いずれ至る未成   作:てんぞー

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第弐拾捌話

 数時間かけて鎮守府へと帰港する。しかし、その間に”土佐”による連絡が司令部へ、提督へと届けられている。その応答は芳しくない事から―――半ば、”土佐”は状況を察していた。なんとなくではあるが、嫌な状況が構築されつつある、と。だがそれを表情に見せて他を怖がらせる必要はないというのも理解している為、鎮守府へと戻る間はいつも通りの表情を見せ、そして貫き通した。付き合いのまだ浅い四人は”土佐”の心中に気付くことはなかったが―――懐いている夕立は口に出さずとも、察していた。そしてそれを”土佐”は理解しているからこそ、申し訳なさを感じていた。

 

「見えた……横須賀だ」

 

「なぜか今日は早く戻ってきてしまたっという感じが強いな」

 

「事実本日の帰投は予定よりも数時間早いですからね。本来でしたら八時ぐらいまでは殲滅任務の予定でしたからね。まさかまだ明るい内に戻ってくることになるとは思いませんでした」

 

「夜戦欠乏症で川内、死にます」

 

 夕立が川内の足を持って引きずる様に海の上を滑る。良く見る日常なので誰もがその様子を気にする様な事はしない。ただ、それよりも戻って来る艦娘達の視線はその先―――横須賀鎮守府から突き出ている桟橋に向いている。その上には”土佐”の良く知る姿が立っている―――即ち清十郎の姿がそこにある。いつも通りの恰好ながら、威厳ある姿を持って艦娘達の帰投を待っているが、

 

「おーい、提督ー!」

 

「ただいま戻りましたー!」

 

「大鯨カレーを寄越せー!」

 

 思い思いの言葉を投げながら海から跳躍し、そして桟橋の上へと着地する。無事帰還した艦娘達の姿を見て清十郎は笑みを浮かべると、軍帽を軽く触れてその位置を調整し、視線を艦娘へと向ける。

 

「良くぞ帰ってきた。報告は既に聞いているし任務自体は達成という扱いで処理されるという事になった。諸君らの本日の任務はこれで終了だ。損傷はないと聞いているが、入渠施設で補給と休息を味わってくるがよい、今日はこれ以上の任務もないからその後もゆっくりしろ。ただし土佐」

 

「あいよ、書類仕事だろ」

 

「うむ。それでは解散」

 

 お疲れ様、等という言葉を飛びかわしながら艦娘達が入居ドックへと向かって行く―――ただしその動きに”土佐”と清十郎はない。停止し、桟橋の上に立ったまま、海へと視線を向けている。そのまま数秒、他の艦娘達が視界から消えるのを待ってから、”土佐”が艦装を下ろす。重い音をたてながら桟橋の上に放置される艦装をどこからともなく現れた妖精達が回収する。その内数人が残り、清十郎と”土佐”の足元で動きを止める。その姿は何も言う事無く二人の姿を見上げている。

 

「……」

 

「……結論から言えば」

 

 先に口を開いたのは、清十郎だった。短い沈黙を破る様に清十郎が口にし始める。

 

「深海棲艦どもの構築されつつある泊地が北方の方で発見された。約二時間前の話だ。発見したのは深部海域にて任務に従事していた練度八十越えの陸奥率いる主力艦隊であったらしい。当の艦隊は発見と同時に偵察の為に接近したそうだが―――」

 

 そこで清十郎は一旦言葉を置く。

 

「生き残ったのは島風のみだった。その島風も轟沈一歩手前の状態だ。報告によれば構築されつつある泊地はもはや完成の一歩手前―――前線の部分を残すのみとなっているらしく、そこへ深海棲艦の終結が確認されている。件の艦隊も同時に百体程度なら相手にできたらしいが―――それでも”物量”に圧倒されたのが事実だ。おそらく、かつてない数の深海棲艦が集まっているのだろうな」

 

「そうか」

 

 ―――最悪だな……。

 

 話の流れからして既に”土佐”は悟っていた。これからどういう話になるのだろうか、そして何故話を通されているのだろうか。故に黙っていた。黙り、そして清十郎の話に耳を傾けていた。空気を呼んでいる妖精達も今回ばかりはふざけずにそのまま黙って二人の事を見上げていた。

 

「既に一部の艦隊に出撃命令が下されている。任務の内容は泊地構築遅延妨害任務―――時間稼ぎだ。集まる深海棲艦を攻撃し、そして構築されつつある泊地を破壊する任務だが……それでも遅延させるのには限界がある」

 

「という事は俺達は遅延任務に出ればいいのか」

 

「いや―――一か月後の総力戦に参加することになるだろう。参加の義務がある、だが遅延任務が此方に来ないという事はつまりそういう事だろう。そして……その場合俺が出すのは貴様、木曾、利根、神通、夕立、時雨―――元第一艦隊の面々だ」

 

 それは清十郎が保有する艦娘の中で一番練度が高く、そして信頼の置ける艦だというのは”土佐”は理解している。少なくともそう認識している。口に出さずとも、清十郎の信頼はある―――そうでなくては旗艦を任せられることはない。

 

「正直な話、お前たちを死地へと送り出したくはない―――だがそれは他の提督も同じであろう。そして他の者が何も言わぬのであれば俺も何も言う事は出来ん。故に俺はお前たちを死地へと送り出す事になる」

 

「まるで確実に俺たちが死ぬような言い方だな」

 

「おそらく今の練度では生き残れないだろう―――尚且つ”改”にすら成れていないお前は十中八九沈む。が、それだとしても貴様は戦場を望むだろうし、他の艦娘が生き残る可能性を上げるためにも俺は貴様を出す他はない―――恨むか?」

 

 ―――恨む訳がない。

 

 ”土佐”が桟橋に座り込む。足を桟橋から下ろすように腰かけ、海に届かない足をぶらぶらと揺らす。手を横へと伸ばし、その動きを理解した妖精達が”土佐”に近づいてくる。掌に妖精を乗せ、それを膝や肩の上に乗せた”土佐”は視線を海の方へと向ける。水平線には艦娘達の姿が見える。そのほとんどは帰港してくる姿だ。清十郎の言葉が全てであれば、どの海域へと向かったとしても任務をする意味がない―――帰港し、そして備えるしかやる事がない。それ以外に忙しそうに出撃する艦娘は確実に北方の泊地へと向かう艦娘だろう、”土佐”が見ただけで自らを超える実力を感じる。

 

「なあ、提督」

 

「どうした土佐」

 

 ―――それでも、やっぱりー……。

 

「”土佐”は―――土佐は戦場を求めるよ」

 

 それは歓喜の声だった。”土佐”の中で土佐が荒れ狂っている。やった、やっとだ。殺せる。戦争だ。無限に現れる敵。無限に屍を乗り越える姿。殺しても殺しても消えない敵の影。そこで戦ってこそ初めて己の価値が証明できる。そこで戦えてこそ初めて艦娘としての意味が果たせる。叫んでいる。そう叫んでいるのが”土佐”には聞こえていた。そして精神以外の全てが本来は土佐のものだ。であるなら、”土佐”に断る理由も動機も考えもない。いいなり、と言ってもいいかもしれない。しかし”土佐”も既に着任してから数か月が経過している。流されるだけの彼女はもういない。

 

 戦友と肩を並べて戦う彼女の心は決まっている。

 

 なぜならそれこそが、

 

「―――俺の唯一の存在価値だ」

 

 そう”土佐”は己の意思を結論付けた。それがおのれの存在理由であり、存在の証明だ。土佐は戦場を求めている。この数か月で多くの深海棲艦を沈めてもそれで満足しない。恐怖の声はなくなっても怨嗟の声は止まらない。何よりも深海棲艦を沈めたがっている。誰よりも深海棲艦の死を望んでいる。一匹でも多く、手段は選ばないから深海棲艦を沈めたい。その声が”土佐”の脳内に響き続ける。それは清十郎が泊地構築の話をしてから更に加速している。普段は口数少なく、か細い声の土佐が求めている。

 

 ならば理由はそれだけで十分すぎる。

 

「実力が足りないのなら手段を選ばず補えばいい。味方の死体を盾に使うのも、敵の死体を利用するのも、そうやって”土佐”は圧倒的絶望からここまでやってきたんだ。また継ぎ接ぎで色々と繋げてくっつければ良い。土佐の意思さ。”土佐”はそれに逆らえない。逆らう気もない。だから提督、”土佐”は……土佐は戦場を望むさ。それこそこれから行く事が想定されているような地獄が。そういう阿鼻叫喚の戦場にこそ”土佐”は向かいたい」

 

「……そうか」

 

 そう答えた清十郎は小さく、溜息を吐きながら軍帽を少しだけ、深く被る。

 

「業が深いな」

 

「俺の事か?」

 

 いや、

 

「―――艦娘も人も、だ。理由はどうあれ、艦娘は絶対に戦場に出る事を望む。存在意義や友の為、愛の為、そういう理由は一切関係ない。どんな艦娘であれ、絶対に戦地へ向かう事を望む。そういう風に誰もが願う。元より闘争の為に生まれたから……そう言う輩もいるだろう。が、それにしては艦娘という存在は戦場に己の場を求め”すぎる”。そして人間はそうやって己の身を犠牲にする艦娘の存在を喜んで受け入れる―――沈んだ後で同じ艦娘を建造してそれを信頼する。全く持ってどちらも業が深いとしか言えんな」

 

「戦えない艦娘なんてただの女と変わりはしないよ、提督。そして俺たちはやつらを皆殺しにするためにやってきたんだ。それが出来ない奴はここにはいないよ」

 

「だろうな。あぁ、それに関しては信頼しているさ。心の底からな。お前らは絶対に裏切らない。たとえ間宮や大鯨であっても武器を取る必要があるなら恐れることなく最前線に立つであろう。あぁ、疑うものか。疑う必要も疑う事もない。だがな、だからこそ俺は情けなく感じる」

 

 清十郎がそう言って”土佐”の横に座り込む。その表情は軍帽に隠れていて見えない。しかし、なんとなく”土佐”にはその表情が察せていた―――故に、そちらへと視線を向けることなく、膝の上に乗せた妖精を撫でたりして、そっちへと視線を向けていた。

 

「提督もやっぱり戦場へと出たかったか」

 

「勿論だ。俺だけではなく多くの男もあの海に挑みたいものだと思っている。生まれ持った肉体、鍛え上げた技、人の為の兵器―――それらを持っても海へ出る事は出来ん。空を飛ぶ事も出来ん。男には男の、女には女の役割とは言わん。だがそうであっても我々は守るため、そして戦うために軍人となった。であるのに許されるのは女の姿をした者達を戦場へと送る程度の事だ。役割、なんて言葉で納得できる程安い志を持っている訳ではない」

 

 が、

 

「何を最善かを弁える脳は持っている。故に我々は何も言えんし、何も出来ん。悲しい事ではあるがな、この関係が最善である。……悲しい事ではあるのだがな」

 

「ま、そこら辺は全く興味ないから提督ががんばってくれ」

 

「手厳しいな、貴様は」

 

「普段からそうだろ―――まあ、好んで死ぬ様な馬鹿はいないから安心しろよ、提督。ま、誰だってそうだけど俺だって死ぬ気はない。それに全員無事に帰って来る為に協力してくれる心強い味方がいるだろ?」

 

 そこで妖精が持ち上げられ、スポットライトを浴びた妖精が互いの顔を見合わせる。短く相談をした妖精たちが”土佐”の膝の上に集結し、そしてそれぞれが決めポーズを決める。

 

「まあ、ようせいさんですから」

 

「がんばってますから」

 

「ごつごうしゅぎのひーろーですし」

 

「そもそもかがくりょくにとらわれない? てきな」

 

「なのでがんばります」

 

「ちょうがんばるです」

 

「ただしたいかはぱんつで」

 

 最後の妖精が海に落とされた。それを清十郎と”土佐”は眺め、追撃で妖精達が海へと向かってダイブして行く姿を眺める。やがて、残った妖精がいつも”土佐”と一緒にいる妖精だけになると、”土佐”が妖精を頭の上へと乗せ、立ち上がる。それに従って清十郎も立ち上がる。

 

「ま、お疲れ様提督。悩むことは多そうだけどとりあえず通常の任務も回ってこなさそうだし、出撃まではゆっくり―――」

 

「いや、苦労するのはこれからだ。生き残る可能性のない状態から確実に生き残れるところまで無理にでも練度を上げる必要があるからな」

 

 清十郎へと視線が向く。そして清十郎へと視線を向けたまま、動きを止める。

 

 ―――艦娘の練度は出撃と演習でしか上がらないよな。だけどこの状態で練度を急激にあげると言ったら演習しかないのだろうけど―――。

 

 相手がいない。そこまで思考した所で、清十郎は”土佐”へ背中を向けて笑い声をあげる。

 

「悪い土佐、俺はこう見えて容赦はない―――故にお前たちには辛い思いをさせるだろうが……頑張れ、頑張れば何とかなる! 成せば成る! 素晴らしい言葉ではないか!」

 

「提督、こっち見て話そうぜ」

 

「さあ、執務室へ戻ろうか土佐!」

 

 良いテンションに入り始めた清十郎を”土佐”は軽い不吉な予感を抱えつつも追いかける。結局艦娘単体で用意できるのは覚悟程度だ。それ以上はやはり、提督の領分となる―――故に”土佐”達が生き延びるのであれば、

 

 それは全て、提督である清十郎の努力にかかっている。




 あの

 その

 E1が突破できないんだけど……。というか夜戦乗り越えるところまで無傷でボス前でオール大破したり5連続で大破するってちょっとおかしくないかこれ。支援艦隊20回ぐらいだしても1回も出現しないし。

 運片寄すぎじゃねぇこれ……
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