TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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53 来たれ、ハロウィン!

 トレーナー室の前で真っ白な怪物を見つけた。

 なにやらシーツの塊のようなものが、もぞもぞと蠢いている。

 始めは冬毛のビワハヤヒデかな? なんてアホな事を考えていたのだが、近づいてみてその異様さがわかった。

 これ、だれかウマ娘がシーツ被ってるだけだな? なんてこんなところまでシーツを……そう思っていると、シーツの中から声がした。

 

「ミッション『トリックオアトリート』を実行します、ルクスさん、お菓子はお持ちでしょうか」

 

 この声はミホノブルボンだな。

 そうか、今日はハロウィンだったか……

 

「ええ、お茶菓子をいくつか買ってあるので中にどうぞ」

「ありがとうございます。これでミッションを完遂出来そうです」

 

 トレーナー室の中、俺のコーヒー用器具などが入っている棚を開けてお茶菓子を取り出す。

 うーん、せっかくだしコーヒーも淹れるか。これはコーヒーを飲みながら食べる用に買ったやつだし。

 

「ブルボンさん、コーヒーいりますか? せっかくですから淹れますよ」

「ええと、いいのでしょうか。お菓子をいただくだけでなく、コーヒーまでいただいてしまうのは……」

「コーヒー仲間じゃないですか! これくらい遠慮しないでください」

 

 以前ブルボンをコーヒー沼に落としてからというもの、たまに2人で情報共有などをしている。

 最近では豆を共同購入などもしており、2人揃って沼に頭のてっぺんまでどっぷり浸かっていると言えるだろう。

 いやさ、個人輸入とかだと最低購入量が多かったりするし、送料を考えると一度に沢山購入するのがベストなんだよね。カフェと一緒に、ってのも考えたけど……彼女は家族と一緒に購入してるみたいだし。

 

「豆は……これにしようかな。ブルボンさんは酸味少なめのほうが好きですもんね」

「そうですね……。以前の豆は酸味が少なく、すぐになくなってしまいました……」

 

 うん、ドハマリしてるなブルボン……。

 コーヒーを淹れ、冷蔵庫からミルクを取り出す。

 ブルボンはほぼカフェオレ状態のものが好きらしい。まあその気持ちはよくわかる。ブラックもいいけど、甘みたっぷりのもいいよな。

 カップを2つ、それに加えてお茶菓子を置く。

 

「はい、どうぞ。ミルクと砂糖は自由に使ってくださいね」

「ありがとうございます。それでは……」

 

 今日ブルボンに出したのは駅前で買ってきたバウムクーヘン。たっぷりとホワイトチョココーティングもされていて、糖分たっぷりの一品だ。

 最近はトレーニング後なんかに甘味が足りていないと感じると、これをコーヒーと一緒に食べている。

 非常に美味しいのでバカバカ食べてしまい、すぐ無くなってしまうのだけが問題だ。

 

「美味しいです……」

「それはよかった! 私も好きで、多めに買ってあるんで持ってってくださいね。せっかくのハロウィーンですし」

 

 ブルボンの仮装は『お化け』というやつだろうか。いや、想像以上に似合ってるな。よーく見るとシーツではなくしっかりと作られた衣装だし、小物もハロウィーンを意識したのを付けている。

 うん、かわいい。

 

「コーヒーに良く合いますし、この前買った豆で淹れたコーヒーと一緒に食べてみてください。かなりいい感じですよ」

 

 コクリとブルボンが頷く。

 心なしか表情が柔らかくなっていた。やっぱりブルボン、よく見ると感情豊かだよなぁ。

 彼女もコーヒーとバウムクーヘンのコンビがかなり気に入ったのか、すぐに皿とカップが空になった。

 

「ごちそうさまでした。ステータス、『高揚』。コーヒーとお茶菓子でパワーのチャージが完了しました」

「えへへ、そう言ってもらえるとうれしいです。私イチオシの組み合わせなんですよね、この豆とお茶菓子の組み合わせ」

「豆の詳細を教えてもらえますか? 以前買った豆だけでなく、こちらの組み合わせも試してみたいです」

「あ、はい。今回淹れたのはこの豆ですね」

 

 なんというか、普通の学園生活してる気がする! 季節イベントを楽しみながら、同好の士と趣味の話題で盛り上がる。

 うん、これだよこれ。

 

「ならタイマーはこの時間で……」

「もう少し長いのも試したんですけどね、これくらいが一番美味しかったです。カフェさんもこれでいいと言ってましたし」

「なら私もそうしてみます。ありがとうございました」

 

 と、一段落付いたところでブルボンがこちらをジッと見てくる。

 んー……?

 

「どうかしましたか……?」

「いえ、いつもお世話になってばかりだと思いまして。私からも何かお返しを……」

「こんなの友達同士なら当たり前ですよ。それに、私たちは同じトゥインクルシリーズを走るライバル同士じゃないですか」

 

 なんだ、そんな事を気にしてたのか。ミホノブルボンは案外こういうのに敏感……いや、鈍感なのか? 人付き合いに慣れていないと言った方がいいのかもしれない。

 

「それ、は……」

「ブルボンさんが短距離・マイル路線に来るって聞いた時とても嬉しかったんですよ? 私の目標の1つでもありましたし。だから、ありがとうございます」

「エラー……こういう時、なんと言ったらいいのかわかりません……。あくまで私は、あなたと走りたいからこの路線を選んだのに、それに感謝をされるのは……」

「そういう時は、ブルボンさんも『ありがとう』って言えばいいんですよ。私たち友達でライバルでしょう?」

 

 その言葉を聞いて、ブルボンの表情が柔らかくなった。

 

「そう、ですね……ありがとうございます、ルクスさん。私もあなたと走れて嬉しいです」

「えへへ、よかったです」

 

 うんうん、ブルボンはやっぱり悲しそうな雰囲気よりも、ほわっとした雰囲気の方が似合う。

 さて、コーヒーも飲んでお茶菓子も食った事だし……。

 

「ブルボンさんはどこを回ったんですか?」

「ルクスさんのところが初めてで……これからどこを回ろうかと考えていました」

「ならまずはカフェテリアあたりから攻めましょうか。えっと、なんか無かったかな……」

 

 トレーナー室の段ボールをガサゴソとあされば、ちょうどよさそうなグッズがいくつか出てきた。

 これとこれとこれを合わせて……

 

「これでどうですか! カボチャランタンを被って、下はレプリカ勝負服! ジャック・オー・ランタンですよ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()北欧のお化けだ。

 鏡を見た感じ、即興にしちゃいい感じじゃないか?

 

「ええ、似合っています。ですがどうしたのですか」

「いえ、私もブルボンさんと一緒に学園内を回ろうかと思いまして。トレーナーが来るまでまだ時間がありますし」

 

 手にバスケットを持ち、これで準備万端!

 ブルボンの手を引いて、カフェテリアに向かう。歩いていると、結構な割合で仮装したウマ娘をすれ違い、その度にギョッとした目を向けられる。

 これそんなに怖いか……?

 あと案外仮装した子がいるな。トレセン学園生は季節イベント大好きなので、当然といえば当然か。

 

「という訳でカフェテリアに来た訳だけど……お、カフェだ」

 

 腰の位置より長く伸ばした青鹿毛、真っ白なアホ毛。見間違うはずがない。

 ゆっくりひっそり近づいて、後ろから……と思った瞬間、こちらの気配に気づいた様子もないのにカフェがこちらを向いた。

 

「こんにちは、ルクスさん……」

「あ、あはは……こんにちは。バレちゃいました?」

「私は気づけませんでしたが……お友だちが教えてくれたので……」

 

 ああー……そりゃバレる訳だ。ひょっこりとカフェの後ろから姿を現した『お友だち』。その姿からは禍々しいものは感じない。

 フランス行きのあの飛行機で見た禍々しいものはなんだったのか、未だにわかっていない。まあそれでいいんだろう。きっとアレの正体なんてわかる事はないのだ。

 

「その格好はハロウィンの……?」

「はい、トリックオアトリートをして回ってるって訳です」

「そうでしたか……ならこれをどうぞ……」

 

 カフェに手渡されたのは、小袋に入ったコーヒー豆。いや、違うなこれ。よく見ると豆の形をしたチョコだ。

 ほー、手が込んだお菓子だな……

 

「ハロウィンということなので用意してみました……ミホノブルボンさんも、どうぞ……」

 

 袋からチョコレートを取り出して、口に放り込む。

 お、美味い。コーヒー豆というデザインのイメージ通り、コクのあるビターな味わいが口の中に広がった。

 ブルボンも美味しそうに、口の中でチョコを舐め溶かしてる。

 

「んー、美味しいですね。カフェさん、これどこで買ったんですか?」

「私の、手作りです……お気に召したようなら、よかったです」

「ステータス『驚愕』。手作りとは驚きました」

 

 カフェ、マジでこういうの得意だよな……。バレンタインの時もチョコ作りを教わったし。

 

「コーヒーと一緒に食べると、もっと美味しいですよ……」

「なら残りは後で食べましょうか。ありがとうございますカフェさん。あ、これコーヒーに合うバウムクーヘンです」

「これは……ありがとうございます……」

「えへへ、私イチオシなんで是非」

 

 さて、他にカフェテリアにターゲットは……うーん、居ない。

 仕方ない、別のところにいくか。

 という訳で、タキオンの研究室にやってきた。ここならタキオンとかテイオーとかがいるだろ。カフェまだカフェテリアでコーヒーを飲んでるから居ないだろうけど。

 

「トリックオアトリート! タキオンさん、お菓子くれなきゃイタズラしますよ!」

「トリックオアトリート、です」

 

 勢い良く引き戸を開け放ち、研究室に突入する。

 と、部屋にいたのはタキオンとテイオー。ちょうどいいな!

 

「おや、ルクスくん。そういえば今日はハロウィンだったね。お菓子はないけどデータならあるよ?」

「あ、ルクス。なにその格好! カッコイイじゃん!」

 

 そうだろ? 結構気に入っちゃった、この格好。今度これ付けたままダンス踊る一発芸でもしようかな。

 

「そういえば今日ハロウィンだっけ。ねーねールクス、なんかお菓子ないの? ルクスが用意してくれるお菓子って美味しいから好きなんだよねー」

「お菓子渡す側と貰う側が逆では……? まあお菓子ありますけど」

「ほんと!? やった!」

 

 バスケットからバウムクーヘンを取り出してタキオンとテイオーに渡す。

 俺のイチオシだぞ、味わって食え!

 

「ふむ、後でいただこうかね。それじゃあお返しだ。このデータ、取り扱いには十分注意してくれたまえよ?」

「なんか怖いですよその言葉……一体なんのデータが入ってるんですか……」

 

 俺とテイオー、そしてタキオンの会話を聞いて、隣のミホノブルボンがクスリと笑った……ような気がした。

 気になって横目で確認すれば、穏やかな顔をして俺たちを見守っている。

 

「仲が良いのですね」

「まあ成り行きでこうなったといいますか……」

「そうだねぇ。まさかこんな事になるとは思わなかったよ。そうだ、ミホノブルボンくん、実験に興味はないかい?」

「タキオンさん、ステイ」

 

 ブルボンのトレーナーさんに面目が立たないからダメです!

 必死にタキオンをなだめ、ついでに口にお菓子を突っ込んで黙らせる。うん、この手が一番だ。

 もきゅもきゅとバウムクーヘンを咀嚼するタキオンは、げっ歯類か何かのようでかわいらしさも感じる。

 

「んー、これ美味しい! ねねね、もっとないの?」

「また今度私の部屋に来た時に出してあげますよ。コーヒーも一緒にね」

「わーい! じゃあまた遊びにいくー!」

 

 最近は俺の部屋に来るウマ娘に、トウカイテイオーが加わった。以前はブルボンかカフェ、たまにキングくらいだったが……。

 テイオーはとにかく来る頻度が高い! 別に友達が居ない訳じゃないだろうに、やたらと俺の部屋に来る。お前お菓子が目的だろ!?

 

「はいはい。今度はブルボンさんも呼んで3人でお茶会でもしましょうか」

「いいのですか? 私は部外者ですが」

「えー、ブルボンも一緒にお茶会しようよー! ルクスの事とか聞きたーい!」

「それなら……ご一緒させていただきます」

 

 ナイスだテイオー。

 ブルボンは他人との距離感を掴むのが苦手なタイプなので、こうしてこっちのペースに引き込んでしまうのが正解だ。

 

「ん、んっ。ふぅ、ルクスくん紅茶を入れてくれたまえ。キミがバウムクーヘンなんて押し込むから口の中が乾いてしまったよ」

「はぁ、しょうが無いですね……コーヒーメイカーも借りてコーヒーも一緒に淹れちゃいましょうか」

 

 そうして始まるお茶会。トレーニング開始時間ギリギリまで開催された為、俺はジャック・オー・ランタンの格好のまま猛ダッシュする事となる。

 妙に似合ったその姿に、『怪奇! 疾走するカボチャ頭』という噂が学園を駆け巡る事になるのだが……反省してるから許してくれ。

 

 

 


 

= トレセン通信 

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怪奇!? トレセン学園を疾走するカボチャ頭

10月○×日 16:31    23

 

 ハロウィンで学園内が賑わう10月末、生徒たちの間に戦慄が走った。突如としてどこからともなく現れたカボチャ頭……『ジャック・オー・ランタン』が学園内を疾走しているところが目撃されたのだ。

 ジャック・オー・ランタンは、あの世に行けない魂が現世を彷徨っている姿とも言われている。

 

 おそらくは生徒の誰かによる仮装だと思われるが、あまりにも似合い過ぎている事、また疾走する姿から恐怖を感じたという事で生徒の間で話題となった。

 

 学園は『学園内を走る時は十分周囲に注意すること。今回は衝突しそうだったなどの声もなく、十分注意して走ったものと思われる』と発表した。

 

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