、経営陣は経営陣で他メーカーと意見を纏めるのに喧々諤々の言葉の大乱闘で苦労しているのが理解できたのだ。

「……それにな、ゲーム機本体も製造しているnikkendoなんてもっと凄い事になってるんだ」

 よく見ると、取締役も隈が出来て、やつれていた。

「輸出されたゲームソフトで既にスウィッツで遊べるのはあるのはいい。

 だがダウンロード販売されてないソフトもあったのが問題だ。

 そのせいで今すぐスウィッツで遊べるようにしろ。何で売ってないんだ。おま国か? 地球の客は大事じゃないのかとかで問い合わせが世界中から殺到してるらしい。

 後、昔のゲーム機とソフトが無いと遊べないのは、もう転売ヤーの群がりがとんでもないそうだ。

 ファミコム版・スーファム版ではバグが残っているが、今ダウンロード販売しているのはきっちり修正されているから、その違いも体験したいからって、想定していなかった業務も加わってしっちゃかめっちゃかだよ。

 他にも訳の分からん業務や古いプログラムだから、当時作成した人じゃないと理解できないスパゲッティプログラムが入ったゲームもあるから、とっくに引退したプログラマー達を呼び戻したりなあ」

「うわああ」

 考えるだけでも恐ろしい事になっている状況だ。

「他にも世界中から注目されてるから株価が上がるのはいいが、急激に上がったら上がったで知らんうちに経営陣の株保有率がおかしくなってて、上層部が慌てて収拾したりな。

 あと、スウィッツ製造の為に大量の人員雇って、生産現場がてんてこ舞いだそうだ。

 急激に人員が増えれば増える程、それを取りまとめる人材をすぐに育成出来る訳も無し。

 それに古いソフトだと著作権や権利問題がややこしくなってるのもある。

 つまりnikkendoが雇っている法律関連の就労者は、今後も輸出する可能性があるゲームソフトの権利を誰が握っていて、とっくに解散している会社の状況や人員も調べないといかん。

 そうして綺麗にまとめて因果関係がこじれないようにしておかないと、後で訴訟問題にもなりかねんのだよ。

 さすがに、その時代のソフトが現代でそこまで盛り上がるとは想定してなかっただろう?

 しかし、今後星間貿易で注目してないソフトが輸出品目に入るかもしれない。

 ……昔は今と比べたら、ゲームソフトの本数は本当に宝くじみたいだったんだ。三ヶ月も有れば制作出来たし、少人数で開発も可能。

 でも売れた時代だから、ある意味一攫千金みたいにもなったし、実際それで財を築いた企業もある。

 だが当時は売れなかったのに、後で何が切っ掛けで続編作ることもあればリメイクしたり流行によってプレミアが付いたりする場合もある。

 グッズ関連でもとっくに製造終了してるのだってあるから、慌てて会社の倉庫をひっくり返して金型やデータとして保存しておらず適当にしていた取扱説明書を探してるそうだ。

 PCに頼り過ぎた弊害だな。

 ……つまりな、ゲーム業界に関わるところは潤ってるが、その本体から販売されたソフトが多い企業ほど修羅場になってるんだ」

「今ほど俺はソフトだけに集中できてよかったと思えました」

 世界中から注目されて、政府や国連から資金提供もされて優遇もされ、さぞ儲かっているだろうなと思っていたが、その代わりにとんでもない爆弾を抱えながら終わりなき修羅場を走り抜けているのが理解できた。

 サニーやミツクロは今のnikkendoの苦労を理解しているだろうか?

 いや対岸の火事でもあるから、今は自分とこの本体から出たソフト関連の処理くらいかもしれない。

「ちなみにこれは他言無用にしといてくれ。

 今は星間貿易のおかげでゲームに対して肯定的な意見が多いんだ。

 だからゲーム制作に携わる人員には結構な優遇措置もされているんだ。

 多少の優遇ならともかく、政府が直々に特別待遇にする程の内容だ。

 だから下手に平等主義者とかに知られたら、炎上する可能性があるほどだ」

「……なるほど、そういうことですか」

「だからすまんが過酷な労働にさせるが、その分きっちり報いるようにするので頼んだよ」

 つまり、確実に食えて普段の給料では味わえないほどの美味しい人参を用意するし体のケアもするから、いつもよりやる気をだして働けと言う事である。

 責任者はちょっと現実逃避したくなった。

 とりあえず取締役が用意してくれた、お高いご飯を食べよう。

 整体師に存分に揉んでもらって、王様気分も味わおう。

 そしてタクシーで送り迎えされてる間に、後部座席で仮眠を取り、帰宅したら布団でちゃんと寝よう。

 その後の仕事はその時考えよう。

 ああ、ゲーム制作は悲喜こもごも。しかし、自分達のゲームが世界の希望の一助となり得るのだ。

 その為に制作者達は今日もゲーム制作という戦場で戦い続ける。

 でもゲームによる星間貿易は万歳。

 仕事があるのは嬉しい限りである。

 だが制作が終わって落ち着いたら、家族を連れて超豪華な温泉旅行に行こう。

 こんな職場だから、帰れない日々があることは理解されてるが家族サービスは大事である。

 その後も人気ソフトを作ってきた我が社だから、定期的に修羅場を潜り抜けなければいけない事を想定しないといけないが、今はお空のかなたに放り投げさせてもらいたい。




ファミコン版ドラクエ2はたった7ヶ月で制作したのは有名です。
納期は殆ど延ばされることなく、制作現場はマジで地獄絵図だったそうな。
24時間働けますか? ビジネスマ~ン。
うるせえええ! こちとら一か月以上家に帰らず職場で寝泊まりしてらあああ!

制作するゲーム会社の頑張りのおかげで私達はゲーム楽しんでます。
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