TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか 作:TS娘には恋させよ
合宿も終わり、平穏な日常が戻ってきたある日。
俺たちは一本の映像を鑑賞していた。
「タイキシャトルが上がってきました! まさか異国の地でのGⅠ勝利という偉業を成し遂げるのか!」
「凄まじいですね。国内においてマイルでは敵無し、と言われていただけあります」
タイキシャトルがフランスの芝を……
その足取りに乱れはなく、今にも先頭に手が届きそうだった。
そして、当然と言わんばかりにタイキシャトルが先頭に躍り出る。勝負は決まったな。
「マイルの女王は異国の地でも強かった! タイキシャトル1着! タイキシャトル1着です!」
ジャック・ル・マロワ賞制覇。
過去に日本のウマ娘がこのGⅠを取ったことはなく、まさに『開拓者』と呼ぶにふさわしい偉業だ。
いや史実で取ってるのは知ってたけど、こっちでも取ったか……。
マジで強すぎるだろタイキシャトル。
「タイキシャトルのウィナーズインタビューはこのチャンネルで後ほどお送りします。チャンネルはそのまま変えずにお待ちください」
「勝ったって情報だけは耳にしてたけど、まさかここまで圧倒的とはな」
「洋芝は日本の芝よりパワーが必要になるからねぇ。その点、パワーがウリのタイキシャトルにとってはまさにうってつけの戦場だったんだろう」
タイキシャトルは芝・ダート両刀使いのウマ娘だ。
一般的にダートでは芝よりもパワーが必要とされる。有り余るタイキシャトルのパワーがあってこその両刀と言えるだろう。
そして今回のレースは、そのパワーが勝利に直結した良い例だと言える。
「で、このあとのインタビューは?」
「ちょっと待ってね。今早送りするから。……そろそろかな」
タイキシャトルの次走。それはある意味で予想したものであり、かつ驚くものでもあった。
「タイキシャトルさん、次走についてはどのように考えていますか? スプリンターズステークスやマイルチャンピオンシップへの出走も期待されていますが」
「んー、次はまたフランス、その次はアメリカに帰省しマース!」
記者の顔が驚きで歪み、会場を困惑と動揺の声が包む。
それはそうだろう。次がフランスでその次がアメリカ。
それは
「つまり『ムーラン・ド・ロンシャン賞』と『ブリーダーズカップ・マイル』に挑む、と……?」
「ハイ! 世界にワタシの走りを見せてみマース! もっといろんな子とも走りたいデスから!」
「それは……」
こうも気軽に言われると、自分の耳を疑うのも無理はない。記者は何をメモしていいのかすら見失い、ペンを虚空にはためかせている。
だが同時に『タイキシャトルならもしかしたら』という空気がインタビュー会場を包んでいた。
タイキシャトルだしなぁ……。一応史実でも出走予定はあったそうだが、検疫などの関係で流れたらしい。
「……まさかルクスが言った通りになるとはね。タイキシャトルはこのまま海外路線。スプリンターズステークスだけじゃなくてマイルチャンピオンシップにも不参加か」
「本当に当たるとは思ってなかったけどな。しかしなぁ、喜ぶべきか悲しむべきか」
おそらくタイキシャトルと直接ぶつかることはドリームトロフィーシリーズまで来ないだろう。
彼女は帰国後に
「国内に戻ると同時に『URAファイナルズ』か。ウマ娘が一生に一度だけ出走できる、ドリームトロフィーシリーズへの入り口……」
トレーナーの言う通り、URAファイナルズに出走できるのは一生に一回。
トゥインクルシリーズは在籍年数に縛りはない。それこそ体力が続くならば何年だって走ることができる。
しかしURAファイナルズを走ったならば2度とトゥインクルシリーズには戻れない。
「確かアレだろ? 距離別に分かれてガチンコ勝負する、有馬後の空白期間に行われるURAの目玉レース。レース場すら毎回ランダムってすごいよなぁ」
「総合力を問われる、数少ないレースだね。シニア級を2年くらい走ってからってのが定番だけど……」
URAファイナルズに出走したウマ娘は、自動的にトゥインクルシリーズを除籍となる。そして一部のウマ娘はドリームトロフィーシリーズへと進むことになるのだ。
「というか出走条件なんだっけ、URAファイナルズの」
「重賞レース1勝以上だね。ルクスも来年になれば出れるよ」
「そうかぁ……あれ、ドリームトロフィーシリーズへの進出条件って」
「GⅠレース1勝以上だから、こっちも問題ないね」
そう、ドリームトロフィーシリーズへと進むためには
URAファイナルズで優良な成績を……つまりはGⅠウマ娘に勝つような成績を収めれば、特例としてドリームトロフィーシリーズに進出する権利を得られるらしいが。
引退レースであり、同時に新たな戦場の入り口であり狭き門でもあるURAファイナルズ。毎年多くのウマ娘が挑み、様々な涙を流すのも納得だ。
「来年……もうそんな時期になったのか」
ドリームトロフィーシリーズはどんなに順調に進んでも
それ故に全く気にしたことがなかったが……そうか、俺もドリームトロフィーで走れるのか……。あっちの世界に戻るのが惜しくなるな、そう考えると。
いやまあしっかり戻るつもりではあるんだが。
「ドリームトロフィーシリーズは憧れの場でもあるからね。年に2回、頂点を決するべく行われる覇者たちの争い……シンボリルドルフやマルゼンスキーは毎回注目株としてメディアに引っ張りだこだしね。短距離だとサクラバクシンオーがそのポジションかな」
「うーん、ドリームトロフィーシリーズ歴代の距離別優勝者見てもすごい名前が並んでるな……」
オグリキャップ、タマモクロス、ミスターシービー、ゴールドシップ……。
マジでオールスターだな? このメンツで走るとはそりゃ憧れの舞台にもなるわ。
ちなみにサマードリームトロフィーにおける『ドリーム・シリーズ・スプリント』の優勝者はサクラバクシンオーだ。知ってた。
「いずれはそこに並べるといいね、ルクスも」
「あー、うん、そうだなー……」
言えない、トゥインクルシリーズ合計3年走ったら居なくなります、なんて。
まあ言う必要もないだろう。わざわざ心配させたってしょうがない。三女神の指令だし、俺にはどうにもできん。すまんトレーナー。
「さて、じゃあスプリンターズステークスに向けての対策をしようか。まずタイキシャトル対策に考えていた案は全て捨てるよ?」
「おっけー。一応保管だけはしておいてくれ。何に使うかわからんからな」
「そうだね。最近はルクスにも後輩ができたみたいだし、そういう子の指導にも使えるかもしれないしね」
タイキシャトル対策に考えていた案はまともではないものが非常に多かった。
できるかもしれない。だが、高確率で失敗する……そんな案ばかりだ。
だがそれくらいのギャンブルでもなければ、タイキシャトルには食らいつくことすら出来ない。あれはそういう化け物なのだ。
「で、残ったのがこれかな。こっちがブリッジコンプ対策、こっちがキングヘイロー対策、でこっちがミホノブルボン対策」
「グラスワンダーは十中八九出てこないから、そっちは不要だな。そうすると特に対策すべきはこの3人、と」
「GⅠウマ娘はこの3人だけだね。他の有力ウマ娘に関してはこっちの資料にまとめておいたから。とは言っても、情報量が少ないけど……」
「それだけあれば充分だろ。脚質と出走レースと着順にタイムだけあればなんとかなる」
改めて資料を整理しながら、当日どのように走るかを頭の中でシミュレートしていく。
やはり一番の障害になるのはミホノブルボン。アレに追いつけるかどうかが全ての鍵となってくる。
しかしなぁ、覚醒したミホノブルボンに追いつくにはどうしたらいいやら。
やっぱりサクラバクシンオーの『地固め』と、テイオーの『テイオーステップ』を応用するか……?
「むむむむむむむ……」
「かなり難しいね……。スプリンターズステークスは中山レース場、その外回りを使うレースだから……こうだね」
ホワイトボードにレース場情報を貼り出す。
うげぇ、なかなか特徴的なコースだな……。
「中山の直線は310m。おそらくは直線に入ってからスパートに入ったんじゃ間に合わないだろうね。だからどこでスパートを掛けるのか、ライバルたちを見てしっかりと見極めないといけない」
「ずーっとカーブか……。コーナーリングがダメだとキツそうなコースだな」
「あと特徴的なのは……ここかな」
次に貼り出されたのはコースの高低差断面図。
うーん、これもまた特徴的だなぁ! 中山には魔物が潜んでいるとよく言うが、それも納得できる。
着目すべきは二点。
「まずは中盤までずーっと降り坂なのがなぁ……。これ絶対ハイペースなレースになるだろ……」
「そうなるね。カーブのことや、ハイペースなレースになりがちなこともあって内枠有利とも言われてるよ」
「あとは……ゴール前の坂だな。100m程度の間に2m以上駆け上がらないといけないって、普通のウマ娘ならかなり厳しいぞ」
「でもミホノブルボンは減速しないんだろうねぇ……」
「そうだな……」
ペラペラと過去のレース情報をめくる。
うーん……? 中山って結構バ場が荒れがちだな。今回はどうだろうか。
「バ場の状態? そうだね、中山は荒れやすい傾向にあるけど、9月開催のレースは別かな。というのも、皐月賞から夏終わりまで、中山では大きいレースが行われないんだよね」
「ああー……。俺たちが走るころが1番レース場の状態が良い時期なのか……」
「そういうこと。だからそこまで荒れるのには期待できないかな」
となると、やはり前方脚質有利か。
いや、悪いことばかりではない。足元が良ければ、それだけ加速はしやすくなる。俺の加速もそれなりのものになるはず……。
しかしなぁ、厳しい情報ばかりだ。
なんか少しでも良い情報はないものか。
ふと天気予報が目に入る。9月後半の天気は、っと。
「む、ちょくちょく雨が降るみたいだな。……そういや雨のレースって経験したことなかったっけ……」
「雨の日に走って、具合を確かめておくかい? 今までも濡れた芝とかでもトレーニングしてきたけど、直前にもう一回体に覚えさせておくのもありだとおもうよ」
梅雨の時期などは、よく雨の中走ったものだ。結構足腰に効くんだよね、雨の芝。
なんかトレーナーは雨の日に俺が走ると、決まってこっちと目を合わせようとしないけど……。
あとシャワーをトレーナー室で浴びようとすると部屋から出ていこうとするし……。
「そうだな。雨の日のことも考えてトレーニングメニュー組み直してくれ。こっからは時間との勝負だな」
「どれだけ本番に向けて仕上げられるかにかかってるからね。とりあえずはこれでトレーニングしててくれるかい? 天気予報とかを見つつ、当日の状況で予定を前後させると思うよ」
「ん、ありがと」
一息ついたことだし、
えっと、トレーナーはミルクは一杯に砂糖一杯と。
俺は今日はこんなんでいいか。ん、ちょうど良い感じ。
「ほい、お疲れさま。俺特製のコーヒーを召し上がれ」
「最近凝ってるよね。今日の豆はどうしたんだい? 前のと香りが違うけど」
「お、わかるか! 流石だな、トレーナー。合宿場の近くにショッピングモールがあっただろ? あそこにコーヒー専門店が入っててさ、そこのオリジナルブレンドなんだよ。これが結構味に深みがあって単体でも良いけどスイーツとかと組み合わせると」
「そういえば何かでもらったお菓子があったね。今出すよ」
貰い物のお菓子をかじりながら、スプリンターズステークスに想いを馳せる。
なかなか厳しい戦いになることは間違いないだろう。だが、決して勝ち目がないわけではない。
むしろ夏という時期を経て、ミホノブルボンとの力の差は縮まったはずだ。
同じクラシック級のウマ娘、勝つ可能性は充分にあるはず。俺も固有をかなりの部分まで理解できた。
「あ、トレーナーそれちょっといただきっ! んー、甘くてコーヒーに合うな」
「ルクス、他人が食べてるのにかじりつくのは行儀がね……」
「こんなんトレーナーくらいにしかしないし構わないだろ」
「……君は本当に……はぁ……」
とりあえずは英気を養ってから、今日のトレーニングをこなすとしよう。
俺はトレーナーと2人、ティータイムを楽しみながらそう思うのだった。
【コラム・スプリンターズステークス予想】鍵を握るのは逃げvs差しの激戦
9月○×日 21:35 配信 181
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前走の安田記念で惜しくも
タイキシャトルに敗れた2人
今年のスプリンターズステークス、その予想について各陣営の動向を含めて解説していこう。
まずは大本命、ミホノブルボン。夏合宿でも足腰を中心に鍛えており、仕上がりもかなりのもの。下り坂と上り坂が大きな鍵を握る中山での好走が期待できる。安田記念からタイムはさらに伸びており、他のウマ娘たちはかなり厳しい戦いを強いられるだろう。
対抗としてあげられるのがキングヘイローだ。今年の高松宮記念勝者であり、その末脚は短距離でこそ輝くと見る識者も多い。しかしながらかなりレース結果にムラがあるウマ娘のため、人気はミホノブルボンに一歩劣ると見られている。夏合宿でも坂路を多用したトレーニングを行なっているのが見受けられた。
そして大穴、ミーティアルクス。ここまでの主な勝ちレースはGⅠ桜花賞であり、ミホノブルボンへ勝利した経験もある。対抗ウマ娘とされるキングヘイローへの勝利の経験もあり、十分な戦績と言えるだろう。しかしながら、追込という脚質の都合上短距離とは相性が悪いと思われ、GⅠとなるスプリンターズステークスでは苦戦を強いられるとの見解が強い。夏合宿では併走が多く、何かを確認しているようであった。
またこれ以外のウマ娘でも、前年度スプリンターズステークス覇者のブリッジコンプも注目を集めている。
今年のスプリンターズステークスは、タイキシャトル不在という状況だ。しかしそんなことを感じさせないほど、開始前から激戦の予感がするほど強いメンツが集まっている。ここ最近は短距離が注目されていることもあり、当日は来場者数もかなり多くなりそうだとURAは予想している。
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