ガンダムビルドリンカーズ   作:繊月ライラ

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色恋は、人を惹きつけるもの

……翌日、土曜日。

 

 

(……もうすぐ、約束の時間……!私、変じゃないよね……?)

 

 

午前10時頃、N-FLAGを初めて訪れた(1話後編の)時と同じ市の駅前にアオイの姿はあった。

陶器が名産品のこの市の駅には、巨大な陶器の壺らしきもの(ケースの説明書きによれば水差しらしい)が入口前に展示されており、アオイ達はその前を待ち合わせ場所としていた。

 

 

「すまない、待たせてしまったかな」

 

 

ここ最近で聞き慣れてきた声が聞こえ、アオイが顔を向けるとそこにはユウヤが居た。

白地に青の差し色のウインドブレーカーにストレッチジーンズ、スニーカーと言った出で立ちだ。

デートにはどうかと思われるかもしれないが、ユウヤはファッションにも興味は無いためオシャレなものを積極的に買うことは無い。

昨夜のイナホの奮闘虚しく、何時も外での撮影スポット探しに自転車で駆け回る際の組み合わせとなった。

散々言ったが、爽やかさとスタイリッシュさはあり悪くは無い。

 

 

「ううん……今来たところだから」

 

 

ベタな返しをするアオイは……爽やかな青色のジャケットに、胸元にスカーフリボンを結んだシンプルな白のブラウス、ふんわりとした紺のフリル付きスカートに、白いタイツと編み上げショートブーツと言う出で立ち。

小物を入れる白い上品な鞄を下げている。

……何処かのお嬢様かと言いたくなる様な可憐さで、誰が見ても解る程にめちゃくちゃ気合いが入っている。

ついでにナチュラルメイクも施してある。

 

 

「服も化粧も前と違うな……やっぱりアオイは綺麗だな」

 

「え、えへへ……ありがとう」

 

 

褒められて満更ではないアオイ。

服装はアオイの私物だが、メイクの方は実は昨夜のアケミ作のを見て対抗心を燃やしたアオイ母が施したものだったりする。

 

 

「おっと、もうそろそろ電車が来るかな?」

 

「そうだね……行こう」

 

 

 

……

 

 

 

「これから向かうのは……この駅までだと、ナゴヤドームか?」

 

「そうだね。“ドームフロントベース”って言うくらいだしね」

 

「ドームフロント、そういう事か……成程。久しぶりのナゴヤドームだな……」

 

「行ったことはあるんだ」

 

「ああ。小学生の頃にな。次世代、ワールド……?とかいうイベントの時に、1回だけ」

 

「もしかして、次世代ワールドホビーフェアかな……?」

 

 

ガタゴトと電車に揺られる2人。

電車特有の長椅子に並んで座り、和気藹々と会話を交わしている。

 

それを……隣の車両から、覗く影があった。

 

 

(今んとこ粗相は無いな。まあ、あれでそれなりに気は使える奴やし大丈夫……か?)

 

 

マスクで口元を隠し、普段なら絶対に着ない淑やかなワンピース(借り物)を身につけ変装したイナホだ。

やはり心配なので黙ってくっついてきていた。

とりあえずは和やかな雰囲気を保てているのを確認し……イナホは目の前の席の、目元を隠す怪しげなサングラスをかけたパンクファッションのスタイル抜群な美女に目を向ける。

 

 

「ふっ……何よアオイ、それほど緊張もしていないわね」

 

「いや、あんたは……模型部の部長さん?」

 

「あら?そういう貴女は前N-FLAGで会った娘じゃないかしら」

 

 

グラサンのパンキッシュ美女の正体はユイだった。

顔を隠し、普段なら着ない服装……彼女も尾行する気満々だった。

 

 

「確か、タマキ……」

 

「イナホです」

 

「イナホちゃんね。……ああ、成程。貴女もアオイのクラスメイトって訳」

 

「まあ、そういう事ですわ。部長さんも心配になって?」

 

「ピュアな後輩の初デート、見届けない訳にはいかないでしょう?うふふ……」

 

 

そう言いニヤリとしたり顔のユイ。

イナホはそこにちょっと裏を感じ取った。

 

 

「……まさか、部長さんが仕組んだんで?」

 

「そうよ?こんな面白い見世物、そうそう無いわよ」

 

「そんなんだから友達居ないんじゃないすかね?」

 

「ちょっ……何処まで知れ渡ってるのよそれ」

 

「それはそうと……あのくせっ毛でウチくらいの身長の先輩は?」

 

「ああ、マヒロの事?今はまだ、お友達と仲良く補習よ」

 

 

 

……

 

 

 

「くちゅん!……誰かうちの事噂したかな」

 

「補習中よ、私語は慎みなさい」

 

「あい」

 

 

ユイの言う通り、マヒロとアケミは昨日から引き続き補習を受けていた。

教室で歴史教師のサカエダと共に缶詰めで、現在は再テスト中だ。

2人とも意外にも結構真面目に取り組んでおり、先程のくしゃみと独り言を除けば、教室内にはシャーペンを紙に立てる音しか響いていない。

 

 

(これが終われば初ガンダムベースこれが終われば初ガンダムベースこれが終われば初ガンダムベース……)

 

(これが終わればマヒロっちとナゴヤ!これが終わればマヒロっちとナゴヤ!)

 

 

実はユイが事前に「無事終わったら遊びましょ」と発破をかけていたのだった。

ご褒美を眼前に吊り下げられ、いつになく真面目に補習に取り組む2人なのであった。

 

 

「……何時もこうだといいのだけれど」

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 

「着いた!ここだよ!」

 

「ここが……おお!」

 

 

電車に揺られ1時間弱。

2人は無事に、ガンダムベースを有するショッピングモールに到着していた。

モール入口付近の広場には、白と青色に各部に緑のレンズ状パーツの特徴的な、右手の大剣を地に突き立てた18mの鉄の巨人……等身大のガンダム立像が立ち、広場を見下ろしていた。

 

 

「等身大立像、やっぱり生で見るのは凄く圧倒されるなぁ……」

 

「ああ、凄い……エクシアだな」

 

「えっ?」

 

 

アオイは驚いた。

ガンダムに余り詳しくないと思い込んでいたユウヤが、目の前のガンダムを言い当てた事に。

 

 

「ユウヤ君、どうしてこのガンダムがエクシアってわかったの?」

 

「昔、ガンプラバトルが好きな……親友が、居たんだ。親友が1番好きなガンダムがエクシアでね。よく教えて貰ったよ」

 

「親友……イナホちゃんじゃないの?」

 

「違う。うん……親友だよ」

 

「へぇ……ガンプラが好きな人なら、会ってみたいな」

 

「いつか、紹介するよ……む、このエクシアは肩のヒラヒラが赤くないんだな」

 

「コードの事?それはたぶん、プラモデルにしか無いカラーリングかな。エクシアはこの色が普通だよ」

 

 

少し離れた位置で、後をつけていた2人もエクシアに圧倒されていた。

 

 

「はー、等身大は何度見ても飽きないわね。この迫力は堪えられないわよ」

 

「凄いもんですなぁ……しかし、エクシアとは奇妙な縁を感じる……」

 

「何よ、貴女も知ってたのね。クアンタの弟くんに教わったのかしら」

 

「いやぁ、親友の入れ知恵ですわ。……おっと、アオイたち行っちゃいますよ」

 

「なら行きましょ……ところで、お腹は空いてる?」

 

「まあ、昼前なんでそれなりには。それが?」

 

あそこ(・・・)は混みやすいから、きっと早めの昼食になるわよ」

 

 

 

……

 

 

 

ガンダムカフェ。

ガンダム好きならば1度は憧れるあのプレートやあのドリンク……そう言ったガンダムのアニメに登場した料理の再現メニューや、モビルスーツやガンプラをテーマとしたオリジナルメニューを売りにする公式コンセプトカフェだ。

ガンダムベースを抱えるモールには大抵同じくガンダムカフェが存在し、ここドームフロントも例外では無かった。

 

 

「ユイ先輩の情報通りだ、まだ早いのに並んできたね……」

 

「そうだな……早めに席も取れたし、注文も出来て良かった」

 

 

現在は正午よりも少し前。

昼時には少々早く感じるだろうが、カフェ入口には行列が見えた。

提供受け取り口にも多少の列が出来ている。

アオイたちは既に席取りから注文まで済ませ、現在は料理の提供待ちなので心配は無いが。

 

 

「お待たせしました、ディーヴァ専用パイロットランチのお客様ー!」

 

「あ、はい!ありがとうございます」

 

「アオイのは来たか。……む」

 

「ユウヤ君?どうかしたの?」

 

「……その、値段の割に量はそこまでなんだな……同じぐらいだと、少し物足りないかもしれない」

 

「ああ、なるほど……」

 

 

ガンダムカフェに限らず、何処のコンセプトカフェも抱える問題ではある。

アニメを見たファンならば体験の為のコストとでも割り切れるが、詳しく知らない者には価値を見出しにくいだろう。

 

 

「あ、でもユウヤ君の頼んだのなら、こう言えばいいよ……ごにょごにょ」

 

「え、それでいいのか?」

 

「うん、騙されたと思って試してみて」

 

「はい、お連れの方もトリントン基地食堂プレート、お待たせしました〜」

 

 

話している内に、ユウヤの注文も届いた。

ユウヤは意を決して、アオイに耳打ちされた内容を実行に移す。

 

 

「……その、ニンジンは、いらないんだが……」

 

「……」

 

「……」

 

 

沈黙。

少し間を置き、店員は眉を釣り上げる。

 

 

「っ!すみませ」

 

「ふん!」

 

「おおっ!?」

 

 

次の瞬間、ユウヤのプレートのニンジンが山盛りにされていた。

 

 

「ね、言った通りだったでしょ?」

 

「あ、ああ……でも、店員さんを怒らせてしまったみたいで……」

 

「え?いや、これは……演出だよ?」

 

「演出?」

 

「そうですよ、お客様。ガンダムのアニメのワンシーンの再現です。ガンダムカフェでは、こういうサービスもやっているのですよ」

 

 

ニンジンを山盛りにした店員も、もう既ににこやかな表情に戻っている。

ユウヤは心の中で、ホッと胸をなでおろした。

 

アオイとユウヤが席に戻り、その次に並んでいた清楚なマスク少女とパンクなグラサンお姉さんが前に出る。

 

 

「こんなにニアミスしても勘づかれないとは。アタシらの変装も捨てたもんじゃ無いみたいね」

 

「……こっちはバレやしないか、心労が半端じゃなかったんですがねぇ!」

 

 

間もなくして、ユイとイナホの注文も提供された。

イナホが頼んだのはポレンタに、食ってる感じのするブツ切りズッキーニと豆のスープセット。

ユイが頼んだのは、豪勢なステーキ付きのプレートだ。

 

 

「初めてでそれなの?」

 

「折角なんで、あんまり見かけない奴を試してみようかと。

……部長さんは豪快なもん食いますなぁ。らしいっちゃらしいっすけど」

 

「1度試してみたかったの。もうほとんどランチの時間帯だけど、注文できて良かったわ。まだギリギリ午前中だから頼めたのかしら」

 

「……え?まさか、モーニングなんすか?そのステーキが?」

 

「そのまさかよ。流石にアタシでも、これを朝食には遠慮願いたいわ」

 

 

改めてギギの胃袋と胆力どうなってんのと思いつつも、ステーキにナイフを突き立てるユイ。

なんとなく、世界は広いと感じるイナホだった。

 

 

 

……

 

 

 

腹ごしらえも終えた2人は、いよいよ本題へと向かう。

ガンプラ好きの聖地……ガンダムベースに。

 

 

「おおぉ……広い!しかも、ここから見える箱はもしかして?」

 

「そう、全部ガンプラだよ」

 

「数が多いとは聞いていたが、ここまでとは……ガンプラって凄いな」

 

「これでも、全部揃ってない事も普通にあるんだよね……本当に、膨大だよ」

 

 

ユウヤはただただ、ガンプラの数の膨大さに圧倒されていた。

アオイは内心のワクワクを抑えられていないのが表情を見れば分かる。

 

 

「この中から、僕の初めてのガンプラを探すのか……ふむ」

 

「そんなに気負わなくてもいいよ。好きな様にガンプラを選んで、組み立てて……大切にしてあげれば、それでいいの」

 

「そうか、わかった」

 

 

2人はしばらく、店内を練り歩きながらガンプラを吟味する。

 

 

「初めてガンプラを組み立てるなら、エントリーグレード(EG)ハイグレード(HG)がおすすめだよ」

 

「グレード?」

 

「ガンプラのブランドだね。と、いってもメーカーが違う訳じゃなくて、違うのはサイズやパーツの細かさ、対象年齢だよ。EGとHGは対象年齢が低いし、パーツも少なめで組み立てやすいの」

 

「ふむふむ……ならばこの辺りか」

 

「これとかどう?」

 

「ガンダム……あげいち?」

 

「ガンダムAGE-1(エイジワン)!ハイグレードでもかなり組み立てやすくて、クオリティも高い私のイチオシだよ」

 

「アオイのガンダムに似ているな……少し気になるが、他も見てみたい」

 

「うん、選択肢は他にもいっぱいあるしね」

 

「あっ、この光るガンダムは見た事がある。東京に立ってるんだったな?」

 

「ユニコーンガンダムだね。こっちも一緒に見に行きたいなぁ……」

 

「ビギニングガンダム……ビギニングって、初めてのって意味だったか。これも初心者向けか?」

 

「うーん、ビギニングはちょっとだけ複雑かも……でも、やろうと思えば出来なくないと思うよ」

 

 

ガンプラ選びにはそこそこ難航しているようだが、2人とも楽しげであった。

 

同時刻、場所は変わってガンダムベース入口付近。

 

 

「ハザマ・マヒロ少尉、着任しました!」

 

「同じくアケミでーす!うぇーい!」

 

「せめて私服にはしてきなさいって言ったでしょうが!なんで制服のまま来たのよ!?」

 

「だってぇ、あんな補習の後じゃワクワクが抑えられなかったんですよぉ!」

 

「うむうむ!」

 

 

無事補習を終えたマヒロとアケミがユイたちに合流していた。

学園での補習を終えてから直行だったので、制服姿のままだったが。

 

 

「はぁ……予備のサングラス貸してあげるから、目元くらいは隠しなさいな」

 

「助かる〜流石ユイ姫先輩!」

 

「あ、マスクもありますで」

 

「でかした!」

 

 

マヒロとアケミは借り受けたサングラスとマスクを同時装着した。

 

 

「……うちら、かなり不審者では?」

 

「だから言ったのよ」

 

「……で、ウチらはこれからどうするんです?」

 

「あら、ここまで来たらそんなの決まってるじゃない」

 

「まさか」

 

「ガンプラ、作って行きましょ!」

 

「やったぁ!」

 

「いぇーい!」

 

「う、ウチもっすか?」

 

「気になってない訳じゃないんでしょ?燻るものは早めに燃え上がらせておくのが吉よ。今なら、アタシという先駆者も居るし初め時よ」

 

「センパイ!よろしくお願いしまーす!」

 

「んー……まあ、いいか……?」

 

 

意気揚々と店内に入っていく3人。

その後を着いていくイナホだが、ガンプラがどんなもんか気になっていたのでまあいいかと割り切った。

 

 

 

……

 

 

 

「あれ、ユウヤ君?」

 

 

いつの間にか、ユウヤとはぐれていた事に気がついたアオイ。

一旦物色を止め、少し歩けば直ぐにユウヤの姿は見つかった。

 

 

「ユウヤ君!居た居た」

 

「あれ、アオイ?」

 

「少しはぐれちゃってたから、何かあったのかなって」

 

「ああ……うん、これがいいかなと思ってたんだ」

 

 

ユウヤが手にしていたのは1つの箱。

ボックスアートに描かれているのは、紫がかったホワイトにイエローと朱の差し色という独特なカラーリング、V字の真ん中からも角の生えた三本角、それと左手に備えたハサミのような武器が特徴的な機体。

 

 

「ガンダム・端白星……!少し変わったのを選んだね」

 

「はじろぼし、と読むのか。なんとなく、これがいいかなって思ったんだ」

 

「うんうん、直感で選ぶのも大いにアリだよ」

 

「それに……星の名前っていうのが良いな、と思って」

 

「……!」

 

 

少しだけ、恥ずかしそうにそう言うユウヤ。

その様子を見て、アオイも耳が熱くなるのを感じた。

少しの間沈黙。

 

 

「……ユウヤ君……」

 

「……っ、そうだアオイ、アオイはどうするんだ!?」

 

「えっ!?あ、ああ、うん、ガンプラだよね、うん。

私はやっぱり、Gエ……」

 

 

アオイは近くの棚に置かれていた白いガンプラの箱に手を伸ばし……ピタリと止まった。

 

 

「……」

 

「……アオイ?」

 

「あっ、うん……これ、Gバウンサー!」

 

 

我に帰ったアオイはその下の段の箱を引っ掴み、箱絵を見せた。

緑色の尖った刃の付いた盾が特徴的な、白いMSが描かれている。

 

 

「G、バウンサー……それもカッコいいな」

 

「う、うん、でしょう?……よし、お互いガンプラが決まった事だし、お会計して組み立てようか」

 

「あ、それ気になっていたんだが……ここで組み立てられるのか?」

 

「うん。ガンプラ制作に貸し出されてる、ビルドスペースがあるんだ。」

 

 

 

 

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