TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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34 友情トレーニング ブリッジコンプ

 安田記念へ向けたトレーニング、その一環として併走トレーニングを多く取り入れることにした俺たち。

 となると当然、併走の相手を探さなくてはならない。

 が、ここで問題が発生した。

 

「短距離とマイルのウマ娘が、交友範囲に全然いねぇ……! ブルボンはレース終わったばっかりだし」

「NHKマイルカップも終わったことだから、ある程度受けてくれる陣営があるんじゃないかと思ったんだけど……当てが外れたね」

 

 NHKマイルカップ。クラシック級のマイルレースだ。

 東京1600m芝で行われるそれは、ミホノブルボンの勝利で幕を閉じた。

 俺たちも現地まで観戦に行ったが……うーん、やっぱヤベェよブルボン……。

 俺はこちらに出走することも考えたが、体のことも考えて出走は回避した。

 

「だけどなんでだ……? トレーナーからアプローチをかけてもダメって奇妙だな」

「まず一つ、ルクスがかなり警戒されてるんだろうね。ミホノブルボンとあれだけの激戦を繰り広げるウマ娘だ。できるだけ自分たちの情報を与えたくない、と思っている陣営は多いはず」

「んあー……でもほら、こっちの情報を見たいって陣営もいるはずだろ?」

 

 併走する、ということはすなわち、ある程度お互いに手の内を晒すということに他ならない。

 これがあるため、併走では本気を出さないウマ娘も少なくないのだ。

 

「それはね……ルクス、自分自身への対応策って何が思いつく?」

「ええと、積極的に競り合いにいくとか……」

「最終直線まで最後尾で潜伏してるウマ娘に対して?」

「ああー……」

 

 そういやそうだった。俺の走りを妨害するのはなかなかに難易度が高い。前を塞げればいいのだろうが、それの対策として内側突撃という奇策も披露してみた。

 うーん、これは確かにどこも併走受けてくれんね……。

 

「でもどうするんだよこの状況。他に短距離とマイルって言ったら……あーそういや1人いたわ」

 

 思い出すのは同室の少女。

 メッセージアプリで併走のお誘いを送れば、数分と経たずに返事が返ってくる。

 

「おっし! トレーナー、コンプのやつが併走してくれるって!」

「本当かい? なら準備をしておくね。ルクスたちは先にグラウンドに行っててくれ」

「あいよー」

 

 そんなこんなで、同室のブリッジコンプと併走することになった俺。

 グラウンドについて見れば、そこには既に準備を済ませたコンプの姿が。いや、早くない? 連絡してからまだ10分経ってないんだけど。

 

「ルーちゃんルーちゃんルーちゃん! まさかルーちゃんから併走に誘ってくれるなんて思ってなかったよ! えへへー、こうしてルーちゃんと走るの楽しみにしてたんだー」

「んな大袈裟な。言ってくれれば、併走くらいいつでもしたのに」

 

 まさかそんなに楽しみにしてたとは。もっと早く誘ってやればよかったか?

 そんな大はしゃぎのブリッジコンプ、彼女の主戦場は短距離とマイル。併走相手として最適と言える。

 

「あれ、そういえばトレーナーさんはどうしたの? いっつもルーちゃんと一緒にいるのに」

「いや、いつもじゃないけど……。トレーナーはなんか準備があるらしいから後から来るよ」

 

 ブリッジコンプの脚質は逃げ。とは言っても、先行もできないこともないし、割と多芸と言えるだろう。

 いやでもよくよく考えたら、コンプのやつも安田記念出るんじゃ……?

 本当に併走頼んで大丈夫だったのか。

 

「しかしルーちゃんが安田記念だもんねぇ。去年の今頃は選抜レースで勝てなくて泣いてたのに」

「おまっ、それは言うなって! はぁ、でもよかったのか? コンプも忙しいだろ。誘った俺が言うのもなんだけど」

「あーもしかしてルーちゃん、私が安田記念に出ると思ってる?」

 

 いやそう思ってたんだけど。

 コンプの主戦場は短距離とマイル、そしてシニア級のウマ娘である。

 いや、そういえば同じ時期にシニア級限定のマイルGⅠがあったな。

 

「コンプはヴィクトリアマイルに出走するのか? 安田記念じゃなくて」

 

 ヴィクトリアマイル。5月前半に東京レース場で行われるマイルGⅠだ。

 安田記念と大きく異なるのは、クラシック・シニアの混合ではなく、シニアオンリーのレースであるということ。

 そうか、コンプはこっちに出るつもりなのか。

 

「うん。安田記念も考えたんだけどね、そっちにはタイキシャトルが出るらしいから……。ちょっと、きついかなぁって」

「あー……。タイキシャトルはなぁ、うん。いまだマイルレースでは負けなしだったっけ?」

「何度もやり合ったけど、マイルのタイキシャトルだけは勝てる気がしないんだよね……。短距離でならまだしも」

 

 いや、もっともな判断だろう。

 俺は『もっと強えやつと戦いてぇ!』とか言う頭戦闘民族みたいな考えから安田記念への出走を決めたが、こっちの考えの方が異常だ。

 まあ短距離はそういう思考のやつがそこそこいるが……。バクシンオーが悪いよバクシンオーが。

 

「というわけで私は安田記念は回避! ルーちゃん頑張ってね? マイルのタイキシャトルは本当にヤバいから……」

「やるだけやってみるさ。そのためにもコンプに併走頼んだんだしな」

 

 2人並んでウォーミングアップをこなしていく。

 女子は2人よれば話題の事欠かない、などと言うが事実のようで、俺たちの会話は途切れることはなかった。

 そうしていると、準備が終わったらしいトレーナーがグラウンドにやってくる。

 

「ごめんごめん、ちょっと遅くなった」

「あ、ルーちゃんのトレーナーさんこんにちは! うちのルーちゃんがいつもお世話になってます」

「コンプのじゃないだろコンプのじゃ」

 

 トレーナーとコンプの仲は悪くない。なんでもたまに、俺のズボラさについて意見交換してるとか。

 なんだそれ。なんでそんなことしてるんだほんと。

 

「ルクスとコンプちゃん、準備運動は終わったかい? 終わったならば、早速併走してもらおうと思うんだけど」

「大丈夫、終わってるぞ。で、併走の内容だけど……」

「とりあえずブリッジコンプの方にはいつも通り『逃げ』で走ってもらおうかな。で、ルクスは今回『先行』で走ってくれ。抜けそうならいつでも抜いていいよ」

 

 そんなこんなで俺たちの併走が開始する。

 スタート直後からコンプの後ろに着き、抜き去るタイミングを見計らっていく。だが、流石はシニア級GⅠウマ娘。まったく隙がない。

 俺がいつもああやってごぼうぬきできるのは、あらかじめ下準備をした上で、かつ終盤に最適なタイミングで加速しているから、というのが大きい。

 クソっ、走り方が変わるとこうも抜き去るのに難儀するのか。

 

「ふっ、ふっ! マズい、抜けないっ! ヤバい、これ、どうすればっ」

 

 最終コーナーを回ってなお、コンプを抜くタイミングは見つからなかった。

 普段ならここで加速して抜き去っているのだが……うん、無理だわ!

 それでもなんとか追い縋ろうと、思いっきり加速してみる。が、足りない。

 

「1着ブリッジコンプ、2着ミーティアルクス! うん、やっぱりか。ルクス、今のかなりきつかったみたいだね?」

「はっ、はっ……。いや、いつもなら抜けるタイミングで全く抜けなくて……」

「なんかルーちゃん走りがチグハグだったよね。どうしたの?」

 

 普段と違う脚質で走るのがこんなにきついとは。

 先行で走ったのは選抜レース以来。あの頃は分からなかったが、先行というのはとても体力を使う走りだ。

 後ろと前を常に意識しつつ、神経を張り巡らせながら前を目指し続ける。

 よっぽど図太い性格か、不屈の精神でもしてないと先行で大成するのは難しいんじゃないか……?

 メジロマックイーンやらタイキシャトルの凄さが改めて浮き彫りになる。

 

「まあこうなるとは思ってたよ。だいぶバ群に慣れてきたし、先行もできるんじゃないか……という期待があったことは否定しないけどね」

「いや、きついわこれ。慣れても無理そうな気がする」

「ルーちゃんはどっちかというと逃げのほうがマシじゃない? 前後両方に気を回しながら走るのはルーちゃんには無理だよ」

 

 うん、それはそうだ。

 ただなぁ、()()()()()()()()のが死ぬほど苦手なんだよな。それさえなんとかなれば、ワンチャン逃げもいけるか……?

 まあブルボンとかいう化け物が居る以上、逃げをやるのは自殺行為に他ならないが。

 絶対競り合いになるもん、ブルボンいる時に逃げやったら!

 

「そうだね……とりあえず差しもやってみてから、いつも通りの走りで併走してみようか」

「はいよー。コンプ、準備するぞ」

「よーし、お姉ちゃん次も頑張っちゃうよー」

 

 そうして併走トレーニングを進めていく俺たち。

 幸いにも数回目にして『固有』発動の兆候を掴むことができたため、その日はひとまず終了となった。

 

「しかし、ルーちゃんがここまできてるとはねぇ。それ、クラシック級で出来る子は少ないよ?」

「俺は『固有』って呼んでるけど、コンプも使えるのか? いろいろ研究してやっと形になったんだよこれ」

「うーん、私も自由に使えるわけじゃないかな。たまーにレース中に限界を超えたような感覚にはなるけど」

 

 やっぱりそうなるか。想像していたことではあるが、これはかなりの難易度のものらしい。

 発動の糸口こそ掴めたものの、完全発動にはまだ壁があるように感じた。

 くっそ、安田記念に間に合うか……?

 

「ありがとうブリッジコンプ。ルクスの併走相手が全然見つからなかったから、今日はとても助かった」

「いやー、ルーちゃんとの併走は本当にためになるし、いつだってウェルカムですよ! 逃げやってると、こうやって差してくる相手への対処もしっかり学ばないといけないしね……」

「大丈夫か……? 俺の走りって結構特殊だし、対処法が少ないと思うんだけど」

 

 とはいえ、コンプが言うんだから何かしら役には立ったのだろう。

 トレーニングも終わったことだし……ということで、トレーナー室でお茶会を開くことになった俺たち三人。

 あいにくコンプは緑茶派なため、トレーナーにだけコーヒーを淹れてやる。

 

「それにしても、ルーちゃんにも趣味ができて嬉しいよ私は……。不安になるくらい無趣味だったからねぇ……」

「そうなんだよ。今だってコーヒーって趣味ができたものの、休日なんかは自主トレして過ごしてることもあるみたいでね……。暇な時に外に連れ出してあげてくれないかい?」

「んー、それならトレーナーさんが連れ出してあげてみたらどうです?」

 

 本当好き勝手言うなお前ら!?

 最近はコーヒー淹れるための器具とか豆とか買いに行ったりしてるんだぞ!?

 もうちょっと手心を加えてくれよ! 泣くぞ!?

 

「あはは、あんまりトレーナーが担当とお出かけってのもよくないだろ?」

「そんなことないですよ! ルーちゃんもトレーナーさんとお出かけしたいだろうし! この前も言ってましたよ!」

「ルクス、そうなのかい?」

 

 いや、コンプの嘘です。

 そう言おうとして、直前で口をとじる。これもし『行きたくない』って言ったらどうなる?

 トレーナー、確実に落ち込むよなぁ……。クリスマスとかホワイトデーとか、行きたくもないのに付き合わせちゃったんだ、って。

 うぐぐ、トレーナーを悲しませたくない。仕方、ないよな……?

 

「う、うん。トレーナーと出かけるのは楽しいからな」

「ほらトレーナーさん! もっとバンバン連れてってあげてください!」

 

 そう、これはトレーナーを悲しませないため。決して俺がトレーナーとお出かけしたいからじゃない!

 

「そうだね、今度いろいろ連れてってあげるよ。まあその前に安田記念をどうにかしないといけないけど」

「そうだよな! ほら、ライバルの分析とかもしないと!」

「ほほーう、やっぱりルーちゃん……ふふふ」

 

 なんかコンプはこっちの後ろとか上とか見て笑ってるし。

 うぐぐ、調子が狂う。トレーニングで体を動かしたあとだからなのか妙に体が熱いし、本当に調子が狂いっぱなしだ。

 

「とりあえずは有力候補のデータはまとめ終わったよ。こっちは直近のラップタイムでこれがコース取りの模式図。こっちには実際のレース映像も入ってるから、僕のコメントと一緒に目を通しておいてほしい」

「おおー……。すごい、めっちゃまとまってる」

 

 こうして俺たちは安田記念へ向けて準備を進めていくこととなる。残りの時間は決して多くない。

 果たしてシニア級のウマ娘たちと、どれだけ勝負することができるのか——




 ギリギリで踏ん張ったんでなんとか投稿しました
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