TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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51 マイルチャンピオンシップに向けて

 京都レース場は実に特徴的な構造をしている。

 俺はコース平面図、そしてコース高低断面図を見ながらうなっていた。

 

「ぐぐぐ……やっぱりこの淀の坂が問題だよな……」

「ルクス? 今日は早いね」

「ああ、ちょっとこれ見てくれよトレーナー」

 

 基本平坦なコースの中に、突如として現れる<<山>>。

 いやこれはもう山だろ……。高低差4mの登り坂、そして直後に現れる下り坂。

 このいわゆる『淀の坂』に泣いたウマ娘は少なくない。

 

「これは……京都か。つまりマイルチャンピオンシップ対策ってことだね」

「なんだけどさぁ、ここの勾配おかしくねぇか……? これ今からでも重機で平坦に出来ない?」

「坂はルクスの十八番……と言いたいところだけど、さすがにこれはね……」

 

 いやさぁ、この勾配はさすがにキツいって……。

 とはいえ、それさえ攻略出来ればかなりレースを有利に進められるのは間違いない。

 下り坂を利用して加速し、そのままの勢いでスパートを掛けられればハナを取ることは難しくないだろう。

 

「鍵となるのは登り坂をどう体力を抑えて登るか、それとスパートを掛ける時のスタミナかな」

「だよなぁ……、下り坂からスパートに入るとすると、800mはあるし」

「ルクスだとキツいかもね。というか大体のウマ娘はキツいんじゃないかな」

 

 それこそそんな事を出来るのは、ライスシャワークラスのステイヤーくらいだろう。

 俺ではみっちりトレーニングを積んだとしても無理だ。というかそんな事出来るやつはマイルでは走らない……いや、ブルボンなら普通にやりそうだな……。

 クッソ、ここでも立ちはだかるかミホノブルボン!

 

「全く対策が思いつかん!」

「うーん、とりあえずはライバル候補を挙げて、その子達への対策を考えながら戦術を立てていくのが一番かな? 前回のスプリンターズステークスでもそうだったでしょ」

 

 今度はホワイトボードに出走候補を書き出していく。

 そうして書いた中から、めぼしい子をピックアップしていく。

 

「まずはミホノブルボンか。で、あとはキングヘイローとブリッジコンプ……あれ、なんかスプリンターズステークスと同じメンツじゃ……」

「そうだねぇ。タイキシャトルは海外から帰ってこないし、必然的にそのメンツに固定されることになる」

「そういやマイルチャンピオンシップって、海外からもウマ娘の参入たまにあるよな?」

 

 そうこのマイルチャンピオンシップはいわゆるマイルレースにおける『ジャパンカップ』のような立ち位置となる。

 とはいえ、海外から出走してくるとは思えんのよなぁ。

 

「あるっちゃあるけど……さすがに今回はないだろうね」

「そうかぁ……そうだよなぁ……」

 

 だってタイキシャトルがあんな事になってるしな!

 マイルレース無敗、海外GⅠ2勝。うーん、化け物。

 おそらく海外からはタイキシャトルがいた日本は魔境だと思われているだろうし、強いやつと走りたいっていうヤバい奴らはタイキシャトルが出走予定の『ブリーダーズカップ・マイル』に行くだろう。

 

「さて、目をそらすのは止めてマイルチャンピオンシップの事を考えるか……。おそらくは一番人気になるだろうミホノブルボンは」

「確実に逃げで来るだろうね。淀の坂の事を考えると、逃げはかなりキツいはずだけど……」

「ま、ブルボンならそんなの関係ないだろうな。むしろこれ幸いと利用してくると思うぞ」

 

 トレーナーは知らないだろうが、ミホノブルボンはその気になれば2400mまでは優に走れるのだ。さすがに菊花の3000mは厳しかったようだが……アレだって、ライスシャワーがいなければ結果はわからなかった。

 それを考えると、淀の坂でどうにか……というのは期待出来ない。

 

「そう考えると、どこで彼女に仕掛けるかが大切かな。前回は大外回って一気に抜いてなんとかしたけど」

「今回はさすがにキツいだろうな。最終直線こそ長いが、起伏がほとんどない。他の子は疲労してるだろうからある程度は抜けるだろうけど、ブルボンは抜ける気がしねぇ……」

 

 うーん、悩んでも答えが出ねぇ!

 はっきり言って、スプリンターズステークスでブルボンに勝てたのは『距離適正』と、見せていなかった『切り札』を切ったことがデカい。

 直前にようやくある程度の形になった『テイオーステップ』。あれが前回のMVPであるのは間違いない。ありがとうテイオー……

 

「となると、ミホノブルボン対策はこれから考えていかないといけないかな。他の子は……」

「ブリッジコンプかな。とは言っても、コンプも逃げだから、ブルボン対策したら必然的にそれがコンプ対策にもなるんだよな」

「こっちもこれから考えるようだね。しばらくはデータ分析するしかないかな」「頼んだ……あ、タキオンから貰ったデータがいくつかあるからそっちもよろしく」

「ああ、後で要点まとめたデータをルクスに送っておくね」

 

 さて、そうすると最後は……キングヘイローか。

 

「キング……キングなぁ」

「キングヘイローに関しては、とても評価に困るね。決して弱い訳じゃない、でもなぜか勝ち切れてない……」

「なにが原因なんだろうな。毎回ヒヤリとさせられてるから、俺としては気が気じゃないんだけど」

 

 そう、前回のスプリンターズステークスでもヒヤリとする場面は多かった。

 キングヘイローは確実にこちらの喉元に刃を突きつけて来ている。

 その刃が届くのは、次回のレースかもしれないのだ。

 

「ルクスがそう言うならそうなんだろうね。外から見ているだけではわからない何かを、レース中に感じ取っているってことだろうし」

「そうだな。はっきり言って、キングがああも勝ててないのは『運が悪い』って面はあるよ。ルドルフとも話したけど、ウマ娘には『運』も必要だからな」

 

 そしてキングヘイロー対策。これは1つしかないだろう。

 

「で、キングに対しては序盤から徹底的にマークさせて貰おうと思う。前回やったみたいにぴったり後ろについて風よけにさせて貰いながら、淀の坂で抜く……これかな」

「そうだね、悪く無いと思う。細かい仕掛けどころなんかは、こっちでまとめたデータを参考にしながら考えて貰おうかな」

「おっけー。はぁ、なんか妙に疲れた気がするわ……」

「データまとめるまでに少し時間が掛かるし、カフェテリアでも行って気分転換でもしてきなよ。ちょうどおやつ時だしね」

「ん、いいのか? せっかくだしコーヒーでも淹れるけど」

 

 ちらり、とコーヒーメイカーを見る。トレーナー室に置かれたそれは、下手すると自室のよりも使用頻度が高いかもしれない一品だ。

 

「……ルクスの淹れるコーヒーは魅力的だね」

「だろ? へへへ、トレーナーに食べさせようと思って買ったお茶菓子もあるぞ? この前イチオシだって聞いてわざわざ買いに行ったんだよなー」

「じゃあお願いしてもいいかな?」

「おっけー! ふふふんっ、腕によりをかけて淹れるぞー」

 

 おそらく俺のコーヒーを一番飲んでいるのはトレーナーだ。

 ここ最近はトレーナーもかなりコーヒーにハマってきているようで、俺がコーヒーを淹れるというとちょっと嬉しそうな顔をする。カワイイやつめ。

 

「えっと、せっかくだから豆はこれにして……トレーナー、ペーパードリップ式とサイフォン式どっちがいい?」

「どうしようかな……ルクスの淹れるのならどっちでもいいんだけど」

「ならせっかくだしサイフォン式にするか。最近だいぶ慣れて、毎回同じ味が出せるようになってきたんだよな」

 

 棚から器具を取り出して、手際良く準備をしていく。

 器具も手順もなかなかに複雑ではあるが、これが案外楽しいのだ。こう明確な答えがないパズルのような楽しさ。データなどを利用しながら理詰めで美味しさを追求するのは、俺の走りに通ずるところもある。

 豆を挽き、カップとフラスコを温め、フィルターの準備を整えればいよいよ本番だ。

 漏斗部分に挽いた豆を入れ、火を入れる。ヘラを使って豆をまんべんなくお湯に浸透させれば、次第に心地よい香りが漂い始めた。

 そうして体内時計できっかり時間を計って、火を消す。

 

「ん、いい感じかな」

 

 サイフォン式というのは蒸気圧を利用してお湯を押し上げて豆を浸漬させ、その後に再びフラスコへとコーヒーになった液体を落とす方式だ。

 火が止まれば当然、フラスコにポタポタとコーヒーが溜まり出す。

 こうやって落ちるのを待つのがたまらないんだよなぁ。

 そうしてしばらくまっていると、コーヒーが完全に落ち切る。これにてドリップ完了だ。

 

「はーい、出来たぞトレーナー。今注ぐからな」

「いい匂いだね。今回も期待出来そうだ」

「いつもそう言ってるよな。全く、口が上手いんだから」

 

 まあコーヒーを褒められて悪い気はしない。

 砂糖をいつも通りの数入れ、ミルクを垂らす。この真っ黒な液体が、琥珀色に変わる瞬間がたまらない。ブラックもいいが、こうしていろいろと混ぜるのも良いものだ。

 もう1つ用意したカップに自分の分を注ぎ、用意したお茶菓子と一緒にデスクへと持っていく。

 

「おまたせ。ふふん、なかなかの出来だぞ?」

「うん、ルクスが淹れたのだからその心配はしてないよ」

「まあ豆もいいのを使ってるからな。俺の腕だけじゃないよ」

「でも僕は好きだよ? ルクスのコーヒー」

 

 お、お前っ! そういうのは止めろ!

 う、うう……なんか最近前よりもこういう言葉に弱いんだよ……。褒められるって事に対する耐性が落ちている気がする。

 別にちやほやされる事自体は苦手じゃないんだけどなぁ……。

 

「ほ、ほらっ! これが今回のお茶菓子! コーヒーに合うからよく味わって食べろよ!」

「あ、ああ。ん、これはおいしいね。ほどよい苦みがいい感じだ」

 

 ふぅー……。なんとか茹だった頭を落ち着けないと。

 俺もコーヒーを啜りながらゆっくりとお茶菓子をかじる。うん、やっぱりコーヒーに合うなこれ。エアグルーヴ様々だ。

 

「いいだろ、お茶菓子。ちなみに今まで出したお茶菓子でどれが一番好きだった? 次のどうするか迷ってるから、好きなお茶菓子の傾向を聞いておきたいんだよな」

「一番、かぁ。うーん……一番はアレなんだけど……」

「お、なんだなんだ? なんでそんな歯切れ悪いんだよ」

 

 なんかそんな返答しづらいお茶菓子あったっけ。名前を知らないとか?

 俺が首をかしげてると、言いにくそうに口を開くトレーナー。

 

「あー、あのチョコレートが一番だったかな」

「チョコレート? 確かに数回出したけど……どれだ?」

 

 えっと、駅前の店のかそれとも専門店で買ったやつか……あ、もしかしてアレか? デパ地下の特設コーナーで買ったやつ。アレそこそこ値段もしたからな。

 

「バレンタインに貰ったのかな。ルクスの手作りの」

「ふぇ……?」

「アレが一番美味しかったよ。コーヒーとも良く合ってたしね」

 

 あうあうあう……。

 だからさ、そういうのは反則だって!

 くそ、そんな風に言われたら作るしかないじゃないか……。今度こっそり作って、こっそり出そうかな……。

 全く、トレーナーはもう少しこっちの事を考えて発言して欲しい!

 

「全く、おだててもなにもでないぞ……」

「本心なんだけどなぁ」

 

 あー、なんか顔が熱い! ううう、ほんと、なんなんだよこれ……。

 

「あんまり期待するなよ! 味が微妙だったりしても、文句は」

「言わないよ。ルクスが作ってくれたなら」

「う、ううううう……」

 

 いてもたってもいられず、再びサイフォンへと向かう。器具を一通り洗って、もう一杯作る準備を整える。

 ああ、やっぱりサイフォンはいい……心が落ち着く……。

 ゆっくりと落ちる真っ黒な液体を眺め、俺は目を細めながら深呼吸をする。

 

「今度材料でも買いに行くかな……」

 

 トレーナーにならたまには作ってやってもいいだろ。いつもお世話になってるからな。

 コーヒーに合うチョコのレシピを考えながら、そんな事を考えるのだった。

 

 


 

 

【ムーラン・ド・ロンシャン賞】マイルの女王タイキシャトル、その圧倒的な走りが海外でも話題に

8月○×日 14:19 配信    329 

          

 

   

ロンシャンの芝を駆け抜ける

タイキシャトル

 ジャック・ル・マロワ賞で勝利したタイキシャトルが、また海外GⅠで勝利した。今回勝利したのは、フランスのロンシャンレース場で開催されるマイルGⅠ、『ムーランド・ロンシャン賞』。このレースはフランス国内では最高峰とされるマイルレースであり、日本のウマ娘が勝利するのは初めて。

 

 タイキシャトルは序盤から先頭付近に位置取るとその位置を終盤までキープし、最終直線に入った瞬間に一気に先頭に躍り出てそのままゴール板を駆け抜けた。2着との差は2バ身、まさに圧倒的とも言える勝利だった。

 

 タイキシャトルの次走はアメリカのGⅠマイルレース『ブリーダーズカップ・マイル』となり、こちらでもまた活躍が期待されている。

 

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