いずれ至る未成   作:てんぞー

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第拾捌話

 ―――翌日、執務室はいつも以上に騒がしい姿を見せている。それもそうだ、一日前までは清十郎の艦隊はたったの六人しか存在しない小規模な艦隊だった。だが第二艦隊の解放に伴い、清十郎の艦隊は一気に拡張された。保有できる艦娘の数が、だ。故に清十郎はもてる資源を際限なく消費し、神通から拳が飛んでくるまで連続で建造を行った。それ故に、六人しかいなかった艦娘の数は一気に十二人まで増える事となった。清十郎の第一艦隊を成すのは”土佐”を含めた最初の六人の艦娘だ。

 

 そして、第二艦隊を形成するのは”土佐”と清十郎が調子に乗って建造した結果生み出された艦娘達だ。その最初の二人として卯月と大鯨。その跡に生み出されたのはそれぞれがバラバラの艦種の艦娘達だ。一人は神通と同じ服装に身を包む茶髪の少女だ。短いツインテールで髪を纏める彼女はその夜戦好きから名が知られる艦娘、軽巡の川内。次の艦娘はピンク色の髪を短いポニーテールで纏め、白い手袋に手を通す駆逐艦の不知火。黒い服装で身を包みながら片目を覆う様に眼帯をつける艦娘、軽巡の天龍。

 

 そして巫女衣装とミニスカートを合わせた様な服装を積み、他の艦種を超える装甲と火力を保有する、眼鏡をかけた艦娘―――戦艦、霧島。

 

 以上の六人が新たに清十郎の艦隊へと所属する事となっていた。故に先任は彼女達を歓迎し、そして完全に受け入れていた。そもそも鎮守府で建造した艦娘を受け入れるというのは日常的な出来事だ、不思議な事も悩む事も何もない。ただ一つ問題として存在したのは、

 

 清十郎と”土佐”が今週の秘書艦である神通に対して一切話す事なく資源を全て溶かす勢いで建造した事に尽きる。故にその結果として、清十郎も、その共犯者である”土佐”も執務室の端っこで並ぶように正座で座らせられていた。清十郎と”土佐”の前には無表情ながら確実に怒りを見せる神通の姿があり、目の前の二人へと向けて明らかなプレッシャーを与えていた。

 

 ―――それを第一艦隊の面々は完全にスルーし、第二艦隊の面々は気にしていた。しかし第一艦隊は既に清十郎のそういう態度などに慣れているのか、第二艦隊の面々が気にしているのに気づくと、笑いながら気にしなくていいという。

 

「どうせ提督が馬鹿なのはどうにもならない事だしな! 気にするな気にするな。ウチの提督ってのは仕事はするにはするけど、関係のない所では割とはっちゃけるタイプだから、今回みたいに。その度に神通キレさせてお説教か正座食らってるんだよなぁ……」

 

 木曾がそう言いながら視線を清十郎へと向けると、清十郎と”土佐”は神通への言い訳の真っ最中だった。

 

「あと一回! 一回だけ! あとちょっとだけ! 資源御残りの先っちょだけぶっこむだけだから! 土佐さんが次は絶対に潜水艦来るって囁いてるの! 土佐さんが言うからこれ絶対百パーセントだからさ、ちょっと資源ぶちこまさせてよ!」

 

「然り然り然り!! 我が新しき幸運の女神がこうおっしゃってるのだ、是非ともここは資源をオールベットすべきであろう神通よ! なに、俺には破滅願望等一切存在はしない!! これから俺が少々土下座マラソンと貴様らで遠征マラソンを繰り返せば数日で元の資源を確保できるはずだ! 故に一切の問題なし! レッツ建造!」

 

 立ち上がり、拳を握る清十郎と”土佐”。この二人は性格的な意味で非常に相性が良かった。それは”土佐”の人格の元を考えればある意味当たり前なのであろうが―――勢い任せに突破しようとした二人の試みは勿論成功するわけもなく、神通は無表情のままに言葉を二人へ告げる。

 

「正座で」

 

「あっはい」

 

「この艦隊のヒエラルキーのトップは神通ですか」

 

「ヒエラルキー的にアレよりも上がいるとか。うーちゃんちょっと絶望してきた」

 

 そんな声を響かせつつも横須賀鎮守府、清十郎の艦隊は新たな日を迎えていた。

 

 

                           ◆

 

 

「ではネタはここまでとして、本日の出撃予定等を発表する。まず第一の通達として諸君らは知ってのとおり我が艦隊は第二艦隊、及び保有上限の解放許可を得た。それに伴い空母ヲ級や重巡リ級などが存在する最後の鎮守府近海海域、我等提督がイチヨン海域と呼ぶ海域への進出が許可された。これを突破する事でニイイチ海域への進出を許可される」

 

 そこで清十郎は一旦言葉を止め、そして室内の艦娘を見渡し、

 

「このイチヨン海域を突破する事で漸く提督から”新任”やら”新米”という肩書は消える。それに関して諸君らは一切気負う必要はない。何、何時も通りやれば何も問題は無かろう。第一諸君らの練度は本来イチヨン海域を突破する為に必要とされる艦娘の練度を遥かに超えるレベルにある。そしてこれからも海域を突破する上で、確実な”安全マージン”とも言える練度を確保してから進めるとする」

 

 故に、

 

「本日の出撃は第一艦隊がイチヨン海域へと向かう事とする。この第一艦隊の面子は引き続き変わらず今は今まで通りとする。第二艦隊に関しては此方で元帥の艦娘教導隊への演習を申し込ませてもらった。諸君らは自覚しているかもしれないが、まだ生まれたてで弱い。その体はまだ本来の力を十全に発揮できてはいない。今日一日は教導隊にもまれ、僅かでもその力を引き出せるように練度を上げるのが良かろう」

 

 執務机に両肘を乗せて説明と指示をしていた清十郎はそこで一旦言葉を止め、そして部屋を見渡す。

 

「質問はあるか?」

 

 その言葉に帰ってきたのは沈黙であった。艦娘はどんなにふざけ、そしておちゃらけた姿を取ろうと、その本質は”軍艦”という事にある。”土佐”という例外を抜けば、全ての艦娘達には第二次世界大戦で軍艦として戦った記憶が存在している。それは全ての艦娘に存在するものだ。故にふざける場と、そうでない場の分別はついており、こういう場における艦娘達は真剣な表情で提督の話を聞く。それに満足した清十郎は微笑を浮かべながら頷く。

 

「ニイサン海域を突破する事ができれば我等も実力が認められ、より多くの自由と特権、そして激戦区へと向かう事が出来る。それは義務であるのと同時に、そうではない―――我等のみに与えられた特権だと心に刻み込め。戦場で、深海棲艦を、心行くまで蹂躙し、破壊する。祖国を滅ぼさんとする愚か者どもを殺し、血祭りにあげる事が出来るのは我々の特権だ。故に諸君、私は決して頑張れとは言わん。それは既に死力を尽くしている戦っている諸君らに対し不敬であるからだ。故に俺はこう言おう―――諸君らの努力を俺は知っているし、忘れる程愚かではない」

 

 そして、

 

「第一艦隊、出撃せよ! 第二艦隊、演習場へと向かい教導隊と合流せよ!」

 

「ハッ! 了解しましたッ!」

 

 声と姿勢が綺麗に揃った一斉の敬礼と共に、提督と艦娘としての一日が始まる。清十郎が体から力を抜くのと同時に艦娘達が慌ただしく目的地へと向かう為に動き始める。そこに雑談は混じるも、その雰囲気は軽すぎない。軽度の覇気が言葉に混じり、本日の任務に対する意気込み等が感じられるようになっていた。

 

「さぁて、はやく第一艦隊に参加できるように頑張るかね」

 

「あれ、天龍は第一艦隊の椅子狙ってるの?」

 

「ほほう、眼帯軽巡被りとしては負けられないな」

 

「眼帯キャラは鬼畜縛りだったっけ」

 

 時雨がそう言うのと同時に、木曾の視線が睨むように”土佐”へと向けられるが、その瞬間には窓から飛び降りる様に”土佐”は逃げ出していた。それを目撃した木曾があ、と声を発しながら追いかける様に窓から飛び出し”土佐”を追いかけて行く。その姿を天龍達新任の艦娘は茫然と眺め、比較的に速く慣れてきた卯月がぼやく。

 

「なんか大体”土佐”のキャラやこの艦隊の芸風を掴めてきた気がしたぴょん」

 

 その言葉に反応したのは夕立で、彼女は扉を抜けて外へと行こうとしたところ、足を止めて卯月の所へと戻り、その肩を掴む。卯月はその握力の強さにちょっとだけ顔をしかめるが、夕立はそのまま顔を卯月へと寄せ、

 

「おう、さんを付けろよ。あとぴょんぴょん語尾のキャラが私と被るんだよ」

 

 けっ、なんて声を残しながら夕立は卯月を解放し、他の面子と同様に扉ではなく窓から飛び降りる様に外へと去って行く。その姿を再び第二艦隊は茫然と眺め、清十郎は楽しげにうんうん、と頷く。

 

「―――昨日、改造が終わった後で夕立が時雨を連れ盛大に”土佐”を煽りに来たが……その後反撃で庭の花壇にさかさまに埋められていたからな、夕立は。あの様子を見る限り見事に上下関係を取り戻したらしいな、素晴らしい」

 

「提督、本当にアレでいいんですか……?」

 

 執務室には清十郎の笑い声と、そして霧島の戸惑うような声が残されていた。

 

 

                           ◆

 

 

 十数分後には”土佐”達第一艦隊は既に横須賀鎮守府が見えない距離に出ていた。視界の限りひたすら広がる海。その中でも艦娘達は絶対に進む方角を間違えないし、戻る道を間違えもしない。彼女達にはそれを理解し、司る妖精がついている。深海棲艦が方角を狂わせるオートジャミング能力を有していても、それは完全には妖精達を騙す事は出来ない。故に艦娘は迷う事無く目的の海域へと向かうことができる。

 

 そうやってひたすら滑って進んで行く時間は多く、艦娘達はかなり暇な時間を過ごしている。艤装や主機が稼働している事から眠気が艦娘を襲うことは無い。だからこそ移動中は暇であり、嫌でも会話が起きる。そしてそれを通して艦娘達は互いを理解し、そして良好な仲が生まれる。”土佐”の出撃はこれでまだ二回目だが、短い時間でも完全に友情と言えるものが出来上がっていた。

 

「―――イチヨン海域は新任提督最後の試練って言われている海域でな、艦載機を飛ばしてくるヲ級ってのが非常に厄介なんだよな」

 

 木曾の言葉にうむ、と利根が頷きながら言葉を繋げる。

 

「まず第一に鎮守府近海海域をうろついている提督では空母や軽空母に対応するための空母型や軽空母型艦娘を保有していない場合が多いからのう。故にヲ級からの艦載機攻撃に対して非常に脆弱。艦載機を飛ばし、制空権を確保してくるという相手は運がよほど悪くはない限り、まだ会うことは無い筈じゃ。故に大体の提督にとってはここが初めて制空権を取られるという事を味わう海域になるんじゃが……」

 

 こうやって利根が制空権の話をしている以上、制空権を取られるという事は理解しているし、その脅威を”土佐”は理解している。制空権を確保される、という事に対する恐怖を”土佐”は実際その身を持って経験している。故に簡単に制空権を握らせない、艦載機からの身の守り方はもちろんの事、把握している。

 

「普通ならここは対空機銃をガン積みにして駆逐艦、軽巡とかに艦載機を撃墜させる事に集中させて、重巡や戦艦に第二波を発艦させる前に撃墜させる、という方法があるんじゃが―――まあ、吾輩らの場合その心配がいらないというか、場合によってはそもそも艦載機攻撃さえ発生しない場合が存在するからのう」

 

 利根がそう言いながら視線を”土佐”へと向ける。その視線に応える様に”土佐”は背後に折りたたんで持ち込んできている艦装を叩く。

 

「まあ、俺の艦装なら艦載機を飛ばすのと同じタイミングで砲撃を仕掛ける事が出来るからな。そのタイミングでヲ級を殺せば此方へと攻撃が届く前に終わらせる事が出来る。それ以外にも俺の撤退時にやってた戦法だけど、意図的に海へ攻撃して波を発生、それに艦載機を巻きこむとか……あとは海を軽く吹き飛ばして雨を降らして、それに艦載機をひっかけて動きを鈍らせて避けるとか。まあ、基本的に海の中までアレって攻撃届かないから俺は大体の場合で海の中に潜ってやり過ごしたり、海に飛び込んで接近してから奇襲して狩ってたな。防水されてなきゃ艦装やら弾薬がおじゃんになるのが弱点だけど、海に潜るのが一番強い」

 

「お前だけホント全く別世界だよな!」

 

 あの経験のせいで”土佐”の練度は他の艦娘よりも頭一つ抜けている―――といっても全体から通してみれば”土佐”はまだまだ未熟だ。”土佐”自身も土佐の力を全く発揮できていない、そういう気はしている。もっと彼女を理解しなくてはならない。もっと彼女に心をゆだねなければならない。もっと彼女に身を捧げなくてはならない。そうしないと更に彼女の力を引き出せるような気がしない。それは半ば直感的なものだが、”土佐”はそれを真実だと思って捉えている。

 

「流石”土佐”さん、歴戦っぽい……!」

 

 夕立が”土佐”の武勇伝に目を輝かせるが、それに帰ってくる周りのリアクションは溜息だ。

 

「うーん、完全に舎弟だなぁ、これ」

 

「というか……その、微妙に夕立の将来が心配になるというか。改二になると……その……」

 

「あぁ、うん。意味は解る」

 

 夕立改二―――改二となるには比較的練度が低くて済むが、駆逐艦の中では飛び抜けた火力を誇る艦娘。その何よりもの特徴は、

 

 ズバ抜けた闘争心と敵に対する容赦のなさ。

 

 敵を殲滅する、蹂躙する、そして夜戦というジャンルでは恐ろしい程に暴れ、敵を殺しにかかる。

 

 そんな夕立が今からこんな姿勢を見せている。

 

 執務室での光景を含め、夕立の将来に関しては誰もが不安を覚えつつも、そのまま真直ぐ、イチヨン海域へと一同は向かった。




 資源を溜めこむって概念のないてんぞー鎮守府についに東京急行という遠征が! 資源って2万超えるもんなんだね……! えぇ、かなり前からやってるけど司令レベル60超えてない鎮守府。

 そろそろ真面目にレベリングとか始めようかなぁ。

 とか思いつつ、次回1-4攻略。1-4終了で第1章完了って感じですね

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