忍の末裔が呪術師になるようです   作:H-13

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前触れ

一年にあそこまで啖呵を切ったのだ。二年が成長しなければメンツが保てない。

 

反転術式。一足先に憂太が習得し、家入さんと同じくアウトプット出来るようにすらなっていたのは中々驚きだった。

 

フライパン返しのようにひゅーん、ひょい。ウィンガーディアム・レヴィオーサかよ。

 

現状一切役に立っていない家入さんのアドバイスにそんな文句をぶつくさ言いながら、コインを裏返す様なイメージを持たせて何度も身体に呪力を流す。

 

なんでも大抵の事はこなせていたからか、出来ない自分に対して苛立つ。

 

「道具の持ち運びかぁ。」

 

パンダの気の抜けた声が聞こえる。

 

「禪院先輩は……」

 

「私は巡が居るからな。」

 

真希の視線を感じたから、一旦練習を辞めて皆の方へと体を向ける。多少の汗と喉の乾きを感じたので、実演にはちょうど良いと眼を万華鏡に切り替える。

 

ぎゅるり。空間がねじ曲がりタオルとペットボトルに入ったお茶が巡の手元に落ちてくる。ついでに2本、三本と地面に突き立てるようにして呪具を倉庫から放出して行く。

 

「俺は例外。術式拡張でもなんでも無くこの目の固有能力になるからな。真希の呪具も一通りは入っている。単独任務の時は一つで大体は済むようにメイン武器として特級呪具を持たせているが、基本的には2本は手持ちだろうな。」

 

瓢摩に、遊雲。どちらも1本で大抵の呪霊なら事足りる規格外のモノ。それらが眼の能力による異空間に収納されている。真希は気分によって使い分けていたりする。

 

真希は片手で大刀や薙刀を全力で振り回したところでなんの支障も無い程度のフィジカルを持っている。だからこそ、こなせる事である。両手を開ける前提ならばこの回答だけでは足りない。

 

「影の中に倉庫は作れるか?ノーリスクでは無理だろうが拡張術式の範囲内だと思うけどな。」

 

「ちょっと、やってみます。」

 

恵が影を掌の下に作りそれを維持。そのまま手を入れるような動作をすれば地面に指先が沈んでいた。

 

「何とかなるかもしれません。」

 

 

 

_________________

 

 

「じゃ、行ってくるね。ぱっぱと片してくるからゆっくり待っててよ。」

 

「うっス。気をつけてくれッすよ?今日は一級案件なんですから。」

 

補助監督は新田明。説明された今回の祓う対象は田舎の地縛霊だ。一種の土地神になって呪いを振り撒いてしまった肥大化した呪い。

 

軽く手を上げて返事をすれば、もう道ですらない山奥にわけ行って入って行く。既に帳は下ろされているので、瞳を闇夜でも良く輝く紅へ変える。

 

目指すは壊れかけた社だ。呪力を視る眼は濃ゆい瘴気の様な呪いの塊を確りと捉えている。そして何故か少し離れた場所にある懐かしい気配も。例えるならば田舎の裏山で対面していたモノ達。

 

呪術師として活動し始めてからあの山がどれだけ異質な場所だったかがよく分かった。澱んだ雰囲気など無く、姿形も自然の動物をしっかりそのまま形創ったモノ達だった。故に対面していてもストレス等は感じず、言ってしまえば稽古をつけてもらったような清々しい気持ちになっていたもの。断じて呪を吐き続ける化生などでは無かった。

 

膨れた顔にボロボロの袈裟、腐りかけの坊主頭。即身仏になり切れなかった僧侶の成れの果て。口からはお経と共にこの世への怨みや言葉に為らぬナニカがとうとうと吐き出されて行く。

 

その呪霊の頭が突如として握り潰される。原因は分かっている。片腕を布で覆い、人間ならば目がある場所に木の枝を生やした人型の呪霊。明らかに一級の呪霊とは格が違う上に、説明された呪霊は今さっき祓われてしまった。

 

「ずっと視えてたけど、何者?」

 

「『それが写輪眼ですか。私は花御。千葉巡、貴方に会いに来ました。』」

 

脳ミソに直接響く意志のような何か。ただ確りと意味は分かる。彼?彼女?の口からは意味不明な音が漏れ出ているだけなのに。

 

明らかな特級案件。それも予定に無い乱入という中々無い形。眼を万華鏡写輪眼に切り替え、間髪入れずに身体を骨で包み込む。

 

「『戦いに来たのではありません、人の子よ。勧誘に、話し合いに来たのです。』」

 

そんな戯れ言を言っている合間に須佐能乎は完成する。帳が降りている上に人が住むことの無い田舎の山奥。明さんに早く戻ると言った手前とっとと祓って帰りたい。

 

「懐かしい感じだけど見た事ないし、俺の行動知ってて来たんだろ?なら敵だ。きっちり祓って終わらせてやるさ。」

 

振り払うは天叢雲剣。木々を切り払う軌道で振られたにも関わらず、すり抜けるようにして花御に迫る。少し遅れて巡自身が右手を手刀の様に振るう。呼び起こされるのは暴風を一つに纏めあげた風遁の一太刀。

 

『風遁・草薙剣』

 

微妙にズレた軌跡を辿る不可視の斬撃は天叢雲剣と違い全てを切断しながら花御へと繰り出された。剣を躱した花御の両脚を片方は膝下、片方は膝上から抵抗も無く切り落とし、ついでの如くボロい社すら切り飛ばしてしまう。

 

「『ァ"あ"!……私と貴方は似ていると!夏油はそう言ったのです!だから会いに来た!』」

 

『火遁・迦具土神剣』

 

天羽々斬剣に圧縮した火遁を纏わせる。木には火。機動力を奪い、燃やし尽くす。その作戦も呪霊の一言でギリギリ首筋を切り飛ばさんと炎が迫った段階でピタリと止められる。

 

「なんで去年死んだ夏油傑の名前が出てくる。ソイツは五条先生が殺しているはずだ。嘘か?嘘だな。もっとマシな嘘を吐くんだな。」

 

「『……嘘など!袈裟で、長髪。額に縫い目がある呪霊操術の男です!縛って頂いても構いません!』」

 

「一点だけ違うな。……だが、待てよ。呪霊を操れるんだから死体くらい操れても……だけど授業で呪術師は解剖に回されて……?」

 

事前情報が自分1人では完結しない。須佐能乎と術式を維持したまま思考を回す。呪霊の皮膚が黒く焦げてきているがそんなこと知った事では無い。首から上だけ持って帰るか?と物騒な案が浮かんでは絵面がヤバいので却下した。

 

_____ズ ガ ッ"!!!!

 

右脇腹。須佐能乎のその位置が蹴り砕かれる。呪力を感じない、こんな感じは真希しか知らない。飛び蹴りの要領で何者かが奇襲を仕掛けてきた。おかっぱ頭に全身緑の繋ぎ?の様な服装。男か女か分からない仮面を被った抽象的な人物。

 

須佐能乎ごと浮かされて退かされたのは初めての事。警戒心を釣り上げて花御といった呪霊の元に歩いて行った呪霊を見る。

 

「花御っちボロボロじゃん。うっけるーw」

 

「『円居、助かりました。』」

 

まとい、ね。呼び方だけは把握した。手加減は無い。情報は不足気味ではあるが十分。呪霊は祓い呪詛師は殺す。左目から久しぶりに瓢摩を取り出せば須佐能乎の破壊された部分を再構築して前へ――!

 

「花御っちは撤退してなねー。うちは足止め!行っくぞ~……ッ!!」

 

円居の身体から緑のオーラが噴き出す。呪力でも無く、自然エネルギーでも無い。先程の奇襲の倍はあるスピード。それ程の加速を以て真正面から須佐能乎を拳で打ち砕く。よく見れば肌は紅潮し、血の巡りが常人のモノでは無くなっている。

 

『八門遁甲』

 

円居 海が呪力と引き換えに得たモノはこの技。体内に特殊なリミッターを8つ設け、それを開く事による八段階の身体能力の限界突破。現在円居が開いているのは五門までである。

 

写輪眼の驚異的な動体視力の強化と先読みで無ければ一瞬にして蹴り飛ばされ敗北しているだろう。全力で呪力を纏う。真希にすら劣らぬ体術に特級呪具。須佐能乎を操作する余裕も無く先ずそのレンジではない。万華鏡写輪眼のまま冷静に一手一手処理しつつ幻術をかけるタイミングを伺って――

 

『月読』

 

右眼に呪力集めて彼女の瞳を捉え――られず、不発。一瞬、ほんのコンマすらかかっていないラグがこの勝敗を分ける。真後ろに回り込まれ、そのまま胴体を捕まれた。バックドロップを決めようとしてくる。

 

タダでは殺られない。瞬時に首から頭にかけて須佐能乎の骨を纏わせて地面とのクッションに。僅かに驚いた顔をする彼女の顔面には、瓢摩を叩きつけようと不格好な格好で腕だけの力で振るう。

 

一瞬にして距離を取る円居。今しかない。目を閉じたまま瞬時に輪廻眼に瞳を切り替えて――

 

『領域展かッ……逃げたか。……チッ!」

 

領域の範囲外に移動されそのまま行方を眩まされた。彼女には今までに無い敗北を味合わされた。苛立ち収まらぬがそれよりも情報が大事だ。走って車へと戻れば、何時もと違う雰囲気と泥で汚れた服に驚かれるも軽く躱し、高専へ飛ばしてもらった。

 

 

巡が手に入れた情報が高専各位に伝えられた数日後、五条先生が襲撃されたと情報が入る。ここまでされたらもう確定したことがある。内通者。それもかなりの権力者側。

 

もうすぐ交流会もあるのだ、未登録の特級がそんなにぽんぽんと出てこられても困る。そして、五条先生も確認した花御の存在。そして夏油傑の身体を使うナニカ。徒党を組んで居るとしたら厄介極まりない。故にこうなるのは当たり前の事か。

 

千葉巡、交流会への参加見送り。教師と共に待機せよ。

 

と。




オリキャラ紹介コーナー
円居 海(まとい かい)
緑のぴっちりした服を着て仮面をしている女(声と体格で判明)
呪力では無く身体エネルギーを扱えるように天与呪縛によってなった異端中の異端。使用可能な八門遁甲は無論八門まで開放可能。メロンパンが結構前に見つけて来た。呪霊は見えないし祓えない代わりに対呪術師としてメロンパンは手元に置いている。
花御が見えるのは仮面のおかげ。これが無いと呪霊は見えないし認識できない。

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