TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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12 観戦、スプリンターズS!

 夏。合宿を終え、学園に帰ってきた俺はトレーニングに勤しんでいた。

 サクラバクシンオー、キングヘイロー、そしてアドマイヤベガ。三者三様の走りを参考に、自分の走りを磨き上げていく。

 

「うん、悪くないタイムだ。スパート以外のタイムもかなり伸びてるね」

「基礎体力が伸びたからか? 砂浜でだいぶスタミナも鍛えられただろうしなぁ」

「練習でなら中距離は走れるだろうけど、本番だと厳しいだろうね。ルクスの中・長距離が苦手な理由はスタミナじゃないし」

 

 そう、そうなのだ。俺が長い距離が苦手な理由、それは正確にはスタミナ不足が原因ではない。

 問題は()()()となっている。

 バ群が嫌い、本気のウマ娘が苦手。つまりは、レースで走るだけでガリガリと精神力を削られる事に他ならない。

 

「本気のウマ娘にも、ある程度は慣れてきたけど……」

「バ群嫌いは治らないね」

 

 で、その集中力が持つ限界がマイルって訳だ。気を抜いて走る……なんて手もあるにはあるが、それだとGⅠで勝ちを拾うのはどんなに運が良くとも不可能だろう。

 中距離で『入着はできても勝利は勝ち取れない』とトレーナーが言うのはこれが原因だ。

 

「はー、ほんとままならんなぁ」

「とは言っても、マイルと短距離に絞る子は珍しくもないよ。むしろ、短距離から中距離まで走れる方が珍しい」

「そうだけどさ」

 

 マイルから長距離まで走れる、という子はそこそこ見かける。が、短距離から中距離までとなると途端に数が減るのだ。短距離、という特殊な環境がネックになっているのだろう。

 

「で、どうするんだい明日は」

「ちょっと見に行ってくるよ。コンプのやつが出走するのに、見に行かない訳にいかないだろ」

 

 9月後半にあるレース、スプリンターズステークス。そこに同室のブリッジコンプが出走するのだ。

 ブリッジコンプのGⅠレース。絶対に観にいきたい。

 

「わかった、じゃあ一緒にいこうか」

「へ? なんだよ、トレーナーもくるのか? 無理についてこなくてもいいぞ」

「ルクス、明日のレースに出走する子は、僕達の前にライバルとして立ちはだかる可能性のある子たちだ。トレーナーの僕が観ない訳ないだろう?」

「あー、そうか。じゃあ、頼んだトレーナー」

 

 翌日、俺たちはレース場にいた。中山レース場は人で溢れており、気をつけなければはぐれてしまいそうだ。

 トレーナーの手を取り、きゅっと握る。

 

「ルクス」

「なんだよ。はぐれたらいけないだろ」

「……はぁ……」

 

 手を引いて、観客席最前列に向かう。

 少し早いものの、いい場所も確保できたしヨシ!

 

「スプリンターズステークスの出走表どこやったっけ……」

「はい、これ出走表だよ」

「ありがと、トレーナー。なになに、一番人気はタイキシャトルか」

 

 出走表にはトレーナーの手で注釈が書き加えられていた。その子の脚質、人気度合い、前走や勝ちレースなどがところ狭しと加えられ、とても勉強になる。

 とはいえ、今日注目するのは同室のブリッジコンプと『最強マイラー・タイキシャトル』だ。

 

「タイキシャトル、レースを見たけどすごい子だ。とはいえ、彼女の本領はマイルレース……」

「短距離でどの程度食らいついてくるかが勝負のキモになるな」

 

 中山の芝1200m。内枠有利のコースであり、荒れやすいコースでもある。

 そしてもう一つの特徴。それは、道中の大半を下り坂が占める、ということだ。これにより、かなりハイペースなレースが繰り広げられることが多くなる。

 

「お、コンプのやつ出てきたぞ」

「彼女、かなり仕上げてきてるね。調子も悪くなさそうだ」

「タイキシャトルは……うーん、どうだろ。調子は悪くなさそうだけど」

 

 とはいえ、レースは時の運も絡んでくる。出走し、そしてゴール板を駆け抜けるその瞬間まで、結果は誰にもわからない。

 返しウマが始まり、各ウマ娘が思い思いに駆けていく。

 

「タイキシャトルは……これまた豪快な走りだね。だけど、ちょっと走りのバランスが悪い気もするね」

「なんというか、すごいよなぁタイキシャトル。俺には無理だね、ああいう走りは」

 

 タイキシャトルはなんというか、豪快だ。そもそもがデカいし、短距離やマイルを走るウマ娘にしては、スタミナもなかなかだ。

 そんな彼女は。中盤まで先頭よりもやや後方に付き、最終コーナー手前あたりから一気に先頭を目指す走りを得意としている。アプリだと先行だったはずだし、情報通りといえるだろう。

 

「お、コンプのやつ走りの調子も良さそうだな。これは期待できるか?」

「うん、いい感じだね。かなりの好走が期待できそうだ。あとは、ハイペースなレースになった時にスタミナが持つかだね」

 

 対するブリッジコンプは、ちんまい体をしている。とはいえ、スタミナがないという訳ではない。むしろ、スプリンターとしては十分な体力と言えるだろう。

 そして彼女の脚質は『逃げ』。タイキシャトルの豪快な走りから、最後まで逃げられるか……それが今回のレースの焦点になってくる。

 

「快晴な空の下、ついに始まりましたスプリンターズステークス! 短距離の王者を決めるべく、16人のウマ娘たちがゲートに入っていきます!」

「あいにくの曇り空ですが、バ場はかろうじて良となっています。ですが午前中の雨のせいもあり、ところどころにぬかるみが見られますね」

「始まったかぁ」

 

 高らかにファンファーレが鳴り響き、全員が一斉にゲートに向かって歩き出す。

 コンプは2枠3番。内枠有利の中山1200mでは、かなりの好条件を引けたと言える。対するタイキシャトルは6枠11番。この差が、どうレースに関係してくるか。

 

「今回のレース、注目すべきはどの子でしょうか」

「そうですね。マイルレースで未だ負けなしの一番人気、タイキシャトルはかなり期待できますよ。前走はNHKマイルカップ、着順は一着です」

「ですが……うーん、少しゲート入りに時間がかかっているようですね」

 

 やはりタイキシャトルは高い評価を受けている。本来の戦場であるマイル以外でこの評価、さすがだと言えよう。というか未だマイルで負け無しなのバケモノじゃねえかな……まあ、短距離ではちょくちょく負けているっていうのが救いだ。

 まあ、ゲート入りがスムーズじゃないのはしょうがない。ああいう性格なんだ、狭いところは苦手なんだろう。

 

「私イチオシのウマ娘はブリッジコンプですね。タイキシャトルとは違って、短距離が主戦場の子です」

「彼女は過去にマイルレースでタイキシャトルに敗れていますからね。リベンジとなるでしょうか」

 

 全員がゲートに入り、会場が静まり返る。

 これだけ遠くにいるというのに、ゲートから伝わる覇気と闘気に、体がブルリと震えた。

 

「さあゲートが開きました! 一番に飛び出したのは3番ブリッジコンプ!」

 

 ガタン、と音を立ててゲートが開き、ウマ娘たちが一斉に走り出す。

 

「おっと、5番ハープリズム出遅れたか? 2番ファーメントウィンも先頭集団に食らいついていく!」

「1200mという短いレースです。かなりハイペースな展開になることが予想されますね」

 

 中山の直線は短い。これは、最終直線だけの話ではない。芝1200mのコースは、コーナーの終わり部分から始まる。そしてスタート地点からすぐの場所に向正面があり、これが約200mの直線。そうして、その後は最終直線まで全てコーナーとなっているのだ。

 つまり、1200mのうち、直線なのは半分以下の500mほど。

 

「おっと、11番タイキシャトルが集団から抜け出して3番ブリッジコンプに迫る! 枠番の不利をものともしない力強い走りだ!」

「ですがブリッジコンプも負けてませんよ。引き離そうと加速しています」

 

 中山・芝1200mの平均タイムは1:08程度。3ハロン(=600m)を駆け抜けたブリッジコンプのタイムは33.8。これはかなりハイペースなタイムだ。確かレコードタイムがサクラバクシンオーの1:07.1なはず。

 ()()()()()()()()()()()()()、レコードも狙えるということだ。

 が、短距離レースというのは全体的に、前傾タイムとなることが多い。前方脚質の子が多いのが大きな要因の一つと言える。

 

「さあ最終コーナーを回って各ウマ娘一斉に駆け出した! 中山の直線は短いぞ! 後ろの子たちは間に合うか!」

「先頭で競り合っているのは3番ブリッジコンプと11番タイキシャトル、そして1番のフィアースキック! おっと、フィアースキック失速か!?」

 

 かなりハイペースなレースだった事もあり、最終直線での伸びが鈍い。

 ブリッジコンプもタイキシャトルも、顔に疲労が見えた。が、それでも必死の形相で、先頭を渡してなるものかと競り合いを続ける。

 

「タイキシャトル追いつくか! ブリッジコンプ逃げきるか! タイキシャトルかブリッジコンプか!」

 

 最終直線、その終わり。競り合った2人のうち、タイキシャトルが足を取られ少しだけ姿勢を崩した……ように見えた。

 そうして次の瞬間、もつれこむようにしてゴール板の横を駆け抜ける。

 これは、どっちだ? 最後、タイキシャトルが差し切ったのか、それともコンプが逃げきったのか……

 

「おっと、これはどちらが勝ったのでしょうか!?」

「これは……」

 

 掲示板には『写真』の文字が表示されていた。写真判定。肉眼で判別しにくい僅差のレースで行われる判定方法だ。

 それほどまでに、彼女たちの差は小さかった。

 レース場も、なかなか無い写真判定という言葉にざわついていた。

 

「なあトレーナー、どっちが勝ったと思う?」

「……ブリッジコンプかな。最後、ゴールに突っ込んだ体勢は、彼女の方が有利に見えた」

 

 一分ほどの後、掲示板に数字が灯る。

 一着は3番。

 

「今判定が終わりました! 一着は3番ブリッジコンプ! 二着は11番タイキシャトルです!」

「やった! トレーナー、コンプのやつがやったぞ!」

 

 見れば、ゴールの先でコンプのやつが大粒の涙を流していた。

 初めてのGⅠ勝利。その喜びはどれほどのものなのだろうか。そんな彼女にタイキシャトルが近づいていく。そして、ギュウと力強くハグをした。

 あれ大丈夫か……? コンプのやつ、潰れてない?

 

「タイムは1:08.0か。途中ハイペースになったせいで、最後にみんな失速してたね。それでも逃げ切ったんだからなかなかの根性だ」

「コンプのやつ、ああ見えて熱血だからなぁ」

 

 GⅠレース、そのウィニングライブ。ブリッジコンプが歌い、踊る。

 観客席を埋め尽くす黄色のライトに祝福され、高らかに歌う彼女は、間違いなくその日の勝者だった。

 

「よかったなぁ、コンプ……ほんと、よかった……」

 

 ブリッジコンプ。アプリではモブウマ娘として時折見かける彼女は、お世辞にも強い性能ではなかった。適性もBが並び、終盤までに後方へ消えていくなんてことは日常茶飯事。

 だがそんな彼女は、この世界では勝ちを掴み取った。

 死に物狂いでトレーニングを続け、適性を覆すための努力を惜しまず、GⅠという大舞台で輝いてみせたのだ。

 確かに最後、タイキシャトルが体勢を崩したのが勝利の要因——つまりは運がよかった、ということもあるだろう。

 だが、運がいいだけで勝てるほど、GⅠもタイキシャトルも甘い存在じゃない。

 

「うぐ、ううう……」

 

 ()()()()()()()()()。かの『皇帝』シンボリルドルフですら三度の敗北を経験し、『スーパーカー』マルゼンスキーもドリームトロフィーシリーズでは優勝を逃すことも度々ある。

 ブリッジコンプは、そんな言葉の体現者であると言えた。

 

「おまえががんばってたの、おれしってるからよぉ……こんぷ、勝ててよかったよぉ……」

「あーあ、服が汚れちゃうよ。ほら、顔拭いて」

 

 泣きじゃくって顔をぐちゃぐちゃにしてしまう俺。

 だってよぉ、仕方ないだろ……

 コンプのやつが明らかにキツいと言えるトレーニングを、死に物狂いでこなしてたの知ってるし。

 

「ずびっ……ふぇぇぇ……なんか、泣きすぎてへんな感じ……」

 

 ライブが終わる頃に、やっとの事で涙が止まった。

 流石に泣きながら学園に帰るのは変な誤解を受けそうだし……

 トレーナーに部屋まで送ってもらい、ベッドに飛び込む。こうでもしないと、無意識のうちに走りだしてしまいそうだった。

 

「ただいまー! 私様のお帰りだぞー!」

「コンプ!」

 

 扉を勢いよく開き、ブリッジコンプが帰宅する。

 

「おめでとうコンプ! ほんと、よかったよ……」

「あーあ、ルーちゃん泣いちゃダメだって。ライブで散々泣いてたでしょ?」

「ぐすっ……なんだよ、見てたのかよ」

「あったりまえでしょ。可愛い可愛い同室の子を見逃すはずがないって」

 

 ブリッジコンプに抱きしめられ、頭を撫でられる。

 なんで俺の周りのやつらは、やたらと頭を撫でたがるんだ?

 

「ルーちゃん」

「ん、なに」

 

 抱きしめたまま、コンプが何かを決心したかのように切り出す。

 

「次は、ルーちゃんの番だから。私に、ルーちゃんが勝負服で踊るところ、見せてね」

 

 その言葉に、俺はこくりと頷いた。

 まずは京王杯ジュニアステークス。そして、その次に朝日杯FSだ。

 打倒、ミホノブルボン。俺の胸に、さらに決意の炎が灯る。

 

「必ず、必ず……」

 

 そうして、決戦の時は近づいていく。

 

 


【スプリンターズステークス】ブリッジコンプ、執念の粘り勝ち 

9月○■日 19:24 配信    204  

          

   

 

ライブでファンたちに笑顔を見せる 

ブリッジコンプ 

 

 中山レース場で行われた11R、スプリンターズステークスはブリッジコンプが勝利を飾った。同ウマ娘がGⅠレースで勝利を上げるのは今回が初。タイキシャトルから逃げ切って、僅差でのゴールだった。

 

 インタビューに対してブリッジコンプは、「短距離という戦場で、タイキシャトルに勝てたことは自信になった。これからもこの路線で頑張っていきたい」と語った。ブリッジコンプの次走は未定。陣営はマイルチャンピオンシップ等のマイルレースも見据えてローテーションを組んでいくと記者たちに語った。

 

 

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98/12/20 中山11R スプリンターズステークス タイキシャトル 3着
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