いずれ至る未成   作:てんぞー

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第拾参話

『本日の出撃先は鎮守府近海・製油所地帯沿岸となる』

 

 ”土佐”は耳元に装着したインカムを軽く調整する様に触れる。インカムは初めて装着する為、そのなれない感触はまさに未知であった。その為、一番付けていて違和感のない場所と言うのがなかなか見つけにくい。そういう事もあって数分間”土佐”はインカムの位置を桟橋の上を歩きながら調整し、そして満足したところでインカムから手を離す。”土佐”が位置を調整したインカムはまるで張り付くように動かず、ズレる事もない。激しい戦闘行動を行う事前提で装着する装備なので、当然だと言えば当然なのかもしれない。

 

 桟橋の端へと到着したところで動きを止めると、他の艦娘達は艦装を装着し始める。”土佐”を除いた艦娘達は普通に艦装を取り出し、装着する事が出来る。だがそれが”土佐”にはできない。それを一番理解しているのは話をあらかじめ聞いていた木曾だ。故に木曾は艦装を出したところで振り返り、”土佐”の方へと視線を向ける。勿論、”土佐”もその視線の意味を理解している。故にまあまあ、と言いながら片手を前へと出す。

 

「お前は今”こいつ艦装無い癖に……!”とか思っている所だろう」

 

「大体な」

 

「なのでちょっと妖精さんに芸を仕込んだ」

 

 そう言って”土佐”は右手を空へと掲げながら指をスナップした。

 

「出ろ! 産廃―――!!」

 

 スナップの快音が辺りに響く。一秒、二秒と数秒が経過するごとに木曾の表情は呆れた者へと変化してゆくが、ポーズを決めたままの”土佐”が動かないでいると、やがて桟橋の入り口の方から巨大な鉄塊が地面を滑る様にやって来るのが木曾や、他の艦娘の視線に映る。その奇怪な光景に軽く全ての艦娘が仰天していると、数メートルまで近寄ってきた鉄塊は空へと放り投げられ、落ちてくるそれを”土佐”は地響きを響かせながらも片手で掴み、腰のハードポイントへと到着し、背後へと二つになる様に折りたたまれた巨大な砲を仕舞う。その一連のアクションに大半の艦娘が呆れていたが、夕立と時雨だけが尊敬の眼差しで”土佐”を―――そして運んで来たり投げたりで過労死しかかって桟橋の上で山の様になって倒れる妖精達を見ている。

 

「さっき思いついたから妖精さんに言ったら実行してくれた」

 

「思いつく事も凄いけどツッコミ所が多すぎて俺には口がはさめねぇ」

 

 そう言って軽く木曾が諦めていると、死屍累々とした妖精達の中から無事な者が”土佐”の所へと進み出てくる。その頭の上には手袋が乗せられており、軽い投擲で”土佐”へとオープンフィンガーグローブを渡すと、”土佐”はそれを両手に装着する。最後にサイドポニーを縛る白いリボンを軽く弄り、満足したところで足元の妖精へサムズアップを向ける。それに応える様に妖精は満足げな表情を浮かべて汗を拭うようなしぐさを取ると、サムズアップを向けてくる。”土佐”と妖精の間に言葉など必要なかった。

 

 ここに、この一組は通じ合っていた。

 

「いい雰囲気を出している所で悪いが出撃しなくてはならんからそろそろ発進するぞ?」

 

 その言葉に”土佐”は少し動きを焦らせた。

 

 

                           ◆

 

 

 艦娘の速力は元の艦に通じているものがある。強化も遥かに元の艦よりもやりやすく、そして人の姿をしている為に小回りが利く。何より海の上を滑って進んでいる為、潮の流れに影響されないという利点を持っている。それ故に艦娘の行動は早く、移動は素早く行われる。少なくとも鎮守府近海の海域であれ、数時間程度もあればその端まで到着する事が出来る。故に製油所地帯沿岸も三時間ほどの移動だけで到着する事が可能となる。海域に入った所で一気に速度を低下させ、そして海の上でホバリングする様に動きを止める。利根がすかさず零式水上偵察機を発艦させる。それを目で追いながらも、インカムには声が入ってくる。

 

『本日の任務内容は土佐の性能確認と深海棲艦共の間引きだ。これを同時に行う。深海棲艦に遭遇、発見した場合はなるべく土佐に戦闘を任せろ。数が多いのであれば適度に抑えて戦闘を行う様に。二度か三度程やれば十分だ。その後は通常通り陣形を組んでからの戦闘に入る。以上、質問は?』

 

 インカムを通した清十郎の声が指示を告げ、それに誰も異論も質問も答えない。故に清十郎の指示は終了し、インカムの通信が切れる。それと同時に利根の下へと送り出した偵察機が帰還してくる。それを左腕のカタパルトで着艦させると、利根は頷く。

 

「索敵完了じゃ。昨日多少間引きを行ったつもりだったが、今日は昨日以上に深海棲艦の姿が見えるのう」

 

「つまり今日は昨日よりも沈められる数が増えるって事だよね! やったぁ!」

 

「偶に夕立って楽しそうな表情で凄い事を言うから俺ビビるわ」

 

 木曾は溜息を吐きながらそう言うと、背後に装着されている艦装を動かし、それが横で砲塔を構えるようにする。それは戦闘態勢へ入る事を示していた。実際、深海棲艦が出現する海域へと入ったなら何時出現したとしてもおかしくはない状況になってくる。木曾の動きに合わせ神通は腰の単装砲を調整し、夕立と時雨はバックパックや吊り下げる様に持っている連装砲を手に握る。

 

 その姿を確認し、利根は偵察機の妖精をから顔を持ち上げ、

 

「……悪いが一番近い所にいる深海棲艦ははぐれの様で三体しかいないんだが」

 

 利根の発言に気合を入れていた艦娘達が全員動きを止める。そして露骨に失望したような溜息を吐いたところで利根が呟く。

 

「いや、お主ら全員血の気多すぎじゃろ」

 

 

                           ◆

 

 

 利根が発言した通り、数分ほど利根の先導に従い移動すれば、海の上に浮かぶように存在する深海棲艦の姿を確認できる。まるで魚雷に口が付いたかのような姿をしている”駆逐艦ハ級”が二体、そしてそれを率いる様に巨大な連装砲に口がついており、そこからから首のない上半身を見せてくる”軽巡ホ級”が一体。合計三体の深海棲艦が存在していた。艦娘も、そして深海棲艦もスペックとしては”圧縮された軍艦”という言葉が正しい。深海棲艦も艦娘も本質的には同じで、駆逐艦や軽巡というスペック差が存在する。故にその姿は頼りなくて小さくとも、索敵は出来るし、砲撃も雷撃も出来る様になっている。

 

 故にキロ単位で距離が存在していたとしても、艦娘も深海棲艦も隠れていない限り、互いを補足する事が出来る。水平線の上に立つ敵の姿を確認した瞬間から戦闘は始まる。既に利根の偵察機によって敵の姿をとらえ、準備は出来上がっている。

 

 本来ならここから潜水艦と空母による先制攻撃が入る。だが艦娘、深海棲艦共々そこに空母や先制魚雷を放てるような艦が存在しない。故に普通はそこから砲撃戦をしながら接近し、すれ違いざまに雷撃を行うのが海上戦闘での基本的な流れとなる。

 

 ただ”土佐”の持つ艦装は、最初の空母や潜水艦による攻撃のタイミングに割り込める艦装になっている。

 

 二つに折り畳むように背後に収納されている艦装を横から引っ張り出すように”土佐”が引き抜き、それを脇下で固定する様に掴む。真直ぐと伸ばされた砲は全長三メートルを超えて四メートルへと到達し、そして巨大な砲口を深海棲艦達へと向けている。艦装の両側には手で握る事が出来る様に小さく抉られたスペースと、その中に持ち手が存在する。艦装であれば、トリガーなど存在しなくても艦娘は意志一つでその存在を操作する事が出来る。故に”土佐”は足を海面へと叩きつけるように固定し、

 

「さぁて、明石さんご自慢の一品はどれぐらい通じるかねっ!」

 

 砲撃した。

 

 轟音と衝撃をまき散らしながら砲弾が吐き出される。一瞬で”土佐”の周囲に火薬の臭いを充満させながら超高速の砲弾は一直線に軽巡ホ級へと向かって行く。障害物が存在しなく、見晴らしの良い海の上では回避が一番の生存手段となり、砲弾は良く見える為に回避がしやすい。故にホ級は回避の為に動こうとし、

 

 早すぎる砲弾から避けられる事なく、その一撃を食らう。

 

 次の瞬間に発生するのは鉄と、燃料と、そして血肉の爆発だった。

 

「ヒューッ!」

 

 衝突と同時に炸裂した衝撃は一瞬でホ級の全身をミンチに変える程のものであった。口笛を吹きながら手ごたえと爽快感を感じ、”土佐”は巨大な砲を持ち上げる様に上へと向ける。砲塔から放熱の為の煙を吐き、そして使用された砲弾の巨大な薬莢が排出される。横のハッチが開き、新たな弾薬の投入を求めてくる。そこに”土佐”が次の砲弾を込めている間に残されたハ級が接近してくる。”土佐”が次弾を装填する動きは遅い。それが本来自分の艦装であればストックされている弾薬を消費するだけでこの作業を一気に省く事が出来るのだが、今の”土佐”にそれは出来ない。

 

 故に装填が終わる前に砲撃戦距離にまでハ級が迫り、砲撃を放ちながら接近してくる。その動きに対して周りの艦娘達は少しだけ離れる様に距離を開ける。それ故に守ってくれる者ものなしに、”土佐”は砲撃を体で受ける。

 

 が、軽い。駆逐艦程度の砲撃では”土佐”の装甲値と同期した戦闘衣装を焦がす事さえもできない。”土佐”が装填しながら砲撃を耐え抜き―――そして砲撃戦距離、ギリギリのところで装填を終える。素早く掲げた艦装を振り下ろすように”土佐”が構える。その砲の先端には小さな妖精の姿が捕まる様に存在しており、砲を軽く叩く。

 

 それに合わせる様に砲口の先が僅かにズレる様に動き―――そして砲撃した。

 

 それは砲撃を避ける為に蛇行する様に接近していたハ級をホ級同様のミンチへと変換させた。だがそれでも一体、ハ級が生き残る。狙いを定めたかのように”土佐”の存在を単眼でハ級は向けると、一直線に加速し始める。その意図は用意に理解できる。つまり高速からの衝突による打撃攻撃。それ以外に有効な手立てがないのだと判断したのだろう。そして、その自爆にも等しい攻撃は間違いなく”土佐”にダメージを出す事が出来るだろう。装甲の厚い戦艦であっても、決して無敵なわけではない。

 

 そしてそれを知らぬ”土佐”でもない。

 

 ハ級が加速して接近してくるのと同時に薬莢を排出させた”土佐”はそのまま放熱を続ける艦装を片手で振り上げ、一歩前へと踏み込む。ハ級が高速で接近してくるのに合わせ足を滑りこませるようにハ級の下へと回し、

 

 ひっかけるように全力で蹴りあげる。

 

 ハ級が稼いだ速度とその質量よりも、”土佐”の筋力と質量が圧倒的に勝っている。故に一瞬でハ級は半分にへし折れるような姿になりつつ海面から蹴りあげられる。その光景を”土佐”は微笑と共に眺め、僅かに滞空するハ級が下りてくる前に両手で艦装を握り、

 

「修理が終わって主機が万全、燃料もたっぷり、そして武器がありゃあこんなもんだろっ!」

 

 全力で振り抜いた。響く破砕の音は艦装からではなくハ級から。全力で振り抜いた衝撃でハ級は吹き飛ぶ事無く、その場でへし折れた体が砕ける様にはじけてあたりへと散らばる。返り血と内部に貯蔵されていた燃料を浴びながら、振り抜いたポーズから担ぐように”土佐”は艦装を抑え、唇の周りについた血とオイルを軽く舐めとる。満足げに頷いた”土佐”は背後、退避済みだった艦隊の艦娘達へと視線を向ける。

 

「これがこの艦隊での”土佐”様の初戦闘よ。感想はどーよ」

 

「もう二度と土佐さん相手に悪戯するのは止めるよ……コレガチで自殺行為だよ……ヤバイよコレ……なんで昨日の私あんなことしたの……」

 

「あ、夕立の口調からぽいが消えてる」

 

「それだけマジって事なんだろう」

 

「あの……土佐さん? 最後は艦装じゃなくて素手で殴った方が良いと思うんです。土佐さんのそれって頑丈には見えますけど正式な艦装ではないんですよね? だったらもうちょっと優しく扱った方が……」

 

「やはり適応力というか思考がガチ寄りじゃの、神通は」

 

 うむ、と”土佐”は呟きながら手ごたえに満足する。今までの”土佐”であれば間違いなくここまで圧倒的に相手を蹂躙する事は出来なかっただろう。少なくともある程度の負傷は必要だった。だが主機が艤装が修理され、艦装を所持している今とでは話が違う。”土佐”は現状の能力をフルスペックで使用する事が出来る。それが今まで我慢し、ギリギリで戦い続けていた”土佐”に対して解放感と爽快感を与えていた。

 

「あぁ、やっぱぶっ放すのって気持ちいいわぁ……」

 

「吾輩知ってるぞ、ああいう恍惚な笑みを浮かべるのがどういう人種か」

 

「艦娘だから俺らの場合だと艦種だけどな……まあ、深海棲艦相手に向いている間はいいんじゃないか?」

 

「そのぶっ放す相手を探すの吾輩の仕事なんだが……」

 

 露骨に視線を逸らす木曾の姿に軽く利根が舌打ちすると、諦めたかのように利根がカタパルトから偵察機を発艦させる。その操縦席に座っている妖精は発艦直前に利根を憐れむような視線で見てから去って行く辺り、妖精達の芸は細かいと解る。

 

 さあ、と”土佐”がテンションを上げ、砲弾を再装填しながら肩に担ぐ。

 

「沈みたいのはどいつだ……!」

 

「そのテンションはせめて敵が見つかるまではキープしよう。な?」

 

 嗜めるような木曾の声を響かせつつ、艦娘達の任務は少しずつ、進んで行く。




 産廃装備に使い方を見出すのが変態と言う生物。

 最初の方のシリアスは今は潜んでいるだろう。だが忘れないでほしい。艦これには轟沈と言うシステムとイベント海域という絶望メイカーが存在する事を。まだ先の出来事ではあるが、諸君ら提督の涙をまたここでも流す事になるだろう。

 ところで近いうちにこの話で駆逐艦と空母建造が行われますが、その際はリアルてんぞー鎮守府の方でレシピ叩き込んで建造しますね。

 ちなみにてんぞー鎮守府で使う建造レシピは【オール最大値】のみです。

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