甘えて泣いている場合では無いらしい
危機は未だ、心を蝕む
《第3話 希望の糸を、手繰って》
「……はぁ〜」
「どしたんアオイ。最近ツヤツヤしとったに、今日はえらい憂鬱やね」
「具合でも悪いのか?」
現在は朝のSHRが終わった後。
……いつぞやの様に、アオイは自分の机に突っ伏し、憂鬱なため息をついていた。
「……ちょっと、うん、部活動で予想外の事があってね」
「まーたあの高飛車先輩に無理言われたんか?」
「そうなのか?」
「ええい、そうもなればウチが黙っとらんで!」
「いや、ユイ先輩はそこまで高飛車な感じじゃ……
それに、無理というかやるべき事というか……」
───────
時は
「! 貴方は……!」
「失礼と言った」
模型部部室に訪れたのは、仕立ての良いスーツに身を包んだ初老の男性。
癖のついた髪と長身痩躯、こけた頬に鋭い目付き。
その姿はまるで……
「「出たな、マ・クベ教頭!」」
「私はマカべだ! 何度教師の名前を間違えば気が済むのだね、君達は!?」
(───マカべ教頭先生、他の人にもマ・クベさんみたいって思われてたんだ!?)
アオイは自分の感性が肯定されたような、それはそれで先生を乏している事になるのではと複雑な心境だった。
「……教頭先生が態々出向かれるとは。ご覧の通り、期日までに部員は揃いましたが、何かご用が?」
「ああ。1つ、部長のテンジョウ君に確認を取りたくてな」
「……アタシ?」
「部活動の主な活動方針を決めるのは、部長だ。
模型部のそれを、今ここで聞きたい」
ユイは一瞬キョトンとした後……苦笑し、それから胸を張り堂々と言った。
「模型部の活動目標は、“ガンプラバトル全国大会優勝”!
それ以上でも、それ以下でも無いわ!」
「ほう、そうか……」
アオイがバトルをやらなくとも、そこの方針は変わらない。
それはユイの念願であり、マヒロのヘルムヴィーゲをカスタムをしたのだって、その為だからだ───────
「───────ならば、模型部の活動を認める訳にはいかんな」
「……えっ!?」
「出たわね〜、何時ものガンプラ嫌い」
「……紅葉学園は、生徒の自由を尊重するのでしょう?
活動内容で部を制限するなんて事、それに反するのでは?」
部室は一気に剣呑な空気に包まれた。
ユイが教頭を睨みつけるが、当人はそんな謂れなど無い、と言った様子だ。
「敢えて言わせてもらおう、そのガンプラバトルとやらが世間一般にどう見られているか、考えたらどうだね?
全国大会だの、Eスポーツだの言ったとて、たかが
模型制作は意義があるとしても、部全体が遊びに現を抜かすようではな」
「……」
(……古い地球人め)
「それに……聞けばその全国大会とやらでは、“我が校の模型部はテンジョウ君が入部してから成績が落ちた”と聞いているが?」
「……っ!」
「教頭、それは……!」
ギリ、と歯を食いしばる音が鳴る。
一触即発の空気。
だが、非難の声を上げようとしたキリタニ先生を手で制し……ユイは1つ深呼吸。
「……それは事実よ。でも、そうだとしても……
……ここに居る3人でなら、結果を出して見せるわよ」
「えっ」
「ほう、言うではないか」
「えっえっ」
ナチュラルに巻き込まれてギョッとしたアオイだが、空気は読めたので割って入りは出来なかった。
後でこの事をちょっとだけ後悔したが後の祭り。
「ならば、本番の前にそれが出来るという証明をしてもらおうではないか。
他校にも、そういうチームがあるのだろう? 我が校のスペースを貸し出しても良い、他校との練習試合を見せたまえ」
「……そういう事でしたら。こちらでセッティングをしましょう」
「設備は準備してもらおうか。……そうだ、君たちの相手だが、私の伝手にそういったチームがある事を思い出した。彼らと試合をして貰おうか」
「へぇ、そういった事には疎いと思ってましたが、意外とお詳しいので?」
「何のことはない、古い友人の伝手だ。
「……! トライエース!」
「大尉の所か……!」
「確か、それは……」
「えっえっ、強豪だったりする?」
「昨年、静岡で行われる全国大会本戦にも出場した……元岐阜県代表です」
全国大会は、母数の多い東京と北海道のみ2地区に分け、各県で予選が行われる。
本戦は全50チームが集い、夏季休校時期に合わせて約1週間をかけて行われるのだ。
チームトライエースは、アオイの言った通り、昨年岐阜県代表として本戦に出場したチームだ。
「強豪じゃん!?」
「お言葉ですが、教頭。新入部員もまだ入部して数日しか経っておらず、チームとしてはまだ……」
「やれると言ったのは部長だ。そうだね?」
「……ええ、元代表なんぞ蹴散らして見せましょう」
「テンジョウ!」
「ただ、チームとして作戦を立てるなど、擦り合わせは必要。その時間は保証してくださりますね?」
「もちろんだ。2週間でいいかね?」
「充分」
それを聞くと、教頭はニヤリと口角を上げ、踵を返した。
「よかろう、先方には私が話をつけておく。
試合は丁度2週間後だ。準備をしておくように」
───────
「……という訳で、バトルをしないと部が無くなっちゃうかもしれないの」
「教頭センセ、頭固いやっちゃなーって思ってたけど……そこまでするんか」
「強いところと、いきなりか……それにアオイ、バトルは嫌なんだろう? 今からでも断ってもいいんじゃ……」
「ううん」
アオイは机から顔を上げる。
その瞳には、決意が宿っていた。
「ユイ先輩もマヒロ先輩も、キリタニ先生もいい人だった……私が苦しくても、
「「アオイ……」」
イナホとユウヤも、その意気を言葉だけでなく、心でも理解した。
「……備品とはいえシュープリスをタダで貰っちゃった手前もあるし……」メソラシ
「うん? アオイ何か言った?」
「う、ううん! 何も!」
───────
《Battle ended. Mission completed!
Congratulation!》
「お疲れぃ」
「この位なら楽勝っスね」
「……歯応えのないミッションだった」
ここは堰衛工業高校。
部室棟の中の一室……模型部に割り当てられた部室だ。
紅葉学園のそれとも劣らぬ設備の中、3人がバトルシステムに向かっていた。
今彼らが何気なくこなしたミッションは、ガンダムXをテーマにしたもの。
ダブルエックス、エアマスターバースト、レオパルドデストロイのフリーデン所属ガンダムチームを相手取る高難度ミッションだ。
「……この程度では物足りないな。もっと難しい物は無いのか?」
「分かるけどさぁ、これ以上ってなるとNPCの耐久上げる位しか無いねぇ。
単純にダルいし、オレらの基準じゃ硬さだけ上げまくっても全国のシミュレーションにはならないよ」
「何事も経験っスよ。1度やってみませんか?」
「えー」
「そんな事はしなくてもいいぞ、貴様ら」
「あっ、“教官殿”。」
物足りない様子だった彼らに声をかけるのは、模型部顧問。
オールバックの髪型が特徴的な偉丈夫だ。
「2週間後に、練習試合が決まった。相手は……紅玉の女王率いるチームだ」
「へぇ、去年は予選1回戦で敗退した彼女ですか?」
「……ちょっと待ってください。紅葉学園ですよね?おれ達に釣り合わないんじゃないっスか?」
「そんな事はやり合ってみなければ解らんだろう。それに決まった事は決まった事だ。
理事長の友人である、紅葉学園教頭殿からの要請だそうだ。俺からも強くは言えん」
「……なんだっていい。ただいつも通り、全力を持って戦場を制圧する。それでいいでしょう、教官殿」
「ああ。その通りだ、ミツルギ」
彼らこそ昨年度岐阜県代表……チーム“トライエース”だ。
───────
場所は戻り紅葉学園。
現在は既に放課後であり、模型部は全員揃って会議を行っていた。
「我らが相手取る事となったトライエースだが……私から見ても、相当な強者だ。個の実力で見ると、少々分が悪いだろう」
「まあ、原因はやっぱりうちですよね〜……」
「そう悲観しなくてもいい。君のポテンシャルを引き出せれば、いい勝負には持ち込めるだろう。2週間、みっちり鍛えよう」
「……がってん!」
「あとは連携、ね。アオイ、あのガンプラは持ってきたかしら?」
「はい、もちろんです」
「あ、今回は武器持ってるんだね〜」
「丸腰で完成は流石に無いですよ」
「王道の兵装、良いわね」
アオイが鞄から取り出し机に置いたのは、先日ユイのインフィニットジャスティスを下した、ガンダムスターライト。
前回とは違い、Gバウンサーのドッズライフルと、クランシェのシールドを装備している。
マヒロのヘルムヴィーゲのカスタム機は既に机の上にあった。
そして……ユイも“相棒”を取り出した。
特徴的なリフターと天を衝くトサカを見るに、インフィニットジャスティスのカスタム機。
ツインアイをアドバンスドヘイズルの様なセンサーバイザーで覆い、両手には上下2連の銃口が特徴的なライフル。
サイドスカートにはフリーダムのクスィフィアスを装備し、リフターはウイングをオミットした代わりに、大型のビーム砲らしき物がボールジョイントで接続されている。
桜色とルビーレッドをメインとしたストライクルージュのようなカラーリングに、キャンディ塗装のルビーレッド部とメタリックの白金色のエングレービングが豪奢な印象を与え、ネイビーの差し色が印象を引き締めている。
「……!凄い完成度!」
「これがアタシの愛機、“グローリィジャスティスガンダム”よ」
「こうして見ると赤青黄で信号機カラーっすね」
「射撃戦に特化したグローリィジャスティスに、前衛のタンクとして優秀なヘルムヴィーゲカスタム……そして、アカツキのガンプラは高機動型だな?遊撃手が良いだろう」
「意外にバランスが良いわね」
模型部3人のガンプラは既に出揃っている。
奇しくも役割分担がハッキリしており、連携の為に調整をする必要も無いだろう。
「……あとは練習あるのみ、だな。まずは3on3のミッションに挑んでみるといいだろう」
その3人はキリタニのその提案に乗り、先ずは小手調べに、比較的簡単な3on3のミッションに乗り出す……が。
《Battle ended. Mission failed!》
「……」
「Oh……」
「ハハ、ハ……」
「……ユイ先輩?どうして私たちを背中から撃ったんですか?」
「……その、確実に当てれるとこだったから、つい」
「……」
「……治ってはいなかったか」
「その、まあシミュレーションはしたんですけど、ねぇ……」
ユイは1対1の勝負では無類の強さを誇る。
だが、「自分が気持ちよく撃てる」所を優先しがちなので、連携しようとすると誤射が増えるという欠点を抱えていたのだ。
今のバトルに置いても、アオイは避けられたがマヒロは何度も背中から撃たれる結果となってしまっていた。
「……これは、想像以上に難題だな……」
この時期、マヒロが1番扱かれる事になるだろうとキリタニは予想していたが……その実1番悲鳴を上げていたのはユイだった、と後に語っている……