TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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57 有マ記念、キングの覚悟

 有記念。

 1年の総決算とも言えるレースであり、年2回のグランプリレースの片割れでもある。

 中山の芝、2500mで行われるそれは、毎年強豪ウマ娘たちがしのぎを削り、たった1人の勝者を決めるもの。頂点に立ち、笑うことができるのはただ1人。

 

「果たして勝利の女神は誰に微笑むのか! レースの行方を見る為に、本日は大変多くの人がスタンドに押しかけています!」

「予想よりもかなり人が多いですねぇ。当然入場制限も掛かっており、会場周辺のライブビューイングイベントでも満席が多く出ているようです」

 

 幸い俺たちは『関係者枠』で指定席に座ることができている。そうじゃなかったら地獄だったろうな……。

 ターフへ目をやれば、そこには緊張した面持ちのキングヘイローがいた。

 

「本日出走するウマ娘たちを紹介しましょう。まずは黄金世代の一角、セイウンスカイ! トリックスターとも言える彼女は、今日も観客たちをアッと言わせてくれるのでしょうか!」

「菊花賞でのレコード勝ちが印象に残っているウマ娘ですね。調子もバッチリで好走が期待できそうです」

「どちらかというと長距離が得意な傾向にもありますので、その面でも期待できそうですね!」

「ええ。去年の有記念では1番人気ながらも4着という結果に終わってしまいましたから、今年はそのリベンジを果たして貰いたいものです」

 

 セイウンスカイはチラリ、と観客席を見るとけだるそうに手を振る。

 うん、確かに調子がよさそうだ。ああやって適当に見える時のセイウンスカイは大体調子がいい。どうやら『壁』は壊せたようだな。

 そして次は……エルコンドルパサーか。凱旋門賞などの海外路線は捨てて、国内に注力していた彼女だが、その戦績は実に華々しいものだ。さすが、と言うべきだろう。

 

「『怪鳥』、エルコンドルパサー! その圧倒的な走りで本日も1着をさらっていくのでしょうか!」

「力強い走りが特徴のウマ娘ですね。この時期の中山は芝が荒れがちなので、彼女の走りにとてもあったコースであると言えるでしょう」

 

 あの赤い勝負服カッコイイよなぁ。俺の勝負服も赤のケープが着いてるからよくわかる。映えるし、気分上がるんだよ、赤。

 

「そして3番人気にはこのウマ娘! キングヘイロー!」

「前走のマイルチャンピオンシップでは、あのミホノブルボンを差し切ってゴールするというすさまじい足を見せてくれました。本来であれば、マイルレースで勝ったウマ娘に対してここまでの人気が集まることは少ないのですが……」

「キングヘイローも黄金世代の一角! そして長距離レースでも一定以上の結果を出していることから、期待が集まっているのでしょう!」

「ホープフルステークスなどを勝っているところからすると、短距離とマイルだけしか走れないウマ娘という訳でもありません。そのことが、これほどの人気に繋がっているのでしょうか」

 

 キングに取ってはトゥインクルシリーズ最後のレース。

 そして、黄金世代の皆へと今一度挑戦をする場でもある。結果がどうなるにせよ、悔いの無いようにだけはして欲しい……。そう思うのは俺のわがままだろうか。

 

「キングヘイロー……マイルチャンピオンシップで見せたあの走りは驚異的だったが、果たして2500mという距離でどれだけ通用するのか……」

「やっぱそこだよなぁ。俺もマイルより長い距離だと頭が保たないし、どうだろうか」

 

 しかし3番人気とか、キングもかなり評価されてるな。

 

「2番人気はこのウマ娘、スペシャルウィーク! こちらもやはり黄金世代の一角!」

「ジャパンカップでの活躍が印象深いウマ娘ですね。日本の意地を見せたあの一走、感動した人は多いのではないでしょうか」

「そのこともあってか、2番人気に抜擢されています! 果たして彼女は、有記念という舞台に於いても意地を見せてくれるでしょうか!」

 

 スペシャルウィークは体重が増えたって話を聞いたんだが大丈夫だろうか。まあとはいえ見た目からはそこまで変化していないように見える。

 ……いやまあこの前食べ放題出禁になってたから、めちゃくちゃ食ってたのは間違い無いんだが。

 そして大本命、一番人気。ターフに舞い戻ったあのウマ娘が、声を上げる。

 

「1番人気はこのウマ娘! グラスワンダー! 安田記念でこそ伸び悩みましたが、中距離路線に戻ってからの彼女はまさに『驚異』の一言に尽きます!」

「いやはや、一時はどうなることかと思いましたが、それも杞憂に終わりましたね。怪我の噂もありましたが、それを感じさせない強さを取り戻したと言っていいでしょう」

 

 グラスワンダー。去年の有記念勝者にして、『不死鳥』の異名を持つウマ娘。

 

「やっぱりマイルはキツかったのかな、グラスワンダー」

「そういう訳ではないと思うけどね。彼女の走りを見るに、決して無理な距離という訳ではなさそうだった。その気になれば短距離も走れそうだしね」

「グラスワンダーが短距離に来なくてよかったよほんと……。そうなったら今以上に地獄だったろうし」

 

 これ以外にも、オペラオーやドトウなどの姿も見える。うーん、マジで豪華だなこの有

 次々とウマ娘たちがゲートインしていき、レースの開始が近づく。

 観客たちも、自然と言葉数が少なくなっていき、ゲートインが終わる頃には静寂が会場を包んでいた。誰が言い出す訳でもなく、そうなったのだ。

 

「ゲートイン完了。出走の準備が整いました」

 

 ガタン、と音を立ててゲートが開き、ウマ娘たちが一斉に走り出す。

 そこからの光景を、俺は決して忘れることはないだろう。

 まず先頭に抜け出したのはセイウンスカイ。まあこれは定石と言える。

 そして逆にキングヘイローは後ろへと位置取った。グラスワンダーをマークしながらも、スペシャルウィークやエルコンドルパサーと言った危険因子をしっかりと意思の中へと置いている。

 実に上手いレース運びだ。

 

「先頭はセイウンスカイ! その後ろ3バ身離れてスペシャルウィーク、さらにその後ろにはテイエムオペラオーが……」

「キングのレース運び、前より上手くなってる気がするんだけど、俺の気のせいか?」

「気のせいじゃないと思うよ。僕の目から見ても、キングヘイローのレース運びは上手くなっているように感じる。これは荒れるよ」

「そうだな……」

 

 特に波乱も無くレースは進んでいく。

 相変わらずキングヘイローは好位置を位置取ったまま動かず、黄金世代のメンツを睨むようにして注視していた。

 

「さぁ1周目、スタンド前を先頭で駆け抜けるのはセイウンスカイ! 菊花賞レコードウマ娘の意地を見せるか!」

「ここから向こう正面までは上り坂と下り坂が続きます。これをどう活かすかが見所ですね」

 

 2500mというのは俺に取っては未知の距離だ。走ったレースは1600mが上限で、平均値は1400m程度と言ったところ。普段の2倍近くの距離を走るというのは、一体どんな気持ちになるのだろうか。

 ……今度試すか。

 

「後方には未だ動き無し! このままセイウンスカイが逃げ切るのか!?」

「グラスワンダーやキングヘイローが不気味なほどに静かですね。スペシャルウィークやエルコンドルパサーはセイウンスカイをマークしていますが、先の2人は未だに動く気配を見せていません」

「ウマ娘たちが1コーナーに差し掛かり一斉に坂を駆け上がる! セイウンスカイ、少し表情が厳しいか!」

 

 中山の坂は俺も味わった。が、1200mと2500mでの中山は、全く違った表情を見せる。

 まずなんといっても、『1200mのスタート地点は、いわゆる山の上』であることが非常に大きい。高低差4mの山、その頂点から少し下ったところが1200mコースのスタート地点。

 1200mでは山を下るだけでよい。上るのはゴール前の坂だけ。

 しかしながら、2500mを走るとなったら『高低差4mの山』を上って下らないといけないのだ。あげく、当然ゴール前には坂が待ち構えている。

 淀の坂の恐ろしさを俺は身をもって体感した訳だが……中山もキツいだろう、これ。

 

「坂を駆け下りてなお、先頭はセイウンスカイ! 強い、強いぞ!」

「ですがここからは平坦な地形が続きます。今まで足をためていた子たちが、一気に加速するかもしれません。油断はできませんよ」

 

 実況の通り、上がって来ている子が散見された。

 

「お、スペシャルウィークが上がって来たな。エルコンドルパサーもそれに続いてる」

「だけどまだスパートって感じではなさそうだね。もう少し……600m地点か4コーナーに差し掛かった当たりが仕掛けどころだと僕は踏んでるよ」

「そこか。まあ無難っちゃ無難だな。で、キングは……」

 

 未だキングヘイローに動き無し。

 グラスワンダーは最終直線に備えて加速を始めているのが確認できた。

 

「お、グラスワンダーに続くようにしてキングも少し速度上げたか?」

 

 本当に少しではあるが。

 今までずっとグラスワンダーの後ろに付くようにしていたキングだが、次第に離されていく。それを嫌ったのか、少しだけ加速したようだ。

 だが、スパートと言うにはほど遠い。

 

「3コーナーを回っていよいよ4コーナー! 最終直線まではあと200m足らず! おっと? スペシャルウィーク上がって来た!」

「エルコンドルパサーも上がって来ましたね。これは一気に勝負を仕掛けるようでしょうか」

「グラスワンダー後ろから猛烈な追い上げ! ここに来て黄金世代が一斉に仕掛けた!」

「おや、キングヘイローは……」

 

 キングヘイロー。その姿は外ラチ側に寄った場所にあった。

 大外、というほどではないが、結構な外にいるな。そしてそのまま、スパートを掛けるべく得意の末脚を使って先頭を目指し始める。

 その末脚はまさに電撃のようで、瞬く間にウマ娘たちを抜き去って黄金世代の皆へと肉薄した。

 が、そこから先が厳しい。外に出た、ということはコーナーを走る距離も長いということだ。必然的に不利となる。

 

「やはり有は黄金世代の戦場となった! 5人が揃って先頭を目指している! セイウンスカイが逃げるがこれは厳しいか!?」

 

 そしてとうとう最終直線。

 先頭からセイウンスカイ、スペシャルウィーク、エルコンドルパサー、グラスワンダーの順だが……どうなる?

 

「勝敗を決するのはゴール前の坂だろうね。アレをどう攻略するかが、有記念の勝者を決める試練だと思う」

「アレなぁ……ほんとキツかったわ……」

 

 思い出すのはスプリンターズステークス、そのラスト。

 ミホノブルボンをよく差し切れたもんだよほんと……。

 

「スペシャルウィーク前に出た! セイウンスカイ、さすがに坂は厳しかったか!?」

「おお、スペシャルウィーク凄いな……って、おいおいおいおい!?」

「グラスワンダー……」

 

 先頭で争っていた3人、それをまとめて抜くようにしてグラスワンダーが駆け出した。坂だというのにそれを感じさせないほどの加速。

 恐ろしいなグラスワンダー……。

 と、そんなことを思った次の瞬間。

 

「は、はぁ!? ちょちょちょ、キング!?」

 

 坂をグラスワンダー以上の加速で駆け抜けたのはキングヘイロー。どこにそんな力残ってたんだよ!?

 いや、そういえば中盤までずっとグラスワンダーの後ろに付いてたな。アレで空気抵抗を減らして、体力を温存したのか……? 限界ギリギリまで動きを見せなかったのは、スタミナを温存する為……?

 

「グラスワンダー先頭! だがそれにキングヘイローが追いすがる! しかし厳しいか!? そしてスペシャルウィークも負けじと加速している!?」

「ゴールまではもう距離がありません。後ろの子は間に合うでしょうか」

 

 最後の最後、勝敗を分けたもの。それは『今までどの距離を走ってきたか』だった。

 長・中距離のレースに慣れていたもの。短距離・マイルを主戦場としていたもの。その差が、出てしまった。

 

「1着でゴールを駆け抜けたのはグラスワンダー! 有記念2年連続での制覇です!」

「2着はスペシャルウィーク。ジャパンカップ同様、最後の最後に意地を見せてくれましたね。そして3着はキングヘイロー。いやはや、まさかここまでとは……」

 

 キングヘイロー、惜しくも3着。しかし彼女の顔は晴れ晴れとしていた。

 頬を涙が伝ってこそいるが、決して悔しさと悲しさから来るだけの涙ではないことを、彼女の表情が物語っている。

 キングヘイローのトゥインクルシリーズでの挑戦はこれにて幕を閉じた。

 『王者』の挑戦を見届け、俺の中には新たな炎が灯っているのを感じる。

 きっとこれはキングから受け継いだ想い。視線の先のキングは、『一足先に行くわ。ドリームトロフィーで待ってる』と口を動かしていた。

 

「トレーナー……」

「どうしたんだい、ルクス。凄いレースだったし熱気に当てられたかな?」

「いや……そうだな、なんでもないよ」

 

 今年ももう終わりがやってくる。俺がこちらにいられる時間も残り少なくなってきた。

 胸の中の炎と、元の世界への想いを天秤へと乗せ、俺は葛藤する。

 決断の時が、刻一刻と近づいていた――

 

 


 

 

【有記念】『不死鳥』グラスワンダー、驚異の実力でV

12月○×日 12:34 配信    231 

          

 

   

ゴール板を駆け抜ける瞬間の

グラスワンダー

 今年のグランプリレース、有記念。それを制したのはグラスワンダー。2年連続での勝利を飾った。

 

 グラスワンダーは今年頭から怪我の為に療養を取っていた。復帰レースは安田記念となり、惜しくも勝利を逃してしまった。しかしその後からは、怪我のことなど忘れてしまうほどの好走を見せ続け、ついには有記念2年連続制覇という偉業を成し遂げた。まさに『不死鳥』と呼ぶにふさわしい成果だろう。

 

 グラスワンダーはこのままドリームトロフィーシリーズへと進む予定。URAファイナルズへの出走は既に決定しており、こちらでも活躍が期待できる。

 

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