ランク戦室に顔を出すべきでは無かったと思い始めたのは、既に騒ぎがある程度大きくなり、逃げられなくなってからだった。今日の
「普通に負けた。おい
「黙れ槍馬鹿、連続は許されねえぞ」
「誰が槍馬鹿だ。弾馬鹿」
目の前で勝手に始まるいつものバカ騒ぎにどちらも馬鹿には変わりは無いだろうと心の内で毒を吐く。
「普通のトリガーで戦ってくれる機会なんてほとんどないんだぜ」
「だからこそ、周りに譲るという気を持て」
「周りってお前だけじゃねえか」
槍馬鹿と称されているのはA級7位の
君らが騒ぎ立てるとその周りから新しいのが湧いてくる可能性が高いからやめて欲しいんだけど、そんなこっちの気持ちを考えないようで本人抜きで話が進んでいく。
「おっ、珍しい。空の奴が個人戦に顔を出してるじゃねえか」
「おっ、太刀川さん。やるんなら俺の次の次っすよ」
「ナチュラルに自分の番を先にすんじゃねえ。図々しいぞ1戦やったんだからお前は俺の後だ」
いや、何勝手に予約受付てるんですかね?それと槍馬鹿、少し前の身勝手な喧嘩の時から思っていたんだが私と交わした
「こいつらじゃなくてもお前と戦いたい奴は山ほどいるぞ」
響いてきた声はボーダー内である意味有名人であるS級隊員のものだった。
「レイジさんに続くボーダーで二人目の
「戦闘員1名の言葉通りのワンマンチーム、A級
「そして個人戦の勝率9割の実質1位とも言える戦績」
「実際のランクも個人総合で5位ともなれば戦闘馬鹿じゃなくても向上精神の高い奴らは寄って来るよ」
ブラックトリガーの使い手、S級隊員の
「おっ、迅も来たのか?」
「いやいや、俺はS級の実力派エリートなのでランク戦はしないよ」
「じゃあ、何をしにここへ?」
迅さんはするりとこちらへ近寄ってくると僕に腕を回しながら振り返る。自分に迅さん個人からの用事があるとは思わないので、上からの伝令役だろう。
「
ふむ、元々馬鹿に捕まらなければラウンジでのんびりする予定だったので問題は無い。むしろこの場から逃れられるのであれば喜んで仕事に向かおう。僕が頷くと周りからは残念そうな声が上がるがすべて無視する。
「それじゃ、開発室の方まで行こうか」
一緒に行く事は別にどうでも良いんですが
「尻から手をどけろ!!この変質者!!」
ナチュラルなセクハラさえなければ良い先輩なのに、そう思いながら容赦なく旋空弧月でバッティングの如く自称エリートを壁まで吹き飛ばした。はあ、いけないいけない。今日のぼくはスマートな性格なのだから。パパッと腕を捻った方が様になっただろう。しかし、この未来が見えているはずなのに、あえて手を出してくるのだから余計腹が立つ。
その後、全然反省が見られない迅さんと途中まで来たが、難しい顔と面白い顔の間で百面相を繰り返すと予定が出来たと謝りながら帰って行った。サイドエフェクト絡みの問題でも生じて今頃暗躍を繰り返しているのだろう。
「いや、すまんな夜景君。こっちの予定に合わせて貰って」
目の前で心底申し訳なさそうにしている方は開発部門のトップで上層部の偉い人の1人の
「別に忙しくも無いので構いませんよ。鬼怒田さんや寺島さんとのトリガー議論は楽しいですから」
「おっ、嬉しいねぇ。今度はこのアニメの再現目指してみない?」
この人は
「雷蔵!!お遊びの話は用件が済んでからにしろ」
「そのお遊びのおかげで新しいトリガー技術が生まれてるんですよ」
「お遊びに変わりはないだろ。屁理屈はいいからさっさと準備をしろ」
「はいはい」
ぼくには結構優しいのだが、周囲からは厳しいと評判の鬼怒田さんとやりあえている時点で尊敬に値する。なあなあでとぼけているが結構世渡り上手なのかもしれない。
「それで今日の議題は何ですか?」
いつもと同じく自分が作ったトリガーに関しての検証か他のトリガーへの応用などだと思うが、ここ最近は失敗作も含めてかなりの数を作成したのでどれの事か想像がつかない。
「この前のA級ランク戦をぶっ壊したベイルアウト機能のオプショントリガー『ピリオド』、弧月のオプショントリガーである『旋空』を改造した『
「後は『スパイダー』と他のトリガーを組み合わせて作った通称
あれは私の中でもかなりいい線をいってると感じたトリガーだ。
鞭の長さの設定は限界はあるが流し込むトリトン量で調整可能であり、鞭だけでは威力に欠けるので表面に刃を生やすことが出来る。やすりの様に削る刃かスパッと切断するような鋭い刃など、切れ味と強度のどちらにトリオンを注ぐかで大体の調整は可能だ。攻撃を弾くときは硬さを相手を攻撃する際は鋭さを高める。攻撃手用のトリガーにしては操作の多い物になっているが上手く使えばトリオン消費を抑えられる。
上手く勢いをつければ遠心力も相まってブレード型トリガーよりも素早く攻撃できるが、短く設定してもそこまで小回りはきかない。そのため『レイガスト』のオプショントリガーである『スラスター』をそのまま流用した加速機構も取り付けてある。こちらもトリオンを流す事で発動する様になっている。機能が多く、有用に見れるかもしれないが他のトリガーに比べてセットする際に消費するトリオン量が多くなっている。比較すると1.3〜1.4倍くらいだろうか。
「『ビネガロン』か……あれは今までにない武器であるため簡単に普及しないだろうが性能はもちろん凡庸性も高い、一部の隊員に試験的に使用させてもらったが思っていたよりも評判が高かった」
「という事で正規トリガーとして登録が会議の結果、賛成多数により承認されたよ。おめでと」
ん……っとなんて言いましたか?
「『ビネガロン』は正式なトリガーとして制作、運用されることが決まった。それについてはボーダー内でも近々発表される。もちろんその功績で小さいが表彰もある」
「
「驚きすぎて、一人称が素に戻ってるよ」
「そんなつまらない嘘を吐くわけないだろ。正式な通達がそのうち行くはずだ。それよりも他のトリガーに関しての話をするぞ」
その後の話は中々に頭が回らなかったが、残存トリオンを全てつぎ込み自爆するというぶっ飛んだ機能のベイルアウト機能へのオプショントリガー『ピリオド』はチップの枠3つで機能するのであれば中々に高性能だが、ランク戦での使用は禁止、遠征や一部の防衛ににおいて運用するとのことだ。トリオン能力が高過ぎると防衛時には逆に使えないかもしれないと考え、ボーダー内でトリオン能力が高い人たちに実験協力を頼むことになった。
トリオン消費量を増やす事で速度と射程を大幅に上げた『旋閃』は効率が悪く、そこまでトリオン量の高い攻撃手が居ない事も相まって採用はされなかったが一部の隊員の目には留まったらしい。勢いが付きすぎるため複数回回転してしまうが、360度を万遍無く切り裂く光景は一目を置いたとのこと。
『ステルスボール』、これは名称からして微妙だし、ぼくの
その他にもいくつかのトリガーの考察と説明を繰り返したが、運用されるのにランク戦での禁止を言い渡されたのは初めての事だった。まぁ、前回のランク戦の事を思うと納得できるので文句はない。
「それでは失礼します」
「ああ、またそのうち呼び出す事になるだろうが、その時は頼む」
「時間空いてるときで良いから、前に渡したリストの再現頼んだよー」
締めかけのドアの向こうから鬼怒田さんが寺島さんを怒鳴る声が聞こえるが、いつもの事なので苦笑しながらドアをしめ切って、帰路に立つ。
「
迅さんの要件が支部絡みの問題だった場合はドタバタしているだろうと考え、緊急性も無いのでまたの機会にしてそのまま家に帰った。この時は二週間後に迅さんからの共犯者としての収集が掛かるとは微塵も思っていなかった。
まだ前の作品が終わってないので基本的に更新は無いです。時間が有り余ってるか、気分転換の時に書くかもしれない程度です。似たようなネタだけ作ってる作品があるのでどれを次に書くかも未定です。