TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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56 カフェテリアの攻防

 年の瀬も近づき、学園内も慌ただしさをみせていた。

 そもそも秋から年末に掛けてはGⅠレースラッシュがある。そのせいもあってか、この時期はトレーナーもウマ娘も、そして学園職員もせわしない。

 その反面、娯楽施設は軒並み閑散としてしまっていた。それはカフェテリアも同じ。

 だとしたら、することは1つしかないよな?

 というわけで、俺はというと……

 

「うーん、カフェテリアのコーヒーやっぱ美味いな……。豆も確かにいい豆なんだけど、これ淹れ方が上手ってのも関係してると思うんだよね」

 

 カフェテリアで優雅にコーヒーを啜りながらケーキを食べていた。

 

「ん、このチョコケーキ中にくるみ入ってるじゃん! このタイプ大好きなんだよなぁ! テンション上がるわ」

 

 目の前に並ぶのは、いくつものデザート。パフェ、ケーキ、シュークリームにモンブラン……ほんとクオリティが高い。

 俺がこんなのんきしていられるのも、当分出走予定のレースがないからだ。

 はぁ、ほんと美味しい。ウマ娘になってから、甘味への欲求が上がってる気がする。味覚も鋭敏になってるし、それも関係してるんだろうか。

 始めは少し多く頼みすぎたかな? などと思った甘味の数々も、気づけばほとんどが俺の胃袋へと消えていた。

 ……まだ足りん!

 

「何か追加で頼むかぁ……って、あれ?」

 

 カフェテリアの端っこで何か困ったようにオロオロとしているウマ娘が1人。

 あのウサギみたいなデカい耳、そして片目隠れ……ライスシャワーじゃねぇか!

 

「あー、何かありましたか? お手伝い出来ることならしますよ」

「ふぇ!? あ、あの、大丈夫でしゅ……」

「大丈夫じゃなさそうですね……」

 

 どうやら財布の中身をぶちまけてしまったようだ。

 仕方ない、一緒に拾ってやるか。

 自販機の下に落ちたものや、見えにくい場所へと転がっていっているであろう小銭を拾いあつめ、ライスシャワーへと渡す。

 

「これで全部ですかね?」

「は、はひっ! ありがとうございましゅっ!」

「ほら、落ち着いて。そうだ、もう何か注文しましたか?」

「えっと、その、実はまだで……」

「なら適当に何か頼みましょうか。おすすめとか教えてあげますね」

 

 ライスシャワーの手を引いて、カフェテリアの定番メニューを紹介していく。

 うん、メニュー見てたら俺ももっと食いたくなってきたな……。

 だが、気になるの全部頼むとさすがにキツいか?

 ……いや待てよ? 確かライスシャワーは大食いだったはず……。ひらめいた!

 

「もし良かったら2人で一緒に頼んでシェアしませんか? 私1人だと食べきれなさそうですし」

「い、いいのかな……?」

「もちろん! 1人で食べるより2人で食べたほうが美味しいですしね!」

「ライス、ちょっとお腹減ってるから多めでもいいかな」

「ならどんどん頼んじゃいますかね。これとこれとこれと……アップルパイとかって食べます?」

「おいしそう……」

「なら頼んじゃいましょう。あとはこれと……」

 

 大義名分を得た俺は、次々とスイーツや軽食を注文していく。当然ライスシャワーはそれを止めようともしない。そして注文した品が次々と用意されていき、はっと我に返る。

 ……いや、さすがにこれは注文しすぎたか?

 

「ふぇぇぇ……」

「あはは……」

 

 そして生まれたのがこの皿の数々。テーブルを1つ埋め尽くしただけでは足りず、もう1つ隣のテーブルまで使ってしまっていた。カフェテリアの人も凄い顔してるな……。今日は人が少ないから許せ。

 とはいえ、眺めているだけでは料理は減らない。

 まずはパフェから失礼……っと。

 

「んー! カフェテリアの季節のパフェってなかなか食べられないんですよね、人気だし」

「お、美味しそう……」

「あなたもどうぞ。はい」

 

 まずはお試しに一口。ライスシャワーにスプーンを差し出せば、パクリと食いつく彼女。

 クリームを舐めたあとに口の中でフルーツを転がし、顔をほころばせるライス。カワイイなぁ、ライスシャワーは。この庇護欲をそそる感じがたまらん。

 こんな子なのに、走る時は鬼気迫った表情を見せるんだよな。

 

「それであなたのお名前は? 私はミーティアルクス、中等部でクラシック級のスプリンターです。よろしくお願いしますね」

 

 フレンチトーストにメープルシロップを掛けながら自己紹介する。

 いろいろあって流れでこんなことになったが、お互い自己紹介すらまだだったのだ。

 

「はひっ! ライスはライスシャワー、だよ……?」

「ライスシャワー、良い名前ですね。えっと、ちなみに中等部と高等部どっちですか?」

「ライスは高等部で……」

「ならライスさんのほうが先輩ですね! ライス先輩!」

「せ、先輩……」

「ライスシャワーさんのほうが年上だし、先輩ですよね?」

「う、うん……」

 

 こんなナリだがライスシャワーは高等部。というかマックイーンよりも上なのマジで脳がバグりそうだ。

 ライスシャワーが145cm、俺が149cmなので俺のほうがちょっとデカいし……。

 そしてこうして自己紹介している間にも、スイーツはどんどんと消えていく。マジでライスシャワー良く食うな!? そのちっちゃな体のどこにそんなに入ってるんだ……。

 俺も人のこと言えないけどなぁ! ライスシャワーのはマジで異常だって。

 

「ライス先輩、そっちの少し貰っていいですか?」

「えっと、どうぞ……?」

「これこれ、このシナモンがコーヒーにマッチしてて美味しいんですよねぇ……」

 

 2人でスイーツをつつき回し、次々と皿の上から消していく。

 

「さてこのフレンチトーストは……おお、ふわっふわだ……。どれ一口。んんー! これメープルシロップも自家製だな!? すっごい濃厚!」

「そっちも一口もらっていいかな……?」

「もちろんですよ。一口と言わずに半分どうぞ」

 

 ライスシャワーの前に、フレンチトーストを半分切り分けて置いた。そして一瞬目を離したその後。

 

「あれ……?」

 

 フレンチトーストが消えていた。

 えっ待って? 今確かに置いたよね……? 自分の皿を見るも、確かにフレンチトーストは半分になっている。

 ええ……。

 

「どうしたの?」

「いえあの、フレンチトーストちゃんとライス先輩に渡しましたよね……?」

「うん、とっても美味しかったよ?」

「あの一瞬で食べたんですか……?」

「……? そうだけど」

 

 どうやら気のせいではなかったらしい。

 ライスシャワーが大食漢なのは知識として知っていたが、ここまでだったとは……。

 よく見ればライスの横に食べ終えた料理の皿が積み上がっている。

 マジかよもうそれだけ食ったのか……。

 ま、まあこれだけ量あるし、それくらいのハイペースで食べてもらえたほうがありがたいから……。

 今度はアップルパイへとフォークを伸ばし、一切れ口へと運ぶ。

 

「ふぁ……クリームが蕩けるようですねこれ……。リンゴの酸味がアクセントになって最高ですよ……。季節限定で洋梨とかのパイもやってるらしいし、空いてる時を見つけて食べないとなぁ……」

 

 ほんとカフェテリアのスイーツは美味い。

 それでいて安いというんだから、みんなが群がるのも納得だ。俺はもう一口パイを食べ、コーヒーを啜る。至福の時間だ……。

 

「そういえばライスシャワー先輩はジュニア級ですよね? この前見たレース映像に映ってた記憶があるんですけど」

「う、うん。ライスは今年デビューだよ。えへへ、ルクスさんみたいなウマ娘に知っててもらえてうれしいな」

 

 いやぁこっちこそ『あの』ライスシャワーとご一緒出来て飛び上がるような思いなんですけど。

 しかしライスとテイオーが同世代とはね……。テイオーの足の問題がマシになったかと思えば、それを察したかのようにライスシャワーが現れるのやっぱ呪われてないか?

 ライスシャワーの一生は実に壮絶なものであると言える。ラストは引退ではなくて『故障』だったことまで考えると、今まで会ってきたウマ娘達の中では一番重症と言えよう。

 まぁライスが故障するのは宝塚記念だからワンチャン、何もなく俺の競争ウマ娘生終わる可能性……ない? ないよなぁ……。

 

「私が世話を焼いてる後輩に『トウカイテイオー』って子がいるんですけど、中距離と長距離なんでライス先輩と走る機会もあるかもしれませんね」

 

 というかテイオーの三冠を脅かすとしたら、十中八九ライスシャワーだと俺は踏んでいる。

 

「トウカイテイオーさんかぁ……ライスと違って、キラキラ輝いてて……」

「ライス先輩の走りも良かったですよ。自信持ってください」

「で、でも……」

 

 ライスシャワーは内気な性格だ。

 これは彼女が『不幸体質』だということに起因したものである。

 アプリのストーリーでも次々と不幸に見舞われていたが……ふむ、案外普通だな? いや始めは小銭ぶちまけてオロオロしてたけど。

 

「ほら、しゃんとしてください! 私なんかメイクデビューで勝てなくて未勝利戦行ったんですよ? 一発で勝っただけでも十分凄いんですから」

「う、うん……ありがとう……?」

「ほらそこで疑問形にならない! 褒められた時はちょっと大げさなくらいに喜ぶのが一番ですよ!」

「ありがとうございましゅっ! あう、噛んじゃった……」

 

 くそかわ。

 正直なところ、この子が観客たちから心無い声を掛けられて涙するところは見たくないし、怪我で再起不能になるところも見たくない。

 あーもうしょうが無いなぁ。こうして会ったのも何かの縁。乗りかかった船とも言うし、ライスシャワーのことは気に掛けるようにしておこうか。

 

「ちょっとずつ自信を付けていくのがいいですよ。私だって最初は自信無かったですからね」

「そうなんだ……。ちょっとルクスさんのこと勘違いしてたかも」

 

 まあ最初はデビューにすらこぎ着けられなさそうで、かなり精神的に参ってたからなぁ……。

 

「私だっていまこそ『短距離の星』とか、『ミホノブルボンのライバル』なんていう風に言われてますけど、最初の頃はダメダメだったんですよ。みんなそんなものです。最初から自信満々な子なんて居ません」

「うん……ありがとう、ルクスさん。ちょっとだけ頑張ってみる!」

「そうですその意気です! ライスさんなら絶対大丈夫ですよ」

 

 気づけば皿の上に乗っかっていたものは、ほとんど全てが俺たち2人の胃袋へと消えていた。

 俺もそこそこ食べたけど、それでも8割くらいはライスの胃袋に消えてないか……? 気のせい……?

 

「それにしてもライスさんは沢山食べますね……」

「そうかな? 今日はちょっと少なめだったと思うんだけど」

「これで、少なめ……?」

「うん。だっておやつみたいなものばかりだし」

「ええええ……」

 

 うん、あんまり考えないようにしよう。

 まあ割と俺もアホみたいに食ってはいるからな。それでもオグリキャップやスペシャルウィークほどではないが。

 あの2人はトレセン学園周辺の飲食店から出禁喰らったりしてるらしいし、マジでヤベェよ……。

 

「あ、なくなっちゃいましたね」

 

 そしてようやく最後の一品を食べ終える。

 はぁ、食った食った。

 

「うーん、これで足りるかな……」

「え。ライス先輩まだ食べるんですか? その、胃袋は大丈夫で?」

「この感じだとお夕飯までにお腹空いちゃうかも。もうちょっと頼んでこようかな」

「まだ頼むんですか!?」

 

 割とめちゃくちゃな量あったんだけど。恐ろしすぎるだろ、ライスシャワー。

 

「ルクスさんは追加で頼んだりしない? それならライス、1人で注文してくるね」

 

 そう言って、とてとてと走っていくライスシャワー。

 あれだけ食ってまだ食うのか……。その姿に戦慄していると、彼女は山のような量の軽食を持って戻ってくる。

 その、それは『ちょっと』ではないのでは。

 

「いただきまーす」

「ほんと良く食べますね、ライス先輩。見てて恐ろしいほどですよ」

 

 『限界まで削ぎ落とした体に、鬼が宿る』などと向こうの世界では言われていたライスシャワーだったが、ある意味で()()()()()宿っているのかもしれん……。

 フライドポテトを次々口へ入れていくライスを見ながら、俺はそう思った。

 

 


 

 

= トレセン通信 

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学園からのお知らせ カフェテリアの利用について

11月△×日 17:12  

 

 この度はカフェテリアの利用について、新たなルールを設けさせていただきます。一度に注文は1人5品まで、それ以上は複数回に分けて注文をお願いします。

 

 また、一部から要望のあった『カフェテリアオリジナルブレンドコーヒー』のコーヒー豆の販売も開始致します。こちらについては、後ほど詳細をカフェテリアに張り出しますのでご確認ください。

 

 急なことではありますが、何卒ご理解とご協力のほどをよろしくお願いします。

 

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コラム

これであなたもカフェテリアマスター!? 某お嬢様ウマ娘のスイーツレビュー

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