TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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11 夏祭りに行こう!

 

「夏祭り?」

「うん、なんでも合宿場の近くでやってるらしいよ。どうだい、息抜きに行ってきたら」

「えー、どうしようかな……」

 

 夏合宿も半分が終わった頃、トレーナーがそう切り出した。

 夏祭り、夏祭りかぁ。そういやアプリでもそれっぽい描写があったよな。とはいえ、一緒にいく相手が……アヤベさんならなんだかんだ言いつつ付き合ってくれそうだけど。

 

「最近はかなりキツめのトレーニングばかりだったから、気分転換も必要だよ?」

「とは言っても、誰と行くかって問題が……そうだ、トレーナーが付いて来ればいいじゃん」

「へ? ちょっとなにを」

 

 この手があるじゃないか! というか女子同士のお出かけって、未だに慣れないんだよな。ブリッジコンプのやつは、俺の事をよく引きずり出すけど……

 

「あー、ルクス? こういうのは同級生とかと一緒に行くものじゃないか?」

「いいじゃん別に。それに、キツい俺のトレーニングに付き合ってるんだから、トレーナーも気分転換が必要だろ」

「……それを言われると辛いな。仕方ない、一緒に行こうか」

 

 やった!

 荷物の中から財布を引っ張りだし、ジャージのポケットに入れる。そうしてそのままトレーナーの腕を掴み、引きずるようにして飛び出した。

 

「ちょ、ルクス!? 急すぎないか!」

「いくよ、トレーナー!」

 

 いや、実際夏祭りは気になってた。1人でなら行ってもいいかなぁ、とは思ってはいたんだが……1人で夏祭りとか、ちょっと寂しすぎるので考えないようにしていた。

 絶対周りカップルとか友人グループとかばっかりだろ。知ってるんだぞ、祭りはぼっちに厳しいイベントだって。

 

「待って待って! 財布とってくるから! というか、着替えたりしなくていいのかい?」

「え、着替えるってジャージと各種トレーニングウェアしか持ってきてないし……」

「ルクスはほんと、ストイックだね」

 

 トレーナーも準備を済ませ、2人仲良く夏祭りに向かう。

 現地は人でごった返しており、なかなかの盛況ぶりをみせていた。というか、背が小さいせいで辺りが見渡せない。トレーナーとはぐれないか心配だ。

 出店の看板ですら、ぴょこぴょことジャンプしなくては確認できない。くっ、いい匂いがするのに、看板が見えない! なんの匂いだこれ。

 と、四苦八苦しているとトレーナーが心配したのか声をかけてきた。

 

「ルクス、こっちこっち」

 

 トレーナーに促され、人の少ない場所へと向かう。

 いやぁ、人混みを甘く見ていた。小さくなった影響をモロに受けている。あんまり気にしてなかったけど、俺ちんまいな……

 

「大丈夫かい? はぐれないように注意してね。一度見失ったら簡単には見つけられなそうだし」

「ん、わかった。なんかこう、うまい事はぐれない方法ないかな」

「あー、うーん」

 

 急にトレーナーの歯切れが悪くなった。

 こういうときは大体何かを誤魔化そうとしている時だ。目も泳いでるし。ふと辺りに目をやると、稀にではあるが手を繋いで歩く人が見受けられる。

 その手があったか。確かに妙案だ。

 

「トレーナー、手つなご」

「ルクス? それは」

「はぐれたら困るだろ? ほら、早く手出せよ」

「あの、だな」

「なんだよ、なんかだめな理由でもあるのか? 手を怪我してるとか言わないでくれよ? それなら今すぐ部屋に戻って安静にしてもらうからな」

 

 ほんとどうしたんだよ。半ば強引に手を取り、トレーナーと手を繋ぐ。

 

「んー、やっぱ大きいな、手」

「ルクスがちっちゃいんだよ」

「ちっちゃい言うなし。今まさにそれで困ってるんだぞ」

 

 観念したのか、トレーナーは割と素直に手を握り返してきた。うむ、満足。

 2人で歩き、屋台を見て回る。トレセン管轄の合宿場が近くにあるからなのか、ウマ娘用の屋台も多く、なかなかに新鮮だ。

 りんご飴、焼きそば、射的。いやぁ、やっぱりお祭りは楽しいな!

 

「うん、ルクスが楽しそうでよかった」

「こういうの、久しぶりだからなぁ。お祭りとかいつぶりだっけ」

「沢山楽しんでね。ここのところ、ずっと頑張りっぱなしだったから、一回気を休めた方がいい」

「でもなぁ、あんまり気を抜くのも」

「気を張りすぎると、ある日突然切れて立ち直れなくなったりするから、僕としてはしっかり気を休めてほしいかな」

「それなら、まあ」

 

 なんかうまく丸め込まれた気がする。

 こう、トレーナーは俺の扱いが上手すぎるんだよ。言い負かされてばっかりじゃないか。そんな俺わかりやすいか?

 なんだか釈然としないもやもやした気持ちを抱えながら、屋台に目をやる。

 

「これは、メンコか」

「あれ、ルクス昨日はしてたよね?」

「キング先輩にもらったやつか。あれ一個しか持ってないから、洗濯してる間は着けられないんだよな」

「待ってルクス、君がメンコをしないのって、体に合わないとかじゃなくて『持ってないから』なのかい?」

 

 以前キングと風呂に入ったとき、メンコも耳飾りも持ってないと言ったら大変驚かれた。目を見開きながら、ウマ娘であることを捨ててるとか、本当に女かとか言われたときはこっちも驚いたものだ。

 で、面倒見がめちゃくちゃいいキングは、予備のメンコを俺にくれた。遠慮しようとしたのだが、『キングのプレゼントが受け取れないのかしら!?』と涙目で言われてしまったのだ。受け取らないわけにもいかなかった。

 

「あー、うん。なんというか、どうやって買えばいいのかもわからなかったし……」

「呆れた……ズボラなところがあるとは思ってたけど、ここまでとはね」

「しゃーないだろ。全くこういうこと教わってこなかったんだから」

「普通はそんなことないんだけど……ルクスを見てたら本当にあるのかも、って思ってしまうのがおそろしいところだね」

 

 メンコはなかなかに快適だ。通気性も悪くないし、何より『聴力の強いウマ娘耳』に制限をかけてくれるのが嬉しい。元ヒトの身としては、ウマ娘ボディは過剰スペックに感じる事も多いのだ。

 まあレースでやりあうならば、その過剰スペックを使いこなせないとダメなのだが。

 屋台に並べられたメンコは、どれもなかなかにデザインがいい。屋台の品なんて、大体が三流品かパチモンだと思ってたのでかなり意外だ。

 

「よう、嬢ちゃん。なかなかいい品だろ? ここは合宿場も近いからな、本職の奴らが小遣い稼ぎにきてるのさ」

「本職?」

「勝負服とかを作ってる奴らさ。小遣い稼ぎをして、ついでに名前を売っておこうなんてやつも少なくないぞ」

 

 おー、じゃあマジで質がいい品なんだな。チラっと見えた値段もなかなかのものだ。

 俺の目が屋台の端に置かれたメンコで止まる。流星の刺繍があしらわれた、可愛らしいメンコ。

 

「…………」

「ルクス、どうした?」

「あ、いやべつに……」

 

 すっごい欲しい。

 いや、可愛いものとかにはそこまで興味がないんだが、あれから目が離せないのだ。どうする? 値段だけ見てみるか?

 少しだけ値札をめくって、そこに書かれていた金額に驚愕する。た、高い……

 現在俺の所持金は、全て虚空から湧いて出たものだ。比喩でもなんでもなく、一月に一回決まった日に、財布に突如としてお金が現れるのだ。絶対これ三女神の仕業だろ。

 で、その金額は決して低いわけではない。が、高いわけでもない。このメンコは、お財布ギリギリ……いや、今見たら足りなくねぇか?

 

「う、うううう……」

「ルクス? 本当に大丈夫かい?」

「大丈夫、大丈夫……うう……」

 

 欲しい。マジで欲しい。

 こういってはなんだが、明らかに本能がアレを欲している。勝負服職人が作っていると言うだけあって、そういう不思議な現象があってもおかしくはないだろう。

 

「もしかして、あれが欲しいの?」

「……う、うん……」

 

 こくり、と頷く。欲しいもんは欲しいんだからしょうがない。とはいえ、お金も足りないし今回は諦めるしかないのだが。なんとか、取り置きとかしてもらえないかな……いや、屋台だし無理か……

 そんな事を考えてると、トレーナーが財布を取り出した。

 

「すいません、端のそれいただけますか?」

「おお、お目が高いね兄ちゃん! 予備もセットになってるからお買い得だぞ」

「これでお願いします」

「ちょ、ちょっとトレーナー!? 流石にそれは」

 

 決して安い買い物ではない。必死にトレーナーを制止するものの、また言葉巧みに押し切られてしまう。

 

「メンコを使うってのは、他のウマ娘に怯えがちな子には有効な手段だよ。ルクスはメンコが出来ない、って訳じゃないんだし」

「いや、だからって買ってもらう訳には」

「それに、初勝利のお祝いもしてなかっただろう? だからこれは、そのお祝い」

「なんだよそれ、ズルい」

「大人はズルいんだよ」

 

 そうしているうちに、トレーナーがお金を払い終えてしまう。あああ、結局また負けた!

 ほんとなんで勝てないかなぁ!?

 

「はい、ルクス。後で採寸して、レース用のも発注しようね」

「……ねえトレーナー」

 

 いいこと思いついた。ちょっとトレーナーを困らせてやろう。

 案外トレーナーは線引きをちゃんとするタイプだ。さっきも手を繋ぐのを躊躇していたように、『そういう事』を担当にしてはいけないと思っているのだろう。

 そこを、突く!

 

「耳に、着けてよ」

「へ?」

「だから、メンコ着けて。今ここで」

「ルクス? あの、ルクスさん?」

「早く」

 

 どうするトレーナー? ここは大人しく引くしかないだろう? これで俺の勝ちだな!

 そう勝ち誇る俺の()()に、優しく布が被せられた。

 

「ひゃいっ!?」

「ルクス、あんまり動かないで。メンコは左でよかったよね? 昨日も左だったし」

「ひゃ、ひゃい……」

「片方だけでいいかな?」

「み、右は着けると変な感覚あるんで、左だけで、お願いします……」

 

 まってちょっとまって。なにそれきいてない。

 ここは『ごめんルクス。それは出来ない』って引くところだろ!? なんで優しく被せてるんだよ!

 

「はい、どうだいルクス。違和感ない?」

「ない、です。あの、ありがとう、ございます……」

「ん、どういたしまして。よく似合ってるよ」

「あ、あう……」

 

 脳が茹って、考えがまとまらない。なんで反撃されただけでこんなに取り乱さなきゃいけないんだ。

 くそ、ほんと訳がわからない。

 

「ルクス、尻尾を抑えておいた方がいいよ。他の人にあたっちゃう」

「しっぽ……?」

「うん。パタパタ動いてるから」

 

 この体になってから、頭の上には大きなウマ耳が、お尻の辺りにはウマ尻尾が生えた。が、これの制御が非常に難しい。いつの間にか動いてるし、なにより動いているのを自分で察知出来ない事が非常に多いのだ。

 今も全く気づいてなかった。

 

「んっ、ちょっと、待って! なんで自分の尻尾なのに、言うこと聞かないんだっ!」

「あ、あはは……」

 

 なぜかいつまでも止まろうとしない俺の尻尾。数分の格闘の後、やっとの事で抑える事に成功するのだった。

 ほんと、訳がわからん! なんだよウマ娘ボディ! 俺に不利なこと多すぎだろ!

 

「なんかどっと疲れた……」

「じゃあどっかで座って花火でも見ようか」

「ならなんか買ってからにしよう。たい焼きとかわたあめとか食べたいかも」

 

 屋台を物色し、いくつか食べるものを買ってから脇道に逸れる。

 できるだけ人の気配がなく、かつ花火が見える場所を探せば、案外候補は多数見つかった。

 あそことか開けてる上に人もいないしいい感じかね? 俺たちはそこに腰掛けて買ってきたものを広げた。何から食べようかな。

 

「んー、美味しい。屋台のチープな料理って、たまに食べるとなぜか美味しく感じるんだよな」

「たまにだからだろうね。こういう気分転換ってのは大切なんだよ」

「そうだなー。なんか気分転換で疲れた気がしないでもないけど」

「あはは……」

 

 遠くで光っては消える花火。一瞬の煌めきを残し消えていく様は、華々しくも哀しい。

 俺はトレーナーにもたれかかると、心の内を打ち明けた。

 

「なぁ、トレーナー」

「なんだい、ルクス」

「俺は、ミホノブルボンに勝てるのかな」

 

 ずっとずっと考えていた事。どんなにトレーニングをしても、ミホノブルボンに負ける光景を振り払う事が出来ない。最終直線、ゴール手前で再加速するブルボンの姿が頭から離れないのだ。

 勝ちたい。だけど勝てる気がしない。

 

「ルクス……」

「あはは、弱気になりすぎかな。でも、ブルボンは確実に前回よりも仕上げてくるはずだ。その時、果たして追いすがれるのか」

「大丈夫だよ」

 

 優しく抱きしめられる。不思議と、嫌な感じはしなかった。いつもは『気軽に頭撫でやがって』とか、『抱きしめるのは担当とそのトレーナーという関係上大丈夫なのか?』とか思うのに。

 

「君は僕のウマ娘だ。担当の事を信じてないトレーナーがいるもんか」

「でも」

「それに、僕は君が頂点を取れると思ったからスカウトしたんだ」

「随分と大きく出たな……なんだよトレーナー、そんな野望持ってたのか」

「笑うかい?」

「笑うもんか。俺をスカウトしてくれた、大切なトレーナーなんだぞ」

 

 ぎゅ、とトレーナーを抱きしめ返す。これは親愛のハグだ。だから、大丈夫。

 

「ありがとう、トレーナー。俺は、ブルボンに勝つよ」

「楽しみにしてる」

 

 そんな暑い夏の夜。

 次の日から俺たちは誓いを新たに、打倒ブルボンに向けて更なるトレーニングを積み重ねていくのだった。

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