TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか 作:TS娘には恋させよ
今回は絵担当が頑張ったので挿絵があります。後書きに乗っけておきますね
俺の前には封筒に入った数枚の紙切れがあった。
先日のチームレースの景品である『商品券』。合宿場の近くにある大型商業施設のものだ。
どうするかなぁ、コーヒー豆か新しい器具でも買うか?
そんなことを考えていると、部屋に突撃してくる1人のウマ娘が。
「ルーちゃーん! 遊びに来たよぉぉぉ!」
「コンプうるさい」
今日はトレーニングは休みの日。流石に毎日トレーニングは色々悪いということで、週一くらいのペースでこのような日が作られている。
いや、俺は毎日トレーニングでもいいんだけどね……。
「っと、何してるのルーちゃん? あれ、それ商品券じゃん! しかもひー、ふー、みー……ほほう、新しい服くらいなら買えますな?」
「いやさ、これ合宿場近くのあそこでしか使えないし、どうしようかなって」
「なら買うものは1つでしょ! ルーちゃん、水着買うよ!」
はぁ?
いや確かに俺は水着は持ってないが……。多分トレーナーに頼めば学園指定の水着くらいは用意してくれるだろう。
買っても合宿期間中に一回使うか使わないかだぞ。
「わかってないなぁ! ルーちゃん、今すぐ買いに行ってトレーナーさんに着たところ見せるよ!」
「そこでなんでトレーナーが出てくるんだよ。いちいちそんなことする必要あるか?」
「ある! 絶対ある! ルーちゃん想像して! トレーナーさんが『かわいいよ』って褒めてくれるところ!」
「う……」
いや、別に褒めてもらいたいわけじゃないぞ? でもコンプのアドバイスは大体正しいから……。決して俺の意思ではない。
まあ商品券の使い道もなかったところだしな!
「よしよし、じゃあ早速買いにいこうか! ルーちゃんはどんな水着がいい?」
「うーん……。水着とかこうやって選んだことないからなぁ……。なんかこう、できるだけ肌の露出が少ないやつで」
「相変わらずだねぇ」
そんなこんなでショッピングモールに乗り込んだ俺たち。
しかし、マジで水着の選び方とかわからんぞ。ちらり、とブリッジコンプに目をやる。
すると彼女はこちらに向かって親指を立てて笑顔を見せた。
なんだそれ。なにか秘策でもあるのか?
「さて、そろそろだと思うんだけどなぁ」
「? 誰か待ってるのか。とは言っても、一体誰を……」
戸惑っている俺の目の前に、1人のウマ娘が現れた。
左耳の赤いリボン、綺麗な芦毛。そして明らかに『オシャレ』だとわかる私服。
『カワイイ』の化身、カレンチャンがそこにいた。
お前かよ! いや確かに適任だけどさ、どこで知り合ったんだ?
「やっほー、カレン! ってことで今日は特別ゲストにカレンチャンを呼びました! ルーちゃんのコーディネートはこれでバッチリだよ!」
「はーい、ウマスタアイドルのカレンチャンでーす☆ ルクスさんお久しぶりー」
「は、はい……今日はよろしくお願いします……?」
2人に手を引かれ、モールの中を歩く。
というか2人ともテンション高くないかなぁ……。
「それでルクスさんの希望は? カワイイ系? カッコイイ系? それとも過激に誘惑しに行っちゃう!?」
「肌の露出は抑えてほしいって。ルーちゃん恥ずかしがり屋さんだからねぇ」
「うーん、じゃあカワイイを押し出しつつも露出は抑えめにしよっか」
「あのあの、私の好みとかって……」
「ルーちゃんの意見はとりあえず無視! 最後にどれがいいか選んでもらうから、そこまではステイね!」
「はひ……」
一軒目。コンプとカレンチャンに挟まれるようにして、取っ替え引っ替え水着を体に合わせられる。
いやコンプさんそれちょっと露出多くないですか? これがスタンダード? はい……。
「これよさそうなんだけどねぇ……。すみませーん、これの別サイズありますか?」
「申し訳ございません、そちらの商品は店頭にあるもので全てとなっております」
「あちゃー……私よりさらにちっちゃくてカワイイからね、ルクスさん」
俺の身長はカレンチャンよりもさらに5cmくらい低い。
……あともう一つ問題なのは、俺のスタイルが割と良いこと。身長はちんまいのに、体の方は太いんだよなぁ。
そうすると、体に合う水着の数がどうしても少なくなるのだ。
ねぇこれもう帰ろう?
「これは……ちょっと過激すぎかな。お姉ちゃんと2人っきりなら良いかも☆」
「うわぉ、カレンって結構大胆なんだ。ルーちゃんはあれどう?」
無し! 絶対無し! あんなの着たら部屋から出る勇気すらなくなるわ。
ねえやっぱり水着って恥ずかしくない……?
少なくとも自分はちょっとキツい感じしてるんだけど。
「うぐぐ、ちょうどいいのがない……。コーディネート以前の問題だったとは……。ルーちゃん私よりもスタイルいいからなぁ……」
「すごいよね、これ。カレンもこれくらいあったら、お姉ちゃんもイチコロなのになぁ」
おいちょっとやめないか、そうやってぷにぷにするのは。
というかこれ良いことばっかりじゃないんだぞ! 男の時にはなかったから、いまだに戸惑うことが多いし!
「あ、あの! そろそろ決めてもらえると嬉しいんですが!」
「んー、そうだね。でもなぁ、カレン的には今までのは無しかな。もっとカワイイのじゃないと許せないかも!」
「じゃあ次のお店いきましょー! ほらルーちゃんも付いてきて!」
2人に手を引かれ、二軒目に突入する。
「お、これどう? ルーちゃんでも着られそうだし、良い感じじゃない?」
「う……。確かにこれなら露出もマシですかね……?」
「こっちの方がいいかも。んー、カワイイが足りないかな? ならこれと合わせて……」
「おー、かなり良い感じ?」
代わる代わる体に水着を当てられてチェックされていく。
あ、今の良い感じかも。露出控えめだし、それなら俺でも……?
いや散々布面積が小さい水着を見てたから感覚麻痺してないか?
「ほーう、ルーちゃんはこれがお気に召したようですな? 確かにパレオの生地も厚めだし、ロングスカート感覚で履けそうかな」
「なら上はこれでどう? カレン的にはこの組み合わせがバッチリだと思うよ! カワイイ度も充分!」
薄いエメラルドグリーンのロングパレオに、淡い水色かかったホルターネック。
確かに露出も少ないし、悪くはない。
だけど薄い色の水着は透けやすいって聞いたことがあるんだけど……。
そんな言い訳をしていると、逃げ道を塞ぐようにカレンチャンとブリッジコンプが追撃をかけてくる。
「大丈夫! こういうちゃんとした水着は、裏打ちがあるからそうそう透けないよ!」
「そうだねー。流石に透ける水着はカワイイポイント低いし、おすすめしないかも……」
「うぐぅ……じゃあ、これにします……」
逃げ場を失った俺は、とうとう水着を決めてしまう。
で、でもこれならなんとか着れそうだから! というかタイキシャトルの勝負服よりも露出少ないな……。
……勝負服の露出が凄いことになってる子多くないかな!?
「じゃあ会計してこよっか! そうしたら合宿場戻ってトレーナーさんに見せる! これでいこう!」
「ルクスさんはトレーナーに連絡してあげてね? ダメだよ、このまま着ないとかじゃ」
は、はい……。
俺は2人に促されるままに、トレーナーにメッセージを送る。なんかめっちゃ恥ずかしいんだけど!
あああ、これで大丈夫なのか!? もっとなんか別の文面でもよかった気がする!
「ね、めちゃくちゃ『カワイイ』でしょ?」
カワイイってなんだカワイイって! こっちはめちゃくちゃ悩んでるんだぞ!
「ウマスタにアップできないのが残念なくらいカワイイねー。ねね、ルクスさんカレンと一緒に水着で写真撮らない?」
「撮らない!」
水着を買った俺は、2人からの『カワイイ』攻撃を受けつつもなんとか合宿場に戻ってくることに成功した。
そして部屋で水着に着替えていたのだが……。
「やっぱり露出高くねぇかな……? タイツも履けないし、なんかすーすーするし」
確かに『水着としては』露出は低い方だろう。しかしながら、普段俺が着ている服と比べるとめちゃくちゃ露出が高い! 背中も丸出しだし!
ううう、今からでもトレーナーに中止の連絡を……そう思っていると、スマホにメッセージが。
コンプから? なんだ一体。
「うげ、『怖気付いて中止はダメだよ』? ぐぅ……行動が読まれてる……」
ちくしょう! 仕方ないやってやる!
ヒラヒラといまいち心もとないパレオを揺らしながら、トレーナーを呼び出したところまで歩いていく。
くそぉ……めっちゃ顔が熱い……。なんでこんな……。
目的地につけば、トレーナーがスポーツドリンク片手に立っていた。ここまで来たら、もう後戻りはできん!
「と、トレーナー……?」
「急にどうしたんだい、ルクス。今日はトレーニングは、おやす、み……」
「ふぇ? トレーナー、どうしたんだよ。その、何か言ってほしいんだけど」
トレーナーが固まってる。こんな反応は初めてだ。あの、マジで何か言ってもらえないとすごく恥ずかしいんですが……。
「あ、ああ。ごめんルクス、ちょっと見惚れてた」
「み、見惚れるって! う、うう……変なこというなよ……」
「変なことじゃないさ。そうか、ルクスもそういう水着を着るようになったんだね。成長してるみたいで嬉しいよ……」
あっこれもしかして父親的な目線で見られてる? 成長した娘を見るみたいな?
それはそれでなんか納得いかん!
俺はトレーナーの手を取って浜辺へ駆け出す。
「せっかく水着着たんだから遊ぶぞトレーナー! ほら、どうせ濡れても平気な服だろ!」
「おわっ!? ちょっとまってルクス!」
こんな恥ずかしい格好を見せたんだから、その分楽しませてもらうぞ!
とりあえずはトレーナーを海に叩き込み、そのまま磯遊びを楽しみ始める。
海で遊ぶのなんていつぶりだろうか。いや、結構楽しいなこれ!
「ははははっ! ほら、どうだ!」
「その尻尾を振るのは反則だって! ちょっと待って!」
「逃がすか!」
はー、遊んだ遊んだ。
海の中というのは案外疲れるもので、1時間としないうちに遊びの場は砂浜へと移った。
童心に返っての砂遊び。道具もないため高度なものは作れないが、ウマ娘パワーのお陰でかなり大規模なものは作れそうだ。
「こっから削っていくか。ほらトレーナー手伝ってくれ。こことそこ頼む」
「なかなかに大きいのを作ろうとするね……。まあゆっくり作ろうか」
うーん、楽しい。童心に返るとは言ったが、肉体年齢だけ見たら充分普通なんだよな。
中身は社会人男性だけど。
とは言っても、いつまでも遊んでいられるわけではない。それは時間的なものもそうだが、体力的な観点からもだ。
「つ、疲れた……。結構遊んだなぁ……」
「ルクスが楽しめたようならなによりだよ。ちょっと待ってて、飲み物とか持ってくるね」
「うぉーう……」
砂浜から少し離れたところに突き立てられたパラソル、その下で横になって休む。
あ、遊びすぎた……。くっそ、思ったより楽しくてはしゃいでしまった。
少し休んでいると、トレーナーがいくつか抱えて戻ってくる。んー、飲み物だけじゃないのか?
「お待たせ。こっちがレモネードでこっちが麦茶。あとこれは食堂で配ってたかき氷ね。1人1つまでだったから、ルクス食べていいよ」
「はぁ? 何言ってるんだよ、半分ずつ食べればいいだろ。ほら」
トレーナーに体を寄せ、持っているかき氷を口にしていく。
んー! 疲れた体に冷たいかき氷が染み渡る! はぁ、極楽……。
「ルクス、あの、もうちょっと離れて」
「あ、レモネードもちょっともらうぞ。残りはトレーナーが飲んでいいから」
「あっ」
そう言ってレモネードを啜る。こっちも効くなぁ……。疲れてるとこういう甘酸っぱいのが欲しくなるんだよね。テイオーがはちみーを好んで飲むのが良くわかる。
半分くらいまで飲んで、トレーナーに返す。
「はい、残りは飲んでいいぞ。あ、麦茶も半分貰うな。はー、ほんと極楽だ……」
「ああ、うん……構わないよ……」
「?」
しかし楽しかった。
恥ずかしがってたのがバカみたいだ。うん、次はコンプとかも誘って遊ぶかぁ。
だんだんと落ちていく日を眺めながら俺は麦茶を啜る。
「明日からもトレーニング頑張らないとなぁ。ま、まだ合宿期間もあるし、次はトレーナーも水着着て遊ぼうな」
「そうだね……うん……。ともかく、ルクスが楽しめたようでなによりだよ」
突然風が吹き付け、俺の体がブルリと震える。いくら夏とはいえ、日陰で風が吹くと、濡れた体だと少し寒いな。
尻尾と体をトレーナーへと寄せ、ピッタリ引っ付いて暖を取る。
あったかい……。
「あー、ルクス……。いや、もう何も言わないよ……」
夏合宿、その一幕。トレーナーとなんとなく距離が縮まった……そんな気がした1日だった。