TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか 作:TS娘には恋させよ
アルセウスくんは積みました
夏合宿に来てはや2週間。毎日さまざまなトレーニングをこなし、ぐったりと疲れた体で眠りにつく。トレーナーと一緒に、先輩たちから学んだことを上手くトレーニングに盛り込んでいく。
トレーナーに先輩たちから聞いたトレーニングメニューなどを伝えれば、うまい具合に俺用のメニューに改変してくれるのだ。さすがは中央のトレーナー。俺じゃそのままマネすることしかできない。
そんな生活を続けていた頃、俺の元に興味深い話が舞い込んできた。
「模擬レース?」
「ああ、なんでもジュニア級の子が集まって開催するらしい。ルクスも出てみるかい?」
「んー……でも、短距離部門あるのか? 結構人数不足で開催できないことあるらしいじゃん」
そう、それが問題だ。短距離専門の子は非常に少ない。大体がマイルと二足のわらじであり、下手すると中距離まで足を伸ばしている子すらいる。
そうなると、短距離レースは人数が足りなくて開催されない可能性もあるのだ。いやまあマイルも一応いけるけど……
「ああ、それなんだけどね、なんでもチームレース方式らしい」
「へ? チームレース方式? またなんでそんな」
「親睦を深める……って目的もあるらしいよ。ほら、距離が違うと知り合いすらしない、なんてことも多いからね」
ああ、そういうことか。このルールだと、数の少ない短距離・ダートは引っ張りだこになることだろう。
ここで一つ、親睦を深めて色々な情報を仕入れておく……今後の事を考えると悪くない。
「それなら出るよ、模擬レース。ちゃんと同期とも親睦を深めておきたいしね」
「そういうと思った。はい、これ出走登録用の記入用紙」
「ほー、結構本格的なんだな」
「なんでも、昔使ってたチームメンバー応募用紙をそのまま流用してるらしいよ。なんだっけ、アオハル杯とか言ったかな」
得意距離に脚質に、あとは気になる同期についてか……うーん、誰を書く? 本来なら『ミホノブルボン』一択なんだが、生憎彼女は合宿に来ていない。なんでも、特殊メニューのためにどこか別のところへ行ったらしい。
マズいな、ブルボン以外の事を考えずに生きてきた弊害が出ている。
「うーん、マジでどうしよう……コンプのヤツはジュニア級じゃないし……」
「それならば、距離で考えずに脚質で考えたらどうだい? 追込の子は少ないし、ある程度絞り込めるんじゃないか?」
「脚質、脚質かぁ」
追込、誰かいたか……? いや、いた。覇王世代の一角、ダービーの一等星が。
俺は用紙に『アドマイヤベガ』と記入し、空欄を埋める。
壊れなければ同世代最強だった、なんて声もあったくらいだ。その走りは、確実に勉強になるだろう。
「よーし、今から楽しみだ」
「それはよかった。色々な走りを間近で見るのはいいトレーニングになるからね」
そうして迎えた模擬レース当日。
「アドマイヤベガよ。よろしく」
俺の希望は通ったのか、同チームにはアドマイヤベガが配属されていた。
うーん、このぶっきらぼうで無愛想な感じ、まさにアドマイヤベガって感じだ。
「よろしくお願いします。強いウマ娘って聞いてるので、頼りにさせてもらいますね」
「はぁ……まあいいわよ。好きにして頂戴」
いやぁ、ほんとイメージ通りのアドマイヤベガだ。なんだかんだで面倒見がいいところまで。
そうして始まる模擬レース。すぐにアドマイヤベガの順番もやってくる。
「それじゃあ、いってくるわ」
「頑張ってくださいね、アヤベさん」
アドマイヤベガの走りは凄まじかった。一等星の名前は伊達ではない。
最終直線で全員をちぎり、ゴール板を駆け抜ける様はまさに『孤高』というにふさわしい。
「おめでとうございます、アヤベさん!」
「ありがと。あなたも頑張りなさいよ」
「もちろんです。同じ追込として、頑張ってきますね」
「あなた短距離よね……? 追込、って大丈夫なの?」
「これでも鍛えてるんで」
流石にこちらのことは把握してなかったか。いやまあしょうがない。自分が関係ない距離のウマ娘、それもまともに重賞に出てない子の情報を持ってる方がおかしい。
そう考えると、先輩たちはリサーチ力すごいな……いや、キングヘイローが面倒見が良いだけか?
「よっ、ほっ、と」
うん、調子は問題ない。キングヘイローから学んだ走り……『電撃の煌めき』は全くと言っていいくらい形になっていない。が、質の悪い模倣くらいなら、ギリギリなんとか……? いや、無理に真似して脚を壊したら元も子もない。参考にして走るくらいにとどめておこう。
足の筋肉をしっかりほぐし、体を温めていく。
「ふぅ……平坦なコースだけど、勝てないレースじゃない」
スタート位置に立ち、前を見据える。
模擬、とはいえレースはレース。パチリ、とスイッチが入り、俺の全身に闘志がたぎった。いつからだろうか、こんなにもレースで高揚するようになったのは。
「位置について……よーい」
バッ、と旗が振られる。その瞬間、勢いよくスタートを決める他の子たち。が、俺は焦らない。
しっかりとレース展開をみるためにも、他のウマ娘達の後ろにつく。
「レース展開はスロー、逃げ3の先行5……」
今回の模擬レースは9人立て。これはなかなかに好都合だ。
性格の問題で、バ群に突っ込んでいけない俺にとっては、だが。
「仕掛けどころは最終コーナーを回っての直線、いや……」
冷静にレース展開を観察し、仕掛けどころを見極めていく。スローなペースのレースだ、仕掛けどころは早めがいい。みんな体力も余っているだろう。
「最終コーナーの途中から、仕掛けるっ!」
タン、と力強く地面を蹴る。足に力を込め、推進力を生み出す。と同時に足を襲う衝撃を、全身の筋肉と絶妙なバランス調整で受け流していく。結局、足にかかる衝撃をうまく利用することはできてない。だが、今はこれで十分——!
最終コーナー、その終わり。俺は猛烈な勢いで駆け出した。
「ふっ!」
煌めく流星の如く、直線を突き進む。大きく横に伸びてしまったバ群を避け、大外を走る。というより、今の俺にはこれくらいしかできない。
先頭を狙う先行脚質組を抜き、そのまま逃げの集団に詰め寄る。
「ここで、加速をっ!」
体を沈み込ませて空気抵抗を減らし、ゴールまで一直線に駆けていく。
先行も逃げもちぎり、俺はゴール板を駆け抜けた。
「ふぅ……うまくいってよかった」
スプリントターボ。完成度は30%といったところだろうか。1レースに1回が限度なのが本家との超えられない差、といったところ。マジでバクシンオー先輩は1回の走りで2、3回は余裕で使ってくるからな……
やっぱバクシンオー先輩おかしくねぇ?
「まさか、本当に追込で勝つとはね」
「あはは、これしかできなくて……」
「いえ、見直したわ。最後の直線での走り、とてもよかったわよ」
アドマイヤベガ。そっけなくはあるが、決してこちらを拒絶するようなウマ娘ではない。むしろなんか距離近い気がする。やっぱ同じ脚質同士で気が合うんだろうか? それとも、妹みたいだと思われてる……?
というか、オペラオーと愉快な仲間達が関わり合いになりたくないくらいヤバいのが無愛想の原因では……?
アプリでは同室のカレンチャンとなんだかんだ仲が良さそうだったし、その可能性は十分にある。
「あ、あの……同じ追込として、連絡先の交換とか……」
「……わかったわ。それくらいなら」
「やった!」
「あんまり変な連絡はしてこないでね。頼むから、『カッコいいボクをお裾分けするよ!』とかはやめて頂戴……」
いやほんとこれオペラオーの奇行が原因では……? まあ彼女は、あれでいてアホみたいに強いから……いや、あんなんなのにアホみたいに強いからこそ問題なのか。
そして、もう一つ気になることがあった。彼女の同室……カレンチャンについてだ。同年代にカレンチャンの存在は確認できなかった。が、ウマスタグラムで『Curren』という名のウマスタグラマーが活動しているのは確認した。これは一体……
「あの、アヤベさんの同室って」
「私?
「いえ、どんな子と一緒なのかなー、って思いまして」
やはり、カレンチャンではない。どうなってる? カレンチャンはトレセンには来ないのか、それともまだ時期ではないのか……
考えても答えはでないだろう。とりあえず切り替えることにする。
「うちのチーム、結構いいところいきましたね」
「そうね。短距離でしっかり勝てたのが大きいわ。他のチームでは、短距離の子がいなくて、マイルの子が無理やり走ってたりするもの」
「あはは……やっぱり短距離は人数足りないんですね……」
こればっかりは仕方ない。もう宿命として受け入れるしかないだろう。
「落ち込むことはないわよ。その分、強い子と同じレースに出走するのが簡単だと思えばいいわ」
「まあ、それはそうなんですけどね……ほんと、上が強すぎて」
「……あれは気にしたら負けよ」
やっぱり何度考えても頂点がヤバすぎる。模倣した技でこれだけの力になるのだから、本物のヤバさがより際立つ。
「それじゃあ、私はいくわ。楽しかったわよ」
「えへへ、ありがとうございます」
いやぁ、有意義な模擬レースだった。
アドマイヤベガの走りは、俺とは似て非なるもの。大外からの追い上げを基礎としつつも、バ群だろうと気にせずに前を狙う。俺には絶対にできない走りだ。そしてなにより、彼女は差しとしても走れる追込。根本からして出来ることの幅が違う。
早ければ中盤から前を狙うタイプの追込というのは、俺には不可能だ。スタミナがもたない。
「中盤、明らかに我慢できずに前を狙ってたな……」
史実において、アドマイヤベガは気性が荒かった……なんて話もあった。あれは、そんな気性の荒さからくるものなのかもしれない。我慢ができずにスパートを掛けてしまう。これは致命的にも思えるが、スタミナさえあるならば問題はない……いや、むしろスタミナがあるなら正しい策であるといえる。
「うーん……参考にできるか、って言われたら……無理だよなぁ」
俺には無理! そう投げ出すのは簡単だが……いや、待てよ? 確かにスパートを掛けたらスタミナがもたない。が、準備程度にとどめておけば?
「加速の準備を中盤に済ませる、アリだな。ゴルシとかカフェの固有が確かそんな感じだったか……」
中盤から少しずつ速度を上げ、終盤で一気に最高速に乗せる。スタミナをうまく調整すれば不可能ではないだろう。
しかし、こうなると改めて思う。
「課題が、多い!」
時間が全く足りん! 夏合宿で毎日みっちりトレーニングしてるっていうのに、まるで時間が足りない。
トレーニングしたいし、レースの研究はしたいし、いろんな子と交流して情報も仕入れたい。
一日が48時間くらい欲しい……いや、そうなったら他のウマ娘達も強くなるのか。
「ほんと無限に時間が欲しい……」
朝日杯FSの前哨戦、京王杯ジュニアステークスは11月前半。そこまでにはある程度、自分の走りを完成させる必要がある。残り時間は、長いようで短い。
パン、と顔を叩いて気合いを入れる。
「はー、まずはスプリントターボの完成度を高めるところからかなぁ」
現状、アプリ版のように短距離で使うことまでしかできてない。それ以上の距離では、足への負荷が強すぎる。
これをどうにかして、マイルレースで使えるようにしなくては。
1レース1回の回数制限については、どうにもならないしどうにかする気もない。最終直線一点掛けの走りをする俺にとっては、1回使えればとりあえずは十分なのだ。
「マジで負荷がヤバい……終盤の要所でしか発動してないのにこれだもんな……やっぱり、もっとバランス感覚も鍛えないとダメか。全身の筋肉がプルプルしてるぞ」
課題は多い。だが、全く進んでいないわけではない。
だからこそ、一つずつ積み重ねていくしかないんだ。
そして俺は。
「いだだだだだだだだ!」
「これはかなりきてるね……その技、当分は使用禁止にしようか」
「もう模擬レースではつかわない……マジでやばい……」
次の日、地獄のような筋肉痛に悩まされ、トレーナーのマッサージのお世話になるのであった。
あああ……ほんとトレーナーのマッサージ気持ちいい……
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