ガンダムビルドリンカーズ   作:繊月ライラ

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1話
蒼い星が、落ちてきた


 

朝。

その部屋の主はベッドの上で暖かな毛布を被り、静かな、しかし気持ちよさそうな寝息を立てていた。

まだ明かりがなく薄暗い部屋は真新しいアイボリーの壁紙とキズ1つ無いフローリングが綺麗だが、まだ所々片付けられていないダンボール箱が点在し、引っ越してきたばかりだと分かる。

こざっぱりとした勉強机や白いタンスは少女趣味らしき淡い青色とフリルの可愛らしい小物で彩られ……部屋の片隅には、そんな部屋の様子から少し浮いている、アニメのロボットのミニチュアらしき物が多数収められたガラス棚が鎮座していた。

 

───────不意に部屋の中で、甲高い音楽が鳴りだした。

最近のスマホ特有の、軽快なアラーム音。

それなりの音量のそれは、布団に埋もれていた部屋の主の耳に届いた様で。

すぐさま布団からにゅっと飛び出した細い指が慣れた手つきで画面をスワイプし、アラームは鳴り止んだ。

 

そして、部屋の主はベッドから上体を起こし、小さな口を開けふわぁ、と柔らかい欠伸をしながら1つ伸びをする。

ベッドから降りてスリッパを履き、窓にかかった新品の綺麗なカーテンをシャッ、と勢いよく開けると、少女の部屋に心地良い朝日が飛び込んできた。

 

 

「いい天気……こんな日はなんだか、いい事がありそう」

 

 

目覚めた少女はそんな事を口にした後、寝巻きの上にパーカーを羽織り、朝の準備に動き出す。

 

そして……部屋を出る前に、机の上に佇む小さな人型のモノに一声かけた。

 

 

「おはよう。今日から新しい学校に行くから、バタバタしちゃうかもだけど……もうちょっとだから。ちょっとずつでも進めて、完成させてあげるからね。

 もう少し辛抱しててほしいな」

 

 

そう言って、少女は部屋の唯一のドアから出ていった。

 

机に佇むそれは……二足で立っているがまだ未完成の様で、右腕がバラバラの状態で綺麗に並べられている。

だが見る人が見れば1発で解るモノだ。

青と白を基調に黄と赤のアクセントで彩られ、キラリと光る緑色の2つ目で、への字を縦に2つ並べた様なマスクに、赤い顎とV字の角が生えた顔。

ここではない世界で、救世主とも呼ばれた存在。

 

 

 

 

 その名はガンダム──────。

 

 

 

 

 

《第1話 もうすぐ朝が、動き出す》

 

 

 

 

 

 ───────

 

 

 

 

 

ここは、紅葉(くれは)学園。

市立の高等学校である。

総合学科と呼ばれる少々特殊な学科で、生徒の選択により様々な分野を体験出来るのが特徴である。

紅葉学園は特に芸術系に強い教師を多く抱えている。

その1年1組の教室から物語は始まる。

現在はホームルーム前で、既に所属する全員の生徒が着席している。

そして、時間までかしましく生徒達が駄弁っているのが常。

朝はいつも教師が来るまでは騒々しい物だが、今日はまた一段とざわついていた。

……転校生の噂と、それを裏付けるかの様に教室の隅に増えた空の机があったからだ。

 

 

「……なぁ、転校生ってホントに来るんかな?」

 

「さあ……僕は何も知らない。アリマ先生に聞いてくれ」

 

「はー、変わらず通常運転やねぇ……転校生ってのは、絶世の美少女とか、はたまた王子様のよーなイケメンとか。そういうのが鉄板やん? もっとそういうので盛り上がるもんじゃないんか?」

 

「そうなのか? よく分からないが、転校生と言うのは凄いのか」

 

「んー、凄いと言うかなんと言うか……」

 

 

他愛も無い会話が教室中で繰り広げられている中、遠くから予鈴が響く。

それと共に、ガラガラピシャリ! と戸が大きな音を立て……

 

 

「おっはよーう諸君!」

 

 

何時もこの女教師……アリマ(有馬)は唐突にやってくるのだ。

それと共にピタリと会話が止む。

 

 

「揃っているかね? ……ふむ、休みは居ないね! よしよし。

 んじゃあ、ホームルーム始めるよ!」

 

 

何時もならばささっと連絡事項の通達を済ます程度で終わるホームルームだが、今日はそうはいかなかった。

 

 

「アリマせんせー、転校生が来るってほんとですかー?」

 

「勿論! 皆にも紹介するよ。

 ……アカツキさーん、入っておいでー!」

 

 

開けられた戸の前に、生徒達が見慣れぬ人影。

間違いなく、件の転校生だ。

果たして……

 

……ぱっちりと開いた目に丸い瞳と、もちっとした頬に薄い唇があどけない印象の顔。

肌は雪の様に白く、髪は丁寧に整えられたサラサラとしたセミロング……前髪が長く左目が隠れており、頭頂部から三日月状の触覚の様な毛が2本立っている少々独特なスタイルだが……で美しい。

それなりの身長だが身体は細く慎ましく、新品おろしたてでパリッとしたものを着ているのも相まって、ブレザーに着られている様な出で立ち。

人形のよう、とはこういう娘の事を言うのだろう……はっきりと言って美少女、乙女だった。

 

呼ばれてから少し間を置き、少女は歩き出し、教壇前に躍り出る。

……瞬きもせず、冷や汗を流し、唇を横一文字に縛ったまま、肘膝が伸びきったギクシャクとした歩きで。

 

(……緊張してる?)

 

(めっちゃ緊張してる)

 

(かわいそう)

 

「そんじゃ、黒板に名前書いて自己紹介をお願いしていいかな?」

 

「は、はい……」

 

黒板には白いチョークで、コツコツと音を立てながら少女によって名前が書かれる。

黒板に対して少々小さめの丸い字で、漢字で2文字、カタカナで7文字。

……少女は1つ、深呼吸。

 

 

「……はい、転校生、の、アカツキ()アオイ()って、言いましゅ!」

 

(噛んだ)

 

(深呼吸したのに噛んじゃった)

 

(かわいい)

 

「あ、あう……アオイと、言います……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……以上です!」

 

 

アオイともう1人を除く、全員がずっこけた。

 

 

「よ、よし……それだけじゃよく分かんないから、ちょっと質問タイム取ろっか! はい挙手! 早い者勝ちだよ!」

 

「え……ええっ!?」

 

 

断りなく唐突に始まる質問攻め。

アオイに拒否権は無かった。

 

 

「ハイ!」

 

「はい早かった! どうぞ!」

 

「アカツキさんは何処から越してきたんですか?」

 

「あ、えっと……と、東京、です」

 

「おお、シティガールってやつだ!」

 

「いえ、私はそんな……」

 

「ハイ! アオイちゃんの趣味はなんなの?」

 

「その、ゲーム……とか、です」

 

「おっ、ゲーム俺も好きなんだ」

 

「オレもオレも」

 

「どういうのやってるの?」

 

「ええっと、ACfAとか、ACEとか、オラタンとか、ボダブレとか、です。最近は、バトオペにもハマってて……あっ」

 

「聞いた事ないのばっかだ! 実はマニアとか?」

 

「……あっ、えっと、パパとママがそういうの好きで、私は借りてるだけで」

 

「へー! 今度遊びに行ってもいい?」

 

「あの、まだおうちの片付け終わってないし、パパとママにも相談しないと」

 

「ハイ! アカツキさん、好きな食べ物は?」

 

「あ、アップルパイです」

 

「おっ良いね! アップルパイなら購買で美味しいやつ売ってるよ!」

 

「ほんとですか!? 後で見に行ってみます!」

 

「アップルパイにはアップルが詰まってるけど、ペ……」

 

「はいそこまで! そろそろ時間だからね!」

 

 

唐突に始まった質問タイムは、また唐突に締められた。

 

 

「えー」

 

「もっと聞きたーい」

 

「後は個々人で聞きに行ってね! 

 じゃあアカツキさんは、隅の空いてる席に座ってくれるかな」

 

「は、はい……」

 

 

 

 

 

 ───────

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン、と何処でも聞くようなチャイムが遠くに響いた。

 

 

「……よし、連絡事項も以上! ホームルーム終わり! 

 次の授業の準備しなさーい。……あ、今日1組は5時限目体育だからね、そこでまた会おう諸君!」

 

 

再びガラガラピシャリと乱暴に戸が閉められる。

作りが少々古いので耐久度が心配だ。

 

 

(終わった? あ、嵐の様な時間だった……つかれた)

 

 

アオイは、まだ1時限目も始まっていないが既にグロッキーだった。

奇異の視線を全身に浴び、緊張に加えてアドリブも押し付けられたので当然ではあるが。

今日出会ったばかりの机に突っ伏し、頬を押し付けている。しかし、休んでもいられない。

 

 

「そうだ、授業の準備しないと……」

 

 

教科書は教室から離れたロッカーの中だ。

取りに行かなければならない。

少し気合いを入れ、机から顔を離す……

 

……と、自分に突き刺さる視線を感じる。数は、先程のおよそ3倍ほど。

教室を見渡すと、ほぼ全ての目がこちらを向いていて。

廊下を見やると、1組ではない顔がずらり。

転校生がやってくるなどと言うビッグイベント、生徒みな食いつかない訳が無かった。

 

 

「あ……あわわ」

 

 

戸が開き、外の生徒達もなだれ込んでくる……その時だった。

 

 

「コラァーっ!!!!」

 

「ひゃっ!?」

 

 

雷鳴の様な怒号がアオイの目の前の席から響いた。

 

 

「見てわからん? アカツキさん疲れとるから! 今日しかおらん訳やないんだからまた今度にしな、ホラ2組3組の連中も、シッシッ!」

 

「ちぇー、タマキのケチ」

 

「ケチやないわ!」

 

「あれ、ほんとにぐったりしてる」

 

「出直しますか〜」

 

 

そんなやり取りが交わされると、集っていた生徒達はぞろぞろと、それぞれの場所に戻って行った。

 

 

「……助かった?」

 

「まーったく、他人の事考えられん連中ばっかりやねぇ」

 

 

怒号の主は小柄な少女。

二つ結び髪で、身長も低くアオイよりも小柄な体格だが、小ささを感じさせないバイタリティがある。

 

 

「あの、ありがとうございます」

 

「ん? タメでええよ、クラスメイトでしょ? 

 ウチはタマキ(玉城)イナホ(稲穂)。よろしくね!」

 

「……うん、わかった。こちらこそ。私もアオイでいいよ」

 

 

味方が出来て少しホッとするアオイ。

そして……先程からずっとアオイを見ている、イナホの隣の男子。

中肉中背と言った体型で、仏頂面だが端正な顔立ち。

長い髪を後ろで纏めている。

 

 

「……あの、私の顔に何か付いてたりします?」

 

「大人気だったな、アカツキさん……やはり転校生は凄いんだな」

 

「? ……ええっと」

 

「コイツはね、オグラ(小倉)ユウヤ(祐也)って言うの。

 ちっと天然でズレてるけど、悪い奴やないから仲良くしたってね」

 

「紹介された通りだ。よろしく頼む」

 

 

それでいいのかオグラ・ユウヤ。

 

 

「……うん、よろしくね、ユウヤくん。私も名前で呼んでいいよ」

 

「そうか。よろしく、アオイ」

 

そんなこんなで和気藹々とした時間が流れる中。

 

「───────はっ! 次の授業の準備!」

 

「おっと、いかんいかん。ウチもまだやった」

 

「僕もなんだ。一緒に取りに……」

 

……キーンコーンカーンコーン……

 

「「「あっ」」」

 

 

 

 

 

 





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