TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか 作:TS娘には恋させよ
61 あけましておめでとう!
一年の計は元旦にあり。俺はそんな言葉を頭に浮かべながらも、こたつから一歩も出る事が出来ないでいた。
まずなんと言っても、テレビに映し出された光景が俺の心をへし折っている。人混みをかき分け、神社の様子をレポートする女性。出店に長蛇の列を作る人々。
ちょっとこれは、勘弁したいかな……
「という訳でお昼寝続行でーす。はー、こたつってやっぱ最高だわ……」
「まあいいと思うよ。もうちょっと時間が遅くなればだいぶ空いてくるだろうしね」
こたつの中でだらだらと時間を過ごし、同時にトレーナーと他愛のない会話をする。
趣味だなんだと言われることが多いが、正直1番楽しいのはトレーナーと一緒にいるときかもしれん。これから『趣味:トレーナー』とかにしちゃダメ? ダメか……
「おー? なんかタキオンたちも初詣に出たみたいだ。テイオーから連絡来たわ」
「人、どんな感じかな? もし空いてるようだったら僕たちもいこうか」
「そんなに混んでないってさ。テイオーがはちみーと一緒に写真撮ってる」
相変わらずテイオーははちみー大好きだな……
「どこの神社かわかるかい?」
「ちょっと待ってなー。あー、あれだ、学園近くのところの……ほらここ」
言葉で説明するのが億劫になり、こたつから飛び出してトレーナーに飛びつき
、スマホの画面を直接見せる。
地図アプリ、ピンが立っている場所はそこそこ学園に近い。これなら歩きでも問題なさそうだ。
「あの、ルクス? その……」
「初詣行ってから、帰りにコンビニでも寄って何か買ってこようよ」
「キミは、ほんと……はぁ……」
なんだよその顔。別に変なこと言ってないだろ。この距離ならトレーナーだって十分に歩けるぞ。
「急げばテイオーたちとも合流出来るかもしれないし、急いで支度するぞ」
「ああ、ちょっとまってルクス」
しかしこうしてもたれかかってみると、改めてトレーナーの背中のデカさを実感する。それと同時に、自分が随分とちっこくなったのも。
んー、もうちょいこうして……
「ルクス、どいて貰わないと支度出来ないよ……?」
「もうちょい、もうちょい……」
トレーナーの背中はとても落ち着く。こうしていると全てを忘れて『ウマ娘』でいられるのだ
まあいつまでもこうしてるわけにはいかないし、俺も支度するか。
「そうだ、年末に新しいコート買ったんだよなぁ。すっかり忘れてたわ。せっかくだし部屋行って取ってくるか」
「珍しいね?」
「尻尾をしっかり隠せて、俺の体にぴったりなのを見つけてな。ついつい買っちゃった」
一旦部屋へと戻り、身支度を調える。
コートを身にまとい、そのまま部屋を出ようとして……足を止める。
「……もうちょっと整えておくか」
耳飾りを普段使いのものからちょっと高価なものへと取り替えて、ついでに髪も整える。
鏡に体を写し、問題なさそうなのを確認して部屋から飛び出した。
「トレーナー、おまたせ」
「それじゃあ行こうか。あれ、耳飾り変えたのかい?」
「あ、ああ。外行くんだしな」
「そっちのも結構似合ってるよね。これはどこで買ったやつだっけ」
耳飾りに触れるトレーナー。おま、ちょっと!
「トレーナー!」
「あ、ごめん。触られるの嫌だった?」
別に嫌じゃないけどさぁ! 突然触れられるのは心臓に悪いからやめてほしい。
「まったく……ちゃんと言ってから触ってくれよ」
そうして歩き出す俺たち。
学園から一歩外に出れば、いかにも『初詣に行ってきました』という感じの人で溢れていた。
焼きそばなどの屋台で買えるものを持っている人、熊手やお守りを大事そうに抱える人……
「あれすごいな……どこの神社で買ったんだ……?」
「本当にすごいね。あそこまで大きい鯛の置物は初めて見たよ」
どっかで見た気がするような置物を抱える人までいる。
あれ邪魔にならないか……?
「御利益あるんかなぁ、あれ……」
「……どうだろうか。正直そこまで効果なさそうに見えるよ。現に今、辛そうな顔で運んでるし……」
「まあそうだよな。どれくらいの重さなんだろうか」
ひゅう、と冷たい風が駆け抜ける。
ブルリとトレーナーの体が震えたのをみて、その手を取った。
「ほら、我慢するなって。ウマ娘は体温高いって前にも言ったじゃんか」
指と指を絡めて、冷たくなったトレーナーの手を温める。
とはいえこれだけじゃ不十分そうなので、ぴったりと体をくっつけた。
「ぽっかぽかだろ?」
「うん、確かにものすごく温かいけど……」
「それに俺があげたマフラー巻いてくれてるんだな」
「もちろん。大事な担当ウマ娘から貰ったプレゼントだよ?」
クソ、そういうところだぞ! めっちゃ嬉しいけど、しれっとそういうこと言うなよ!
くそ、うう……でもめちゃくちゃうれしい……
「ああ、あれじゃないかなルクス」
見えてきたのはいくつもの屋台、それと
まあわかる。あの階段を上って神社までいくの大変だよな。トレセンのウマ娘もトレーニングで使ってる子が居るって話を今思い出した。
うん、あの傾斜は最悪人が死ぬぞ……。
「なんで境内の方じゃなくて、下に屋台が出てるのかと思ったけど、あの階段を見たら納得したわ」
「そうだねぇ……始めはここをルクスのトレーニングに使うってアイディアもあったんだけど」
いや、それはやめてほしい。あの失敗演出、ゲームだから許されてるだけでリアルであんなふうになったら、下手すると引退レベルの大怪我だわ。
「おお、リンゴ飴売ってる! あっちのカステラも気になるな」
「こういう屋台の食べ物、絶対ちゃんとしたところで同じ値段出すともっといいもの食べられるのに、ついつい買っちゃうよね」
「わかるなぁ。雰囲気がいい感じのスパイスになってるんだよな、多分」
「『レース場で食べる食事は美味い』って話も聞くよね」
階段を上っていき、境内へとたどり着いた俺たち。下よりも圧倒的に屋台が少ない。まあそうなるよね……。
と、賽銭箱のところを見れば見知った顔が数人いた。
「よーし、お願いも終わったし屋台で食べるぞー!」
「テイオーくん、私の分も買ってきてくれたまえ」
テイオーにタキオンにカフェに……あと『お友だち』。
四人……いや三人と言ったほうがいいのか? 彼女たちは途中で俺に気づいてこちらへと駆け寄ってくる。
「るーくすっ! あけおめー!」
「あぐぅっ! テイオーさん、それ、やめてください……」
「えーいいじゃん! ルクスは抱き心地いいんだよねー! うりうりー!」
なんだ? 俺の体の肉付きがいいって言いたいのか? いや確かにそうだけどさ。
「あけましておめでとう、ルクスくん。今年もよろしく頼むよ! なんせまだまだ実証途中の理論が山ほどあるからねぇ! キミに手伝って貰わないと!」
「あけましておめでとうございます、ルクスさん……お友だちも、あなたにあえて喜んでいます……」
「あけましておめでとうございます。タキオンさん、実験は資料にまとめておいてくれれば予定を合わせますんで。トレーナー、調整お願いしますね。あとカフェさんもあけましておめでとうございます。この前よさそうなオリジナルブレンド見つけたんであとでお裾分けしますね」
挨拶をし、とりあえず初詣を済ませてしまう。
お賽銭を入れて鐘を鳴らし、その後に二礼。2回手を叩き、心の中でお願いごとを……ヤベぇ、お願いごと全く考えてなかった!
どうするかな……いやとりあえずは『レースに勝てますように』にしておくか。
そして最後に一礼。
「はー、焦ったわ。何お願いすればいいのか、全く考えてなかった」
「あはは、ルクスらしいね。ルクスはなんだかんだ、欲しいものは自分で手に入れようするから」
まああとはゆっくりと屋台でも見ながら帰るか。
「終わった? ルクスルクスルクス! あれ一緒に食べようよ!」
「……スーパージャンボカステラ……? あれめちゃくちゃデカくないですか……?」
「全員で食べれば大丈夫! ねねね、いいでしょタキオン!」
「ふむ、まあ私たちはウマ娘だからねぇ。あれくらいならいけると思うよ」
「やった!」
そうしてテイオーが買ってきたカステラは、かなりのインパクトがあった。
これ、食えるか……?
「これは、なかなかの大きさだね……んぐ、んぐ……ふむ、意外と味は悪くない」
「ですが、量が多いですね……」
「……んぐ……んぐ……」
めちゃくちゃ多いが、なんだかんだウマ娘が4人いるためなんとかなりそうだ。というかこうしている間にもどんどんと減っていっている。
ほんとウマ娘ってよく食うよな……。食べたものは一体どこに消えてるんだか……。
まあレースしてるウマ娘は消費量もヤバいからな。
「そういえば今年はどういう路線で行くんですか? 三冠狙いってのは聞いてますが」
「ああ、それかい? このまま皐月賞にいくか、それとも何か他のレースを挟むかを相談中さ。テイオーくんの走りに関してはまだまだ成長の余地があるからねぇ。実戦を交えて、調整するってのもアリだ」
ちなみに俺はまだ未定だ。一応高松宮記念を目標にはしているが。
「あ、からあげも欲しい! ボクちょっと買ってくるね!」
「あの、まだカステラ食べきってないんですけど……」
「大丈夫大丈夫! ルクスがめちゃくちゃ食べてるから、このペースならすぐなくなるよ!」
「いや、確かにそうですが……」
ついつい手を伸ばし続けてしまい、カステラは8割方消えていた。
まあ、これならからあげ買ってもいいか……?
「リンゴ飴もあるじゃん! ルクスも食べるよね? じゃあ買う!」
「あ、ああ……」
テイオーに財布を持たせたのが間違いだろう。めぼしいものを次々と買っていくテイオー。俺達4人の腕は次第に食べ物で埋まっていった。
本当に食べきれる? 大丈夫?
とりあえずカステラは食べ切った。次はどれにするかな……
「あ、トレーナー。リンゴ飴ください」
「これかな? って、ルクスは両手が塞がってるね……」
「そのまま口元にお願いします。食べさせてください。1番簡単で楽なので」
トレーナーが差し出したリンゴ飴にかぶりつく。
このチープな甘みがたまらないんだよな。半分ほど食べて満足したので、一旦他の食べ物を消化していく。
「残りはトレーナーが食べていいですよ」
「ルクス、これは」
「それとも私の食べかけだと嫌でしたか……?」
「……う、わかった食べるよ」
と、そんなやりとりをしているとタキオンたちが微笑ましい顔をしてこちらを見ていた。なんだ?
「キミたちは仲がいいねぇ。いつもそうなのかい?」
「まあ大体は。寝てる時間と授業の時間以外は大体トレーナーと一緒に居る気がしますね」
というか今年入ってからはマジでほぼ全ての時間をトレーナーと過ごしてないか? 離れたの、部屋にコート取りに行った時だけだろ。
「……とても自然に、手を繋いでますしね……」
「これですか? トレーナーはいっつも寒そうにしてますからね。こうして暖めてあげてるってわけです。ちっこい私がはぐれないように、って意図もありますけど」
「それにしては、その繋ぎ方は……その……まるで恋人同士みたいな……」
「へ? カフェさん何か言いましたか?」
マンハッタンカフェがぼそり、と何か小さな声でつぶやいたが、周りの喧噪にかき消されてしまった。
まあ大したことではないだろう。
ウマ娘の食欲によって、買った食べ物も大半が消えたころ、俺達は学園近くまで戻ってきた。
「はぁ、それじゃあまたトレーナー室に戻りますかね」
「へ? なんでルクスがトレーナー室に帰るの?」
「いえ、年越しからずっとトレーナー室に居ましたので。実家に帰る予定もないですし、同室のブリッジコンプさんは実家に帰ってしまっていて寂しいので」
「ボクが言いたいのはそういうことじゃないんだけど……」
なんだ変なヤツだな。
「なかなか大胆だねぇ、ルクスくんは」
「だよね。こんなに押せ押せだとは思わなかったなぁ、ボク」
あきれたような、感心したような顔をした3人と別れ、俺たちはトレーナー室へと戻る。
そして結局こたつの魔力に抗えず、夜までだらだらとすることになるのだった。
3年目が始まりました。彼女にとって大切で、そして選択の3年目が。
三女神様は微笑みます。願わくば、『流星』が悔いの無い選択をできますように。
選択肢は多いようで少ない。そして彼女はそれを知りません。ですが問題は無いでしょう。彼女が選ぶ道、それは既に決まっているようなものなのですから。
あとは彼女が自分の本心に気づくだけ。
三女神様は微笑みます。流星の恋路に祝福あれ、と。