TSウマ娘はトレーナーにガチ恋せずに三年間駆け抜けられるか   作:TS娘には恋させよ

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 昨日から、毎日21時投稿に切り替わってます。よろしくお願いします


8 夏合宿開始!

 夏休み。学生にとっては待望のイベントである。それはトレセン学園のウマ娘も例外ではない。

 が、俺達に限って言えば遊ぶような余裕はない。休みが始まると同時、トレセン学園所有のトレーニング施設へ直行する。そう、アプリで夏合宿の間だけ使用できるあの施設だ。

 

「結構おっきいんだな。設備もしっかり整ってるって話だし、これは頑張らないとな」

「そうだね。特に砂浜でのトレーニングは足腰を鍛えるのに役に立つだろう。サクラバクシンオーと一緒のトレーニングして、何か掴んだんだろう?」

「ああ、これを形にすれば……」

 

 ()()()()()()()()。下位スキルのスプリントギアでは不十分だ。完成したアレを自分のモノにできれば、朝日杯FSでブルボンに勝てるかもしれない。

 朝日杯FSはマイルレースだが、そこは問題ない。短距離の王、サクラバクシンオーが編み出した技は、距離などという枷に縛られることはないだろう。おそらく、マイルまでのレースでは十分に使用できるはずだ。……その分、習得のハードルは跳ね上がっているのだが。

 

「ほら、部屋に行って荷物を置いてきていいよ。僕はトレーニング施設の申請なんかを済ませちゃうから」

「ありがと、トレーナー」

 

 部屋は極々普通の1人部屋。とはいえ、学園の寮とは違って和室だ。ちょっとテンション上がる。

 俺は荷物を投げ置き、畳の上に寝っ転がった。そうして考えるのは、ミホノブルボンの対策。

 スプリントターボをある程度形にする。これは必須事項だ。だが、それだけでは届かないだろう。

 

「ブルボンはあの時、俺を察知してさらに加速した……」

 

 思い出すのはメイクデビューの最終直線。

 本当に恐ろしいウマ娘だ。が、全く勝ち目がないわけではない。ミホノブルボンは未だ未完成のウマ娘だ。そこに付け入る隙がある。

 

「だけど、ブルボンも朝日杯FSまでにはかなり仕上げてくるはずだ」

 

 ブルボンのトレーニング量は驚異的だ。朝日杯FSまでにどれだけ成長するのか、想像したくない。が、目を背けてはいけない。

 だがしかし、一番優先すべきは自分の肉体と技を鍛え上げることだろう。

 

「この合宿でみっちり鍛えないとなぁ。基礎能力が足りないと、追いすがることすらできないぞ」

 

 俺は制服からジャージに着替え、砂浜へと向かった。トレーナーはまだ来ないだろう。ちょっと自主トレでもしておくか。

 脚に力を込め、砂浜を踏み締める。が、どうしても芝のようにはいかない。

 

「全く踏み込めないし、バランス取るのがたいへんだな。地面を蹴ってるはずなのに、速力が出ないぞこれ」

 

 これは、想像以上だ。砂浜で走ってみるも、普段の半分の速度も出ない。

 そのくせ、足腰への負荷は普段とは比べ物にならないほど強いのだ。こんなの、明日は筋肉痛確定かもしれん……

 

「ルクス、先に始めてたのかい? 待っててもよかったのに」

「いや、我慢出来なくて……でも砂浜ってすごいな。これはいいトレーニングになりそう」

「そうかい? それはよかった。最近頑張ってるみたいだし、この合宿でみっちり鍛え上げよう」

 

 そう言って手渡されるトレーニングメニュー。

 かなり練られたメニューだ。が、全く余裕がないわけではない。俺にとって、これが初めての夏合宿だ。だからこそ、ある程度融通が効くように余裕のある作りにしてくれているのだろう。

 

「じゃあはじめますか! えっと、まずは砂浜ダッシュ?」

「そうだ。ただ、あんまり無理はしすぎないようにね。辛いようだったらすぐ言ってほしい。砂浜トレーニングは負荷が強いから」

「はいよ、タイム計測お願い!」

「オーケー。それじゃあ、そこに立てた棒から向こうの旗まで走ってね」

 

 砂に脚を取られつつも、なんとか砂浜を駆け抜けていく。

 一本、また一本とこなしていけば、だんだんではあるがコツが掴めてきた。うん、こうすれば負荷が減るか……?

 足腰を鍛えるだけではなく、体にかかる負荷を受け流すトレーニングにもなるんだな、これ。

 

「今の俺には、一番必要なトレーニングかも、なっ!」

「それはよかった。様子を見つつ、トレーニングの配分は弄っていこうか」

「よし、もう一回!」

「頑張れー! タイム、いい感じに縮まってるぞ!」

 

 とはいえ、一日でどうにかなるわけもなく、その日はぐったりとして部屋に戻ることになった。

 正直、砂浜トレーニングはかなーりキツい。今も脚がプルプル言ってる。それだけならいいのだが、全身を使ってバランスを取るため、体中が痛くなるのだ。

 

「やば、これ、動けないかも……」

 

 トレーニングを行なっていた間の高揚感、それが抜ければドッと疲れがやってくる。飯まだだし、風呂もまだなんだけど……

 そんな状態のまま、どれくらいそうしていただろうか。ふと、部屋の入り口から声がした。

 

「ルクスー、大丈夫かーい? 食堂に来ないし、見に来たぞー」

「と、とれーなー……たすけ、て……」

「ルクス!? ちょっと入るよ!」

 

 畳に突っ伏した俺を見て、トレーナーが駆け寄ってくる。

 いや確かにこれヤバいように見えるかもしれない。実際は単にめちゃくちゃ疲れてるだけだけど。

 

「どこか痛めたか!? それとも」

「疲れすぎて、うごけない……全身が……」

「へ?」

 

 ぐてー、とした様子に気づいたのだろうか。トレーナーがホッとしたように息を吐くのがわかった。

 そして、背中がグッと押される。あー、気持ちいい……

 

「全く、あんまり心配させないでね?」

「ごめん、トレーナー……」

「キツいならちゃんと言ってくれよ? 体を壊したりしたら元も子もない」

 

 トレーナーのマッサージはめちゃくちゃ効く。体の力が弛緩し、強張った全身がゆっくりほぐれていくのがわかる。これが極楽……

 ただ、なんか出しちゃいけない声出してる気がする。まあ、気持ちいいしいいか……

 

「はぁ……すっごいよかった……」

「それは、よかったよ。明日はもうちょっとメニューを減らそうか」

「いやでもマッサージしてくれれば大丈夫じゃない? こんなに疲労取れたんだぞ?」

「いや、うん。まあ、そうかもしれないけど」

 

 なんか歯切れが悪いな。いつもなら快諾してくれるのに、様子がおかしい。

 熱中症にでもかかったのか?

 

「大丈夫かトレーナー? うん、おでこは熱くない」

「る、ルクス? なにを」

「なんかトレーナー様子が変だったし。調子悪かったら言ってくれよ? 俺がなんともなくても、トレーナーが倒れたら元も子もないんだから」

 

 トレーナーがこっちをじっと見つめる。そうして、諦めたかのように大きく息を吐いた。

 ええと、どうしたんだろうか。

 

「そうだね、うんそうだ。わかったよ、明日からもトレーニングの量はそのままで行こう。でも、おわったらすぐにマッサージすること」

「やった! ありがとトレーナー!」

「この後もちゃんとご飯食べて、ゆっくりお風呂で疲労を抜くんだよ?」

「はーい!」

 

 夕飯は学園のカフェテリアと同じビュッフェ形式。肉を取って野菜も取って、炭水化物とあと果物と……

 片っ端から食べたいものを取り、席に戻る。すると、俺の席の向かい側に見たことのある顔が座っていた。

 青のメンコに緑のリボン。自信満々、といった感じのドヤ顔。

 

「あら、失礼するわ」

「……キング、ヘイロー……先輩」

 

 クラシック級で活躍する黄金世代。その一角がそこに居た。

 というか、他にも席が空いてるのになんでここに? ほら、あそことかスペシャルウィークさんが食器の山を作ってますよ?

 

「どうしてここに、って顔してるわね。あなたとは一回話してみたかったの」

「私と……? えっと、何かしましたっけ私……」

「自覚ないのね……砂浜で鬼のようなトレーニングをしてたって、一部で噂になってたわよ」

 

 鬼のようなトレーニング……? いや、普通にトレーニングしてただけなんだけど。

 まあ、確かに全身筋肉痛はやばかったけど、なんだかんだ量的には普通だと思ってた。慣れれば筋肉痛の頻度も減るだろうし。

 

「……もしかして本当に自覚ないの? あなたのやってたの、ジュニア級の子がやるメニューじゃないわよ。それこそ、私たちクラシック級の子がやっててもおかしくないわ」

「でも……これくらいしないと勝てない相手がいるので」

 

 ミホノブルボンのトレーニングはこれと同じ……いや、これ以上のものかもしれない。

 ……あのときの方が筋肉痛とかいろいろ、きつかった気がするし。

 だからこそ、俺は手を緩める訳にはいかないんだ。ここで手を緩めたならば、確実に置いていかれる。

 そんな思いから、手に力を込め今一度決意を新たに宣言した。

 

「そう。なら、明日は私がトレーニングに付き合ってあげるわ!」

「なんて?」

「キングのトレーニングに付き合う権利をあげると言ってるの! 光栄に思いなさい!」

「ほ、本当にいいんですか!?」

 

 なんか最近こういうイベント多くない?

 だが、こっちとしては願ったり叶ったりだ。キングヘイローの末脚はまさに驚異的と言っていい。黄金世代の他のウマ娘に遅れをとっている……なんて声もあるが、俺はそうは思わない。

 

「えっと、明日って私どうすれば」

「安心しなさい。私がメニューを考えてるわ。このキングが考えたメニューよ。楽しみにしてるといいわ」

 

 トレーニングを通して、それを少しでも盗みたい。

 というか興奮して思わずキングヘイロー先輩の手を握ってしまったが、これ失礼じゃないよね? 大丈夫だよね? キングヘイローの性格を考えるにおこるどころか喜んでそうだけど。

 

「ええ、だから夜更かしなんてするんじゃないわよ? 明日朝6時、宿舎の入り口で待ってるわ!」

「はい、ありがとうございます!」

 

 本当に運がいい。まだ朝日杯FSまでは5ヶ月近くある。今ならば、十分キングヘイローの技術を盗み、形にすることができるかもしれない。

 俺は気合いを入れると、目の前の食事を詰め込んでいく。

 トレセン学園の所有施設だけあって、飯も美味い。

 

「はぁ、ほんとに波乱の夏合宿だな」

 

 一年目の夏合宿ってこんなイベント盛りだくさんだったっけ? アプリだともっとサラっとしてたはずだろ?

 とはいえ、これは大きなチャンスである。だからこそ、そのチャンスを

 

「必ず、掴んでみせる……!」

 

 黄金世代の1人、キングヘイロー。俺がその本当の強さを知ることになるのは、次の日の朝のことであった——

 


 

 三女神様は、彼女とさまざまなウマ娘を引き合わせました。ミホノブルボン、サクラバクシンオー、キングヘイロー……そのどれもが、強豪というに相応しいウマ娘たちです。

 そんな強豪たちと交わった彼女の運命は、どんどんと加速を続けています。いずれは彼女たちの運命、それらが本格的に交わることでしょう。

 三女神様は、今からその時のことを想像し、優しく微笑むのでした。

 




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