TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか 作:TS娘には恋させよ
カレンダーに付けられた赤い丸。3月14日という日付は決してレース関連のイベントがある日ではない。
「で、ルーちゃんは何してるの? なんか珍しくオシャレしてるし。というかその服どうしたの!? なんかちょっといい感じにカワイイ服着てるじゃん!」
「あー、うん。ほら、最近街まで行くとたまにファンって人に声掛けられるようになってな? ちょっとくらいは着飾らないとって思ってさ」
「おおー……で、なんでそんな服着てるの。あ、もしかして……」
ニンマリ、と満面の笑みを浮かべるブリッジコンプ。な、なんだよその笑顔。
「そっかぁ、今日はそういう日だもんねぇ……あ、ルーちゃんこれバレンタインのお返し。結構評判いいところのだよ!」
「おお、クッキーかこれ。さんきゅ。ちなみに俺からのお返しはこれな。流石にレースもあったし手作りは無理だったけど……」
つい先日までフィリーズレビューに向けて猛特訓をしていたため、全くと言っていいくらい時間がなかった。そんなこともあり、残念ながら今回は手作りではない。
まあ仕方ないといえば仕方ないだろう。
そして当然トレーナーもそれは同じだった。というよりトレーナーの方が忙しかったようで、なんでも『お返しを用意する暇がなかった』とのこと。
「やったぁ! バレンタインに続いてホワイトデーでもルーちゃんからもらえるなんて! はぁ……額縁に入れて飾っとこうかな……」
「ちゃんと食べてくれ。一応有名店らしいから。他人に教えてもらった店だけど……」
「ううう……ルーちゃんにそういう相談ができる人が増えてお姉ちゃん嬉しいよ……」
「誰がお姉ちゃんだ誰が」
服を整え、髪飾りがズレてないのを確認すれば、出掛ける準備は終わりだ。まだ予定の時間には早いが、別に少しくらい早くてもいいだろう。
「というわけで出かけてくるから」
「いってらっしゃーい。ルーちゃんのトレーナーさんによろしくね」
「へ!? なんでトレーナーと出掛けるってわかったんだ!?」
「そりゃあね?」
トレーナーはホワイトデーのお返しが用意出来なかった、と俺に言った。そして同時にホワイトデー当日に一緒に買いにいこうか、とも言ったのだ。
ま、時間もまともに使えない状況で適当なもの買って渡し、それが俺の苦手なものだったりしたら目も当てられないもんな。
「はー、ほんとご馳走さま。その反応が見れたのが、今日一番嬉しかったかも」
「う、うう……まったく、お前はなぁ……」
「ほらほら、早く行かないと約束に遅れちゃうんじゃないの?」
「くっ、覚えてろよコンプ!」
学園内を駆け抜け、正門まで突き進む。時計を見れば割と余裕はあるが……正門には見知った姿があった。
「やぁ、ルクス。随分早いね?」
「そっちこそ早すぎだろ。ずっと待ってたのか?」
「ちょっと前に来たばっかりだよ。それじゃあ早速行こうか」
今日はいつもよりも遠出となる。普段ならば近くのショッピングモールでも良かったのだが、せっかくなのだからもっと別のところに……などとトレーナーが言ったためだ。
なのでまずは駅に行きそこから電車に乗って、目的地へと向かう。
「なんか混んでるな……」
「そうだね。ほら、こっちおいでルクス」
実はウマ娘になってから、俺は一度も電車に乗っていない。
というのも、身長が縮んだせいで人が多いと思ったように進めないし、下手すると押し潰されてしまう。まあ、ウマ娘は丈夫だからそんな事で怪我なんてしないだろうが。
それに、割と電車の駆動音と車内で反響する人の声が耳障りってのもある。
だが、いくら怪我しないとはいえ、恐怖がないわけではない。
「ん、まあ端っこのほうが安全だよな」
「僕が壁になるから。ちっちゃいのも困りものだね?」
「好きでちっちゃいわけじゃない……」
目的地に近づくにつれて、車内の人も増えてきた。次第に、トレーナーは覆いかぶさるようにして、人の集団から俺を守るようになる。
「大丈夫かい、ルクス? まさかこんなに混むなんてね……これなら車でも良かったかもしれない」
「まあ後から言ってもしょうがないって。うぉ、おっと」
「ぐ、ごめんルクス」
ガタン、と電車が大きく揺れて、バランスを崩したトレーナーがこちらに倒れ込んでくる。ドアとトレーナーに挟まれて、俺は身動きが取れなくなってしまった。
くそ、人が多すぎる……。
少しでもスペースができるように、トレーナーの背中へと手を回した。
「トレーナー、もうちょいくっつけ。そっちこそあんまり無理するなよ?」
「あ、あー……うん、あの、ルクス? あんまりくっつかれても困るというか」
「はぁ? 今更何言ってんだ。ほれ」
そうして2人、くっついて目的地まで電車に揺られる。
うーん、トレーナーの体やっぱりデカいな。まあ俺がちっちゃすぎるだけな気もするが。ブルボンと並ぶととても同じクラシック級に見えないんだよなぁ……。
もっと食わんとダメなのか? 今でもだいぶ食ってる気がするんだが。
「次が目的地だよ。降りる準備大丈夫?」
「うーん……これ、本当に降りられるのか? めっちゃ混んでるし」
「まあ大丈夫だよ。大体の人がそこで降りるだろうから」
「あーそうか。まあそうだよな」
電車が止まり、目的地に着いた旨のアナウンスが聞こえてきた。それと同時に、車内の人が一気に外に流れていく。
その流れに乗るようにして2人でホームへと降りて、人混みから解放された俺たちは大きく体を伸ばした。
「はぁー……なんかドッと疲れたよ……」
「あはは……」
車内もそうだったが、駅も結構な混み具合だ。
とは言っても、初めて来たところだしどんな店があるかとかわからないんだよね。
ヘルプ、トレーナー!
「で、ルクス。お返しは何がいい? お菓子でもいいし、なんかアクセサリーでもいいけど」
「うーん……やっぱお菓子か? なんかトレーナーからの贈り物って大体アクセサリーな気がするし」
「そんなこと……いやそうだったね。まあでもそれはルクスが悪いと思うよ……」
「うぐぅ! それは言わないでくれ。最近は私服も割と気をつけてるんだからさ」
くるり、とその場で一回転して見せる。
この服はキングに選ぶのを手伝ってもらった、自慢の1着だ。ズボンでかつヒラヒラしていない、という条件を満たし、かつある程度カワイイ感じも出せている。
ふふん、どうだ。
「ルクスもファンが増えて来たからね。その自覚があるみたいで嬉しいよ」
「そうだろそうだろ? ほら、勝負服もあんな感じだから、カワイイとかっこいいを両立させる感じで行こうと思って」
「まあいいと思うよ。で、そういう服は何着持ってるのかな?」
「…………」
言えない。この1着くらいしか自信を持ってお披露目できる服がないだなんて。
他のは全部チェーン店で適当に買ったのか、コンプのやつに買わされたフリフリのなんだよなぁ……。
俺が何も言わないのを見て、トレーナーがため息を吐く。あはは……。
「わかった。もう1着くらいはそういう服を持っておこうか……」
「えへへ、なんというか、ごめんなさい?」
「かまわないさ。自分で服を選んだ経験は?」
「あーっと、ほとんどないかな」
いやまあ、男物ならば経験は結構あるし、そこそこ自信もあるけど、女物はさっぱりだ。キングやコンプにアドバイスをもらっても、いまいち上手くいかない。
それこそ、思いっきりカワイイコーディネートか、もしくはほとんど男装と言っていい服装にしかならないのだ。
ファ、ファッションセンスが終わってる……。
「はい、ここで選ぼうか」
トレーナーに手を引かれやって来たのは、いかにもおしゃれなブティック。よく見れば、展示されている服が全てウマ娘用のものだ。
「あの、トレーナーここは?」
「ウマ娘用ブティックってところかな。トレセン所属のウマ娘御用達だよ。あのマルゼンスキーとかも使ってるらしいね」
「ほへー……でもファッションセンス皆無だったら、どんなお店でも一緒じゃ……?」
「店員さんと僕がいるから大丈夫だよ。ほら、早速選ぼうか」
そうしてトレーナーが店員に声をかけて始まる、俺の着せ替えショー。着ては着替え、着ては着替え……。一体何着着ただろうか、やっとのことで2人のお眼鏡にかなうコーディネートが完成する。
シャツにネクタイ、それにロングスカート。うん、まあスカートの長さは膝下までしっかりあるし、中に厚手の黒タイツも履いてるからそこまで気にはならない。
追加、とばかりに銀色の飾り気の無い髪飾りから、金のちょっと目立つ髪飾りへと取り替えられる。ちょっとしたアクセントとしてジュエリーのようなものまで付いてるけど、これ値段大丈夫……?
まあ、流石に本物の宝石とかではないだろうし、平気か。
「うん、いい感じだね。カッコいいのとカワイイの、両方出せてる」
「とてもよくお似合いですよ! 髪色に合わせて、白のシャツと黒のスカートとタイツにして見たんですけど……なかなか良い感じですね」
鏡の前でポーズを取ってみたり、軽く回ってみたりして具合を確認する。統一感もあるし、なにより露出が少ないってのが良い。あとフリルも少なめだし。
実に俺好みのコーディネートだと言える。
「あんまりスカートタイプの私服も持ってないんでしょ、ルクスは。こういうのも1着持っておこうね」
「まあ、うん。スカートタイプの私服をほとんど持ってないのは否定しない」
「なら決まりだね。じゃあ会計してくるから。それ、どうする? 着て帰ってもいいよ?」
うーん、迷う。正直このコーディネート、結構……いやかなり好みだ。
こう言っちゃなんだが、俺の容姿は悪くない。というか結構いいと言えるだろう。ほんとウマ娘の容姿様様だ。
そして、まあぶっちゃけるならば、ちょっと自分の可愛いところを見せびらかしたいという気持ちがある。勝負服のお披露目で、ああやってチヤホヤされる心地よさを知ってしまったのが原因だろうか。
「よし、着て帰る。えへへー、いいじゃんこれ」
「ルクスが喜んでくれて何よりだよ。あ、すいませんカードで」
着ていた服を紙袋に入れてもらい、新しい服を着て店を出る。
前の服はキングに選んでもらったものだったが、どういう服装がいいか話した時に少しだけ苦笑いをしていたのを思い出す。うん、ごめんキング……。次からはちゃんと、もう少し女らしい服装にするね……。
「ありがと、トレーナー。これ、ちょくちょく着ようと思うよ」
「今日着てきたのも良かったと思うけどね。あれはカッコいい方に寄せてるから、その内取材とか受ける時に着ると受けがいいかも」
「取材? あー、そうか。レースに勝ってればそのうちそういうのも来るんだな」
「今も何件か来てるよ? 桜花賞の後に回してもらってるけど」
「ふぇ!?」
マジ? そんな評価されてたのか。
確かにGⅠウマ娘であるミホノブルボンに勝ち、桜花賞にも出走するウマ娘……なんて言葉だけ見れば、取材するのに最適な対象だろう。
そうか、俺もそんな立場になったのかぁ。
「しかし、桜花賞ね……」
「うん。頑張って、GⅠウマ娘として取材を受けようね」
「はぁ、ほんとトレーナーは俺をその気にさせるのが上手いよなぁ」
2人並んで街を歩く。ミホノブルボンの幻影は振り払った。だからこそ、本物のミホノブルボンも振り払って、初めてのGⅠ勝利を掴みたい。
ギュっとトレーナーの手を握り、そう思うのだった。
そして学園に帰ると、寮の入り口でキングに会った。
「あら? 珍しいじゃない。制服以外でスカート履いてるなんて。この前服を選んであげたときはスカートだけはやめてくれって散々言ってたのにねぇ」
「あはは……その節はご迷惑をおかけしました……」
「まあいいわ。あなたがそうやって自発的に女らしい服装をしてくれるのが一番よ。で、どうしたの」
キングがこちらをジッと見つめる。あっ、これ逃げられないな。
「えっと、ホワイトデーのお返しに、買い物に連れて行ってもらって……」
「へぇ? で、それ選んでもらったの。あらあらあら……いいじゃないの! ふふふ、安心したわ。あなたにもそういうところあるのね」
「う、ぐ……」
ニヤニヤとこちらを見て笑うキング。
うう、なんか恥ずかしい……。こんなんなら、着ないで帰ってくればよかったか……?
「信頼した相手からの贈り物っていうのは、大切にしないとダメよ? その点、ちゃんと着て帰ってきたのは高ポイントね。もし恥ずかしくてクローゼットに仕舞い込むような真似をしたら無理矢理部屋に押し掛けてたところよ」
キングならマジでやりそうだ。一通りキングにからかわれ、俺は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら部屋に戻る。そしてそこで、ブリッジコンプに褒め殺されて、再び顔を真っ赤にすることになるのだった。