どれも必要なのに矛盾してて、だけどそれが人間の世界と理解しても分からなくなる。
移動中の間に、魔石を確認しながら取り出していく。
「大使、私達は大使が現地入りしたら避難先に緊急用縮小ボックスを届けに行きます」
「了解です。
私とフェルは飛びますから、なにかあればご連絡ください」
支給されたスマホと無線通信機を確認する。
その間にも被害状況が刻々と変化しながら伝わってくる。
どう動けばいいだろうか。
台風・火山・チタルム川の時はすべきことが明白だったから、迷いなく一点集中できた。
だけど地震だと被害が広範囲だし、既に発生した状況だから現状把握が難しい。
同時に迷ってる時間も無い。
災害発生後の72時間が人命救助のリミットと言うが、それはあくまでもリミットであり助けられる可能性があるというだけだ。
でも私一人だけじゃないけど、私とフェルの動きは重要性が高い。
土砂崩れがもし発生しそうと判断されたら、そちらへの対処が最優先となる。
だけど、道を応急処置すれば救助隊の動きが滑らかになって、全体の動きが良くなるだろう。
それに下手すれば高層ビルが倒れそうになっているかもしれない。
もしそちらが倒壊したら二次災害で、更なる被害となるに違いない。
既に私の中で一つの結論が出ているが、それをしていいのか……だ。
「……事後承諾になっちゃうよね」
「リナ?」
考え込む私を訝しんで、フェルが声を掛けてくれる。
だけど、やらなければ後悔するに違いないし、やったとしてもどこまで救えるかは分からないだろう。
でも地球にいる人たち皆の努力の結晶を勝手に使って、結果はどうなるか?
この決断は怖い。
だとしても、私ひとりじゃ手が足りないんだ。
「……この魔石が入った縮小ボックスを現地で救助を行っている人達に渡してください」
「え?」
「使い方はただ魔石を意識しながら、なるべく具体的に願う事。
私が使うより消費量は多いでしょうが、より多くの対処が可能になるはずです」
「大使!?」
指揮担当の人が面食らうが、有用性はすぐに理解してくれる。
でも魔石という、現在の地球における希少性で難を示す。
「……魔石はまた持ってこれます。
でもこれを使えば今助けられる命がある。
ですが、私だけじゃ手が足りません。被害は広範囲でこの間にも失われるものがあります」
言っている自分でも声が震える。
自己判断で地球に渡すはずだった貴重な資産を使う。
それはチタルム川の時の判断とは違う。
私が使う分については了承済みでも、救助側が使用することには許可が下りないかもしれない。
「……すぐに政府と国連に救助活動のために使用許可申請を行いますが許可は出ないでしょう。
その上で大使。あえて言わせていただきます。
その魔石は受け取れません」
指揮担当の人は私を真剣に見つめて言う。
「確かにこれまでの実績を見る限り、魔石を使った事のない我々でもある程度の役には立つでしょう。
ですが、その効果は地球人が使うに対しては未知数です。
今まで触れたことも無く、知識もない我々では、現場で使用した時に何があるか分からないのです。
申し訳ありませんが、いくら大使の実績があれども我々では救助活動におけることで未知数となることに責任が持てないのです」
その言葉に一瞬言い返しそうになる。
「大使。そのお気持ちはとても嬉しいです。
でも、それは我々地球人にとっては容易に使う訳にはいかないのです。
今の世の中において、魔石は世界中から欲されています。
ですが、国連という世界的な連盟が保持するからこそ、秩序は成り立っているということを覚えておいてください」
そこまで聞いた時、私はどうすればいいか分からなくなる。
でも地球では私が持ってくるしかない上に消耗品である以上、安易に使用できるわけがない。
だけど人の命が懸かっている。
「大使のお気持ちを無下にして申し訳ありません。
でも貴方は人として間違っておりません」
頭を下げる指揮担当の人に、私は浅慮で感情のままに言ってしまったと理解する。
この人は私の立場も考えたうえで断ったのだから。
「すみません」
どう言えばいいか分からず、謝罪の言葉だけが出てくる。
「いえ。こちらこそ大使の厚意を無下にしました。
本音で言えば使わせてもらいたいですが、人命が懸かっている以上、安易な使用も出来ないのです」
あう。情けないところを見せてしまったなあ。
少ししょげてしまって顔をうつむかせてしまう。
すると後頭部に感触があったので、確認してみると、フェルが私の頭を撫でていた。
「リナ。いい子いい子」
「フェル?」
「凹んだ時はこうやって慰めるんじゃろ?」
そんなフェルの行動に私はびっくりする。
「……ありがと」
本当にうまく言えないけど、フェルに励まされたことが嬉しい。
「大使、現地にもう少しで到着します」
その瞬間、この場所にいる人達全員の意識が引き締まる。
私は魔石を改めて確認する。
状況次第で、どれほどの魔石を使用するかは分からないが、そんな事気にしながら救助はしていられない。
目の前で起こっている天災後による被害を少しでも減らそう。
そう考えていると、到着した現場でいくつもの火災発生による黒煙が見えてくる。
「大使この場所が一番被害状況が酷いところです。
まずは火災の鎮火。そして交通場所で妨げになっている建物をなるべく時間をかけずに救助車などが通れるようにしていただきたいです。
そうすれば救助活動における様々な点で、必要な時間が稼げます。
他にもしていただきたい事は山ほどありますが、その二つが解決するだけでかなりの動員数が効率的に動けます」
「了解です。
では、行ってきます」
「いくどー」
そうして席を立った私とフェルは、ヘリから魔法を使って飛び降りる。
まずは輸送機から取り出した魔石を空中にばら撒いて、同時に魔力を発動して魔法陣を作りあげる。
『願う。我が眼前で燃え広がる火を求めん』
そこから町中に魔法陣を中心にして魔石を拡散させていく。
火災時には信じられないほどの熱量が燃え盛る。ならそれを魔法で認識して鎮火先を設定。
また二酸化炭素の大量発生と酸素を大量消費しているかどうか。
それらの条件に当てはまる場所を組み込み、私は魔法を発動する。
『願う。大火となって灰燼に帰そうとするものをおさめん』
魔石を使った魔法陣で魔力の循環を効率的に行う。
同時に体への負担を減らし、魔力切れまでの制限を延ばす。
『願う。不要なる災害を消去せん!』
詠唱を終えた瞬間、魔法陣から放たれた魔力が町中に散らばっていく。
いける。
もしかしたらまだ燃え盛る可能性がある下火はあるかもしれないが、黒煙を上げているところは目に見えて黒煙の量が減っている。
でも、まだ油断しない。
火が消えても、倒壊した建物や道路の陥没も、私の目でさえ確認が出来ている。
その場所を直せば、他の人達が一秒でも速く現場にたどり着けて、救助活動が出来る。
そして消化中の間、私は魔力を常に放出し続けて新たな煙が上がってこない事を確認していく。
「大使、こちらの熱探知機と管制塔から目立った火災の消化を確認できました。
ですが、他地域で土砂崩れの可能性が報告されたので、最優先で対処お願いいたします」
ヘリから拡声器を使って、私に伝えられる内容。
「了解しました!
すぐに現地に移動します」
修復作業に入ろうと思ったが、意識を切り替えて私とフェルは土砂崩れの場所へ飛んで移動するのだった。
間違うことも大事という癖に、実際に間違えたら何故そうなったかも聞かずに無責任な他人が罵る世の中。
だから綺麗な物が世の中にあるんだって思わなきゃ生きていけない。