TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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 本日二話目の投稿です。まだ見てないからは一話からどうぞ


2 プロポーズとスカウトは紙一重

「ミーティアルクス失速! これは猛烈な逆噴射だ!」

「ぜぇ、ぜぇ……かひゅっ……」

 

 二度目の選抜レース。好スタートを切った俺は、快調に逃げていた。

 前にも横にも誰もいない! 他のウマ娘の気迫に怯えることも、競り合うことの恐怖にさらされることもないのだ!

 そんな状況が変化したのはレースが中盤に差し掛かった頃。

 裏から聞こえるウマ娘たちの息遣い。自分を、捉えようとしている!?

 はっと後ろを確認すれば、序盤にはゆうに9バ身はあった差が3バ身程度まで縮まっていた。

 

「こな、くそぉっ!」

 

 力を振り絞り、さらに加速しようとする。が、元々大逃げのつもりで走っていたのだ。スタミナなど残っておらず、これ以上加速できるわけもない。

 そして、俺の体はみるみるうちにバ群に飲まれていった。

 

「ひっ……」

 

 バ群に飲まれたあとはあっという間だ。走ることもままならなくなり、放り出されるようにしてバ群の後ろに出てしまう。

 この結果は当然と言えた。

 そう、俺の適性が問題なのだ。おそらくは、短距離及びマイルが俺の適性距離。中距離は走れないわけではない、程度だろう。しかも補正もスタミナではないはずだ。賢さあたりか? そんなウマ娘がスタミナが必須の大逃げを取ったら? 逆噴射して失速するのは当たり前だろう。

 最終コーナー手前でスタミナが空になり、速度ががくっと落ちる。当然みるみるうちに順位は落ちていき、前回と同じ最下位でゴール。

 前回とは違い、マイルレースなためスタミナは持つと踏んだのだが、自分のスタミナは想像よりもだいぶ少なかったらしい。

 

「はぁ、はぁ……ああああああっ!」

 

 芝に寝転がり、空を見上げる。憎らしい程に青い空。

 俺の叫び声は人気のウマ娘のスカウトに群がるトレーナーの声にかき消され、誰にも届くことはなかった。

 

「あははは……これ、もうだめかも……」

 

 未勝利どころかデビューすら出来ず、トレセンを去る。そうしたら、その後は? まともな戸籍も身寄りも無い俺は、どうやって生きていけばいい?

 ぞわり、と恐怖が背筋を撫で上げる。俺の居場所はここにしかないのだ。三女神によって与えられたここにしか。逃げ場は、ない。

 そんな俺に、声を掛ける人がいた。

 

「あーちょっといいか?」

「ごほっごほっ! へ? お……私ですか?」

「君、よく色んなウマ娘と併走してる子だよね?」

 

 話しかけてきたのはスーツ姿の男。襟元にはトレーナーバッジもある。

 危うく素が出るところだった。できるだけ外面は良くしておかないと。誰だってタメ口で話されるよりも敬語を使われた方が第一印象はいいだろう。

 しかしなぜこのタイミングで話しかけてきた? 警戒を解かずに相手の出方を見る。

 

「ええと、そうですけど……」

「なんで今日は大逃げなんてしたんだい? 君の普段の走りを見るに、差し寄りの先行……後ろから追い上げるタイプの走りが得意だろう? それに、あまりスタミナに余裕のあるタイプでもない」

「えー、あー……」

 

 なんといえばいいのだろうか。正直に『本気のウマ娘が怖い』といえばいいのか? いや、当たり障りのない返答が一番だろう。もし『アイツは気性に難がある』なんて噂が立てば、それこそマズい。

 

「あはは、逃げって受けがいいじゃないですか。うまくいえばスカウトの確率あがったりしないかなぁ、って」

「本当にそう思ってるのかい?」

「……っ」

 

 目の前の男性……トレーナーの目がこちらを射抜く。責め立てるような視線ではない。ただ、こちらの内面を覗くかのような不思議な目だった。

 

「本当のことを言ってくれ。君の普段の走りを見るに、かなり聡明でレースについて『わかっている』ようだった。それこそ、どうすれば勝てるのかということも。なのに、なんで自分の走りをしない?」

「そ、それは……」

「教えてくれ。君は勝ちたくないのか?」

 

 限界だった。見透かすような視線に、勝ちたくないのか、という問いかけ。

 押しとどめていたものが、溢れてしまう。

 

「勝ちたいよ! 俺は勝たないといけないんだ! だけど、本気で走るウマ娘が怖くて、気づいたら体が勝手に道を譲ってて、勝てなくて、うううう……うあぁぁぁぁっ!」

 

 気づけば涙を流していた。ああ、終わったな。選抜レースの後に、トレーナー向かってキレた挙句に泣き出す面倒なウマ娘を担当しないなんてトレーナーはいないだろう。

 そう思うと、もうどうでもよくなってしまった。その場にへたりこんで、少女のようにただただ泣いていた。

 

「……そうか。君は勝ちたいんだな? 勝ちたいからこそ、あんな変なことをしたんだな?」

「ひっく……そうだよ……変ってなんだよぉ……俺が悪いのかよ……」

「いや、安心した」

「は……?」

 

 トレーナーが、俺の手を取る。ポケットから出したハンカチでこちらの顔を拭うと、背中をさすりながら優しく話しかけてきた。

 

「もしかすると勝ちたく無いウマ娘なのかもしれないと思ってた。普段は強いのに、本番では二回連続最下位。わざと負けて、学園を去ろうとしてるのかと思ったよ」

「そんなこと、するわけないだろ……」

「いや、いるんだよたまに。だが君はそうじゃない。ならば、僕の答えは一つだ」

 

 トレーナーがもう片方の手を差し出してきた。そうして、俺に語りかける。

 

「僕の、担当ウマ娘になってくれないか?」

 

それは、俺が願って止まない言葉だった。

だが、喜びよりも困惑の方が大きい。当たり前だ。選抜レース最下位のウマ娘をスカウトなんてあり得ない。いや、アプリだとあった気もしたが……

 

「なんで、俺なんだよ……」

「まず一つ。明らかに勝ち方を知ってる走りをしていたからだ。大逃げも、自分の気が弱いと知っての策だと言ってたね。確かに有効な策と言える。バ群が苦手で逃げをやっているウマ娘も少なくはないからね」

「でも」

「ああ、君に逃げの適性はないだろう。しかもスタミナに難もある。とはいえ、自分で走りを変えるのはなかなか出来ないことだ。それも新入生では特にね」

 

 確かにそうだ。新入生の大半は自分の脚質適性どころか、どの脚質がどんな走りをするのが良いのかすら理解していない。大半が力任せに走っているだけだ。……それでもウマ娘の本能によって、ある程度走りは最適化されるのだが。

 

「そしてもう一つ。君はウマ娘を見る目がある」

「ウマ娘を見る目? 誰でも見れるだろ?」

「いや、そういうことじゃない。君が併走トレーニングをしていた新入生、大体が選抜上位だったウマ娘だ。おそらくは、彼女たちの実力をわかって併走を頼んでいたんだろう? それも最初期、彼女たちの評判が出回る前から、だ」

 

 確かに、答えはイエスだ。どのウマ娘が走るのか、それはアプリで良く知っている。が、それがなんだというのだろうか。

 

「ライバルの力量を理解し、そしてその走りに合わせるようにして走る……これが出来る子も少ない。はっきり言おう、君には才能がある」

「俺に、才能?」

「そうだ。だから、君をスカウトしたい」

 

 その才能は、全部付け焼き刃でしかも模造品だ。アプリから外れれば外れるほど、この知識たちは役に立たなくなる。時限式の才能と言えよう。しかも、G1で走るようなウマ娘のことはわかっても、いわゆる『モブウマ娘』についてはほとんどわからない。

 必然的に、この才能——原作知識はG1を走らなければ意味がないものになる。

 だが、これはチャンスでもある。トレーナーが付けば、元の世界への帰還に一歩近づく。

 

「僕と一緒にトゥインクルシリーズを走ってくれないか、ミーティアルクス」

「俺は、いや私は……」

 

 ぐ、と体に力を込める。目の前のトレーナーも、そしてこれから競い合うウマ娘たちも、全て騙せばいい。自分が才能あるウマ娘である、と。自分の居場所を守るためには……いや、居場所を作るためにはこれしかない。

 たとえ自分に何かを見出してくれた人相手でも、騙すしかない。

 

「私、ミーティアルクスはあなたのウマ娘として、トゥインクルシリーズを駆け抜けましょう。最後まで、絶対に」

 

 手を取り、ぎゅっと握りしめる。逃がさない、逃してなるものか。必ず、帰るんだ。

 自身に喝を入れ、自らをも騙す。俺は、いや私は才能溢れるウマ娘。トゥインクルシリーズを駆け抜けるウマ娘だ。

 

「ああ、よろしく! さて、それじゃあ書類を出さないとな。ええと、なんて呼べばいい?」

「ミーティアでもルクスでもどちらでもどうぞ。同室のブリッジコンプさんはルーちゃん、などと呼びますが」

「じゃあルクスでいいか。よし、これからよろしくルクス」

 

 トレーナーもこちらの手を握り返す。

 こうして俺のトゥインクルシリーズは始まりを迎えたのだ。

 

「それとその口調は……」

「先ほどのは忘れてください。基本外ではこのような優等生として通してますので」

「お、おう……」

 

 まずはメイクデビュー。それに勝てなければ未勝利戦。ここで消えるウマ娘は決して少なくない。

 トゥインクルシリーズの最初の門であり、高くそびえ立つハードルだ。だが、必ず超えてみせる。

 

「よし、目標とかも決めていかないとな。とはいえまずは適性を確認するところからか」

 

 そして、『自分をみつけてくれたトレーナーのためにも』走りぬけてやる。

 見上げた空は、うっすらと夜が近づいていた。

 

 

「ルーちゃん、トレーナー決まったんだって!? やったじゃん!」

「あーうん。ありがとコンプ」

「お母さんうれしいよ、ルーちゃんが立派に育って」

「あ、あははは……」

 

 外聞を取り繕っている自分にとっては、ブリッジコンプとの会話は癒しの一つでもある。

 一人称『俺』のガサツ娘でも別によかったのだが、少しでもスカウトの確率を上げるためにも優等生を演じていた。ブリッジコンプ曰く、『トレーナーに少しでも受け良くしておくのがスカウトされるコツだよ! 一着でもあんまり変だとトレーナーも寄ってこないから!』だそうだ。

 そういえば、強いけど気性難なせいでなかなかトレーナーが付かなかったウマ娘、結構居たなぁ……

 ロールプレイは割と楽しいが、当然ストレスの要因にもなる。が、一応はスカウトの役に立ってくれたと言えよう。優等生キャラだから併走トレーニングを簡単に受けてもらえていた面もあるからだ。

 

「メイクデビューはいつ? 私も見にいくよ!」

「まだ決まってないんだよね。まだトレーニングすらしてないんだよ?」

「あ、そっか。きまったら教えてね! ちゃんと見にいくから! 予定があえばだけど」

「はいはい、わかったよ」

 

 ベッドに入り、布団を握りしめる。まずは一歩を踏み出した。が、まだまだ安心はできない。本番に弱いという問題点は解決されていないのだ。

 だが、今だけは安心して眠っても良いだろう。ゆっくりと落ちていく意識の中でそう思うのだった。

 

 

「ルーちゃん? もう寝ちゃった?」

 

 ミーティアルクスのとても小さな変化。それに気づけたのはブリッジコンプが入学当初から彼女と一緒にいるからだろう。

 

「これって、絶対あれだよねぇ……ルーちゃん、惚れちゃってるよね……」

 

 トレーナーにスカウトされた。そうはしゃぐミーティアルクスを見て、始めは微笑ましい気分だった。だが、トレーナーのついて話す最中のルクスの仕草。そのところどころに、おそらくは無自覚だろうが『女』の仕草が混じっていた。

 

「本人は気づいてないみたいだけど、あんな顔されたら流石にわかっちゃうよ」

 

 そしてなにより、ルクスは『女』の顔をしていた。

 

「はぁ、そういうことに弱そうだし、私がフォローしてあげないとねー」

 

 めんどくさそうにしかし満足気に言うと、ブリッジコンプは布団を被って眠りにおちるのだった。

 


 

三女神様は喜びました。魂がどんどんと体に馴染み、ウマ娘として完成していっているからです。

 本当ならばもっと長い時間をかけて馴染む予定でした。心が男から女に変わるにつれて、魂は体に馴染んでいきます。だから、ゆっくりと『恋』という感情を理解してもらう予定でした。

 ですが、男の魂は一瞬で恋に落ちました。

 最下位で誰にも見てもらえない。それはこの世界に投げ出された時と同じ絶望だったでしょう。そこから拾い上げてもらってしまえば、恋に落ちるのも仕方ないのかもしれません。

 三女神様は『きっとこれは運命!』とはしゃいでいます。

 さあ、賽は投げられました。ここから先は三女神様ですら予想ができません。男の魂とウマ娘の体を持つ彼……いえ、彼女はどのような三年間を送るのでしょうか? 三女神様たちは期待に胸を膨らませながら見守ることを決めました。

 

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