TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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クラシック級開幕です。これからも当作品をよろしくお願いします


死闘、乱戦!? クラシック級
21 初詣に行こう!


 新年。凍えそうな寒さの中、俺は暖房の効いた部屋で布団にくるまって悩み続けていた。

 

「ううう……どうすっかな……トレーナーを誘うか……? いやでも……」

 

 トレセン学園の近くには神社がある。根性トレーニングで使われたりしているようなアレだ。で、当然正月なので初詣の参拝客が数多く来るわけなのだが……

 一人で行くのは寂しい! でも仲の良い奴らはほとんど帰省中。というわけで残った選択肢がトレーナーというわけだ。

 

「トレーナーならなぁ、絶対オッケーしてくれるよなぁ」

 

 最近改めて思うのだが、トレーナーは俺に甘い。それはもうベタ甘だ。コンプやキングと話していてわかったのだが、ここまで世話を焼くトレーナーは少ないらしい。

 というか二人でお出かけとか普通はまず無いとかなんとか。

 アプリだとなんかしょっちゅうお出かけしてるイメージだし完全に麻痺してた。

 

「まー、どうせトレーナー室にいるだろうし、新年の挨拶するだけしてくるか」

 

 というわけでトレーナー室に突撃し、早速挨拶を済ませてしまう。

 

「トレーナーあけおめー! ことよろ!」

「はい、あけましておめでとうルクス。元旦から元気だね。初詣には行ったのかい?」

「うっ……行ってない……」

 

 どうせ行ってないよね? と言外に言われているようで、なんだか納得いかん。とはいえ、大正解なので何も言えないのが悲しいところだ。

 大きくため息をつき、またかという顔をするトレーナー。

 

「そうだろうと思ってたよ。ほら、着替えて初詣いこうか。トレセン近くの神社には、レースに効くってところもあるよ」

「わかった、着替えてくる……」

「はい、いってらっしゃい」

「財布もとってくる……」

 

 くそ、誘おうか迷ってた俺がバカみたいじゃないか。

 そうして神社へ行ってみれば、そこは当然のように人でごった返していた。というか、ウマ娘が多い。レースにご利益があるってのが理由だろうか。

 

「トレーナー! 手!」

「はいはい。はぐれないようにね」

「ん!」

 

 もうこういった場で、はぐれないようにと手を繋ぐのは何度目だろうか。

 雑踏に紛れて流されてしまいそうな俺の手を、しっかりと掴んで繋ぎ止めてくれるトレーナー。悪い気分はしない。むしろこうしてると気分が高揚するのだ。

 

「えっと、参拝の時って確か作法があったよな……どうだっけ」

「二礼二拍手一礼だね。とはいえ、そこまで厳密にやる必要もないよ。神社によっては違ったりもするしね」

「そうなのか。ま、とりあえず定番のやり方でやろうかね」

「ルクス、お賽銭はある? 君のことだから小銭が無いなんて状況もありそうだから」

 

 いや流石にそれくらい……と財布の中を見て、小銭が全く無いのに気づいて青ざめる。

 幸い奥の方に一枚だけ5円があった。セーフ。

 

「ほらあったぞトレーナー! いつもいつも抜けてばかりじゃないんだぞ俺だって」

「それはよかった。ルクスがしっかりしてくれるように、ってお願いする必要は無くなったかな?」

「お、おまっ! なんてことお願いしようとしてるんだよ!」

「どうせルクスはレースについてお願いするだろう? なら願い事が被らないようにね」

「むぅぅぅぅっ」

 

 最近前よりトレーナーのデリカシーがなくなってる気がする。いや、打ち解けたといえば聞こえはいいんだけど……

 参拝の順番がやってきたので、俺は作法に従って礼をしてお賽銭を投げる。

 うーん、願いかぁ。とりあえずは『ブルボンに勝てますように』かなぁ。ここまでレースでは全敗だ。なんとか次こそは勝ちたい。

 ちらりと横目でトレーナーを確認すれば、真剣そうな表情で何かをお願いしていた。まあどうせあんなこと言っても、俺のことをお願いしてくれてるんだろうな。トレーナーはそういうヤツだし。

 

「ふぅ。さーて、神社といえばおみくじだよなぁ!」

「大凶とか出して落ち込まないでね? 案外ルクスって単純だし」

 

 くそ、絶対いいのを引いてやる。200円を納め、一枚おみくじを引く。

 

「どう、だ?」

「うん、中吉だし結構いいんじゃないかな」

「お、やった! えっと、なになに」

 

 おみくじでは運勢も重要だが、もっと重要なのは内容だ。待ち人は……『既に来ている』? なんだこれ。他に目をやれば、恋愛は『まだ成就せず。自発的な行動が吉』とか書いてあるし。

 おみくじなんて所詮は運試しだ。あんまり気にしすぎない方がいいだろう。

 

「どうだい? ここのおみくじはレースについても書いてあったりして、結構人気なんだよ。あとはよく当たるって評判もある」

「うーん……なんというか、釈然としない内容なんだよな。あ、そういやレースのところ見てないや」

 

 どれどれ。レース、レースっと。

 

「『苦難多し。しかして報われることもあるだろう』だってさ」

「ああー……うん……」

「なんというか当たってるんだろうけど、その、なんだろうなこの気持ち」

 

 苦難が多いのはもう分かり切ったことだ。マイルも短距離も地獄絵図と言っていい。というかミホノブルボンの短距離・マイル路線進出がマジでヤバい。距離適性を伸ばすためにつぎ込まれていたであろうリソース、それが全て短距離・マイルにつぎ込まれる。

 ほんと、今年のレースはどうなるんだよ……

 

「でも、報われる時もあるってさ。頑張ろうね、ルクス」

「おうよ。まずはブルボンに勝たないとなぁ。次は俺が得意な短距離なんだし」

 

 俺の末脚は未だ成長途中だ。加えて相手のペースを乱す走りも、だんだんと完成度が高まってきた。この二つを駆使すれば、GⅠの大舞台でもかなり好走ができるはず。

 クラシック級で出走できるレースには、クラシック・シニア級のレースというものがある。クラシック級のウマ娘とシニア級のウマ娘、その両方が出走できるものだ。だからこそ、ここから先のGⅠレースの難易度は跳ね上がるだろう。

 

「で、トレーナーのおみくじはどうだったんだよ」

「ん? 末吉だし普通のことしか書いてなかったよ。ま、こんなもんだろうね」

「ふーん。じゃあおみくじ結んでくか」

 

 神社にはたくさんの屋台が並んでいた。鼻腔をくすぐる香ばしい匂いに、お腹がくうと鳴る。そういえば朝から何も食ってなかったな。

 

「トレーナー、なんか買って帰ろうぜ。お腹すいちゃったわ」

「そうだね、何か食べたいものはある?」

「んー、じゃがバターと焼きそばと、あとたい焼き買ってお好み焼きも食いたいし……」

「相変わらずよく食べるね。食べても全部トレーニングで消費してるみたいだし、全然構わないんだけど」

「そうなんだよなぁ。体重はちょっと増えたけど、腹回りは全然太くなってないし」

 

 毎日食いたいだけ食ってるっていうのに、未だ太り気味になる気配すらない。ブルボンなんかもそうだが、トレーニングがハードすぎるせいで全部消費されているんじゃないだろうか。

 ただ、制服のサイズは1サイズ上がった。腹は全然大丈夫なのに、なぜかキツいんだよな。

 成長期なんだろうか。

 

「むしろルクスはもうちょっと食べないとだめかもね。見たところまだまだ成長の余地はあるし、なにより短距離は体がデカい方が有利になりがちだから」

「これ以上食うのか……いや、食おうと思えば食えそうだな」

 

 コンプも俺も、短距離ウマ娘としては小柄だ。が、食べる量は普通のウマ娘よりも明らかに多い。小柄な短距離ウマ娘の宿命なんだろうか、この食欲は。

 

「うーん、じゃがバターってこれ脂質と糖質の塊だよなぁ。トレーニングしてなかったらヤバそうだわ」

「僕は少しもらうだけでいいかな……」

「そうしといた方がいいかもな。ほれ、たい焼きも一口いいぞ」

 

 一口かじったたい焼きをトレーナーに差し出す。屋台のたい焼きとバカにすることなかれ。これが案外美味しいのだ。

 トレセンが近いからか、全体的に屋台がウマ娘向けなせいもあって満足度は高い。

 

「あー、ルクス?」

「ウマ娘産業ってやっぱ儲かるんだなぁ。屋台でこんな違いを感じるとは思わなかったよ」

「ルクス?」

「ウマ娘は大食いだし、屋台も薄利多売で質のいい物売った方が儲かるんだろうな」

「ルクス」

「んだよトレーナー。たい焼き好きだろ?」

 

 なぜか頑なに口をつけようとしないトレーナー。冷めるから早くしてほしいんだが。まさか担当に奢られるのはダメだっていうんじゃないだろうな? 全く、お堅いトレーナーだ。

 グッと口元に押し付け、無理矢理にでも口にさせる。

 

「わかったよ食べるって」

「ほれ、どうだ? 結構イケるだろ? 外はしっとりしてるし、あんこもきめ細やかだ」

「んー、美味しいねこれ。あとルクス、気軽に自分が食べたものを他人に渡さないように」

「ふぇ?」

 

 真剣な顔でこちらを見てくるトレーナー。えーと、なんかしましたか……?

 

「いいかい、何度も言うけどルクスは女の子なんだからね?」

「は、はい……」

「本当にわかってるのかなぁ……」

 

 もしかして間接キスを気にしてたのか? うーん、これくらいなら気にするほどでも無い気がするんだが。

 ともあれ、トレーナーが持った屋台の品を突きながら、学園へと帰る。

 トレーナー室でゆっくり食べる算段ではあったのだが、気づけばほとんど全て俺の胃袋に消えてしまっていた。正直まだ食える気はしている。

 

「ふー、人多かったなぁ」

「お正月だからね。一年で一番神社に人が来る時だからしょうがないよ」

「ま、そうか。で、この後はどうすんだ? トレーニングとかって」

「正月くらい休みなさい、ルクス」

 

 トレーナーに言われて、渋々コタツに足を潜り込ませる。

 仕方がないのでテレビをつけるも、どこも正月特番ばかり。チャンネルを次々と切り替えていると、画面の中を走るウマ娘の姿が見えた。

 『去年のウマ娘たちを振り返る』という正月特番らしい。

 おー、タイキシャトルだ。相変わらずの豪快な走りで、並み居るウマ娘たちをちぎっている。

 

「タイキシャトルかぁ。今年でドリームトロフィーシリーズ行くんだっけ?」

「結局マイルでは無敗だったね。本当にとんでもないウマ娘だ」

「負けは短距離だけってのがヤバいよなぁ。ドリームトロフィーシリーズでマイル王者に君臨するのかね」

 

 他にもスペシャルウィーク、エルコンドルパサー、グラスワンダーなども紹介されていた。どれもが凄まじいと言っていい走りだ。画面越しでも伝わる闘気、気迫、そして熱。

 ブルリ、と体が震える。

 

「大丈夫かい、ルクス」

「ふぅー……大丈夫、大丈夫……」

 

 最近は以前よりも明らかにこうなる回数が増えている。レースの熱気に当てられた時、ブルボンと対峙した時、キングの走りを見た時。自分を抑えきれなくなってしまうのだ。

 大きく息を吸って吐き、なんとか気分を落ちつける。こうでもしないと今すぐにでもグラウンドに駆けて行ってしまいそうだった。

 

「お、ブルボンが出てる」

「ルクスも出てるよ。朝日杯FSの時の映像だね」

「くそぉ、あとちょっとだったんだけどなぁ……そのちょっとがめちゃくちゃ分厚い壁なんだけど」

 

 映像で見るとブルボンのヤバさが改めてわかる。あれだけの走りをしておきながら、最後の最後に加速をして見せた。あの加速さえなければ、1着は俺のものだったのだ。

 ミホノブルボンは一体どこまで成長するのだろうか。

 俺も負けてはいられない。

 

「で、マイル用のトレーニングとかも組んだんだろ? そろそろ見せてくれてもよくないか?」

「そうだね、せっかくだからお年玉ってことで見せてあげようか」

「やった! ほー、どれどれ?」

 

 トレーニング表の密度はジュニア級の時よりも濃くなっている。これはおそらく、俺の体が出来上がりつつあることも考慮してだろう。加えて、以前よりも基礎以外のトレーニングが増えている。より実戦的な、レースを見据えたトレーニングと言えた。

 

「おー、レース観戦も増えたな」

「競り合いに弱いってのは結局のところ、レースや相手のウマ娘の雰囲気に呑まれてるって面が大きいからね。GⅠまで出て、だいぶそういった雰囲気も理解できたんじゃないかい?」

「少しはな。だけど、やっぱ競り合いは苦手意識が強いなぁ」

「とは言っても前と違って、本番ってだけで弱くなったりは無くなっただろう?」

 

 未だ競り合いや、後ろからの気迫に晒され続けるのには慣れない。が、後ろから追いかけるなら問題は無くなったし、最終直線で他のウマ娘の前に出る程度なら気にはならないようになった。

 これは大きな成長と言えるだろう。

 

「まあそうだな」

「そういうわけで、もっと慣らしていこうと思うんだ」

「もしかして慣れれば俺でも逃げとかでも走れたりするのか?」

「うーん、それは無理かなぁ。後ろからの気迫に弱いのは、慣れとかってよりも本能的な面が強そうだし」

 

 なんだそれ。

 だけどまあ、わからんでもない。なんとなくではあるが。

 

「じゃあ今年も一年頑張るか!」

「今年の目標は?」

「もちろん、ブルボンに勝つ! あとGⅠにももっと出たい! キングにも勝たないといけないし」

「目標に向かって頑張ろうね、ルクス」

「おうよ!」

 

 ウマ娘生活二年目。クラシック級という名の激戦区が、俺を待っている——

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