TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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14 お出かけイベント キングヘイローの決意

 夏も終わり、だんだんと暑さもやわらいで来た10月。俺は1人街に繰り出していた。

 簡単に言えば、新しい服が欲しいのだ。キングヘイローに言われ、トレーナーに言われてようやく気づいた。もしかして、俺ってファッションがクソすぎ……?

 いや、仕方ないのだ。こっちに来てからレースのことばかり考えていたし、何より女性の服装についてなんてまるでわからないのだから。

 

「でもなぁ、重賞レースとかに出るんだったら、ある程度私生活もしっかりしないと、マズいよなぁ」

 

 俺はこっちの世界のウマ娘産業、その巨大さを見誤っていた。話題になるのはせいぜいGⅠウマ娘程度、なんてタカを括っていたのだが……先日、自分について分析した記事なんてものを読んでしまったのだ。

 

「なんか、自分が記事になるなんて変な気持ちだよなぁ。前の世界ならば絶対なかったことだし」

 

 ネットの小さな記事だからそこまで気にするほどでは、と言ってしまえばそれまでだ。だが、こんな未勝利戦しか勝ってないような弱小ウマ娘でこれ。ならば、ミホノブルボンと競うためにGⅠの大舞台に出たなら……?

 

「私服って言っても、コンプのやつと買った1着しかないし、なによりあれはハードルが高すぎる……」

 

 はっきりいって、あの服はふりふりのふわふわすぎるのだ。こう、元男でももうちょっと抵抗ない服装ってのがあるだろ! 初っ端あれは精神にキツすぎる。

 というわけでやってきたのは複合商業施設。以前トレーナーと来たショッピングモールだ。

 その中にある店の一つに入る俺。

 

「こういうのでいいんだよ、こういうので」

 

 全国に幅広く展開しているチェーン店、その中でも店が推しているものを手に取る。こういう無難なのでいいんだよ、無難なので。

 落ち着いた色のニットセーターに、ゆったり目のジーンズ。とはいえ、ところどころキツいな……なんで一部だけキツいんだよ。

 

「まあでも、これなら最低限だろ。ほんと、ふりふりはガリガリ精神削れるからなぁ……」

 

 買う時にタグを切ってもらい、試着室で着替えてから店を出る。これでクソダサコーデとはオサラバだ! 流石にジャージで練り歩くのは、いくら俺でも抵抗感があった。

 さて、次はどうするかな……と思っていると、後ろから声を掛けられる。聞き覚えのある声に振り返ってみれば、そこには実に優雅な一流ウマ娘がいた。

 

「あら、珍しいわね。というより、あなたがジャージ以外の服を持っていたのが驚きだわ」

「あははは……こんにちは、キング先輩」

 

 キングヘイロー。合宿での一件以来、なにかと学園でも声をかけてくれる面倒見のいい先輩だ。

 この前も廊下で寝癖直してもらったし。

 

「というより、その袋……はぁ、まさか今日の今日まで持ってなかった、なんて言うんじゃないでしょうね?」

「違いますよ! もう1着ありますって! そっちは着てこなかっただけ!」

「ふぅん……まあいいわ。信じてあげる」

 

 これは絶対信じてない目だ……

 とはいえ、外で会うなんて珍しい。まあ俺がほとんど学園の外に出ないのが原因だが。

 

「そうね、あなたこの後予定はあるの? ないならば、キングのショッピングに付き合う権利をあげるわ!」

「えーっと、何もないんでご一緒します」

「ふふんっ、一流の買い物ってのを見せてあげるわ」

 

 かわいい。

 キングヘイローは、あくまで『権利をあげるわ!』としか言わない。強制はしないし、押し付けるようなことも、こちらが本気で嫌だと思っていることもしないのだ。取り巻きがいるのもわかるカリスマだ……

 キングヘイローに連れられ、いくつかの店を巡る。

 

「そういえばお茶を切らしてたかしら……あら、これ安いわね」

「うーん、部屋で使うカップがないし買っとくかな……これでいっか!」

「ちょっと!? そんな物買うの!? もう少しおしゃれとか可愛さを考えて買いなさい!」

「いや、でも部屋で使うだけなので……」

「そういう問題じゃないのよ! あなた、本当に女なの……?」

「あ、あはは、ははは……」

 

 中身は男です、なんて言えないので笑って誤魔化す。

 しかしキングヘイローは本当に面倒見がいい。こう、足りない女子力が補充されていく気がする……

 そんなこんなでショッピングを楽しんでいると、キングの腹の虫がくぅ、と鳴った。

 

「あの、そろそろお昼にしませんか?」

「そ、そうね。あなた、苦手な物はあるかしら? あと何か食べたいものがあったら言って頂戴」

「どちらも特には。キング先輩のおすすめでお願いします」

 

 適当な店をキングが見繕い、中に入る。

 ごくごく普通のファミレスで、本当に無難なチョイスと言った感じだ。こちらの好みがわからないってことまで考慮してくれているのだろうか。

 

「私はこれにしようかしら。あなたは決まったかしら?」

「うーん……これとこっちと、あとこれと……」

「あなたそんなに食べられるの……?」

「これくらいならペロリといけますよ」

 

 いやぁ、ウマ娘ボディめちゃくちゃ燃費悪いんだよね。食べても食べても食べ足りない。そのくせ、食べた分が全然腹にいかないのだ。ほんと不思議。

 注文を済ませれば、あとは料理を待つだけ。

 水を一口飲み、キングに向き直る。今日は明らかにキングの様子がおかしかった。明らかに動きにキレがないし、なにより時折虚空を見てため息をつくのは明らかに普通じゃないだろう。

 いや、原因はわかっている。

 ()()()。先日おこなわれた長距離GⅠレースが原因だろう。

 

「キング先輩……」

「……はぁ。あなた、自分のことはズボラなのに、こういうところは鋭いのね」

 

 俺に見つめられたキングヘイローが、降参とばかりに口を開いた。

 先日の菊花賞、キングヘイローは5着。掲示板にこそ載ったものの、彼女としては満足のいく結果ではないはずだ。

 菊花賞を取ったのは『セイウンスカイ』。彼女に食らいつくことすらできなかったという事実は、キングの心に影を落としているのだろう。

 そうして次にキングが口にした言葉は、俺にとっては想定内の言葉であった。

 

「私はね、次の目標を高松宮記念にしようと思ってるの」

「高松宮記念……来年の、三月ですね」

「ええ、それまでにみっちりと仕上げるつもりよ。初めての短距離GⅠ、課題は多いわ」

 

 高松宮記念。数少ない芝の短距離GⅠだ。俺はその言葉に、特に驚きはしなかった。これはアプリにおける規定路線。そして、彼女ならやり遂げるだろう。二つ目の冠を被ることを。

 キングヘイローの距離適性はこの世界ではどうなっているのだろうか。もしかすると、スプリンターとして大成する未来も……? いや、中距離に戻る可能性のほうが高いか?

 

「驚かないのね。本当にわけのわからない子だわ。私のトレーナーですら驚いたのよ?」

「キング先輩なら、行けるって思ってますから」

「ふふっ、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」

 

 話を区切るように、キングが水を口にする。

 そうして、次に語られるのは彼女の身の上。

 

「私の母について知ってるかしら。流石に知ってるわよね……? あなただと知らなそうで怖いのだけど」

「流石に知ってますよ! なんでもアメリカのGⅠで結果を残した凄いウマ娘だとか」

「そうよ。私はね、ずっと母と比べられてきたの。あの人の娘なんだから強いはずだ。あの人の娘ならあの路線に……なんてね」

「それは……大変そうですね」

「ええ。私へのプレッシャーになっていたことを否定するつもりはないわ。そして、だからこそなんとしてでも結果を出さないと、と思っていたのだけど……」

()()()()()?」

「ええ、トレーナーに言われるまではね」

 

 そういうことか。おそらくは、彼女とそのトレーナーの間で、なんらかのイベントがあったのだろう。

 しかし、いつだ……? 思い返せば、合宿時点で『レースに勝てない自分に価値は無いと思うのはやめなさい』なんて言葉を残していた。

 明らかに時期が早い。

 

「菊花賞で食らいつけなければ、スカイさんやスペシャルウィークさん達と張り合うのはやめる。そうトレーナーと決めていたの。スプリンター路線も考える、ってことをね」

「それは、一体いつから……」

「夏合宿が始まる頃だったかしら」

「そんな簡単に切り替えられたんですか?」

 

 彼女の根底にあるのは、『母親に認められたい』という感情だ。だからこそ彼女は、三冠路線を走り続けていた。

 じゃあ何が彼女を変えた? ターニングポイントはなんだ。

 

「ええ、あなた達を見ていたらね」

「へ? 俺達って、どういう」

「あなたとブルボンさんよ。入学当初のあなたは本当に酷かったわ。明らかに合ってない距離を、合ってない走りで走ろうとして……とても見られたものじゃなかったわ」

「う、ぐっ……」

「でもね、あなたはやり遂げたわ」

 

 マジで入学から目つけられてたのか……

 というか、ターニングポイント俺なのか? 完全に予想外だった。

 

「そしてもう一つは……いえ、これはブルボンさんのことだから、あなたに話すのは違うかもしれないわ」

「そうですね。ブルボンのことを一方的に知ってしまうのは……なんというか、違う気がします」

「あなたは、本当に素直ねぇ……あとはもうちょっと女らしささえ身に付けてくれれば文句ないのに……」

 

 そう。彼女と俺は朝日杯FSを通して、レースを通して語り合うと誓ったんだ。

 

「あなたはこれからも短距離を中心に走るのでしょう?」

「ええ、そのつもりです。この距離が、俺の戦場だと思っているから」

「ならば、あなたと競うことがあるかもしれないわね。その時は、手加減なんてしないわよ?」

 

 あっ。そうか、キングヘイローが()()()()()()するのなら、確実に強力なライバルになる!

 ヤベェ。キングはどうせ中距離以上に戻ると勝手に思い込んでいた。が、この感じ、下手するとこのまま短距離路線を走りかねんぞ!?

 可能性としては一瞬だけ考えたけど、マジで転向するなんて思わないだろ!

 だがそんな危機感とは裏腹に、俺の耳はピンと伸び、自然と顔に笑みが溢れる。

 

()()()()()()()

「本当にあなた、いい顔をするようになったわね。でも、まだ随分とツメが甘いようだわ。一人称、俺に戻ってるわよ」

「はへ!? ちょっとタンマ! 全く気づいてなかった!」

「ふふふっ、本当にあなたといると退屈しないわ。ほら、料理も来たし静かになさい」

 

 こう、感情が昂りすぎると、自制が効かなくなることがある。前はこんなんじゃなかったはずなのに、どうしてこうなった。

 頭を抱えながら料理を食べていると、キングが再び口を開く。

 

「別に私の前で、そんな取り繕わなくていいのに」

「でも、女子力とかそういうのが」

「流石にそんな『個性』にまでグチグチ言わないわよ。あなたのズボラさは、個性とかで済ませられるものじゃなかったから口を出したの」

「うぐぅ……」

 

 仕方ない。元男性なんだから、女子力がないなんて謗りも甘んじて受けるべきである。まあ、今のままではいけないってのはよくわかるし、改善しようとはしているのだが……全然改善の気配が見られない。流石に無知すぎて、どこから直していけばいいのかさっぱりなのだ。

 

「とはいえ、安心したわよ。耳飾りも自分で買ったみたいだしね」

「あ、これですか? いいと思いません?」

「ええ、可愛いわよ。あなたが選んだの? それとも……トレーナーに選んでもらったのかしら」

「お、俺が選んだに決まってるじゃないですか!」

 

 嘘は言ってない。選んだのは俺で、買ったのがトレーナーなだけだ。

 だが、そんな俺の姿を見てクスクスと笑うキングヘイロー。これ、バレてる……?

 

「そういう事にしておくわ。ところで、トレーナーには褒めてもらったのかしら?」

「そりゃ、ちゃんと可愛いとは言ってもらいましたけど……」

「あらあら、なかなかに関係は良好みたいね」

 

 ほんと俺の周りの奴らは、みんなして俺の調子を狂わせてくる。少しだけ不機嫌なフリをして、困らせてやろうか。

 とはいえ、感謝はしている。トレーナーもコンプのやつも、キング先輩も、俺に大切なモノをくれた。

 

「ありがとうございます、キング先輩」

「あら急に改まってどうしたの? あなたは可愛い後輩なんだから、先輩には頼るくらいがちょうどいいのよ」

「それでも、ですよ」

 

 俺はきっと一人ではここまで来られなかった。選抜レースで、スカウトで、メイクビューで、未勝利戦で……どこかで挫けていただろう。

 だから、俺は一人で走ってるんじゃない。

 

「きっと、キング先輩と走りますから……待っててください」

「あら、ブルボンさんの次は私を口説くつもり? キングの横に立つのは大変よ?」

「承知の上です。だから、キング先輩も勝ってください」

()()()()()

 

 宣戦布告。

 もう目標は見失わない。ブルボンも、キングヘイローも乗り越え、その先に俺は進む。

 ……めちゃくちゃ険しい目標な気がするけど、まあ目指す山は高いほうがいい。

 

「で、料理が冷めてきてるけどいいのかしら?」

「やべっ!」

 

 俺の次走は京王杯ジュニアステークス。初めての重賞レースだ。

 そこで俺はレースの世界の厳しさと、勝利を渇望するウマ娘たちの恐ろしさを知る事になるのだった。

 

 


 

 いくつもの運命が大きく揺れ動き、それらは元の場所から離れたところに着地しました。

 三女神様はいままでなかったその現象に、とてもご満悦です。そしてその現象の中心には、三女神様が送り出した『あの子』がいるではありませんか。

 揺れる運命と、変わる未来。次に大きな変革を迎えるのは誰なのか……三女神様は、予測すらできない未来に胸を躍らせるのでした。

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