TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか 作:TS娘には恋させよ
最悪なかったことにするのも考えたのですが、後々の展開に影響を与えそうで面倒なことになるの間違いなしだったので無理矢理ねじ込むことにしました。
本当に申し訳ありません。
キングヘイロー。俺が元いた世界でもなかなかに議論の多い馬の一頭だ。
晩成型だとか、適性は短距離だとか、いや長距離でも好走できるのにスプリンターと言っていいのかとか……
血統へと目を向ければ、さらに謎と議論は多くなる。
「キングヘイロー上がってきた、キングヘイロー上がってきた! 恐ろしい末脚だ! 先頭との差は4バ身から5バ身! いや、3バ身まで縮まった!」
凱旋門賞を含むGⅠを計6勝した父親と、アメリカGⅠを7勝した母親。血統的に言えば、これ以上ない馬と言える。が、キングヘイロー自体の戦績はパッとしない。
史実におけるGⅠ勝利は高松宮記念のみ。
だが、弱い馬かと聞かれるとこれまた首を傾げることとなるのだ。
「キングヘイロー強い、キングヘイロー強い! 今先頭のハードコントロールに並んだ! キングヘイロー差し切れるか!」
血統が非常に良いため、近年ではキングヘイローが母父の馬が活躍している……なんてこともあった。
本当に謎が多すぎる。
そしてそれを反映するかのように、ウマ娘のキングヘイローもなかなかに尖ったウマだ。幅広い距離適性、継承を利用すれば逃げ以外はこなせなくもない脚質適性。
そんな点を台無しにする、固有の発動のしにくさと覚醒金スキルの使いにくさ。そもそも短距離で後方脚質が弱い環境だったのも向かい風と言えよう。多分俺も実装されたら悲しい性能になってたに違いない。
史実のキングヘイローは大層な気性難だったというが、そこまで再現しなくてもいいだろ。
「キングヘイローかハードコントロールか! 残りは100m足らず!」
そんなキングヘイローが今、ゴール板の前を駆けていく。
「キングヘイロー、キングヘイローが差し切ってゴール! 短距離GⅠ、高松宮記念を制したのはまさかのキングヘイローだ!」
「彼女はマイルや中距離が主戦場だと思っていたのですが……。驚きました」
キングヘイロー、二つ目のGⅠ。
うん、やっぱわけわかんねぇわ。勝ちレース、中距離GⅠの次が短距離GⅠ? 確かに短距離適性はあるのだろう。が、どう考えたっておかしいだろやっぱ。
適性があるってだけで勝てるなら誰も苦労はしない。前走が菊花賞ってところがさらに異常さを加速させていた。
「まさか、キングヘイローが本当に勝つとはね……。ルクス、わかってたのかい? 前からキングヘイローが短距離に来る事に脅威を覚えてたみたいだけど」
「ああーうん。まあなんとなくキング先輩なら、短距離は強いだろうなぁと思ってたけど、まさかここまでとは……」
短距離GⅠというのは選手層が薄いと思われがちだ。
頂点に立つのはサクラバクシンオー。どうせそれに勝てないのだから、真面目に短距離を走るウマ娘なんていないだろう、と。
が、現実は異なる。
その様は、まさに魔境だと言える。
「まさか最後の最後、あそこから伸びるとはね……。かなりガッツのあるウマ娘だ。これはかなりの強敵だぞ」
「ブルボンとキング先輩を同時に相手するの考えたらハゲそう……。後方脚質で被ってるから、競り合いになりそうで怖いんだよなぁ、キング先輩」
「でも少しなら競り合いもできるようになったでしょ?」
そうだ。先日のフィリーズレビューでもやったように、『後ろから追い上げるタイプの競り合い』ならある程度なんとかなるようにはなってきたのだ。
が、いまだに後ろから追われるのには一向に慣れる気配がない。
最近気づいたのだが、俺は『相手が見えてない状態で競り合いが発生する』という事に対して強い恐怖心を抱いているらしい。なんでだ……?
「未だに3秒以上はキツいぞ? あと連続して何度も競り合いが起こるのもダメだな。……やっぱり課題が多すぎないか?」
「うーん、実はそうでもないんだよね。ルクスの脚質と走りから言えば、それだけの競り合いが発生する状況ってのが既に負けに等しいんだよ。競り合いが続くってことは加速が足りてないってことでしょ?」
まあ言いたいことはわかる。しかしそう考えると、競り合いに関しての特訓はこれ以上続けても無駄ってことか。
「ルクスも気づいてるかもしれないけど、競り合いに関してのメニューはだいぶ減らしたよ。その分をレース分析に回してる感じかな」
「それは気づいてた。だけど加速を鍛える特訓をしなくていいのか? 分析の時間ばっかり増えてる気がするんだけど」
「それなんだけどね……。例えば今回キングヘイローの勝因についてはわかるかい?」
大きな勝因の一つとして、『仕掛けどころがうまかった』ことが挙げられるだろう。
実に絶妙な仕掛けどころ。あと少し遅ければ加速が足りずに2着……いやそれ以下で終わっていたはずだ。
もし逆に仕掛けどころが早かったならば、キングはゴール前で失速していただろう。
加えて言うならば、最後の加速も凄まじかった。力を限界まで振り絞り、そこからさらに持ち前の根性で追加の加速をする。
この二つがキングヘイローを勝利に導いた要因だ。
「と、こんなところかなぁ。キングヘイローはそのガッツが目立つけど、実際はかなり頭を使うウマ娘だと思ってるよ俺は」
「そう、それだよ。レースが終わってから数分と経ってないのに、それだけ分析出来てるなんてそうそうない。ルクスは後ろから頭を使いつつ追い上げるタイプだってのが最近顕著になってきたから、そこを鍛えるのが正解だと思ってね」
確かにトレーナーの言う通りだ。
最近のレース、大体が前のウマ娘をコントロールすることで突破口を作るというのが多い。これは他のウマ娘の動き、そして呼吸や足取りの癖を分析し予測することが前提となってくる。
……さらっと言ったけど、これもしかして結構高度な技能では?
最近は意識的に練習するようにしてはいるが、普段の成功率は決して高いわけではない。ぶっつけ本番で成功させてるのは奇跡とも言える。
「というわけで、ルクスの分析力を鍛えるために時間を使おうと思ってね。この前のレースでやったアレ、もっと完成度を上げればかなり上まで行けると僕は思ってるよ」
「あれかぁ……。まあシンボリルドルフの走りを真似して、アレンジしたやつだからな。そりゃあ強い走りに決まってるだろ。G1計10勝のバケモノだぞ」
「真似できるってだけで十分凄いんだけどね。普通は真似すら無理だよ」
かの『皇帝』の走りを模倣できたのは運と相性によるところが多い。
どっちかが欠けていたらあの走りを習得できずに、俺はフィリーズレビューでブルボンに勝てなかっただろう。
そう考えると、よくブルボンに勝てたな俺……。
「ただなぁ、あんまり長時間あの走りすると頭痛くなるんだよ。短距離ならいいけど、やっぱマイルより上だと集中力持たなさそうだな」
「キツいだろうね。スタミナはだいぶ付いてきたし、それこそ走るだけならば中距離も走れるだろうけど……」
「ま、短距離とかマイルみたいなしっかりした走りは出来ないだろうさ。どうやって訓練するんだろう、これ。精神力をいくら鍛えても、集中の度合いが上がるだけで継続時間が伸びないんだけど」
もはやここまで来ると『適性』の存在を信じるしかなくなってくる。俺の中距離以上でのポテンシャルの落ち方……これはもはや異常と言っていいレベルだ。
サクラバクシンオーなどはマイル以上が厳しい理由がはっきりしている。ようは全力で走りすぎるせいでスタミナが持たないのだ。
が、俺は違う。スタミナは問題ない。ペース配分だってまあわりかしなんとかなる。
「そこは悩んでも仕方ないよ。むしろ走る距離を広げすぎると、それだけおろそかになる部分が増えるからね。距離を絞るってのは正しいし、ルクスにはそっちの方が合ってると思う」
トレーナーの言うことはもっともだ。
実際大体のウマ娘が走る距離を二つ程度に絞っている。多いのは中距離と長距離、もしくは中距離とマイルの組み合わせ。まあこれは、ティアラ路線とクラシック三冠路線の影響が大きいだろう。
よくよく考えたら、俺って中距離以上走れないからティアラもクラシック三冠も無理なのか……
うん、まあ仕方ないだろう。二大マイル制覇とかならワンチャン……?
いや、そんな夢見るよりも先に、GⅠで一勝するほうが先か。
「そーだな。短距離とマイルに絞って頑張りますかぁ。まずは引き続きレース分析だな。シンボリルドルフの走りもまだまだ研究したいところがあるし」
「僕なりにシンボリルドルフのデータを解析した資料を作っておいたから、それも参考にしてね」
「お、マジで!? やった、トレーナー愛してる!」
「あー、うん……」
そんなこんなで4月のマイルレース、桜花賞に向けて特訓をしていた俺。
だったのだが……
「ん……? あれ、なんでこんなところにいるんだ俺」
4月。トレセン学園が新入生で賑わう季節。
なぜか俺は三女神の像の前に立っていた。遠くからは新入生達の期待に満ち溢れた声が聞こえてくる。
普段は生徒の憩いの場となっている三女神像前は、なぜか誰もいない。三女神像の周りだけが、妙な静寂に包まれていた。
「何かに呼ばれた……? いや、気のせいか? じゃあなんでこんなところに来てるんだ俺。まさか、これは」
『継承イベント』。アプリでは4月始めに発生するいわゆる『強化イベント』だ。育成開始時に選択した因子継承元から、一定確率でスキルや各種適性を獲得できるイベント。
普通なら適性が上昇するなど、現実的に考えればあり得ない。
だが、この世界は不思議なことで溢れている。実際、ウマ娘関連の事象には謎が多い。
そして、視界がフッと白く染まり——
こんにちは、『流星』。私たちは三女神。
あなたは私たちの期待に応えて……いえ、期待以上の働きを見せてくれました。
あなたに感謝を。そして受け取ってください。私たちからの祝福を。
『流星』、私たちはあなたを見ています。
これからも、ウマ娘達に幸福をもたらし、願いを叶える者であれるように——
「——あ……?」
ヤバい今完全に意識飛んでたわ。
春眠暁を覚えず。事実、授業中も居眠りをする子が増えた。下手するとイビキかいて寝てるヤツいるもんな……大体叩き起こされてるけど。
でも流石に立ったまま寝そうになるのはヤバいだろ。
「疲れてるのか? 確かに最近忙しいけど、休み自体はしっかり取ってると思うんだよな。疲労も次の日に持ち越してないし、うーん……?」
ちょっとトレーナーに相談するか。病気の兆候とかだったらヤバいし。故障とかしたら洒落にならんぞマジで。ウマ娘にとって故障は最大の敵だ。
ふと前を見れば三女神の像が目に入る。
ザワザワと風が吹き始め、不思議な静寂にも終わりが訪れた。
「呼ばれた気がしたんだけどなぁ。気のせいだったか……アプリみたいに力が湧きあがってくるってこともないし。はー、とりあえずは眠気飛ばすために、軽く体でも動かすかぁ」
まずは1年。この1年は波瀾に満ち溢れた1年だった。
泣いても笑ってもあと2年。その2年で、俺はどこまで行けるのだろう。
ミホノブルボン、キングヘイロー、そしてサクラバクシンオー。強敵たちとの対決に胸を躍らせながら、俺は次走の桜花賞に向けてトレーニングを進めるのだった。
ちょっと疲れ気味なので、今月末か来月頭に少しだけ投稿おやすみさせていただくかもしれません