TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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 誤字・脱字の報告ほんとありがとうございます……これからも見つけたら報告していただけるとめちゃくちゃ助かります


7 友情トレーニング サクラバクシンオー

 その日は朝からトレーナーが居なかった。なんでも、出張に行ったらしい。

 

「ルクス、大丈夫だよね? あんまりオーバーワークはしないでくれよ?」

「大丈夫大丈夫! トレーナーがいないのに、無茶なんてしないから!」

「僕がいるときでも、あんまり無茶はして欲しくないんだけどね……」

 

 トレーナーは前日に、そんなことを言ってトレーニングメニューを手渡してきた。なんというか、過保護だな? もうちょっと信頼して、こっちに任せてくれてもいいんだよ?

 で、1人トレーニングをすべくグラウンドに来たのだが……

 

「ふふん! どうやらお困りの様子! 学級委員長であるこの私にお任せあれ!」

「あ、あのー?」

 

 とんでもないのに絡まれた。

 いや、マジでヤバい。短距離王者にしてスプリンターの覇者、サクラバクシンオー。URAファイナルズ短距離部門初代王者にして、ドリームトロフィーシリーズ短距離部門無敗の称号をもつ、正真正銘のバケモノだ。

 なんでそんなすごいのに絡まれてるんですか?

 

「新入生に期待のスプリンターがいると聞いて来てみたのですが、あなたがそうですね!? 本日はトレーナーがおらずに自主練習だということも聞いています! さあさあさあさあ! 学級委員長の私が一緒にトレーニングしてあげましょう!」

「あっはい」

 

 勢いがすごい! ほんと、バクシンの名前は伊達ではない。会ってからずっと圧倒されっぱなしだ。

 訳のわからない状況ではあるが、チャンスではある。短距離の王と一緒にトレーニングするのは、必ず俺の糧となることだろう。

 

「さあ、それでは早速走りましょう! 1にバクシン、2にバクシンですよ!」

「ば、バクシーン?」

「いい掛け声です! 準備ができたら始めますよ! バクシーン!」

 

 なんだかよくわからないが、併走することになったようだ。蹄鉄シューズを履き、スタートラインに着く。

 脚の調子を確認し、これで準備完了だ。

 横をみれば、バクシンオーの顔に先ほどまでの笑顔はなかった。鋭い目つき、真剣な表情。その横顔を見た瞬間、ゾクリと身体中の毛が逆立つような感覚に襲われる。

 

「ではいきます!」

 

 ぐ、とサクラバクシンオーの脚に力が込められる。芝が弾けるようにしてめくれあがったと同時、彼女は勢いよく飛び出していった。

 なんだあのスタート……アプリには『コンセントレーション』というスタート用スキルがあったが、あれはそんな生優しいものじゃない。

 自分もスタートし、なんとか食らいつこうとする。が、サクラバクシンオーの恐ろしいほどの加速に置いてかれてしまう。

 

「バクシンバクシンバクシーン! 先輩として、カッコ悪いところは見せられません!」

「くぅっ、おかしいだろっ! いくら追込と先行だからってこんな差がつくか!?」

 

 スパートの位置なんか考えてる余裕はない。そんなものを考えて足をためていたら絶対に追いつけない。脚に力を込め、一気に加速する。

 そして俺は、『王者』を見た。

 こちらがバクシンオーとの距離を詰めた瞬間、彼女はそれを察知したかのように振り向く。

 ピリリ、とした、肌を刺すような視線が俺に突き刺さる。

 

「っ!」

 

 バクシンオーは一瞬だけこちらを確認のち、再び脚に力を込めた。そして再び芝が弾け、めくれて後方に飛び散っていく。

 

「いきますよー! これが、学級委員長たるものの走りです!」

 

 おいおいおい、まだ加速するのかよ! 加速したバクシンオーはこちらを引き離し、ゴールへと突き進んでいった。

 これが、王者。

 

「おか、しいだろぉぉ!」

「はっはっはっはっ!」

 

 しかも結構余裕な声してやがる。

 明らかに本気ではない。いや、走り自体は本気の走りなのだろうが、まだまだスタミナも精神的な余裕もたっぷりあるのだろう。

 というか前に確認したのだが、この世界のサクラバクシンオーの勝ち鞍は『短距離だけではない』。明らかにマイルレースが勝利履歴に混じっているのだ。マイルも走れるサクラバクシンオーはダメだろ! インチキかよ!

 必死になって食らいつくも、結局差は縮まらず。俺がゴールしたのはバクシンオーよりも数秒後となった。

 

「ぜー、ひゅー……」

「ふむ、なかなかの末脚でした! スパートの時にもっと脚をグッとして、ガッと行って、バクシーンと進むと良いですよ!」

「えっと、グッと行ってガッとして?」

「グッとしてガッとしてバクシーンです!」

 

 わ、わからん。いやなんとなくはわかるんだが、肝心なところが抽象的すぎる。

 もうちょっとこう、わかりやすくならないか……?

 

「バクシーン、ってのは……?」

「バクシンはバクシンです! こう、こんな感じで」

 

 バクシンオー……いや、バクシンオー先輩が思いっきり踏み込む。うーんこれは?

 

「あの、バクシンオー先輩?」

「はい、なんでしょうか!」

「少し裾をまくり上げてもいいですか?」

「もちろんです! どうぞ、学級委員長の鍛え上げられた脚をご覧ください!」

 

 そうしてそのまま踏み込んでもらう。脚は一本の棒のように真っ直ぐ伸ばされ、筋肉は固く力が込められている。

 

「関節で衝撃を吸収してないんですね。反発力を全部速力に変えてるのか……」

「ふふふ、どうですか私の脚は!」

「すごいです。流石バクシンオー先輩ですね」

 

 本当に流石だ。確かにこれならば凄まじい瞬発力を得ることができる。が、当然脚への負荷は恐ろしいことになるだろう。

 それをなんとかしているのが、バクシンオー先輩の鍛え上げられた肉体とフォームだ。

 

「もしかしてバクシンオー先輩って、目隠し片足立ちとか得意だったりします?」

「おお、よく気づかれましたね! 目隠ししてでも走れますよ!」

「ええ……本当ですか?」

「なんならお見せしましょうか? トレーナーさんも褒めてくださった自慢の走りです!」

「いや、危ないんでいいです……」

 

 衝撃をしっかりと伝えながらも、体が壊れないように要所要所でコントロールしている。

 レースを見ただけではわからない、王者の技だ。

 

「参考になりましたか?」

「ええ、とっても。あの、もう一回併走いいですか?」

「もちろんです! 何度でも構いませんよ!」

「あの、バクシンオー先輩って着替えとか」

「汚してもいいようにトレーナーさんが持たせてくれてます!」

「そうですか……短パンとかって」

「もちろんありますよ!」

 

 今度はジャージから短パンに着替えてもらい、併走をする。

 後ろに付けば、バクシンオー先輩の脚をしっかりと観察することができるだろう。

 

「それでは2本目いきますよ! 張り切って付いてきてくださいね!」

「よ、よろしくお願いしまーす……」

 

 そして始まる併走トレーニング。

 バクシンオー先輩の脚の筋肉、それが1つの生き物のようにうごめき始めた。

 加速の時、コーナーリングの時、そして速度を維持する時。彼女の筋肉の動きを見逃さないよう、死ぬ気で後ろに付きながら観察する。

 

「委員長の、加速を見せてあげます!」

「マジで、ヤバいっ……! 観察しながらは、死ぬっ!」

「付いてこれますか? 私の速度に!」

 

 いや無理。

 ラストスパートのタイミングで、一気に距離を離されてしまう。ほんと、どんな加速だよ。

 

「ひゅー……かひゅー……」

「えっと、大丈夫ですか?」

「大丈夫です、バクシンオー先輩……あの、ちょっと休んだらもう一回……」

「おお、ガッツがありますね! ならばもう一本いきましょう! 次は何か要望はありますか?」

「えっと……」

 

 サクラバクシンオーの加速。これはおそらく『スプリントターボ』だろう。アプリで存在した、短距離専用の直線加速スキル。これをそのまま真似するのは無理だが、要点をおさえれば……

 

「こう、か?」

「おお、いい加速です! あなたなら次期学級委員長も夢ではないかもしれません!」

「あ、あははは……」

 

 脚への負荷を考えると、流石に模倣も限界がある。これは下手に真似をすると脚を壊してしまう危険な技だ。

 が、自分の脚もスプリンター向けをしたなかなか太い脚だ。軽く真似をする程度なら問題はない。

 言うならば、『スプリントターボ』の下位スキルの『スプリントギア』といったところだろうか。

 しかも、予想が正しければこれは……短距離に限定される技術ではない。()()()()()()()()()()と言ったところだろうか。

 

「もう一回、もう一回いいですか!?」

「ふむ、もう一本いきましょうか! 次はあちらの坂を使いましょう!」

「はい!」

 

 前をいくバクシンオー先輩の走りを見ながら、取り込めるところを取り込んでいく。

 何度そうしていただろうか。空は赤らみ始め、グランドからもウマ娘がいなくなり出しはじめた。

 

「おや、もうこんな時間ですね! 以前門限で怒られたので、今日はしっかりと帰らないとトレーナーさんの雷が落ちてしまいます!」

「うげ、それはマズいですね」

「というわけで、本日はここまでにしましょう! 楽しかったですよ、ルクスさん!」

「こちらこそ、とても有意義でした」

 

 バクシンオー先輩に別れを告げ、クールダウンをしてから帰路に着く。

 本当に有意義なトレーニングだった。あとはこれを実戦でも使えるよう、体に馴染ませつつ鍛えていかなくては。

 あの加速を実現するには、鍛え上げられた肉体が必須だ。技術と肉体。どちらが欠けていても形にはならないだろう。

 そして、できるだけ早く仕上げなければならない。この走りは、ミホノブルボンとの決戦で必ず必要になるはずだ。

 

「はぁ、先は長いなぁ……」

 

 王者、サクラバクシンオー。これが彼女との初めての邂逅であり、長い長い付き合いの始まりであった。

 

 なお、バクシンオー先輩との併走トレーニングは想像以上に負荷となって俺を襲い、次の日筋肉痛で悶えることとなる。そしてそれを知ったトレーナーに、オーバーワーク気味なトレーニングを行なったことをこっぴどく叱られることになったのだった。

 

 


 

 男の魂のウマ娘。彼女の運命は周りを巻き込んで加速していきます。

 彼女の存在は停滞していた世界に、次々に予想も出来ない渦を作っていくのです。

 三女神様はまた喜びました。みんなが幸せな世界は見ていて楽しいのですが、変化がないのは少し飽きてしまいます。

 みんなが幸せで、予想が出来ない世界。それが三女神様たちが望むものです。男の魂をもつウマ娘、ミーティアルクス。彼女は本来この世界に存在しないウマ娘です。それが世界をかき乱し、世界はもっともっと予想が出来ない、それでいて良い方向へと進んでいくでしょう。

 三女神様は、にっこりと笑うのでした。

 







スプリントターボ≪サクラバクシンオー≫
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直線で加速力と速度が『すごく』上がる。マイルでは効果が落ちる。
<短距離・マイル>

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