TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

18 / 77
16 決着、京王杯ジュニアステークス

 京王杯ジュニアステークス。その最終直線。

 横に伸びたバ群には既に乱れが見えて、明らかにスタミナが不足しつつある子が目立った。

 

「さあ最終直線です! とはいっても東京の直線は約530mと長いため、仕掛けどころが難しくなっています」

「まだ誰も仕掛けようとしていませんね。坂を警戒している子が多いのかもしれません」

 

 バ群が横に伸びた時はどうしようかと思った。

 が、あの状況は不利であっても絶望的ではなかった。というより、本当にガッツリとこちらの対策を取りたかったならば、こちらの周りにピッタリついてしまえばよかったのだ。バ群の中で競り合わされる。その状況だけで、俺は走行を続けるのが困難だっただろう。

 しかし、それをするのは自らの勝ちを捨てることに他ならない。短距離、それも前方脚質の子が序盤のアドバンテージを捨てるのは死に等しいのだから。

 

「さあゴール前の坂に差し掛かる! ここで速度を維持できるかどうかが勝ちに直結します!」

「おっと、後ろに動きが見えますね。まさかここから上がってくるのでしょうか!」

 

 速度をある程度維持できる者、失速して垂れる者……バ群はぐちゃぐちゃに乱れ、混戦の様相を呈していた。

 が、好都合だ。散々トレーニングで駆け上がった坂、それを突き進む。普段駆け上がってる坂はこんな緩くはないぞ!

 

「ミーティアルクス上がってきた! 坂だというのに凄まじい加速だ!」

「以前にも見せてくれた加速ですね。確かにこの末脚は凄まじいの一言に尽きます」

 

 目を凝らせば、ゴール板前の観客席にトレーナーがいた。

 ああ、ちゃんと約束を守ってくれたんだな。ならば、俺も約束を守らないと。

 全身を使い、地面からの衝撃をそのまま推力に変える。()()()()()()()()。サクラバクシンオーから学んだ、短距離加速の極意。

 

「ミーティアルクス再加速! 坂を駆け上がってさらに加速しました! 凄まじい、本当に凄まじい!」

「とんでもないですね……まさに『流星』と言ったところでしょうか」

 

 乱れ切ったバ群を横目に、さらに加速を続ける。

 脚が悲鳴をあげそうになるも、気合いと体のバランス調整で押しとどめ、そのまま先頭におどり出た。

 限界ギリギリまで力を振り絞って、そのまま最後まで突き進む。

 

「『流星』が今ゴール板を駆け抜ける! 中盤の苛烈なマークをものともしない強い走りだ!」

 

 ゴール板の前を駆け抜ける。

 1着、1着だ! 初めての重賞、それもGⅡレース。肩で息をしながら、掲示板を見る。一番上には『10』の数字が燦然と輝いていた。

 

「1着は10番ミーティアルクス! 2着は2番カイコウイチバン!」

 

 レースでほてった体を、軽く走って冷やす。同時に観客席に向かって腕を突き出し、勝利をアピールする。

 トレーナー、見ててくれたよな!

 

「ミーティアルクス、今後が期待できるウマ娘です。短距離路線の星になるかもしれませんね」

「最終直線での加速は、かのサクラバクシンオーを彷彿とさせるものでもありました」

 

 観客席のトレーナーは、普段からは考えられないほど喜びにあふれていた。いつもはあんな大人しそうなのに、あそこまではしゃぐことあるんだな……

 とはいえ、自分のために喜んでくれているのはちょっと……いや、かなり嬉しい。

 レースでの勝利がこんなにも嬉しいのは初めてだ。未勝利戦も嬉しかったけど、あの時は義務感から走ってたのもあって純粋には喜べなかった。だが、今は違う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 再び全身がぶるり、と震えた。

 これが、これこそが、勝利の喜び——!

 だめだ、これを知ったらレースから逃げられなくなる。まさしく、悪魔的な快感と言えた。

 クールダウンを終えた俺は、ウイナーズサークルへと歩みを進める。そこでは勝者の特権、勝利者インタビューと表彰が待っていた。

 

「京王杯ジュニアステークスで優勝したミーティアルクスさんです。盛大な拍手でお出迎えください」

 

 ウイナーズサークルには多くの人が集まって、俺のことを待っている。このレースは朝日杯FSの前哨戦という位置付けのレースだ。ここで勝ったという事は、そのままGⅠに殴り込みをかける可能性が高い……そういった面から注目度が高いのだろう。

 

「おめでとうございます。まずは今の気持ちを聞かせてください」

「そうですね、勝ててホッとしています。今回のレースはマークを受けたこともあって、かなり厳しいレースだったので」

 

 インタビューはスムーズに進む。こうして話をしている間にも、カメラのシャッターが切られては、俺の姿が記録されていく。

 写真を撮られるのはイマイチ慣れないな。大丈夫だろうか、ちゃんと写ってる?

 

「中盤に何度も小刻みに加速しているように見えたのですが……」

「はい、前方集団を突いてなんとか突破口を見つけようとしてました。結果的にはうまくいってよかったです」

 

 矢継ぎ早に質問が投げかけられていく。うーん、なんというか無難だ。もうちょっと突っ込んだ質問がくると思っていたんだけど。

 そんな事を考えていると、ついに待っていた質問が投げかけられた。

 

「今回、京王杯ジュニアステークスへの出走を決めたきっかけはなんだったのでしょうか」

「それは……朝日杯FS出走の準備のためです。この後、私は朝日杯への出走を計画しています」

「阪神JFではなく、ですね?」

「はい。朝日杯FS、そこでミホノブルボンにリベンジをします」

 

 会場がざわつく。それもそうだろう。堂々と『ミホノブルボンを倒す』と宣言したようなものなのだから。

 

「メイクデビューで敗れたミホノブルボンに、ですか」

「はい、これは既に決めていた事です」

 

 力強く宣言する。待ってろ、ブルボン。必ずお前に勝つ。

 一時は動揺していた観客達だったが、すぐに納得したのか落ち着きを取り戻す。それからはなんの波乱もなく、優勝トロフィーを受け取り、俺のはじめての重賞レースが終わった。

 とはいえ、全てが終わったわけではない。この後、ステージに移動してライブをしないといけないのだ。

 ……やっぱこれ、全力疾走したその日にライブもやるのおかしくねぇ? 俺、もうだいぶ体ヤバいんだけど。

 

「ルクスちゃんー! 今日のレース最高だったぞー!」

「カイコウイチバン! 次回も応援するからがんばってくれよー!」

 

 ライブ会場に観客達の声援が響き渡る。二回目となるセンターでのライブ。自分こそが主役であり、人々の声援が俺に集中する瞬間でもある。

 うれしさから思わず緩んでしまいそうになるのを押しとどめ、高らかに歌声を響かせる。

 その日、確かに俺はレースと勝利の喜びを知ったのだった。

 

「ルクス、お疲れさま」

「ん、ちゃんと勝ってきたぞ。褒めろ」

「ああ、素晴らしい走りだった。途中はかなりキモが冷えたけど……」

 

 ライブも終わり、控室に戻ってきた俺。

 一番始めにするのは、レースのフィードバックだ。今日のレースは実に実りの多いものだった。

 

「ま、あれくらいならなんとかなるってわかったのは収穫だったな。相手の走りを乱すって方法も、ぶっつけ本番だけどうまくいったし」

「合理的な判断だね。ルクスは後ろから追い上げるスタイルだから、レースの動きを見た上で、それをコントロールできる力を身につけられれば……」

「かなりの力になるだろうな。とは言っても、ブルボンなんかがこの手にひっかかるとは思えないんだよねぇ」

 

 ブルボンが自らのペースを乱したのは、メイクデビューラストの一件のみ。彼女の走りに介入するのは、並大抵の方法では無理だ。並大抵っていうか、後ろから小細工を弄してるうちは絶対無理じゃないかな……

 

「ま、ブルボン周りのウマ娘をうまく牽制して、一騎討ちに持っていく……それがうまい使い方ってとこだろ」

「そうだね。それだけで走りやすさはだいぶ変わるはずだ」

 

 ほんと、これだけ色々策を弄したのに、未だに勝てるビジョンが浮かばないミホノブルボン……バケモノすぎないか? というか、俺の周りにバケモノウマ娘が多すぎる。

 が、ため息をついたところで状況は変わらない。それに裏を返せば()()()()()()()()()()()()()()()()と考えることもできるのだ。

 

「あとルクス……あれを使ったね?」

「あー、バクシンオー先輩から盗んだ技のことか。結構うまくいってただろ?」

「驚いたよ。不安なら使うな、とは言ったけど、まさかあそこまでうまく使ってみせるとは」

 

 現にスプリントターボはサクラバクシンオーから学んだ技だ。これは俺の切り札の一つして重宝している。もっと完成度を上げれば、更なる加速も期待できるだろう。

 

「じゃあルクス、脚をチェックさせてもらうよ。あの技を使ったらこうするって約束だったからね」

「う……はいよ、トレーナー」

 

 脚を差し出し、トレーナーに診断してもらう。確かにスプリントターボは強力な技だ。だが、その分肉体への負荷も大きい。もし自身で気づかないほどでも綻びがあれば、それは致命的な怪我となって俺に襲い掛かるかもしれないのだ。

 ウマ娘の故障率は主戦場とする距離が伸びるほど増える。が、それは短距離では故障が起きないということとイコールではない。短距離ウマ娘にだって故障は発生するのだ。

 

「うーん? 予想よりだいぶ疲労が少ないね。もう少しダメージがあると思ってたんだけど」

「今回は体でのバランス調整もうまくいったからなぁ。その気になればもう少しいけたかもしれないしな」

「ダメだよ、ルクス。油断ってのが一番怖いんだ」

「う……ごめん……」

 

 俺にとって、加速をすることは勝ちに直結する。というより、最高速で走り続ける時間なんて極々わずかなのだ。1に加速、2に加速と言っていいだろう。

 

「でも、もう一段階ギアを上げられるなら、ミホノブルボンを差し切るのも不可能じゃないはずだ」

「ああ。ブルボンは足を残して逃げ切ろうとする可能性がある。だからこそ、再加速したところについていく必要がある……」

「そうだね。加速して、もう一回加速する……それができないと、厳しい戦いになるのは間違いない」

 

 やっぱあれだけ逃げておきながら、まだ加速するだけの余力が残ってるのおかしくないか。本当に厳しい相手だ。

 だけども、今だけは勝利の余韻に浸っても許されるだろう。

 

「トレーナー。まだ褒めてもらってないぞ」

「へ? ほら、素晴らしい走りだったって」

「違うだろ? 走りだけじゃなくて、俺も褒めてくれよ」

 

 せっかくこれだけ頑張ったんだ。もうちょっと褒めてもらってもバチは当たらないだろ?

 

「はぁ……わかったよ。頑張ったね、ルクス」

「もうちょい。まだ足りない」

「流石はルクスだ。カッコよかったよ」

「ん……」

 

 最近気づいたのだが、この体は褒められると露骨にスペックが上がる。特に信頼している人相手だと、それはもうコンディションに直結するほどに、だ。

 体が微妙にふわふわして、気分が高揚する。

 自然と身体が動き、トレーナーに寄りかかっていた。ぎゅぅ、と抱きついて頬擦りをする。あー、なんか落ち着く……

 

「ルクス……」

「あとすこしだけ……あー……」

 

 少しずつ落ち着いてきたが、それでもまだふわふわした感じが残っている。とはいえ、いつまでもこうしているわけにはいかないだろう。

 ゆっくりとトレーナーから離れて気持ちを落ち着ける。

 

「もういいかい?」

「大丈夫……うん、満足した」

「それはよかったよ、ルクス。そうだね、今度お祝いもしようか」

「やった!」

 

 我ながらチョロすぎないか? とも思うが、多分これがウマ娘のデフォルトなんだろう。アプリでもやたら距離近かったりする子多かったし。

 鼻歌を歌いながら、帰り支度をして控室を出る。

 

「ふーん、ふーん♪」

 

 学園に帰ってきても、高揚感は消えなかった。シャワーを浴びてベッドに飛び込み、枕を抱きしめてやっとのことでおちつきを取り戻すことができた。

 

「で、ルーちゃんはどうしたの。帰ってきて早々にそんな事して」

「んー? 勝ったのが嬉しすぎて、我慢できそうになくてな」

「そうだよ、ルーちゃん勝ったっていうのに私にお祝いさせてくれないじゃん! ほら、こっちきてお祝いさせてよ!」

「うぐ、わかったよ……」

 

 ブリッジコンプのところにいくと、抱きしめられてくしゃりと頭を撫でられる。ちょ、おま、髪が乱れる!

 

「ほんと、ルーちゃんは可愛い後輩だねぇ……次、朝日杯FSに出るんでしょ?」

「ん、ああ……」

「大丈夫、ルーちゃんなら。相手は強いかもしれないけど、絶対に勝てない相手なんていないんだから」

「んー……」

 

 頭を撫でられ、耳をマッサージされて、夢見心地でコンプに体を預ける。

 レースとライブの疲労からか、ゆっくりと瞼が落ちていく。

 

「あらら、ルーちゃんおねむみたいだね? ほら、寝ちゃっていいよ。ちゃんとベッドまで運んでおいてあげるから」

「ありがと、コンプ……」

 

 京王杯ジュニアステークス。ブルボンとの決戦の前哨戦でもあるそのレースは、俺に力を与えてくれた。

 そして続く朝日杯FS。そこで俺は、新たな感情と出会う事になるのだった——

 

 

 


【京王杯ジュニアステークス】ミーティアルクス、重賞初勝利 

11月○■日 19:14 配信    31  

          

   

 

笑顔でセンターを飾る 

ミーティアルクス 

 

 GⅡレース、京王杯ジュニアステークスで優勝したのは重賞初勝利となるミーティアルクス。序盤は後ろに下がりつつも前を目指していたが、中盤に苛烈なマークを受けて一時は厳しい状況だったが、終盤にバ群が乱れると戦況が一気に変化した。ウマ娘のいない場所を突き進んで一気に追い上げ、力強くゴール板の前を駆け抜けた。

 

 ミーティアルクスはウィナーズインタビューで今後について「ミホノブルボンにリベンジするために、朝日杯FSに出走したい」と語った。ミホノブルボンにはメイクデビューで敗北したという因縁があり、共に今後に期待ができる有力ウマ娘だ。

 

 ジュニア級のレースからはしばらく目を離すことができないだろう。

 

 

【関連記事】 

中央所属トレーナー、今年の離職率は? 

なりたい職業、なりたくない職業ともに一位はトレーナー 

トレセン学園理事長秘書、ラーメン屋でバカ食い!?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。