TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか 作:TS娘には恋させよ
夏合宿を目前に控えたある日の事。
「ふむ、君がミーティアルクスか」
「は、はひ……」
俺は生徒会室で『皇帝』シンボリルドルフと対峙していた。
突然の呼び出し、それに驚いて生徒会室へ向かえば待っていたのは生徒会長でもあるシンボリルドルフその人。
えっ俺何かしましたか……。
「君の噂は聞いている。ここ最近停滞気味だった短距離に新たな旋風を巻き起こす、そんなウマ娘の1人だとね」
「あははー……。まだ短距離GⅠでの勝ち星はないですけどね」
「あったら困るよ。君はクラシック級だろう?」
それはそうなんだが。
というかそれだけの理由で呼び出したのか……? 拍子抜けだ。もっとこう、色々突っ込まれたことを聞かれるかと思ってたんだけど。
「その、それだけでしょうか? なら私はこれで」
「もちろん他にも理由はあるよ。例えば……私によく似た走りをするところ、とかね」
やっべ。
そりゃあ本人だったらわかるよなぁ! 模倣した上にアレンジしてるとはいえ、あれは『皇帝』の走りだ。
ウマ娘たちの頂点に立つような存在が、それに気づかないはずがない。
「あ、えっと」
「……ふぅ。そんなに怯える必要はない。君があの走りをするのを咎めるつもりはないよ。むしろ褒めるべきだろうね」
「褒める……ですか? 正直怒られてもしょうがないと思ってたんですけど」
「誰が怒るものか。ちょっとやそっとの努力で真似られるような技ではないのは、私自身よくわかっている。君は相当研究したんだろう? 私のことを」
まあそれはね……。朝から晩までシンボリルドルフのデータと睨めっこしながら、自分の走りに反映させていく。
正直アレはなかなかに大変だった。
だからこそ、少しとはいえ模倣できたときは飛び上がって喜んだものだ。
「そこまでしてもらって、怒るようなことはしないさ。ふふふ、君が短距離・マイル路線なのが残念だよ。中距離にくるならば喜んで相手をしたのに」
やめてくださいしんでしまいます。
いやかの『皇帝』と走れるなんて光栄なことなのだが、それはそうとレースで相手したくねぇ……。
走りを解析したからこそわかる。めっちゃエゲツないもんシンボリルドルフの走り!
「最大の褒め言葉です。併走くらいでしたら是非ともお願いしたいところですけど」
「そうかそうか! ふふっ、ではそのうち君のトレーニングにお邪魔しようかな。とはいえ今は生徒会の仕事も忙しいからね」
ははは、ナイスジョーク。えっ待ってジョークだよね? マジでトレーニングに来ないよね?
……聞かなかったことにするか。まあ来たら来たで嬉しいし。
「と、これが君を呼んだ2つ目の理由だ」
「2つ目……あの、もしかしてまだ理由があります?」
「そうだね……」
目に見えてシンボリルドルフのテンションが落ちた。
これは……どういうことだ? 表では絶対に見せないであろう、シンボリルドルフの顔。
彼女をここまで悩ませる理由が存在している……? 待って俺今まさにその超面倒くさい事情に巻き込まれそうになってる?
待って待って待って。
「身内の恥を晒すようで恥ずかしいのだが……その、君がどのようにしてスカウトされたか聞かせてもらえないか?」
「え? なんでそんなこと……。私の場合は模擬レース後にトレーナーにスカウトされるっていう極一般的なスカウトでしたよ」
それを聞いたシンボリルドルフが大きなため息を吐く。
「君は模擬レースで2連続で最下位を取った。気性難という噂もあり、敬遠するトレーナーも多かったという話も聞いた。だから参考になると思ったのだが……」
「参考……? あれ、シンボリルドルフ生徒会長はもうデビューしてますよね……? まさかもう一回トゥインクルシリーズを走る裏技でも」
「ああ、違うよ。そのだね、私の後輩というか……その、慕ってくれる子が未だにトレーナーが決まっていなくてね」
この時期にトレーナーが決まっていないというのはなかなかに厳しい。
スカウトは基本的に実力勝負だ。実力があるウマ娘は何もしなくてもスカウトされていく。
それゆえ、初動で売れ残る――つまりは実力がないと判断される――とそのままずっと……なんてのは珍しくない。
だけどなぁ、あのシンボリルドルフの子分というか、弟子というか……そんな感じのウマ娘だろ? 普通に実力はあると思うんだが。
「それでその後輩さんのお名前は?」
「ああ、名前を言ってなかったか。
俺は思わず泡を吹いて倒れそうになった。
よりにもよってテイオーかよ!!
待ってマジでまだトレーナー決まってないの!? 何があった無敵の帝王!
「なんでトレーナーが決まってないとかって、わかってるんですか……?」
「それがだね……。自分に釣り合うトレーナーがいない、とかなんとかで」
「ああー……」
うん、納得したわ。そりゃ無理だ。
トウカイテイオー。史実ではシンボリルドルフの子にして、無敗で二冠を取りGⅠを計4勝した競走馬だ。
そしてその競走馬としての馬生は実に波乱に満ちたものである。
現役時代の休養4回。2回出走した有馬記念の着順は11着と1着。直前での騎手変更や、故障によって立ち消えとなった海外遠征……『奇跡』などと呼ばれるのも納得のエピソードが盛りだくさんだ。
そんな彼女であるからこそ、アニメウマ娘2期では主役に抜擢されることとなったのだろう。
で、この世界の彼女だが……おそらく超のつく天才の上にクソガキだよなぁ絶対……。
「もしかしてトレーナーが付いたり離れたりしてるんですか……?」
「わかるかい? 自分の方針に口を出されて怒ったテイオーがキレたり、あまりにも自分の方針に従わないとトレーナーが愛想を尽かしたりを繰り返していてね……。確か仮契約のまま終わったトレーナーは、これで9人目だったか」
うわぉ……。ただまあ、わからんでもない。
トウカイテイオーは紛れもなく天才だ。それはアプリとアニメからよくわかる。
そして
まあアプリトレーナーも、アニメのスピカトレーナーも大概変人だしな……。
「あの、それで私はどうすれば……?」
「君に聞けばなにか糸口が掴めるでのはないかと思ったんだがね。すまない、変な相談をしてしまって」
「いえ構いませんよ。……そういえば、いたな。トウカイテイオーに興味を示しそうで、かつ及第点をもらえそうなのが……」
「っ! 本当か!」
ガッと食いつくようにしてこちらに身を乗り出すシンボリルドルフ。
俺はちょっと怯えつつも、1人の
変人、天才、そして指導者。3つ全部揃った彼女の名前。それは、
「アグネスタキオン。彼女なら、もしかすると……」
「ああ、彼女か。だが彼女はトレーナーでは」
「いえ、なんでも所属しているチームが『超』の付くほど放任主義らしいんですよ。で、マンハッタンカフェのトレーナーをしてるのは実質彼女だとか」
「なるほどな……。アグネスタキオン、確かに彼女ならばテイオーのお眼鏡に適うかもしれない。レースの腕も確かなようだしね」
ん……? アグネスタキオンはまだデビュー前だ。なんでシンボリルドルフがタキオンのレースの腕を知ってるんだ。
俺が首を傾げているのに気づいたのだろう。シンボリルドルフが答えを口にした。
「アグネスタキオンが私と併走しに来たのは君が理由だろう? おそらくは君を実験に付き合わせる対価に私のデータを使った、と睨んでいるんだが」
「そこまでわかるんですか……」
「なに、簡単なことさ。わざわざ私と走りに来たデビュー前の実験狂いが居て、それと同時期に私の走りを模倣する者が出る。この2つを結びつけようと思うのは当然だろう?」
なんというか、どこで誰と繋がってるかわからんなぁ……。
まあ説明の手間が省けた。
とはいえ、トウカイテイオー自身の意思だよなぁあとは。
「テイオーのことを君に任せてもいいだろうか。すまないが私ではこれ以上どうにもできなさそうでね……」
「ええ、もちろん。なんとかしてみますよ」
「恩にきる……。私にできることがあれば言ってくれたまえ。礼はしっかりしないとね」
と、そんな訳でトウカイテイオーのスカウトを請け負ったのだが……。まずはタキオンへの話が先か。
「で、どうですかタキオンさん。実力は確かですよ」
「ふぅン。まあ前までなら突っぱねたところだけどねぇ、君には恩があるし見るだけ見てみよう」
「ありがとうございます! で、これが選抜レースの映像なんですけど……」
そうして再生された選抜レースの映像は、『凄まじい』の一言に尽きた。
決してレベルが低くない中央の生徒、それら全てを千切っての大差勝ち。
「……これは、凄いねぇ。特に最終直線でのアレは」
「なんでも『テイオーステップ』っていうらしいですよ。で、どうですかタキオンさん」
タキオンは顎に手を当て、考えるような素振りのまま何も言わない。
「最後の加速、アレは危険だね。そうだねぇ……持ってGⅠ2回ってところか」
思わず息が止まった。まさかこの映像だけでそこまで……? 史実知識ありの俺だってそこまでわからんぞ!?
やはり認めるしかない。アグネスタキオンは『天才』だ。
さて、そんな結論を叩き出したタキオンはここからどうする。
「面白い、実に面白いねぇ! こうも都合よくサンプルが集まるだなんて、やはり私は運に恵まれてるらしい。彼女をスカウトしたら君にも手伝ってもらうよ?」
「まあそれくらいは。私もあのステップには興味がありますし」
よし交渉成功! という訳であとはトウカイテイオーを捕まえるだけだ。
という訳で探しているのだが……。
「どっこにもいねぇ! え、学園内のトレーニング施設は全部見たぞ?」
「つまりはそういうことだろねぇ。この時期、トレーナーが付いていないウマ娘が施設を借りるのは困難だよ」
「ああー……」
学園近くの公園。そこにトウカイテイオーは居た。
「うーん、なんか違うんだよなぁ。こう、カイチョーはびゅーんっ! ってなるのに」
遠巻きにテイオーのトレーニングを眺める俺たち。流石『天才』なだけはある。同年代の子の自主トレとしてはかなりの水準のものだろう。
しかし、アレではだめだ。そう遠くない未来に、彼女は壊れるだろう。
「タキオンさん、ほらスカウト行きますよ」
「ん? それは君の役目だろう? 悪いが私は口が上手い方ではないのでねぇ」
「くそ、そうだった! 煙に巻くのは上手いけど、説得はそこまでだったわ!」
仕方ない。俺はテイオーに近づき、声を掛ける。
トレーニング中の彼女は、面倒そうな顔をしながらも立ち止まってこちらへと意識を向けた。
「んー、何? 悪いけどボク忙しいんだよね」
「あの、トレーナーを探してませんか? 優秀なトレーナーが居てですね」
「いいもん! ボクは1人で三冠を取るんだい!」
あーこれは完全にトレーナー不信になってますね。
とはいえここで引き下がってはシンボリルドルフに面目が立たない。
なんとかテイオーに話を聞いて貰おうと必死に食い下がる俺。が、その程度で話を聞くならトウカイテイオーは今こんな状況に陥ってない。
「じゃ、ボクまだトレーニングがあるから!」
「おわっ! ちょっと、ああもう!」
足に力を込めると、風となって駆け出すテイオー。
仕方ない、この手を使うか。俺はテイオーの後ろを追いかけ、そのまま揺さぶりを掛ける。
そしてテイオーが体勢を崩した瞬間、地面を強く踏み締めて彼女を抜き去った。
テイオーの前に躍り出るとそのまま前を塞ぐようにして立ち、彼女に語りかける。
「さあ、これで話を聞いてもらえますか?」
こっちが速いことを知ればとりあえず話くらいは聞いてくれるだろう。そう思っての行動だったのだが、効果は想像以上だった。
「……す、凄いっ! ねぇねぇねぇねぇっ! 今のどうやったの!? バビューンってカイチョーみたいだったよ!?」
「あ、あー……あの、話をするから聞いて」
「聞く聞く聞く! ねねね、はちみー飲みながらでいい!?」
「は、はい……」
完全に押し切られる形ではちみー販売車まで移動し、タキオンとテイオーそして俺の3人での話が始まる。
「ふーん、でカイチョーお墨付きってわけ。カイチョーも過保護だなぁ」
「それだけテイオーさんのことを気に掛けてるんだと思いますよ。で、スカウトはどうしますか?」
「まあいいよ。ボクもそろそろ、何も言ってこないトレーナーかチームでも探そうかなって思ってたし」
うーん、しょっぱい反応。まあ話すら聞いてもらえなかったところからすれば、かなり大きな進歩ではあるが。
あとはタキオンの考え次第だろう。
「私も構わないよ。その脚については後々話をする必要がありそうだけどねぇ」
「ボクの脚? いいでしょ、自慢の脚だよ!」
うん、綺麗すぎてガラスみたいだね……。
ねぇなんで俺の周り脚が脆い子ばっかなの……?
「ま、とりあえずはメイクデビューに向けて色々と準備を整えようか。さあテイオーくん、君の先輩を紹介しようじゃないか!」
「まだ本契約じゃないんだけどー! むぅ!」
「あはは……」
ともあれこれでなんとかはなったみたいだ。
それから数日して、トウカイテイオーがチームへ加入したという噂が学園を駆け巡った。
まあ天才同士、価値観は合ったようだな……。