TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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42 夏合宿開始!

 青い海、白い砂浜、そして照りつける太陽。

 今年も夏合宿がやってきた――!

 

「海だぁぁぁっ! ルーちゃん今年は一緒に泳ごうね!」

「……? 俺水着持ってきてないけど。っていうか水着持って無いよ?」

「え」

 

 実の事を言うとトレセンの水泳の授業を受けたことがない。

 俺たちウマ娘は、トレーナーが付くといわゆる『運動系』の授業が免除になるのだ。

 まあそりゃそうだよな。授業のせいでトレーニングメニューに歪みがでたら元も子もないし。

 

「待って待って、ルーちゃん冗談はやめよう? 去年とかどうしたの?」

「去年……? トレーニングして終わったけど。夏祭りは行ったけど海では泳がなかったなぁ」

 

 そう答える俺を、ブリッジコンプは驚きの形相で見ていた。

 そんなヤバいか……?

 

「ルーちゃん流石に女捨てすぎじゃない……? 合宿で何するつもりだったの……」

「いやさ、スプリンターズステークスも近いしみっちり追い込もうと思って」

「それはわかるけど、トレーニングしかしないつもりだったのルーちゃん……本当に思春期の女の子……?」

 

 それに関してはノーコメントだ!

 

「確かちょっと行けば大きめのショッピングモールもあったはず……。後でルーちゃんのトレーナーさんにも話しておかないと……」

 

 コンプのやつが何かぶつぶついってるが、小さすぎて聞こえない。

 合宿場には既にたくさんのウマ娘たちが到着しており、荷物を置いてそうそうにトレーニングに励むものや早速海へ向かうものなど、思い思いに過ごし始めている。

 俺は指定された部屋へと向かい、トレーニングウェアへと着替える。

 

「去年は砂浜トレーニングで脚腰鍛えたんだっけか……。そうかあれからもう1年経ったんだな。まさかこんな風になるなんて、思ってもみなかったよ」

 

 思い出すのは去年の夏合宿。デビューすらまだで、本番に向けて試行錯誤していた頃。

 あの頃は自分の進む先すら見えていなかった。

 懐かしいなぁ……。

 

「っと、そろそろ時間か。さーて、トレーニングに励むとしますかぁ」

 

 あらかじめ指定されていた場所へと向かえば、既に準備を終えたトレーナーが待っていた。

 

「時間ぴったりだね。今日のトレーニングだけど、久々に砂浜ダッシュと行こうかな」

「ダートコースとかウッドチップとかはやったけど、こういう本物の『砂浜』は久々だなぁ。これ結構脚にくるんだよな……」

「負荷が高い分、トレーニング効果も期待できるから頑張って。でも無理はしないようにね?」

 

 砂浜に足跡を刻みながら駆けていく。

 俺の走りは『体をしっかり制御できること』が前提の走りだ。呼吸、体勢、速度……それらを制御できなければ、潜伏もペース維持も加速も不可能。

 それゆえに、砂浜でのタイムというのはなかなかに重要な指標となってくる。

 

「ふっ!」

「これは……すごいねルクス。去年とは大違いだ。というかこれならダートでもやっていけるかもね?」

「いやぁ、ダートはちょっと……。やっぱり芝じゃないと万全とは行かなそうなんだよなぁ」

 

 身体の制御はこういった『足場が悪い』場所では重要だ。

 俺の砂浜ダッシュのタイムは悪くない。だけどその、ダートとの両刀をやるだけの余裕はないな……。

 ダートはダートで色々と考えることとか、また違ったトレーニングとかあるしな。なかなかにキツい。

 砂浜を駆け続ける俺。そうして太陽が頂点に近づいた頃に、1人のウマ娘から声を掛けられた。

 

「むむむっ! そこにいるのはルクスさんではありませんか! スプリント路線で活躍してるようでなによりです!」

 

 おでこが眩しい学級委員長、サクラバクシンオー。

 というか初日から参加できてるって、バクシンオーは補習と追試大丈夫だったんだな……。

 

「お久しぶりです。おかげさまでなんとかやってけてます」

「それはよかったです! 私の走りもうまく自分のものにできているようですし、また1人私の学級委員長的模範指導でウマ娘を導いてしまいましたね!」

 

 実際何1つとして間違った事は言ってないのが悔しい。というかバクシンオー、レース関連のことはやたら頭回るし勘も冴えてるよな……。

 賢さ補正は伊達ではないということか。

 

「それでバクシンオー先輩はなんで私のところに?」

 

 サクラバクシンオーは今重要な時期のはず。サマードリームトロフィーシリーズは8月の終わりごろに開催される。

 となれば、トレーニングなどに励む時期であると思うのだが。

 

「私が指導をしたウマ娘を見かけたので! あとついでに併走しませんか! 私が声を掛けても、皆さんなかなか走ってくれないので!」

「ああー……」

 

 その気持ちはわからんでもない。

 サクラバクシンオーはとてもいい子だ。だがそれはそうとこの灼熱の下で、熱血キャラのバクシンオーとトレーニングはキツい……ってやつが大半だろう。

 俺はちらりとトレーナーとアイコンタクトを取る。

 こくり、と頷く彼を見てから、俺はバクシンオーの手を取った。

 

「是非、是非是非併走しましょう! とりあえずは砂浜ダッシュでいいですか?」

「おお! そうですね、砂浜を共にバクシンしましょう!」

「はい、バクシーン!」

「いい掛け声です! あなたには学級委員長の素質がありますよ!」

 

 ふむ……。サクラバクシンオーの走行フォームはとても綺麗だ。とても砂浜の上を走っているとは思えないほどに。

 というかそれだけ叫びながら、その綺麗なフォームと速度を維持できるのやっぱ反則じゃないかなぁ!?

 

「こなくそっ!」

「いいバクシンです! こちらもさらに上のバクシンをお見せしましょう!」

「は?」

 

 次の瞬間、サクラバクシンオーが力強く砂を踏みしめた。

 ダートレースというのは、良バ場よりも不良バ場のときでタイムが早くなる事で有名だ。

 砂、というのは水を吸うほど踏みしめにくく、速度を出しにくいためである。

 しかし、これは……。

 

「バクシンバクシンバクシーン!」

「うっそだろ……」

 

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 ちょっと待って、お前それどうやってんの!?

 おそらくではあるが、『スプリントターボ』の応用技術だろう。踏みしめたときの力を、そのまま全てロスなく推進力に換える……。

 確かに理論上は最高効率での加速が可能になる。だが、そんな事できるのかよ……。

 

「おい、つけ、ないっ!」

「はっはっはっはっ! 学級委員長の加速についてこられますか?」

「無理、だろぉぉぉ!?」

 

 ここまでねばっただけ褒めてほしい。

 短距離の王者、サクラバクシンオー。やはりその称号は伊達ではない。

 

「ぜひゅー……かひゅー……」

「ふぅ、いい汗をかきました! 今日はありがとうございます、ルクスさん!」

「一緒に走れて、よかったです……うっぷ……」

「ふふふ、委員長たるもの後輩を導くのも役目ですからね!」

 

 うん改めてまとめるとサクラバクシンオーヤバすぎだわ……。今日新しく見れた技術、あれはおそらく『スタートダッシュ用』の走りだ。

 自分の足元を踏み固め、全てを無駄なく推進力に変える……言うならば、『地固め』。

 あれでスタート直後に猛烈に加速し、そのまま先頭付近をキープ。そして最終直線で再度加速する、というのがサクラバクシンオーの勝ちパターンなのだろう。

 

「これ、参考にならなくないか……? 最終直線での加速に応用とか……できないだろうなぁ」

 

 彼女の技を間近で見れたのは幸運だったと言えるだろう。だがしかし、これを俺の走りにそのまま使えるかと聞かれれば……微妙なところだ。

 いや、確かに普通の加速でもアレができればかなり有利に働くんだけど、完全に生かすのは無理だろう。

 まあ応用は無理ではないし、ちょっと研究してみるか。

 しかしこれ逃げに転向する気があったなら、それこそ咽び泣きながら喜んだだろうな。

 

「今年はしっかりと夏合宿に参加するので、もし学級委員長の力が必要ならばいつでも呼んでください! すぐに飛んでいきますので!」

「あはは……。そのときはよろしくお願いしますね」

 

 サクラバクシンオーはそう言うと、高らかに笑いながら走り去って行った。

 うん、本当に嵐のようなウマ娘だ……。

 

「大丈夫かい、ルクス? それにしてもあれがサクラバクシンオーか……。映像では見たことあったけど、実物はとんでもないね」

「やっぱトレーナーの目から見てもそうなるか。最後のアレ、解析して技術として確立すればそれだけで一財産築けそうだよな」

「まあできればだけどね……。少なくとも僕では無理だよ」

 

 やっぱりかぁ……。正直真似しようと思って出来るような技術ではない。

 それこそスプリンターとして天性の才能を持ち、かつ鍛えられた肉体があってなんとかギリギリってところか?

 応用するくらいならなんとかなるだろうが、完全コピーはそれこそ『バクシンオー級』のスペックが必要だろう。

 

「本当、果てしないなレースの世界は……」

「そうだね。でも、いつかは勝ちたいねサクラバクシンオーに」

 

 その言葉に、俺は無意識のうちに頷いていた。

 あの強いウマ娘に、いつか勝ってみたい。俺の中にある闘志がそう叫んでいる。

 まぁまずはクラシック級下半期をなんとかしないとな……。

 そう思いながら立ちあがろうとして……できなかった。

 

「あ、れ? すまんトレーナー、うまく立てない」

「え!? ちょっと脚見せてルクス!」

「おわ、ちょっと待ってトレーナー!?」

 

 トレーニングウェアの裾がまくりあげられ、俺の脚が露わになる。

 が、俺の目から見た感じでは特に異常はない。

 

「触るよ? うん、これは……。とりあえずは大丈夫そうかな?」

「うう、いきなりすぎるだろ。もうちょっと静かなところでだな」

「ごめんごめん、もし怪我でもしてたら大変だからね。ルクスの脚は丈夫とはいえ、怪我しないなんて事はないんだから」

「で、何が原因だ?」

 

 顎に手を当てて数秒ほど考えた後、トレーナーが口を開く。

 

「筋疲労かな……流石に短時間に負荷をかけ過ぎだよ。あのサクラバクシンオーについていくってのはそれだけキツかったみたいだね」

「ああー……。確かにちょっと脚ふるえてるわ」

 

 うーんこれ明日は地獄だな!

 多分筋肉痛で動けなくなるんじゃないだろうか。

 いや待てよ、トレーナーのマッサージがあるから問題ないのでは?

 

「ということでマッサージ頼んだトレーナー!」

「最近はオーバーワークも減ったからあんまりやってなかったけど……仕方ない、明日一日潰れるのはちょっとしんどいしね」

「やった!」

 

 トレーナーのマッサージの腕はプロ顔負け。いや、トレーナーだからある意味プロなのか?

 ともあれ、あの極上マッサージが受けられるのは心が踊る。

 

「で、俺どうやって部屋に戻れば……?」

 

 そうして浮上する新たな問題。明日の事はいいんだが、今目の前の問題が解決していない。

 マジで動けん! 這って部屋まで行くしかないのか。

 

「それは大丈夫だよ。ほら、ルクス」

「……? あの、トレーナー?」

「おんぶだと辛いでしょ? 抱えてあげるから」

 

 あの、その体勢は、その……抱っこというやつですか?

 それはちょっと恥ずかしいというか……。いやでも他に手段はないしな……。

 うん、仕方ない。これは仕方ないことだ。

 

「ん……。優しくしろよ」

「はいはい。よっと」

 

 地面に座り込んだ俺の膝裏に手を通し、背中と膝裏で俺を抱え上げるトレーナー。

 待って待って! これアレじゃん! いわゆる『お姫様抱っこ』じゃん!

 流石に恥ずかしいんだけど!

 

「ああ、あんまり動かないでルクス。ルクスがちっちゃいとはいえ、抱えるのにはそれなりに集中しないとだめだから」

「う、ううう……!」

 

 いや、トレーナーが色々と考えた末にこの行為に及んだのはよくわかる。

 だけどさぁ!

 しかしこれ以外に選択肢がないのもまた事実。あきらめて俺はトレーナーに体を委ねる。

 

「まずはマッサージからしちゃおうか。えっと、まずはルクスを部屋に置いてからマッサージ用のオイルとか取ってきて……」

「そんな事するならトレーナーの部屋でいいじゃん……」

「あー、うーん……」

 

 今更だろもう。俺はトレーナーに抱えられながら、部屋へと運ばれていく。

 その道中でキングに会ってからかわれるなんてイベントもあったが、概ね問題は発生しなかったと言っていいだろう。

 そして1つ付け足すならば。トレーナーのマッサージは相変わらず極上だった。

 ほんと、毎日でも受けたいよトレーナーのマッサージ……。

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