紅葉学園での、まさかの邂逅から数日。
ビルドリンカーズは、地区予選会場に再び訪れていた。
「……作戦内容は、解ってるわね?」
「プランA、B、Cの三段構え!ですよね!」
「はい、作戦内容は承知しています」
現在は、第3回戦開始の凡そ20分前。
選手控え室でユイ、マヒロ、アオイの3人は、額を突き合わせスマホの画面に視線を落としている。
作戦会議……ではあるが、殆どおさらいの様なものであった。
「ですが……私の“切り札”を、こんなにも早く切ってしまう事になるとは」
「仕方ないわよ。それだけ相手は硬いのだから」
「アオイちゃんの左手にかかってるねぇ」
「はい。少し、プレッシャーですが……」
アオイは瞑想する様に少しだけ目を閉じ、そして改めて2人を見やる。
「ご期待に添える様、頑張りますね」
「期待してるわよ」
「張り切っていこー!」
ユイとマヒロは満足げに頷き、そして……
3人は示し合わせたかの様にコツン、と拳を突き合わせた。
……
ビルドリンカーズが作戦会議をしている同時刻。
「ミカゲの奴ぁ何処だ!!」
控え室のドアがどばむと乱暴に蹴り開けられ、それと同時に怒号が狭い部屋が反響した。
「ヒィッ!アニキ!?」
「……喧しいぞ、ガロウ」
声の主はキサラギ・ガロウ。
ここは、ビルドリンカーズに充てられた部屋とはまた別……チーム・アウトレイジの控え室であった。
取り巻き達は怒号に震え上がり……それに反してレオはイヤホンを耳から外しつつ、心底煩わしそうに苦言をガロウに呈する。
「これが落ち着いて居られるかよ!今日の試合まで、あと……ええと……もう少ししかないだろ!?」
「もう何時もの事だろう……開始前には戻ってくるさ」
「ああもう!まだるっこしいなァ!」
騒ぎ立てながら、ガロウは頭を掻き毟る。
落ち着きの無いガロウは、こうなれば暫くは収まらない。
レオは、やれやれと長い溜息を吐くのだった。
……
「おおおおおおおちおちおち、おちちちつつつつつけけけけけ……」
自販機の立ち並ぶ休憩スペース……そこで、目尻に涙を浮かべてガタガタと震える少女が居た。
華奢な体躯に、所謂地雷系と称される服で身を包んでいるが……丸まった背中と、きっと来る某幽霊の如く長い黒髪がキュートさを掻き消し、おどろおどろしい雰囲気さえ醸し出している。
彼女こそ、チーム・アウトレイジのメンバー……アザミノ・ミカゲだ。
「しっかりしろ〜……しっかりしろぉわたし……
こ、こういう時は、お、お茶でも、飲んで、平静を……」
震える指で取り出した小銭を、挿入口へ……ガチ、ガチと何度か金属音を鳴らした後、縦長の穴に100円玉が吸い込まれていく。
ボタンのランプが灯り、ミカゲは顔を上げて目当ての緑茶を購入しようと指を突き出す……が、しかし。
「あっ」
ガコン、と音を立てて商品が排出される。
出てきたのは、真っ黒なラベルの缶飲料……ブラックコーヒー。
指どころか腕さえも震えていたミカゲは、目当ての緑茶の隣のボタンを押し込んでしまっていた。
「ぶ、ブラックコーヒー……の、飲めない……」
ただでさえプレッシャーに押しつぶされていたと言うのに、更に重い気分が伸し掛る。
自分で自分に、ほとほと呆れつつすらあった。
ずーんと肩を落とし、重苦しい溜息を長く長く吐く……
そんなミカゲの肩に、後ろからポン、と手が置かれた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?」
「うぉっ!?なんか聞いた事無い声出たっスね!?」
驚き跳ね上がり、慌てて振り向くミカゲ。
肩に手をかけたのは、ツンツン頭と右頬の古傷が特徴的な青年だった。
「え、あ……え、む、ムツ……ムツキ、くん?」
「よっ。見知った背中が見えたんでちょっと、ね。試合、もうすぐじゃなかったっスか?」
青年の正体は、チーム・トライエースのハセベ・ムツキ。
実はムツキとミカゲはクラスメイトであり、度々会話を交わす仲なのであった。
「え……えっと、その……おち、落ち着か、なくて……」
「あー……うん成程。ちょっと、失礼するっスね」
「あ……?ムツキくん?」
ミカゲの手に持つそれを見て、ムツキはどこか得心のいった様子。
ポケットから小銭を取り出しつつ、ミカゲを除けて……その後ろの自販機に小銭を挿入する。
そして、ボタンを迷いなく押した。
「おおっと、間違えて緑茶買っちった。コーヒー飲みたかったんで、交換してくれないっスか?」
「え?あ、う、うん……いいの?」
「いいっスよ」
ムツキはずい、と緑茶のペットボトルを突き出す。
ミカゲが恐る恐るそれを受け取り、缶コーヒーはムツキの手に渡る。
「え、えと、その……あ、ありがとぅ……」
「へへっ、どういたしまして。
……っと、もうそろそろ時間じゃないっスか?」
「あっ……そ、そうだね……よ、よし」
ミカゲは一思いにキャップを捻り、緑茶を口にする。
1口をごくりと飲み込めば……いつの間にやら、手の震えは収まっていた。
その様子を見て、ムツキは満足気に頷く。
「んじゃあ……グッドラック。武運を祈るっスよ」
「うん……また、頑張ってみる……!」
……現在は、3回戦の開始5分前を切っている。
ミカゲは飲みかけの蓋を閉め、肩から下げた鞄に収め、踵を返すとぱたぱたと駆けて行った。
それを見送りひらひらと手を振った後、ムツキはプルタブに手をかけた。
「あ、これにがっ……ちと、カッコつけ過ぎたっスかねぇ」
……
「はあっ、ふぅっ……お、おまたせ、しました……!」
「遅いぞミカゲぇ!」
「はひ……そ、そうです、よね。ご、ごめんなさい……」
ドーム中央の特設ステージ。
そこに、岐阜地区大会3回戦を戦う勇士達が、たった今出揃った。
慣れない運動で息を切らしながらも、ミカゲもなんとか駆けつける事が出来たのだった。
「まあでも……よく逃げずに来た!」
「いっ!?」
バシン!とガロウの大きな手が叩きつけられ、ミカゲの丸まった背中を伸ばさせる。
2人の目が合うと……ガロウは、にかりと笑った。
「さァ、ぶちかましてやろうぜっ!」
「は……はい!」
「ふっ……やれやれ」
3人揃ったアウトレイジの面々。
気炎万丈と言わんばかりに、士気は高い。
「ふん。逃げ出してくれた方が、楽だったのだけどねぇ」
「ユイ姫先輩、それかんっぜんに悪役の台詞ですよ」
「あ、あはは……」
「まあ……どの道、撃ち貫いて行くだけよ!」
私が、ですがね。と喉まで出かかったアオイだったが、なんとか飲み込んだ。
作戦の肝を自らバラしてしまっては元も子も無い為である。
そんな、アウトレイジに対してどこかゆるいやり取りをするビルドリンカーズだが……3人の瞳には、確かに闘志が宿っていた。
「さァ、正々堂々……やろうぜェ!」
6人のガンプラがシステムに読み込まれる。
チーム・アウトレイジは、3機揃ってモノアイ……それも、アクシズ製MSがベースである。
「キサラギ・ガロウ!アーベントウルフ!」
ガロウ機は、ドーベンウルフの両腕をサイコガンダムのギガンティック・アームに換装し、かつ更に装甲が増設された機体。
身の丈程もあるハンマーを肩に担いでいる。
「ソウマ・レオ。ヴェテルノ・ガルス」
レオ機はシュツルム・ガルスがべース。
右腕はハイゴッグの物を流用したクローアームとなっており、ギラ・ドーガの一部装甲とバックパックが移設されている。
「あ、アザミノ・ミカゲ……カルドゥス・ジャジャ……!」
そしてミカゲ機は、ビーム・ベイオネットとギャン用シールドを携えたRジャジャのカスタム機である。
「チーム・アウトレイジ!あ、いざ出陣!!!」
対するビルドリンカーズの機体は……何やら、追加装備が施されていた。
「テンジョウ・ユイ、グローリィジャスティスガンダム!」
ユイのグローリィジャスティスは、2枚のブロック状ユニットをリフターに懸架。
「ハザマ・マヒロ!ヘルムヴィーゲ・アイギス!」
マヒロのヘルムヴィーゲ・アイギスは両脇に2丁の大型砲を抱え。
「アカツキ・アオイ……ガンダムスターライト!」
アオイ機、スターライトは右肩に角張った大型ランチャーを担いでいた。
「チーム・ビルドリンカーズ!Ready?」
「「Alright!」」
MS達が躍り出たのは……鬱蒼と木々や蔦の生い茂る地の上空だった。
今回選択されたステージはジャングル。
MS以上に背の高い木々は機体を隠すにはもってこいのオブジェクトだが、それだけの大きさともなれば頑丈であり、また下手に切り倒せば位置を教えるサインにもなる……つまり、機動を大きく制限する不安要素でもあった。
「ふふ、運はアタシ達に向いているようね……!
各機、匍匐飛行。身を隠すわよ!」
「了解!」
「あいあいさ!」
揃って木々の切れ目から樹海へダイブしていく、ビルドリンカーズの3機。
動き回り続ける戦闘を得意とするアオイを含む編成では、移動を大きく制限される事は痛手であると思われるが……
しかし彼女らとて、リスクを理解していない訳ではない。
“作戦”を考慮すれば、リスク以上のメリットが見込めると判断した為、迷いなく飛び込んだのだ。
先端にマズルの付いた2枚のブロックをリフターからパージし、ジャスティスに貼り合わさせながらユイが号令をかける。
「読み通りなら、“アイツ”が突出してくる筈……
索敵警戒。発見次第、“プランA”開始よっ!」
一方、チーム・アウトレイジのレオは苦々しげに歯噛みしていた。
「密林か……早々に乱戦に持ち込めば問題は無いが」
「先に発見されたら、こちらが不利……です、よね」
「ああ、その通りだ」
常在的な視界不良の危険性を孕むこのステージは、ミカゲの言う通り先に相手を捕捉した側に大きなアドバンテージがある。
身を隠しながら一方的に撃たれる可能性がある為、全機がインファイト仕様のアウトレイジは得意レンジに持ち込むまでは慎重に立ち回らざるを得ないのだ。
「ガロウ、解っているとは思うが慎重に……」
そう声をかけながら、ヴェテルノ・ガルスが振り向く。
……アーベントウルフの大柄なシルエットは、既に付近には見受けられなかった。
振り向いた方向の遠方には土煙が立ち上り、何かが地面に沈む轟音が響いてくる。
「───────あのバカ!!」
「ふぇ!?い、いつの間に……」
「追うぞミカゲっ!」
「はっ、はいぃ!」
慌ててレオとミカゲは身を翻し、転進。
ガロウがしでかしている事を思えば、慎重に行動する余裕もなく……全力でスラスターを吹かし、急行を開始した。
「どぉこだァ!ビルドリンカぁーズ!!出てこぉい!!!」
アーベントウルフが鉄骨の様に無骨なハンマーを振り回すと、大木がメキメキと音を立てて倒れてゆく。
幾本も木が薙ぎ倒された為に、その周囲はジャングルにぽっかりと穴が空いたかのように拓かれていた。
……アーベントウルフは、恐竜的進化MSであるドーベンウルフにサイコガンダムの腕を装備した圧倒的サイズの大型ガンプラだ。
当然、入り組んだ閉所では標準サイズの機体よりも動きは遥かに制限される。
なればこそ、予め密林を切り開いておく必要があると言うのも道理ではある。
が……こと今回に限っては、完全に悪手に他ならなかった。
「ぬッ!?」
ガガガガン、と電磁加速された連射弾が装甲を叩く。
肉厚すぎる装甲には大したダメージにならないが、無視する訳にもいかない。
「そぉこか……って、お?おお!?」
振り向いた途端、別方向からより大口径の弾体が装甲を殴りつける。
今度は、機体が怯む程の衝撃を浴びる羽目となる。
「……よっしゃ、ならフルパワーじゃ!」
アーベントウルフを怯ませたのは……ヘルムヴィーゲ・アイギスが両脇に抱える追加装備、レギンレイズ用レールガン。
某クジャン公の獲物としても有名なそれを、トルクにものを言わせて2丁装備していた。
今度は加減無しで撃ち放つ為、ハサミ形態と化したシールドで角柱状のバレルをがっちり挟み安定させ、エネルギーを流し込む……!
「いっけぇえー!!」
一瞬虹の光輪を瞬かせながら、フルパワーで放たれた弾体が空を裂く。
亜光速のそれがアーベントウルフに着弾し、派手に金属音を奏でた。
「ぬ……おおっ!?やるな……!」
第二射の衝撃力は、第一射とは桁違いだった。
装甲についた傷こそ軽いものの、アーベントウルフの巨体が大きく揺らぎ、たたらを踏ませ膝をつかせた。
ガロウはなるべく早く復帰させんと、アームレイカーを
ハンマーを杖に、立ち上がろうとした……その瞬間。
ガロウの視界を、光が埋めつくした。
「───────ぬぉああああああああああ!?!??!」
2方向から、アーベントウルフに向け光の大津波が照射された。
飛び散り、混ざりあったエネルギーが周辺の生木を焼き、爆煙を立てる。
それを成したのは……2機のガンダムの追加装備。
「幸先良し、ね!」
1つは、ユイのグローリィジャスティスのもの。
準備していたユニットの正体は、ドラグーンと引き換えに持ち込んだローエングリンランチャーであった。
フルスクラッチで用意されたそれは既に機関部から黒煙と紫電を吐き出しており、明らかに限界を迎えていた。
「クリーンヒット、確認しました!」
もう1つは、アオイのガンダムスターライトのもの。
その右肩に担いだ獲物は、ダイダルバズーカ……AGEシリーズではトップクラスの火力を持つ携行兵装だ。
AGE-FXのキットから流用・塗装調整されたものであり、こちらはまだまだ使えそうだ。
しかし……アーベントウルフは、ハンマーを犠牲にこの大火力を受けきり立っていた。
「ま……まぁだまだ行けるぜェ!」
「案の定、しぶといわね……
アオイ!こっちはもう撃てそうにないけど、ダイダルバズーカは?」
「まだ撃てます!リチャージ完了まで、6秒!」
「オッケー!二射目も頼むわよ!」
「了解です!」
「っ、下がるのか……逃がすかァ!」
ビルドリンカーズの3機は一斉に後退・ポジションチェンジを開始する。
それを追わんと、アーベントウルフもドロドロに溶けたハンマーを投げ捨て駆け出す。
……射撃武装を一つも持たぬアーベントウルフでは、距離を取られている現在は反撃のしようが無い。
ハンマーを投擲するという選択肢も無くはないが、それはたった今使い物にならなくなった為、捨てた。
なので、真っ直ぐ接近していく必要があったが……巧みに木々を避けつつ下がってゆくビルドリンカーズには、距離を詰める事がまるで出来なかった。
……ダイダルバズーカのリキャストが完了した。
スターライトは角張ったマズルをアーベントウルフに向ける……!
「撃ちます!」
「させるかッ!」
「う、うりゃあ!」
「っ!」
その瞬間、スターライトの近く右手側の茂みから、ヴェテルノ・ガルスとカルドゥス・ジャジャが飛び出した。
第二射を防がんと、ビーム・ソードの切っ先とビーム・ベイオネットの穂先がスターライトに向け振るわれる……!
それを視認した瞬間、アオイは咄嗟にレバーのボタンを弾く。
すると、ダイダルバズーカがバクンと音を立てつつ、三枚おろしに分割された。
「「!?」」
身代わりの様に2機の目の前に現れた大型の上部バレルが、ビームの切っ先をその身で受ける。
その間、スターライトは比較的小型な下部バレルを空いた左マニピュレータで引っつかみ……
「せいっ!」
「くっ!」
「うわぁ!」
2機の手元を狙い、殴りつけた。
獲物を手放させるまでには至らなかったが、追撃をさせぬ程度には怯ませる事に成功。
パージしたバレルを手放し、リアスカートから左手でいつものドッズライフルを手に取ると、2機から離れる様にスラスターを吹かす。
勿論、そう簡単に詰めさせぬ様に……ドッズライフルと、ダイダルバズーカの本体たるスタングルライフルのダブルトリガーで引き撃ちをしながら。
「すみません、接敵されました……“プランB”に、移行します!」
「仕方ないわね……マヒロ!デカブツを削るのはアタシたちでやるわよ!」
「がってん!」
グローリィジャスティスとヘルムヴィーゲ・アイギスはアーベントウルフの元へ向かう。
そして、逃げるスターライトをヴェテルノ・ガルスとカルドゥス・ジャジャが追う。
1対2が2箇所で起きている状況が出来上がっていた。
「アオイが2体に挟まれているな……」
「ちょいちょい、これ不味いんやない?」
「いや、万事作戦通りさ」
観客席。
浮き足立つ2人に、キリタニ先生は極めて落ち着いた様子で語った。
「チーム・アウトレイジは、凄まじい耐久力のアーベントウルフが特に厄介だが……彼は、かなり突出して孤立しやすいという欠点を抱える。そこを突き、総員で最大火力を叩き込むのがプランA、作戦の第一段階だ。」
「今は、第二段階だと?」
「そうだ。アカツキが単身で僚機2機を引き付け、テンジョウとハザマがアーベントウルフを削る。そうして……
Iフィールドが失われた時、第三段階に移行する。勝利の道筋は決まっているのさ」
キリタニ先生は、モニターを見据えながら不敵に笑った。
「ほへー……」
「あいフィールドって何だ……?」
……ガンダム初心者のユウヤとイナホは、微妙に話に着いてこれていない様だったが。