幼女のせいで青春が終わりました、あと世界もついでに終わってます   作:今北産業小説部

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1章:全人類が幼女に見えるようになった俺の話を聞いてくれ!
①幼女ばかりの世界で俺は


 4月4日。

 死と死が直列的に並んで、666の次くらいには縁起が悪いように思える数字がカレンダーに刻まれた今日は高校の進級式である。

 

 体育館には既に沢山の同級生がパイプ椅子に腰を掛け鎮座している。俺もその中の一人として、式の開始を静かに待ち惚けていた。

 

 しかし、こうして進級式に出席して思うがそこはかとなく学年が上がるという実感が沸かない。

 それは俺の高校生活が或る意味で終わっていることと無関係では無いだろう。

 

 思えば、去年一年間の高校生活を振り返ると何だかロクでも無い思い出ばかりだ。

 友達はいないわ、部活には入らなかったわ、遊びにも行かなかったわ。なんならこの一年、下宿先の市内から出てない始末。お世辞でも良い一年だったなとは口が裂けても言えない日々だ。

 そして今も完璧で優雅たるボッチ生活堪能中。平日は無言で授業に出席しては帰宅を繰り返し、休日は舌鼓の代わりに寝返りを打つ日々である。

 

 けど、きっと誰かが俺の立場になったとしてもこの暗澹たる高校生活を改めようとはしないだろうという強い確信が俺にはあった。

 現在俺が置かれた状況は言ってしまえばそう、特殊なのだ。特別じゃなくて特殊。この二つの言葉は似てるようで遠い。

 

 周囲のざわめきをBGMに目を閉じて式典の開始を待っていると、漸くマイクから校長先生の声が聞こえてきた。

 校長の鍬田彦蔵(くわたひこぞう)。いつだかに学校ホームページを見て知ったが御年72歳とかなり年配の男性である。事実、ネットに載っている写真は人が良さそうなご老人で、刻まれた深い皺からは穏やかで優しそうな人柄が透けて見えたし、俺もこんな校長になら親しみが持てそうだったなと感じた好漢だ。

 なのに口を開けばかなりのソプラノボイス。

 耳がキンキンとする一歩手前の声音に耳を打たれて、俺はゆっくりと目を見開いた。

 

 そう。

 俺は知っていた。

 この世界は歯車が一個掛け外れるだけで途轍もなく奇妙なバグを生み出してしまうのだと。素人が書いた私小説よりも、ジョーズが陸地で暴れまわってコンビニに入店するC級映画よりも、突飛で目を疑うような現実はそこに確かにあるのだと。

 

 閉じていた目が体育館の照明に順応して、壇上に立つ校長先生にピントが合う。

 俺の目から見た校長先生は身長おおよそ80㎝。黒い前髪を赤いピンで抑え、ラメ入りハートマークのシャツを身に纏う。

 平易に言って幼女だ。

 小学一年生とか、そのくらいの。

 絶対に高校にはいない、況してや校長先生なんて校内で一番偉い役職に付けるはずの無い、幼女の形をした校長先生だった。

 

 じっくりと観察して、それから視線をスライドさせる。

 校長だけじゃない。

 この場に佇む教職員、所々の骨組みが酸化した安い折りたたみ椅子に座る同級生も全員が年端も行かない幼女に見える。小柄の身体でブラブラと足を揺らしていたり、視線をあちこちに彷徨わせていたり、或いは寝てたりと落ち着きがない。

 

 ……まあ、変わるわけないよな。こうなってからほぼ丁度一年だから治るかもと思ったんだが、あるわけ無いか。

 舌足らずな声をバックに俺は溜息をついた。

 

 全部、俺のこの目だ。

 この目のせいで俺の世界は訳分からないことになっている。

 

 彼女たち全員、見た目こそ幼女で、何気ない所作も幼い。着てる服も何の冗談か柄入りだったりラメ入りだったりと色彩賑やかな女児服だし、本来高校に通うどころか幼稚園か小学校に通うべき年齢の子供に見える。

 しかしその言動は年齢相応なのだ。彼女たちの雑談の内容は恋バナだったり定期試験だったり流行りのゲームだったりと、幼い見た目にそぐわないものばかりで。

 つまり、これは俺以外の人間が幼女補完計画によってロリ化してしまったとかそういうふざけたSFファンタジーの序章ではない。世界が俺を取り残したのではなく、俺の方がおかしくなったのだ。

 

 彼女らの本当の中身は年齢相応の高校生たちで、俺の目が彼らを幼女に見せている。例えるなら人間が描かれたレイヤーの上に幼女の絵を貼り付けたみたいな感じだ。俺の目が勝手にレイヤーを一枚重ねる余計な仕事をしているのだろう。ふざけやがって。俺の身体なんだから俺の思い通りに動けよポンコツ眼球め。

 

 話を戻そう。

 そう、全ては俺の目に原因がある。秘めたる何かが備わっているのだ。とか意味深に言ってみても中二病臭い割にただ人が幼女に見えるだけだから肩透かし感が半端じゃないが……。でもやっぱり俺の目って何かがあるよな。てか何かあってくれ。この視界は過ぎた力の代償であってくれ。人類全てが幼女に見える代わりに隠された特別な力があってくれ……そう思ってないとやってられねえよもう。

 

 また話が逸れたがともかくだ。

 折角の高校生活と言えど、幾ら何でも見た目幼女とは同級生としての親睦は深められない。制服は着てなければ着用してるのは女児服だし、授業中は足をパタパタさせてるし。どう足掻いても子供を見るような目になってしまう。よって今年度もボッチ生活、継続確定。

 なんてまあ、これまた端的な事実を目の前に頭が重くなる。

 俺の青春が現在進行形で壊死している主な理由だった。

 

 

〇───〇 〇───〇 〇───〇

 

 

 俺の目がこんなことになってしまったのには世界の趨勢すら左右する重大な事由がある。とか言いたくて仕方がない気持ちの俺こと錦田一心(にしきだいっしん)だが、その実際と言えば『高校生になった日に突然俺の周りがこんな世界になってしまっていた』という一文で済んでしまうほど訳分からないものだった。

 

 そう、4月2日。

 逸る気持ちでチャリを漕いで入学式に出席してみればクラスメイトは全員幼女だった。比喩とかじゃなくて、頬はぷにぷにしてて髪はサラリと流れてて瞳は大きくてやっぱり何度凝視しても幼女だった。左から幼女さん、幼女さん、何個飛ばしても幼女さん。更に教員も揃いも揃って多種多様なロリ。

 

 そうだ。ロリロリロリロリロリロリロリ!左右前後ロリの大海原!この世界からラ行を除いて死滅したかと思うほどのロリ地獄!

 

 初めて目にしたその時の俺は、眼前の光景に脳がバグって爆発するかと思わず身を捩らせた。事実、俺までロリになっていたら胸に夢や大志の代わりにダイナマイトを抱いて盛大に自爆していたかもしれない。

 

 事実を正確に確認した俺は更に焦った。

 いやいやいや待てよ、と。

 これは可能性の話だが。もしかしたら俺は入学する高校を間違えたのかもしれない。受験した私立勿忘高(わすれなだか)学園じゃなくて、手違いで幼女専門学校に入学してしまったのかもしれない。それなら早く転校しなきゃな。ならば退学届、退学届はどこに行けば手に入るんだ!?───なんて、終始に渡って遥か年下に囲まれあまりの居づらさにプルプルと震える手を押さえつけながら本気でそんな馬鹿げた妄想すら繰り広げたものだった。

 

 息の詰まる入学式を終えて、俺は漸く一つの可能性に思い当たる。

 その日、俺は誰一人として幼女以外の人間と出会っていなかった。この少子高齢化社会という観点からすれば優等生な我が国ジャパンで老人の一人すら見掛けてないのはあまりにも不自然すぎる。やっぱり俺の世界で異変は起きているのだ、確実に。

 

 いいや、でもここは本当に俺の知ってる世界だろうか? 貞操観念逆転世界とかそういう類のサムシングかもしれない。上手いこと言えないがアレだ。良くWEB小説で見かける現代風異世界に転移したのかも。

 とか疑いを持って調査してみれば、俺の地元の市町村は実在してるし俺の家族全員の戸籍謄本だってちゃんと性別まで正しく記入されている。歴史も俺の把握してる限りは一緒で一万円札は諭吉さん、ならここは俺の知る歴史のまま幼女しかいないパラレルワールドになってしまったのかと思えば校内にはちゃんと男子トイレが存在した。女子禁制の場なのに普通に幼女が出入りしてるから俺は使ったことはないが、それはともかく建物が変化した様子は無い。世界は何も変化してないのだ。

 言うまでもないが超能力とか現代魔法なんて言うラノベ的ファンタジックな要素もこの世界には存在しない。普通に現実なのだ。この16年の間、俺の生きてきた世界がしっかりと脈打ってるのだ。

 よって、おかしいのは世界じゃなくて俺が見ている世界。

 何にも分からない中でそう結論付けた。

 

 次に考えたのはこの世界には知らないうちに幼女しかいなくなったのかという本質的な問いについて。

 

 まず疑ったのは高校生ながら世知辛いことに精神病だった。しかしこの広い世の中と言えど『精神が病んだことにより人類全てが幼女に見える精神病』など存在するはずも無く、精神科の医師からは至って健康という判断が下された。誰もが幼女にしか見えない世界を生きてる以上ある種では健康ではないと思うんだが、それでもメンタル面が原因ということでは無いらしい。

 

 次に考えたのは夢オチである。「え?2つ目にして夢オチですか?」とか聞きたくなる気持ちは分かる。俺もそうだもん。でも思考放棄しなきゃ生きてけないんだよこの世の中は!と癇癪を起しながら布団を被ったが、当然翌日も俺の世界は幼女で満ちていたことでその線も綺麗サッパリ消えた。

 

 三つ目に、俺の知らない間にみんながせーのっ!で無自覚幼女になってしまった可能性。疑ってから気付いたが間違いなくないだろう。というかもし幼女になったんならもっと世界がてんやわんやになるはずだ。俺達、ロリになってる!?ロリってるぞ俺ら!?みたいな感じで新聞の一面になるし報道だってその話題で持ちきりになることが簡単に想像できてしまう。騒動になってない時点で自覚症状が無いのが分かるからこの可能性は否定できる。

 

 そして最後に現在まで俺の中で主流論になりつつある仮説。俺の知覚外でとんでもないことが起こってて、その結果としてこんな馬鹿みたいな目を持つに至ったというもの。抽象的すぎるから意訳すれば、俺の知らない間にこの魔眼を誰かから受け継いでしまったという仮説である。

 創作上、魔眼といえば色んなのがある。死の線が見える魔眼だったり魔術が解析できる魔眼だったり見たら石になる魔眼だったり、とつらつら並べたその中の一つにこの言うなれば『ロリの魔眼』もあるのかもしれない。能力的に同列に語るべきかは疑問点だが。

 

 何一つとして具体的な根拠は無いが、正直なところこれ以上の結論を俺は出すことができない。なんせこんなのはこの科学の時代に妖怪の存在証明をしろと言われてるに等しいのだから根拠も論拠も導けるはずがない。結局、俺にできることなんて今は高校に通って幼女に囲まれながら単位を取ることだけなのだ。

 

 斯くしてこの一年間、俺の生活に出てくる登場人物はロリっ子オンリーであった。

 

 

〇───〇 〇───〇 〇───〇 

 

 

「お、俺達の親友の一心ちゃんじゃ~ん」

 

 進級式の日は午前授業で終わりだったので、暇つぶしに買い物がてら街中をぶらぶらしているとそんな幼い声が聞こえてきた。

 一心ちゃん?まるで俺の名前みたいな名前だけど俺にロリの知り合いは……無茶苦茶いるかもしれない。本当のロリじゃなくて実質的なロリだけど。

 

 振り向いてみれば、クソ生意気そうなポニテ幼女とニヤニヤの口元を歪める黒髪ショートの幼女が佇んでいる。

 ああ。え~と。元クラスメイトの相良琉人(さがらりゅうと)とその腰巾着の江川だ。素行不良で進路指導の幼女……じゃなくて教師から何度も呼ばれる不良生徒たちである。

 ただ中身がどうあれ見た目がこんなんだから全く嫌悪感とか湧かないんだよな……どちらか言うと親戚の悪ガキみたいな感じだろうか?

 

 俺が一言も発さなかったのを肯定的に捉えたのだろう、相良は更ににやつきを深めた。

 

「俺達さぁ、ちょっとお金に困ってんだよねー。のっぴきならない事情でなー。おい江川、どんくらい必要だ?」

「そうすね。ゲーセンで遊んで飯食ってなら、二人で数千円っすかね相良っち」

「数千円って振れ幅九千円もあるじゃねえか、大雑把過ぎだボケ。相変わらず頭悪ぃなお前は。まぁーいいや。一心ちゃん、てことで野口一本で良いから貸してくんない?」

 

 そう言って相良は指を一本立てた。

 ハイハイ、遊ぶための金の無心ね。如何にも不良がやりそうなことだ。ここは厳格にNOを突きつけるべき……なんだけどな。相手が女児に見えると怒るに怒れない。思考と本能は別物らしい。

 俺は特に抵抗も無く、何と言うか、親戚に姪っ子とかいたらこんな感じでお年玉渡すんだろうな~という感情を持ちながら財布から千円札を取り出した。

 

「……なんつか、あっさりすね」

「余計なこと言うなアホ。お、サンキューな一心ちゃん。今度絶対に返すから、へへ。悪ぃな」

 

 俺から千円札を簒奪すると、幼女二人組は町の雑踏に塗れて行った。言葉通りゲーセンに行くんだろう。奪われた千円札は百円玉に崩されて、格ゲーの筐体にでも吸い込まれるんだろうなぁ。何だろう。姿だけ思い浮かべるととても微笑ましい……イカンイカン!騙されちゃ駄目だろ俺。あいつらただの不良だからな俺。マジで見た目で判断すんなよ目ぇ潰されてえのか俺。

 自分の眼球に明確な殺意を込めて脅迫してみるが、すぐさま虚無感が去来して矛を収める。自分の身体の一部分を人質に自分を脅迫するとか馬鹿馬鹿しすぎる。アホかよ俺。はあ……マジでこれ、どうにかならねえもんか。

 

 虚しさから溜息を吐く。あの千円で何か食おうと思ってんだけどな……なんかすっごいテンション下がったわ。もう帰るか。まだ食料品にも余裕あるし、買い出しは後日で良いだろ。

 

「えっ……………………」

 

 踵を返して俺は下宿先のアパートへと足を向けようとして、その瞬間だった。

 幼女しか歩いていないこの町の雑踏に、一段と背丈が高い人影が見えた。

 チラリと見えた金色の長い髪に、幼さを残しつつも着実に大人へと成長しつつある美人な横顔。

 ……あれ、幼女じゃないよな。どう見ても幼女じゃない。どう頑張って下に見ても中学生が限度だ。

 

「待ってくれ!」

 

 両足は自然と動き出した。

 俺の世界はこの高校で下宿を始めてからは幼女しかいない。そう、今日この瞬間まではずっとそうだった。外に出ればコンビニ店員も最寄り駅の駅員さんも幼女だったし、テレビを付ければ強盗殺人の原稿を読み上げるニュースキャスターも幼女だったし大河ドラマで戦国武将を演じる若手俳優も幼女だった。この一年間、俺の世界には幼女しかいない。そう思ってた。

 しかし違った。

 幼女以外の人間も俺以外に存在したのだ!

 

「ちょっとそこの金髪の女の子!」

 

 自ずと駆け足になる。

 金髪の女の子は俺の声に気付いてないのか、距離だけが開いて行く。

 

「話をさせてくれ!」

 

 頼むから気付いてくれ!

 女の子はT字路の交差点を右に曲がる。クソ、こうなれば肩を掴んででも止めてやる……!

 

「そこのアンタ!」

 

 ……っていない?

 左見右見(とみこうみ)と視線を巡らせても女の子の姿は無い。おかしい、俺は確かに右に歩き始める女の子を見たのに何でいないんだよ……!

 

「あ、あのー」

 

 声を掛けられて気付いた。

 下を見ると、不思議そうに俺を見る幼女が。

 

「はい?」

「そこの君……ってワシかい?」

「……違います。人違いです。スミマセンした」

 

 ワシって一人称から察するに幼女に見えるが老人らしい。

 ……もう無理。この世界早く滅びねえかな。

 




昔ちょっとだけ書いていた未完です。
七話しかも途中ですがよければどうぞ。
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