「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙! また負けたぁ!」
「これで今日5回目、ですね」
「通算で30回目ね」
「結構詰まってるんですね……」
「アオイはこれやった事ある? アタシはここ1発だったけど」
「配信中のは、辞める前に全部やりましたね。このミッションは、私も1回でクリアしました」
「あう……うちやっぱ才能無い……」
目に見えてしょんぼりするマヒロ。
このミッションは、全国レベルなら出来て当たり前とされる物。
実際、全国大会はカジュアルな対戦よりも環境が高速化しているとされ、3on3の小隊チーム戦である為に、個の実力も決して無視出来ぬファクター。
予習としては、うってつけだった。
しかし……マヒロは何度挑戦しても越えられない。
マヒロには、これでは足を引っ張るだけだという自覚があった。
ユイとアオイの評価としても……このままだったら厳しいだろう、で一致していた。
「バスターソードさえ当てれれば、ケンプファーなんぞ一撃だと思うのだけれど、ねぇ」
「当たんないから詰まってるんすよぉ……」
「……ケンプファーは速いだけでなく、小回りも効きますからね。大振りすぎる武装だと、厳しいみたいですね」
「うちが下手なだけだと思うんだよなあ……うーん」
「バスターソードはともかく……マヒロ先輩、お上手な所もありましたよ」
「え?」
アオイの言葉に、何時も半開きの目を丸くするマヒロ。
「防御、ですよ。相手の武器による受ける受けないの判断や、衝撃の受け流し方。とっても上手でした」
「そ、そうかな……えへえへ」
「でも、受けるだけじゃ勝てないわよ?」
「バスターソード一本のみ、ならそうですね。
……私にいい案があります。
マヒロ先輩、1回、バスターソードを捨ててみませんか?」
《You have control. Mission start!》
「うおおおおお!? やば、はやーい!」
本日6回目のケンプファーチャレンジ。
マヒロのヘルムヴィーゲは、アオイのアドバイスに沿って象徴的な装備のバスターソードを敢えてオミットし……代わりに、右手にグレイズリッターの持つナイトブレードを、左手にグレイズ用のシールドを装備していた。
元の手では保持できないため、マニピュレータもビルドナックルズ角の大サイズに換装されている。
装備が軽量化した事で、重い武器を前提とした出力に余剰ができ、それが速力に影響しているのだ。
「撃ってくるんでしょ……むん!」
2発飛んできたバズーカ弾の、1発を回避しもう1発を盾で受ける。
しかし盾のサイズと重量の違いにより、大剣で2発受け止めた時と同じくらいの衝撃はあった。
それでも、ヘルムヴィーゲは止まらない。
「どっせえええええい!」
スラスターを強引に吹かし、肉薄。
その勢いのまま、盾で殴りつける!
よろけたケンプファーに間髪入れず、右手のブレードも振るうと……その左手が、ずるりと落ちた。
「……やったっ! 初ダメージ!?
よぉーし、このままやっちゃうぞ───────」
───────とはいえそう甘くもなく。
ケンプファーは片手で既にショットガンを突き付けていた。
《Battle ended! Mission failed!》
「あ"あ"ーおっしぃー!」
「本当に惜しかったわね。凄いじゃない、マヒロ!」
「やっぱり、マヒロ先輩はこういう装備の方が合っていそうですね」
通算31回目のチャレンジは、再びショットガンからのシュツルムファウストのコンボを食らった後、ダメージで割れた盾ごとサーベルで貫かれる形での敗北となった。
しかしながら、ナイトブレードで左手を切り落とし、シールドバッシュも最初の1回だけでなく数度叩き込む事に成功……このミッションでは軽装甲気味に調整されているケンプファーも、満身創痍であった。
1度も攻撃を当てられなかった頃より、大躍進であろう。
だが、それでも勝てなかった。
と、なれば……もう少々カスタムする必要がある。
「さて…… ここからが大事よ、マヒロ。
……今の盾と剣装備、物足りない所はあった?」
「うーん……やっぱり、もっと大きくて頑丈な盾が欲しいですかねぇ。この盾も使いやすいんですけど、結局壊れちゃいましたし。その点大剣なら心配なかったんで」
「壊れちゃった事が、決め手でしたしね……でも、ヘルムヴィーゲは肩が横に出ているので、あまりにおっきな盾は持てないですね」
「それは確かに。左だけ肩パッド外しちゃう?」
「関節剥き出しにしたら、そこを狙われるだけよ。全国は、そういう事が出来るファイターも居る世界なんだから、それはやめときなさい」
あれこれと意見を交わす。
全ては……マヒロの才能開花の為。
「ねぇ……これなら、どうかしら?」
そう言ってユイが完成品の棚から持ち出して来たのは……前方に張り出した鬼の様な角が特徴的な、全身真っ赤なガンダム。
バトルに使用する1/144よりもふた周りほど大きい1/100、マスターグレードのテスタメントガンダムだ。
因みにユイの作品である。
「あ、カブトムシの羽みたいなの背負ってるやつっすね」
「カブトムシ……?」
「どういう憶え方よ。まあ、それはそれとして……
本題は、これね」
当のカブトムシの羽と称されたパーツ……それをガチャガチャと動かすと、本体の腕よりもかなり巨大な第3の腕、クローアームが出来上がる。
ディバインストライカーと呼ばれる、テスタメント専用のストライカーパックだ。
この他ジェットストライカーの様な飛行形態と、MG独自のウイングをブレードとしたハサミ形態にも変形する変幻自在のバックパック。
だが本題は……ユイが指し示したのは、クローよりも可変機構よりも、それを繋ぐアームの方だ。
「……なるほど、第3の腕で盾を保持する事で、本体の装甲を削らずに取り回し出来るようにする……と、言う事ですね?」
「そういう事。これなら、両手がフリーになるから……今の盾と剣装備、そのままでイケるわよ」
「三本腕ってコトかぁ……それって操作できるんすかね?」
「ドラグーンなんかに比べれば大したこと無いと思うわ」
「腕が複数ある機体って、メインで操作する腕を自由に
「へぇ……うん? アオイちゃんはなんで知ってんの?」
「そういう機体を、触った事があるんです。コテツジェノアスって言うんですけど」
段々とカスタムの構想が固まってきている。
そんな最中、話しながらもマヒロはテスタメントをまじまじと観察していた。
「……手に持つ盾に仕込み武器、それにハサミ……ちょっと欲しいかも」
「良いじゃない、積みましょ」
「ヘルムヴィーゲの積載量なら、問題ありませんね。盾に関しては、ガルバルディリベイクの滑腔砲入りの盾とかどうでしょうか?」
「ふむふむ、とりまそれ採用!」
「大盾とハサミを合体させるのはどう?」
「あっ、盾からぐわっと出てくる感じっすかね? めっちゃ良いじゃないっすか!」
「それなら……」
アオイは机に置いてあった……先程ユイとマヒロが首に掛けられていたホワイトボードの1枚を手にし、図を描き込む。
「……こんなのは、どうですか?」
「ふむ……盾を3つのパネルに分けて、小さいアームで繋ぐのね」
「それで、両サイドのがガバッと開いてハサミになる、って事!?
かっこいー!」
「ハサミだけでなく、盾の横幅も任意で広げられますし……隙間から攻撃を差し込む、なんて事も出来ますよ。
最近見ているアニメから発想を頂きました」
「ふふ、面白そうな改造プランじゃないか。私も混ぜてくれないか?」
「あっ、キリタニ先生」
やいのやいの言ってるうちに、キリタニも用事を済ませいつの間にか帰還していた。
「プランはもう大体固まっていますよ、先生」
「なら、今から制作か? 手伝うよ」
「そうですね、まだ時間も早いですし……やりましょう!」
「よっしゃ!」
……その日、模型部3人は興が乗ってしまい遅くまで制作活動をし、最後の教師が帰るギリギリに学校を締め出されたそうな。
3人はキリタニ先生が責任を持って家まで送ったとの事。
───────
「「「出来た!」」」
「お疲れ様。とてもいい出来だよ」
2日後。
4人で協力し改造から塗装までの全ての工程を終え、1つのガンプラが生まれ変わっていた。
ヘルムヴィーゲ本体の形状はあまり変わっていないが、マヒロがサボっていた基本工作とスミ入れ等の仕上げがやり直されブラッシュアップされている。
右手にはナイトブレード、左手にはガルバルディリベイクのシールドを装備し、どちらも本体カラーに合わせたリカラーが為されている。
そして……一際目を引く、背中の真ん中から伸びる腕で保持された大盾。
ヴァルキュリアバスターソードを素材に制作されたそれは、無骨な形状で構想通りのギミックが詰め込まれている。
「これがうちの……ヘルムヴィーゲ……!
ありがとうアオイちゃん! ユイ姫先輩! キリタニ先生!」
「私はアイデアを出しただけですし……」
「私達も、手伝ったに過ぎないわよ。正真正銘、貴女のガンプラよ、誇りなさい」
「うん……うん!」
「ふふ……では、さっそく試運転と行くかい?」
「もちろん!」
《You have control. Mission start!》
舞台は三度、リボー・コロニー。
追われるケンプファーと、追うヘルムヴィーゲというデジャヴを感じる構図となっているが、状況は大きく違った。
「それそれそれぇ!」
ヘルムヴィーゲが、手に持つ盾に仕込まれた滑腔砲を連射。
そういった手数が増えた事で、ケンプファー側もただ撒くだけの動きをするにはいかなかった。
何より……
「追いついたよ!」
きちんとした基本工作や塗装により、ヘルムヴィーゲ本体の性能も一段と向上していた。
重厚な大盾を持ちながらも、ケンプファーに引けを取らぬ速力を叩き出す……!
追いつかれたならばと、ケンプファーもくるりと反転、ヘルムヴィーゲに向き直り……間近に迫っているヘルムヴィーゲに、ショットガンを一射。
「それは、効かないんだよね!」
だが弾雨は全て、大盾に跳ねられる。
そしてそのまま……重量とパワーを活かし、大盾を叩き付ける!
ケンプファーは間一髪、その場でジャンプする事でそれを回避。
そしてお返しにと、左手でシュツルムファウストをひっ掴む。
「! うわっ!」
そしてこちらも間一髪、ヘルムヴィーゲが引き戻した大盾でシュツルムファウストの弾頭を受ける。
……大きく、マヒロの視界が揺れるが、機体の損傷はほぼ無かった!
「……! この盾、凄いよ!」
大盾のメイン工作を担当したのは当然マヒロだが……制作には一家言あるユイとキリタニの指導もあり、可変ギミックもありながら、その防御力は非常に高レベルな物となっていた……!
空中でバックブーストをかけ、距離をとって着地するケンプファー。
だがそこを狙い、盾の滑腔砲が火を噴く……!
「当たれぇ!」
連射弾が着地硬直中のケンプファーに突き刺さる。
ショットガンに、背部にマウントしたジャイアントバズが叩き落とされた。
「……ここだ! 突っ込むよ!」
手数が大きく減った事を確認し、マヒロは一気に距離を詰める……!
向かってくるのを認識し、ケンプファーは慌てたように右のシュツルムファウストを射出。
大盾の表面で弾頭が爆ぜるが……ヘルムヴィーゲは全く意に介さない!
ケンプファーは撃ち終わったシュツルムファウストの棒をリリースし、サーベルを抜刀。
迫るヘルムヴィーゲに備える……
「どっせえぇぇい!」
……が、駄目。
振るわれる大盾の威力に、ビームサーベルでは太刀打ち出来ない……刃は散らされ盾に突き立たず、逆に突き出した右腕が、大質量の大盾にサーベルグリップごと叩き潰される!
衝撃でケンプファーは大きくよろけ……
その隙に、潰れた右腕から右肩辺りに、ハサミの様にガバッと開いた大盾が食らいつく。
ケンプファーはもう、逃げられない……!
「これでどうだああぁぁぁあ!!!」
そしてここぞとばかりに、軽いナイトブレードがきらめく。
ブレードは袈裟懸けに振られ……ケンプファーは、胴体が左肩から右腰への斜め一文字に切断される。
1拍置いて、ずるりと上半身が滑り落ち……落ち切る前に、濃紺の機体は爆発四散した。
《Battle ended! Mission completed!
Congratulation!!》
「ハァ、ハァ……や、やった……ほんとに、うちが……?」
「やったじゃない、マヒロ!」
「おめでとうございます、マヒロ先輩!」
「ナイスファイトだった。私も、見ていて熱くなってしまったよ」
「あ、はは……うち、やったんだ……!
やったー!」
(マークさん……ふふ、君は彼女が新しい風を吹き込んでくれるだろう、なんて言っていたが……本当にその通りになるとはね)
アオイのアイデアを切っ掛けに、マヒロは確かに、自分のスタイルを掴んだ。
まだ駆け出しだが……幸いにも、環境には恵まれている。
これから、彼女はぐんぐんと伸びるであろう。
「あとはアオイちゃんが全国出てくれれば百人力じゃない?」
「そうね、私たち3人なら……全国制覇も夢じゃないかもしれない……!」
「それはそれ、これはこれ、です。やりませんからね」
「だめかー」
「そこはノリなさいよ」
「のりません!」
そうは言いながらも、ギスギスとした雰囲気は無く。
あはは、と笑う彼女たちの様子を見ると、寧ろそういう戯れの様なものなのだろう。
出会いこそアレだったが……共にガンプラ制作をして、通じ合える物があったようだ。
確かに……絆とも言えるものが、3人の間には出来ていた。
めでたしめでたし。
……これで、話は終わらなかった。
コンコンと、部室のドアをノックする音が鳴り……すぐさま、ガチャリと音を立ててドアが開く。
「失礼。おや、本当に部員が揃っているようだな……」
「……! 貴方は……」
この人物が訪れた事で……事態は、急変していくのだった。
本作EDイメージ曲:NEXT COLOR PLANET
《次回予告》
宇宙を染め上げる炎、轟く砲声。
それは……アタシたちの目覚めの合図よ!
さあ、マヒロ、アオイ、行くわよ。
あのイヤミな奴をギャフンと言わせてやりましょう!
次回、ガンダムビルドリンカーズ《希望の糸を、手繰って》
新たなるチーム、飛べ!
……ええと、あの、チーム名まだ決まってないじゃない!?
──────