TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

59 / 77
49 メイクデビュー トウカイテイオー

 スプリンターズステークスが終わり、季節が秋に差し掛かろうかという頃。俺はレース観戦にやってきていた。

 とは言っても、敵情視察ではない。

 レースの戦場となるのは中京レース場、芝2000m。中距離を走るライバルは現状いない。いやキングヘイローなら走らない事もないが、最近はマイルと短距離ばかりだ。

 ならば誰のレースを観戦にきたのかといえば……。

 

「1番人気はこのウマ娘、トウカイテイオー! あのシンボリルドルフの秘蔵っ子、無敗の三冠を目標に掲げるウマ娘です!」

「人気だなぁ、テイオー」

「そりゃあそうだよ。実況も言っているようにシンボリルドルフのお墨付き! そして私の被験体なんだからねぇ!」

「タキオンさんの被検体なのは果たして本当に名誉な事なんでしょうか……。私が電極付けて走る姿とか、ウマ娘専門誌で『これはヤバい』って言われてましたよ?」

 

 おまっ、目をそらすな! くそ、まあとりあえずはレース観戦が最優先だ。

 俺はターフへと視線を戻す。

 トウカイテイオー、そのメイクデビューがこれから行われる。

 天候こそ晴れとなったものの、バ場状態は不良。これでは足首に負担のかかる『テイオーステップ』を使うのは難しいか?

 俺もこの前のスプリンターズステークスで真似して見たが、あれを実際にレースで使うのはかなりリスクがある。

 『固有領域』使用時の俺ですら、使えて数秒。はっきり言って、まともなウマ娘がする走りではない。

 

「で、何か作戦は考えてるんです? 一筋縄ではいきませんよ。これだけ注目されればマークも激しく……」

「心配御無用! テイオーくんにはみっちりと特訓させてきたからねぇ。ふふふ、研究の成果をお見せしようじゃないか!」

「……なんか不安になってきた」

 

 決してこの気持ちは気のせいなんかじゃないはずだ。

 グラウンドではぴょこぴょこと飛び跳ねながら準備運動をするテイオーの姿があった。

 見た感じテイオーステップの準備運動にも見えるのだが、なんか違う感じもする。なんだ? 

 

「さてそろそろゲートインだねぇ。ちなみにテイオーくんがどんな走りで来ると思ってるんだい?」

「んー、先行ですかね。逃げの後ろにピッタリついて、最終直線で抜き去る……これが1番堅いと思います」

 

 その言葉を聞いて、アグネスタキオンはニヤリと笑った。

 

「流石はモルモット2号だねぇ! 頭の回転が速い! 私も()()()そうしようと思ってたんだよ」

「ですよねぇ。……ん? ()()()?」

「テイオーくんが、せっかくだから真似してみたい走りがあるって言い出してね」

 

 全ウマ娘がゲートインを完了し、数秒の後にゲートが開く。

 金属音とともにレースが開始するも、綺麗なスタートを切れたのは半数以下。まあメイクデビューだし仕方ないだろう。

 そしてテイオーは……嘘だろ!? なんであんなところに居るんだよ!

 

「後方集団に!? テイオーさん、スタートミスったんですか!?」

「まあそう思うだろうねぇ。ま、見てるといいよ」

 

 序盤から中盤に掛けて、大きな動きはなくレースは進む。

 1番人気であったテイオーのパッとしない走りに、落胆の声も上がっていた。

 まあ前に抜け出すことも出来ず、後ろをうろちょろと動いているだけなのだ。仕方ないだろう。

 ふとアグネスタキオンが持っているストップウォッチに目をやる。

 

「あれ……? タイムが、速い……?」

「おや、気づいたかい? キミには身に覚えがあるんじゃないかな? こういうのには」

「まさか……」

 

 いやいやいやいや。メイクデビューで()()は不可能だろう!?

 俺だってカフェと走ったりシンボリルドルフの走りを解析したりして……

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そんなこと……いやでも、理論上は……」

「『全ての不可能を消していき最後に残ったものが、如何に奇妙であろうとも真実となる』。つまりはそういうことさ」

「……」

 

 ああ、改めて実感したよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それも超が付くほどの。

 レースは何事もないように見えるまま、終盤に差し掛かる。

 

「おっとトウカイテイオー後方から抜け出してきた! すごい追い上げだ!」

「テイオーステップもある程度形にはなってねぇ。ほら、すごいだろうあの加速は」

 

 他のウマ娘を置き去りにして加速し、瞬く間に先頭を捉えたトウカイテイオー。

 実に身に覚えのある追い上げだ。

 

「私の走りを真似したんですか。テイオーさんにはかなり難しかったと思うんですが」

「まあ、そうだね。完全に理詰めで走らせるのは難しかったから、最低限考えるところは考えさせて、残りは体に教え込む形でやらせて貰ったよ。ま、応用はあまり効かないだろうね」

 

 さらには飛び跳ねるようにと体を動かし、猛烈な加速を見せ始めたテイオー。あれはテイオーステップ……。

 しなやかな足首を利用した加速は、それはもう凄まじいの一言に尽きる。

 そして足にかかる負荷は、体捌きをうまく利用して最小限に抑えているのもよくわかった。まあその分本来のテイオーステップよりも加速は落ちているようだが。

 

「それでもここまでとは……」

 本当に、この短期間であそこまで仕上げるなんて、誰が思うんだよ……。

 

「キミのデータからはとても多くのものを得ることができたよ。まあ流石のテイオーくんでも結局触りだけしか真似できなかったけどね」

「いやいや、触りだけって……」

「触りだけさ。完成度もさることながら、存在感を極小にした上でスタミナ消耗を抑える技なんて模倣すらできなかったからねぇ」

「あー……」

 

 あれは俺だって固有領域抜きでは成功率は2割を割る。

 ジュニア級のウマ娘が真似できるような技ではないし、ましてや固有領域の一端すら掴めてないようなウマ娘ならもっとだ。

 そもそも、固有領域の方向性次第では一生模倣不可能だろう。

 しかし凄まじいな、トウカイテイオー。

 先頭を取った後はそのまま1人旅でゴール板の横を駆け抜けた。

 

「圧勝! トウカイテイオー強かった! これは今後のレースにも期待ができる走りです!」

「というわけさ。テイオーくんがこちらにピースしてるよ? 返してあげないのかい?」

 

 恥ずかしいからやめろ。

 アグネスタキオンがあの走りを許したということは、足首への負荷は問題ないのだろう。

 なら俺から言うことは何もない。

 

「勝ったよー! すごいでしょすごいでしょ!」

「言いつけ通り、本来のテイオーステップは使わなかったようだね?」

「うん! めちゃくちゃ考えながら走ったから頭痛いー……。はちみー飲まないとやってられないよぉ!」

 

 トウカイテイオーがGⅠウマ娘として名をあげるのは遠くない未来のことだろう。

 そう予感させるほどの走りであった。

 

「ねぇねぇねぇ! ライブ終わったらはちみー飲みに行こうよ! ルクスも一緒に!」

「それは構いませんけど……」

「やった! じゃあパパっとライブ終わらせてくるから、待っててね!」

「ああ、テイオーくんちゃんとライブ衣装に着替えたまえ。その服のままライブはマズいからね」

「はーい」

 

 なおテイオーはライブも完璧だったことをここに記しておく。

 

「はちみー♪ はっちみー♪」

「テイオーさんははちみーが好きですね。私もたまに飲みますけど、やっぱりコーヒー派で」

「ボクははちみーを毎日欠かさず飲んでるからね! ふふん、未来の三冠ウマ娘の強さの秘訣だぞ!」

 

 テイオーの言うはちみーというのは、はちみつを利用したドリンクのことだ。

 アニメ版、アプリ版両方に登場し、そのインパクトで有名となった飲み物。

 いやオグリキャップはあのデカさを飲み切るんだよな……。そんなことを、レジ横に並んだサンプルを見ながら考える。

 あのサイズ『チョモランマ』のカップ、俺とかテイオーの顔くらいのサイズあるぞ?

 

「ボクは固め濃いめ多め! 普通サイズで!」

「私は……うーん……」

 

 非常に迷う。テイオーと同じのにしておくのが無難か。

 

「じゃあ固め濃いめ多めで」

「はーい、今ご用意しますね」

 

 ドリンクサーバーからドロっとした琥珀色の液体が流れ出てくる。

 2つ、カップを受け取ると2人でベンチに腰掛けてストローを啜った。

 

「うお、めっちゃ味が濃い……。すっごい糖分だ……」

「んー! これが効くんだよね! どうどう? 美味しいでしょ!」

「いや美味しいんですけど、これ毎日飲んでたら体に悪くないですか……? 絶対糖分過多な気がするんですけど」

「レースで消費するから大丈夫! 今日もものすごく頭使ったしなぁ」

 

 まあレースで頭を使うというのには同意する。走った後は無性に甘いものが欲しくなるのだ。

 俺も最近は控室に糖分高めのお菓子を常備するようにしているし。

 走法や固有領域的にも、他のウマ娘より頭を使う率は高いだろうしな。

 

「うえ、固め濃いめ初めて飲んだんですけど、めちゃくちゃ喉に絡まりますね……。よくこんなの毎日飲むなぁ……。1日1杯、普通の濃さでもヤバい気がするっていうのに」

「? ボク毎日2杯以上飲んでるけど平気だよ?」

 

 えっマジで? いやいやいやいや、タキオンはこれ止めないのかよ!

 すぐさまメッセージを送るも、返ってきたのは『問題無し』の四文字だけ。

 ああ、そういやタキオンは食事をミキサーにかけたペースト食で済ますようなヤツだったな……。最低限栄養素のバランスさえどうにかなってればいいのかもしれない。

 ……栄養素のバランス、どうにかなってるかこれ?

 

「食事メニューとかってどうしてるんです……?」

「あ、それはカフェ先輩がやってくれてるから大丈夫。はちみー飲む代わりに、食事で調整してるって言ってたよ」

 

 まあカフェに任せれば大丈夫……か? まあひとまずは安心しておこう。

 んー、なんか気分が落ち着いてきた。俺も糖分足りてなかったかもしれん。レース観戦でだいぶ頭使ったし。

 

「というかルクスもはちみー飲むんだね。いっつもコーヒーばっかり飲んでるイメージあったんだけど」

「まあそうですねぇ。でも私は甘いもの大好きですよ。コーヒーと一緒に食べるお茶菓子とか大量に備蓄してますし」

「ほんと!? じゃあルクスの部屋行けばお菓子食べ放題だ!」

「いや、食べ放題はさせませんけど……」

 

 豆と合わせて買うので、中にはそれなりの金額のものもある。そんなものをバクバク食われたらたまったものではない。

 それにトレーナーに出す専用のお茶菓子も中にはあるのだ。

 

「部屋にいくのはいいんだね! じゃあ今度いくから!」

「事前に連絡くらいはくださいね…?」

 

 ほんとテイオーはぐいぐいくるなぁ!

 クソガキに見えるが、社交性は高い。というより、レース関連だとワガママが増えると言った方がいいか? だからこそ、友人はいるがトレーナーは付かない。

 そりゃシンボリルドルフも頭を抱えるわけだ。その点、アグネスタキオンと引き合わせられたのは運が良かっただろう。

 

「じゃあ早速ルクスの部屋行こう! へへーん、今日はまたルクスをボッコボコにしちゃおうかなー。あ、ボク一回部屋戻ってゲーム取ってくるね」

「はぁ……いやまあいいですけど。あんまり散らかさないでくださいね?」

「もちろん! それくらいはわかってるよぉ」

「ならいいですけど」

 

 ま、こういうのも悪くない。

 テイオーがこうして慕ってくれるのも悪い気分ではないしな。シンボリルドルフの走りを真似した時に、俺のことをやたら評価していた理由も今ならわかる気がする。

 こうして自分の『想い』を継いでくれるウマ娘が居るというのはいいものだ。

 そう思いながら俺は、ウマ娘専用レーンを駆け出したテイオーの後を慌てて追いかけるのだった。

 


 

【メイクデビュー結果】トウカイテイオーが猛烈な追い上げで快勝

○月○日 16:50 配信  38 UmaMusu.com

          

 

   

優勝ライブでセンターを飾る

トウカイテイオー

 

 本日中京レース場で行われたメイクデビュー戦は、序盤は後ろに下がっていた一番人気のトウカイテイオーが差し切り、2着で4番人気のジャズステップに5バ身差を付けて優勝した。勝ちタイムは2分05秒2(不良)。

 

 トウカイテイオーは自称未来の無敗の三冠バであり、シンボリルドルフとも交友が深い。同チーム所属のアグネスタキオンとトレーニングに励んでいる姿を見られ、今後が期待される。

 

 最終直線での猛烈な追い上げを『テイオーステップ』と自称しており、自慢の技であると記者達に語った。

 

 次走は未定。GIレースであるホープフルステークスも視野に入れ、柔軟なスケジュールを組んで行きたいとの言葉も飛び出していた。

 

 

 

【関連記事】

ウマスタアイドルカレンチャン、その実力は?

秋の天皇賞予想、強いウマ娘は

タイキシャトル、その強さの秘密に迫る

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。