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1時限目前は大変だったが、滞り無く午前の授業は終わり、生徒達は昼食時間を迎えていた。
昼の休み時間に解放される食堂は広く、複数人で囲めるテーブルが幾つもあり、購買もこの部屋の中に存在する。
既にテーブルの殆どが埋まり、購買にもパンやジュースを求める学徒達の行列が出来ていた。
そんな人混みの中、行列先頭の少女が会計を済ませ、紙パックと袋を抱えて待ち人2人と合流していた。
「……買えたよ、アップルパイ!」
「まだあって良かったねぇ」
「ああ。アップルパイに限らず、購買のパンは美味しいぞ」
「そうなんだ……お弁当もあるからあんまり食べられないけど、ちょっとずつだけど試してみようかな」
アオイとイナホ、ユウヤの3人だ。
購買で必要な物だけ買い、教室で昼食を摂る予定な為、揃ったと共に3人は他愛も無い会話を交わしながら歩き出す。
「……へぇ、ユウヤくん、写真撮るのが好きなんだ」
「ああ。綺麗な物を撮るのも楽しいし、人の笑顔を収めるのも好きなんだ」
「こやつのは親父さんから受け継いだ筋金入りでなー。お下がりだけど一眼も持っとる。その一眼を、取材目的なら持ち込めるからって部長さんに丸め込まれて、新聞部に入れられてるんやけど」
「……部長はいい人だぞ?」
「そうなん?」
「ああ、いつも飴玉をくれる」
「いや子供か!」
「へぇ、一眼レフかあ……私も、一時期憧れたなぁ」
「アオイ、写真に興味があるのか?」
「えっ!? あ、まあ、うん。趣味……の物を、たまに撮影したりする、かな」
「意外やな。アオイみたいな娘が一眼なんて無骨なもん欲しがるのは」
「あ、あはは……」
「……ああ、そうや。新聞部云々で思い出したけど、アオイは部活どうするん?」
「……それは、まだ決めてない、かな」
面倒見が良く察しの良いイナホは、部活の話になった途端アオイの顔に差した影に気づく。
(前の学校の部活でなんかあったんかな……?)
「決まっていないのなら、いい話があるのだけれど」
唐突に掛けられる声。
3人の後ろからだ。
そこに居たのは、黒髪ロングのスタイル抜群、つり目で勝気な笑みを浮かべた美女と、くせっ毛をサイドテールに結わえた……身長は低めだが控えめに言ってでかいモノを持つ、ゆるゆるとした雰囲気の糸目の女子の2人組。
アオイ達と同じ学園指定のブレザーを着ているので学生だが、アオイが見た事の無い顔だった。
「……えっと、貴女方は?」
「3年、模型部部長の
「同じく模型部。部員で2年の
模型部……そう耳にした瞬間、温和だったアオイの表情が少し強ばった。
「……アオイ?」
「模型部、ですか……模型部の方々が、私に何かご用ですか?」
「……“蒼の彗星”」
「あおの?」
「すいせい?」
「! やっぱり……」
「西東京地区最強、とも謳われた貴女を見込んで、スカウトに来たの。私たちは」
身構えている時に死神は来ない、とはよく言った物だと……アオイはそう思った。
「……アオイが最強? 何の話なんだ?」
「“ガンプラバトル”よ」
「それ、弟たちもハマっとるって言ってたな。何かのゲームですかね?」
「ゲーム、という認識で間違いないわね……ガンプラバトルは、文字通り自分で作り上げたガンプラでバトルをするゲームよ。世界的に人気で、全国大会に世界大会も開催されているの」
イナホとユウヤは、ぶっちゃけガンプラがなんなのかよく分かっていなかったので、イマイチ話に着いてこれていなかった。
「アカツキさん。是非、貴女に模型部に来て欲しいわ。全国大会を勝ち上がるのに、貴女の力が必要なの。……ウチは、バトルシステムも塗装ブースも完備しているし、部費で道具や最新ガンプラは一通り揃えられる。各種模型誌も古いバックナンバーまで保有してるわ」
「それに、部室でお菓子食べても怒られないよ〜」
「それはセールスポイントじゃないでしょう!? マヒロは静かにしてて……おほん、どうかしら?」
「……それは凄く、魅力的ですね」
「でしょう?」
アオイとしては正直な所、最後のひとつ以外モデラーとしても、ガンプラファイターとしても至れり尽くせりな待遇、揺らがなかったとは言えない。
……しかし、アオイの回答は1つだ。
「ですが、謹んで辞退させていただきます」
「うんうん、そうよね。……うん?」
「えっ? やなの?」
ユイとマヒロの2人にとっては意外や意外。
答えはNOだった。
何故か2人は、必死になり捲し立てる。
「ちょ、ちょっと待って!? 本気なの?」
「はい、ですから辞退させていただきます、と」
「えぇ〜っと、もうちょい考えてみてもいいんじゃない? ほら、多分決めるまで多少は猶予あるっしょ」
「ガンプラバトルをしなければならないなら、答えは一緒です」
「え……えぇ!? つい最近までバトルやってたんじゃないの!?」
「はい。ですけど、辞めねばならない理由が出来たんです。言いたくはありませんが」
「ちょ、ちょっと……その理由ってのも考え直してみたりとか」
「ですから……
私、ガンプラバトルはしません!」
「「ええ───────っ!?」」
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それから数時間。
午後の授業も普段と変わりなく敢行された後、学徒達は放課後……部活動の時間を迎える。
紅葉学園は生徒の自由の尊重をモットーに、かつ特に芸術面に関して特殊な事を教えられる教師も多い為に、部活動としては珍しいものも幾つかある。
模型部もその1つだ。
運動場から少し離れた脇、校舎との間かつ学園敷地の端と言った位置に、模型部部室であるプレハブ小屋はある。
その中では3人が椅子にかけて会話を交わし……主にそのうちの2人によって、重い空気が流れていた。
「「はぁ……」」
それは、模型部部長のユイと部員のマヒロ。
あの場では結局、「まだ昼食を摂っていない」と言う理由で躱されたのだった。
「仕方が無いだろう。本人が首を横に降るならどうしようもない。
言いたくないという事情も、初対面の我々が問い質すのも違うだろう」
そう言うのは、頭を抱える2人とは別の人物……模型部顧問を務めるブロンドの美人教師、
「もっとも、かつてファイターだった身としては……彼女、才能を腐らせるには惜しい、とは思うがね」
教職に就いた事で一線を退いたが、キリタニはかつて世界レベルのガンプラファイターだった。
……故に、模型部の指導者としてこれ以上無い人材だ。
「……アタシたちが全国大会を勝ち上がるには、あの娘の様なファイターが必要なんですよ」
「それでも、だ。無理強いは良くない」
「わかってはいますけどねぇ……ウチ、力不足ですし」
「“それ以前”の問題もあるわ。あの娘が入ってくれなかったら、アタシたちは……」
しかし、何やら状況はよろしく無い様だ。どんよりとした空気が部室を埋めている。
「それについては、私の方でも手を打っている。なんとか……必ず、なんとかする」
「「……」」
「……おっと、そろそろ職員会議の時間だ。席を外す。
帰宅するのなら、明かりとエアコンは切っていってくれ」
そう言うとキリタニ先生は手際良く座っていたパイプ椅子を畳んで片付け、部室を後にした。
……キリタニ先生が行ったことを確認した2人は、頭を抱えるのを止め話し合う。
「……で、どうするんです? なんとかするとは言ってましたけど、
本当にどうにかなるのか」
「なんとかなるなら1人くらいもう来てるわよ。アタシたちがなんとかするしかない」
「って事は、やっぱりアオイちゃんですかねぇ……あれですか、欲しい物はなんでも手に入れる、とか」
「ちょっと違うわ……欲しい物は、“何がなんでも”手に入れるの。アタシは」
そう語るユイは、八重歯を剥いた……所謂、悪い笑みを浮かべていた。
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「……できた!」
その日の夜。
無事に初日を終え帰宅したアオイは、夕食を済ませた後、一心に机に向かっていた。
行っていた作業は、たった今一段落迎えたようだ。
弄っていたのは、今朝もアオイが声をかけた人型……ガンプラだ。
今朝はバラバラだった右腕が組み上げられ、五体満足となっている。
「武装はまだ、だけど……本体は完成、っと」
ガンダムとしてはオーソドックスに近い、大振りな背負い物等の無い、角張った細身のシンプルな形状。
しかし、その背面にはバックパックに3基、ふくらはぎに1基ずつのスラスターが仕込まれており、高機動型である事を主張している。
そして……バックパック上部には、スポーツカーのリアウイングの様なフィンが立ち、胸部には、角張ったブロックのラインに溶け込んだ「A」の字を象るメタリックグリーンのラインを持つ。
そう言った、機動戦士ガンダムAGEに登場するガンダムの特徴を持ちつつも、そのどれもとは違った相貌のガンプラ。
ミキシングビルドを主体とした、アオイのオリジナルガンプラだった。
「誕生おめでとう……私のガンダム、“スターライト”」
電灯に照らされたのか、主人の祝いの言葉に反応したのか。
メタリックグリーンの双眸がキラリ、と輝いた。