いずれ至る未成   作:てんぞー

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第拾伍話

 日が暮れ始め、世界がオレンジ色に染まる頃には漸く夕日色に染まった横須賀鎮守府の姿が見えてくる。損傷は軽微、燃料と弾薬のみをたっぷりと消費してきた艦娘達は自分の達の帰ってくる場所へと向かって滑りながらも、海に突き出る桟橋の上に立つ存在を遠巻きに確認する。”土佐”が初日やってきた時の様に、そこに立っているのは提督、清十郎の姿だった。何時ものように腕を組んで純白の服装の身を包む姿は間違いなく自分の艦隊の艦娘達の帰りを待つ姿だった。その姿を確認し、艦娘達の速度が上がる。あそこまで到着すれば本日の出撃は終了する、と理解しているからだろう。

 

 一番速力の高い駆逐艦のコンビが一気に加速する。他の艦よりも圧倒的に速く作られている二人がどんどん前へと進んで行く姿に”土佐”は他の艦娘達と横に並んで苦笑し、一足先に飛び上がる様に桟橋の上へと着地する二人の姿を見る。それから数分後、同じく桟橋に到着した”土佐”は海から軽く跳躍して桟橋の上へと着地し、

 

 着地した桟橋に軽い罅を生みながら両足で立つ。

 

「……それで踏まれたら俺は即死しそうだな」

 

「セクハラかノゾキでもしない限りありえないから心配するな」

 

「その場合は憲兵呼んで即リンチだけどな」

 

「ならば俺も御用にならない様に気を付けよう―――土佐、貴様への客だ。受け取れ」

 

 そう言うと清十郎は軍帽を取る。そしてその中には妖精がポーズを決めながら立っていた。その姿に軽く笑い声が漏れると、清十郎は妖精を首根っこで掴み、そして”土佐”へと投げ渡す。それを片手で迎えると、今まで隠れていた妖精達が海から、清十郎の背中から、いろんな場所から這い出る様に出現する。一瞬で桟橋の上で隊列を組んだ妖精達は、軽く敬礼を決める。その間に”土佐”が受け取った妖精は土佐の肩を登って”土佐”の妖精と合流し、ハイタッチを決める。

 

「ほんじつのじつどうでーたそうしんしたかんじです」

 

「なんかじゅしんしたかんじですわー」

 

「さんぱいかいしゅうするです」

 

 おぉ、と”土佐”が声を漏らしながら艦装を背後から外し、それを待機している妖精へと渡す。その数は”土佐”が今朝、受け取る時に見た妖精の数がよりも増えている。妖精達が全員で艦装を持ち上げると、データをハイタッチで回収したと言った妖精が艦装の上へと飛び移り、そして軽く艦装を叩く。

 

「んー。どんきにされるとちょっとこまるかんじですな。べつくちのきんせつぶきをよういしましょ。ちょいとたいきゅうせいになんあり? あかしさんとおーるないとです」

 

「えろい!」

 

「すてき!」

 

「でもやることはかいはつおんりー」

 

「びじょといっしょにいるだけでもんだいないです」

 

「ですな」

 

「ですよねー」

 

「じゃあがんばるです」

 

「がんばるしかないですね」

 

「なんだっていい、あかしさんとおーるないとをするちゃんすです」

 

 ヒャッハー叫びながら妖精達が艦装を担ぎ、桟橋を高速で去って行く。何気に人間が走る程度の速度をあの体の小ささと、艦装を担いだ状態で出せてるので妖精という存在は油断ならないというか、謎が多い。実際妖精の一人と一緒に生活をしていた”土佐”でも知っている事は少ない。ただ、”そんなもんだろう”と妖精に関しては納得しておくのが一番精神的に優しいという事を理解している。故に去って行く妖精の姿を特に不思議に思う事無く見送り、

 

「それでは秘書官である神通は入渠後に報告を頼む。それ以外はここまでだ。入渠と補給をしっかりと行い明日に備えよ。以上、解散!」

 

「あ、提督。報告を終わらせないと気持ちよく入渠できませんので、今から執務室の方へと向かいますね」

 

「む、そうか」

 

 清十郎について神通が執務室へと向かって行く。その姿に合わせる様に全員で桟橋の入り口へと向かって歩き始める。其処へ塔到着すれば入渠ドックの場所は執務室とは別方向である為分かれてしまうが、それでも騒がしさはそう変わらない。夕立と時雨は楽しそうに”土佐”達の周りを歩き、そしてその姿に”土佐”達は軽い笑顔を浮かべて、入渠ドックへの歩みを進める。”土佐”が視線を外して少し遠くを見つめれば、別の入渠ドックへと向かって歩く別の艦隊の姿が見える。

 

 ……まだ、知らない艦娘がたくさんいるんだろうなぁ。

 

 そう思うとまだまだこれからも未知とである。その事に少しだけ胸が高鳴るのを”土佐”は感じる。少しだけ恥ずかしい事だが、やはり見た事のない者や知らないものが埋められてゆく感覚は何時どんな時であっても少しだけワクワクするものだと思っている。それは”土佐”の人格のルーツがやはり男である、と”土佐”は思っている。”土佐”は”土佐”、そして土佐は土佐。似ているようで別人だと、”土佐”はちゃんと覚えて、そして認識している。

 

 そんな事を考え、雑談を交えつつ暫く鎮守府内を歩けば、”土佐”が利用した入渠ドックへとやって来る。慣れた様子で中に入って行く艦娘達の痕から”土佐”は、少しだけ躊躇を覚えながら中に入る。その向こう側にいたのは先に入った艦娘達の姿と、そしてカウンターの向こう側にいる明石の姿だった。明石は入ってきた艦娘達の姿を眺め、そして軽く頭を下げる。

 

「お疲れ様です! 現在お風呂場は誰も使用していないので、今はいれば独占状態ですよ」

 

「一番のりー!」

 

「あ、待ってよ夕立!」

 

 夕立がそれを聞いた瞬間大浴場へと向けて一瞬でダッシュする。その姿を即座に追いかける駆逐艦コンビは子供っぽい性格の多い駆逐艦らしい行動だった。その姿にまた笑い声を軽く零してから明石に軽く感謝し、そのまま残りの三人で大浴場の方へと向かう。”土佐”はまだ一回しかこの入渠ドックへとはやって来ておらず、この通路を通るのも初めてだ。だがそれでも印象深く残っているせいか、道は覚えていた。一回も案内を見る事無く暖簾のかかった入口を発見し、それをくぐって脱衣所の中へと入る。脱衣所の床には脱ぎ散らかした夕立の服が合った。その横では急いで服を籠の中へと入れている時雨の姿があった。ただ時雨も直ぐに脱ぎ終ると、そのまま大浴場へと突撃し、

 

 数秒後、そこにはばしゃーん、と水の音が響いていた。

 

「元気だなぁ」

 

「駆逐艦は大体こんなもんじゃろ……まあ、不知火とかの一部駆逐艦は駆逐艦らしからぬ落ち着きを持っていたりもするが。時雨もどちらかというとジャンル的にはそちらに近いはずなんじゃが……」

 

「時雨の建造って提督が夕立を建造した時と一緒だったろ? たぶんアレで絶対どっか影響受けてるって俺は思ってる―――まあ、こういう時雨のとこ、俺は嫌いじゃないぜ?」

 

 はあ、と感心溜息を利根と”土佐”は吐きながら木曾を見る。その視線に木曾は僅かにたじろぎ、そして視線を外す。それを見た利根と”土佐”は顔を合わせて軽く合わせてから再び木曾の方へと視線を向け、そして服を脱ぎ始める。

 

「アレをおっぱいのついたイケメンって言うらしいな、利根」

 

「うむうむ、木曾が実は男だって言われても吾輩は驚かない事にしている―――というわけで木曾よ、ちょっと目の前で全裸になってみろ。本当に女なのか確かめさせろ」

 

「お前ら殴るぞ!!」

 

 拳を作る木曾から逃げる様に離れると、”土佐”はさっさと袴を脱ぎ、そしてジャケットを脱いで籠の中に放り投げる。最初は着替え方に悩んだインナーもあっさりと脱ぐとそれを籠へと放りこみ、リボンを取って床に髪を届かせる。その間に妖精がタオルやら桶を準備し、それを受けとりながら”土佐”は大浴場へと向かう。もはや裸になる事も、裸を見るという事にも一切周知を感じない事を若干残念に思いつつ”土佐”は大浴場への一歩目を踏み出し、

 

 顔面に何かが当たる感触を得る。

 

「あ……」

 

 ”土佐”の顔からずるり、と石鹸が落ちる。偶発的にだがそれを投げる様な形で飛ばしてしまった夕立は立ち上がったまま完全に動きを停止させ、大浴場の入り口で動きを止めたままの”土佐”へと視線を向ける。時雨は夕立の恐怖に染まった表情を確認してから軽く頷き、素早く静かな動作で椅子に座ると、黙って自分の体を洗い始める。

 

「夕立」

 

「はい」

 

「海に帰る時が来たようだな」

 

 その言葉に夕立は一瞬で白目を剥いた。

 

 ゆっくり夕立へと近づく”土佐”。一歩一歩が恐怖を煽る様にゆっくりな歩みにも関わらず、夕立は恐怖から足を震えさせ、動く事は出来なかった。一瞬夕立が助けを求めて時雨の方へと視線を向けるが、何時の間にかシャンプーを始めていた時雨は全力で髪の毛を泡立たせながら目を閉じていた。一瞬で姉妹に見捨てられた事を理解した夕立は次の味方へと視線を求めようとして―――先に”土佐”のアイアンクローが夕立に決まる。

 

 ぶらん、と夕立が片手で持ち上げられ、足が床に付くことなく揺れる。

 

「夕立ちゃん、ちょっと隅の方で”土佐”さんと”流しっこ”しようか……」

 

「もしかして……沈んじゃうっぽい……?」

 

 そのままぶらぶらと揺れる夕立を片手で持ち上げたまま”土佐”は夕立を連れ去り、それと入れ替わる様に木曾と利根が大浴場へとやって来る。その視線は大浴場の隅、他の場所から死角になっていて何をしても見えなくなる空間へと消えて行く”土佐”と、そして夕立の姿を眺めてから、見なかった事として時雨の横に並んで座り、シャワーを流しつつ髪を洗い始める。

 

「て、ていとくさ―――……」

 

 一瞬夕立の悲鳴らしき何かが大浴場に聞こえもするが、木曾も利根も時雨もシャワーで流す水量を全開まで引き上げ、それを顔に当てる事で流れて来る悲鳴らしき何かを全力で流す。ただその最中にも木曾は軽く溜息を吐き、

 

「アイツ……予想以上に早く慣れたなぁ……」

 

「まあ、言葉にするなら相性が良かったとか、そういう感じじゃろ」

 

「相性が良いせいで夕立が犠牲になってるのかな……まあ、僕に被害が来なきゃ良いよね」

 

 時雨が笑顔でそんな事を言ってのけるのと同時に大きくざっぱーん、と音が響く。全員が揃って音源である浴場の方へと向けると、そこには体がピカピカ輝く程綺麗になった夕立がまるで水死体の様に湯船に浮かんでいた。口からぶくぶくと息を吐いているから夕立が生きているのは確定していたが、そうなった犯人である”土佐”は満足げな表情を浮かべると少しずつ湯船に沈んで行く夕立を見て満足げな表情を浮かべている。

 

「これは完全に上下関係出来上がったな」

 

「着任の時期を見ると夕立の方が先輩なんだがな」

 

 そう言った瞬間夕立が音を立てて湯船から飛び出し、軽い宙返りを決めながら着地する。左手を腰に当てながら胸を張り、そして片手を”土佐”へと向けて突き出す。

 

「そうよ! 着任の時期や建造の時期を考えるとどう見ても夕立が先輩っぽいし、”土佐”は夕立をもっと敬うべき!」

 

「あぁん?」

 

「お背中流させてください姐御」

 

「夕立はもう完全に駄目だな。完全に舎弟になっちまってる」

 

 もはや犬であれば完全に腹を見せて屈服している様な屈服ぶりだった。一瞬で”土佐”に尻尾を振った夕立は”土佐”の背中を押すように”土佐”を椅子に座らせると、シャンプーなどを手に取り世話を始める。その光景を時雨は憐れな者を見る様な目で見つめていた。姉妹艦が完全屈服する様な姿を時雨も見たくはなかっただろう、と木曾は思い、

 

 そして時雨の頭の上の存在を見つける。”土佐”に近い色の赤髪をした妖精だった。風呂場にまでやって来る妖精は特別な事が無い限り、珍しい。故に何時の間にか時雨の頭の上に乗っかっていた妖精の存在を木曾は少し珍しいと思うのと同時に首かしげる。体についた泡をシャワーで洗い流しつつ、片手で木曾は妖精をつまみ上げる。

 

「なにやってんだお前。覗きか?」

 

 木曾の言葉に妖精さんは一回迷う様に頷き、そしてサムズアップを向ける。

 

「すばらしいぶんかだとはおもいますが、よーせいさんは”とさ”さんせんもんなのでこくはくはうけいれられないんです」

 

「今すげぇ飛躍を見たけどお前らにツッコミ入れてると日が暮れるからとりあえずスルーするな」

 

「あふん」

 

 木曾が半分睨む様な視線を妖精へと向けると、妖精は器用に木曾の指の間から捻る様に脱出し、近くにあった石鹸の上へと着地する。それをスケートボードの様に床を滑らせて移動すると”土佐”の横まで行き、”土佐”の体を登り始める。その妖精は”土佐”の頭の上に到着したところで漸く安堵の息を吐く。

 

「きゃぷてんきそーがいじめるです」

 

 妖精の言葉に”土佐”はそうか、と言葉を漏らし、

 

「眼帯キャラは鬼畜って決まってるからしゃーないな」

 

「今、お前は全木曾だけじゃなく木曾改二と天龍にも喧嘩売った」

 

 木曾が握り拳を再び作った所で背中を流していた夕立が”土佐”の頭の上の妖精を掴む。

 

「邪魔っぽい」

 

「ぐわあー」

 

 夕立に捨てられるように投げられた妖精は空中で十回ほど回転を決めながら、綺麗なフォームで湯船の中へとダイブし、そして数秒後浮かんでくる。何時も通りの妖精のノリに”土佐”は笑うとで、と言葉を置く。

 

「妖精さんは何してたんだ?」

 

 妖精はその言葉にバタ足で広い湯船の中を泳ぎながら答える。

 

「ぽいぽいさんとしぐれさんのれんどをしらべてましたわー。きていれんどへととうたつをかくにんしたのでこうしょうで、ぽいぽいさんとしぐれさんのかいぞうがおこなえますな。ちなみにとねさんときゃぷてんきそーもちょっとみましたが、きそーさんもとねさんもあとちょっとだけ、ってかんじでしたわ」

 

 改装、

 

 それはつまり艦娘が更なる力を引き出せるようにするための強化。ある程度の練度を保有している艦娘でなければやる事すらできない装備の強化以外での艦娘に許された成長。

 

 改造が出来る、そう聞いた夕立と時雨は一瞬で動きを止め、木曾は溜息を吐いた。

 

「なんか俺とそいつじゃあお前、扱いを変えてないか」

 

「よのなかかおとかねとあいですから」

 

 ドヤ顔を浮かべる妖精に対して、木曾は青筋を浮かべながら石鹸を投げつける以外は何もできなかった。




 いいか、加賀なんてでなかった。でなかったんだ?

 いいね? 加賀が出た事実はなかったんだ。

 とりあえず艦娘図鑑見てたらこいつネタにしたら面白そうってのを見つけたのでそういうネタを溜めこみつつ建造で出させたりする艦娘を見繕う。全体的なプロットは完成しているのでどの艦娘を出す、ってのは割とノリの作業なのです。

 あとタグで解る様にイベント海域は”全部”描写予定です。

 もちろんアルペジオ込みで。

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