TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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43 友情トレーニング セイウンスカイ

五十歩百歩

【意味】少しの違いはあっても、本質的には同じであること。本人は違うと思っているが、外からみれば結局同じである様。

 


 

 

 夏合宿が始まってからしばらくが経ち、環境に慣れたのかところどころで併走トレーニング募集の張紙を目にするようになった。

 でも俺行ったら絶対スゴい顔されるよなぁ……。

 この前ネットでエゴサしたら、『当たり屋』とか『ミサイル』とか散々言われててちょっと泣いたんだけど。

 まあそれだけ俺の走りが凄いと思ってくれている証拠なので、決して悪い気持ちだけではないが。

 

「こっちは中距離、でこれは長距離の募集で……あれ、短距離は?」

 

 そしてここでも俺がスプリンターである弊害が出た。

 短距離の募集が、無い!

 いや最悪マイルでもいいんだが、それすらほとんどないのだ。

 

「どうすっかなぁ……。ん?」

「ちょっとルクスさん! その子捕まえて頂戴!」

「うげ、まさかキングの取り巻きの子!? セイちゃんピンチですかこれ!?」

 

 こちらに突っ込んでくる芦毛のウマ娘。あれは……セイウンスカイか。

 俺にぶつかる寸前でブレーキを掛け、こちらに背を向けた彼女は、ジリジリとキングヘイローとの間合いを調整していく。

 

「あのーキングの取り巻きちゃん? セイちゃんのこと逃してくれたりは……」

「キング先輩のご命令なので。キングの命令故、あなたを見逃すことはできませぬ……」

「ちょっと!? あなたそんなキャラじゃないでしょルクスさん! まあいいわ、そのまま後ろを塞いでいて!」

「はーい」

 

 俺によって逃げ場を塞がれたセイウンスカイは、1分と経たずにキングヘイローの手で捕らえられてしまった。

 というかなんでこんな事に?

 

「はー、はー……。あなたが居ないと長距離部門担当が居ないのよ! スペシャルウィークさんもグラスワンダーさんも別のところに取られちゃったんだから!」

「あははー、でもできればセイちゃんサボりたいかなーって」

 

 うーんこれはあれか。去年俺たちがやったみたいなチームレースが開催されてるんだな。

 それでセイウンスカイは長距離枠だったのに逃げ出した、と。そりゃあ追いかけるわ。

 

「で、キング先輩。チームレースの人員はしっかり集まってるんですか?」

「あら知ってたの? それがねぇ……。あなたマイルと短距離どっちもいけたわよね」

「え、ええ。中距離以上はてんでダメですけど、それ以下なら自信ありますよ」

 

 少しだけ考えるように視線が動いたかと思えば、すぐにキングヘイローはこちらの手を握る。

 

「あなたにキングのチームでマイルを走る権利をあげるわ! どうかしら? シニア級でも結構上位の子が集まってる模擬レースよ」

「! それはなんとしてでも参加したいです!」

 

 併走を頼み込める子、そして併走を受けてくれる子が少ない俺にとって、これは千載一遇のチャンスだ。

 そんな風に盛り上がる俺たちを、呆れたような顔で見つめるセイウンスカイ。

 まあ彼女はそうだよなぁ。おそらくは『手の内を見せたくない』と思っているんだろう。

 

「なんというか、熱心だねー。セイちゃんには無理ですよ、そういう熱血なの。ゆるゆるーっとやらない?」

「あなたはねぇ……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。キングはそれを理解しているのだろう。

 自分のレースだって近いのに、よく世話を焼くもんだ……。まあそれがキングヘイローというウマ娘のいいところでもあるんだが。

 そしてセイウンスカイもそれをわかっているからか、抵抗は少なめだ。

 

「優勝チームには賞品も出るから、それをめざして頑張りなさいな」

「うーん、まあそこまで言われたらちょっとだけ頑張ろうかな? セイちゃんの走りをとくとご覧あれ!」

「それでルクスさんもいいかしら? よければ今からチームメンバーを紹介するけど」

「いいですよ。短距離はキング先輩で長距離がスカイ先輩、で私がマイルだとすると……あとは中距離とダートですか」

 

 うーん、誰だろうか。まあこっちが全く知らないようなウマ娘って可能性も充分にある。

 キングに連れられて、合宿場の一角にあるミーティングルームへと足を踏み入れた俺。

 そこに居たウマ娘にはあいにく見覚えがなかった。

 中距離とダートはノーマークだからしょうがないね……。

 

「というわけでこのチームで行くわよ! さて、それじゃあ軽く戦術を決めてからトレーニングと行きましょうか」

「キング先輩、レースっていつなんですか?」

 

 そんなに後ではないと思うんだが。

 

「明日よ。だから今日は軽く併走でもしてもらって、本番に備えて頂戴」

「明日ぁ!? いくらなんでも急過ぎませんか!?」

「しょうがないじゃない! 4人集めるのだって苦労したのよ!? あなたでようやく5人揃うの!」

 

 いやまあそれはよくわかる。対戦相手にスペシャルウィークとかグラスワンダーとか居たらそりゃ敬遠する子も多いだろう。

 まあ俺は逆だが。

 

「まあ今更言ってもしょうがないですよね。参加するって言った以上、なんとか頑張りますよ」

「ありがとう、ルクスさん……。それであなたにはセイウンスカイさんのお守りを頼みたいのだけど」

「御守りって何さ! セイちゃんが逃げ出すとでも!?」

「さっき逃げてたでしょう!」

 

 キングとセイウンスカイは元気だなぁ……。

 

「というわけで頼んだわよルクスさん! あなたならきっとスカイさんを制御できるって信じてるわ」

 

 その信頼は一体どこからくるんだ。

 俺はセイウンスカイの手を引いて、合宿場併設のグラウンドまで連れていく。

 目を離したら逃げ出しそうなので、決して目は離さないし手も離さない。

 

「ちょっといいかな? ほら、自己紹介だけでもしとこうかなーって」

「ああ、確かにそうですね。ミーティアルクスと言います。短距離・マイルが主戦場の追込ウマ娘です・よろしくお願いしますね」

「あー、もしかしてキングがたまに話してた『手のかかる後輩』ちゃんかぁ」

「なんですかそれ!?」

 

 いや手のかかる後輩なのは自覚してたけど、その話他の子にもしてたのか!?

 

「なんでも、『手が掛かってめんどくさいけど、可愛い後輩』だって。あともっと頼って欲しいとも言ってたね」

「うぐぐ……反論できない……」

 

 これ、セイウンスカイのペースに乗せられてるな……。

 彼女はいわゆる『自分のペースを作って』走るウマ娘。他のものなど意に介さぬように走るミホノブルボンとは対局に位置すると言ってもいいだろう。

 落ち着け俺、セイウンスカイのペースに飲まれるな……。

 

「それで、併走するんですよね? 自分はマイルより長い距離は無理なんで……その、長距離は勘弁してもらいたいというか……」

「うーんどうしようかなぁ。セイちゃん、マイルはちょーっと苦手なんですよねぇ」

 

 ただまあ最近は『スタミナだけなら』、中距離くらいならいけないこともない程度には鍛えられてきた。

 そうだなぁ、中距離でなんとかやるかぁ……。

 

「私の体力とか精神力が保つかはわかりませんが、中距離でやってみましょう。それでいいですか?」

 

 セイウンスカイが頷いたのを確認して、俺たちはスタート位置につく。

 合図に合わせて軽快なスタートダッシュを決めるセイウンスカイ。それを追いかけるように駆けていく俺。

 

「これ、やりにくいっ……!」

 

 始まってすぐ、俺は一つの事に気づく。

 このタイプの逃げと走った事ねぇ!

 垂れてきたか……? と思えば速度が上がり、上がった速度に付いていこうとすれば今度はペースが落ちる。

 非常にやりにくい!

 

「んー、こんなもんかな?」

「ぜひゅ、くそ、まだいけるっ……」

 

 このペースを崩すような走り。そうか、普段俺がやってるのの逃げ版か……。

 そして最終コーナー、そこに差し掛かる瞬間。俺はセイウンスカイを捉えようとし……失敗した。

 

「にゃははっ、おっさきー」

「うっそぉ!? まず、追いつけ、ないっ!」

 

 彼女はコーナーを回った瞬間加速すると、俺をぐんぐんと引き離していく。

 さっきまでのは本気の走りじゃなかったってわけか!

 悔しいけどもう追いつくのは無理だ。結局俺はセイウンスカイから数バ身離されてゴールする事になる。

 

「はー……。はー……」

「セイちゃんの勝ちー! うんうん、なかなかいい走りだったからこれからもっと伸びると思うよ? キングが目をつけたのも納得だねー」

「あり、がとうござい、ます……」

 

 まあ参考にできる点もみる事ができた。あの最後の加速の仕方、あれは是非とも解析しておきたい……。

 俺が肩で息をしていると、遠くから声が聞こえた。

 んー……?

 

「あっやばっ、トレーナーさんだっ! ちょ、ちょっとセイちゃん変なところない!?」

「大丈夫だと思いますけど……」

 

 俺のその言葉を聞いたセイウンスカイは、グラウンド入り口に立っている人影のところに駆けていく。

 ふーん、なるほどね? そうかそうか……。

 尻尾をぶんぶん振りながら、ご機嫌そうに自身のトレーナーと会話をしているセイウンスカイ。

 まあ『そういう事』なんだろうね。

 

「はー、ごめんごめん。トレーナーさんに予定変更したの伝えてなくてさ」

「大丈夫ですよ。いいものも見れましたし」

「ん……?」

 

 実に微笑ましい。いやぁ、こうやって青春してるウマ娘もいるんだなぁ。

 どうやらセイウンスカイからトレーナーへの好感度はかなり高いようで、今でも少し頬が上気している。

 

「スカイさんはトレーナーさんの事が大好きなんですねぇ」

「んなっ! ち、違うし! トレーナーさんはそういうのじゃなくて、恩人っていうか」

「はいはい。ほら、続きやりますよ」

「んー!」

 

 不満そうなセイウンスカイをなんとかなだめ、併走を続ける。

 その日はなんとか最後までセイウンスカイを逃さずに終える事ができたのだった。

 そうして次の日。

 

「さぁ優勝目指していくわよ!」

「おー!」

「セイちゃんやる気でなーい」

 

 チームレース会場にはそこそこの人集りができていた。

 まあそりゃそうか、短距離から長距離までレースをやるとなれば、参加するウマ娘だけで結構な数になる。

 この中で優勝って……キツくない?

 

「ほらスカイさんしゃんとしなさい! あそこにあなたのトレーナーがいるわよ!」

「えっウソっ!?」

「本当よ。自分のウマ娘が走るのに、見にこないわけないじゃないの」

「ふ、ふーん……。セイちゃん。少しだけ本気出しちゃおっかなー……?」

 

 チョッロ。心配になるくらいチョロいな。

 向こうの世界で『恋愛弱者』と呼ばれていただけはある。

 

「じゃあセイちゃん行ってくるねー」

「がんばってきなさい」

 

 そうしてセイウンスカイが見せたのは『大逃げ』。

 マジで多芸だな、セイウンスカイ。俺との併走で見せたのは、デバフを使っての逃げだった。つまり、彼女は少なくとも二種類の逃げを行えるということだ。

 マジであれが短距離・マイル路線に居なくてよかった……。

 

「どうよ! セイちゃんの走り、見ててくれた?」

「ええ、素晴らしい走りだったわよ。ところで、あっちにいるトレーナーさんに報告しなくていいのかしら?」

「ちょ、ちょっと行ってくる!」

 

 本当微笑ましい。

 そうしてほっこり顔で他人の恋路を眺めていると、俺の番がやってきた。

 さーて、頑張ってきますか。

 

「よしっ!」

「あらルクスさん? あなたのトレーナーもあそこにいるじゃない」

「マジで!? おーい、トレーナー!」

 

 これはより一層頑張らないとな。トレーナーに無様な走りは見せられない。

 気合を入れ、俺はコースに足を踏み入れた。

 そして……。

 

「よーし、1着! どうよ!」

「凄いじゃないの! あのメンツの中で1着はかなりの実力がある証拠よ!」

「まあタイキシャトルもブルボンもいなかったしなぁ」

 

 俺はかなりの好走によって、1着を勝ちとる事ができたのだった。

 

「で、あなたはトレーナーのところに行かないのかしら?」

「んー? まあ後でしっかり報告するしなー。夜にでもトレーナーの部屋でじっくり反省会するよ」

「……あなた、大胆ね……」

「何が?」

 

 というか俺のレースが終わってもセイウンスカイはまだ帰ってこないのか。

 マジでべったべただな……。

 

「スカイ先輩はいっつもああなんです?」

「そうねぇ。ちなみにあれで隠せてると思っているわ」

「ええ……。ちょっと無理があるんじゃないですか?」

 

 本当無理があるだろ。

 

「尻尾と耳で丸わかりなのに……。スカイ先輩も抜けてますねぇ」

「………………いえ、何も言わないでおきましょう……」

 

 結局俺たちのチームは惜しくも1位を逃す事となってしまった。

 とはいえ入賞は果たし、少し嬉しい景品をもらう事になる。

 夏合宿の間にでも使うかなぁ、これ……。

 

 


 

人の振り見て我が振り直せ

【意味】他人の振る舞いを見て感じることがあったなら、自分の振る舞いを振り返ることが必要である。

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