幼女のせいで青春が終わりました、あと世界もついでに終わってます   作:今北産業小説部

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④世界は案外やべえ奴にとって有利に作られている

 思いがけず大きな情報を得て、放課後の午後12時半。

 秋川さんにその旨をメールしたら夕方に家に寄ってくるらしい。何でも詳しい話を聞きたいとのことで。別にこっちもメールした事情以上のことは知らないんだけどなぁ。

 

「ただいま……相変わらずハマってんなぁ月音。面白いか?」

 

 玄関ドアを開けて自室に上がると月音がPCでゲームをしている背中が見えた。不意に月音の頭がコクリと縦に動く。どうやら俺の言葉はちゃんと届いているみたいだ。

 

「目とか悪くするからあまりやりすぎるなよ……って俺が言えた話じゃねえか」

 

 春先の怠惰な生活を思い出して後ろ髪をボサボサと掻く。3月の春休みなんて俺、ほぼずっと今月音のやってるゲームしてたからな。どの立場から注意してんだよと自分で突っ込みたくなる。月音が居なかったら「今月のお前が言うなスレはここでござるか〜?」とか声に出して突っ込んでいたことだろう。一人暮らしをすると寂しさから独り言が増えるのだ。世知辛い。

 

「今日の昼飯は……まあ冷蔵保存のつけ麺でいいか」

 

 2秒だけ悩むと冷蔵庫に手を伸ばす。当然のように具は無い。麺オンリー、男料理極まれりだった。

 スマホを眺めながら片手間に調理を終えると、麺を盛った皿とタレの入った小鉢を机に並べる。栄養バランス? 青汁飲んでたら大抵何とかなるさ。

 

 月音も食事の空気を察したみたいで、ゲームを中座すると食卓の前に着いた。思えばこいつに栄養バランスという概念はあるんだろうか。精霊とか言う正体不明な生物だし、熱量の塊とか言ってたし、ぶっちゃけ質量を体内に摂取すれば良いんじゃないだろうか? ま、命の恩人だから望むなら毎食の野菜サラダくらいなら提供するけどな。幾ら昨今の野菜の価格が上昇してると言っても100万円の懐はちっとも痛まない。

 

「どうだ?」

 

 もきゅもきゅと凡そ麺類を食べたときに出ない音を発しながら口に突っ込んだ月音はコクリと頷く。297円の現代の冷蔵食品は超自然的存在にも通用するらしい。二郎が通用するんだからそりゃそうか。

 

 さて、俺も食べるか。

 そういう意気込みを持って俺も麺を啜る。しかし意気込みがあったところで味覚が変化するべくもなく、月音みたく素直に美味いと思える味には感じない。普通だ。

 

「ん……もしかして足らないのか?」

 

 五分ほどして月音が皿の空いた小鉢を俺へと突き出す。足らんよなぁ……二郎をぺろりと完食する少女、もとい精霊だもんな。

 

「あー。もっと食べたいか?」

 

 再び頷く。

 ……家には大したもん無いし……ピザでも頼むか。百万円あるしちょっとくらい問題無い。金サマサマだな、全く。

 

 

〇───〇 〇───〇 〇───〇

 

 

 と、そう考えていた俺は大変考えが甘かったと言わざるを得なかった。

 

「なあ月音さん? お前ピザ何枚注文したよ? いや知ってるよ? ネットの注文履歴見たからな。でもシステムトラブルの可能性も考慮してもっかい確認するけど何枚注文したよマジで?」

 

 詰め寄る俺に、月音は無言で首を傾げる。いや、そういう無垢な反応は今いいんで淡々と枚数だけ述べてくれませんかね?

 

 いや、確かに俺にも否が無いかと問われれば嘘になる。つけ麺で使った皿の洗い物するから自分で食べる分は自分で食べれる分だけ注文してくれと月音に言ったのが全ての始まりだった。それを聞いた月音は特に何も考えなかったのだろう、本当に食べれる分だけ注文しやがったのだ。その数Lサイズ24枚。値段にして大体7万円。安めのパソコンなら普通に買えるお値段だ。到底人一人が食える量じゃないし、食べれちゃったら異次元フードファイターとしてテレビに出れちゃうだろう。だが人じゃない月音なら安々と食べてしまうのは容易に想像がつく。月音なら容姿も相まって超人気タレントになりそうだ。もうそれで収入得て自活してくれませんかね。

 

 いや、んなことを考えてる場合じゃねえ。

 

「ああもう、確認が遅れた! 今からキャンセルを───」

 

 一先ず月音の蛮行はさて置いて、注文を修正しようとマウスを手に取ろうとした瞬間、玄関の前に気配を感じた。

 

『(ピンポーン)こんちわー。トリノピザでーす』

「もう来たのかよ!? ああもう、ありがとうございまーす!!」

 

 ヤケクソ気味に俺は叫ぶ。くそ優秀なピザ屋だなおい! こんな短時間で24枚全部焼き上げてデリバリーとかいつもいつもご苦労さまです!

 

 多大なる労力と金銭を払いながら幼女のピザ宅配員から24枚のピザを受け取ると、部屋はもうピザの香りで充満してしまった。しかも中身を見てみるとよりによって24枚全部同じ種類。高麗カルビのピザ。100歩、いや1万歩譲ったとしてもせめてバリエーションとか考えて注文しやがれこんの馬鹿舌精霊……!

 

「ったく、美味そうに食いやがって……っておい。キーボード叩きながらピザ食おうとすんな。キーボード汚れんだろ。どっちかにしろ、どっちかに」

 

 文句の二つや三つを言いたくなったが、無表情ながら箱を開けて幸せそうに食べる月音に毒気が抜ける。

 俺は月音が再びピザを食べ始めるのを見届けて、ステラ・オンラインを起動したのだった。

 

 

〇───〇 〇───〇 〇───〇

 

 

 

 夕方。

 約束通り、秋川さんは家にやって来た。

 

「こんにちわ。精霊……いえ、月音様も元気そうですね」

「ああ……まあ。見ての通りです」

 

 見ての通り、とは昼頼んだピザを未だ食ってるという意味合いである。現在19枚目。俺は一枚も食べてないのに本当に完食しそうなペースで手を進めている。一体この少女のどこにそんな枚数が収まるだけの体積があるんだか。流石超自然。そうだ、今度からはそうやって納得していこう。じゃねえと胃が持たない。

 

 ピザの空箱で埋もれそうになる部屋に秋川さんを案内すると、秋川さんは一夜にしてゴミ部屋となった俺の居室に顔を顰めつつすぐに表情を戻して卓袱台の前に座った。

 

「……随分と物が増えましたね」

「一枚、要ります?」

「遠慮させていただきます」

 

 俺の言葉に月音のアホ毛がピコンと立った(ように見えただけで実際はこっちを向いただけである)が、自分の食事を奪わないことが分かったからかまたピザを口に運ぶだけの機械に戻ってしまった。食い意地だけは張ってんなこの精霊。

 

「それで詳しく話を聞きたいってことですけど……」

「いえ、その前にこれを」

 

 秋川さんは俺の言葉を遮ると懐から茶封筒を取り出した。調査料だろう。

 

「ええと……良いんですか?」

「そういう契約です。私は口頭だろうと約束を違えるつもりはありませんので」

「わ、分かりました。じゃあありがたく」

 

 100万円をもらう前の俺ならばテンション爆上げで背後で長ホーンを鳴らしながら受け取っていただろう。だが既に圧倒的大金を手にしているせいか、いまいち嬉しさが沸かない。寧ろ申し訳なさが沸々と出てくるくらいだ。着々と俺の小市民としての感性が壊れつつある気がする。

 

「では、お話を伺いたいのですが宜しいでしょうか?」

「は、はい。何でもどうぞ」

「錦田様の元クラスメイトの目撃証言についてです。その人物は信用できますか?」

「信用……」

 

 思わずカツアゲされたことが頭を過る。後から返されたとはいえ、あれはどう考えてもモラル的にアウトな行為だった。

 

「まあ……素行に難はありますけど、悪い奴では無い……と思えればいいなと考えてます」

「なるほど。理解しました」

 

 察するに、俺の中途半端な言い方を完璧に読み取った上で完全に秋川さんは把握したみたいだ。何と言うか、不確かな情報源で申し訳ないです。

 

「入学式の日の校内に幼女がいた。しかも男子トイレから出てきた。そう仮定しましょう。そうなると考えれる可能性の中で一番大きいのは、その人物こそがこの幼女事変の黒幕、或いはその関係者であるという可能性です」

「関係者、ですか」

「ここの住人の皆様は全員、お互いを普段の姿と認識しています。そんな彼らの一人が高校という環境下で幼女を目撃した。ならば、その幼女はこの状況に何かしらの形で関わっていると考えた方が良いでしょう」

「な、なるほど……でも本物の幼女なんですよ? 何で幼女なんか」

「そもそも本当に幼女なのかも怪しいところです」

「え? それはどういう」

「今の状況を鑑みるに、黒幕は認識を自在に変化させることが出来る。しかもその規模は非常に大きい。そういう風に捉えることが出来ます。一般人の一人を騙すくらい造作もないでしょう。ならば現実的に考えて、幼女がこんな超常現象の主犯、あるいは協力者であるとストレートに考えるのは辞めた方が無難です」

 

 言われてみればそれもそうだ。

 俺はほとんどの人間を幼女としか認識できない。それは秋川さんもそうらしい。何せ全員の容姿が現実にそうなってしまったのだから、そりゃそうだ。けど他の住人たちは全員それぞれ本来の容姿と認識している。つまりそういう、認識を歪める類の超能力が掛けられているんだろう。未だに馬鹿みたいな話だと思うが、これが本当ならそうも言ってられない。

 

「しかし、何が目的なのかがはっきりとしませんね……街の方々を幼女にして何をするつもりなんでしょうか」

「案外、ロリコンで幼女に囲まれて生きたいという願望があるだけなんじゃないすかね。これ以上のことは何も起きていませんし」

「錦田様のその意見が正しいならば良いのですが。私の経験上、これはまだ黒幕の計画の途中段階に思えます」

「これ以上があるということですか?」

「一年間もこの状況を維持しているという違和感。そして私たちの目を誤魔化し続けた手腕。念のため、まだ踏むべきプロセスがあるから慎重に行動をしていると思った方が良いと思われます」

「だとすると黒幕はヤベえ奴と思った方が良いんですかね」

「こういった超能力犯罪を起こす人間は大抵ヤベえ奴です。目的のためならば何でもやります」

 

 それは人殺しでも、最悪国を潰すことすら躊躇いなく。

 秋川さんはそこまで言って口を噤んだ。もしかしたら本当にそういった人間がいて、対面したのかもしれない。

 そう、超能力というのはきっとそういうものなのだ。誰かを簡単に殺し、意志を捻じ曲げ、自分の思い通りに出来る能力(チカラ)。今の状況は俺が考えているより、二段も三段も危険……なのかもしれない。

 

「錦田様には今日のように調査をお願いしますが、絶対に無理はなさらないようお願い致します。最悪、命の保証が出来かねます」

 

 秋川さんはそう言うとお茶を口に含んだ。

 

「無理は……するつもりはないですけど。でも、黒幕が出てきたらどうすれば?」

「私か、秋川京果にすぐさま連絡をお願い致します。絶対に一人で解決しようだなんて考えないでください。そこから先の危険は我々の仕事です」

「……分かりました。何か分かったら連絡します」

「お願い致します。それでは私はこれで失礼します」

 

 秋川さんは結局ピザを一枚も食べることなく家から出て行った。それをボケっと見送って、ふと手元の封筒に意識が向いた。

 ……これ、何円くらい入ってるんだろう。

 俺は封筒の中身をハサミで取り出す。案の定諭吉の札束、それが30枚。俺、マジで金銭感覚狂っちゃいそう……。

 

 合計130万円となった財布の中身に呆然としていると、控えめに肩をトントンと叩かれた。

 

「どうした月音。……ピザ、全部食ったのか?」

 

 月音はコクリと頷く。

 

「そしてまだ足りない……とか言わないよな?」

 

 月音は再度コクリと頷いた。

 とんでもない暴食精霊だ。こいつ、ピザ24枚食ってまだ食い足りないとか言いやがる……!

 

「……もう三枚だけなら注文していいぞ」

 

 しかしここで断れない俺も俺だった。まあ100万以上あるし、早々無くなることもないだろう。

 そうして再びやってきたピザ配達員に驚かれながら夜は更けていった。

 

 




ここまで書いて筆が尽きました。
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