いずれ至る未成   作:てんぞー

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第拾弐話

 ―――一番最初に感じた事は不快感だった。

 

  痛い。僅かな音が頭に響く。体を鉛の様な重みが下へと引っ張る様な、そんな怠い感覚が全身に存在していた。体を動かそうにもそんな気力をごっそりと奪ってゆくようなそんな状態。

 

 ―――つまり二日酔いに近い状態に”土佐”は叩き込まれていた。

 

 ……背中にシーツの感触を感じるから……ベッドだよなあ……。

 

 口に出す事なく、片腕で目を覆う様にベッドらしき場所に沈んだまま、”土佐”は動かない。鈍化されている思考の中で何とか真直ぐ考えようと、必死に脳を働かせる。まずは、と声に出す事なく”土佐”は呟く。そして順序を追って少しずつ昨夜の出来事を思い出そうと努力を始める。それがおそらく、何故”土佐”がこんな苦しみを味わっているかの回答に繋がると信じて。

 

 故に”土佐”は順番に思考を巡らせる。まず発端は夕立と時雨のコンビだったと。まず間宮の所へ歓迎会用の料理を貰いに行こうとしたとき、調子に乗った夕立と時雨が会談で解放することなく、そのまま”土佐”を引きずったまま階段を下りて行った。そして流石にそれでキレた己が暴れて―――そしてそこから辺りを巻き込んだ大騒動へと発展した。途中で他の艦隊やら妖精やらが入り乱れる大騒動だった。

 

 ……良し、そこまでは良いな。

 

 そこまでは問題なく思いだせたと”土佐”は呟き、再び思考に没頭する。その後でやってきた憲兵が事態を収拾し、全ては妖精の責任となって連行されて終わり―――そしてその後で改めて間宮の下を訪れ、食べ物やら何やらを貰った。そしてそこまで思い出したところで、”土佐”は漸くこの怠さの正体に気づく。己では飲んではいないつもりではあったが、

 

「夕立か時雨の奴酒持って来たなぁー……」

 

 それを呟いただけでも音が頭にがんがんと響いてくる。元々朝に関してはそこまで強くはない”土佐”故に、二日酔いという経験も合わさって激しく不調に陥っていた。が、それでも自分の立場を考えるのであればこのまま寝込んでいるという選択肢は”土佐”に残されていない。ただ、体内の主機を起動すれば艦娘は自動的に戦闘態勢へと移行する。それを利用して眠気やら不調の類は一気に吹き飛ばせると”土佐”は知っている為、そこまで焦りもしていなかった。

 

 ただ、

 

 ……待ってろよ夕立に時雨め……!

 

 今日会う時はまず復讐から始めようという事で決定された。そこまで試行したところで”土佐”は腕を退け目を開けて部屋の中を確認し始める。まず目に入ってくるのは木の天井で、そしてそれに合わせる様に視線をおろし、部屋全体を確認する。部屋自体はそう大きくはないが、落ち着いた雰囲気の家具が部屋には置いてある。部屋の中央にスペースを開ける様にして、”土佐”が占領しているベッドと、もう一つのベッドが逆側に存在する。ベッドの方へ視線を向けた”土佐”は、其方へと視線を向けた事で漸く、部屋にいるもう一人の存在に気づく。

 

「……起きましたか。もう少し眠っているようでしたら起こすつもりでしたが必要ありませんでしたか」

 

 口にゴムを咥えながら髪の毛を整えるのは女の姿だった。既に弓道着へと着替え終わっている彼女の存在を ”土佐”はぼーっと眺め、そして彼女がこの部屋をともに利用する相手であるという事に数秒経過してから漸く気づく。いい加減目を覚ますべきだと理解した”土佐”は一瞬だけ主機に火を入れ、最低限の燃料だけを消費して機能を起動させ、終了させる。だがその一瞬で”土佐”は完全に目を覚ましていた。

 

 上半身を持ち上げ、そして”土佐”と同じ、サイドポニー型の髪型をする彼女へと軽く頭を下げる様にして挨拶する。

 

「……どーも、加賀型二番艦未成戦艦土佐……です」

 

「おはようございます―――加賀型一番艦正規空母加賀です」

 

 加賀と名乗った事に対して”土佐”が動きを止めると、加賀は動きを止め、そして指をベッドの横の椅子へと向ける。”土佐”が釣られるようにそちらの方へと視線を向ければ、椅子の上には綺麗に折りたたまれた服が置いてあるのを確認できる。それを確認してから加賀は”土佐”へと視線を合わせる。

 

「もうすぐ六時になります。今まではどういう生活してきたか解りませんが、少なくとも私の目が黒いうちは怠惰な生活は許しませんので、そのつもりでいてください。違う艦隊に所属しているとはいえ同じ部屋、そして同じ型番の仲間です。慣れないうちはある程度は面倒は見れますけど全部は見る気ありませんので―――それでは」

 

 ぺこり、と軽く頭を下げて加賀がそのまま出口へと向かって歩き、そして出て行く。その姿を”土佐”は茫然と眺めてから、小さくくすりと笑いを零す。その声につられるように今まで隠れていた妖精が”土佐”の枕の下から這うように出てくる。

 

「どうしたです?」

 

「いやな……」

 

 ”土佐”は小さく、だが幸せそうに微笑む。

 

「……なんかさ、……土佐さんも加賀さんも、結構幸せそうだなぁ、って」

 

 そうですかー、と気の抜ける声で答える妖精はそのまま私服姿の”土佐”の体をよじ登って頭へと到達し、定位置へと到着すると安心したかのような息と共に一気にだらける。幸せそうな相棒の姿を”土佐”は確認して軽く撫でると、ベッドから降りる。加賀が指示した椅子の上にはおそらく妖精達の殴り合いの結果として生み出された、土佐用の服装が用意されている。この世に加賀型戦艦が土佐以外に存在しない事を考慮すれば、この衣装が土佐と、そして”土佐”専用であるとも言える。

 

 立ち上がった”土佐”は椅子の下まで歩き、そして何時の間にか出来上がっていた服を持ち上げ、

 

「―――さて、今日から出撃だ、頑張って行こうか!」

 

「そのまえにろくがじゅんびですな」

 

 頭の上で超小型ハンディカムを構える姿の相棒に軽く”土佐”は苦笑すると、目の前の衣装を再確認し、どうやって着るのかを短く悩んでから、”土佐”は短く息を吐く。そこまで悩む必要もなかった、と。やる事は簡単に、

 

 まずは、と、服を脱ぎ始める。

 

 着替えには迷う事もあるかもしれない、”土佐”は最初にそう思いもしたが、そんなことは無かった。いざ服を脱いで着替え始めると、妖精が着方の指示をしたり、何故か体が自然に着替えようとしたりで、そこまで迷うことは無かった。

 

 故に着替えは特に問題なく終了した。

 

「―――ふむ」

 

 鏡に映る自分の姿を”土佐”は確認する。神通から貰う形となった私服姿とは全く違う印象を受ける恰好になったと、戦闘用の衣装に袖を通した自分の姿を見て”土佐”は思った。

 

 おそらくは元々着ていた服装―――横須賀鎮守府へと来た時に着ていた服装がベースにされたのだと”土佐”は思った。まずはノースリーブのブラックインナー、俗にハイレグレオタードとも言えるタイプのインナーを下着として着用している。日向や伊勢が使っている同タイプのものだ。体のラインをくっきりみせ、胸を強調する様なインナーだ。下にはスカートやズボンの代わりに緋袴が”土佐”に動きやすいように軽く加工されてある。そして最後に上には千早―――ではなく、レザージャケットだった。レディース用の小さいタイプで、前を締めようとしても胸のせいでギリギリ胸を超える辺りまでは閉められる、というハーフサイズタイプのそれだ。

 

 全体的にやはり継ぎ接ぎという感じが存在する。アレンジされ、”土佐”用になっているとはいえ、緋袴では正規空母のイメージ、インナーは伊勢型のイメージが強いだからだろう。だがジャケットに関してはおそらく完全に”土佐”が服装として着用するのが初めてかもしれない。ただ前を閉める事に対しては若干窮屈な思いを”土佐”は感じる。故に閉めず、解放しっぱなしにする事にしていた。

 

「なんか緋袴の横にスリットが入ってたりで若干股の辺りがスースーするんだよなぁ……まあ、スカート履きなれてないからかもしれないけど。レオタードタイプとかも初めてだし。というか自然に着ちゃってる自分に軽く驚きというか」

 

「とささんがそこらへんまざってるのかもしれませんな。まあ、とりあえずこうしょうでのなぐりあいははかまはがしょうりしました。3:3:1とかなりふりでしたが、とちゅうでさんせんしたふんどしはがそろでりょふのごとくがんばりまして、みにとろんぐはをみちづれにしずんではかまはのしょうりでしたな」

 

「お前ら小さい事にドラマを生み出し過ぎだろ」

 

 妖精さんですから、と答えて胸を張る妖精の姿を軽く笑うと、”土佐”は軽く頭を振る。着替え終ったし、軽く体を室内限定でだが、動かした。その結果胸はインナーによって固定されているのかあまり揺れない事が確認でき、足も股間周りが割とざっくり切られてスリット等が入ってるからか動かしやすいのが解り、それなりに納得し気に入ると、改めて時間を確認する。

 

 提督に指定された集合時間は七時だった。

 

 本来ならもっと早く到着すべきだったが、昨夜の馬鹿騒ぎと初日である事を考慮してくれた、提督の温情というものだと、”土佐”は判断し理解している。故に着替えが終わった事を確認すると軽く鏡に向かってポーズを決めてみる。

 

「うむ、完璧だな」

 

「すででくまをころしそうですね」

 

 実際熊ぐらいなら余裕だろう、そう答えた所で時間を再確認した”土佐”は少しだけ急ぐように自室から出た。

 

 

                           ◆

 

 

 既に一度通った道であるが故に、執務室までの道は間違えることは無かった。ただ一旦扉の前で咳払いする様に足を止めると、頭の上の妖精が”土佐”の頭を軽く叩き、早めの入室を促す。その事に軽く”土佐”が声のない抗議を妖精へと送り、心を整えた所で扉を開ける。

 

「夕立ィ! 時雨ェ! 深海棲艦の前にまずは貴様らからだ!」

 

「あ、やっぱり怒ってたっぽい」

 

「そりゃあ頭の方から階段を落ちれば誰だって怒りもするよね、昨夜は逃げ切れたし」

 

 ”土佐”が威嚇する様に両手をあげて入室すると、夕立と時雨が脱兎の如く動き、一瞬で執務机の後ろへと隠れる。その様子を既に揃っている残りの艦娘達と椅子に座っている提督は軽く笑う事で。漸く、

 

「これで揃ったわけか。おはよう土佐。そしておはよう我が艦隊に所属する艦娘達よ。諸君には朗報だ。もう既に気づいているかもしれないが、これで我が第一艦隊は日本海軍が規律によって定めた一つの艦隊に認められる所属艦数の限界へと至った。それ故に、漸く主力艦隊と胸を張って名乗る事が出来るようになった。未だに足らぬ艦は多い、だが漸く艦隊として形が出来上がった事になった」

 

 清十郎の言葉に利根が満足げな息を吐き、そして神通が背筋を伸ばす。木曾は当然だと言わんばかりに胸を張り、夕立と時雨はジリジリと距離を詰めて行く”土佐”に怯えていた。実際”土佐”は部屋の構造を見て、夕立と時雨を逃げにくい方向へと追いつめる様に距離を詰めていたため、何気に意地が悪かった。その姿を見た清十郎はこほん、と軽く注目を集める様に咳払いをする。

 

「これより我が艦隊は目標として以下の事を設定する。一つ、正規空母の入手をする事。一つ、鎮守府海域から南西諸島海域への進出を行う事。一つ、実力を示し第二艦隊の作成許可を貰う事。前者二つを”小目標”として近いうちに達成させる目標、そして後者の一つを”中目標”として設定する。これ以外にも演習を通して練度を磨く事や任務の遂行などは通常通り遂行する。良いな?」

 

 清十郎の言葉に部屋の中にいる艦娘―――”土佐”を含めた全ての艦娘が背筋を伸ばし、敬礼する。

 

「ハッ!」

 

「宜しい、……諸君らは我が栄えある主力艦隊の構成員である。だが第二、第三艦隊と解放される毎に先に生まれ、育ってきた者の責務として新たな艦隊の旗艦を頼む事になるだろう。今からその時を見据えておけ―――少なくとも第二艦隊の解放はそう遠くはない、自分に続く者がこれからは来るという事を意識する様に」

 

 清十郎はしっかりと今だけではなく、これからをも見据えていた。今必要な事だけではなく、将来にやるであろうことをある程度説明する事で艦娘に備えさせる。そういう所だろうと”土佐”は判断する。そしてそこまで聞いたところで、清十郎は表情を崩し、笑みを浮かべる。

 

「とはいえ、まだ焦る必要も力を入れる必要もない。我らは未熟だが未熟でいるつもりはない。我等はまだ至ってはいないが、そこへと行こうとする最中だ。故に多少の寄り道も休憩も許される。力を抜いて一つずつ成して行こう。まずは小目標と中目標の達成だ。なお今週の秘書艦を神通とし、神通は通常の任務に加え秘書艦としての任務に従事する様に! ―――それでは本日の任務内容、出撃先を告げる!」

 

 清十郎のその言葉に”土佐”はつばを飲み込む。

 

 これが、”土佐”の初の出撃となる。




 カッガサーン

 某所によると表現が下手なだけで割と感情豊からしいです。ちなみにてんぞーちゃんの最初の戦艦は金剛で、WIKIとかまだ更地だったころに適当に資源ぶっぱしたら一発金剛という状況で、

 1-3で金剛使ってました。

 初攻略時に川内もでたんだよなぁ……1-3で……川内病なかったなぁ……。

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