ウィスパーレイン×ドクター。
ウィスパーレインが企画した星空の下での舞踏会。
ロドス甲板で行われるはずだったそれは、舞踏会当日にロドス本艦を襲った大雨によって中止になってしまう。

Pixiv様とのマルチ投稿作品になります。

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偽りの星空の下で踊って。

美しい満月が浮かぶ今日。ロドスの甲板にテントをいくつか張ってのパーティーが行われる予定だった。

「これは……出来そうにないなぁ……」

思わず、声が漏れる。バケツをひっくり返したような豪雨とはまさに眼前のそれを指す言葉なのだろう。

そんな豪雨の中、レインコートを付けた何人かのオペレーターがテントを片付けようと右往左往しているのを1人眺めている。手伝おうとは思ったのだが、貧弱故に手伝うことすら許されなかったのだ。

体力つくりのトレーニングを行う事をひそかに決意しているところで、つい手元の書類に目が落ちた。今回のパーティーの発起人が、普段はあまり積極的に動く方ではない故に、相当落胆しているのではないかと思ってしまう。

オペレーターたちが撤収作業を終えるのを見届けてから執務室に戻る。

部屋の前までやって来て入るのをためらう。

数分程部屋の前でうろうろとしていたが、意を決して自らのIDカードを扉横の機械へと押し当てる。

それだけで重々しい扉はいとも容易く開かれた。

中を見渡せば、いつも自分が執務に使っている机に、秘書が作業する用の机と椅子。

そして、偶に仮眠に使うソファー、そこに彼女は座っていた。

薄群青のショートヘアーから、髪と同じ色の片目が覗くオペレーター。俯きがちに座ったウィスパーレインが。

傍目から見ても、彼女が酷く落ち込んでいるのがわかった。

彼女は数か月前に私に草案を提出した時から楽しみにしていたし、医療オペレーターの仕事の傍らとても熱心に準備を続けているのをよく知っている。

一瞬、何と声を掛けるかを悩んで。

「あー、ウィスパーレイン。とりあえず紅茶でいいか?」

結局、無難なところに落ち着いてしまった。

ウィスパーレインは声を掛けられて、びくりと肩を跳ねさせると酷く怯えた表情でこちらを仰ぎ見る。

「あ……、お願い……します……」

いつも以上に震えた声に、予想以上に憔悴している事を察して急いで紅茶の準備を始める。

最も、ティーバッグの簡単なものなのだけれど。

 

ドクターが紅茶を入れてくださいました。ティーパックで簡単なものと言ってはいるが、自分の為にしてくれた事というだけで先ほどまで悲しかった筈の心が解されていくのを感じてしまいます。

「ドクター……ありがとうございます。」

「あー、ウィスパーレイン。その、今日は残念だったな。」

目をパチリと瞬かせる。

「ドクター……あなたは、残念がってくれるのですね……」

つい、言葉がポロリと口から零れ出てしまう。

ドクターは特に驚く様子もなく、私の隣に座りました。自分の分と思わしきもう一つの紅茶を一口飲み込むと少し考えるそぶりを見せてから口を開く。

「まぁ、君がずっと前……それこそ数ヶ月前に草案を出した時から頑張っている姿を知っているし。」

気恥ずかしさに思わずうつむいてしまう。頬に、朱色が差しているのが自ずとわかる。

「それに、ね。その、恥ずかしながら私も楽しみにしていたんだ。」

「楽しみにしていてくださったのですか、それは……良かったです。」

どうしようもなく嬉しいのに。思わず、落胆してしまう。ドクターが楽しみにしていてくれたと言うのに、実現させられなかった後悔が一層強くなる。

「あー、その。あまり気落ちしなくてもいいんじゃないか?確かに、数ヶ月先までロドス・アイランドが停泊する時はない。ただ、数ヶ月先にならあるんだし、そっちに間に合わせれば……」

「いえ、それでは、それではダメなんです。」

思わずドクターの声を遮って口が出てしまう。

驚いたように身動ぎをしたかと思えば、こちらに続きを促しました。

「それは……どうして?」

「次の機会までに……私が今の私である確証はありません。一月後、一週間後。もしかしたら、この後すぐにでも。私は何もかもを忘れて、無かったことにしてしまうかもしれません。」

心中の吐露に、心が軋む。眼がじんわりと熱さを帯びて涙が零れてしまう。けれど、口は内心に反して止まらない。

「私の、ただの思い付きに皆さんとても良くしてくださいました。私の空想を現実の物とする為に、本当に沢山の人が協力してくださったのです。」

「うん。そうだな。実に様々な人が協力してくれた。きっと、次の機会でも協力してくれるさ。」

「だから。だからこそ、私が何もかも忘れてしまった後に、それだけの人を傷つけてしまうことが酷く恐ろしいのです。」

言った。言い切った。言い切って……しまった。

顔からさぁっと血の気が引いていくのがわかる。

「あの、ドクター」

「ふむ、そうか。わかった。じゃあ、ちょっと待っててくれ。」

ドクターは、たったそれだけを言い残すと、慌てた様子で執務室を後にいたしました。

「あっ……」

そうして、私は1人取り残されてしまいました。

やはり、映画のヒロインと同じようなことをしてみたい。そんな思いは私には重い願いだったのでしょうね。

そんな諦観に心が支配された時にノックの音が響く。

緩慢な動作で立ち上がって、扉を開く。

「ドクターは今執務室には―――あれ、アーミヤさん……?」

その先には、小柄なコータスの少女でありながらロドスのであるアーミヤさんが立っていらっしゃいました。

「ああ、ウィスパーレインさん、まだここにいらっしゃいましたか。」

どこか安心したかのようにアーミヤさんは胸をなでおろすと、私の手を取って声を続けました。

「今日予定されてた舞踏会用のドレスとか、用意されてましたか?」

「えぇ、一着だけですが用意いたしました……ですが……どうして急に?」

アーミヤさんの質問に、私は明瞭な答えを返せませんでしたが、どうやらそれで満足したようにアーミヤさんは笑いました。

「えっと……そのドレスはどこにありますか?」

「自室に置いてあるはずですが……」

「なら、向かいましょう!」

アーミヤさんにそのまま手を引かれて自室へと向かう事になりました。

 

ある程度歩いたところで、ウィスパーレインさんの手を離します。

つい、引っ張り続けてしまった事に若干の後悔を持ちながら、未だ混乱の渦中にあるらしきウィスパーレインさんに声を掛けます。

「えっと……混乱するのも無理有りませんよね。ただ、私も実はよくわかっていないんです。」

「よくわかっていない……ですか?」

ぱちくりと目を瞬いてきょとんとしているウィスパーレインに、どうしてこんな事になっているかを説明し始める。

「ドクターからお願いされたんです。『ウィスパーレインが舞踏会に出れるようにしてくれ』って。」

「え?舞踏会は中止になったはずでは?」

「ええ、ですが、ドクターの事です。きっと何か考えがあるんじゃないですか?」

確信めいた言葉をウィスパーレインさんに伝えれば、彼女もどこか安心したような気持ちになってくださいました。

一時間は足止めしておいてくれ、って言われてるのが今から少し憂鬱ですが、着付けの手伝いをしたりしてもらったりすればきっと間に合うはずです!

 

アーミヤさんにドレスを着るようお願いされて、今日の為に準備していた淡藤色のドレスを身に纏って、簡単なものですがお化粧をします。

アーミヤさんは、その間ずっと落ち着きがないようで、ずっとソワソワと髪を整えたり座ったり立ち上がったりを繰り返していらっしゃいました。そうしている間に時間が過ぎて、アーミヤさんの携帯端末が音を鳴らします。

「ドクターから連絡が来ました!えっと……B4階の宿舎室に来て下さいとのことです。」

「ええ、わかりました……一体何の用事なのでしょうか。」

「きっと行ってみればわかりますよ。」

可愛らしく微笑んだアーミヤさんについていきます。

エレベーターに乗って、地下四階まで向かいました。辿り着いたエレベーターホールにはドクターが立っていました。

そのドクターは珍しく素顔を晒して、正装である燕尾服に身を包んでいました。

「ああ、ウィスパーレイン。その……とても似合っているよ。綺麗だ。」

「その……ありがとうございます。」

開口一番、ドクターからかけられた声につい頬が紅潮していくのを感じてしまう。

「され、なんでこんな事になっているか、疑問も尽きないと思う。だからこっちに来てくれるか?」

「えぇ、構いませんわ。」

そうして、地下四階の宿舎室に入る。ドクターの提案により、複数の部屋を一つのホールにしたその部屋へ。

「満足してくれると嬉しいんだけどね。」

そう言われて部屋の中に入ります。普段は片付けられて、静かなその部屋は一変していました。

「本物の星空の下で、とはいかなかったんだけどね。」

部屋中にレコードから音楽が響いていて。隅には、本来今日の舞踏会で出される予定だった食事が並び。

中央は大きくスペースが取られ、既に何組かのオペレーター達が躍っていました。

しかし、ひときわ目を引くのは、プラネタリウムにも似た方法で映し出された星々でした。

呆然とその光景を眺める私の手を取って部屋の中央まで連れていきます。

「あ、あの、ドクター?」

私の声なんかまるで聞こえていないようで、くるりとドクターが回って私と向き合います。

どこか緊張しているようにもみえるドクターは、私に手を差し出しました。

「さて……『Shall we dance? 』」

それは、その言葉は、私が夢見たあの映画と同じ光景で、少し前に流したものとは異なる涙が頬を伝うのを感じて。それを拭ってから、ドクターの手を取ります。

「『Sure, I'd love to……』お願いしますわ。ドクター?」

私の返事を受けたドクターは曲調に合わせた、緩慢なリズムのステップを踏み始めます。

それから暫くのゆったりとした。とても甘美な時間を私は味わうと思うと、今から胸が喜びで満ち溢れる。そんな気が致しますわ。




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