TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか 作:TS娘には恋させよ
照りつける太陽の勢いが増し、合宿日程も折り返しに差し掛かったある日のこと。
俺がトレーニングをしていると、後ろから強襲を受けた。
「るーくすっ!」
「うげぇっ」
おま、なんだ!?
セリフが全部半角カナで表示されてそうな声から、襲撃してきた子が『トウカイテイオー』なのだけは辛うじてわかった。
というか来てたんだ合宿……。
「やあやあ、私の親愛なるモルモット2号くん。調子はどうだい?」
「今まさに襲撃を受けてグロッキーなんですが……」
「ほら、テイオーくんどきたまえよ。いつまでそうしているつもりだい?」
「はーい」
しかもアグネスタキオンまでいる。いや、トレーナー役やってるんだからそりゃいるか。
で、急にどうしたんだ。
「というわけで早速合同トレーニングといこうか! ああルクスくん、君のトレーナーには話を通してあるよ」
行動が早い!
いやまあトレーナーが許可出したなら問題ないし、何よりトウカイテイオーの今の状態が気になる。
加えて言うならば、『テイオーステップ』は是非とも見ておきたい技の1つでもあった。
「テイオーくん、それじゃあ早速ルクスくんと走ってくれたまえ」
「はーい!」
「なんかすごく懐いてませんか? 最初はあんなにツンツンしてたのに」
どうやって落としたんだ? まさかウマ娘の好感度をいじる魔法の薬でもあるんだろうか……。いや流石にないか。
うーん、気になる。
「ああ、シンボリルドルフの記録映像を見せてあげたらとてもよろこんでねぇ。それに加えて、割と私たちは気が合うようだよ」
そういや俺のデータも元はアグネスタキオンが所持してたものだったな。
あと気が合うってのは……まさか無敗の三冠を狙い、怪我で敗れた者同士引かれあってるのか……?
流石に違うか。単純に波長が合うだけかもしれない。こう、型に縛られないところとか。
「というわけで彼女には同意の元実験台になってもらっているのさ! つまりモルモット3号ってことだねぇ」
「それってカフェさんがモルモット1号ってことですよね? カフェさんが聞いたら怒ると思いますよ」
「事実だからしょうがないだろう?」
事実だとしてももうちょっと言い方とかあるのでは?
「ほら、テイオーくんは準備ができたみたいだよ? 早く走ってきたまえ」
「ああ、もうっ! タキオンさんのペースは本当に掴めない!」
テイオーはスタートラインとして引かれた白線の上で、ピョコピョコと跳ねていた。
実に特徴的な足取りだ。あれがテイオーステップの準備運動ってわけか。
いや、元馬的にはあっちが本来のテイオーステップなのだが。なんでも調子がいい時に見られるもので、引退レースである有馬記念ではテイオーがあのステップをしているのを見て馬券を買いに走ったファンがいるなんて話もある。
しかしなぁ、めちゃくちゃ足首に負担かかりそうだなあれ。
「あっ、話終わった? じゃあ走ろう走ろう! 今日はボクが勝つからねー」
「えっと、ゴールまでの距離とかって……」
「大丈夫だよ。ちゃんと1200mに設定してある。ルクスくんもテイオーくんも、その距離が一番だろうしね」
んんん……? テイオーにとっても短距離が一番……?
流石にテイオーが短距離路線にくるとは思えないが……。
「それじゃあ始めるよ? 位置について……よーい」
パン、とアグネスタキオンが勢いよく手を叩く。
その合図にあわせて、トウカイテイオーが凄まじい速度で駆け出した。
トウカイテイオーの脚質は先行。まあ差しも出来ないことはないらしいが、得意なのは先行だ。
となると、必然的にスタートダッシュは肝心になってくる。
……いや、スタートダッシュが肝心じゃない子のほうが少ないんだけどね。
「へへーん、おっさきー!」
「ふぅ、すぅー……」
息を殺し、いつも通りトウカイテイオーの意識の死角へと潜り込む。
とはいえ流石は『天才』。なかなかに隙が少ない。とはいえまだまだデビュー前のウマ娘だ。
テイオーの死角へ入りこむことに成功した俺は、その斜め後ろあたりにピッタリと付けて、タイミングを見計らう。
「んんん……? あっれ、ルクスどこいったんだろ。ボクが早すぎて後ろに置いてきちゃったかな?」
よしよし、しっかりと潜伏出来ているらしい。
通常レースで後方の事を知るには、『聴覚』に頼らなければならない。流石に高速で走行中に後ろを向くのは危険であるし、何より注視すべきは前方であるからだ。
「あと400m! ボクの勝ちだね!」
テイオーが勝利を確信した瞬間、俺は潜伏を解除して彼女に迫る。
猛烈な勢いで迫るウマ娘の気配に、思わずテイオーがたじろいだ。待っていたぞ、この瞬間を。
脚に力を込め、一瞬のうちに地面を均す。そしてそのまま、生まれた反発力を全て推進力へと変換し、トウカイテイオーの横に出た。
「へ、嘘!? いつの間に!? うう、負ける、もんかぁ!」
トウカイテイオーの敗因、それは偏に『慢心』によるものだろう。最後の最後まで、常に加速できる態勢を維持していればこのような事はなかったはずだ。
態勢を崩したまま、加速もできないテイオーとの距離が離れていく。
「ふぅ……。タキオンさん、これでいいですか?」
「うーむ、なかなかな結果になったねぇ。で、どうだいテイオーくん」
俺から数秒遅れてゴールしたテイオー。彼女は膨れっ面でこちらを睨んできた。
「もう一回! もう一回やろ! 次は絶対ボクが勝つから!」
「ということらしいが。どうするんだい、ルクスくん」
「まあいいですよ。噂の『テイオーステップ』も見れなかったので、私も消化不良ですしね」
再びスタート位置に戻る俺たち。まあ先ほどのは実戦経験が少ないのがモロに勝敗に関係した良い例だろう。
もしトウカイテイオーがトゥインクルシリーズ……それもGⅠに出た事があるのならば、あのような真似は絶対にしなかった。
だってそうだろう? レースは、何があるかわからないんだから。
それがGⅠともなればなおさらだ。どこの誰が突然後ろから迫ってくるかわからない魔境、それがGⅠ。
まあ俺が突然後ろから迫ってくる筆頭なんだけど。
「それじゃあ第二レースだ。位置について、よーい」
再び鳴らされるタキオンの手。
テイオーは勢いよく飛び出して行くが……ふむ、耳の動き的にこちらを警戒しているな。
さっきよりも離れ気味で潜伏するか。
ゆっくりと力を抜き、呼吸を緩める。
「うーん……。多分居るんだけど、よくわからないんだよなぁ……」
まあデビュー前のウマ娘でそこまでわかるなら充分といえるだろう。やはり天才というところか。
そうして差しかかる残り400m地点。先ほどと同じように力を込めて、トウカイテイオーに迫る。
「っ! 来たっ!」
それをテイオーは待っていたのだろう。
タン、タンと軽くステップを刻んだ次の瞬間、トウカイテイオーの体が勢いよく加速した。
足首をバネのように使い、強い加速を行う……文字にするだけなら簡単だが、実際にやるとなると話は変わってくる。
「ふっ! だけど、まだ加速が甘いっ!」
「へ、ウッソぉ!?」
意識を集中させ、こちらも加速する。足元の芝を強く踏み固めながら、前方のトウカイテイオーを抜きさった。
これが俺の代名詞でもある最終直線の加速だ。
先ほどよりも着差は付かなかったものの、やはり俺の勝利で幕を閉じる。
というか、得意な短距離でデビュー前の子に負けたら泣くわ。
「で、どうですか? タキオンさんのことだからなにか確認したいことでもあったんでしょう?」
「ふむ……。テイオーくん、足に違和感は?」
「むむむむっ、また負けたぁ! 今度こそは勝てるって思ったのにぃ」
「テイオーくん?」
「あ、足はなんともないよ? 心配症だなぁ、タキオンは」
そう言いながら、その場でステップを刻んで見せるトウカイテイオー。
だが、あの走りは……。
「ルクスくんはあの走り、模倣できるかい?」
「今すぐには無理ですね。まあ1レースだけでいいなら、もしかするとできるかもしれません。……その後の事を考えなければ、ですが」
はっきり言って俺の足首はあまり柔らかい方ではない。あんな走りをしたら、間違いなくぶっ壊れるだろう。
色々とアレンジして自分用に調整すればどうにかなるだろうが、そのまま使ったら以降のレースは諦めないといけないだろう。
「へへーん、ボクのテイオーステップはすごいでしょ!」
「すごい……すごいんですけど……」
「まあ君なら気づくよねぇ。テイオーくん、今後もマイル以上ではその走りをするのは当分禁止だよ」
「ええええええ!?」
まあそうなるよなぁ。
あの走りによって生まれる負荷は相当なものだ。いくらテイオーの体が柔らかいとはいえ、何度も繰り返していれば、いずれ遠くない未来に彼女の足は壊れるだろう。
アグネスタキオンがその事に気づかないはずがない。
……問題は解決策があるのかどうか、だ。テイオーからあの走りを取り上げるのは致命的な結果を生む。そりゃそうだ、今までの強みを捨てろって言うことなんだから。
「で、だ。ルクスくんには手伝ってもらう必要がありそうでねぇ」
「なんですか、どんな実験をするつもりなんですかタキオンさん」
「いや、君の走行データが欲しい。安心してくれたまえ。データはしっかりと秘匿するし、テイオーくんの育成以外には使用しないよ。それに君のトレーナーにも話はつけてある」
それなら、まぁ……。
というかなんで俺の走行データが必要なんだ? 短距離の追込みだぞ俺。
「君は体幹が実に安定してるからねぇ。解析するだけで、テイオーくんの足にかかる負荷はだいぶ減らせるはずさ。本来なら君の走りは、体をいつ壊してもおかしくないような走りなんだけどねぇ」
「えええ……そんなやばい走りしてたんですか私。でも疲労とかは溜まってるけど、故障とかの気配は」
「だろうね。君は足が強い上に、体のバランスをうまく使っているから、そうそう故障する事はないはずさ。もし他の子が上っ面だけ真似しようとすれば一発だろうけどね」
そういやバクシンオーも体幹めっちゃしっかりしてたな。その走りを真似ようと特訓していたからこそ、か。
「そんな君の重心移動やらなんやらを参考にしたいってわけさ。で、いいかい?」
「もちろんですよ。で、どうすれば?」
「後で器具を渡すから、しばらくそれを装着してトレーニングしてくれたまえ。なに、かさばらない器具だから、普段と同じ感覚でトレーニングできるはずさ」
「わかりました。……テイオーには、故障しないでもらいたいですからね……」
そんなこんなでトレーニングを一通り終えた俺たちだったのだが、なんかずっとテイオーが引っ付いてくるのだ。
どうしたの君?
「ねぇねぇねぇねぇ! カイチョーの話してよ! カイチョーの知り合いなんでしょ!?」
「いえ別にそういうわけでは……。私がシンボリルドルフの走りを模倣した、ってだけなので」
「ええー。つまんないのー。じゃあゲームしようよゲーム! 部屋が1人部屋だから、誰か呼ばないと対戦ゲームできないんだよねぇ。合宿前に買った新作やろうよ!」
そう言ってテイオーがタイトルを連呼するのだが、どんなゲームかさっぱりわからん。
というか、こっちにきてからゲームとかしたことない気が……?
「というわけで私はゲームをやったことがないんですよ。ですから対戦相手としては不適かと」
「えええええええ!? え、待って? ゲームしたことないの!? じゃあ休みは何して過ごしてるの!?」
「買い物に行くか、部屋でコーヒー飲みながらレース鑑賞ですかね?」
「うぇぇぇ!? ……よし、ならワガハイがゲームの楽しさを教えてしんぜよう!」
「いや、あの」
「そうときまったら部屋にいくよー!」
トウカイテイオーに引っ張られ、彼女の部屋へと連れていかれる。
合宿中だというのに、テイオーの部屋は結構な量の私物で溢れていた。
テイオー、君結構ミーハーだよね。前見たけど私服もそこそこおしゃれだったし……。まあたまにアプリで見たクソガキ私服を着ているところも目にするが。
「はいこれコントローラー!」
「おおー……」
画面に映し出されるのは、見たことないタイトルロゴ。なんのゲームだこれ……。雰囲気的には格闘ゲームあたりか?
「でね、このボタンで……」
「ふむ……だいたいわかりました」
「よーし、じゃあ早速やるぞー! 負けた方が相手の尻尾のお手入れね!」
「へ? あっちょっと待ってください!」
そうして始まった対戦。
詳しくは語らないが、当然のように俺はテイオーの尻尾のお手入れをすることになったことだけは記しておく。
くそぉ……次は勝ってやる……。