魔界の国のお侍さん   作:アルジェリア

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いわゆる幕間という話です。
で、やや18禁ですね。


第十七話 「黄竜王の放埒な日々」

「内務省保安局第一室長シャーリー・アブラウ、お召しにつき、まかりこしました」

「伺っております。お入りください」

「はっ」

 

 その部屋の前に立つ2名の護衛が、ズズズ……と重そうに観音開きの扉を開き、シャーリーは中に入った。

 やがて扉が先程と同様に閉まり、もうもうたる湯気が彼女を包む。

 部屋の中は100平方メートルほど広大な浴室であり、中にいる彼女の主人は、湯気に視界を遮られていまいちハッキリしないが、それでもこの広い湯船の中央辺りにいるのは間違いないようだ。

 が――主君はどうやら一人ではないらしい。

 熱気や湯音と共に、裸の肉体と肉体が絡み合う淫靡な音と、そして隠す気のない開放的な嬌声が響く。

 

(やれやれ……)

 シャーリーはため息をつきつつ、着衣を脱ぎ捨て、湯船に足を入れる。

 まるでプールのように広い風呂なので、その中央で睦み合う主君の足元に辿り着くまで、少し歩かねばならない。

 面倒だとは思わないが、ここ数ヶ月の主君の乱行には、やはり臣下の者として一言言いたくもなるが、実際に主君を眼前に迎えた時に、シャーリーの口が諫言など発せた試しはない。

 たとえどれほど酒池肉林に身を浸していようと、その表情から緩みが消えた瞬間、反射的に死を覚悟するほどの威厳を、彼女の主君は持ち合わせているからだ。

 

 

 それがシャーリー・アブラウの仕える主――八大竜王が一柱たる黄竜王であった。

 

 

 

 かれら竜族がそれぞれ「王」を名乗るのは、その個体それぞれが強大な戦闘能力をもっているからという理由だけではない。

 実際のところ、彼らは王のごとく領地を経営し、その領民を支配しているという事実があるからだ。

『共和国』は本来、郡県制を基本とする中央集権体制であり、貴族階級による大規模土地所有を政府は容認してはいない。

 その大いなる例外こそが、彼ら竜族のコミュニティなのだ。

 むろん原則的にはドラゴン種といえど、ヒト種・エルフ種・獣人種などと同じく、『共和国』政府の前には平等に権利を認められた幻獣種という、一種族に過ぎない。

 しかし現実はそれを許す余裕を持たないのだ。

 彼らドラゴン種の持つ知性、戦闘力、そして「眷属」と呼ばれる彼らの支持集団を鑑みれば、その存在をガルーダやスフィンクス、グリフォンといった他の幻獣種と同一視することは不可能なのだ。

 無論その竜たちが、自分たちに特権を認めよと政府に迫ったような事実はない。『共和国』首脳が竜族を恐れ、はばかり、一方的に彼らのコミュニティの存在を追認したという言い方が正しいだろう。

 もっとも歴史を振り返れば『竜の里』と呼ばれる竜族のコミュニティの成立は、この『共和国』建国よりもさらに古い歴史を持っており、この広大なアーガマニア半島全域が『魔界』と恐れられてきた根本的な理由となっているという歴史的背景もある。建国当時の『共和国』政府が、彼ら竜族に法的便宜を図ることを条件に、建国への協力を取り付けたというのが、教科書に記されぬ史実といったところであろう。

 もとは竜族への信仰を核に集った宗教集団であったはずが、それも代を重ね、今では国内における純然たる独立国家の体をなしており、それが八つも存在を許しているという事実は、この『共和国』が所詮は一枚岩でないという事実を如実に示している。

 もっとも彼ら竜族の『里』は、明治初年度の鹿児島県のごとく、政府の仮想敵国として存在しているわけではない。敢えて言うなら連邦制国家の一国といった解釈の方が、その存在を理解するうえでわかりやすいであろう。

 

 その八つの『里』の大半は『共和国』の政治原則であるはずの共和制を無視するがごとく、竜王を頂点とする君主制によって運営されている。

 君主たる竜王自身を政治的に規制する憲法を持っていないため、立憲君主制と呼ぶことはできないが、それでも現人神たる「竜」を元首として戴くその国家体制は、一君万民思想を背骨に持つある種の平等思想を背景として持つため、決して全体主義国家のごとき息苦しさはもたない。

 さらに言えば、その国家システムは『共和国』のそれよりもさらに先鋭的で、実験的とも言える諸制度を施行するような一面を持ち、その政治思想は、決して旧態依然とした空気を匂わせない。

 特にこの黄竜王の『里』では産業資本が、内政・建築・軍事・国土開発などを担当する各省庁を圧迫せんばかりの勢いで成長を遂げており、それが官対民の構造的対立が年々深刻化しつつある原因となっていた。

 勿論こんな現象は、人類文明圏はもとより『共和国』内にもありえないものであり、主君である黄竜王は、それらの政治現象を面白そうに見つめるのみで抜本的な対策は講じていない。

 

 

 

「陛下」

「きたかシャーリー」

 二人の男性リザードマンを前後にはべらせ、それぞれ女性器と肛門に男根の奉仕を受けている美女が、そう言って笑う。

 黄竜王はその変身魔法を使い、妖艶かつ淫蕩な美女の姿となって、眷属相手に性戯にふけるのが、ここ数ヶ月の愉悦なのだ。

 もっとも人間種や獣人種と違って生殖に牡の精を必要としないドラゴン種にとって、いわゆるセックスはただの快感追求のための行為に過ぎない。故に、この主君の伽は、場所も、時間も、相手の性別すらも問わず、このシャーリー自身も何度か主君の褥(しとね)の相手を務めたほどだ。

 やがてサンドイッチセックスの形で主君と交わる二人は、同時に短く息を漏らし、彼らが達した――いや、イカされたのがシャーリーの目にもわかった。

 

 

 

「ズァル、ズェル、そなたたちは今宵ここまででよい。下がれ」

 

 

「「はっ」」

 その命令とともに、二人のリザードマンは主君の傍から離れ、湯船に膝をついて一礼をし、そのまま背を向けた。

 もっとも、そのうちの一人――ズェルと呼ばれたリザードマンが、去り際にシャーリーに鋭い視線を向けたことは黄竜王には気付かれなかったようだが、しかしシャーリーは何も言わない。

 むしろ、彼ら二人が浴室から退出してから、シャーリーは主君に、

「よろしかったのですか? 陛下はいまだ絶頂を迎えておられぬように見受けいたしましたが」

 と、彼ら二人のために尋ねたほどだ。

 そう問われた黄竜王も、やや苦笑いを浮かべると、言う。

「どうやら最近になってまた体の嗜好が変わったようでな。魔羅を突っ込まれてもなかなか達せぬのだ」

「で、わたくしをお召しになられたと?」

「どうせ突っ込むなら、男の尻よりも女の方が具合がいいはずだろう?」

 そう言うと、黄竜王は小声で呪文をつぶやき、そのクリトリスが変形し、一本の男根がニョキニョキと生え伸びる。

 それは、さっき主君に奉仕していた二人のリザードマンたちよりも、さらに逞しいイチモツであった。

「とりあえず遠慮はいらぬ。そなたも参れ」

 

 

 

 余談ではあるが、この『共和国』に於ける一般的な魔法とは、いわゆる風火地水の四大元素魔法が主であり、種族・階級を問わず、この国の国民はそのほとんどが、この魔法を行使することができる。

 が、竜族が使うのは、それら元素魔法に加え、一般には失伝したとされる古代語魔法であり、ナマイキが使う精神魔法もそこに含まれる。

 いま黄竜王が行使している変身魔法も、当然そこに属するものであり、その膨大な魔力を使って体細胞を自在に変化させるという、傍目にも奇跡にしか見えない術式であった。

 とはいえ、個体としての成竜本来のサイズは、体長30メートルにも達する巨大なものであるため、八大竜王と呼ばれる『共和国』の成竜たちは、普段のほとんどの時間を変身によってダウンサイジングされた肉体で過ごす。

 特に黄竜王はここ数ヶ月、この美女の姿に己の外見を固定していおり、さらに言えば、本来の竜態に戻ったことさえここ数十年ないほどだ。

 もっとも、自在に姿を変化させられる彼ら竜族にとって、己たちの外見など、もはや意味を持たない要素であることは間違いない。

 

 

 

「実はな、そなたを呼んだのは他でもない。先日の緑竜王の一件の話を聞こうと思ってな」

 そう言って笑った主君の目に、先程までの淫蕩な光はない。

 もっとも、黄竜王がこの浴室にシャーリーを呼びつけてから、時間にしてすでに数時間が経っている。

 擬似ふたなりとも言うべき姿を取る主君はシャーリーの体内に数回分の精を吐き出し、彼女はそれ以上の回数の絶頂を経験して、いまや二人の性器の結合は解かれ、彼女たちは湯舟のへりに腰掛けて、小休止の雑談を楽しんでいたところだった。

 しかし、シャーリーは意外だった。その一件なら、すでに調査報告書を主君に提供していたからだ。

「いや、私はそなたの口から聞きたいのだ。ああいう書類はどうも味気なくていかん」

「わかりました。では……結論から」

 そこでシャーリーは、こほんと一度咳払いをして息を切る。

 

 

「この『里』には、陛下のお許しなく緑竜王の幼生に手を出した者はおりませぬ」

 

 

 そう断言したシャーリーを見返すこの美しい主君の眼光は、まるで心の底の底まで見通すような透徹さを持っていた。

 が、いまさら気後れはしない。

「間違いないか?」

「間違いありません」

 無論そう言い切るからにはシャーリーにも根拠はある。

 

 この黄竜王のコミュニティの総人口は約十万。他の七柱の竜のそれと比べても平均的という程度の規模のものでしかないが、勿論そのすべての構成員が、ロボットのごとく意思を持たずに黄竜王に隷従しているわけではない。

 知性体が集団を組めば、派閥が生まれるのは人も獣人も変わらない。黄竜王の里にも隠然たる「勢力」というものが存在する。

 むろん勢力といったところで、主君たる黄竜王をないがしろにして構わないなどと考えるグループなどは存在しない。彼らは竜族に対する信仰と奉仕を何よりも誇りとして生きる者たちだからだ。

 が、その「奉仕」に対する解釈の違いによって、意見を異にする者たちの派閥があるのだ。たとえば主君がわざわざ口に出さぬ意思を配慮し、命なき令を独断で実行しかねない者たちのことだ。

 そして、シャーリーの予想通り、主君はその徒党の名を口に出した。

 

 

「ゼクスリー派の者たちは?」

 

 

 いま黄竜王が口にしたのは、『里』の武官のトップというべき軍務卿マシュー・ゼクスリーという名のリザードマンを首領とする派閥である。

 彼らはコミュニティの武闘派というべき連中であるため、もしも緑竜王の幼生に手を出すとしたら、誰もがこの者たちを容疑者リストの筆頭に上げるであろう一派であった。

 が、シャーリーは首を横に振る。

「主だった者たちに監視を付け、その言動を検分しました。その結果判明したのは、彼らはむしろ襲撃犯たちの行動に、先を越されたと悔しがっていたという事実のみでした」

「つまり、襲撃の計画自体は存在していたと?」

「……お叱りにならないであげてください。それもこれも全ては陛下のおん為を思っての行動でございます」

「ふん、心にもないことをほざきおる」

 そう言う主君に対し、シャーリーも苦笑いを禁じえない。

 ゼクスリー派は、ここ数年目立った軍事活動もなく冷や飯を食わされている軍人たちの、いうなれば利益代表のごとき側面を持ち、保安局の監視網を一手に仕切っているシャーリーとの関係は、互いに良好とはとても言えないからだ。

 

 

 もとより、この主君は緑竜王の出産の報告を聞いても、その子に対する暗殺指令など出してはいない。それは歴然たる事実だ。

 

 

 とはいえ、もしもその幼竜が無事に成長を遂げれば、その存在は緑竜王陣営における巨大なる戦力となるであろう。

 一般的に竜の幼生は親竜の膝下で薫陶を受け、その後、齢百歳の頃になってようやく巣立つという。しかし竜族という種は他の幻獣種に比べて成長が早く、五十歳にもなれば親竜から受け継いだ遺伝的能力をほぼ全て開眼できると言われており、つまり、その幼生が成長しきって巣立つまでの半世紀は、仮想敵国たる緑竜王陣営に成竜が二柱に増えるという危機的事態を迎えることになってしまう。

 黄竜王陣営の軍人派閥であるゼクスリー派が、その事態を警戒するのはむしろ当然のことであり、そういう意味では、シャーリーも彼らの幼竜襲撃計画を無理からぬものと理解はできるのだ。

 だが――結局のところ彼らは、計画を立てただけで、実際にジュピトリアムで起こったこの事件には関わっていない。

 それがシャーリー・アブラウの監視網が下した結論だった。

 

 

「なれどシャーリー、そなたは我が『里』の一人一人の行動を調べた訳はあるまい。先走った真似をしそうな者たちは他にもおるのではないか?」

「いいえ陛下、その疑問はごもっともなれど、我が監視の目は、何もゼクスリー派にのみ向けられていたわけではありませぬ。ロンフェイ派やドーベイン派にも相応の監視を放ち、つぶさに主だった者どもの動向を追わせておりました。私がさきほど御報告させていただいた結論は、それら全ての情報を入手した上でのものであります」

「ならば、それらの派閥に属しておらぬ者はいかがじゃ?」

 

 

 そこでシャーリーはようやく口ごもった。

 むろん彼女にしても、それを想定した上での調査活動も実施してはいる。

 今回の幼竜襲撃事件は、ジュピトリアム市庁によって箝口令が敷かれてはいるが、彼女の耳には既に事件のあらましは届いている。その上で判断できる事実としては、あの実行犯の四人組のリザードマンたちは、明らかにその道のプロだということであり、そんな連中を雇える者たちもまた、それ相応の経済的基盤を所持していなければならない。

 とはいえ『里』の資本家派閥というべきロンフェイ派に怪しき動向はなく、かといって無党派層の中で、そんな経済力を持つ分限者はわずかしかいない。無論それらにさえシャーリーは抜け目なく監視の目を放っており、彼女の結論はその上でのものであったが、ここに居る質問者が余人であったならば、当然シャーリーはそう言って質問者を黙らせたであろう。

 しかし、ここにいるのは他ならぬ主君たる黄竜王自身なのだ。

 内務省保安局第一室長シャーリー・アブラウとしては、主君の質問に対し、こう答えるしかない。

 

 

「確かに……派閥には無所属の者たちを含めてすべての疑わしき者たちに監視の目を注いだという自信はありますが……それでも、陛下の臣民十万人すべてを調べ尽くしたというわけではござりませぬゆえ、我が目の届かぬ名も無き者が、あるいは事件の黒幕である可能性も――ありえぬと言い切れるほどに低くはありますが――否定はできませぬ……」

 

 

 が、黄竜王は済まなさげにつぶやく部下を、責めるような言葉をかけたりはしない。

「そう言うな。どちらにしろそなたの仕事を私は評価している。よくやってくれた」

「陛下……お言葉もったいのうございます」

 感動のあまり目を潤ませながら顔を上げたシャーリーを黄竜王は落ち着いた瞳で見下ろし、言った。

「ここから先は政治の話になる。そちに頼んだ調査は、あくまでも我が方に弱味がないことを確認するためのものだ。つまり、私はそなたの仕事によって後背に危地が存在せぬことを知った。それで百万の援軍を得た気になれる」

「それは……先日結ばれたという、緑竜王との盟の話でござりますか?」

 そう訊いたシャーリーに、この美しき主君は花のような笑顔を見せた。

 が、その笑顔の華やかさに反し、シャーリーに浮かんだのは困惑と驚きのみであったと言ってもいい。その驚きが、思わず彼女に心中の疑問を口に出させた。

 

 

「陛下は……緑竜王との間に盟が結ばれたことを喜んでおられるのですか……?」

 

 

 

「さて……どうであろうか」

 と言ったきり、黄竜王はその問いに答えない。

 が、彼女の口元に浮かんだ笑みは、未だ消えていなかった。

 

 

 

 かつての幕末における薩長同盟のように、互いに憎悪し合っていた二つの勢力が一夜にして手を結び合うことは、実は珍しい例ではない。

 しかし、政治的にはともかく、対立期間に醸造された敵対感情そのものまで解消されたというような例は皆無であろう。そういう感情があればこそゼクスリー派は机上だけにせよ幼竜襲撃計画を企画し、その思いを無理からぬものとシャーリーも認めたのだ。

 端的に言えば、感情面において、緑竜王との同盟を喜んでいる者など、この『里』には一人もおらぬと断言できるだろう。

 が、この主君においては、それは当てはまらない。

 偉大なる竜族の一柱たる黄竜王陛下には、それら眷属が抱く下卑た感情に左右されることは毫もない――ということなのか。

 そう思ったとき、シャーリー・アブラウは、その胸中に一つの疑問が沸くのを止められなかった。

 

 

 今回のこの事件――ジュピトリアム市における幼竜襲撃事件は、政府によってその事件情報自体を深く秘されたため、『共和国』の一般市民でさえこの事件を知る者はほぼいないが、それでも客観的に見て、『共和国』建国以来の大事件であることは間違いなく、特に八大竜王の各コミュニティに対して激震を与えたと言っていい。

 自らを「黄竜王の家臣」と名乗った犯人グループは、結局のところ幼竜の殺害には失敗して逃亡したが、もしも幼竜が事件で死んでいたら、もはや黄竜王陣営は確実にのっぴきならぬ立場に追い詰められていたであろう。黄緑両陣営の関係はもはや修復不可能となり、即時開戦は確実となっていたはずだ。

 しかも上記したとおり、黄竜王に犯行動機があるのは間違いはない。黄緑の二柱の竜には、数百年にわたる遺恨があるのだから。

 そうなれば二百年に及ぶこの冷戦という名の平和(多少の小競り合いという名の戦闘はあったにせよ)は終焉を迎えてしまう。

 いや、それだけではない。息子を殺された緑竜王の立場を考えれば、和戦も休戦もありえない、どちらかが滅ぶまで戦い続けねばならぬ最悪の全面戦争となるはずだ。そうなれば喜ぶのはゼクスリー派の軍人どもくらいで、他の黄竜王の臣民には何一つ得るもの無き泥沼の殺し合いが始まるのだ。

 どちらにしろ犯人が、自分は黄竜王の家臣だと名乗ったという事実がある限り、もはや両者の間に戦端は開かれたと解釈していい――特に『共和国』の政府関係者はそう考えているため、それぞれの『里』に、大統領から開戦を思い止まるように特使が来たほどだ。

 

 

 なればこそ政府では、二柱の竜王の間に盟が結ばれた事実に腰を抜かしかねない勢いで驚いている。

 

 

 が、そうではない。

 竜族の『里』に生まれ、竜族に身近に仕える者たちからすれば、「犯人が幼竜を殺せぬまま逃亡した」という時点で、黄竜王は黒幕ではないと判断できるであろう。

 なぜならば、ドラゴン種のコミュニティに所属するリザードマンたちは、主君の勅命を果たすためならば「死ね」と教えられて育つからだ。特に、この種の特殊任務に従事する者たちにおいては、それはなおさらだ。

 つまり、緑竜王はその情報によって、息子を襲撃した黒幕が黄竜王ではないことを確信し、さらに自分たち両陣営の関係を悪化させようとする何者かが存在する事実を知ったのだ。

 幼竜ナマイキが池波新左衛門とクシャトリス・バーザムズールに語った、黄緑両竜王の同盟締結の事実は、以上の事情によるものと言える。

 もっとも、この和議自体は外務省が推進してきた交渉でも何でもなく、黄竜王自身が緑竜王との念話による直接会談の末に成立したものであるらしく、その報告を聞いた『里』の住人はみな、ことごとく寝耳に水を食らったような顔をしたという。それはこのシャーリー・アブラウにしても例外ではない。

 

 

(が、もしも、そこまで計算の上で幼竜に刺客を送った者がいたとしたら)

(幼竜を狙いつつもあくまで殺さず、他者を巻き込んでおきながらその口をあくまで封じず、「黄竜王」の名を口走ることさえ襲撃実行犯たちの任務に含まれていたとしたなら)

 そして、たとえ黄竜王の膝下にある十万の「眷属」たち全ての中に、例の四人組を雇った黒幕がいなかったとしても、そこに含まれない最大の容疑者が、眼前にいることをシャーリーは知っている。

 すなわち、この主君・黄竜王。

 なぜなら――もしも主君が緑竜王との和議に何の抵抗も感じていないと仮定したなら――結果的に、この一連の事件でもっとも利益を得たのは他ならぬ黄竜王であるからだ。

(いやいやいや、そんな馬鹿な)

 シャーリーはとっさに目をつぶり、首を振ってその疑問を否定する。

 もしもこの件の黒幕が本当に黄竜王陛下だとしたなら、その調査を自分に命じるような無意味な真似をするはずがない。

(しかし、私に……内務省関係者に、そう思わせるための内務調査だったとしたなら)

 そこまで思い至って、彼女は反射的に主君の美麗な横顔を見上げる。

 

 

「ん?」

 

 

 が、ちょうど覗き込むように自分を見つめる主君と視線を衝突させたシャーリーは、とっさに目を伏せる。

 しかし、その伏せた視線の先にあったのは、ふたたび鎌首を持ち上げようとしていた、主君の男根であった。

 顔を赤らめ、またも顔を上げる彼女を迎えたのは、無邪気に笑う黄竜王の瞳。勿論そこには先程までの淫蕩な光が再び宿っている。

 

 

「シャーリー、そなたを見ておるうちにまたしても催してまいったではないか。責任をとってもらうぞ?」

 

 

 そう言って、いやらしく微笑する主君に、シャーリーは何も言えず頷き、とりあえずその男根を、そっと口に含んだ。

 

 

 

 

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