いずれ至る未成   作:てんぞー

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第拾陸話

「―――改造ですか。なるほど、漸く第一段階と言ったところでしょうか。どの艦娘であれ、改造と言うのは強力な力を得られる機会ですから、純粋に夕立と時雨の事を祝福してあげるのが良いでしょう」

 

 入居後、そのまま解散の運びとなった後で自室へと”土佐”は戻った。そこで待っていたのは弓道着姿の加賀だった。胸当てや艦装を外してソファでアイスを食べている姿から、加賀が出撃か何かから帰って来てからそれなりに時間が経過している状態であるのは理解できた。故に何か、話す話題を提供するためにも”土佐”は本日の出来事を軽く加賀に話した。それを加賀はちゃんと聞き、そして頷いた。

 

「確か貴方の提督は東郷提督でしたよね」

 

「あ、うん」

 

「でしたらそろそろ第二艦隊の解放許可と艦娘所有上限の増加が来るはずですから、おそらく明日はその作業や駆逐艦たちの改造作業で休みになると思いますよ。製油……イチサン海域を突破したのであれば実力として良いでしょうし、ニイイチ海域からはローテンションを組んで艦隊を回さない限り効率が悪くて進行が遅くなるでしょうし、司令部からの評判も覚えも良いですからね、彼は。十中八九予想通りになると思います」

 

 ほお、と”土佐”は言葉を漏らしながら加賀の言葉に感服する。こういう”土佐”の解らない事を理解するのは流石自分よりも長く横須賀にいる艦娘であると。しかし、”土佐”にとって意外な事だったのは加賀の口から”土佐”の提督、清十郎の名が出て来た事だ。しかもその評価はどうやら高いらしい。”土佐”は清十郎へと接している感じ、紳士的で優秀な男ではあると理解してはいるも、そこまで高い評価を得ているとは思っていなかった。それ故に清十郎の評価に関しては実際気になる所だった。

 

「……東郷提督への評価ですか? 彼への評価はおおむね”優秀”の言葉に尽きますね。学校の方では常に成績は上位をキープ、友人も多く、そして人柄と家柄も良い。ナンバーワンではありませんが、それでもそれに続くタイプですね。個人的には何処か手を抜いている様にも感じますが……まあ、土佐さんの事を含め海軍に色々と貢献している方なので上への覚えは割と良い方です。提督としてはアタリの類ですね」

 

「地雷提督とかいるんだ」

 

 えぇ、まあ、と加賀は呟いてからアイスを食べ終わり、それをゴミ箱の中へと捨てる。

 

「第二艦隊を解放すればローテーションで艦娘達を出撃させる事が出来るので、第一艦隊が出撃中は第二艦隊を待機させ、帰投したら第二艦隊を出す、という風に効率的運用が可能になります。艦娘のメンタルやコンディションを考慮するならそれが良いのですが―――まあ、艦娘を人間として見る提督もいれば消耗する兵器として見る提督もいる訳でして。普通は憲兵に捕まるか何かで闇に葬られるのですが、成績を出してしまっている提督の事はどうしても止められず放置するしかない場合があったり」

 

 そこで加賀はオリョクルとか、なんていうが”土佐”にはその言葉は通じない。”土佐”は首を傾げ、そして清十郎が提督の中でもかなりの大当たりだと理解し、改めて上司に感謝しておこう。そう思い、

 

「まあ、明日は休みになるでしょうから存分に休んでおいてください。今の様子を見る限り次はイチヨン海域……近い内にニイイチ海域も許可されるでしょうし」

 

「うん、まあ、オフならオフでゆっくり休ませてもらうけどさ、加賀さん」

 

「なんでしょうか」

 

「加賀さん、けっこーウチの提督に関して詳しいけどなんで?」

 

 その言葉に加賀はサイドテールをほどきつつ軽いドヤ顔を”土佐”へと向ける。

 

「―――こう見えても海軍大将の下で秘書を務めてますから」

 

 

                           ◆

 

 

 ―――翌日、前日よりも早い時間に起きて着替え、身嗜みを整え終った”土佐”は加賀と同じ時間に部屋を出る事に成功した。その事に加賀は軽く頷く以上のリアクションを見せることは無かったが、ただ”土佐”には土佐が存在しており、なんとなく加賀がどう感じているのか、それを土佐を通して理解する事が出来た。特にそれに関して”土佐”は何かを言うわけでもなく加賀と分かれて執務室へと向かう。執務室には既に清十郎、そして神通の姿が存在した。清十郎は”土佐”の姿を確認すると感心したような声を漏らす。

 

「おはよう土佐。今日は早いな」

 

「流石に疲れが抜けてるからな。朝には確かに弱いけど、それでも疲れが抜けてるんならこんなもんだよ」

 

「そうか、だが悪いが本日は出撃も演習も予定をしていないから基本的にはオフ扱いで構わんぞ」

 

 意地悪な笑みを浮かべる清十郎がそう言うが、あらかじめそれを加賀から聞いていた為に”土佐”にはそこまでの驚きはなかった。そして清十郎は”土佐”に驚きが無い事をその表情から察し、そして少しだけ目を閉じる。少しだけ考える様な表情を浮かべた清十郎はそれから目を開けると、

 

「なるほど、加賀か」

 

「あれ、提督知ってるの?」

 

「あの加賀は恩師の艦隊に所属している者よ。俺がまだ学徒であった頃の話、恩師と加賀には良く世話になっていた。加賀が同室なのは……まあ、司令部のちょっとしたプレゼントだと思っていてくれたまえ」

 

 清十郎の言葉のニュアンスに隠れている意味を”土佐”はそれで察す。ただのプレゼントで加賀と同室になるわけがない。加賀の練度は相当高いものだと”土佐”は理解しているし、加賀は加賀型の一番艦であり、土佐とは加賀型二番艦である。護衛だったり監視だったりと、様々な思惑が存在しているのは理解している。それに対して怒りを感じたり、意味もなく責めたりするほど”土佐”は子供ではない。何よりも土佐が楽しんでいるのであれば大体それで良い、と”土佐”は思っている。つまり”土佐”の中心とは土佐になっている。それが問題ないと感じているのであれば問題はない、そういう事になる。

 

「となると一気に暇になるなぁ」

 

「あ……土佐さんは、確か来たばっかりですしあまり物を持ってなかったりするんですよね。えーと、こういう日は入渠施設を利用したりするものなんですが、出撃後ならともかくオフの日に利用するとなる……確か少しだけお金がかかるんですけど……」

 

 ”土佐”は腕を組む。そして頷く。

 

「勿論お給料は今月末らしいから手持ちには何もない。……まあ……工廠の方に顔を出して時間を潰すよ。艦装は妖精さんや明石さんが見てるし、ちょっと労ったりしたいし。適当に妖精さん達と遊んでれば日は暮れるだろうし」

 

 実際”土佐”は妖精の事を割と気に入っている。面倒を見られている、という自覚は存在しているからその分は遊び相手にでもなって置くべきだと、そういう考えもある。土佐も土佐で妖精の存在に関しては割と楽しそうにしている。ならば問題はない。妖精の相手をしていれば半日程度あっさりと過ぎると思っている。

 

「―――ふむ」

 

 ”土佐”の言葉を聞いた清十郎が短く言葉を零し、そして執務室の机の上に乗っている書類を確認する。”土佐”の位置からはその内容を確認する事ができないが、清十郎は軽く納得したところで椅子から立ち上がる。

 

「神通、俺がいない間を少々宜しく頼む」

 

「了解しました」

 

 ぺこりと頭を下げる神通の横を抜け、長外套をコートハンガーから取った清十郎はそれを纏い、そして”土佐”の横へとやって来る。顎をくい、と清十郎は動かして付いてくるように指示すると、そのまま部屋の外へと出て行く。軽く動きを止めていた”土佐”は神通へと視線を向けると、神通は苦笑を浮かべながら頬を掻き、

 

「提督が待ってますよ、土佐さん」

 

「いや、どこに向かったんだ提督」

 

 それはもちろんと神通は言葉を置き、”土佐”に答えた。

 

「―――工廠ですよ」

 

 

                           ◆

 

 

 工廠とは艦娘の建造、そして装備の開発がおこなわれる場所である。それぞれの提督は司令部から専用資源を支給される。その資源は艦娘を建造、修理、補給する為に消費する事が出来る。また、司令部が支給する資源には限度がある為、第二艦隊を解放した提督は艦娘を遠征へと送り、資源を収集して来る事を推奨している。建造と開発と言う役割を持っている工廠は提督にとって戦力の補充を行える、重要な施設となっている。ただ、一つ欠点を上げるのであれば交渉は主に妖精によって運営されている。一つの鎮守府に何十と存在する工廠ではあるが、その中が常にフル回転している事は珍しい。

 

 第一にそれぞれの提督には艦娘保有上限数というものが存在する。能力のない提督に艦娘を指揮させ、自滅させない為の処理である。これは実力や貢献を示す事によって少しずつ解放されて行き、元帥程の者であれば保有可能艦娘は百を超える。そしてその管理の為に秘書艦以外にも副官に艦娘を育てたりと、やる事も規模も大きく、そして増える。

 

 もう一つ、工廠がフル回転しない理由が存在する―――それは妖精の好みだ。基本的に妖精は”人間ではなく艦娘”の味方として存在している事を忘れてはならない。艦娘が人類に協力するからこそ妖精は人類に協力している、と言うのが一番正しい。そして妖精という生き物は激しく好き嫌いを持つ。特に怠惰を嫌い、騒ぎなどを好む。悲しみを嫌い、喜びを好む。そういう所をはっきりしている相手を妖精は好む。

 

 工廠の前に到着した”土佐”に、清十郎は解りやすくそれを伝えた。つまる所強い艦娘を建造したり、良い装備を開発したいのであれば妖精の媚びるのではなく妖精に対して気に入られる事が何よりも重要なのであると。

 

「ま、それであっても妖精達はかなり我儘な存在だ。何を建造するのか一部が聞き届けても残りが拳で自分の意見を通したりする」

 

「コミュニケーションって難しいんだな……」

 

「俺も妖精達を見ているとそう思う」

 

 そう言いつつ工廠の中に入る。其処は”土佐”の使用している艦装を扱っている工廠とは別の工廠であり、”土佐”の知っている明石の姿はない。だがその代わり広いスペースのかしこには機械やら資材が置いてあり、そこらで暇そうに転がっている妖精達の姿が確認できる。それを見て、知っている妖精数人が混じっている事に”土佐”は軽く笑みを零す。

 

「基本的に我が艦隊では周毎に秘書艦を交代している。知っている様に少し前までは利根であったが、今は神通なのはそういう理由だ。第二、第三艦隊と艦隊を増やしていけば俺一人の手では手が届かない様になるのは目に見えている故に、今のうちに訓練を詰める者には訓練させて俺と秘書艦の手が空いていない時、誰であっても兼任できるようにしておきたいのだ」

 

「なるほど」

 

「故にお前に工廠でやる事出来る事……つまり建造と開発について軽く見せておきたいと思ってな。丁度今朝司令部の方から保有上限の引き上げ許可を貰った。今の軽く二倍は艦娘を保有できるようになった故、良い機会だし説明ついでに建造しようか、とな」

 

 ほほう、と言いながらその言葉に反応したのは”土佐”―――ではなく妖精達の方であった。清十郎の言葉に反応する様に立ち上がった妖精達は腕を組みながらゆっくりと清十郎と、そして”土佐”の周りに集まる。軽いオーラの様なものを纏いながら妖精達は集まり、

 

「けんぞーですか」

 

「かいはつですか」

 

「さあ、よくぼうを……よくぼうをはくのです……われらこうしょうようせい……よくぼうのしとたち……しげんをいけにえによぶのです……さいきょうのかんむすを……!」

 

 妖精達の楽しそうな姿に”土佐”は膝を折って妖精達に近づくと、それを持ち上げたりして遊び始める。楽しそうな悲鳴を妖精達は上げながら”土佐”に捕まったりぶら下がったりで、最初の事を忘れて完全に遊び始める。その姿を見て清十郎は軽く笑いを零すと、軍帽を被り直すようなポーズを取り、

 

「楽しそうな所をすまんな妖精達。少々建造を行いたいのだが良いだろうか」

 

「おまかせおほぉー」

 

 答えていた妖精の声が途中から悲鳴に変わったのは”土佐”がその腹を撫で始めるからだ。清十郎が少しだけ”土佐”を睨むと、”土佐”が反省したかのように頷き、立ち上がる。

 

「さて、我々提督にはレシピというものが存在する」

 

「レシピ?」

 

 うむ、と清十郎は頷きながら答える。

 

「基本的に妖精達は資源を渡せば建造を行ってくれる―――が、その中身は殴り合いで決定する為に完全なランダムだ。故に我々提督たちは”レシピ”という資源を渡す比率を生み出した。妖精達はこれだけの資源を渡しておけばこれを建造できる、というデータが俺達にはある。それ故に渡して意味のある資源の上限や、どこまで渡せばどういう艦が出て来やすいかというデータが存在する……ある程度の方向性は絞れる、という事だ」

 

「ほうほう」

 

 妖精達は腕を組み、うんうんと頷いている。その様子から決定方法を改めようとする気概は全くないのが解る。

 

 そして清十郎はだが、と声を上げながら言葉を出す。

 

「だがそんなのつまらん! 実に男らしくはない! それでも貴様らは男かと俺は言いたい! データ? 傾向? 結局は最終的にはランダムではないか! 何と嘆かわしい! それでも貴様ら日本の誇る海軍提督か! その程度で益荒男を名乗れると思っているのか!」

 

 故に、

 

「妖精に渡せる資源上限を俺は毎回叩き込んで恩師に小言を貰っている!!」

 

「俺、提督のそういう馬鹿な所結構好きだよ」

 

「ぐっどよくぼう。ようせいさんたちてきにもこのましいかんじですな」

 

「ふだんはけんじつだけど、ここぞというときはぎゃんぶらーたいぷだとみた」

 

「いつかみをほろぼすたいぷですなー」

 

「だがそれがいい」

 

「にんげんなんてせつなてきないきものですものなー」

 

「ひゃっはー! しげんをもってこーい!!」

 

 ヒャッハー叫びながら妖精達が工廠から出て行き、清十郎の保有する資源を回収しに出て行く。その間に妖精が一人、”土佐”から飛び降りるとポケットから付け髭を取り出しつける。その先っぽを軽いカールにしながらスパナを取り出し、胸を張る。

 

「さあ、ほしいかんむすをいいたまえ」

 

 その背後ではボクシンググローブや木刀を取り出して用意し始める妖精達の姿があった。それは間違いなくこれからどの艦娘を作り出すか、という物理的な交渉の準備の為だろう。その姿を可愛らしいと思いつつ、清十郎は視線を”土佐”へと向ける。

 

「貴様が決めて良いぞ土佐。実際の所駆逐艦でも軽巡でも重巡であっても、今の我が艦隊では困らない。第二艦隊をこれから運用する手前、どの艦娘が生まれてきても問題はない筈だ。ちなみに今回は一気に二人程建造する予定だ」

 

 そこで清十郎は軽く苦笑を零す。

 

「まあ、妖精に好かれているお前の事だから案外リクエストは通るかもしれないな」

 

「だとしたら嬉しいな」

 

 ともあれ、と”土佐”は呟き、再び膝を追って妖精達に視線を合わせる。それに合わせる様に妖精達は黙り、そして視線を”土佐”へと向ける。そこにちょっとだけ恥ずかしさを”土佐”は感じ、誤魔化すようにはにかみながら頬を掻く。

 

「んじゃー……うーん……なんか……こう、普通は中々建造できない子というか……珍しい艦娘とかが出来たら”土佐”さん、嬉しいかなぁ、って」

 

「おーだーはいりましたぁー!」

 

「めずらしいかんむすー!」

 

「そこではっきりとれあをほしがるあたりぐっどよくぼうです」

 

「だがことわる」

 

「とふつうならいうかもしれませんけど」

 

「まあ、”とさ”さんのたのみならしゃーなしですわ」

 

 わあ、と声を放ちながら一斉に妖精達は忙しそうに工廠の中へと散らばって行く。その姿を”土佐”は軽く呆然と眺めていると、清十郎はその姿の”土佐”に軽い笑い声を向ける。”土佐”がそんな清十郎へと睨みを返すと、清十郎は困ったような笑みを浮かべる。

 

「いやいや、本当にひいきされているものだな、と思ってな。普通ならこんな風にリクエストされても無視されるものだがな。お前は我が艦隊の幸運の女神となり得るかもしれんな」

 

「鳥肌が立つからやめてくれよ……」

 

「はっはっはっは! すまんすまん、侘びと言ってはだが、間宮アイスでも奢らせてもらおう。建造には数時間程度かかるだろうしな」

 

「いや、それは良いけど仕事はどうした」

 

「はっはっはっはっは!」

 

 笑ってごまかす清十郎は工廠から去って行く。それを”土佐”は軽く追いかけるようにして、工廠から去る。

 

 そうした事で、妖精達の仕事が始まる。

 

 いつも以上に気合を入れて、艦娘の建造を初める。

 

 が、

 

 その妖精の声は清十郎や”土佐”が工廠から消えた後に響いた。

 

「―――あ、やべ、じこった」




 建造ではレシピを投げ捨てる系提督
 ※ただし欲しいものを引き寄せる女神系艦娘がいる

 俺もそんな艦娘が欲しかった(´・ω・`)

 ちなみにこの世界、ダメコンなんてものはありません。

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