忍の末裔が呪術師になるようです   作:H-13

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陰陽・後編

僕、千葉巡。昨日新幹線で京都から東京に帰ってきたのに、今日京都に向かってます。

 

「真希さん、俺昨日この新幹線乗ってたんだけど……。」

 

「ごちゃごちゃ抜かすな。クソジジイも了承した。なら出来るだけ早く試すのが当たり前だ。」

 

京都のお土産を京都に向かう新幹線で食べる。なんかの罰ゲームかと思いつつも、彼女にはそれだけ大事な事なのだと考えを少しばかり改める。

 

先に連絡をしておいたからか、駅に着けば迎えの車が来ていた。高級車なのだろう車に運転手と三人。会話も無くそのまま昨日門を出たばかりの場所に降ろされた。

 

門の前で深く頭を下げる一人の女。顔を上げれば昨日顔を合わせた真依だった。

 

「昨日ぶりだね。」

 

「……当主がお待ちです。」

 

「ちょっと待てよ真依、お前も一緒に行くんだぜ?お前も無関係じゃねぇ。」

 

「出て行ったと思ったら我が物顔で帰ってきて……なんで置いてったりしたの!」

 

「あ"?ここに居ると反吐が出る。お前も分かってるだろ。もうここは腐り切ってんだよ。」

 

「話聞いた限り、直毘人さんがちょっと例外だってよく分かったよ。」

 

「ジジイも例外なく禪院だ。」

 

「それでもだよ。真希さんと真依さん自体を完全には否定してない人だと思うけどな。」

 

「まぁ良い、今日成功すれば私も真依もこんな所に縛り付けられるような雑魚じゃ無くなる。だろ?巡。」

 

「現状からの推測と色々調べた上での予想ですよ?」

 

「可能性あるんならいいじゃねぇか。……ジジイ!入るぞ!」

 

襖を乱暴に開いた先に胡座をかいているのは昨日知り合ったばかりの直毘人さん。まだ昼前なのになんで酒臭さ昨日と同じなの?内臓大丈夫?

 

その下座にもう1人、知らない顔が腰を下ろしていた。刀を左側に置いたまま、表情の読めぬ狐目で此方を見遣る者の名前を聞こうとするも、先に真希さんから答えが降ってきた。

 

「何で居んだよ、親父。」

 

「俺が呼んだ。」

 

直毘人さんがそれに続く。肌を撫でる空気にひりつく嫌な感じが混じっているが故に廊下から部屋に入るのは遠慮しておこうと、足はそのままに直毘人さんに声を掛ける。

 

「昨日ぶりですね、直毘人さん。」

 

「ブッハッハ!婿になりに来たか?」

 

「いや連絡しましたよね?」

 

「用が終わったら飯と酒でもやって行け。用意させてある。……無論真希と真依にもな。」

 

「少し広いところありますか。狭いところだと建物壊しそうですから。」

 

決定事項なんだろうなぁ。と思いながら、場所の移動を申し出た。案内された場所は池や橋まである広大な中庭。これならば、問題無い。

 

『闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え』

 

丁度、自分含めて五人を包み込む帳を降ろした後に、瞳を切り替える。

 

「お主、その眼は……!」

 

「御三家当主なら名前くらいは知ってても可笑しくない……か?」

 

「眉唾の噂みたいなものであったがな。」

 

「真希さん、真依さん。その辺にならんで下さい。直毘人さんと真希さんの父さんはそのままで。巻き込まれないようにして下さいね。」

 

身体に呪力を巡らせた後に眼に力を込めれば骨が顕現する。ゆっくりゆっくりと膨大な呪力を一つの形に押し込めるのを見せつけて行けば、本命の剣が使える第二段階までの形成が終了する。

 

「今から、2人の繋がりを斬り捨てます。初めてやりますから成功するか分かりませんけど、身体に傷などは付きませんから。心配なら目を瞑っていてくれても構いません。」

 

そう言えば、怯えを含んでいた真依さんが目を閉じ、真希さんが笑ってじっと須佐能乎を見ている。その姿を見ればやっぱりそうなんだな、と微笑みそうになる。

 

さて。写輪眼。万華鏡写輪眼。普通なら見えないモノを視ることの出来る2つの魔眼。

 

それをもってしても、2人のつながりは曖昧にしか判断出来ない。1度試しに剣を二人の間に振り下ろしてみたが無駄に終わった。

 

一息、ふた息。もっと深く。もっと広く。呪力に解釈を。目に呪力を。

 

いつの間にか両目から血涙を流していた。限界稼働を続けている証でもあり、相応の痛みが眼底に響く様に頭に伝わって来る。

 

「巡!」

 

真希さんが叫ぶものの、片手で制する。もう少し、もう少し。――見えた

 

一度眼に焼き付けてしまえば後は簡単なモノ。するりと天叢雲剣の切っ先が因果を断ち切り、不完全な1つの土塊が漸く2つの輝く玉へと変わる瞬間が訪れる。

 

「何、これ……。」

 

「ッ……!巡!最高だ!」

 

須佐能乎を解除して荒く息を吐き出しながら万華鏡写輪眼を写輪眼へと変化させる。右目抑えながら左目で2人の変化を見ると、良い方に転んだと確証が持てる。

 

真希さんは海。深海。何処まで行っても深く惹き付けられるような漆黒。何処まで行こうと呪力を感じず、その代わり生物としての格が上がった。その様なイメージを直に叩きつけられる。

 

真依さんは光。弱々しいものでは既に無く、溢れ出る呪力に戸惑っている様子である。今ならば長距離ミサイルを作ったところで余裕がある様に見える。それ程の躍進。故に溢れ出てきて仕方ない。呪力量は……二級以上。掌握してしまえば一級クラスにもなれるだろう。

 

「ブッハッハッハッハ!良かろう真希!お前の望み通り当主候補に加えてやる。真依、お前もだ。して、巡。お主がうちはの末裔だったとはな。」

 

「五条先生は写輪眼も知らないみたいでしたけど、直毘人さんよく知ってましたね。」

 

「俺も知ったのは偶然よ。闇でも紅く光る瞳に比類ない瞳術。そして特異な属性術式。そのふたつがあるのだ、疑いの欠片も無かろう。」

 

「何だお前、苗字隠してたのか。」

 

「うちは一族自体は400年位前に色々あって滅んでるよ。苗字を変えて細々と血筋を繋いできた、って親父に教わった。実家はそこら辺だと大きいみたいだったし細々かは分からないけどね。」

 

「ちば、うちは。なるほどな。だから家紋が扇か。」

 

「多分ね。」

 

三人の様子を忌々しげに一歩引いた位置から見るのは扇である。兄がいきなり当主の座をよく分からない外来の呪術師。それも学生に開け渡そうとしているのを聞いて怒り心頭でこの場に居た。

 

だがどうだ。先程見せたのは一部だろう。兄が云うには他にもある様に聞こえる。落ちこぼれの、ゴミにも等しい我が汚点を見事本来の姿へと戻して見せた。

 

排除しようとしたところであれでは、無理だ。そう思ってしまうほどに見せつけられた須佐能乎は圧倒的だった。あれで二級だと聞く。此方は特別一級だぞ、と微かに震える指先で鞘に手を添え鍔に親指を掛けた。然し、何も出来ず項垂れた。今ではない。いつか。いつか。立場を脅かす此奴も、我が汚点も。排除すると。

 

 

いつの間にか真希さんのお父さん居なくなってるのに気がついたのは目から流れる血が止まり、食事の席に通された時のことだった。

 

まだ未成年だと言っても聞かず。日本酒を注がれた盃を無理やり渡されてしまった。ちびっと飲んでみるも水の方が美味しいのではないかと云う、中々大人向けの味に顔を顰めて水を口直しにがぶ飲みする。

 

「それで、今直ぐには決めないという方向性でいいのだな?」

 

「学生に全財産押し付けようとする老人になんで頷かなきゃいけないんですか。遠いんですよ東京から京都。」

 

「ブッハッハ。まぁ良い。真希も満更ではさそうだしな。あと十年は居座るつもりだ。それまでに決めておけ。」

 

「黙れクソジジイ!」

 

「ブッハッハッハッハ!!」

 

はっきりと言い当てられて思わず立ち上がる真希の耳は根元から真っ赤である。

 

巡からしてみれば眼から血を流すのは初めてでは無い。須佐能乎や月読。限界を迎えそれを超える力を生み出す時は大抵溢れ出してくる。それを目の前でやっていなかっただけである。

 

真希からしてみれば、タオルを目に押し当て看病みたいなモノをしている時から気が気では無かった。今までに感じたことの無い全能感に酔いながらも、向上した五感にて万華鏡写輪眼から写輪眼に切り替えた場面をみて瞬時に悟った。私達の為に無理をしたと。

 

同級生、されど他人。文句を言いつつも確りと自分をそのままの自分に見てくれて動いてくれた人に惚れない方が少ないだろう。

 

真依からしてみればほぼほぼ初対面。真希の様に交流も無く、今日だって流れの様に連れていかれ。怖い巨人の前で震えていただけ。扇の様にかなり引いた位置にいた訳では無いが、三人の蚊帳の中には入れなかった。……然し、明確な感謝は確りと心の中に灯った。

 

「……ありがとうございました。」

 

そう、2人が車に乗って帰る時に、小さく言うしか無かったが。

 

 

 

「ったく、心配させんな。」

 

「初めての経験だったから何処まで観ればいいか分からなくてね。ごめん。……それで、直毘人さんが言ってたけど……本当?」

 

「チッ……ぐ、ぅ……。はぁー、本当だよ。たく。ジジイの思い通りになってる様で納得いかないけどよ、そういう事だ。」

 

「そういうことじゃ無くてちゃんと口に出してほしいな〜?」

 

「馬鹿目隠しと似た様な雰囲気出すんじゃねぇよ。……好きだよ。……これで良いだろ!」

 

「はいはい。よく出来ました。」

 

 

からからと笑いながらそっぽ向いてしまった彼女の頭撫でれば、ビクっと肩震わせた後に叩き落とされた。

 

「そんな余裕たらたらなテメェはどうなんだ、巡。私に恥かかせたんだぞ。」

 

「直毘人さんから言われてずっと真希さんについて考えてたんだよね。短めだけどずっと一緒に居て、2人でも任務に行ったりしたけど……思ったよりお似合いなんじゃ無いかな、俺達。あ、料理とか家事はちゃんと出来るからね。安心して?」

 

「そんな心配してんじゃねぇんだよ。」

 

「そっか。」

 

肩とんとん、ってやった後に拳向けたら流し目でこっち見た後に拳合わせてくれた。

 

「改めて、よろしくね、真希さん?」

 

「真希でいいだろが。わざと付けてるだろ。」

 

 

 

帰ったら五条先生が苦い顔して真希のことを見てたり、お土産ないのか茶化してきたり、関係性が変わった事察知してニマニマしたりと八面顔が見れて楽しかったけど、最初に出した顔はなんだったんだろうか。




というわけで真希真衣姉妹の覚醒回でした。ついでに真希さんがヒロインになりました。やったね。
禪院家の当主候補に姉妹+巡がログインしました。巡は真希さんとくっついて婿に入ると自動的に直毘人さんがどっちかを当主に据えようとしてます。禪院家当主endRTAはやりません。よろしくお願いします。

評価感想諸々貰えるとやる気倍増します。難産だと更新頻度低めにはなりますがストックの概念ないので許してください。

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