本話戦闘シーンBGM推奨曲
鉄血のオルフェンズOSTよりDefenders of the Wild
及び、楽園追放OSTより Beyond The Galaxy
「当てるっ!」
ヴェテルノ・ガルスが持ち替えた左手のビームマシンガンと右腕のビームカノンを斉射する。
それに合わせ、カルドゥス・ジャジャもベイオネットの付属ビームガンを連射。
雨あられの様にペレット状の光弾が標的に向け殺到する……が、スターライトにはかすりもしていなかった。
「この程度なら……!」
「む、無理です〜……あんなのに当てられませんよぉ」
「何故ああも躱せるんだ……!」
レオがそう零すのも無理は無い。
標的であるスターライトが入り組んだ密林内……木々の間を飛行していており、その上で的確に弾幕を躱しているからだ。
アオイが行っている機動は、目標を見据えたまま回り込むように動く“サテライト”と呼ばれるもの。
それに、着地硬直を防ぎつつ相手のAIMを逸らす小刻みなジャンプ機動を織り込んでいる……凡そ狭くランダムに入り組んだ地形で行える物では無い筈なのだが、なんとアオイはここまでノーミスで動き続けていた。
当然、スタングルライフルとドッズライフルで牽制射撃も忘れない。
「くっ!」
「わわっ……」
ガルスはビームを紙一重で躱し、ジャジャは曲面シールドでビームを逸らす。
寄せつけぬ為の牽制とはいえ、当然の如く必中弾を放ってくるその技量に、2人は内心舌を巻いていた。
しかし、アオイも1対2ではおいそれと近寄る事も出来ない……現状は、お互いに千日手である。
(それが狙い、か?時間を稼いでいると……それなら)
「……相手の狙いは恐らく時間稼ぎだ。接近戦をやる、援護を頼むぞ!」
「あっ……は、はいっ!」
ガルスが木々の間に飛び込む。
それと同時に、接近を悟らせぬ様ジャジャはシールドのニードルミサイルも撃ち出した。
「火薬の炸裂……ミサイル、ですか!」
枝や幹に着弾したニードルミサイルが、小さいながらも爆風を生む。
爆風に煽られれば、機動を微妙に偏向され衝突するリスクか跳ね上がる……より繊細な操縦を強いられる事となるが、アオイはこれもクリアー。
と、ミサイルの弾幕に混じり、比較的大きな爆発が起きる……それをアオイは見逃さなかった。
「ハイドボンブ……!こんな遠投を可能に!?」
木々の間に、赤いカプセル状の物体が浮かんでいるのを視認する。
その正体はハイドボンブ……宇宙用の機雷を転用した兵装だ。
敷設による運用をメインとした物である為に、ニードルミサイルと違い遠方への投射は出来ない筈の兵装だが、カルドゥス・ジャジャのシールドの物はそれを可能としている様だ。
こちらはニードルミサイルと比べ炸裂の威力は目を見張る物があり、スターライトの移動範囲は更に狭められる……
「貰った……!」
そこを突き、死角を狙ってヴェテルノ・ガルスが飛び出した!
爆発物に意識を向けつつ、かつ木々に身を隠しながらの接近により、既にクロスレンジまで踏み込まれている。
ハイゴックより受け継がれたバイス・クローがスターライトに突き出される……!
が、その右腕は横合いからあっさりと弾かれた。
「そのくらいは……」
「何……こいつ、死角を!?」
「お見通しです!」
アオイの何時もの足癖の悪さが出たのだ。
スラスターを併用した高速右回し蹴りが突き出された爪を逸らし、その右足はそのままガルスの腹部に蹴り込まれる。
突き放されたガルスに、更にダメ押しと言わんばかりにスタングルライフルが撃ち放たれた。
「ちいっ!」
舌打ちをしながらもマシンガンを手放し、咄嗟にビーム・ソード・アックスを抜き放ち、高出力のアックスを射線に翳す。
ライフルでありながら大型キャノンに匹敵する威力を持つスタングルライフルの射撃である……ビームがアックスによって切り払われ拡散しても、ガルスの薄い装甲をみるみる焼いていった。
それでも、辛うじて致命傷は避ける事に成功していたのだった。
「れ、レオさん……!大丈夫ですか!?」
「ああ……何とか、な……」
レオの頬を冷や汗が伝う。
今の一瞬、判断を誤ればヴェテルノ・ガルスは墜とされていた……その事実を理解していたからだ。
(奴め、“ここで刺してくる”事を読んでいた……否、或いはあの動きをしながら、常に死角を意識しているのか?
こちらを優先した判断は間違っていなかった……一機で対処に当たっていたら、とっくに墜とされていた!)
彼我の実力差を身に染みて理解する……なればこそ、今この枚数有利の内に決着をつけねばと、レオは腹を括った。
「おらおらー!」
「フルバーストッ!」
ヘルムヴィーゲ・アイギスの長射程レールガンが大口径弾を吐き出し、グローリィジャスティスはマーナガルム、ハイパーフォルティス、クスィフィアス、2種のバルカンを一斉射撃する。
並のガンプラならあっという間に削り切られるであろう弾幕が殺到する……が、しかし。
「効かんなァ!」
「あらー!弾いちゃったの、全部!?」
「思った以上にダメージが通らない……骨が折れるわね」
ハンマーを盾にされたとはいえ、ローエングリンにダイダルバズーカのダメージも無くはない筈……だと言うのに、アーベントウルフは装甲のあちこちに傷や焼け跡を作りながらも健在であった。
相変わらずクロスレンジまでは詰めきれないが、それでもなんの不調もなく突撃し続けていた。
それを成すのは、パテやプラ板をごつ盛りしたブ厚い装甲とIフィールド。
アーベントウルフは装甲厚が凄まじい為に、一見ボロボロに見える現状でも、薄皮が焼けている程度のダメージであるのが実情であった。
その上、本機にはユニコーンガンダムのシールドから移植されたIフィールドジェネレーターが胸部、両肩、両脛の計5基搭載されている。
この為にエネルギーをそちらに割かざるを得なく、射撃兵装の全てをオミットするに至ったが……引き換えに難攻不落の要塞、或いは不沈艦と例えるに相応しい耐久性能を手に入れているのだ。
その異常な耐久力を削る為のプランA、Bなのだが……闇雲に撃ち込むだけでは、気の遠くなる時間がかかると見て間違いなかった。
「こうなったら……マヒロ、ちょっとレールガン貸して!」
「えっ!?もう残弾無いっすよ!?」
「いいから!頂戴!」
「わ、分かりましたって……あ、こっちもう弾無いや。これどぞ」
ヘルムヴィーゲが右側のレールガンをパージし、左手のレールガンをジャスティスに手渡す。
ユイの見るモニターに映された残弾数は……3発。
「上等ね……よし、マヒロ!」
「うい!」
「突撃しなさい!」
「うい!……うい!?」
これまでずっと引き撃ちを続けてきていたのは、そういう作戦だったからだ。
それが覆された事に、マヒロは心底驚く……ヘルムヴィーゲも、思わずジャスティスを2度見する。
「何とぼけてんの!もう引き撃ちしたって、機関砲程度じゃ意味ないのよ!」
「えぇ……でもあのゴリラに近づくのはちょっと」
「アタシにいい考えがあるの!さっさと行って頂戴!」
「わぁ!」
「あァ?仲間割れか!?」
もじもじしていたヘルムヴィーゲの背中を蹴り、ジャスティスは更に後退する。
と、なると……ヘルムヴィーゲに、アーベントウルフが肉薄する事となる。
「わ、わ、わ、わ、わ!?」
「がっぷりよォーつッ!!」
ギガンティック・アームがヘルムヴィーゲに掴みかかり、それに対しヘルムヴィーゲもメインアームを突き出し、取っ組み合いとなる。
どちらも近距離パワータイプと言える機体……押し合いとなり、拮抗する……!
しかし、少しするとギシ、ギシリ……と、軋む音が響き出す。
「あっっっやっぱり無理ではこれ!?」
「どうした、そんなもんかァ!?」
悲鳴を上げたのは、ヘルムヴィーゲの肘、肩関節の方だった。
質量もトルクも桁違いすぎる為に、一瞬の拮抗の後にヘルムヴィーゲはずるずると押し込まれていった。
「た、たた、たしゅけてぇ〜!」
「マヒロ……貴女のお陰で、ウイニングロードが見えた!」
愛機の関節と共に情けない悲鳴を上げるマヒロ。
その背後でグローリィジャスティスは、木々を隠れ蓑に死角を突きながら移動、アーベントウルフから見て左手側に回り込む。
そしてバイザーの狙撃用センサーとマルチロックオンシステムを併用し、アーベントウルフに狙いを付けていた。
「動作予測、弾道補正……セットアップ!
一発も、無駄にはしない!」
メインとサブのハンドルをしっかりと握り、長射程レールガンを構える……当然、出力は最大。
マルチロックオンのカーソルが示すのは、全部で3点……全て、Iフィールドの搭載箇所!
「ファイア!」
ガン、ガンと2発、躊躇いなく引き金が引かれる。
空を裂く弾体は、吸い込まれる様にアーベントウルフの装甲に……
「ん?……お、おォ!?なんだ、と!?」
突き刺さり、貫徹する!
ユイが行った事は、ただマルチロックオンして撃っただけではない。
比較的抜きやすいであろう“装甲の継ぎ目”や“筋彫りモールド”に着弾し、かつ目標のジェネレーターまで貫通・破砕する様に……この短い間にマニュアル操作でAIMを調整し、狙撃したのだ。
そしてそれは、狙い通り……左肩と左膝のIフィールドジェネレーターを穿つ事に成功した!
「───────おぉお!?」
黒煙を吹き、連鎖的に2箇所が爆発……内部から響く衝撃に、巨体が右に傾く。
そして間髪入れず、ユイが吠える。
「マヒロ!“反対側”叩いて!」
「……ひ、ひぃいい〜!」
訳も分からぬまま、半泣きになりながらマヒロは左のアームレイカーをガシガシと動かす。
それに連動して、左の大盾が乱暴に目の前の敵の右半身を殴りつけた。
重装甲につけられた傷は浅い……が、数打てば目標には当たるものだ。
右肩と右膝のIFジェネレーターに正面から大盾が突き立ち、此方も容易く潰れた。
「ぬぉお!?」
今度は右半身が火を吹き、左に巨体が傾く……重装甲で突き出した胸部の上面を、待機しているユイに見せる様に。
「───────プランB、クリアー!」
長射程レールガンの最後の1発が、胸部上面の筋彫りから貫入する。
……浮沈の耐久力を約束するIFジェネレーターの全てが、沈黙した。
「な、なにぃいーッ!?」
がなり立てるアラートを背景に、巨体が再びたたらを踏んで膝をつく。
ヘルムヴィーゲが解放され、ジャスティスの元へ。
アーベントウルフは……ビームを大幅に減衰させるIフィールドを失い、その防御性能を大きく削がれる事となった。
残されたのは……異常にブ厚い重装甲のみ。
「や……やった!?」
「マヒロ、貴女のお陰よ!」
「へ、へへ……ちゃんと考えてたんすね」
「あったり前じゃないの!」
「……ここまで追い詰められたのはァ、初めてだ。だが!」
多少軋む音を上げながらも、アーベントウルフは力強く立ち上がる。
Iフィールドジェネレーターが破損し、内部にもダメージが響いているにも関わらず、未だ健在であった。
「うへ〜、ここまで来るともはやゾンビ……」
「なんとでも言えばいい……手前ぇらの武器じゃあ、まだ俺を削りきれねェだろ!」
「確かに……そうなのよねぇ」
事実、アーベントウルフの装甲の厚さを考えると、ユイの射撃だけで削りきるのはあまり現実的では無い。
加えてマヒロのヘルムヴィーゲはメインアームを損傷しており、出来る事はシールドバッシュ程度……しかし、接近戦を仕掛けるのは危険だ。
Iフィールドは潰したが、ユイとマヒロ側が優勢に傾いた訳ではないのだ。
「でも、策はあるわ」
「何……!?」
ユイは不敵に口元を歪める。
所謂“悪い顔”だ。
しかし……ローエングリンの様な切り札クラスの火器も無ければ、トラップの類を使った形跡も無い。
一体、その余裕はどこから来るのか……オープンチャンネルで耳に届く自信たっぷりの声色に、ガロウは俄かに困惑する。
「何をするつもりだ!?」
「ふふ……それはね」
「それは……?」
そう言いながら、ジャスティスが振りかぶり……
「ぶっ……」
弾倉が空になったレールガンが、アーベントウルフの顔面に投げつけられる。
そして。
「……マヒロ!撤退!」
「あいあい!」
グローリィジャスティスとヘルムヴィーゲ・アイギスは180°旋回し、スラスターを点火。
そのまま直進。
……詰まるところ、逃走を図ったのだ。
「なっ……!?ちょ、また逃げんのかこらァ────!!!」
反応が遅れた為に、2機は再び彼方へ。
これ以上突き放されぬ様、ガロウは再びアーベントウルフを走らせるしか無かった。
悠々と
おもむろに、ユイは直進しながら照準を上空へ向けた。
「こちらの首尾は上々……ってね!」
トリガーを引くと、大型ビーム砲マーナガルムの光条が覆い被さる木々を抜け、何も無い青空を裂いた。
(あれは……ユイ先輩の合図!)
明後日の方向へ放たれたサンドイッチ色のビームは、アオイの目にも映っていた。
それは、予め取り決めていた合図……丁度、今回の密林の様な合流しづらいステージとなった場合に使用する事を想定していたものだ。
アオイはそれに応え、そっとシールド裏に忍ばせていた信号弾を打ち上げる……これで、お互いに凡その位置を掴めるであろう。
次の瞬間、ビームの弾幕がガンダムスターライトに殺到した。
「ここで墜とす……!」
「ま、待てぇー!」
ヴェテルノ・ガルスとカルドゥス・ジャジャの射撃だ。
当然ながら、此方でも追いかけっこは続いていた。
気を取り直し、レバーを動かすアオイ。
それに合わせ、スターライトはステップを踏む様に、ひらりはらりと弾幕を躱す。
その勢いのまま急旋回……追手の2機を正面に捉え、2丁のライフルの照準をビタリと合わせた。
そして、すぐさまトリガーを引き絞る。
───────ガチリ。
両のライフルは金属の噛み合う乾いた音を立て、搾り滓の様な光の粒子をマズルから吐き出し、それは空気中に消えてゆく。
コンソールから、甲高いアラートが鳴り出す……
「……弾切れ!?」
「……!」
「ミカゲ、好機だ!詰めるぞッ!」
もう射撃は飛んで来ない……そう判断したレオとミカゲは、格闘戦の体制に。
それに対し、アオイはスラスターを吹かし滑るように後退しつつ、追手に向け2丁のライフルを投げつける。
見え見えの投擲など、当たりはしない……が、回避は強制させられる。
「っ、格闘戦で……!」
その隙に、スターライトがシールド裏から二刀のサーベルを取り出し、発振。
接近する2機のMSを見据える……!
「ふっ!」
「やぁっ!」
ビーム・ソードが断ち切らんと振るわれ、ビーム・ベイオネットが穿ち抜かんと突き込まれる。
それも、1度や2度では無い……確実に仕留めるべく、光刃が白いガンプラに幾度となく襲いかかる。
(かなり、速い……!)
アオイは後退しながらもステップにより回避を行いつつ、スナップを効かせた二刀で直撃コースは器用に捌いていく。
スラスターの推力を活かし離脱する事も出来なくは無いが、迂闊に手を緩めればビームの刃は容赦なく身体を引裂くであろう……ガルスとジャジャの太刀筋には、そう理解させるに難くない素早さと鋭さがあった。
故に、ギリギリの駆け引きに応じざるを得ない。
「……決める!」
敵を貫かんと、鋭い刺突が2機同時に繰り出される。
切っ先はスターライトの胴へ吸い込まれてゆき……
───────バチリ。
「「!?」」
弾かれた。
突如としてシールドからサーベルが発振され、刺突を掻い潜る様に斥けたのだ。
「しかし───────」
その動揺の間隙を見逃すアオイでは無い。
右手のサーベルが素早く振るわれ……
「───────速い、だけでは!」
「……っ!」
「う、わっ……!?」
ビーム・ベイオネットの長柄。
それを保持するカルドゥス・ジャジャの右手首。
ビーム・ソードを手にしたヴェテルノ・ガルスの左手首。
それらを、纏めてずばりと断ち切った。
───────ガツン!
「きゃあっ!?」
更に、弾切れのギャンシールドを蹴りつけて距離を取る。
カルドゥス・ジャジャは、突然の衝撃に尻餅を着く他無かった。
「逃がす、ものか!」
足を止められた味方を後目に、ヴェテルノ・ガルスが再び詰め寄る……今度はツメを揃え、右肘を引き絞る。
そして、勢い良くバイス・クローが突き出された。
しかし……届かない。
打撃力に優れるクローだが、威力と引き換えにリーチは腕の長さ分しかない……一般的なサーベルよりもかなり短いのだ。
スターライトは、ただ後退するだけで容易に射程外に逃れる事が出来た。
次の瞬間、バイス・クローががばりと開かれ……閃光を湛えたビーム・カノンの砲口が顕となり───────
「っ!?危……な、いっ!」
───────雷鳴の様な唸りを上げ、チャージショットが吐き出される。
仰け反る様に身体を倒し、間一髪で直撃は躱すものの、飛び散るメガ粒子が純白の装甲にポツポツと焦げ跡を付けた。
「これも避けるか……!?」
スターライトはその体制のまま咄嗟に身を捻り、シールドを突き出された右腕に叩き込む。
丁度肘関節辺りにブレード状の先端部が突き刺さり、ハイゴッグ型の右前腕が首の皮一枚……否、コード1本繋がった状態で切り離された。
これでヴェテルノ・ガルスは両腕を失った……攻撃能力のほぼ全てを喪失したと言って間違いない。
その場に立ち尽くすガルスと入れ替わる様に、今度はカルドゥス・ジャジャが接近。
アオイは地面すれすれを背泳ぎの様に飛行していたスターライトを立て直し、迫る敵を見据える。
ジャジャはシールドを捨て、左手でビーム・ベイオネット……柄の後部を断たれたものの、機能は死んでいない様である……を携えていた。
「やああああぁっ!」
再び、突き込みのラッシュが襲い掛かる。
その姿は、ベースのR・ジャジャの前身たるギャンの様。
素早さと鋭さは、先程よりも更に磨きがかかっていた。
再び、サーベルでベイオネットを捌き始める……その瞬間。
「……アオイ、聞こえる?」
「ユイ、先輩!もう近くに?」
「聞こえてるみたいね……そうよ、到達まで後10秒程度。準備して!」
「はい!」
プランB迄を完遂……残るは、プランCのみ。
プレッシャーとビームの雨霰に晒され続け神経をすり減らしていたアオイだが、王手まで残り数秒と言う吉報を耳に口元を僅かに綻ばせる。
こうして口元を緩めども、手は決して緩めない……獲物の数の差を感じさせぬ暴風雨の様な連撃を捌いていく。
先程と状況的にはそう変わりは無い……が、アオイの心は確実に軽くなっていた。
「あと7……6……5……」
「こ、このっ、このっ……このぉ!」
それと対称的に、ミカゲは焦りに呑まれていた。
全力を挙げての乱れ突きだと言うのに、まるで届かない……加えて、幾らかの重圧から解放されたアオイの動きを見て、そのパフォーマンスが向上しているかの様に感じたのだ。
ただでさえ手が付けられなかったのに、まだ上のギアがあるのかもしれない……その疑念が、なんとしてでもこのガンダムを此処で討てと、少女を駆り立てる。
焦燥そのままにらしくない喚き声を漏らしながら、視線は目まぐるしく動く手元に奪われていく……
「4……3……」
「ふっ……!」
「あ!?」
視界が狭まっていたミカゲは、剣戟の中でおもむろに放たれた蹴り上げに反応出来なかった。
スターライトのつま先がマニピュレータを弾き、堅く握り締められていた指が綻ぶ……当然、ベイオネットは宙を舞った。
素早く残心をとると、スターライトは全力でバックブースト……カルドゥス・ジャジャを突き放す。
「2……」
(此方も、クリア───────)
全ての条件をクリアー。
後は、プランC……アオイの“切り札”により、アーベントウルフに引導を渡すのみ。
さすれば、手負いの2機など造作でもない……チェックメイトだ。
“切り札”は一応ビーム射撃に分類される為、一見無茶に見えるプランBにより、Iフィールドジェネレーターを破壊する事で撃墜しきれぬ可能性を潰す必要があった。
更に、確実に事を成す為にアオイは、シールドによるガードを意識的に避けてきた。
緩みかけていた気を改めて引き締め、“特殊システム”の発動をスタンバイ───────
……ガシッ。
ズバン。
「1……」
「へ……?」
───────アラート。
甲高いビームの発砲音と破砕音がアオイの左耳を劈き……視界が揺れる。
「な……!?」
視線を上げると、アオイの目には信じられない光景が飛び込んできた……その目が、驚愕で見開かれる。
それは、赤く融けた切断面を晒す青い盾を括り付けた白い腕……宙に浮かぶ、ガンダムスターライトの左腕。
それと……空を海蛇の様に泳ぐコード……否、“ワイヤーで繋がれた”ハイゴッグのバイス・クロー。
「……0!アオ……イ……」
グローリィジャスティスとヘルムヴィーゲ・アイギスが、カウントぴったりに姿を現す。
そのすぐ後ろには、アーベントウルフも追ってきているだろう。
作戦が成就する……そう信じて疑わなかったが故の不敵な笑みが、砕かれる。
……これみよがしに、ヴェテルノ・ガルスの隠し球……準サイコミュの有線クロー・アームからビーム・カノンが放たれ、スターライトの左腕とシールドを纏めて穿った。
「な、ななな……」
「っ……すみ、ません……!」
「なんですってえぇ〜っ!???」
密林に、ユイの絶叫が木霊した。