幼女のせいで青春が終わりました、あと世界もついでに終わってます   作:今北産業小説部

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2章:幼女専門調査官、錦田一心
①好きです二郎


「なあ、月音。夜ごはんにするんだけど……何か希望とかあるか?」

 

 夜。より詳細に描写するなれば午後六時半。

 六畳一間の空間で、俺は月音(つきね)と呼ぶことにした精霊の女の子にそう問いかけた。

 

 そう、月音だ。

 秋川さんによれば、精霊というのはかなり珍しい存在であるらしい。曰く『精霊は超常現象が具現化したものと言っても過言ではありません。なので錦田様の彼女が人間であるかどうかという疑問には、そうであると回答いたしましょう。名前も無く、住処も無いようですし。……そこで何ですが、申し上げにくいですが錦田様の家で預かってくださると私としては非常にありがたいです。どうにもかなり懐いているようですし、居場所が確定していると我々としてももしもの対応がしやすくなります』らしく、何だかんだと俺が預かることになった。

 

 月音については聞いてる俺まで口内が渇いてきそうなほど秋川さんから長々と説明されたから覚えている。要するに、ほっとくと誘拐されたりしてヤバいことになるから保護してくれという事だった。詳しくは教えてくれなかったが、精霊は悪用されれば最低でも核戦争と同程度の災禍を生む可能性すらも持つとかなんとか言っていた。少なくとも国は何個か滅ぶとかなんとか。秋川さんの話は相変わらずスケールが大きすぎて上手く想像できねえんだよな。

 

 そんな会話を思い返してみて、俺は照合するように月音を見てみる。

 月音はジッとパソコンの画面を見ている。でも何で総重量2.5㎏のラーメンを食べている大食いyoutuberのネット動画を見てるんだろうか。てかそれ二郎系ラーメンじゃん。まさかそれが食べたい……とか言わないよな?作らないからな?絶対に作りませんからね俺は!

 

 見てる動画はさておき、真剣に食事の様子を見守るこの少女が精霊だなんて全く見えない。だが見た目が中身と比例してないのも知っている。あの和装女……秋川さんの妹から守ってくれたのも月音なんだ。

 命の恩人を泊めるくらい、安いことである。

 

 まあ俺としても別に同居人が一人増えるくらい……ホントのところは思春期男子としては非常に複雑だが限りなく問題は無い。大丈夫だ。幾らガワは美少女と言えど一言も話さない人、もとい精霊を異性としては見ることは出来ないしな。俺は極めて真っ当な感性を持っているのだ。

 

 そういう事情もあって月音は当分我が家で預かることになった。

 だがそれは、俺一人なら出来た適当かつ雑な食事をすることが出来なくなったことを意味する。

 

「えーと……月音?大食い動画を見るのも良いけどリアルでもちゃんと食事を……いや、精霊って食事とかいるのか?秋川さんは精霊は超常現象の具現化とか言ってたしな……」

 

 専門的な用語はサッパリだが、俺の恣意的な解釈で良いならば月音はエネルギーの塊みたいなもんなのだろうと思う。分子や原子みたいに物質的なエネルギーではなく、重力からなる位置エネルギーや分子の運動からなる熱エネルギーのような類でもない。秋川さんが言っていたように、未知の因果関係が起因して生まれた論拠の欠片も無い超自然的なエネルギー。それが月音を象っているもの……なのかも分からない。

 

 で、俺はこうも思う訳だ。

 なら食事とか必要無いのでは?と。

 

 世界を核の炎に叩き込める程度にエネルギーが有り余っているんなら態々食事なんて面倒な行為をしてエネルギーを蓄える必要なんて無いはずだ。結局は異物を口から摂取してる訳だし、食事という習慣がない生物からすれば非効率極まりないエネルギー補給方法だろうなきっと。

 だからまあ、取り敢えず今日は面倒だし俺だけカップ麵で済ませて明日から考え───と、そこまで順を追って考察をし結論を出そうしているとYシャツの裾を引っ張られた。

 

「……あー。ご飯。食いたいのか?」

 

 相変わらず何も言わないが、月音はコクリと頷いた。口は開かないが食が絡むと意外と態度で語るんだなコイツ。

 

「何が良い……ってアレは駄目だから。そんな物欲しそうに見ても駄目だからな!あんなラーメン今から作れねえよ!」

 

 永遠と俺の目に訴えかけ続ける月音。やめろよ……俺をそんな目で見んなって……。

 絶対にお母さん、作りませんからね! 

 そんな健康に悪いカロリー爆弾、絶対に作らないんだからね!

 

 

〇───〇 〇───〇 〇───〇

 

 

 作れないから、来ました。

 二郎系のラーメン屋に。

 

「……取り敢えず小ラーメンで良いよな。ええい、こっち見るな。不服申し立てをすんな。その上告は却下だ。大ラーメンは頼まん。んな小さな身体に2㎏のデブ麺が入るわけねえだろ。俺は食いすぎで嘔吐する人間の面倒をみたくねえっての」

 

 そう言ってもなお視線で抗議を続ける月音を無視して、俺は食券機に札を投じる。

 外食なんて金が掛かるし況してや二人分なんて、と普段の俺なら思うとこだったが幸いなことに簡単な調査をする見返りとしての臨時収入が予定されている。この点だけは超常現象サマサマだ。……いや、それともあの眼鏡男、こういう展開を予想して俺を金で釣ったとか……ありそうだ。クソ、もしそうなら今度から陰険眼鏡と呼んでやる。

 

 食券を発行して並ぶ。幼女の列に。

 俺はもう慣れたが、傍から見たらとんでもなく異様な光景だよな。6歳前後の女児が食券を買って、カウンター席で自分の顔より倍以上はありそうな器を両手で麺を食ってる姿。こんなの保護者がいたら真っ先に止めそうだ。

 

 更に言及すると店主も幼女だ。幼女がラーメンを茹でて、素手でトッピングを乗せて、客に渾身の一皿を提供している。その筋の人間なら天国なんだろうな、俺は違うけど。

 

 列が進んで、店員幼女から変声期前の高い声で俺と月音のコールを聞かれる。

 俺は全部普通、というコールはこの系列店には無いからヤサイアブラカラメで注文する。月音は……あの動画で出てきたラーメンに一歩でも近づきたいと思ってるな、恐らくは。証拠に他の客が頬張ってる大ラーメンをずっと凝視しっぱなしだし、その客も月音の視線が気になってるのかチラチラとこちらを振り返っている。マジすんません。

 

 少し悩んで、月音の分は全マシマシという小ラーメンの中ではキングサイズのものを注文することにした。このまま強請られ続けても面倒だし、一回デかい量を食えば現実も知るだろ。もし吐き出したら……その時は店主さんごめんなさいということで。

 

 席に座って暫くすると着丼。

 分かっていたが俺のラーメンですらかなりのボリュームだ。もやしときゃべつが盛り上がって小高い山を形成しており、山頂付近は雪の代わりに豚の背アブラとカラメと呼ばれる濃厚なスープが掛かっている。

 隣を見れば、月音の分は俺の野菜トッピングを更に1.5倍にしたようなヤバい代物になっていた。判断を誤ったかもしれない。こんなの、ぜってえ月音の身体ん中に入らねえだろ……!

 

 そう思って食べ進めていたが、八分後には月音は男らしく器を持ってスープを飲み干すと、机を雑巾で拭いて俺より先に退店していた。すれ違いざまにドヤ顔をされたのは多分気のせいじゃなかったと思う。

 ……そうだった。

 コイツ、原爆程度のエネルギーすら体内に留めている精霊だったわ。見た目に惑わされてたが要するに熱量の話である。そりゃたかが数千キロカロリーのラーメンくらい食えるよなって話だ。

 降参だ降参。お望み通り今度は大ラーメン食わせてやんよ。

 ラーメンを啜りながら新たな同居人について理解を深めた一日だった。

 

 

〇───○ 〇───〇 〇───〇

 

 

 予備の布団で熟睡して、翌朝になると俺は家に月音を残して学校へと向かう。

 ……ちょっち心配だよな、月音のこと。一応家にいるよう言い含めておいたがちゃんと言うことを聞いてくれるか……。結局パソコンを餌にしたから勝負はどれだけ月音がネット動画に嵌るかに掛かっている。昨日の様子を見るに、かなりイケる気がしてるが月音は精霊だからな。自由奔放で、帰ったらいない可能性も否定できない。不安だ。……まあ今考えててもしょうがないか。

 

 チャリを漕ぎながら俺は通学路を歩く幼女を眺める。

 それよか考えるべきは今日から始める調査についてだ。秋川さんからは取り敢えずは変化が起きたと思われる去年の今頃について調べるよう言っていたが、もうこうなってから一年以上経ってるんだよな。今更証拠が出てくんのか……というかそもそも、前提がなぁ。何で去年の今頃って言ってんのか分かんねえし。それにまるで人為的に起こされた可能性すら憂慮しているような指示だ。月音に関しては何を根拠にしてるのかは知らないが断定してこれとは無関係と言っていたし、マジでどうするつもりなんだか……。

 それ以前に俺自身にも問題がある。この一年、寡黙キャラとして人間関係を積み重ねてきた俺には前のクラスも含めて友達も知り合いもいない。仮に友達が出来て『うし、じゃあ連れション行こうぜ』とか『何で体育のときいつもトイレで着替えてんだ?』とか言われたら困る未来しかなかったんだ、これは至ってしょうがないことである。でもこれからすることを考えれば悩みの種でもある。

 

 ただ時期的には都合の良いことに、クラス替えがあった直後で新しい顔も多い。去年からのクラスでは空気感的に話しづらかったが、今日はまだ進級式翌日。部活動での繋がりがあるらしい生徒を除いて、誰もが手探り状態だ。普通に考えてこのビックウェーブに乗らない理由はないだろ!名付けて進級デビュー作戦!

 

 そうと決まれば、その為に重要なものも自ずと導き出される。それは第一印象。その人物に対するイメージは長期的にも第一印象が左右すると言われてる。ネットのどっかの記事で読んだから間違いねえ。

 第一印象と言えば、見た目とか雰囲気とかそういうものが一番最初に思い付くがもうすぐ学校だしな。寝癖は無いハズだし、不潔なわけでもないからこの状態で減点が付くとは思えない。

 ならやっぱ挨拶だ。ハキハキと、元気のよい挨拶を一発カマせばそれだけ俺の印象は根暗野郎から爽やか体育会系ぶった根暗になる。一段評価が上がるって寸法だ。

 

 うし、考えが纏まった。後は実行あるのみだぜ俺。

 俺は教室に着くと、一旦ドアの前で深呼吸してから扉に手を掛ける。

 でもただの挨拶じゃつまんねえよな。

 ここは小粋なジョークも添えて、愛嬌たっぷりに。

 

 ガラリと戸を開け放つ。変わらずクラスの中は幼女だらけだが怯んじゃ駄目だ。

 笑顔を意識して口を大きく開く!

 

「み、みんなー!!おはよっぷー!!」

 

 俺の挨拶を機に、クラスメイト達は私語やスマホ弄りを止めて皆こっちへと向いた。ここまでは予想通りだ……。

 

 ………………………………アレ。

 おかしいぞ。

 クラスメイトの視線が俺の想定より150度は冷たい。絶対零度。何でだよ、俺、ちゃんと小気味の良い挨拶したじゃん。ここは「錦田、お前がここまで面白い奴だと思わなかったぜ!」と陽気に話しかけられる場面じゃないのか。

 

 幼女共の冷めた目に驚いて数秒くらい固まっていると、異常確認が済んだみたいに全員が全員俺を視界から外してさっきまでやっていたことに戻って行く。マジ?誰もメンションしてくれないとかノリ悪すぎだろこのクラス。

 

 作戦失敗を悟って、諦めて俺は自分の席にバックを下す。

 

「錦田くん。今のどうしたの」

 

 横の席の赤い髪をした幼女が話しかけてきた。ああ、昨日隣の席だから宜しくとか話しかけてきた殊勝すぎる奴だ。

 

「ええっと……樋上だったか?どうしたって聞いた通りだろうが。朝の挨拶をして俺のフレンドリーさをアピールしとくかと思ったんだ」

「アレじゃ伝わらないと思うな……」

「な、何でだよ!?おかしい、挨拶は人間関係の基本ってラッチさんも言ってたんだがな……」

「誰だか知らないけど言ってることは間違ってないね。錦田くんがやったことは間違ってるけど。何でアレで行けると思ったのか僕は不思議だよ」

 

 そんな馬鹿な。俺の何が悪かったんだ?確かに少しアレンジはしたとはいえ、普通の挨拶の範疇からは外れてないと思うんだが……。

 だが周囲と違って樋上は俺に好意的らしい。よし、一旦周囲のことは忘れよう。まずはこの縁を大事にすべきだ……ここは優しく笑顔で。

 

「と言うか錦田君、一つ聞きたいんだけどさ」

「何でも聞いてくれ」

「じゃあ。何でそんなに露骨に顔を逸らしてるの?」

「やっぱ聞かないでくれ」

「手のひらにドリルでも付いてるの?」

 

 決まってんだろ。同級生が幼女というこのシチュエーションに慣れたくないから直視してないんだ。慣れちゃったけど。慣れちゃったけどな!言えるかこんなこと!精神病んでると思われる!

 

「それよりあの……聞きたいことが」

「視線の先はそのままなんだね。で、聞きたいこと?何かな?」

 

 樋上の柔らかい口調に俺は口を開いて、動きが止まる。

 やべ。どう聞けばいいか分からねえ。超常現象という言葉を使わず、曖昧に言葉を濁しながら聞き出さなきゃなんないのムズすぎねえ?事情を話す訳にはいかんし。

 

「俺、ついさっき一年前にこの辺に越してきたばっかだからさ。あんまり良く分かんねえんだが、何かこの辺で変わったことない?ここ最近で」

「一年前はついさっきとは言わないんじゃ……でも最近かぁ。あ、そうだ。駅前に美味しそうなパフェ屋出来てたよ」

「ほーん」

「自分から聞いといてその態度は酷いんじゃないかな」

 

 少し尖った口調で樋上は言った。

 いやだって最も興味のねえ情報だしな。しかも随分と女の子っぽい情報が出てきたもんだ。ん?てかコイツ、男なの?女なの?幼女フォルムしてるから分かんねえよ。どっちなんだよ。

 

「だって誰も最新の飲食店ロードマップを教えてとか言ってねえし……」

「でもその質問だと抽象的過ぎて何が聞きたいのか分かんないよ。もっと具体的にさ」

「具体的に……なら去年の今頃とかなんか変わった事とかあったか?そこが一番聞きたいとこだ」

「去年の今頃?入学式しか覚えてないなぁ……いや~あれから一年ってなると感慨深いね」

「……そうだな。ホント、感慨深いぜ……」

 

 良くもまあ俺はこんな幼女としかエンカウントしなかった世界で一年も普通に学校に通えたものだ。俺マジで頑張ったよ。しかも一度として赤点は無いし勿論留年もしてない。何なら成績上位者名簿に名前を連ねてるからな……内申は見事に死んでるが。

 

「ごめんね、大したこと覚えてなくて」

「別に良いって。俺も初っ端から当たり引くとは思ってないしな」

「そっか。良く知らないけど頑張って」

「ああ。サンキュー」

「あ、それとは別にさ。錦田君とはなんか仲良くなれそうだからさ、これからも宜しくね」

 

 思わず俺は樋上の顔を見る。

 相変わらずのプニプニ頬な幼女顔。烈火の如く紅の長髪。

 

「そうだな……俺もそう思う」

 

 なあ樋上。

 お前が幼女じゃなかったら、本当に親友になれたんだろうな俺達。とかエモい言葉を並べてみる。昨日会ったばっかで親友もクソも無いとは思うが。

 そういう意味じゃ俺の真の友人は妹ラッチさんだけなのだろう。やっぱネットに移住しようかな、俺。

 

 

〇────〇 〇────〇 〇────〇

 

 

 こちら錦田。樋上から情報の入手に失敗した。聞き込みを続行することとする。オーバー。

 

 なんてな。まあ実際秋川さんの所属してるSNP協会とやらは秘密組織らしいし、実態としてはあんまり間違ってないのかもしれない。

 気分は敵地に潜入したスパイだった。

 校内を闊歩する幼女……じゃなくて同学を見繕って、勢いで質問する。だが有益な情報は中々得られない。結局は樋上と同水準の回答ばかりがサンプリングされていく。

 

 上手く言葉を纏めらんない俺のコミュ力も問題なのかもしれない。でもそれ以上に、やっぱり質問が曖昧なのが悪いのだろう。

 なんせ一週間前とか一ヶ月前とか、そういうレベルの話じゃない。ほぼ一周年も経ってるんだから、例え当時些細な変化とか違和感があったとしても大いなる時の流れによって忘れ去られてしまっているのだ。こんなんじゃあこの状況を打開するどころか、秋川さんから調査報酬を貰うことすら危ういぞ俺……!

 

 本日も午前授業で終わり、チャリを押しながらの帰宅路。

 時間を掛けて帰りたい気分だった俺は微妙に町中を遠回りで家へと向かっていた。

 

「あっ……!」

「げ…………」

 

 そして、激安で有名なスーパーの黄色いレジ袋を腕に引っ提げて歩く秋川京果、コードネーム和装女と偶然出くわしたのは幸か不幸か。それは先にならなければ分からないことだが、少なくとも今の俺は強い意志を持って言える。

 これは間違いなく不幸だよこの野郎!

 

 

 

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