TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか 作:TS娘には恋させよ
あと明日から更新時間少し遅くなります。具体的には毎日21時投稿になります。
朝日杯フューチュリティステークス。芝1600mの『G1』レースだ。
G1レースに出る、というのは並大抵の事ではない。それこそ、才能と努力そして運のすべてを持っていなければいけないほどに。
そんなレースへの出走を目標にした以上、そこまでの道のりは険しいものとなる。
「というわけで、次の目標は京王杯ジュニアステークスだ」
「G2か。でも、そのレースじゃなくてもいいんじゃ?」
東京の芝1400m。このコースは非常に荒れやすい事で有名だ。530m近い直線に、2m以上の傾斜。短距離レースが少ないというのは確かにあるが、わざわざこのレースではなくても良いのでは? もっと堅い選択肢があるはず。
「いや、京王杯ジュニアステークスで二着以内に入着した場合、朝日杯FSへの優先出場権がもらえるんだ」
「ああー、そういうことか。確かに、それは出走しない選択肢はないな」
「1400m、短距離では長い方だけど……」
「そんなこと言ってられないだろ? ブルボンに勝つためには、マイル——1600mを走らないといけないんだから」
ブルボンには見栄を張って『決着』などとは言ったが、現状かなり分が悪い。俺の適性は短距離が最高。そして、距離が伸びるほど適性は落ちていく。なお、マイルへの適性は短距離よりも一段階ほど下だ。アプリならば『適正:B(条件付き)』といったところだろうか。
朝日杯FSが1600mで本当によかった。これが1800mだったら希望すらなかっただろう。
そうして出走レースが決まれば、やることはただ一つ。
1にトレーニング、2にトレーニング!
「はひゅ、くぇぇぇ……」
「あとちょいだ! これが終わったら休憩だぞ」
「こな、くそぉぉぉ!」
ブルボンのトレーニングを体験することができたのは幸運だった。
あの坂路トレーニングは凄まじいの一言に尽きる。今俺に必要なものを与えてくれるものでもあり、現在は自分のトレーニングメニューにも取り入れている。
スタミナと瞬発力、その二つを効率良く鍛えることができ、かつ坂への対応法も学べるのは破格といってもいい。
「これ、マジきっつい……一日であれだけやってるの、おかしいだろ……」
「おそらくは小さい頃から坂路トレーニングをしてたんだろうね」
「えええ……」
坂を駆け上がり、クールダウンを行なってまた駆け上がる。これの繰り返しだ。
結局その日はヘトヘトになりながら自室に帰ることになった。シャワーを浴びて横になれば、数秒と立たない内に眠気がやってくる。
いや、慣れるまでこれ地獄だぞ……?
「というわけで、どうにかならない?」
「うーん、確かに帰ってからなにもできないのは問題だね。コース取りのトレーニングはしておきたい」
「そうなんだよなぁ。貰ったバインダーを見る余裕すらない」
うんうんと頭を捻る。
2人して悩んでいると、視界の端に映るものがあった。破棄予定の三角コーン。ボロボロのそれは、壊してしまっても問題なさそうだ。
これ、使えるんじゃ?
「トレーナー、これ坂に置いてコース取りの練習するってのは?」
「そうだね……ルクスがクールダウンしてる間に、毎回僕が配置を変えればいいトレーニングになりそうだ」
トレーナーは資料をいくつか引っ張りだしてくると、その中から数枚選んで抜き出した。
「うん、直線のデータは結構な数ある。やってみようか」
結果から言えば、このトレーニングは成功であった。が、負荷がとんでもない!
「おわぁぁぁぁ!?」
駆け上がることに注力すればコーンにぶつかってしまい、逆にコーンを意識し過ぎればタイムが落ちる。
数度の駆け上がりを終え、俺は疲労感でぐったりとしていた。
「これは、想像以上にきつそうだね」
「やっばい……でも、相当効きそうだ……」
「それはよかった。じゃあもう一本行こうか」
「はーい……」
疲れた体に鞭を打ち、再び坂を駆け上がる。
結局この日も、横になってから数秒とたたずに眠りに落ちることになるのだった。
「で、なんだって?」
「ルーちゃん最近お話ししてくれないじゃん! 帰ってきたらすぐ寝ちゃうし!」
そんな生活を初めてはや半月。同室のブリッジコンプが怒った様子でこちらに詰め寄ってきた。
そういや、マジで疲れてるから全然コンプと話してなかったわ……
「ふーん、私のことなんてどうでもよくなっちゃったんでしょ」
「いやいや、疲れてるだけだって。拗ねないでくれよ」
「じゃあお詫びにおでかけしよ! ルーちゃんも息抜きが必要でしょ」
確かに、ここ最近トレーニングくらいしかしてない。
トレーナーにもそろそろしっかりと休息をとった方がいいと言われている。そんなこともあって、明日はトレーニングが休みだ。
とはいえ、おでかけってどこへ……?
「うーんと、ルーちゃんのお洋服も買わないといけないし、新作のスイーツも食べたいでしょ? あとはあとは」
「ふぇ……」
女子力が、高い!
そうして次の日、俺はコンプに手を引かれて街へ繰り出すのだった。
「ルーちゃんこっち着てみて! うんうん、こういうのが絶対似合うと思ったんだよねー」
「あの、こういうのはあんまり……その、趣味じゃないといいますか……」
「えー、似合うのに! こういうフリルが付いたようなの似合うのは貴重だよ?」
「なんというか、ものすごく落ち着かない……」
完全に着せ替え人形にされてる。代わる代わる服を着せられるが、そのどれもが『カワイイ系』の服。元男には、非常にキツい。
これを私服に着るってのは、無しだろう。
「じゃあルーちゃんはどういうのがいいの? ほらこれとかいいかも」
「ふりふりじゃないの……もっと言うならスカートもやだ……」
「えええええ!? 履こうよスカート!」
「制服のスカートだってやだもん……タイツ履かないと履けない……」
そう、トレセン学園の制服は全てスカートなのだ。なんかスースーするし、心もとないし、生脚さらすの違和感あるし……ほんと、元男には色々と厳しい。
ダボっとした感じのズボンに適当なTシャツでいいんだよ、どうせ私服見せる相手もいないんだし。
「これは重症だね。うーん、あそうだ」
「なに言われてもスカートは買わない……」
「トレーナーさんに見せるときにカワイイ服じゃないとダメじゃない?」
「は?」
いや、何言ってんだこいつ。
トレーナーに私服を見せる? そんな機会ない……いや、アプリだとおでかけイベントで見せてたな。いや百歩譲って見せるとして、それがカワイイ系じゃないといけない意味あるか?
じとーっとした眼でコンプを見ていると、さらにもう一着服を手渡される。
「だって想像してみなよ。あ、トレーナーさんだーってなったときに、ダッサい格好してたとするじゃない?」
「うん」
「で、トレーナーさんが引き攣った顔をするわけだよ。もしかすると嫌われるかもしれない! 耐えられる?」
「あ、う、うう……」
トレーナーに嫌われるのは、嫌だ。
いや、これは信頼的な意味であり、そういう感情ではないけど、やっぱり嫌われるのはダメ!
「でも、もしもカワイイ服着てたらもしかすると『可愛いね』なんて言われて信頼関係もアップしたり……」
「そ、それでおすすめの服は……?」
「私イチオシが今渡した服! さあ一回着てみて!」
促されるままに、手渡された服を着る。めちゃくちゃ脚スースーするし、ニーソックスが食い込むし、なんかところどころフリフリしてるし……
確かにカワイイのかもしれないけどこれは結構、抵抗感がある。
「き、着たけど……」
「やっぱり私の目に狂いはなかった! ルーちゃん似合ってるよ!」
「あの、これ本当にカワイイのか……? 変じゃない? 大丈夫?」
「大丈夫大丈夫! ウマスタでCurrenがイチオシって言ってたヤツだし!」
「えっちょっとまってなんか聞き捨てならない名前が」
「じゃあこれそのまま着て帰ろっか! 店員さーん!」
なんか短距離路線に進むウマとして、流してはいけないウマ娘の名前が聞こえた気がする。
が、それよりも今は目の前の修羅場に対応するしかない! これ着て帰る!? いやマジで待って。
そして俺の抵抗も虚しく、カワイイ私服を着て帰ることになるのだった。
「落ち着かない……ほんとおちつかない……」
「大丈夫だって、もっと自信持ちなよ。ルーちゃんなんでそんな自信ないの?」
「自信っていうか、単にこういうのを着るのが無理なんだよね」
そうして、学園の前まで来たところで恐れていたことが起こってしまった。
あれは、トレーナー!?
「ん? ルクスじゃないか。出かけてたのか?」
「あ、う、うん……」
なんでこのタイミングで会うんだよ! ほんと、タイミングバッチリすぎだろう!
こいつは、ほんとこいつは!
「こんにちはー、ルーちゃんの同室のブリッジコンプです」
「よろしく、僕がルクスの担当トレーナーだ。いつもルクスの世話をして貰ってるみたいで」
「そうですよー! ルーちゃんはズボラすぎるんです! トレーナーさんからもなんか言ってやってください! 今日だってルーちゃんぜんっぜん私服持ってなくて、なんとか1着買わせたんですから!」
なんかはずかしくなり、ブリッジコンプの後ろに隠れる。いざ見せるとなると、この服正直恥ずかしい……俺のイメージに合ってない気がするし。
が、そんな俺をグイっとトレーナーの前に突き出すコンプ。ちょ、お前やめろ!
「ほら見てください! 素材はいいんですから、こうやってオシャレさせないとダメですよ! ね、カワイイでしょ!?」
「うん、そうだね。可愛いじゃないかルクス」
「は、う、あうう……」
笑うのでもなく、似合わないというのでもなく、直球に誉めてくるトレーナー。
めちゃくちゃ、恥ずかしい……笑われるより恥ずかしいかもしれん……
「それじゃあ僕は行くよ。ちょっと呼ばれててね」
「はーい、また会いましょうねー!」
ほんっと、トレーナーにはペースを乱されてばっかりだ。決して相性は悪くないはずなんだが、どうしてもこういうことが多発する。なんでだ。
ふとコンプを見れば、こちらを見てニヤニヤと笑っている。
「あー、いいもの見せて貰っちゃったぁ。ルーちゃんがあんな風になるなんてねぇ」
「んだよ、仕方ないだろ。流石に慣れてない服は恥ずかしいって」
「そうじゃなくて……まあ、言っても今のルーちゃんじゃ認めないか」
どこか釈然としない気持ちになりながらも、その後は何もなく部屋まで戻ることができた。
この服どうするんだ……そこそこしたから、クローゼットの中で塩漬けにするのも勿体無い。本当に私服として着るか?
クローゼットの前でうんうんと唸る俺。コンプのやつはそんな俺を見て微笑ましそうに笑っている。
「風呂入って寝る……」
こういうときは不貞寝に限る。
風呂と布団の中で考え、トレーナーに全ての責任を押し付けることにした。ぜーんぶトレーナーが悪い! こんなに心を掻き乱されるのも全部だ!
そうしてスッキリした俺は、布団の中で深い眠りにつくのだった。
バレンタインブルボンはちゃんと引きました